2010年1月26日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から3点ご報告する。
 1点目は、本日、理事会に先立ち、自粛勧告等委員会を開いて、1月7日に金融庁から行政処分を受けた韓国外換銀行への対応について審議した。その結果、全銀協として同行を「厳重注意」とする措置を決定した。
 2点目は、お手元の資料のとおり、お取引先企業の営業支援のための企業情報掲載サイトの名称を「全銀e-ビジネスマーケット」と決定した。このサイトは、2月1日から会員銀行において企業情報の掲載の申込受付を順次開始し、3月中に全銀協ホームページでの公開を予定している。
 3点目は、個人年金保険の募集における説明態勢の強化に関するアンケート調査結果を取りまとめた。当協会では昨年9月の理事会において、お客さまとの個人年金保険の銀行窓口販売に関するトラブル未然防止に向けた説明態勢の強化に取組むことを申し合わせている。この申し合わせの対応状況をフォローするためアンケートを実施したものである。具体的なアンケート結果はお手元の資料の「別紙」のとおりである。
 なお、本日ご報告した内容について、質問等があれば会見終了後に事務局までご照会いただきたい。
 事務局からのご報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

(問)
 景況感と予算についてである。現状の景況感をどう見ているかということと、予算が審議入りして、本予算はまだ入っていないが、その中身をどう見ているか。それからもう一つ、政治と金の問題で国会審議がかなり荒れているが、予算の成立が遅れると景気にもなんらかの影響を与える可能性がある。その辺についてどう考えているか教えてほしい。
(答)
 まず、景況感と予算関係の話であるが、足元の景気は、やはり海外景気の回復と景気対策効果の2つに支えられて、持ち直しの動きが続いているということであろうと思う。ポイントは今後の見通しということになろうが、やはりメインシナリオとしては、緩やかながら回復傾向を辿るということであろう。ただ、回復のピッチは非常に弱いし、かつ回復のトレンド、ベクトルの方向が多少低下してくる可能性が高いのではないかと思っている。結局、景気を当面支えるのは、今、申しあげた海外景気、直截に言えば輸出、あるいは外需といっても良いが、これと景気対策効果であるが、輸出は、この3ヵ月が前の3ヵ月よりも更に増えないと、ベクトルの方向は上に行かないわけであり、今後の伸びは低下傾向になると思う。景気対策効果も、時間が経つにつれてその影響度は落ちてくるのは、ある面では当然である。こうしたことから景気の回復力は段々落ちてくるであろうということである。したがって、この年度明け、4月くらいに掛けて踊り場というか、回復の減速という現象が起こる。踊り場とは前回も申しあげたとおり、回復のピッチがゼロに近くなるという意味であるが、そうなる惧れもある。更には、最近よく為替もイベントが起こるといろいろ振れるが、やはり海外景気や円高といった要因、あるいは日本もそうであるがアメリカの雇用などが想定外に下振れする、為替の場合は円高であるが、景気の回復力が落ちているところにこうした要因が重なってくると、やはり二番底、これはマイナス成長になるという意味であるが、そういうことも十分起こりうると想定しておかなければならないと考えている。したがって、先ほどのご質問の後半部分であるが、現在、参議院に送られている21年度第二次補正、これと22年度の本予算は3月中にどうしても成立させたいと政府はおっしゃっているが、その速やかな通過、速やかな実施が必要ではないか。是非、そういう方向でご努力願いたいと思っている。予算の中身については、皆さんご存知のとおり、雇用調整助成金の要件緩和や、省エネ家電・エコカーにエコ住宅を加えたエコ3本柱の購入促進策がある。加えて、子ども手当てや高校授業料の無償化等々の生活支援策がある。これらは景気を大きく上ぶれさせるような力はないと思うが、下支え効果は十分あると思っている。民需が自律的に回復していけば、年後半にも相応のピッチで回復基調になる可能性も十分あるわけなので、その間、下支えをしていただくという意味でも、予算を速やかに通過させ実行に移っていただきたいと思う。


