2011年6月16日

奥会長記者会見

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日、「東日本大震災・福島原子力発電所事故への対応に関する追加要望~二重債務問題解決に向けた提言~」を取りまとめた。
 被災したお客さまの、いわゆる二重ローン問題について、銀行界が様々なサポートを進めていくに際して、政府等の支援策が不可欠であることから、お手許の資料のとおり要望を取りまとめ、関係各大臣宛提出することとした。
 なお、本件に関する詳細は、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。事務局からの報告は以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 本日の会見が奥会長の最後の会見となるが、就任期間を振り返って所感をお聞かせいただきたい。
(答)
 2007年4月の前回に続いて、2度目の全銀協会長を務めさせていただいた。今回は、未曾有の大災害となった本年3月の「東日本大震災」の発生によって任期も3ヶ月延長となり、1年3ヶ月の間、全銀協会長という大役を務めさせていただいた。
 今回の震災が、これまでのものとは全く規模・質の次元において、想定を超えたものであることは皆さんご存知のとおりである。地震・津波で被災した地域において、震災発生から3ヵ月を経過したわけであるが、今も、その爪痕は深く、そして広範囲に残っているほか、福島第一原発の事故の収束が長期化しており、その周辺の住民の皆さま方は、まだまだ大変不安な生活を余儀なくされている。
 改めて、今回の災害でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申しあげるとともに、未だ避難所で大変不自由な生活をおくっている皆さま方、そして被災地の住民の皆さま方、被害に遭われた多くの方々に対し、心からお見舞い申しあげたいと思う。被災地が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災者の方々が通常の生活を一刻も早く取り戻されることを念じている。
 本日はせっかくの機会であるので、私の会長就任期間を振り返って、震災発生前の1年と、それ以降の期間に分けて、全銀協の取組みについて触れてみたいと思う。
 昨年4月、会長に就任した際、22年度を「『ポスト金融危機を見据えた新たな金融の枠組みへの対応』を行う1年」と位置づけ、その後、順次、所要の措置を講じてきた。
 主だったものを挙げれば、22年度は、「バーゼルIIIの規制」の議論が、国際的に、大きく進展した。全銀協としては、そういうなかで、「規制強化による実体経済への影響」、そして「一律規制と各国規制のバランス確保等に十分配慮すべき」という骨子をまとめて意見書を提出したほか、私自身も海外の有力紙へ寄稿したり、それからトロント、ソウルで開催されたG20の際に同時に行われたビジネスサミット、B20と呼んでいるが、これらの国際会議の場で意見表明を行うなど、新規制策定に係る議論に深く関わってきた。
 合意された新規制は、ご承知のとおり、銀行にとって厳しい内容ながら、一方で、本邦当局の大変なご尽力もあり、相応の移行期間も設置されたほか、いわゆるコアTier1の控除項目の取扱いが一部緩和されることから見られるように、当初提示された枠組みに比べれば、相対的に実務的にもフィージブルな内容になったとの印象を持っている。ただし、個人的な持論を申しあげてよいのであれば、こうした形での規制の強化というものは、国際的な金融システム安定化を確保するのに万能薬ではない。そういうものより、むしろ「政府とか、中央銀行による、マクロプルーデンスの政策、これがより適切に実施されることがより重要である」というのが私の考えである。
 このほか、銀行のみならず、一般企業の財務にも大きな影響を及ぼす国際会計基準(IFRS)の導入についても、全銀協として、国際会計基準審議会(IASB)に適時適切に意見書等を提出してきたところ。
 一方、国内の課題においても、郵政改革のほか、全銀協としての正式な活動ではないが、15年前からの住専問題の最終処理対応といったところでも、しっかりと政治や関係当局等とコミュニケーションをとってきた。とりわけ、郵政改革法案への対応については、法案の通常国会上程後の昨年5月、全銀協を始めとする金融関係8団体連名で共同声明をこの場で出した。その改革が「長期的な国益に適うのかどうか」という観点から、国会審議に入る場合には、「深度ある論議が行われるべきである」ということを要望したことは、大変印象に残っている。
