2010年12月21日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、来年度の次期副会長を内定した。
 次期副会長の正式な選任は、9月に内定している次期会長と同じく、来年3月の理事会において行われる。
 また、担当委員会についても、正式な決定は同じく来年3月の理事会において行われる予定である。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 今年1年を振り返り、どういう年だったかというところを総括していただきたい。また、来年の景気見通し、どういう1年を期待するかを伺いたい。
(答)
 2010年の経済を振り返ってみると、2008年のリーマンショックからどんと谷間に落ち込んで、その後、2009年の年央から回復し始めたが、そういう回復が緩やかに続いた年であったと思う。ただし、それは決して自律的な回復軌道に乗ったということではなく、政府の色々な耐久消費財に対するインセンティブなど政策的な効果がかなり後押しした回復だと思う。また猛暑効果も夏場にあり、7~9月期のGDPを押し上げたこともある。
 ただ一方で、7月ぐらいからの15年ぶりの歴史的な円高、1ドル80円の水準まで行ったということで、これはかなり景気に対し長期的に水を差す要因になってきていると思う。したがって、景気の回復過程にあるものの、回復の実感というものが薄いもので、かつ持続性というものにも危うさが見られるという意味で「表面的な回復」であったのではないか。言葉の言い方が難しいが、実質的な意味というよりは表面的な回復であったと思う。
 一方で、外交や国際的な協議の場では「軋轢」というものが表面化してきた年でもあったと思う。具体的には、尖閣諸島の問題、北方領土の問題、日本の外交上、かつてから色々言われてきていたものがここで表面化したもの。そういうものに加えて、新興国の台頭という多極化という動きのなかで色々なマクロの政策運営、さらには為替の問題等々の議論というものが、国際的な会議において、一筋縄ではいかなかった。そういった意味で、個々の国の利害関係の対立というものが、対立までいかないまでもそういった「軋轢」というものが表面化してきた年ではなかったかと思う。
 そういうことは、年が変わったからといってすぐに変わるわけではないので、そういうことを引きずって、2011年という新しい年に入っていくわけであるが、先ほど申しあげた景気対策の効果が剥落してくるということ、円高が若干は円安に戻ったとはいえ、まだ80~85円の間でいるということは一年前と比べるとかなりの円高ということになるので、これが、一朝一夕に解決する問題ではないと思う。
 先行きを見ると、自律的な回復にはまだまだ遠く、新たな牽引役も今のところは見当たらないということで、当面は停滞感の強い展開を余儀なくされるのではないかと見ている。内政外交ともに一朝一夕に解決するものではないので、そういった意味で内外ともに難問山積ということで、来年に入っていくということであると思う。
 ただ、先行きをそう悲観的に考える必要もない。政府が新成長戦略を具体的に行動に移してきているわけで、そういうものを政官民一体となって、日本の底力を発揮していけば、来年の後半以降、次第に日本の力というものが結実発揮していくというところに期待したい。


(問)
 先週の木曜日にバーゼルIIIのファイナルテキストが公表されたが、これについてどう受け止めているか。
(答)
 バーゼルIIIのファイナルテキストが公表された。正直言って、サプライズはあまりなかったと思う。サプライズはなかったが、QISの結果が公表され、例えば、第1グループの国際的な銀行の部分では資本が約60兆円足らないとか、流動性カバレッジ規制や、長期安定比率を充足するためには、さらに200~300兆円といった調達などが必要という結果が出てきた。
 そういった意味では、詳細はまだ分析できていないが、やはり今回のバーゼルの規制自体は日本の銀行のみならず、世界全体で見ても大変厳しいものだという印象を持っている。
 また、SIFIs(システム上重要な金融機関)については、12月中にその基準等が出るかもしれないということであったが、これも越年した。そういうなかで、今後これがどういう基準になっていくのか、その結果、新たにSIFIsに対するバッファーがどういう形で乗せられていくのか、来年央から来年末までに決められるということなので、これはしっかりと我々もフォローしていきたいと思う。我々としては、従来より主張してきたことであるが、各国で法制度、監督制度、金融機関のビジネスモデルがそれぞれ違うわけで、これを一律に規制するのはいかがか、一律な規制でやるのではなく、監督や第2の柱で規制していくべきではないかということを言ってきた。全てがそうならなかったにしても、グローバルとそれ以外というような分類がなされたことで、一応の意見は取り入れられるなど、我々が言ってきた効果があったのではないかと思うが、これから実態的に規制の詳細をよく検討して、引き続き対応していきたいと思う。