(問)
 JAL問題についてであるが、JALは最終的に会社更生法の適用申請ということになったが、当初、銀行団は私的整理を主張してきたと思う。これまでの政府の対応や過去の例を鑑みて、法的整理の結果になったことを、今になってどう整理しているか。
(答)
 JALの件は個別問題なので、コメントを差し控えるべきであるが、多く報道もされているので敢えてコメントすると、結果として法的整理となったわけであるが、銀行団が私的整理を主張していたというのは、報道のとおりである。
 ただし、その前に「JALにどうあってほしいか」という思いがあるわけである。やはり是非、抜本的再生をしてほしいというのが第一にある。二つ目に、抜本的な再生のためには、航空行政と非常に密接に関連している部分もあるので、国が主体になって頂きたい、この2つの点について、共通認識があったわけである。それは政府側にも、機構にも、われわれにもあった。そういう状況から、抜本的再生に至る、云わば方法論のところで意見の不一致があったということである。
 したがって、私どもも十分に意見は言わせていただいたし、事務ベースでは、それはもう大変な協議が行われたわけである。その結果、私どもの言い分も十分聞いていただいたうえで、政府、機構が、プリパッケージ型とは言え法的整理の方策を採ったわけであるから、結論としては銀行団としては「やむを得ない」という判断かと思う。政府、機構側に対しては、私どもがその過程でいろいろな意見を申しあげたが、相当の対応はしていただいたという印象も持っている。
 一点だけ言うとすると、やはり安全運行、これが一番大事ということを非常に強く主張し、法的整理になったときは大変なことになると申しあげた。万全の準備をしたつもりでも齟齬が出る可能性もあるということを言っていたわけであるが、考えられる全ての対応を取られたなという気がしている。トータルとしては、先ほど申しあげたとおり、それで行くしかないという結論だったというふうに思う。


(問)
 郵政であるが、今後の郵政のあり方の法案が示される予定である。その議論のなかで、一部、郵便貯金の預け入れ限度額を引き上げるとか、もしくは無制限にするという議論がなされているが、そういうことについての見解と、今日、ちなみに地銀協と第二地銀協の会長が亀井大臣のところに行かれたが、今後お会いになる予定があるのであれば教えて欲しい。
(答)
 郵政というよりは、今のご質問は郵貯に関してだと思うが、預入限度額の話が時々、報道機関の情報からも聞かれる。結論から言うと、全銀協としては、当然、それは許容できないということである。現在、改革法案というか、先に出てくる改革方針の素案というものに向けて作業中であると理解しているが、方向感として郵政全体、結果として郵貯に政府の資金、公的資金が残り、官業という位置づけになるのであれば、それは従来より何度も強調しているとおり、競争条件が民間銀行と全然違うわけである。よく、「そんなに大したことではないではないか」と言われるが、例えば、イベントリスク等により、民間金融機関では信用不安を惹起することもある。ところが、官業であるとそういう心配は全くないわけで、競争条件が公正であるとは全く言えないわけである。従って、競争条件が公正でない以上、これ以上の業務範囲、例えば、今話題になっているのは預入限度額だけかもしれないが、いろいろ巷間では言われているような業務範囲の拡大は、全銀協としては許容できない。これまで、完全民営化に向けたステップの中で徐々に業務範囲が広がってきたが、本来的に言うと、今後は逆方向というか、縮小の方向でいくべきであるというのが銀行団体というか、全銀協もそうであるし、地銀協さん、第二地銀協さんもそうであると理解している。
 最後に亀井大臣と「会うことはあるのか」というご質問については、今、日程を調整中であるが、時間が折り合っていないので、私がお会いするかどうか決まっていない。


(問)
 第3四半期決算の発表が近づいている。数字についてはまさに今集計中だと思うが、足元の銀行の収益の状況について説明していただきたい。また、個別の話で恐縮であるが、JALの会社更生法申請の影響が、銀行の決算に大きなインパクトを与えることになりそうかどうかをあわせて教えていただきたい。
(答)
 第3四半期は12月末の決算ということで、私自身もまだ自分の銀行の数字を見ていないので何とも言えないわけであるが、傾向値ということで申せば、やはり昨年は、株式の減損が非常に多く生じ、与信関連費用も非常に多く生じた、さらにメガバンクでは証券化商品の損失もあったという状態であったが、今年は、株式の減損や証券化商品の損失は、あったとしても非常に少額、ネグリジブルな水準であるので、この部分は当然、前年同期比で良くなる。与信関連費用については、個々の銀行でまだら模様になると思うが、大幅に増えるという状態にないことは確実である。21年9月中間決算の傾向が第3四半期も続くと予想されると言えるのではないか。
 JALの処理については、当然、追加の損失が出ると思うが、例えばこれでガラッと色彩が変わるというような額にはならないと理解している。


