2008年4月22日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、平成20年度の会長・副会長を選任した。お手許に「全国銀行協会役員名簿」という資料を配付しているが、会長には、みずほ銀行の杉山頭取が選任され、この一年間、全銀協は杉山会長の指揮のもとで、諸課題に対応することになる。
 次に、杉山会長を補佐する副会長であるが、中央三井トラスト・ホールディングスの田辺社長、三菱東京UFJ銀行の永易頭取、三井住友銀行の奥頭取、横浜銀行の小川頭取、南都銀行の西口頭取、北洋銀行の横内頭取ならびに私斉藤の7名が選出された。
 なお、本日は、杉山頭取の略歴および今年度の記者会見の日程をお配りしている。

会長記者会見の模様


 みずほ銀行の杉山でございます。
 本日の理事会において、奥前会長の後を受けて、全国銀行協会の会長を務めさせていただくこととなった。これから一年間、皆様方のご支援を賜りながら、この大役を務めさせていただきたいと思っている。どうぞ、よろしくお願い申しあげる。
 就任に当たっての抱負・心構えを申しあげる前に、この場を借りて、奥前会長に一言お礼を申しあげたいと思う。
 昨年度は、金融商品取引法の施行、ゆうちょ銀行のスタート、保険窓販の全面解禁といった銀行界にとって大きな影響のある制度変更への対応、さらには永年の課題であったファイアーウォール規制緩和への一定の方向付けがなされた。また一方では、盗難通帳やインターネット・バンキング被害等への補償充実へ向けた自主的取り組みが実現した。
 年度後半から、銀行を取り巻く環境が急速に不透明感を強めてきたが、そういった難しい状況のなか、奥前会長には見事なリーダーシップを発揮いただいた。この一年間のご尽力に対し、心から敬意を表したいと思う。

 さて、わが国の経済環境を見てみると、米国のサブプライム問題に端を発した金融市場の動揺は未だ収束に向けた方向性がはっきりしていない。そして米国の景気減速と円高、株安、原材料高等によりわが国の国内経済も踊り場を迎えているなど、総じて外部環境は厳しさを増しているという認識である。
 一方で、金融行政に目を転じると、昨年12月に公表された「金融・資本市場競争力強化プラン」や昨年より金融庁が推進する「ベター・レギュレーション」の動きに代表されるように、市場・規制環境の一段の整備が着々と進められている。これまでにも増して、銀行界の自助努力と自己規律が問われる時代になっている。
 こうした認識を踏まえ、私は全銀協の会長として、「足許をしっかり固め、そのうえで、一歩一歩、未来へ向けて前進する」とともに、「自主的・自律的に活動し、着実に銀行界としての機能・役割を果たしていきたい」と思っている。そのような強い決意でこの一年に臨みたい。

 言葉を変えて申しあげれば、全銀協にとって、この一年を「着実に前進する1年」にしたいと考えている。

 まず、足許の基盤固めについて簡単に申しあげる。
 これまで検討・整備してきた各種制度の枠組みについて、新たな規制緩和の進行や利用者の視点を踏まえ、さらに「定着化・具体化・高度化」を主体的に進めてまいりたい。
 併せて、次を見据えた布石を打っていくことも大切である。すなわち、利用者が実感できる便利さと多様性を持つ金融サービスを提供するために、グローバル水準へ向けての制度・環境整備をさらに進めるべく努力してまいりたい。
 また、各種の課題に取り組むうえでは、(1)利用者視点の徹底、(2)自主的・自律的な取組み、(3)国際競争力の強化、という観点を常に念頭に置いて臨んでまいりたい。
 なかでも、私は「利用者の視点」に強いこだわりを持ちたいと考えている。
 あらゆる課題について、「利用者はどのような解決を求めているのか」という視点から取り組んでまいりたい。