 これらは、私が22年度の全銀協活動の柱として据えた2本の柱のうち一つの柱である、国内外の金融市場の関係者等と円滑な「コミュニケーション」をとるということの一つの表れだと思う。一方、もう一つの全銀協活動の柱として挙げた銀行界全体が自らの「ミッション」をしっかりと果たすこと、言い換えれば、幅広くお預かりした資金を円滑に市場に供給し、日本経済の活性化に貢献していくという点についていえば、昨年7月、「中小企業等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を会員行が共有すべき理念として公表した。また、金融円滑化法について申しあげれば、銀行界としては、法の有無に関わらず、金融円滑化という社会的責任をしっかりと果たしてきているという認識はあるが、この法律の期限延長に際しては、恒久的措置ではなく、時限的措置とされたことや、報告・開示負担が大幅に軽減されたことは、私どもの考え方が反映されたものと考えている。
 また、昨年来の高水準の円高定着に伴う為替デリバティブ取引に係る問題について、為替デリバティブの取引が直接の契機となり、企業が倒産することのないよう会員各行が自発的にしっかり対応するとともに、利用企業に銀行から積極的にフォローして、そのニーズも踏まえて解決策の提供に努めることが基本だということを会員各行に申しあげてきている。さらにそれでも解決しない場合については、昨年10月より業務を開始した全銀協の金融ADRを活用した迅速、かつ丁寧な解決を図ることが重要であり、全銀協としてもその案件処理能力の強化に努めてきたところである。
 このほか、昨年6月には、電子記録債権の全国規模での記録・流通を担う電子債権記録機関の平成24年5月の開業に向けて、その準備会社をスタートさせた。
 このように申しあげると、就任時に掲げた「『ポスト金融危機を見据えた新たな金融の枠組みへの対応』を行う1年」という目標が、相当程度進展したように見えるかもしれないが、常日頃言っているように、二十一世紀は「不確実」「不安定」「不透明」な大変難しい時代であり、そうしたなかで、しっかりとした方向感が見出せたか、と言われれば、そう簡単な話ではなくて、まだまだ課題は多く、また、これからも新たな課題が出てくると考えている。
 こうしたなか、全銀協は本年4月、従来の東京銀行協会を母体として事業を全て集約し、名称を「一般社団法人全国銀行協会」へと変更する組織改定を行った。
 以上のとおり、昨年4月以降、全銀協としての取組みを精力的に進めてきたが、会長としての任期も残り僅かとなった3月11日に、東日本大震災が発生して景色が一変したわけである。
 わが国が、この国難とも言うべき事態を乗り越えるためには、国が総力を挙げて一致団結して取り組むことが不可欠である。全銀協においても、それまでの体制を継続し、「震災対策本部」を立ちあげ、会員各行一体となって対応を図るとともに、時には全銀協の枠を超え、金融界の各業態が手を携えて取り組んできたところである。
 とりわけ、震災発生直後の、いわば危機対応の局面においては、金融庁・日銀と密接なコミュニケーションに努め、被災者等の方々に対する基礎的な金融機能の維持・回復に向けて、スピード感を持った対策の検討・実行を心がけた。
 具体的には、まずは、震災直後、会員各行に通帳等の紛失時の特例的な支払いや、新規融資・既存借入れの返済等に係る柔軟な対応を速やかに要請したほか、被災に伴う電力需給逼迫を受けた東京電力の計画停電の実施等に対し、会員各行に積極的な節電対策、およびそれに伴う支障の最小化を求めて取組みをお願いした。
 また、避難を余儀なくされた方々に対する取引金融機関以外での預金払戻し制度や、預金者本人が行方不明の場合には、ご親族等が、その預金口座の所在を業界横断的に照会できる仕組みを創設するなど、被災者の方々のニーズを踏まえた対応に注力してきた。
 このほかにも、休日営業をしている銀行店舗の情報を新聞、インターネットを通じて広告を行ったほか、各行の照会窓口などを記載したポスターを被災地の避難所に掲載いただくなど、銀行の震災支援活動の周知を徹底してきた。
 震災発生以降、こうした危機対応的な取組みを順次進める一方、今後局面が復旧・復興へと具体化していくなかで、被災者の生活資金確保や、被災地における円滑な資金供給に資するための必要な施策について、4月14日に『東日本大震災への対応に関する要望書』を取りまとめて公表し、関係大臣宛に提出させていただいた。このあと、全銀協としても被災地の3県に赴いて、県庁、そして被災地金融機関から直接被災地の現況について話を伺った。そのなかで、とりわけ震災発生前に抱えていた債務と、その後に復旧のために行った新たな借入れ等で、過重な返済負担を負う、いわゆる二重債務問題が、被災地の円滑な復興の大きな妨げとなっており、銀行界としても全力で取り組む必要があるという認識を新たにした。もっとも二重債務問題を解決するには、銀行と債務者の当事者間だけではなかなか難しく、やはり公的サポートは不可欠である。そういうことで、本日、二重債務問題の解決に向けた公的支援に関わる提言をとりまとめたところである。今後、被災地が完全な復旧・復興を遂げるまでには、多くの困難な問題に直面すると思うが、引き続き、全銀協としては、被災地の方々の不安、不便等の払拭に向けた支援を第一に考えた取組みを進めるべく、次期会長となられる三菱東京UFJ銀行の永易頭取にしっかりとバトンを引き継ぎ、私どもも個別行としてそれぞれしっかりとサポートして参りたい。 


