会長記者会見
2010年2月23日
永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)
斉藤専務理事報告
事務局から1点ご報告する。
本日の理事会において、お手許にお配りしたとおり、「郵政改革に関する私どもの考え方」を取りまとめた。
本件は、2月8日に公表された「郵政改革素案」において、新たな郵政事業のあり方に関する骨格が明らかになったことを踏まえ、郵政改革、特に郵便貯金事業のあり方に関して銀行界の考え方を整理したものである。
事務局からの報告は、以上である。
会長記者会見の模様
(問)
今ご案内のあった「郵政改革に関する私どもの考え方」、我々も今、資料を受け取ったばかりであるが、これを出された理由・背景、それからポイントを教えて欲しい。
(答)
折角なので、資料をご覧いただきたい。1枚めくると「はじめに」がある。我々が主張したいことの論拠、エッセンスがここに集約されている。この資料自体は、捲って見ていただくとわかるが、背景にある様々な資料を盛り込んでいる。例えば、郵貯がいかに巨大で肥大化しているのか、諸外国に比べてどれだけ異常な規模なのかという表や、ユニバーサル・サービスに関して、例えば民間金融機関がない市町村はどのくらいあるか等、色々な資料があるので、後ほどご覧いただきたい。
まず「はじめに」をご覧いただきたい。最も主張したいのは、第3パラグラフ「ただし・・・」というところ。郵貯事業は、従来は、「完全民営化」を前提として、そのうえで、移行期間中でさえ、やはり競争条件、官業は民業の補完というベースの考え方から、業務範囲を制限されてきた。そこから、今般の郵政改革によって、政府関与の残存、これは現段階ではどのくらいになるのかわからないが、残存というのは決まっていると考えてよろしいかと思うので、残存を前提としたうえで、更に業務範囲の自由度を拡大との方向になっている。これは論理的にも「いかがなものか」という方向に転換されたものであり、こういうところがベースになっているわけである。したがって、「公正な競争条件の確保、民業補完の観点から、政府関与の残る郵便貯金事業に民間銀行と同等の業務範囲を認めることは許容できない」と主張している。
もう一つは、その次の段落で、「そもそも郵貯改革の本旨はなんであったのか」ということを主張している。郵便貯金事業を見直す本来の目的は、その巨大な規模に由来する「金融システムの不安定性」、「金融市場の歪み」といった弊害を是正し、将来の国民負担の懸念を払拭すること、また肥大化の要因である官業ゆえの特典、これを取り除くことで、「公正な競争を促し、公共的な部門から民間部門へ資金の流れを変えて、わが国経済の発展および国民の利便性向上を図る」、こういう考え方であったわけである。そもそも、肥大化すると、やはり金融市場のなかで異端児になるわけで、金融政策もなかなか効かない可能性があり、そういう状況の下でどんどん肥大化していくことになると、非常に由々しい問題になる。郵政改革の根源は、こうしたことを背景にしていたわけであるが、足元言われるような預入限度額を拡大する等の動きは、肥大化に繋がるものである。
こういうことは容認できないというのが基本的なスタンスである。むしろ、肥大化を防ぐためには、預入限度額は引下げるべきである、というのが普通の議論だと思う。こういうことを、主張していきたい。
もう少し見ていただくと、その下、「こうした基本的な考え方をもとに」の部分には、まず、「適正な規模へ縮小してほしい」ということ、2つ目は、いつも申しあげているが「公正な競争条件を確保してほしい」ということ、それと、郵政三事業があるわけなので、それの「リスク遮断」が大事である。今回発表されたのは「素案」なので、こうした基本的なスタンドポイントで成案に向けて検討してほしいということである。
なお、2番目のパラグラフにあるように、「素案」には「競争条件の公平性に配慮」するという文言があり、かつ、「中小地域金融機関等の立場にも十分な配意」、こういうものも明記されている。その他、「業法の規制・監督下に置く」とか、業務範囲等にかかる見直しの法制化、これは、どちらの方向に変えるのかにより両刃の剣であるが、こういうこともベースに理念を構築されているということなので、法制化に向けて、こういう理念をキチンと生かすように作り上げて欲しいというのが、我々の主張である。
これをよく読んで欲しい。我々の主張が良く理解いただける内容になっているのではないかと思う。
(問)
今回、政府の「素案」が出されたうえで、これを出されたが、例えば今言われた限度額について、ペイオフに絡んで昨日は、信金・信組から意見を聞いて、大臣のほうが、引き上げの考えを撤回されるということもあった。今回、郵政改革にしてもそうであるが、このような政策決定のプロセスというか、そういうものに対しての考え方、それに向けて全銀協として、今回こうした対案というか、考えを示したわけであるが、今後、どのように主張を展開しようと考えているのか、教えて欲しい。
