2011年9月15日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」の実施についてである。 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、10月14日から11月30日までの約1ヶ月半を「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」とし、啓発イベントの開催や全銀協作成の頒布物の店頭配布等を通じて、振り込め詐欺の注意喚起を行うことを決定した。
 2点目は、正会員の新規加入についてである。本日付で北九州銀行の加入を承認した。この結果、全銀協の会員は250会員となった。
 事務局からの報告は以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2日に発足した野田新政権への期待、政策で期待することを伺いたい。
(答)
 期待感を持って見させていただいている。ただし、国会のねじれ現象はみなさんご存知のとおりであり、政策運営は大変厳しいと思う。しかし、野田総理が言われているどじょう精神、正心誠意、そういうものを発揮して是非頑張っていただきたい。
 やっていただきたいことは山のようにあるが、あえて2点に絞って申しあげると、一番は何と言っても震災復興。復興支援の対策を迅速に実行していただきたい。そのためには第3次補正予算がキーになると思うが、これも野党の協力がないと成立しないので、是非、協力体制を構築してもらいたい。
 2点目は、人によって違うと思うが、私はやはり財政の健全化、これをやっていただきたい。それを実現するためには社会保障と税の一体改革が必須になるし、財源としての消費税問題は避けて通れない。財政の問題は、このまま放っておくと更に悪くなり、あるところまでいってしまうと、国についても、そして国債についても信頼を損なうことになる。そして、信用が失墜したときにはどういうことになるか、ということを強く意識しなければならない。社会保障についても、財源の問題を解決しない限り今の水準を維持することが困難になることは目に見えている。したがって、少なくとも道筋はつけていただきたいと思っている。景気への懸念もあり導入のタイミングは慎重に、という意見も分かるが、この議論はこの十年、ずっとそう言われ続けてきて現在に至っている。したがって、野田政権には是非実現してもらいたいし、少なくとも道筋はつけてもらいたいと強く希望している。


(問)
 歴史的な円高が続いていて、産業の空洞化懸念も高まっている。さらに円高が長期化した場合の日本経済への影響について、どのように見ているか。また、8月下旬に、政府が1,000億ドルの基金創設などを盛り込んだ「円高対応緊急パッケージ」を打ち出したが、その評価を伺いたい。
(答)
 円高が進み、1ドル75円台の最高値を記録したが、この直接的な原因は、欧州債務問題や米国の景気減速懸念等、主に海外に要因がある。このため、先行きについても、当面、円高プレッシャーを受けながら推移せざるを得ないのではと懸念している。
 これだけの円高になると、直接的に企業収益、とくに日本を引っ張っているような製造業トップ企業に対する悪影響が極めて大きい。経済産業省からも調査結果が発表されていたが、製造業では想定レートを80円台前半に設定している先が多く、70円台半ばの円高になると、業界によっては、そのマイナスインパクトが営業利益の約3割にも達するという話も聞いている。
 かつ中期的には、産業の空洞化、つまりメーカーはもう日本ではやっていけないという発想にどうしても近づいていってしまう。同じ経済産業省の調査でも、足許の円高水準が6ヶ月以上続くようであれば、製造業大企業の46%が生産拠点や研究施設の海外移転を考えるという結果が出ている。各メーカーは、ものすごいインパクトを受けながら頑張っており、かつ危機感を持って対応されているということである。いずれにしても、現在の円高は、短期的にも中期的にも、大変大きな悪影響を及ぼすと懸念している。
 一方、先般発表された「円高対応緊急パッケージ」については、非常に迅速かつ積極的な措置を取られたと高く評価している。
 為替の安定という意味では、外貨準備を放出するスキームが基本であるため、どうしても、これ自体がダイレクトに為替に影響を与えるものではないが、企業がM&Aや資源獲得のために、合わせて、手持ちの円資金をドルやユーロに換えて投資すれば、直接的に為替に効くことになる。
 さらに、もう一つ大きなポイントは、本パッケージが日本の企業・産業に前向きなインパクトを与えることだと思う。円高は、トータルでみれば、わが国にとってマイナス面の方が大きいと思うが、一方で円高メリットというものもある。本パッケージは、このメリットを有効利用するという発想を後押しする政策でもある。今後、パッケージの各論を詰めていくことになるが、私どもとしてもJBICとよく協議しながら、実効性の高い具体案を作成することに、貢献していきたいと考えている。