(問)
 5月13日に関係閣僚会合で決まった東電賠償スキームの法案が閣議決定された。1ヶ月経って法案化されたが、その過程で第三者委員会という東京電力の経営・財務内容を調査する委員会が発足した。東大の松村先生など、同委員会の委員のなかには、東京電力の発電と送電機能を分離する「発送電分離ということを考えてもいいのではないか」という趣旨のことを、朝日や日経、東京新聞のインタビューで発言されている。そこで、奥会長は東電のかたちを変えるということについて、どのようにお考えかご意見をいただきたい。
(答)
 現在そういう議論をしている時間はないのではないかと思う。今後、中期的な課題として議論されるのは良いのではないかと思うが、やはり今大事なことは日本経済の(GDPの)40%に相当する地域を管轄する東京電力だけではなく、電力・エネルギー問題が全国に拡がっている。検査で停まっている原子力発電所が再開できないとか、新たに(原子力発電所に)検査が入ると、各地で電力不足問題という極めて綱渡りの状態が出てくる可能性が高まっている。したがって、日本経済をしっかりと成長させていくために、その大元となるエネルギーというものを、しっかりと確保することが当面の大命題であると思う。私はこの(発送電分離の)議論を詳しくは承知していないが、かなり前にそういう議論がなされて、現在の仕組みが出来ているものと認識している。今、大事なのは、その議論よりも、「いかに被害を受けておられる方にきちんと賠償するかということ」、そして「現在の原子力を含めた電力供給をしっかりとしたものにしていくということ」、それと「マーケットに安心感を与えること」、この三つが大事なことであり、私はそういう議論は、将来はあったとしても、現在は長時間かけて、そういうことをするタイミングではないと思う。


(問)
 先日、朝日新聞が社説で「東京電力は法的整理をすべきではないか」ということを載せていた。非常にびっくりしたが、会長としては、そういう意見が出てくることについて、どのように思っておられるか。法的整理の是非を含めてお聞かせいただきたい。
(答)
 私もびっくりした。しかも朝日新聞が、このようなことを書かれたことにびっくりした。そういう意見も当然、世の中にはあるわけだから、いろいろな意見があるのだなと。しかし、電気事業というのは、基本的に地域独占で他に競争者はいない。そのかわりに電気事業法で、事業の健全で安全な発展と、使用者に対してきちんと電気を供給する義務を課している。したがって、他のたくさんある一般産業とは少し性格が違う。他でも同じような発言をなさる方がいると聞いているが、同じ企業再生といっても、現在、電気事業をやっているという立場と、その他の産業は性格が違うということを明確に理解していただくというのが先決であると思う。それに加えて、法的整理をしたら、ご存知のとおり債権の順位というものを考えると、被害者の方に本当に賠償ができるのかという問題になる。その点も考慮すれば、法的整理は考えられない。枝野官房長官も、「法的整理というのは考えられない」というふうに言われた記事を6月に入って読んだが、それは大変正しい理解ではないかと思う。繰り返すが、原賠法と電事法の組み合わせにおいて、その法律関係の下で、電気の供給を受ける立場の使用者も、ある意味保護されているということになるかと思う。電気事業とは、そういう重要なものであり、私は法的整理という議論が出ていることについて、甚だ当惑している。


