2008年11月25日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様

(問)
 景況感について、世界的な金融資本市場の混乱が続いている最中であるが、最近の実体経済あるいは今後の動向についてどのように見ているか、お聞かせ願いたい。
 国内の景気についてであるが、GDPも2四半期連続マイナス、景気も後退局面入りという認識を示した方もいるが、会長から見て、国内の景気の現状あるいは先行きをどのように見ているか、お聞かせ願いたい。
(答)
 日米欧が7-9月期にそろってマイナス成長となり、世界経済は先進国を中心に大幅に悪化していることが明らかになった。今後、金融危機の実体経済への影響が一層顕在化していき、世界経済は厳しさを増すと予想される。
 IMFは世界経済見通しを今月再び下方修正し、2009年の世界の実質成長率が2.2%まで低下すると予測している。わずか1カ月前の予測値(3.0%)から大きく下方修正されたのは、それだけ世界経済の悪化が急速に進んでいるということだろう。
 今月開かれた金融サミットでは、世界的な金融不安の高まりを受けて金融市場の規制・監督の枠組み作りやIMFなど国際機関の機能強化という中長期的な方向性が示された。また、各国が景気悪化に対して金融・財政政策を総動員して対応していくことで一致した。こうした取組みが実践され、金融危機の沈静化と世界経済の回復につながっていくことを期待している。
 一方、外需に依存した成長を続けてきた日本にとって、海外経済が減速することによって被る影響は大きい。当面の日本経済は、輸出の減少を受けて生産調整が深まり、景気後退局面が続くと見ざるを得ない。内外で需要の先行き不透明感が強まっていることを受けて、投資計画を見直している企業も多く、設備投資は減少が続くと見られる。また、製造業の減産に伴って雇用調整圧力が強まるほか、残業代やボーナスを中心に賃金も弱含むことが予想され、個人消費の見通しも明るくない。
 こうしたなかで、政府は過去最大規模の経済対策(10/30、生活対策)を取りまとめた。また、日銀は10月末(10/31)に利下げ(0.5%⇒0.3%)に踏み切った。財政事情が厳しく、金利水準も低い状況で、政策対応の余地は限定される面もあるが、政府・日銀が一体となって景気の悪化を食い止めようと最大限の対応をされていると考えている。
 私は全国各地のお客さまとお会いするが、皆さんは「景気の先行きは非常に厳しい」とおっしゃりながらも、荒波を乗り越えるために様々な工夫・努力をなさっておられる。われわれとしてもこういった方々を是非ともご支援してまいりたい。


(問)
 先般銀行決算がほぼ出揃った。08年9月の中間決算であるが、まず、その総括をしていただきたい。決算を含めて、銀行を取り巻く経営環境は大変厳しいものがあると思うが、その認識についてもお聞かせ願いたい。
(答)
 昨年夏にはじまった国際的な金融・資本市場の混乱が内外の実体経済にも大きな影響を及ぼすに至り、私ども銀行を取り巻く環境は非常に厳しいものとなっている。
 08年9月期の大手行の当期利益は、こうしたなか、与信関係費用の増加や株価の低迷などを背景に減益となり、本業の利益である実質業務純益も、市況の悪化で手数料収入などが大きく落ち込んだことなどから減少幅が拡大した。
 もっとも、わが国は欧米に比して市場混乱の影響が相対的に限定されており、金融システムの健全性が脅かされるような状態にはない。前回から情報開示を拡大した証券化商品についても、サブプライム関連を中心に残高が縮小するとともに、損失が大きく減少している。
 次に、09年3月期に向けた見通しを概観する。
 アメリカのリーマン・ブラザーズ破綻を契機に、足もとで国際的な金融・資本市場の混迷が急速に深まったが、その後各国政府による金融機関の支援策が相次いで発表されたことや、G20金融サミットにおいて事態の収束に向けた世界的な協調の方針がくだされたことから、一時期見られたような過度の不安は幾分か後退したように思う。
 一方で、実体経済の弱体化が進み、世界的な景気後退が深まるのではないかとの懸念が高まっていることも事実である。企業業績の状況や株式相場の動向にもよるが、引き続き厳しい経営環境が続くと考えている。
 大手各行の09年3月期の見通しを見ても、与信関係費用や収益につき、保守的な見方が一層強まっている。
 私どもとしては、こうしたときこそ金融機関の真価が問われていると肝に銘じ、自らが担う重要な役割を今一度認識するとともに、お客様と真摯に向き合い、ともにこの難局に対応していきたいと考えている。


(問)
 先週、日銀の白川総裁が会見で、大企業の資金調達の環境も悪化していると言われていた。中小企業だけでなく大企業の資金繰りも万全ではないという見方だが、会長は現状をどのように見ているか。
(答)
 大企業については、社債やCPでの調達が減少し、銀行借入での調達が増加傾向にある。その背景には、昨年からのサブプライムローン問題等の影響で、直接金融市場の流動性が著しく低下し、市場調達が難しくなって、銀行借入れへの依存が高まっているというマーケット要因があるのではないか。大企業の資金繰りが悪化したということではないと思っている。


