2008年12月24日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、来年度の次期副会長を内定した。
 次期副会長の正式な選任は、9月に内定している次期会長と同じく、来年4月の理事会において行われる。また、担当委員会についても、正式な決定は次期正副会長が正式に選任された後の正副会長会議において行われる予定である。
 2点目は、ゆうちょ銀行の内国為替制度への加盟日についてである。本日、内国為替運営機構の運営委員会を開催し、ゆうちょ銀行の全国銀行内国為替制度への加盟日を、年明けの1月5日とすることを正式に決定した。
 これをもって、1月5日にゆうちょ銀行が全銀システムに接続することを正式決定したということである。
 私からの報告は、以上である。なお、本日ご報告した内容について、さらにお知りになりたい点があれば、後ほど、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 会長としていろいろなことがあった年だと思うが、1年間を振り返っての感想をお願いしたい。
(答)
 4月に全銀協会長に就任した際に、「今年は銀行界にとって厳しい年になる」との環境認識を申しあげたと記憶している。しかし、その後、約8ヶ月経つわけであるが、この間のグローバル金融システムにおける様々な出来事を改めて振り返ると、現実は予想を大きく上回る「激動の1年」であったかと思う。欧米の金融危機は現在も終息が見えず、その影響は様々な経路でわが国にも上陸しつつある。誰もが経験したことのない、激震がまさに今もなお続いていると言えよう。
 そうした状況を受け、政府においては「生活対策」や「生活防衛のための緊急対策」をはじめ様々な危機対応策が打ち出されてきた。私ども民間金融機関としても、こうした対策の趣旨を十分に踏まえ、金融円滑化へ向けて取り組んできたところであるし、現在も全力を挙げて対応しているところである。
 とはいえ、こうした厳しい状況については、皆さまもよくご存知のことと思うので、本日は1年の締め括りでもあり、少し前向きな点に触れてみたい。私は常々、こうした危機であるからこそ、悲観一色ではなく、日本の「良い面」や「底力」にも目を向けることが大事だと思ってきた。わが国金融システム、そして実体経済の置かれた状況が厳しいことは間違いないが、問題の震源地である欧米と比較すれば状況は異なる。そして、秋口以降は官民を挙げて、一段と警戒水準を高め、様々な対応が矢継ぎ早に進められていることも心強い。
 そうしたなか、欧米の日本を見る目も少し変わってきたかと感じる場面が、今年は何度かあった。10年前に、一足早くバブル崩壊を経験し、その問題を克服して約6年にわたる経済成長を持続したわが国の経験・教訓を聞きたい、という声は多く聞こえてきた。さらに、わが国ではいち早くバーゼル2を導入していたため銀行のリスク評価がより正確になされていたことや、早くから証券化商品等の損失にかかる開示を充実させたことなど、今回の金融危機への対応という観点からも、一歩進んでいたと言えるのではないかと考えている。
 G8やG20の場で首相や財務・金融大臣がそうした話をしている。また、われわれ全銀協も、欧米各国の銀行協会と頻繁に意見交換を行ったり、英国国会議員訪問団を迎え、われわれの経験を伝えたりもしている。
 グローバルな金融危機への対応にあたっては、国際協調が極めて重要となる。今後も、様々な場において日本の経験を踏まえて議論に貢献していきたいと考えている。
 さて、外部環境は大変厳しい状況にあるわけだが、全銀協としては、こうした厳しい時期だからこそ、わが国金融システムの長期的な発展に向けて「着実に前進する1年」というスローガンを掲げて様々な課題に対応してきた。
 この8ヶ月の成果を振り返ると、永年の課題であった銀証ファイアー・ウオール規制緩和の具体的ルール作りがほぼ完了し、また、ゆうちょ銀行との全銀ネット接続も大詰めに来ている。金融犯罪撲滅への取組みについても、銀行界を挙げて対応を強化してきたが、目に見えて成果が上がってきているとの手応えがある。環境問題についても、全銀協エコ・プロジェクトを着実に進めているところである。
 これまでのところは、一つひとつの課題について、常に「利用者の視点」を第一に据えて、着実に進めていくことができたのではないかと考えている。
 とはいえ、まだ私の任期は3分の1ほど残っているし、重要課題は山積している。特に、景況感が急速に悪化するなかで、銀行界としては円滑な金融仲介に努めることが一段と強く求められており、その役割をきちんと果たしていきたいと考えているところだ。