(問)
 今の賠償スキームのことで関連だが、そのなかで「金融機関の協力」ということが明記されていた。改めて、その協力の姿勢についてお話をいただきたい。取引銀行を見るとかなり数が多いので、今後もその融資姿勢については、足並みが揃うのか、その資金繰りについて万全な体制を敷けるのかどうかが一つ。
 もう一つは、ゆうちょ銀行が協会に入る、入らないという話があったが、その件について進捗状況を教えて欲しい。
(答)
 まず最初の話であるが、原賠法のスキームが先ほどのお話にもあったとおり、一応法案になって出てきた。
 5月に公表されたスキームの最後の項目に「金融機関の協力」というのがあったが、政府があえてこの項目を入れたのには甚だ理解に苦しむ。我々は常に協力している。
 したがって、今後、民と民との間で、東京電力が我々に対してどういう協力を要請してこられるのかということになるが、それは、まだ具体的な形にはなっていない。ケース・バイ・ケースで我々は銀行としての協力を果たしていくということだと思う。
 繰り返すが、やはり、今回のスキームの前提というのは、5月13日に出たものに、書き込まれている。過去の原子力政策は国と原子力事業者で進めてきて、その「社会的責務を十分認識」してやるということが書いてある。そういう点を踏まえて、原子力事業者を債務超過にしないようにすることが示されているので、やはり、我々が債権放棄をすることは当然無いわけである。ただ、それ以外のことで何か協力できることは、いろいろと協力する。たとえば、資産処分について、海外・国内を含め、我々の情報機能をフルに発揮して、より高く売れるように協力することもできるかもしれない。それは各銀行が、東電さんからいろいろな協力を求められたときに、どう対応していくのかということになっていくと思う。
 それから、ゆうちょ銀行の全銀協への加入についてだが、現在、協会内で検討していることは事実である。
 これはやはり、いろいろな意味で世の中が変わってきており、現在、広く銀行界の問題としてマネロンの話や振り込め詐欺などの金融犯罪の問題、他にもFATCAの問題などがあるが、そういった情報を同じ金融機関として共有したいという、ゆうちょ銀行さんの申し入れがある。それを、我々が、郵貯問題が別にあるので拒否するというのは、いかがなものかと思われるし、我々はそういうお話、そういう問題点は、情報を共有して、対応していく必要があると現在考えている。
 すでにゆうちょ銀行は21年1月に全銀システムに加入している。それから、昨年の10月には金融ADRにも参加していただいている。そういう基本的なインフラについて、一緒に共有していく、という素地ができているわけだから、したがって、これから全銀協への加入のあり方についても検討を行い、具体化していきたい。
 ただ、我々が従来から主張している郵貯問題については、今後も主張すべきところは変わらず主張していく。それとこれとは次元の違う話ということである。
 とはいえ、いろいろとご理解をいただくのに少し時間がかかりそうであるので、私の会長在任中には実現しなかったが、おそらく今後、進んでいく話であると私は見ている。


(問)
 先週だと思うが、産業革新機構が出資し、東芝やソニーの液晶ディスプレイの統合を検討という報道があったと思う。こういった官民ファンドの案件が今後も出てくるかと思うが、こうした官主導の業界再編について会長はどのようにお考えかお聞きしたい。
(答)
 官民ファンドではあるが、こういった大きな案件をやるためには、どうしてもエクイティ部分がいるということであり、それは元々の産業革新機構の目的に合っているわけだから、それはそれでシーズのマネーという意味では良いのではないかと思う。純粋な(公的金融である)、いわゆる日本政策投資銀行さんがこうした案件にどんどん出資をされるというケースとは違う。我々は、やはり「官はあくまでも民の補完であり、民に対して、補完的な役割で役に立つべきである」と考えている。ただ、今度の産業革新機構は、一応両者が出資をしてやってきているわけで、それはそれとしてあり得る話ではないか。


(問)
 最近、日本の銀行が、海外戦略を掲げて、一生懸命展開を加速されているところと思う。一方、競争力や収益力を見ると欧米金融機関と比べてかなり遅れをとっているのではないかと思う。日本の金融に関して、欠けているもの、もっと取組んだ方がいい分野・業務などについて、どのように見ているか。
(答)
 バーゼル規制や米国ドッド・フランク法が、具体的にどう適用されていくかは明確には分からないものの、今まで、欧米金融機関は海外で積極的に業務を行ったり、自国内でいろいろな手数料を取ってきたりしているが、今後、その収益力はかなり落ちるのではないかと私は見ている。例えば、ドッド・フランク法では、クレジットカードの手数料についても規制がかかるということである。そのような規制が具体化する一方、資本は蓄積しろということであるから、ROEも低下していく。一方、我々邦銀のROEは、もともと欧米金融機関と比べて低い状況で、しかも、国内では、ご承知のとおり銀行全体で見れば預金が貸金より160兆円くらい多い状況である。そういう状況で競争をしていくわけであり、構造から見てもなかなか儲からない。加えて、当然のことながらコンプライアンス面もきちんとやっていくわけである。
 このように、なかなか難しい課題であるが、国ごとにみると、低成長の国、高成長の国の両方がある。金利は、一般的には、高成長の国の方が高いわけだから、その高成長の国で、我々邦銀がどういうふうに銀行業務をやっていくのかということが重要である。例えば、個別行の場合だと、コマーシャルバンキングを中心とした金融業務が基本になるが、証券業務とかリースとかクレジットカードとかリテールも含めて、どのように取り組んでいくのか。一度に全部をやるのか、または、地域によって分けるのか。高成長の国の成長性をいかに我々の中に取り込んでいくのかということを検討する必要があるのだと思う。(新たな規制の下では)今まで考えていたような状況とは、次元が異なってくるだろう。欧米の銀行の戦略も変わってくるのではないだろうか。ただ、同じような地域、分野を狙ってくるであろうから、競争は激しくなる。そのような状況で、クレジットコストも含めてどう対応していくのか。なかなか難しい課題であるが、我々もここはしっかりと踏ん張って、海外でやっていかなければならないと思う。そのためには、やはり、リスク感覚とインテリジェンス機能、つまり、情報をどう分析するかという機能が不可欠だと思っている。今後は、ビジネス感覚だけでなく、リスク感覚、インテリジェンス機能が、益々、必要不可欠になってくると思っている。