(問)
 最近の金利上昇について意見を伺いたい。銀行が益出しのために国債売りを加速させたことで長期金利が上昇したという指摘もマーケットでは聞かれるが、そのことも踏まえてお聞かせいただきたい。
(答)
 国内の長期金利の上昇は、基本的には、11月の米国のQE2の反応が、皆が期待していたような長期金利の下げに繋がらずに、逆に上昇したことが主なきっかけになっていると思う。これは様々な見方があるが、米国における金融緩和の出尽くし感や一部景気の回復を示す指標が出たことに加え、所得税減税の延長などによる米国の財政悪化を懸念して、米国の長期金利が上昇した。それに伴い、米国債の売却を世界の金融機関が実施したことが契機になっていると思う。国内の長期金利は、10月頃に最低0.84%まで下がったが、現在は1.2%まで上昇した。これは、米国の長期金利が上昇したことに伴う相場観の変化、また、米国債での含み損または売却損の穴埋めとして日本国債が売られたこと、大きく分けて、この二つの要素で長期金利が上昇したということだと思う。
 先行きについては分からないが、今の水準から大きく上昇する要素は、現在の景気状況から見ても少ないことや、確かに日本の財政の根本には問題があるが、国債のリファイナンスという面から見たら心配ないということを考えていくと、長期金利が大きく跳ね上がる要素は少ないのではないかと思っている。


(問)
 先週、税制改正大綱が決定され、法人税の引下げと繰越欠損金の扱いの変化と、どちらも銀行にとって影響が大きいのではないかと思うが、見解を聞かせていただきたい。
(答)
 法人税の実効税率の引下げというのは、日本の産業の国際競争力から考えるとマストだと思う。そこの部分で一歩踏み出したということは、一定の評価ができると思う。一方、税収中立という議論の中で、法人実効税率の引下げは、法人の中で他の財源を確保するという前提で検討されたことから、金融業界にとっては、かなりの犠牲を払わざるを得ないこととなった。
 法人税の引下げでまずインパクトが大きいのは、繰延税金資産の取り崩しである。取り崩しは金融機関に限らないが、金融機関への影響が大きい。一方で、長期的に見れば法人税率が下がるので、税金を払うようになれば回収できる部分があるかと思う。
 もう一つは、繰越欠損金の問題である。従来の(所得制限なしの)100%から80%に下げて、期間を7年から9年に延ばすということになっている。表面的には100%×7年が80%×9年になるので若干得した形になるが、制限が入ることにより、手前で税金を払わなくてはいけない。さらに、同じ繰越欠損金の問題であるが、(既存の欠損金の)遡及にあたりどこから適用するかということについては、平成20年からの3年分だけとなった。これにより、金融機関によっては、制限だけ受ける部分が出てきてしまい、失効してしまう部分が出てくる。したがって、金融機関によってはこの繰越欠損金の問題でかなり大きな金額の負担が発生する。
 繰り返しになるが、代替財源を同じ法人の中で確保していくという意味では、繰延税金資産の問題と、繰越欠損金の問題は、金融機関にとっては大きな負担であり、その犠牲を払ったうえで法人税率の引下げが行われるということ。ただ、長期的に見れば、法人実効税率の5%引下げは一歩前進だと思っている。
 しかしながら、代替財源を法人の中で探したため、実質的な真水は5%より少なくなってしまった。真水で5%でなかったことは残念だと思う。


(問)
 金融業界ではどれくらい金額的に影響が出るのか。
(答)
 各行によってポジションが違うので分からない。


(問)
 今月14日に自見金融担当大臣が来年3月末に期限切れとなる中小企業金融円滑化法の1年間の延長を発表したが、どのように受け止めたか。
(答)
 金融円滑化法は、日本の景気がいまひとつ振るわなかったときに、中小企業の資金繰りを支援するという目的で、もう一つの緊急保証制度と合わせて行われたものであると思うが、これ自体が作られた時と今で、景気が大きく回復したわけではないということから、延長される方向で検討に入ったと聞いている。
 我々は今までも申しあげてきたとおり、中小企業金融は金融機関にとって本業中の本業でもあるので、今までもしっかり対応してきた。その中で中小企業の資金繰りに対する見方について、鋭い勘をお持ちの当時の亀井金融担当大臣と我々との間に少し差異があったのかもしれないが、結果として、我々も一層しっかりやっていこうということでこの法に従ってきた。
 今回、大きな経済的な変化がないという状況下で延長される訳であるので、一つは時限性を持たせて、恒久化はしないで欲しい。それから、もう一つは報告負担など事務的な負担が非常に重いものであるということ。これについては、従来から例えば年末の金融円滑化の会合の場でも、大臣に申しあげてきた。大臣からも了解いただいて、特に報告事務の軽減についてはしっかりコミットしましょうと、そこまでおっしゃっていただいた。それら二つの点が今回の金融庁から発表された方針の中に入っていた。今後もそれらに従ってやっていくが、やはり、問題は、貸し手と借り手の間のモラルハザードというのか、こういう枠組みが長期化するとモラルハザードが発生してしまう可能性は否めない。やはり貸し手と借り手の間には、普段からコミュニケーションはとりながらも一定の緊張感をもって対応していく必要がある。
 コミュニケーションをしっかり保ち、ケースバイケースでコンサルティング機能を発揮して、その企業の苦しい立場に対応していくということが必要になってくる。その際には、コンサルティング機能を一律的に押し付けるということではなく、中小企業の中でも企業毎に濃淡があるので、それを踏まえて、金融機関の判断でやっていくということが必要だと思っている。そういった意味でも、繰り返すようであるが、この部分はしっかりと対応していく必要がある。
 一方で、後で質問があるかもしれないので、先に申しあげると、景気の停滞が長期化するなかで先ほどモラルハザードという言葉を使ったが、長くやっていくと、不良債権化する可能性があると思う。我々はそういったことにならないよう、最大限コンサルティングなどを行っていくが、やはりそのような可能性も出てくるので、我々としても、そういった事態に対する財務的な対応を含め考えていく必要がどこかで出てくるだろうと考えている。