(問)
 先週末に日本銀行が、金融不安のなか、利下げや、CPの買い切りなどの追加の金融緩和措置を発表しているが、これについてどのように評価しているか。特にCPの買い切りに関しては、企業金融の円滑化、銀行も企業の資金繰りを助けるようなことが政府の主張では期待されると思うが、その辺をどのように受け止めているか。
(答)
 先般発表された金融緩和措置についてであるが、日銀はわが国実体経済の急激な悪化を踏まえて、政策金利を0.3%から0.1%への引下げを行ったものと認識している。併せて長期国債買入の増額やCPの買い切りなど、金融調節手段の追加措置も発表されたが、このような一連の対応が経済を金融面から下支えすることを期待しているところである。
 資金繰りについての企業の認識は厳しさを増しているようだ。11月末の速報値では、全国銀行123行の貸出金は前年同月比で4.4%の増加となっているが、先般公表された日銀短観の「資金繰り判断DI」は、企業規模に関わらず低下している。
 このうち、大企業については、特にCP市場の発行環境が急速に悪化した影響が大きいようだ。その結果、CPによる資金調達を銀行借入に振り替える動きも一部で生じている。われわれ銀行界としては、そうしたお客さまのニーズに最大限の対応を行っており、現在は、直接金融市場において生じた問題を、間接金融が支えている構造と言えるかもしれない。
 われわれとしては、直接金融市場が一刻も早く正常化することを望んでおり、そうしたなか、日銀や政策投資銀行によるCP買取等、政策対応の効果が早期に現れることを期待しているところである。
 一方、中堅・中小企業向け金融については、政府から「生活対策」や「生活防衛のための緊急対策」など企業の資金繰り確保に向けた様々な施策が打ち出されており、私ども民間金融機関としても、こうした対策の趣旨を十分に踏まえ、中小企業金融にしっかりと取り組むことが強く求められていると認識している。
 ここで業界としての取組みについて申しあげると、全銀協では、先日開催された中川金融担当大臣との意見交換会や、これまでにご当局からいただいた要請文の趣旨も踏まえ、10月に行った中小企業金融の円滑化に関する申し合わせを改めて確認するとともに、貸出条件緩和債権の要件緩和措置への対応を含め、中小企業のお客さまへの適切な対応を会員各行に徹底している。
 例えば、みずほ銀行においても、こうした対応の営業現場への徹底を行うとともに、10月末にスタートした緊急保証制度に積極的に取り組んでいく。12月22日現在、すでに約1,500社のお客さまへのご融資を実行しており、足許の中小企業向け貸出は増加している。今後も引き続き、本制度の対象となるお客さまに積極的にご案内をさせていただく。
 年末まで残りわずかとなったが、信用保証協会においては年末金融への対応として営業日を拡大して取り組んでいただいている。全銀協も、先週末から昨日の祝日も含め、「銀行とりひき相談所」を年内30日まで無休で対応しているところである。保証協会とより一層連携を密にし、保証の承諾を得た案件を速やかに実行に移すなど、金融機関としての役割期待を今一度肝に銘じ、全力で取り組んでまいりたい。


(問)
 ゆうちょ銀行の全銀システムへの接続について、振込専用の番号が必要な場合があるなど、利用者が混乱することも懸念されるが、どう考えているか。
(答)
 先ほど事務局から報告のとおり、接続は来年1月5日を予定しており、これまで振込専用口座番号やその他振込にあたっての留意点について、ゆうちょ銀行での事前のご案内の徹底はもとより、われわれ民間金融機関も、お客さまの混乱を回避するため、万全の準備を行ってきた。また、ゆうちょ銀行におけるシステム移行準備についても問題なく進んでおり、成功するものと信じている。
 過去の事例も踏まえ、慎重に移行作業を進めたいと考えているが、お客さまにご迷惑をお掛けすることのないよう、最後までしっかりと対応してまいりたい。


(問)
 今年は世界の金融地図が投資銀行を中心にかなり塗り変わった一年だと思うが、会長はこのような傾向がしばらく、来年も続くとお考えか。
 もう一つ、それとは別に、邦銀も足もとの景気悪化で海外事業展開というのをもう一回再考しなければいけない状況になってきたのではないかと思うが、今後の海外展開というのは、そういう意味では、日本の足もとを固めるということで展開は変わってくるのか。
(答)
 世界的な金融危機がまだ続いている最中でもあり将来について予測することは困難であるが、今年見られたような大規模な再編が来年も相次ぐという可能性はさほど高くないのではないか。もちろん、業界地図が完全に固まったとは言い切れないなか、小規模の再編の動きはある程度続くのかもしれない。
 邦銀の海外戦略については、経営環境の急速な悪化を受けて足許を固めるべきという見方がある一方、現在がチャンスであるという見方もある。個人的には、今しばらくは守りを固める時期と感じているが、ここはまさに個別行の経営判断である。様々な要素を総合的に見て各行が判断することだと思う。