(問)
 全銀協の会長就任ルールについて、現在の3グループでの就任だと、準備期間も入れるとほとんど2年かそこらの間隔で全銀協会長の重責を担うということになる。例えば、会長就任期間を2年に延ばすとか、もっと会長行となる銀行を増やすとか、その辺の工夫についてはどのようにお考えか。加えて、来年4月以降の会長は、また三井住友銀行に戻るのか、あるいはみずほ銀行になるのか。この2点を伺いたい。
(答)
 大変答えにくい質問。(メガバンクは)三行しかないので。ただ、我々は輪番とは言っておらず、三行で回すと言うのはおかしいが。その都度、ふさわしい方に会長として就任いただいているということ。
 会長行というのは、結構大変な仕事。ロジスティックも大変だし、それなりのリソースも必要である。しかしながら、やはり日本の銀行の成長のために、または様々な課題を解決していくためには必要な組織、役割であると思うので、相応のコスト、リソースを割いてやっていくという覚悟は我々は変わらない。
 来年のことについて言うと鬼が笑うので、これは三菱東京UFJ銀行の永易新会長にお任せしたい。


(問)
 先日やっと原賠スキームの法案が決定されたが、その間に東京電力の格付は下がり、株価も下げ続けた1ヶ月間だった。閣議決定までに1ヶ月かかったことについて、いろいろな意見があるが、その間の政府の発言・対応も含めて、この1ヶ月間をどのように評価されているか、教えていただきたい。
(答)
 一筋縄ではいかない案件であることは分かっていたが、政治の世界になると、いろいろな狙いや思惑があるので、これからもいろいろと動くかもしれない。
 格付会社の格下げ時のコメントを読んでいただくと、一番端的で非常にはっきりしていると思う。そこには、この新しいスキームができることと、一般の債権の処理の問題ということにもなる金融機関の債権放棄問題というのがあった。これは、マーケットに大変なインパクトを与え、この法案の枠組みができたときには株価が上がったが、その後の債権放棄問題でかなり下がり、「政府の意向が分からない。それが確認できるまでは」ということを格付会社が書いている。
 今後この問題は、まだいろいろな細部を詰めるところはあると思うが、国の関与の度合いを強めれば強めるほどマーケットから評価される。
 したがって、それを待ちたい。この約1ヶ月の間いろいろあったが、ジェットコースターに乗った気分であった。しかし、それもいずれ巡航速度にのってくるのではないかと思っている。
 やはりスピードを上げ、被害者の皆さまへの賠償金の支払いという問題、それから安全基準の問題をはっきりさせないといけない。これをはっきりしないと、他の(原子力発電所の)止まっているところもなかなか動き出さないという問題がある。このエネルギー問題というのは非常に大きな問題である。
 もう一つ、私があえてここで付け加えるのは、前も申しあげたが、なぜ原子力損害賠償法の3条ただし書きがダメなのか。あの賠償のスキームができた後、いろいろな法律の専門家が書いており、その中で3条ただし書きという問題について皆さん触れている。その内容について、政府から何も説明がないということは、私は納税者(Tax Payer)の一人としても疑問を感じる。国会審議の中でもそれは説明責任を果たしていただきたいし、浜岡原発を止めたことについても説明責任を果たしていただかないと、なかなか他の知事さんたちは(停止中の原発再開に)OKを出せないのではないかと思う。


(問)
 金融政策について伺いたい。先日の日銀の金融政策決定会合で、ABL融資やベンチャー投資などの融資や出資に対して、新しい貸出枠を作ると発表したが、このことがきっかけになって、いま日本の銀行があまり得意としていないABLの市場が拡大する可能性があるのか、民間金融機関の立場からの見方を教えていただきたい。
(答)
 Asset Based Lending、ABLと通常言われているが、これは債権を担保に取ったり、在庫を担保に取ったりするが、正直言ってなかなか難しいと思う。というのは、米国の場合、私が経験してきたのは、在庫担保ではUCCファイルをつけて、日本的に言えば第三者対抗要件がつく。日本の場合、固定した在庫については評価して、担保とすることはできるが、在庫の中身がくるくる変わるものには担保はつけられない。在庫がくるくる回転していくなかで、倉庫にあるものを担保とし、それを銀行が何ヶ月かに1回検査して、きちんと在庫があるということを確認していくシステムが、Asset Based Lendingの基本である。日本にはその法的な問題として、くるくる回っていくものを担保とした場合に対抗要件がない。そういう問題があると結構難しい。同じAsset Based Lendingといっても、固定した債権は担保にできるが、それだけではなかなか拡がらないのではないか。水を差すつもりはないが、「うーん」という感じはする。でも、新しいチャレンジである。フロートしていくものに先取特権をつけるという、フローティング・リーエンの考え方を日本でも導入して、第三者対抗要件をつけられるような形になっていけば、そういう法制ができれば、拡がるかもしれない。