(問)
 本日、日本銀行で政策決定会合が開かれ、政策の維持が決まった。包括緩和を打ち出してからのここまでの効果について、金利についての話は先ほどあったが、その他リートなどを含めて評価を聞かせて欲しい。
(答)
 一つは日銀の新成長貸出制度については、これは包括緩和の外になるが、これは"呼び水"としての機能を果たしたいということであった。実態については、前にも申しあげたとおり、申し込みは多く、実際に日銀より認可されている金額も多額で、今回は100社を超えて、総額1兆円ぐらいの規模になったとのことである。中身については、私どもには分からない部分であるが、銀行の立場から見れば新規の需要というよりも、「今まで考えていたものを前倒しで実施する」とか、「金利が安いので手元資金を残しておいて借りる」というものがあり、「運転資金を借りる」とか「設備投資を行う」とか、真の需要の創出には、まだまだそういうところまでにはいたっていない。しかし、金利は0.1%をベースとしたものになるので、効果がないわけではない。
 一方で、リートおよびETFの買取りというものが始まったということで、例えばリートの買取り規模は500億円という数字だったが、これを本当に実行すると、聞いた話で確たるところは分からないが、地銀が(年間に)購入するリートの額は500億円程度との話もあり、それに鑑みればインパクトはある。したがって、市場に対しての影響はETFそれからリートについて言えば小さくないと思う。これが株式市場に本当に大きなインパクトが出るのかどうか分からないが、少なくとも効果があることは間違いないと思う。ただ、問題は持続性の問題であると思う。


(問)
 全銀協は、一貫して政策金融に関して民の補完という主張をしてきているが、その後、リーマンショックがあり政投銀の民営化が凍結されて、早晩、凍結解除の期限が来る。また、近年JBICがどういう理由であれ、そのプレゼンスが拡大しているなかで、政策金融についてどのようにお考えになるか。もう一点は、バーゼルIIIにより民間銀行の行動が変化するなかで、民間銀行は政策金融について、従来どおりの考え方、すなわち民の補完でやっていけるのか、ということについてお聞かせいただきたい。
(答)
 官は民の補完であるという我々の主張は、一貫して変えていないし変える必要もないと考えている。JBICも民業の補完であるということについて、はっきりと意を用いてきておられる。一方で、日本の資源確保の問題とか、国としてインフラストラクチャーを輸出していくうえで、どういうファイナンスをするかということになってくると、今後を考えると大きなプロジェクトが目白押しであり、日本の成長を確保していくためには、そこは民と官が協調してやっていかなければならない。それは自ずから、それぞれの分担というのは決まってくると思う。したがって、例えば資源の確保となると、日の丸が後ろにあって表へ出て行く方が、プロジェクトをしっかりと確保できる余地があれば、それはそれとして出て、後は民と協調していく、そこは非常にはっきりとしていると思う。
 また、ナショナルプロジェクトを中心としたJBICは官業そのもので従来からやってきているが、一方で、政投銀がどういう方向に行くのか、今、非常に宙ぶらりんな状況にある。この辺は我々としては、よく見ていかなくてはいけないと思う。
 それから、バーゼルIIIでどうなるかということについては、今確定的なことは申しあげられないが、例えば、バーゼルIIIのなかで、資本の問題と安定調達比率の問題がある。そうすると、非常に期間の長いプロジェクトファイナンスといった案件について、ファンディングソースが実際にあるのかという問題、それをファンディングしようとすると、非常にコストが高くなるかもしれない、官でやるときはどうなるかという問題がある。その場合に民が全てできるようにするのか、民だけでやる場合には、どのような形でやっていくのか、これから考えなくてはいけないと思う。もっとも、こうした意味での資産のディストリビューションというか回転というか、そういうものはビジネスにするのかは別として、いずれにしても資産の効率化というものが、バーゼルIIIが適用されるなかで大きな課題になってくるとみている。