(問)
 昨今の金融危機や急速な円高を追い風に、追い風にというと語弊があるが、金融機関を含めて日本の企業が海外企業へ積極的に出資したり、買収したりという動きが相次いでいる。各社、リスクとリターンを考えたうえでのことだと思うが、欧米経済を見ると、公的資金が入らないと生きていけないという企業がある状況のなかで、かなりのリスクを伴っているとも言える。日本企業による積極的な投資姿勢を会長はどのように見ているか。
(答)
 業種や地域を選別しながら、現状を好機と捉えて、海外投資を行っている日本企業もあるかもしれないが、グローバルな金融混乱は、既に株価下落や外需の減退といった形でわが国にも大きく影響しており、先行きも不透明な状況にある。一部に積極的な動きが見られるが、全ての企業が今すぐ投資を進める環境には必ずしもないのではないか。


(問)
 マーケットが壊れていることによる銀行への企業からの資金需要が高まっているということについて、具体的な認識をお聞かせいただきたい。
(答)
 銀行借入の需要が高まっていることは、9月末の貸出残高が前年同月比で増加しているということからもわかる。特に、大企業向けの貸出残高は増えており、社債やCPでの調達からシフトしていることが伺える。


(問)
 原因は、やはり市場の方が壊れているからということか。
(答)
 近時の国際金融市場の混乱を受け、国内資本市場の動きも不活発になっている。こうした状況下、大企業に関して言えば、直接金融から、銀行貸出という間接金融へシフトし、残高が増加しているのだと思う。10月以降もしばらくは、こうした状況が続くのではないかと見ている。


(問)
 そういう需要が高まってきたときに、日銀も心配しているところであるが、株価も低迷している状況のなかで、年末に向けて銀行の貸出余力について、どのように考えているか。
(答)
 銀行はバブル崩壊を経験し、その後、多額の不良債権処理に追われるという厳しい状況に直面した。資本の毀損を踏まえ、様々な対応を図り、その状況を克服した結果として現在があるのではないか。今後は、実体経済の悪化が見込まれるなか、与信関係費用等も増えてくる可能性があることを踏まえ、リスク管理の重要性は一層高まってくる。企業の資金ニーズにお応えし、円滑な資金供給に努めていくとともに、リスク管理も疎かにせずしっかりやっていくことが銀行の重要な役割である。すなわち「円滑な資金供給」と「財務の健全性維持」の双方をバランス良く実現させることが重要である。すでに政府から、実体経済の悪化を防止する有効な手段が打ち出されており、われわれとしても、企業の年末超えの資金供給等も含め、金融面からしっかりとサポートしてまいりたい。
 なかでも、緊急保証制度等の対策が講じられていることは心強く、今後とも、官民一体の取組みが重要になると認識している。


(問)
 政府、日銀が金融機関の保有する株式の買い取りを検討していると思うが、銀行業界としては、今、株を買い取ってほしいというニーズがあるのか。これまでに、政府とか日銀に業界として要望したという事実があれば、いつごろ要望したのかということも、あわせてお聞かせいただきたい。
(答)
 現時点において、銀行界から、株式の買い取りを正式に要望しているということはないのではないか。昨今の株価下落を踏まえると、万一株式を売却するとしても、多くの場合損失が伴うという問題がある。もちろん、個別行によって、ポートフォリオは様々であり、また今後の株価動向がわからないなか、何とも言えない面もあるが、短期的には、株式を買い取っていただきたいというニーズはそれ程高くないのではないか。今回の株価下落は想定外ではあるものの、銀行が一定以上の株式を保有すること自体が、相応のリスクを伴うことも事実であり、今後、株式保有の圧縮と保有リスクの削減に努めていく必要があるかも知れない。今回の事態を受けて、銀行の経営者は株式保有について改めて思案しているのではないか。なお、資本政策については、常に様々な角度から検討していることと思う。


(問)
 金融機能強化法の審議が続いている。現在、参議院で足踏みの状況にあるが、金融機能強化法の改正法案について、改めて業界としてどのように見ているか。成立までもたついているが、このような状況について、どのような所見をお持ちかお聞かせいただきたい。
(答)
 先日政府により「生活対策」が示され、そのなかで、「日本の金融システムの安定性は確保されているものの、国内景気の下降局面が長期化・深刻化する恐れがあるなか、最優先課題として『金融資本市場の安定確保』に向けて万全の措置をおこなう」との方針が明らかになっている。
 この方針に則り、昨今の金融情勢のもとで「金融機関の業務の健全かつ効率的な運営および、地域における経済の活性化を期する」ということが法案の趣旨であると理解している。
 すなわち、金融機関が必要とする場合に国による資本注入を可能とし、予備的・予防的に不測の事態に備える態勢を整えるということが法案の狙いであり、それは時宜にかなった有意義なものと考えている。
 また、このような法律を措置すること自体が、混乱している市場の安定化に資するものであり、この国会で議論が行われていることは心強く思う。
 こういった意味でも早期の成立が望ましいと思う。