(問)
 昨年6月に改正貸金業法が完全施行され、ちょうど1年ほどになるが、総量規制導入の影響をどのように見ているか。あわせて、専業の消費者金融業者のマーケットがシュリンクしている状態が続いているが、当初の理念としては、その分を銀行界が吸収して欲しいという政策的意図があったと思うが、実際は銀行界の消費者ローンはなかなか増えていない。こうした実態、消費者ローンのあり方をどのように見ているか。
(答)
 改正貸金業法により総量規制ができて、その過程で消費者金融マーケットが縮小していることは事実である。その影響で個人破産につながっているかどうかは、なかなか見えないので、何とも言えない。いわゆるヤミ金融に流れているという話もあるが、事実は分からない。ただ、先ほどの質問にあった、こういう消費者金融市場が縮小する中で、その利用者が銀行に来るかというと、私ども個別行では、銀行のお客さまをプロミスに流すというカスケード方式をはじめ、プロミスと一緒になって消費者金融事業に取り組んでいるが、残高積みあがりのスピードは落ちてきている。一定の量までいって、なかなかそこから同じようなペースでは積みあがっていかない。銀行は総量規制の対象外だが、銀行に来るお客さまと消費者金融に行かれるお客さまのマーケットは違うという感じを私自身は持っている。私どものグループのなかには、オリックス・クレジットという子会社があるが、やはり量としては落ちている。負の遺産がないので収益的にはしっかりしているが、やはり頭打ちとなっており、その分が銀行に戻っているということはない。それは事実だと思う。


(問)
 先ほどの日銀の成長基盤の融資の件であるが、既存の3兆円の枠というのはほぼ銀行が使ったけれども、具体的に対取引先を見ていて、これを使った融資というものがどれだけ前向きなところに使われたか、資金需要をもたらすような効果を与えたか否かというところで、残高の推移だけ見ていると実額として増えていない部分もあり、極端に言うと置き換わっただけというふうに思うのだが、今回の3兆円の効果というのはどのように捉えておられるのか。
(答)
 6月で貸付残高が2.9兆円になり、貸付期限となる来年6月より1年早く貸付枠上限の3兆円に達し、また、総裁会見では、貸付対象先も150数社になったとの話があったと思う。総裁は「呼び水」とおっしゃられていたが、「呼び水」というのは、ものの勢いをつけて、その後ろに控えているものを連れ出すということ。1年という期間ではなかなか、そうした効果が出てこない可能性もあると思う。質問の趣旨についていうと、私ども個別行のことしか分からないが、設備投資の計画をもう少し後ろ倒しで考えていたけれども、低利なので今やってしまおうかというような、借り入れ時期を早くしたという例が一つあるかと思う。それは貸金としての需要を起こしていることは事実だと思う。もう一つは、金利が安いから手許資金を使わないで、借入れをしようかという動きがあることは事実。そういう状況のなかで、例えば、私ども個別行では、中国や環境関連のファンドを作るなど、0.1%のベースレートの貸金をどう使っていくかということを考えており、その意味では、新しい貸金の機会、ビジネス・オポチュニティは出てきていると思う。一方で、やはり当初心配したような低金利競争など、弊害もないとは言えない。プライシングというものは、リスクプロファイルで分けていくということが原則であるが、その点については、今の状況では若干崩しているという部分も否定は出来ないと思う。ただ、トータルとして見れば、やはり「呼び水」としての効果はあると思う。一方、弊害の発生という側面もあり、そういうものをいろいろと総合的に判断されて、今回はそのままの形での継続はされなかったのだと認識している。だから、ABLや出資という形で、新しいマーケットを拓いていけよ、と、今回新たに5,000億円の枠が設けられたことは、別の意味で、我々に対して宿題を与えてこられたのだなという感じを持っている。