(問)
 二重ローン問題について、個人向けの私的整理ガイドラインがスタートし1ヶ月が経過したが、現在の申請の状況、運用の状況等を含めて、どのようにみているか、所見をお聞かせいただきたい。
(答)
 個人債務者向けの私的整理に関するガイドラインにもとづく運営委員会が8月22日に受付を開始して3週間強、4週間目に入っているが、照会件数が約900件、次のステップとして登録専門家が具体的な相談に乗っているのが約90件と聞いている。弁護士を中心とした登録専門家は600人を超えており、最も相応しい方を紹介して、一緒に事務的な作業をやっていただくという流れになっている。現段階で900という数字がどうなのかということだが、やや落ち着いた数字かなと思っている。8月22日以前から各金融機関は金融円滑化法の精神に則って非常に丁寧に対応しているので、そういう影響もあったかなという気もする。ただ一方で、我々もさらに周知、報知の努力をしなくてはいけない、より使い勝手の良いものにしなくてはいけない、という気持ちもある。現在、運営委員会には青森から茨城まで5つの支部があり、それに東京本部とコールセンターがあるが、各拠点はいずれも県庁所在地にあるので、沿岸部など、各支部から離れたエリアにおいて、出張相談を始めたいと思っている。スタートは9月20日の石巻での出張相談会だが、その後も郡山や南相馬で説明会を開催するなど、できる限りこちらから出向いて行く。事前の報知が必要だと思うが、我々としても極力多くの方に利用していただけるよう尽力していきたいと思っている。


(問)
 先日、枝野新経済産業大臣が、「東電が政府の支援を受ける過程では、債権者や株主も一定の負担をするのが原則」との見方を示した。債権放棄や金利減免などが念頭にあると推測され、官房長官在任中の5月にも同様の発言があるが、今回の発言をどのように受けとめているか。また、今後の東電支援に対するスタンスに何か影響があるか、所見をお聞かせいただきたい。
(答)
 結論から申しあげると、我々の判断に影響はない。
 5月にもやや似た話があった。発言を直接聞いたわけでもなく、その内容をつぶさに検証しているわけではないが、基本的な発言の内容は、原子力損害賠償支援機構法の目的は、1番目が迅速かつ適切な損害賠償、2番目が原発の状態の安定化、3番目が安定的な電力供給の3つであり、この目的に基づき法案が通り、支援機構が設立されたということ、したがって、この法律の目的として、金融機関や株主を保護しようという考え方はないということであり、この点は非常によく理解できる。
 また、一般論として、銀行や株主が一定の負担をするのが原則という考え方、ここまでの発言であれば、さほど違和感はなく、我々としても、終始金融機関としての協力はしてきたつもりである。
 この法律の審議過程でも、金融機関の協力については常に話に出てきており、今回の法律にも謳われているが、我々としては、法律に謳われているから対応するということではなく、やはりこれだけの公共インフラを背負っている企業であり、できる限りの協力をしたいと思っている。
 現実に3月の緊急融資1兆9,000億円も、個別行の判断ではあるが、各行ともそのような気持ちで支援をしたと思う。また、その後も低利で安定的な調達に応じており、例えば短期資金の期日到来時には、全行が必ず継続に応じている。したがって、一定の負担を金融機関の協力と考えれば、それほど違和感はない。
 ただし、大臣が債務超過につきコメントされているとは思わないが、債務超過の議論になれば、我々の認識は主張せざるをえない。金融協力の極にあるのが債権放棄であり、その対応を軽々には申しあげられない。
 法律の成立過程を見ても、私は国会の参考人招致で、債権放棄は想定していないことは主張してきたし、海江田大臣もそのように答弁されている。
 我々としては、この法律の前提は、東京電力は債務超過にしない、債権放棄は想定しないというのが基本的な前提としてあったと理解している。したがって、大臣と直接お話をしたわけではないなか、申しあげるのは恐縮であるが、我々の理解はそういうことである。


(問)
 先ほど会長が触れたかと思うが、欧州の財政危機がかなり深刻化し、そうしたなかで欧州の銀行の資金調達、特にドル建てなどが困難になってきていると思う。日本の金融機関はそのあおりを受けていくとお考えか。そういった場合に備えて、どのような対策・自己防衛策を立てられているのかお聞きしたい。
(答)
 結論から言うと、当然ながら日本の金融機関は多少なりとも影響を受けている。しかしながら、リーマンショック以降の金融危機、流動性危機とは全く異なる。現実にヨーロッパにおいても、あの時の危機的な状況とは違うと思っている。かつてインターバンク市場でジャパンプレミアムが発生したが、そういうプレミアムを払わなくとも調達できる状況。あの時と決定的に違うのは、やはり中央銀行同士のタイアップ、例えば日本国内で資金調達に困ったら、いざとなれば日本国債を担保に入れてドルを調達できる等の仕組みができていること。したがって、確かに平常時と比べればやや危機ゾーンに近いのは事実だが、本当の意味での危機ではないという認識。現実に我々も注意深くウォッチしているが、中央銀行に依頼して何とか資金調達するという状況ではない。