(問)
 12月で保険商品の銀行窓販解禁から1年になるが、この1年間の銀行の取組状況と、昨年12月に解禁された保障性商品以外の変額年金で、投資信託もそうだが、マーケットの影響もあって、消費者の方・契約者の方の誤解等も出てきてトラブルも出ているという話もあるが、足元の動きと今後の対応をあわせてお聞かせいただきたい。
(答)
 投資信託については、基準価格が下がっていることもあり、私どもみずほ銀行のみならず銀行界全体としても販売状況は非常に厳しいと認識している。一方、保険商品の方は、投資信託との比較においては、幾分良好との感触であった。しかし、9月のリーマン・ブラザーズ破綻やAIG救済といったニュースを契機にグローバルな株価下落、景気後退が進むにつれ、状況は一段と厳しくなっているようだ。
 こうした状況がいつまで続くかの判断は、なかなか難しい。世界的な株価の反転がいつになるか、それが1つのポイントになろう。


(問)
 医療保険や終身保険等の保障性商品の方はいかがか。
(答)
 保障性の保険商品については、昨年12月から銀行での取扱が始まったが、それぞれに体制を整えながら進めているところである。市況に左右されにくいという性格を持っており、運用を目的とした商品とは異なるトレンドが見られる。なお、全般的に見て、現在は元本が保証された商品を望まれる方が増えているという感がある。


(問)
 2点おうかがいする。まず、株式の政策保有についてだが、先ほど会長が「株の保有リスクを感じる」、「それを落としていく必要を感じる」という言葉であったが、翻ると、株式の保有額を減らすということについては、かつて随分厳しい思いをされて、それを教訓に、平成14・15年をボトムにずっと落としてきた経緯があると思う。日本の銀行・経済の慣習・特殊事情はあるものの、そこまで努力されてきたものが、今またそこから緩んでという表現が的確かであるが、また反転して増えてきてしまった。敵対買収の防衛策など、事業会社にもニーズはあったと思うが、厳しい思いが過去になって、時間とともに経営努力が少し緩んでしまったというのは言いすぎだろうか。
(答)
 緩んでしまった、ということはないと思う。これまで、政策保有株式の残高は継続的に減らしてきており、足下ではピークに比べて3分の1程度にまでなっている。ただし、一昨年あたりからその傾向が若干変化しており、個別には、お取引先からの依頼に基づいて新たに株を取得するケースもあるようだ。しかし、そういった際にも、総合的な取引関係のなかで株式保有の意義とリスク・リターンを計りつつ判断がなされているものと考えている。
 直近の大幅な株価下落に鑑みれば、株式取得にあたっては一段と慎重な検討が求められる状況になっている。株式をほとんど保有していない欧米の金融機関との比較においても、銀行が株式を保有することの意義とリスクについて今一度考えてみることが必要であろう。長期的視点で言えば、個人的には減らしていく方向ではないかと思っている。むろん、一気にゼロにすることはできないし、それが妥当とも考えないが、時間をかけながら適正な水準を探っていくということではないか。


(問)
 もう1つ違う質問だが、金融機能強化法に絡んで、先ほど「歓迎する」、「早期の成立を期待する」という話だったが、一方で、特に地方銀行の決算を見ると、貸し先はない、運用も上手くいかないとなってくると、構造的に地域金融機関とか、優劣の「劣」の金融機関の再編や構造改革を後押しする力が弱まってしまう、むしろ、ずっと構造改革が先送りされてしまうというリスクもあるかと思う。今の金融危機を乗り越えるための措置ということはあるものの、再編・構造改革を後押しする力が弱まってしまうということについて、会長はどのようにお考えか。
(答)
 現下の状況では、再編や構造改革といった中長期的な課題よりも、まず足許のグローバルな金融危機を踏まえ、日本の金融資本市場の安定確保に万全の備えを優先すべきタイミングではないかと考えており、そうした観点からできるだけ早期の成立が望ましいと申しあげた。
 また、金融機能強化法が実際に使われることになった場合に、それがどのような効果を持つかはいろいろ考えられるのではないか。結果として、構造改革あるいは再編を後押しするような可能性もあるかもしれない。


(問)
 会長は先ほど、経済は厳しい状況にあるとのことであったが、新入社員の採用の動向に関してうかがいたい。そろそろ2010年の採用活動が本格的に始まってくる。各社それぞれ採用計画の結論はまだ出ていないとは思うが、特にここ数年、金融業界は多く人を採ってきたと思うが、2010年は採用としては増える方向にあるのか、減らす方向にあるのか、個別行になってしまうかもしれないが、業界としてはどのようなトレンドになるかと予測するか。
(答)
 業界や個社の事情によって状況は異なるであろうが、採用数は実体経済を映す鏡とも言える象徴的なものではないか。マクロ的にみれば、経済成長率がマイナスのときは採用数も伸びないという傾向がある。今後を展望すれば、経済成長率が回復するというタイミングが見えてくれば、おそらく採用活動は先行して回復するのではないか。