(問)
 先週、オバマ政権が打ち出した大手金融機関への新たな規制について見解をいただきたい。米国の金融機関が業務縮小を余儀なくされる可能性があるという点で日本の金融機関にとってプラスに働く可能性があるのか。また、日本国内で銀証融合が加速しているが、そうした規制によってどう影響受けるのか、お聞かせいただきたい。
(答)
 オバマ大統領が発表した米国の大手金融機関への新規制の考え方であるが、これから各論が公表されないと確固としたことは言えないが、現段階であっても相当の影響を与える内容と思う。昨年10月頃からボルカー氏が発言していた内容に近いものであり、これが大統領から発表されたので、米国の金融界に相当なショックを与えたと思う。今回の金融危機で「Too Big To Fail」の問題が厳然として現れ、それに対する1つの回答といえる。業務範囲を限定し、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドの保有や、お客様には関係のない自己勘定トレーディングを禁止する内容である。自己勘定トレーディングは収益源であるため、新規制が適用されるとその影響は大きい。ただ、自己勘定トレーディングの線引きは難しく、「お客様のサービスのためではない」という条件が付いているので、線引き次第で影響度は相当変わると思うが、考え方としては非常に厳しい案だと思う。「Too Big To Fail」について言うと、援助を受ける金融機関は、自己勘定トレーディング等をやってはいけないと宣言しているのだと思う。リスクの高い業務は、金融機関の自己責任でやってくださいと宣言しているのと同じである。
 規模の問題は、もともと預金については10%ルールがあり、これ以上市場シェアがあると規模拡大ができない。バンク・オブ・アメリカはこの市場シェアのルールに抵触するので、これ以上M&A等で規模を拡大できない。その考え方を他の負債項目についても適用し、これ以上規模を拡大させないという考えである。各々の負債項目の上限を10%にするかどうかは不明だが、大変大きい影響を与えるかというとそういうことはないと思う。
 したがって、業務範囲規制の方が規模の規制より影響は大きいと思われる。ただ、これは今後の議論を見ないと何とも言えない。銀証融合モデルというのは、もともと大陸ではユニバーサルバンクでやっていたことであり、米国ではグラス・スティーガル法で禁止されていたが、10年ほど前に解禁された。グローバル・ルールであるべきで、大陸がそのままで、米国は規制を導入するというのであれば、競争条件に差が生ずる。従って、相当の議論を経て決着することになると思われ、今後の動向を見守るべきであろう。日本のメガバンクの銀証融合モデルは規模は小さいので、それほど大きい影響は受けないと思う。


(問)
 先ほど第3四半期決算の日本国内の与信コストはまだら模様という話があったが、12月のモラトリアム法の施行後、支払猶予が増えているなど、取引先の変化はあるか。
(答)
 お客様からの相談は増えているが、中小企業からの相談は劇的に増えているわけではない。一方、住宅ローンは5倍程度に増えている。これは、12月・1月がボーナス返済月にあたることも理由かと思う。従って、1月までは高水準だろうと思うが、その後は分からない。これまでのところ、住宅ローンに関する相談は劇的に増えているが、中小企業からの相談は増えてはいるものの住宅ローンほど大きい増え方ではない、といえる。


(問)
 JALについて、今後、民間金融機関からの追加融資の必要性ということが指摘されているが、銀行団として、今後取引を再開するための条件というのはあるか。
(答)
 DIPファイナンスの後の話ということかと思うが、再建計画次第、今回で言うと更生計画次第であり、それを見ないと何ともいえないということかと思う。