 それでは、今年度に具体的に取り組むテーマを3点申しあげたい。

 第一のテーマは、「利用者からみた金融サービスの利便性・多様性の向上」である。

 銀行界として、常に変化していく利用者のニーズに応えて、国際的にみても遜色のない利便性と多様性をもつ金融サービスを提供できるよう努力してまいりたい。また、そのために必要な規制緩和については、徹底した利用者志向に立脚し、「実効性のあるもの」とするよう、制度の詳細設計にあたって積極的に意見を発信してまいりたい。
 たとえば、ファイアーウォール規制の見直しについては、これまで以上に総合的かつ高度な金融サービスを、より機動的にお客さまへ提供することが可能になる大変意義深い規制緩和である。同様に、銀行グループの業務範囲規制の見直しも、時代のニーズにマッチした質の高い商品・サービスの提供につながる重要なものである。
 いずれについても、これから諸制度の具体的な検討を行っていくにあたって最も重要なことは、利用者からみて「便利になった」と実感されるような、実効性のある規制緩和とすることだと考えている。一方、この緩和にあたってはまずもって利益相反による弊害、あるいは優越的地位の濫用等の防止のため、内部管理態勢等の構築に自律的に取組み、万全を期すことが大前提になると認識している。
 また、昨年成立した電子記録債権法制への対応にあたっては、電子記録債権が中堅中小企業等にとり、手形割引等に代わる新たな資金調達手段となりうるものであることを踏まえ、利便性が高く、信頼できるインフラ作りへ向けて、銀行界としての役割を果たしてまいりたいと考えている。
 さらには、税制についても、金融所得課税の一体化や確定拠出年金税制など、利用者の利便に資する改正を要望してまいりたい。

 第二のテーマは、「金融市場に対する信頼感・安心感の追求」である。

 利用者の皆さまに安心して利用いただける金融インフラ、信頼できる透明性の高い金融市場を実現していきたい。
 たとえば、盗難通帳、あるいはインターネット・バンキング被害等については、偽造・盗難カードに続き、奥前会長の時に、一歩踏み込んで被害者の方々に対する補償の充実を図ってきた。こうした銀行界の対応が、お客さまから見て「安心して利用できる」とご評価いただけているかを常に確認することが重要である。お客さまの求めるレベルへ向かって、「事前の注意喚起」と「事後のセーフティネット」の更なる充実を進めてまいりたい。
 あるいは、振り込め詐欺被害についても、被害金返還制度についての告知活動を行い、今後、円滑それから着実に返還が進むようフォローするとともに、被害の未然防止に向けた対策についても、しっかり取り組んでいきたいと考えている。
 また、サブプライム問題を契機に関心の高まっている情報開示や内部管理態勢等についても議論を深めてまいりたい。欧米で見られるように、金融市場の動揺は様々な経路で経済全般に影響を与えるものであり、この問題の安定化・正常化へ向けて現在行われている国際機関等での議論へ貢献していくことが重要であると認識している。
 この他に、ゆうちょ銀行や危機対応業務を含む政策金融改革の動向についても、金融市場の信頼や安心を確保するなどの観点から注意深くフォローしてまいりたい。

 第三のテーマは、「銀行の公共性を踏まえた社会貢献活動」である。

 銀行の公共性や社会的影響力を踏まえ、社会の一員としての貢献活動に主体的に取り組んでいく。
 まず、今年7月に行われる洞爺湖サミットの最大のテーマである環境問題への取り組みを強化していきたい。全銀協自身による環境問題対応を進めることは当然であるが、加えて、環境関連投融資などの分野において、銀行界として自主的にその役割を果たしていきたいと考えている。
 また、これまでの取組みのグレードアップという面からは、高齢社会の進展を踏まえて、バリアフリー化の一段の推進、また、講師派遣等、金融経済教育への更なる貢献などを進めてまいりたい。

 以上、3つのテーマについて申しあげた。
 いずれのテーマについても、「地道に、愚直に、正直に」、そして、「利用者の方々、お客さま、お取引先を向いて」、取組みを進めることが、全銀協活動の基本になるものと固く信じている。
 今後とも、銀行界の健全な発展を通じて、金融市場の活力と信頼性を向上させ、安定的かつ持続的な経済成長に寄与できるよう、皆さまのご協力も仰ぎつつ、全銀協一丸となって課題に取り組んでいきたいと考えている。
 皆様方のご支援、ご指導をよろしくお願い申しあげる。