(問)
 日銀の利下げに関連して、多くの銀行は今後の収益計画を利上げする方向で織り込んでいたと思うのが、利下げになったことでどのような影響が出るというようにお考えになっているか。見通しをお聞かせ願いたい。
(答)
 銀行決算への影響は、各行の事業ポートフォリオの状況によって異なるため、一概には申しあげられない。預金関係の収益に限ってみれば、例えばみずほ銀行のようにリテール預金が多い銀行の場合、通常であれば利上げにより市場金利が上昇していく局面で収益が増加する傾向にあるが、収益構造が異なる銀行もあろう。政策金利動向は、この他にも様々な経路で経済活動全体に影響を与えるものであり、銀行界への影響を単純に語ることは難しい。


(問)
 先日、銀行保有株の買取機構の話が出たと思うが、これの効果を疑問視する声が自民党の方からもかなりあるが、この時期に買取を再開できるようになることをどのように受け止めているか、お聞かせ願いたい。
(答)
 これまで銀行は保有株式を減らしてきており、現在ではピーク時の1/3程度まで圧縮しているが、今回の急激な株価下落も踏まえて、保有株式をどうすべきか、改めて議論を進める必要があると考えている。個人的には、今後も状況を見据えつつ、株式保有の削減に努めていくべきという方向感を持っているが、これまでの経緯もあり、いきなりゼロにするということは難しいのではないか。
 やはり、タイミングや受け皿の有無というのが重要な論点となる。足許こういう株価であり、直ぐに売却ということには繋がらないし、あっても限定的だと思われるが、受け皿の枠組みがあると、株式市場へのアナウンスメント効果が期待できるとともに、長い目で見ると、今後株価が上昇局面となって銀行が更に保有株式を売っていく場合に、天井の重しを取り払う効果が出てくるのではないか。なお、銀行等保有株式取得機構が銀行保有株の買取を再開するためには法律改正が必要であり、こうした枠組みの整備については、来年の通常国会で検討されると聞いている。


(問)
 先日、金融機能強化法が施行になったが、政府としては資本を厚くして中小企業にどんどん貸してくださいという趣旨の法律だと思うが、私たちが取材している限り、そういうようになるかどうか必ずしも分からないと思う。銀行業界から見たときに、どういった活用の方法があり得るのか、そういう政府の狙いどおりにいくものなのか、その辺どのように受け止めているか教えてほしい。
(答)
 この法律は、金融機関の仲介機能を強化し、厳しい状況に直面する地域経済や中小企業を支援することを目的として措置されたものと認識している。本法律は時宜にかなった有意義なものと考えていると同時に、この法律が措置されたこと自体が、市場の安定化に資するものであり、心強く思う。
 私どもとしては、各銀行が、この法律が措置された背景や趣旨をしっかりと踏まえて、中小企業金融の円滑化に努めていくべきだと考えている。ちなみに、みずほ銀行では、緊急保証制度への積極的な取組みなどにより、足許の中小企業向け貸出は伸びてきている。
 なお、金融機能強化法に基づく申請をするかどうかはあくまでも個別行の判断であり、コメントする立場にはない。


(問)
 中小企業向け融資について、銀行に増やしてくださいという要請がある。しかしながらそのまま増やすと、この経済環境では不良債権になる可能性が極めて高い。したがって、実際には中小企業向け貸出は、プロパーで出すより信用保証協会の保証枠による貸出の方が、銀行としては現実的な対応ということになっていくのではないか。
(答)
 銀行としては、お客さまの資金ニーズに何とかお応えすべく、信用保証協会の保証付き融資への積極的な取組みを行っているほか、様々な工夫を凝らしているところである。
 実体経済は悪化しつつあり、与信関係費用も増加傾向にあるが、そうした環境下で、銀行が政府の様々な対策を踏まえてどのように対応していくかは、まさに知恵の絞りどころだと思う。
 銀行は、お客さまから大切なご預金をお預かりしている身として、健全な財務基盤を維持していかなくてはならない。そうかといって、このように経済が悪化しているなかで、過度に貸出に慎重になると、ますます経済が悪化していくという側面もあり、引き続き適切にリスクをとって円滑な資金供給にしっかりと取り組んでまいりたい。各行とも、こうした観点から、どのようにバランスを取って対応していくか、真剣に考えて対応しているところである。緊急保証制度についても、政府の対策の趣旨を踏まえて積極的に取り組んでいるところであるが、モラルハザードに陥ることのないよう、適切に対応していくことが重要である。今後も厳しい環境が続くと思われるが、「財務の健全性維持」と「円滑な資金供給」の双方を適切に実現できるよう、様々な工夫を凝らし、積極的に中小企業の資金ニーズにお応えしていきたいと考えている。