(問)
 郵政の関係でおうかがいしたい。先ほど1,000万円の限度額の撤廃の話とか、最近だと地域金融とか中小企業金融の参入だとか、様々なことを政府は考えているが、今こうした議論をお聞きになっていて、何が一番問題であるかというところを改めて教えていただければと思う。また、それに関して、先ほど規模の縮小もあって然るべきというお話だったが、では、望ましい郵政のあり方というものについてお考えがあればお聞かせ願いたい。
(答)
 郵貯と郵政は分けて考える必要があるかもしれない。例えば、郵政全体だと、郵便局ネットワークは非常に強力な経営資源にもなりうる。これを活かしたビジネスモデルというのはどうか、ということが一つの柱になるであろうと思う。そのやり方次第で相当程度、効率性・収益性、さらに利便性も確保できたうえで、国民生活のためにもなるという世界が十分ありえるのかな、と方向感としては思っている。
 一方、郵貯については、元来、「郵貯というのは何のためにあったのか」という点に帰結するわけだが、「国民に少額の貯蓄手段の機会を与える」ということで、郵貯を経由して、「第二の予算」とも言われる財政投融資制度のなかで、預託義務があった。日本の戦後の復興期において、特に大きな力を発揮した制度で、郵貯はその原資に回っていた。ところが、こうした仕組みは時代には合わなくなってきた。少額の貯蓄手段という位置づけについても、限度額が300万円から1,000万円まで拡大されてきているし、そもそも1,000万円が少額なのかということもあると思う。そこで先ほどの話につながるわけだが、それ以上、限度額もどんどん上げていきますよとか、色々な業務にも進出していきますよ、というふうになると、これは民間と完全にバッティングすることになる。その場合、これだけ競争条件が違うものが同じような状況で勝負していいのか、という本質的な疑問がある。特に、我々は民間の金融機関だから、公のバックボーンをもち暗黙の政府保証もあるところと、あらゆる場面でバッティングするというのは厳に避けたいということである。


(問)
 日銀の新型オペの効果をどのように評価されているか、お聞かせいただきたい。
(答)
 昨年12月初に新型オペが導入された。従来のオペレーションと比して、期間が3ヵ月と比較的長く、金利が0.1%固定ということで新型と称したわけだが、導入のタイミングを考えてみると、ドバイショックが起きて、イベントの発生で円高が急激に進んだ時期であり、それを緩和する一つの手段として、量的緩和の一環とも言われているが、発動されたものである。その結果を見ると、効果があったなということであろうと思う。為替の問題では、よく長期金利、短期金利と言われるが、円金利が相対的に高くなると円高になりやすいという関係があるわけであり、円金利がじわじわと上がっていくときに、例えばドル金利の方は上がらないとすれば円高に振れるわけである。これを抑える効果はあった、少なくともセンチメントとして非常に効いたのではないかと思う。現実に、短期金利のなかでも長期のもの、3か月ものや6か月もの、12か月ものまでだが、これは新型オペの導入後、非常に落ち着いた。長期金利のなかでも短期のもの、すなわち2年ものや3年もの、現実に3年ものの国債があるわけではなく、満期前で購入すればそのようなデュレーションのものも取得できるということだが、これも低下した。こうしたことが相俟って、新オペは効果を発揮したと見ているということである。


(問)
 12月の日銀当預の超過準備は7兆円を超えており、都銀では5千億円を超えた。11月は710億円であるから、6倍くらい超過準備が増えている。結局、日銀が供給したお金を、銀行はまた日銀に超過準備として積んでいるだけではないかという気もするが、そこのところはどういう評価をしたらよいのか。
(答)
 日銀がいくらお金を供給しても、資金需要がないとダイレクトにお客様のところにはいかない。私どもはこれまでも申しあげているとおり、円滑な資金供給のために、精一杯のことはやっているつもりである。ただ、基本的に預貸率は7割程度という状況であり、残る3割を何で運用するかということである。運用を目標にやっているわけではなく、最終尻を安全資産で運用しているということであり、金利リスク等もあるため、デュレーションで調整しながら対応している。一時点を捉えて絶対額をみれば同じ運用にみえるかもしれないが、内容は随分変わっている。以前も申しあげたと思うが、絶対額ではなくリスク量に置き換えて、例えば10年ものを「1」とすれば、2年ものは相当リスクが少ないため、リスク量を勘案してあまり大きくならないようにというかたちで運用している。時点、時点で切ってみれば、そういう事象に見えるかもしれないが、その過程では様々な要素があって工夫している。出来れば貸し出しをしたいが、資金需要が今の景況感を反映して大企業から中小企業まで非常に乏しいという現状下では、結果的にはそういうことになりうるということだと思っている。