(問)
 先ほど会長がおっしゃった、政府が発表した緊急ファシリティの1,000億ドルを利用するとか、ドルでの資金調達を一層進めるなど、今のうちから自己防衛策は考えていらっしゃるか。
(答)
 実施は可能だが、現時点ではその必要はないと理解している。


(問)
 その関連で、現状は危機的な状況ではないということだが、一方で金融市場では、ソブリンリスクを受けた欧州の国債金利が上がったりしている。会長としては、欧州のソブリン問題の先行きについてどういうふうに見られているか。
(答)
 決して楽観しているわけではない。特にソブリンリスクは長い間指摘され続けてきた問題である。ギリシャ問題も7月に一回解決したと思ったら再燃しているわけだから、相当に深いのであろう。そのリスクが本当の意味で顕在化するような状態となれば、金融危機になる。その場合、ギリシャ国債を大量に保有している欧州の銀行はたくさん存在するわけだから、当然そうした先に影響が及ぶ。そのような状態に陥ると、CDSが著しく上昇するだろう。ただ、昨日もドイツ、フランス、ギリシャの首脳が電話会談を実施し、「ギリシャは将来もユーロ圏にいると確信する」旨のコメントを発表しているし、明日には欧州で蔵相会議がある。そういうところで必ず解決策を見出してくれるであろうと期待している。EUは全加盟国にとってメリットのある組織だから、当然みんなが何とか今の状況を乗り越えようと努力するという前提のもと、現時点において、過度に危機対応を意識する必要はないのではないか。ただし、注意深く見ていくことは求められよう。


(問)
 為替デリバティブの問題についてお尋ねしたい。為替の水準が1ドル70円台に留まっており、これに伴って、金融商品としての為替デリバティブを保有する中小企業を抱える損失も大きくなることが予想されるが、全銀協のADRに持ち込まれている件数の足許の動向と、今後、この問題に対して、銀行業界としてどのように取り組んでいくかを教えてほしい。
(答)
 円は一昨年ぐらいからずっと一本調子で上げている。3年前は100円台後半だったと思うが、現在が77円とすれば、相当大きな円高である。為替デリバティブにおいては、急激に為替が動き、想定と反対方向に行くと含み損が生じる一方、逆に想定した通りにいくとプラスとなるものではあるが、個別行・全銀協ともに、この円高水準では、マイナスを被ったお客さまを放置できないという考え方であり、個別行においては、含み損を持っている方に対し、非常に丁寧に対応している。また全銀協としても、申立案件が非常に増加しているため、あっせん委員会等、いわゆるADRに関係する人数を増やしている。4-6月期に全銀協ADRに持ち込まれた新規案件は112件で、これは1-3月期に比べて約3割増となっている。
 基本的に、為替デリバティブ契約を締結した際、顧客適合性等を踏まえた説明責任において、問題があったとは思っていないが、現実に含み損がある状況では、当然、丁寧に対応していかないといけないと思う。これらの問題を裁判で解決すると非常に時間がかかるので、ADRという形で解決していこうというのは、お客さまにとっても、個別の銀行にとっても、良いことではないか。
 したがって、今後とも丁寧に個別銀行が対応すると共に、ADRを活用するお客さま・銀行は、当面増えることになろうかと思っている。


(問)
 先ほども話に出ていた東電の債権放棄について、終始想定してきていないとのことだが、今も全く想定していないという理解でよいか。次に、金融機関の協力として、このような協力の仕方であったらあり得る、ということがあれば、教えて欲しい。
(答)
 最初の質問に関しては、全く想定していないとはっきり申しあげる。
 次の質問に関しては、金融機関の協力の仕方というのは色々あるが、どこまでなら出来るとか、こういう方法はどうかと申しあげるつもりはない。
 我々が話をするのは、あくまでも東京電力であり、支援機構とは、当面の間、東京電力と特別事業計画を策定する関係上、話をする可能性はあるが、そのなかで、こちらから何かを申し出るつもりはない。
 繰り返しになるが、我々としては、原子力損害賠償に関する支援の枠組みに関する三つの目的に対し、我々が出来ると思ったことは終始対応してきたつもりである。また、東京電力だけでなく、他の電力会社も原発が停止し、燃料費上昇により発生した必要不可欠な資金需要に対しては、積極的に応じていくというスタンスであり、どの銀行もそういう覚悟でやっていると認識している。
 このうえ、更にどうするのかと言われても、その時々の最適な協力の方法を考えていくのみである。教科書的に方法を並べることはできるが、それを本件にどう適用するのかということは、ただ今現在考えていないということである。