(問)
 冒頭の話にもあったが、国際金融市場が最大の課題となっているのがサブプライム問題である。まだ、出口、見通しが見えにくいという話があったが、アメリカ等々の実体経済に波及している。景気動向を踏まえて、どのような見通しを持っているかお話願いたい。
(答)
 サブプライム問題は、震源地である米国を中心に実体経済にも既に影響が及び始めてきたと認識している。アメリカでは、昨年10-12月期の成長率が非常に低い水準に止まり、今年に入ってからは雇用者数が3ヶ月連続で減少するなど、景気が急減速しているとの認識である。また、ヨーロッパでも、全ての国と言うわけではないが、一部に経済の減速感が現れている。他方で、アジア、ロシア、中東など新興国の経済は総じてしっかりした成長を続けており、その意味で、欧米先進国と新興国との間で「経済の体感温度」にかなりの開きがあるように感じている。
 日本経済への影響を考えると、やはりアメリカ向けの輸出の減少が景気を押し下げる要因となることは避けられないだろう。米国向けの輸出の数量は昨年3月から前年割れが続いている。今後は更に落ち込む可能性もあろうかと思う。もっとも、現在のところは新興国向けの輸出の高い伸びが続いているため、日本全体としての輸出は底堅く推移しているようである。
 また、金融市場が混乱するなかで、円高が進み、原油など各種の資源価格が高騰していることは日本経済にとって逆風となることを懸念している。円高や素原材料高の影響もあり、昨年度の後半から企業業績の悪化が鮮明となり、2007年度の企業業績は、全体として2001年度以来6年ぶりの減益となる可能性が出てきている。こうしたなかで、先日発表された日銀短観の3月調査では企業の景況感が大きく悪化していることが確認されている。次に家計部門に目を転じると、賃金の伸び悩みが続いていることに加え、灯油、ガソリンなどを中心に消費者物価の上昇率が高まっていることが、消費者マインドを悪化させる要因となっており、個人消費も低迷が続いている。
 以上のように足許の日本の経済には減速感が見られており、景気が下振れするリスクを抱えている状況にあることは確かだと考えている。
 当面の日本経済を展望すると、設備投資や賃金の源泉となる企業収益の拡大が止まっているため、国内需要が大きく好転することはなかなか見込みがたいのではないかと思っている。一方で、輸出の方はアジアなど新興国向けに牽引される形で堅調を維持することで、景気を下支えすると予想している。このため、景気が全体として大きく落ち込む事態には至らないというように見ている。ただ、アメリカ経済の落ち込みが一段と深刻になり、貿易・金融両面から海外経済全般への波及が強まれば、日本の輸出への影響は避けられない。国内需要が伸び悩む状況下で、外需の支えを失えば、日本経済が景気後退に陥る可能性も否定できないため、今後の動向を注意深く見ていく必要があると考えている。非常に厳しい状況であるが、10年前の日本経済を振り返ると、当時はいわゆる「3つの過剰」とされる問題があった。「債務の過剰」、「設備の過剰」、そして「人員の過剰」である。こういった過剰は過去のリストラにより、すでに、クリアされているので、今回はそれほど深刻な状況にはならないのではないかと思っている。とは言え、やはりアメリカ経済がもう一段悪化すると、日本にも影響が出てくる可能性があり要注意である。