(問)
 1点目は二重ローン問題について、全銀協の要望のペーパーをいただいているが、改めてこのペーパーを踏まえて、政府案・民主党案についての所見を伺いたいのが1点。
 それともう一つ、ゆうちょ銀行の加入問題に関して、先ほど会長より、「ご理解いただくのに時間がかかる」というご発言があったが、基本的には、加入容認に向けて進んでいるという認識でよろしいのか。あと「ご理解をいただきたい」というのは、全銀協の中でのコンセンサスをこれから積みあげていくということでいいのかという、この2点をお願いしたい。
(答)
 二重ローンの問題については、民主党の部会に私ども全銀協が呼ばれ、ご説明した。その際にご説明した内容が、基本的には今日お配りした要望書のベースになっている。ご指摘のとおり、土地の買取や利子補給等が民主党案には入っていないので、我々としては引き続き申しあげていくつもりである。
 また、与党と自民党等との協議でも、新しい機構を作る、既存のものを使う等、いろいろあるが、債権の買取ということについてはある程度議論されているのではないかと思う。
 今回の場合は、地震(被害)だけでなく、津波(被害)というものもあるので、我々は引き続き、例えば、土地や事業主の設備の買取というようなことについて、使用価値の問題や買取後どうするのか、どういう(損失)分担をするのか等、いろいろと議論があると思うので、実務家の立場から要望を申しあげていきたい。
 それから、ゆうちょ銀行の加入問題については、加入ステイタスをどうするかという問題は、まだ考えなくてはいけないが、加入を認める方向で進んでいるというふうにご理解いただいて良いのではないかというふうに思う。


(問)
 あえて追加で、足りない点があるということは、基本的には、今の政府案・民主党案では、まだ満足されていないというか、不満があるという認識でよいか。
(答)
 この問題は、被災地域の金融機関の話を非常に詳細に聞いているだけに、何とかできないかという思いが強い。
 金融機関・お客さまという当事者間だけでなく、国費の投入ということになるので、なかなか難しいところもあるかもしれないが、例えばこの前新聞に出ていた金融庁の発表によると、被災県の沿岸部等を全て含む貸出金残高は2兆数千億円、そのうち甚大な被害を被った浸水地域、又は福島第一原発20㎞圏内は約1兆2千億円で、大企業を除くと約1兆円、企業と個人が7対3くらいだった思うが、そういう状況の中で、(国を含めた関係者間で)相応の分担をしながらやっていく方法というのは、一律の対応は難しいと思うが、原則論としてはやって欲しい。後は、個別に、ケース・バイ・ケースで対応していくということ。原則論の中には、当然、「金融規律の維持」や「公平性」といったものもあるが、前も申したように、阪神・淡路大震災と比べて、今回のケースは、津波の被害がある点、また、職場を失っている率が格段に高い点等が全然異なるわけで、そこに何らかの手当てをしていかないと、なかなか被災地が復興していかないのではないかと思っている。そうした事実・実態をさらに伝えていきたい。


(問)
 2点質問がある。1点目は、東京電力への協力についてお伺いしたい。先ほど、協力を求められた時に、「個別行がどう対応するか」と言っていたが、御社に対して東京電力からすでに融資の申し込みとか、資産の売却に対するコンサルティングの依頼とかが来ているかという質問である。
 2点目は、火曜日に自見大臣が原子力賠償機構への融資には国の保証をつけるが、民-民でやるのは別問題だということを会見でおっしゃっていた。これに対する会長の受け止め方と、政府保証がない場合でも、東京電力への融資を行えるのかをお聞きしたい。
(答)
 そのような協力の具体的な話はまだ来ていない。まだ、収拾にご苦労されているのだと思う。
 それから、新たな融資というのは前にも申しあげているとおり、賠償スキームというものがしっかりと出来あがる、国の関与がしっかりと出来あがるという場合には、今後の東京電力の財務の状況、業務の先行きを総合的に見たうえで融資の要請があれば、それをみて判断することになる。
 例えば、今の長期債の格付けも、投資適格になるとか外的な要素を全て含めたうえであれば、それは政府保証なしで貸すケースもあり得る。ただし、可能性の話であり、貸すということではない。そういうものが、前提にあれば、総合的に考えて貸すこともあり得る。
 やはり格付けの問題というのは大きな要素であり、財務の問題、将来の業務の先行きの問題、それから法律の枠組みの問題を総合的に判断して決めることになると思う。