(答)
ペイオフの限度額の議論は瞬間的に出て瞬間的に消えたという印象を受けている。これはある面では、信用金庫さんとか信用組合さんの意見を聞かれて、やはり、これが良かれと思い、出されたものを取り下げるという判断をされたわけであるので、それはそれで評価したいと思う。
今の議論は、いろいろな報道はされているが、現段階では、どの方向に完全にセトルダウンするのかという状況にはないと認識している。したがって、我々も現在まで、様々な接点を持ちながら意見の発信をしている。ただ、今回こういう形で意見をまとめさせていただいたのは、以前にも1回意見発信をしているが、出された「素案」を踏まえたうえでこうだと、現時点ではこうであるということを申しあげているわけである。基本的な考え方は、前回発信したものと変わらないが、より具体的になっているというのは事実だと思う。
(問)
次に、景況感を教えて欲しい。今日、政府の方から月例経済報告で「持ち直し」との表現がされたが、足元の景況感、今後の見通しについて教えて欲しい。
(答)
足元については、日銀、政府が表明されているのとほとんど同じ認識である。一言で言うと、足元の景気は外需、海外景気といっても良いが、これと経済対策効果を背景に持ち直しの動きを続けている、これは間違いないと思っている。
先日、2009年10-12月期の実質GDP成長率の速報値が出た。前期比年率4.6%という数字は大方の予想を上回るものであった。これは、今、申しあげたとおり、輸出が中国、アジア向けを主体に伸びたということ、また、経済対策効果としては、エコポイント等の施策が非常に効いている状態が続いている。加えて、今回、内訳を見ると特徴的なのが、設備投資が7四半期ぶりにプラスになっている。これはちょっと明るいニュースかな、という気がする。
以上が足元の状況だが、今後となると、なかなか楽観的にはなれないと思っている。おそらく、今、申しあげた外需と経済対策効果がベースには存在しているので、回復基調は続く、方向感としては回復基調を辿るであろうとみている。ただ、そのピッチは段々減殺していくというのが直近の状況ではないかと思っている。輸出は、現状に上乗せしてどんどん伸びていくという状況を想定するのはちょっと楽観的すぎると思うし、経済対策効果は、前回も申しあげたが時間の経過とともに段々落ちてくることが避けられない。これに代替すべき民需は、消費と設備投資が両輪と思うが、まだまだ代替していくだけの力強さはない。そう考えると、やはりこの年度末から来年度初にかけて回復のピッチは落ちてくる、場合によっては踊り場、限りなくゼロに近いところまで落ち込む惧れもある。さらに、そのように景気が減速している局面で、様々なリスクの顕在化、例えば、また円高が一気に進み85円に達するとか、海外でも、様々な事態が発生し、その結果、海外景気が少し雲行きが怪しくなってくるなどといったリスクシナリオが顕在化した場合には、まだまだ二番底リスクは払拭できない、「もうこれはないでしょう」とは言えない、という状況ではないかと思っている。
(問)
関連して、輸出とリスク要因ということを言われたが、個別の事案のことで恐縮であるがトヨタの問題がある。政府の方も先行きのリスク要因として認識しているようであるが、このトヨタのことをどう見ているかということと、今後のリスク要因となりうるのかどうか、所見をうかがいたい。
(答)
個別会社の問題なので、この場でお話しするのが適切かどうか、本当はお話ししないほうが良いのではないかという気がするが、トヨタさんは何と言っても日本一の会社なので、若干申しあげるとすれば、近々、公聴会が開催されるし、メッセージもウォールストリートジャーナルに出されたと聞いている。この状況では適切な対応が非常に重要である。公聴会への対応も重要であろうし、様々な意味で、大きな意味で適切な対応が重要であろうと、それは当然のことだと思うし、一般論としてもそうである。
トヨタさんであるから、必ずそういう対応をされるだろうし、ちゃんとした対応をされれば、結果として景気に与える影響も非常に軽度になるのではないか、強くそれを希望している。
(問)
資金繰りについてであるが、これから年度末に入るが、中小を含めた資金繰りをどう見ているかということと、関連して、金融円滑化法に絡んで、先般、三菱東京UFJ銀行も中間結果等公表した。あの法律の効果とか、今後の影響度具合を含めて、資金繰り絡みに関する見方を教えて欲しい。
(答)