(問)
 被災地の不渡手形の件数が減ってきており、震災前に振り出したものが一巡したとも見られるが、現在実施されている特別措置に関して、終了するタイミングについての考え方を伺いたい。
(答)
 こうした特別措置は未来永劫続けるものではなく、続けることによるデメリットもある。したがって、いつまで続けるかを考える必要があるが、少なくとも9月中には終了しないことを決定している。現在の被災地の状態をみても、かつての阪神淡路大震災とは状況が相当異なる。不渡手形が減ってきているのは確かだが、足許でも毎日のように発生しており、まだしばらくは状況を見守らなければいけないと考えている。したがって、年内まで続けるといった考え方もあろうかと思うが、終了時期について現時点で決定していることはない。足許の発生状況、被災地の状況などを勘案しながら決めて行きたい。現時点で決定しているのは、9月中の終了はないということである。


(問)
 企業の二重債務の問題について、各県において、産業復興機構の立上げ準備を進めているが、県によって進捗が異なる。債権買取に関する考え方や、地元での協議状況など、どのように全銀協として見ているか。
(答)
 この問題は非常に大きい問題であり、産業復興機構のようなものが必要なことに異論を挟む余地はなく、必ず必要だと思う。
 この問題のこれまでの推移を見ると、民主・自公の三党協議により共通案を策定しようという流れがあった。結局、政府・民主党は中小企業庁による産業復興機構の設立という流れになり、これについては、岩手県で基本合意がなされ、各論を協議している状況と認識している。
 一方、自公案は参議院に法案が提出、可決され、衆議院では継続審議の状態と認識しているが、我々の希望としては、やはり早く三党合意して一気に進めて欲しい。その際、金融界に対し何か要請があれば、最大限の協力は惜しまない。


(問)
 東電問題につき、蒸し返すようだが、先ほど全く見方は変わらないということであった。ただし、大臣会見では、「債権放棄すべき銀行が債権放棄しないのはおかしいか」という質問に対し、「そのとおりである」とお答えになっている。また、枝野大臣は、前回の官房長官とは異なり、東電問題の直接の所管大臣となった。
 一点目は、そういった意味では認識として少し危機感を強めるといった変化があるかと思っていたが、ご認識をもう一度確認させていただきたい。
 二点目は、大臣の発言が影響するかどうかも含め、現状、東電に対する各銀行の融資姿勢に影響はあるかないか、もしあるとすればどんな形であるのか。一部にはメイン寄せや足並みの乱れが出始めていると心配する声もあるが、その辺のご認識を教えていただきたい。
(答)
 枝野大臣の発言については、私も一言一句確認しているわけではないが、どのような問答があったのかということは見た。片方の原則論では、その流れの極は今言われたようなところに行くが、その一方で、支援機構スキームが現実にあり、その前提に関する我々の認識は先ほど申しあげたところである。
 今後、支援機構スキームが進まないことが最も困ることであり、迅速で適切な賠償が実行できないということになれば、何のためにこの法律を作ったのかということになり、大臣発言の最後の方には、スキームに与える影響への配慮も示されている。また、支援機構が機能しない場合には、電力業界や金融システム全体に大変な影響が出ることから、大きい意味での市場に対する配慮は必要であるということも言われている。
 したがって、最終的にイエスかノーかというのは総合判断しかないが、一つの原則だけで何事も決まるわけではない。少なくともそのような考え方に期待したいと思っている。
 二番目の質問については、メイン寄せなどが起こらないことが、この支援スキームがスムーズに機能するための一つの前提である。
 個別行の判断であるが、金融システム全体や経済全体、日本全体に影響を与えてくるので、その重要性を理解していただければ、通常起こるようなメイン寄せというのは起こらないと思っている。


(問)
 欧州ソブリン危機関連だが、欧州の銀行に対するクレジットリスクを意識しているのか。カウンターパーティーリスク等を考慮し、クレジットラインを絞っているのか。
(答)
 市場の状況等を考慮しながら注意深く取引を行っている。金融機関同士の取引なので、実際は売りと買い両方の取引があり、バランスを取りながら取引をしている。片方のサイドに偏りバランスが取れていない場合には、その差額は国債等の担保をいただくという対応をしている。そうしておけば必要な場合には清算できる。片方のポジションが圧倒的に多いという状況は生じないようにしている。


(問)
 それはいつ頃からそういう注意深くという姿勢に変えたのか。
(答)
 当行としては7月頃から現在のような運用にしている。最近はマーケットにおける警戒のレベルが上がっているので、より厳格な運用をしている。