(問)
 日本の金融機関に対しても、サブプライム問題の経営に対する影響が当初の予定よりもかなり拡大しているというふうに言われている。3月期決算が来月発表になるが、日本の金融機関に対するサブプライム問題の影響を視野に入れて、邦銀を取り巻く経営環境はどれほどの厳しさを持っているのか、お聞かせ願いたい。
(答)
 先程も申しあげたとおり、特に欧米を中心に金融市場の混乱が続いており、収束に向けた方向性がまだはっきりとしている状況にはないと思う。邦銀を取り巻く経営環境は非常に難しい局面を迎えており、一言で申しあげるとやはり「厳しさを増している」と言わざるを得ないのではないかと考えている。
 サブプライム問題、およびそれに近接する分野における損失という意味では、個別行の話で恐縮ではあるが、みずほフィナンシャルグループも先般決算の下方修正を行った。銀行界に直接の影響が出ていることは事実であり、サブプライム住宅ローン資産そのものはもちろん、それに関連する証券化商品の価格が下落したり取引ボリュームが急減するなど、欧米の証券化商品市場は依然正常化していないと考えられる。
 そうはいっても全体としてみれば、欧米の金融機関との比較では、邦銀への影響は相対的には限定されているのではないかと考えている。少し前の数値ではあるが、今年2月に金融庁が発表した「わが国の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品の保有額等について」を見ても、昨年12月末時点でのサブプライム関連商品の保有額は、全体で約1兆5千億円である。欧米との対比では、1行あたりの保有額で見ても、自己資本のクッションが全体で約50兆円あることから見ても、邦銀への影響は相対的に小さいと言えると思う。
 問題はサブプライム問題に端を発した金融市場の動揺が長期化し、その収束がまだ見えないこと、そしてさまざまな経路を経て、この問題がわが国経済に波及していくということである。企業の設備投資は、原油高・円高を受けた業績悪化や需要の先行きに対する不透明感が強まるなかで慎重化しており、資金需要も低調に推移するのではないかと見込まれる。家計の金融資産の動向に目を転じても、投資信託などの金融商品に対するお客さまニーズは引き続き強いものの、昨年半ば以降、しばらく市場の動きを見極めたいという慎重なお客さまが増えている。
 しかし一方、長い目で見れば、日本企業の財務体質はバブル崩壊後のリストラを経て、先ほど申しあげた3つの過剰を克服し、過去と比べればかなり筋肉質な体質となり、抵抗力も増していると言える。さらにこうした厳しい環境下でも好調な産業・個別企業は当然存在するわけであり、過度に悲観一色になる必要はないと考えている。また、ここ数年広がりを見せてきた「貯蓄から投資へ」という大きな流れ自体が決して止まったわけではないと思っている。市場が落ち着きを取り戻せば投資信託などの金融商品に対する家計の投資意欲は再び高まってくると見ている。
 したがって、私ども銀行界としても先のG7で打ち出された金融安定化策に真摯に対応していくととともに、厳しい環境下でも銀行界が着実に役割を果たせるよう、しっかり足許を固めてまいりたいと考えている。


(問)
 野村證券の社員のインサイダー容疑について、コンプライアンスなどの問題を含め、全銀協会長としてどのように受け止めているか。
(答)
 本日、そのような報道があったことは認識しているが、詳細については把握していない。インサイダー取引規制の対応は、われわれ銀行界に限らず大変重要な問題であるがゆえに、法令遵守態勢の整備等は銀行界としてしっかりと対応しているものである。今後ともこういったことが起こらないように徹底した管理態勢を築いていくことが重要だと思っている。
 野村證券個別の内容に関してはコメントを差し控えさせていただく。