12月に施行された金融円滑化法に基づく統計、実績が開示されたので、これについて申しあげる。今回は都銀を中心とする9行だけ、しかも1ヶ月弱の実績であるが、申し出の総数がおよそ2万件、これはかなり多い数字だなと思う。よく、法律の施行前と比べてどうかという議論をされるが、統計上、基準の違い等があり、明確に比較するのはなかなか難しい。ただ、個別行の実績から敢えて申しあげると、中小企業の返済猶予等の申し込みは約2倍、住宅ローンは4~5倍という数字かなと思っている。この数字が多いのか、少ないのかはなんとも申しあげられないが、過去に比べれば飛躍的に増えており、この法律の施行により、お客さまが「銀行と相談してみよう」という環境は整ったのかなと思う。それに対し、金融機関として真摯に対応している結果なのではないかと思っている。したがって、一定の効果はあったのではないかと、今回の実績を見て思った次第である。
資金繰りについて申しあげると、中小企業の次の資金繰りのピークは年度末に必ず来る。6月はそれほどではないと思うが、次は9月、その次は12月。中小企業の資金繰りは、3、9、12月、これがポイントなので、我々としては、3月の年度末超え、これに精一杯の対応をする、12月もそうしたが、年度末金融についても精一杯の対応をするということだと思う。
(問)
アメリカのFRBが先週公定歩合の利上げに踏み切って、出口戦略に一歩踏み出したと思うが、一方で、日本はデフレ克服のため利上げに踏み切れないで取り残されたような感じがする。日米金融政策の違いでマーケットや景気に与える影響というのは会長はどの程度見ているか。
(答)
FRBは公定歩合を0.5%から0.75%に上げたが、その時のFRBのコメントにもあったとおり、政策金利はFF金利で、これを上げようというわけではない。その方針を転換したのではない。それははっきり言われている。したがって、考え方としては、通常の金利体系であればFF金利と公定歩合とは1%くらいの差があったわけだから、異例の水準に公定歩合を決めていた。その異例な状態というのは、やはり段階的に解消したいということだろう。しかも上げ幅は0.5ポイントではなく0.25ポイントである。よって、まだその異例な状態は続いているのだけれども、やはり一つのメッセージとして出そうということであろうと思う。方々、日本の場合は、欧米に比べて公定歩合と政策金利の差がもともとあまり大きくないため、根本的に事情が異なると思う。ただ、日本もアメリカも、いわゆる超低金利政策の出口論は、当分の間はやらないということでは一致しているのではないか。それ以外の、政策総動員のなかで打ち出された様々な非伝統的な手法については、一つ一つ、今の実需等々と金融マーケットの状況を見ながら、解除できるものは解除していきたいという考え方であろうと思う。当分の間は、日米ともそういう形で行くと理解している。
(問)
金融庁が先日、役員報酬と企業の株式持合いの開示の義務付けの方針を固め、現在、パブリックコメントを求めている状況であるが、会長は、今回の開示の義務化案にどのような評価をされているか。
(答)
情報開示規制の強化案は、コーポレートガバナンスの強化を目指した情報開示の充実ということで重要なことであり、金融資本市場の透明性の向上の観点から、その方向性については全く異論がない。ただし、ご質問のような具体的な個別の報酬の開示は、やはり「いかがなものか」という気がする。個人情報をどのように考えるのか、少しでも流出すると大変な事態になる、といったことをどのように考えるのであろうか。米国の例で、トップ数名の開示などが現実に行われているということであるが、何故開示しているのかという背景を考えた場合、それは報酬が大変高額であるということである。したがって、報酬体系の考え方に根本的な背景の違いがある。現在も、1人1人の個別開示ではないが総額で開示しており、個別役員の報酬開示はもう少し検討していただきたいという気持ちがあるということだけは申しあげられる。
株式の持合いについても同じことが言える。政策投資株式というのは減少させていきたい、というのは私も何回もこの席で申しあげており、大きい方向感では不変である。ところが上位30社を一律開示するとなると、そういうものを提示するだけで、「次の売却候補はどこか」という連想が働くというか、そういう面での副作用もあるのではないかという気がする。例えば、現在でも、開示基準で10社とか、きちんと開示しているわけだから、それをある一定基準で、各々の会社が例えば30社開示するというのは、果たして良いことなのであろうか、やはりこれも慎重な検討が必要ではないか、と思っている。
(問)
株の持ち合いについて、日本の銀行の保有株式の売却が加速していると言われているが、一方で、昨日東証が承認した第一生命の株の割当に大手銀行の名前も含まれている。そうした株保有について、会長はどのように判断されているのか。
(答)