(問)
 二重ローンの提案を出されたということで、改めてお聞きしたいが、復興に関しての金融というのは、「二重ローンの問題」、「銀行の資本の問題」、「復興にかかわる金融」という3点が大きな柱であり、例えば、二重ローンの解決の仕方によっては、銀行の資本毀損の具合が違う、復興のキャッシュフローがどうなるかによって、新規ローンのあり方が変わってくるといったように、この三つの柱が非常に密接に絡まっているはずだと思うが、金融業界の立場から、政府はこれらが密接に絡んだ形で議論していると思うか。
(答)
 東日本震災復興構想会議が、今、ビジョンづくり、街づくりということをやっている。やはり、ビジョンがあって、その地域にどういう産業が出てくるのかということが重要。現実には、なくなってしまった産業があり、これから街づくりということになるが、テレビを見ていると、「仕事がないのだから、そこに住めないじゃないか」といった話もある。やはり、そこに、将来にわたって自分が住める、安定できるというようなものをつくっていかないと、なかなか、新たな復興の貸金に繋がっていかない。
 復興構想会議の中の議論は、そういうことも含めてやっていると思う。他にも例えば、経団連の復興・創生マスタープランには全部入ってやっている。そういうものと、常に金融は裏腹になって動いていく。政府も、それは十分理解してやっていただいているのではないかと思う。
 だれが損失を負担するかという意味では、一旦簿価で買い取り、機構が負担するということであれば、銀行の負担とはならない一方、銀行が損失を負担することになれば、銀行に資本を入れないといけないということになる。
 新たな復旧資金が出ていくかについては、将来に対する街づくりとか、産業づくりが重要。例えば、東北地方の農林水産業は、確か地方の総生産の2%だが、これをどういうふうに、今まで落ち込んできたものをどういうふうにやっていくかというマスタープランを早くつくる必要がある。当然のことだが、政府もそれを非常に意識・認識しておられると思う。


(問)
 連関性はコアのビジョンができてから生まれてくる、というお考えか。
(答)
 そうではなく、やはり、短期的なもの、中期的なものといった具合に、仕分けをしてやっていくということではないか。
 今日・明日を生きるという話と、1年・2年のタイムスパンで考える話と、同時並行的に進めていかなければならない。


(問)
 最後に会長から一言お願いしたい。
(答)
 先ほど申しあげたように、私は2007年度に会長をやっており、今日を含めると26回目の記者会見になると事務局が教えてくれた。そういう意味で、今日は締め括りの会見であり、大変感慨深いものがある。
 もう頭取ではないので、この場に3度目として出ることはないと思う。そういう意味でも、非常に感慨深い。
 2度の会長在任時代は、いずれの時期も金融、それから経済環境に大きな動きがあったときであり、そのことを振り返ってみると、千言万句を費やしてもなかなか言い切れないなと思っている。前回の時には、いわゆるサブプライムローン問題が2007年8月に起きて、それがリーマンショックにつながった。当時、「サブプライム問題は大したことはないよ」という人が多かったが、その後、大きな問題となった。今回はそのサブプライム問題による落ち込みからの再成長の過程で、日本だけに東日本大震災という大きな災害が起きたということである。こうして振り返ると、感想めいた話にはなるが、今世紀というのはいろいろな意味で内外の先行きを見通すのが難しいなということを改めて感じたとともに、危機管理能力、リスク管理能力、これを如何に向上させていくかが大きな課題だと改めて感じている。
 それでは、足許、我々がどのように対応していくかについて申しあげれば、わが国は少子高齢化の進展、潜在成長率の低下、それから財政の逼迫、地方の疲弊といった構造的な問題が横たわっているなかで、今回の大震災が上乗せされたという状況である。こうした大きな問題に対して、短期、中期、長期にわたって同時並行的に対応していかなければならないということであり、それだけに日本の国力が問われている。震災復興はわが国固有の問題であり、これを含めて克服して、日本が成長軌道に乗っていかなくてはならない。ただ、世界は常に動いているわけで、世界は日本の遅れを待ってはくれない。そういう意味では、「窮すれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」という古い言葉があるが、わが国は戦後の荒野原の中から復興を遂げた時と同様、今回もこういういろいろな問題があるときだけに、政官民が一体となって先ほど申しあげた国家としての底力を発揮して新たな成長の道を切り拓いていかないといけない。こうしたなかで、当然ながら金融というものは、バーゼルIIIに見られるように新たな国際金融の潮流に対応しつつも、経済の血流としての役目を果たし、情報仲介機能をフルに発揮していかなければならない。このことを改めて痛感している。
 このような時期に会長交代となるが、在任中は、副会長をはじめ大変多くの方々に支えていただいた。また、ここにお見えの皆さんには大変厳しいご質問、または建設的なご意見、いろいろと聞かしていただき、大変勉強にもなった。また、ご支援いただき誠にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼を申しあげる。
 来月からは、三菱東京UFJ銀行の永易頭取が全銀協の会長に就任される。ご承知のとおり、永易頭取も2度目の登板であり、豊富なご経験と大変シャープな切れ味の良いご意見をお持ちの方。卓越したリーダーシップも兼ね備えておられるので、このような有事・変事においても、その手腕に大変期待しているところ。どうぞ皆さんにおかれても、永易新会長への一層のご支援をお願いしたい。私ども銀行界としては、今後永易新会長のもとで一体となって取り組んでいこうというつもりで、改めて覚悟を決めているところ。
 1年3ヵ月、本当に皆さんにお世話になった。ありがとうございました。