(問)
 先ほどの長期金利の話に関連して2問ほどお伺いしたい。1点目は、先ほど会長は、今後金利が跳ね上がることはないだろうとおっしゃっていたが、とはいえ上期の決算ではかなり国債の売却益を各行とも出していたことから、下期に向けて銀行決算への金利の上昇の影響を伺いたい。
 2点目は、貸出が伸び悩むなかで、国債の保有というのは余剰資金の向かい先という側面もあったかと思うが、地銀などを含めると現在の保有残高は142兆円と過去最大水準まで達している。そういったなかで金利が上昇側面を迎え、正直運用という面では難しい局面になっているのではないかということで、収益増のためにこれからどんな手を打っていくのかお伺いしたい。
(答)
 非常に答えるのが難しい。金利の問題は先ほども申しあげたとおりで、当然金利が上がれば保有資産すなわち、保有している国債に含み損が出てくる。そういうものをどう抱えていくのか。金利が下がるのを待ってまた売却するのか。その辺は各行のリスク管理上の問題であり、各行によってポジションも違うため、一概にこうだということは言えないと思う。
 一般論しかいえないが、当然、金利が上がれば含み損は増える。それぞれの銀行でヘッジしているかもしれない。全体の話しは分からない。ただ、一般的に言うと、上期のような、いわゆる市場営業部門から収益が出てくるという状態は、そうそうないだろうと思う。というのは、上期は内外、特に米国も日本も金利が下がったが、足元の状況は内外の金利が両方とも上がって、上期と逆の状況となっている。そういう意味では逆のインパクトが出ているということではないかと思う。
 これからどうするのかということだが、個別行のインパクトの度合いは分からないが、やはりしっかりと経常的な業務で、われわれは金融機関としての本来の業務であるところをずっとしっかりやって来ていると思うので、その姿勢を崩さずにやっていくということが大事である。右往左往して、何かやろう、一儲けしようといった考えはない。皆さんそれぞれの業務戦略を、しっかりと実行していかれることと思う。


(問)
 2006年に発行された5年物の個人国債の償還が来年の1月から始まってくるが、年間数兆円ほどのボリュームは結構な量であり、この個人金融資産が主にどこに向かっていくのか。保守的な性格が強いので、再び国債に振り向けられる可能性が高いといわれているが、一方でこれだけ超低金利なので投信などのリスク性資産に向かうという声もあるが、会長はどのようにお考えか教えていただきたい。
(答)
 これは私にも分からない。償還資金がどこに向かうのかというのは、5年物が償還されていく中で、5年物で調達していくのか、それは財務省の計画でどうなっていくかによるということ。仮にリファイナンスが同じようなかたちでやられた場合に資金がどこに向かうかというのは、ちょっと私には何とも言えない。


(問)
 円高に関連して伺いたい。為替リスクをヘッジするための、所謂、為替デリバティブを銀行から購入した中小企業が、長期化する円高の影響でデリバディブの損失が拡大し、倒産するケースが続出している。東京商工リサーチの集計によると2009年に7件だったものが、今年既に26件、デリバティブ損失が原因で企業が倒産している。これについては、購入した企業側の自己責任とか相場観の問題ではないかという指摘を銀行関係者から聞いたことがあるが、全銀協の会長としてこの点についてどのようにお考えか。
(答)
 全銀協で苦情等々のものを受け付けているが、為替デリバティブ・金利デリバティブというような商品別の形では統計はとっておらず、デリバティブ一般としての統計をとっている。これが持ち込まれているのは、20年度下期で30件位だったが、22年度上期は60件なので、円高の中で苦情が増えているのは事実である。それぞれ個別の取引の中でいろいろな経緯があり、例えば、説明責任を問う声があるかもしれないし、理解が不足していたというようなこともあるかもしれないし、色々なケースがある。全銀協の会長としては、個々の銀行でしっかりお客さまとのコミュニケーションをとって、解決のために親身になって相談に乗り、加えて、フォローアップというものをしっかりと、今までもしてきたと思うが、今後もしっかりと行っていくということが必要なのではないかと思う。金融庁の監督指針に従い、各行しっかりと行っていると思うが、こういう時期なので、今まで以上に、先程も言ったが、親身になって個別の案件に対応し、相談に乗っていただきたい。