(問)
 杉山会長は先ほど、企業の資金需要が低調になっていくと言われたが、今の取引企業の貸出需要について、状況を教えていただきたい。そうした経営環境が悪化するなかで、銀行としてはどのように収益を伸ばしていくのか、伺いたい。
(答)
 ここ数年の日本経済の緩やかな回復を背景に、企業の資金需要も伸びてきており、銀行全体の08年3月末の貸出残高も前年比増加した。しかしながら、先ほど申しあげたように、ここに来て原材料価格の上昇等を理由に今後の企業業績に不透明感が出てきている。特に中小企業は、原材料価格上昇の影響を受けやすい立場にあるので、資金需要もそれほど盛り上がってこないのではないかと思っている。ただし、銀行としては、こうした環境にあってもお客さまの資金ニーズを積極的に発掘して、適切に対応してまいりたい。また、そのような資金ニーズにしっかりと対応することが、「社会のインフラ」としての銀行の責務であると考えている。
 銀行界を取り巻く環境にも厳しさが出てくるのではないかと思うが、われわれには、そうしたなかでもしっかりと業績を上げるような経営が求められる局面だと思っている。経済環境が悪くなったからといって、すべての分野が悪くなるわけではないと思うので、各銀行がいろいろ工夫しながら、業績を上げるべく努力していかなければならないと感じている。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、銀行株全体として冴えない展開が続いているが、現状の銀行の株価について、どのように見ているか。2点目は、国内の景気が下振れリスクを抱えていて、アメリカでも景気の減速感が強まっているという状況のなかで、銀行の経営者として、具体的に資源を重点配分すべき分野をどのように考えているかについて伺いたい。
(答)
 株価水準については、私の立場上、この場で申しあげることは適切ではなく、マーケットに聞いていただきたいと思う。たしかに、株価全体が落ち込むなかで銀行株が相当落ち込んだ要因としては、やはりサブプライム問題の影響が比較的大きいのではないかと思っている。欧米の金融機関に相当影響が出ているので、邦銀も相当影響を受けるのではないかという見方などで銀行株が下がったのではないか。ただし、現在の株価の水準がどうかということに関しては、コメントは差し控えさせていただきたいと思う。
 銀行が経営資源のエネルギーをどの分野に重点的に配分すべきかについては、それぞれの銀行で違った戦略を持っていると思う。
 例えば、みずほ銀行としては、個人分野に対してこれまで以上に目を向けていきたい。日本では個人の金融資産が1,500兆円あると言われているが、「貯蓄から投資へ」という流れのなかで、みずほ銀行としては個人のお客さまの資産運用業務に注力し、金融資産を預けていただきたいと思っている。中堅・中小企業を中心とした法人のお客さまとの取引の重要性に変わりはなく、引き続き積極的に取り組んでいくが、これから先は個人分野に今まで以上に目を向け、エネルギーを投入していきたいと考えている。これは、みずほ銀行の戦略として今年度から打ち出し、明確に指示をし、取組んでいるところである。こうした取組みを通じて、お客さまのお役に立つような「最強のリテールバンク」、そういう銀行を目指してまいりたい。


(問)
 預貸金利鞘について伺いたい。ゼロ金利解除以降、日銀の2度の利上げがあって、昨年12月までに預貸金利鞘が改善を続けてきたが、足許の預貸金利鞘の状況と今後の見通しについてどのように見ているか、その辺りを伺いたい。
(答)
 預貸金利鞘についての資料を持ち合わせていないが、国内業務部門の預貸金利鞘については昨年末までは確かに拡大してきていた。しかしながら、ここへきて景気の先行きについての不透明感を背景に資金需要があまり盛り上がっておらず、また銀行間の競争も激しくなってきているので、利鞘改善については、今の環境下では難しい状況であると認識している。


(問)
 証券化商品に対する取組みが世界的に始まっているが、会長は、情報開示や評価の仕方等に関する国際機関の議論に貢献していくことが重要とおっしゃったが、何か具体的に貢献していく道筋というものがあるのか。
 もう一つ、企業の資金ニーズがなかなか高まらないだろうという話があったが、日本の銀行は全体として大きく預金超過となっていて、端的にオーバーバンキングであることが問題になっている。競争が激しいなかでの、銀行の数の問題と預金超過の問題という二つの問題に関連し、オーバーバンキングの問題をどのように会長は認識されているか。
(答)
 二番目の質問の方から回答させていただく。銀行の数が多いということと全体として相当大幅な預金超過の状態にあるということの二つの問題解消については、広く捉えるべき問題だと思っている。
 まず、預金超過については、これまで「貯蓄から投資へ」という流れができあがる途上で、昨年来のサブプライム問題とそれに続く金融市場の混乱により、マーケット環境が非常に厳しくなってきたため、最近は投資への移行が全般的に伸び悩んでいるようであるが、この流れ自体が止まることはないと思っている。むしろ、この流れがもう少し加速していけば、この問題もさらにクリアされてくるのではないかと考えている。
 また、金融機関の数が多すぎる、という指摘については、全銀協会長の立場では申しあげにくいことであるが、事の本質は銀行の数の多寡の問題というよりも、生産性向上の問題であると思う。銀行界も、業界全体として、他の業界と同様に生産性向上のための検討がなされていくと思っている。その結果が、合併なのか、業務提携なのか、具体的には個別の銀行の戦略によるので何とも申しあげられないが、全体としてはそういう流れになっていくのではないかと考えている。
 最初の質問であるが、G7での議論を踏まえ、日本の金融機関に対しても、金融当局の方からグローバルな視点で、規制も含めたいろいろな施策が打ち出されると思う。このような動きにおいては、官民がしっかりと対話を行って施策を決めるべきであり、銀行界として常に積極的に議論に参加してまいりたい。現下の市場環境においては、規制等を見直す議論が起こるのはやむを得ないと思うが、市場の将来性の芽を摘むような内容では好ましくない。市場の正常な運営のために現時点で必要なものについて、グローバルな観点から、官民で建設的な議論ができればいいと考えている。