大きい方向感として政策保有株式は当然のことながら減少させていきたいと思っている。この考えは不変である。ただ、なぜ政策保有株式があるのかということ、何故全部売らないのかということと同じ答えになるが、長い取引関係のなかで、それこそ長い歴史の所産であり、それを全部「No」とは言えない。商売上のこともあるし、極論すれば50年、100年の歴史を踏まえた所産なので、売却するときには非常に丁寧に行っており、お客様に納得していただいて売却させていただいている。第一生命さんのケースに関しても全く同じ考え方であるということを申しあげておきたい。
(問)
郵政の話に戻るが、配付資料を見ると縮小ということにかなり力点を置いている気がする。民営化するとなると、基本的にエクイティ・ストーリーを作らなければならないので、拡大させなければならないような感じになる。一方、元々の民主党案を見てみると、公社のまま縮小するという案だったと記憶している。会長としては、民営化と公社化、官業に戻るということも含めて、どちらの方がよいと考えているのか。また、元々の民主党案と現在亀井大臣が出している案では乖離があると思うが、そのへんについてどう考えているのか。
(答)
民主党案云々は、あまり過去のことを論評するのもいかがかと思うので、あえて申しあげない。要するに、マーケット・ルールに属さない巨大な資金があるというのは、資料にも書いてあるとおり、金融システム上も非常にリスクがあるし、金融マーケットを非常に歪めることになる。したがって、完全民営化してマーケット・ルールに従うのであれば、それ相応の規模があってよいと思う。つまり、完全民営化の場合は、業務範囲はある当程度考えてもよいのではないか。ところが官業である場合は、いま申しあげたことの逆で、マーケット・ルールに属さないものなので、金融システム上もその部分に問題が起こると大変なことになる可能性がある。その方向で、ユニバーサル・サービスが極めて重要であるから官業としていくというのであれば、業務範囲の拡大はおかしいと申しあげている。
(問)
クラスター爆弾の禁止条約が8月に発効される。海外の大手金融機関だと関連の企業に投融資しないという方針をはっきり出したところもあるが、日本の金融機関としてどのように対応したら良いか、会長の考えを聞かせて欲しい。
(答)
クラスター爆弾禁止条約は、30カ国が参加しないと発効しないというルールになっている。日本は既に去年の7月に批准しており、2月に30カ国目が条約を批准した。したがってその6ヵ月後、今年の8月にこの条約が発効することとなった。
日本は既に批准している立場であり、日本の金融機関は、本条約の趣旨を尊重し、銀行業務の公共性を認識しながら、適切な業務遂行に努めるべきである。私どもの銀行では融資実施前の審査段階で各種のチェックをする仕組みとしており、クラスター爆弾についても、そのチェックリストの一項目として明示している。私は全体を知っているわけではないが、日本の金融機関も全体的にその方向であろうと想像する。
(問)
郵政の話に戻って恐縮だが、ゆうちょの預金の預入れ限度額を引上げることで、民間の金融機関からの預金シフトが起こると、民業の圧迫にあたるという話だと思うが、一方で民間の金融機関が資金運用に苦しんでいて、いくらかゆうちょの側にお金が回れば、必ずしもデメリットばかりではないのではないかという意見を話す方もいるが、会長はどうお考えか。
(答)
そんなことは全くないと思っている。預金は金融機関にとっての全ての源泉であるから、預金がなくなるというのは、金融機関をやめろというということに等しいということと思う。
例えば地域金融機関の場合でいうと、今のような平常時に、郵貯の預入限度額を上げたとしても、じわじわとのシフトに止まるかもしれない。ところが、危機的な状況、何かリスク要因が発生した場合は、ぐっとその流れが加速して、資金シフトが起こる可能性がある。我々は何度も経験しているが、こうした折は、少しでも安全なところに資金が流れていく。暗黙の政府保証-あまり言うと死語だと言われるが-、やはり決定的に信用力が違う。そういうものにぐっと資金が振れたときに地方金融機関さんがどうされるのか。これはもう大変なことになると思う。したがって、今仰られたことは全くないと申しあげられると思う。なお、通常時でも、金融機関にとっては預金が原点、ベースである。これが流れていくということがあってはいけない。
(問)
ゆうちょに関してだが、「政府関与が残る郵便貯金事業に民間銀行と同等の業務範囲を認めることは許容できない」とあるが、許容できないということは、何か対抗措置はやられるのか。例えば、郵政をこのまま肥大化させると国民生活のために良くないという観点から、何か対応措置は取られるのか。
(答)
本件はまさに今、議論の最中にあるもので、今の段階では何とも申しあげられない。ただ、少なくともこの2、3週間というのは一番大事な時期と思っているので、我々としても最大限の努力はしたい、ということだけは申しあげておく。