(問)
 サブプライム問題に関連して、これまでの欧米の金融機関の対応の仕方、情報開示のあり方、当局、中央銀行の対応などに関して、どのように評価されているか、今後、思い切った公的関与を強めてほしいとか、リクエストがあればお聞かせいただきたい。
(答)
 米国は既にいろいろ手を打っている。公的資金の投入については明言されていないものの、すでに一種の公的支援がベアスターンズに対して行われているように、米国は金融システムの安定性維持に関して必要な対応を取るというのがこれまでの流れであると感じている。仮に金融システムそのものがおかしくなるということになれば、さらに、必要な対応を取るであろうし、ヨーロッパについても、昨日発表のあったイングランド銀行の事例などがあるように同様のスタンスではないか。この問題に関してはG7でも議論されており、今後とも動向を注視していきたい。
 ただし、すぐに回復するということではなく、金融システムを維持するために、世界で協力して必要な対応を取ることについてコンセンサスが出来ているということである。具体的な対応については各国の当局が決定することではあるが、G7の中で必要な対応を取るとのコンセンサスがすでに出来上がっている。
 しかし、実体経済がスパイラル的に悪くなっていく状況が続けば、これが金融システムにも影響が出てくる可能性もあり、まだ予断を許さない状況ではある。いずれにしても米国がこれまでどおり早めに手を打っていけば、世界恐慌につながるような状況には至らないと思う。今後G7に参加した先進国が連携し、そういった事態に陥らないような協力体制のもとで、これから注視していくことが肝要である。


(問)
 先般、G7で100日以内に、証券化商品のディスクロージャーのあり方を見直すことになっているが、サブプライム損失を見ても、各金融機関によって開示の仕方が違っている。一律に横並びで損失を比べるのは難しい。100日以内で決算開示のあり方が、ドラスティックに変わるということは起こるのか、その見解を聞かせていただきたい。
(答)
 100日以内に実施すべき事項として、4つあげられている。今回のご質問に関しては、情報開示の強化、金融商品の評価の向上などがポイントであると考えている。これらについて、100日以内に国際的な基準が出来るかどうか、そしてそれがすぐに世界標準となっていくのかは、現時点ではわからないが、これからも活発な議論をすべきものと考えている。いずれにしても、利用者である投資家自身が納得できるようなものとなることを期待している。G7で合意している事項でもあり、着実に進捗するものと考えている。


(問)
 先週、金融庁が14項目のプリンシプルを公表したが、それについての評価と、金融機関として新たに取り組まなければならないとすれば、どんな点があるか、見解を聞かせていただきたい。
(答)
 金融庁が、昨年7月にベター・レギュレーションへの取組みを公表し、その大きな柱の一つとして「ルールベースの監督とプリンシプルベースの監督の最適な組合せ」を掲げている。こうした考え方を踏まえて、プリンシプルベースの監督の基軸となる主要なプリンシプルが示されたものと考えている。ベター・レギュレーションは、国際競争力を強化すること、利用者の保護、市場の公正や透明性を高める取組みを定着化させることを狙いとして示された枠組みであり、大変に意義深いものと考えている。その方向性は、金融機関の自己責任を重視し、自助努力を促すように金融規制の質的向上を図るということと理解している。この趣旨を踏まえ、われわれとしても、当局との対話を深めつつ、競争力の強化や利用者の保護に、より一層自主的・自律的に取り組んでいかなければならないと考えている。

別添資料:杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)