2011年10月13日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

和田専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 欧州の債務危機問題について、昨日、欧州委員会のバローゾ委員長が行程表を発表している。欧州の債務危機の現状について、また、今後の見通しについてどう見ているか。くわえて、日本の金融機関に与える影響、また日本の金融機関が取るべき必要な対策についてどのように考えているか。
(答)
 欧州の問題は、もともとはソブリン危機だったのが、段々と金融危機の様相を強めているというのが、現在の情勢だと思う。財政の問題は政治問題だと思うが、なかなか思ったように対応が進まず、マーケットが催促相場のような状況になっているのだと思う。
 ただし、スロバキアの問題についても、おそらく10月14日には議会で承認される見通しであるし、14・15日にはG20の財務大臣・中銀総裁の会議もあり、ここで一括の対応方針が確認されることになろう。そして、23日のユーロ圏首脳会議で合意、11月頭のG20サミットに報告、という流れになると思っているし、期待もしている。そうでないと、金融危機の様相が深まることになるので、この流れで一旦は落着くのではないかと期待している。もちろん、我々も引き続き、気を引き締めて注視していく必要があることは言うまでもない。
 足元、インターバンク市場で、LIBORがかなり高止まりをしているが、ドルを調達する場合、日本の金融機関は、フリーハンドというわけではないが、少なくとも非常に困っているという状況にはない。また、ラスト・リゾートとしては、リーマンショックのあと、中央銀行がスワップ協定を結んでおり、我々が国債を持ち込めば、ドルを調達できるシステムも完備されている。ただ、現時点で、これを利用している邦銀はなく、各行、自力で十分にドルを調達できている状態である。
 また、ヘアカットの問題等出ているが、例えばMUFGでは、ギリシャ国債は保有していないし、他のPIIGS諸国の国債についても、気にするような金額を持っているわけではなく、そういう面から心配をしている状況ではない。ただし、冒頭でも申しあげたとおり、情勢をしっかりとウォッチしていく必要があることは強く認識している。


(問)
 現在、東京電力が機構と「特別事業計画」の策定作業を進めているが、金融機関の支援のあり方、検討状況について伺いたい。また、金利減免や債権放棄についてどう考えているか。
(答)
 東京電力が機構とともに特別事業計画を策定していることは事実で、10月3日に提示された第三者委員会の報告書を踏まえて、計画を作っている段階と認識している。金融機関の支援について、一言はっきり申しあげると、我々に対する報告書を踏まえた相談は、今現在一切ない。
 第三者委員会の報告書のなかには、3月末の10年間の残高維持という項目が入っているので、どこかのタイミングで要請は来るだろうとは思っている。
 ただ、金利減免や債権放棄は、従来から申しあげているとおり、我々は想定していないし、検討をしたこともない。


(問)
 今日の総会でおそらく「特例会員」という制度を設けることを決められたのではないかと思うが、その事実関係と「特例会員」を設けるということが、ほぼイコールとしてゆうちょ銀行の加盟を認めることになるのか。ゆうちょ銀行の加盟に向けた今後のスケジュール、「特例会員」の与えられる権限、位置付けについて考えを教えていただきたい。
(答)
 本日の総会で「特例会員」の制度を新設したことは、ご指摘のとおりである。加入したあとに報告をさせていただくという位置付けであるので、この場で申しあげるということは控えさせていただくが、特例会員というのは、準会員よりも権限を制限したものである。一部の情報、例えばマネロン、振り込め詐欺、金融ADR、反社といった、金融機関として共通の情報連絡を受けることができるという位置付けで、制限された会員資格である。今後の手続きとしては、申請が必要なため、ゆうちょ銀行に申請いただき、それほど時間をかけずに全銀協の中で検討し、早ければ、10月中に加盟、ということもあり得るかもしれない。そのような手続きで、特例会員として、ゆうちょ銀行を全銀協に迎えるということになると思う。現在はそのような状況であるということは申しあげられると思う。


(問)
 東電関連で、第三者委員会の報告書にある「金融機関の協力」をどのように受け止めているか。
(答)
 3月の緊急融資は金融機関の協力の典型的なものである。第三者委員会の報告書には10年間の残高維持という記載があるが、少なくとも震災後の7、8ヶ月間は各銀行とも残高維持等、東電の期待にすべて応えてきている。これらは非常に大事な協力であるし、やり方はいろいろあるだろう。
 ただ、何度も申しあげているとおり、債権放棄となると全く話が異なる。この機構法案の成立過程における国会審議で、経産大臣、総理とも、債務超過にはさせない、と何度も答弁されている。やや違う意見の人の話に乗り、債権放棄の可能性があるのか、というような議論をされることは、我々としては非常に不本意である。
 やはり、機構法案で謳っている、(1)迅速かつ適切な賠償、(2)原発事故の早期収束、(3)電力の安定供給、という観点から言うと、金融機関に債権放棄を求める考え方は成り立たないのではないか。論理的にも成り立たないし、第三者委員会の委員長も記者会見でそのように述べられている。それ以上のことを検討していることはない。


(問)
 欧州の金融危機についてもう一度伺いたい。先ほど会長もおっしゃられたように、邦銀は資金繰りに関してはそんなに困っていないということなので、今後、金融システムが混乱しないよう、邦銀が、買取とか出資も含めて、弱った欧州の銀行を支援することも出てくるかと思うが、会長としてはどのようにお感じか。
(答)
 この問題は基本的には政府が対応すべきものであり、例えば日本政府がEFSFの債券を購入することで、資金を入れるといった対応は、グローバルベースの危機に発展しないために、当然必要だと思う。
 一方、個別銀行がそういった対応を行うとなると、そう簡単なことではない。私企業がそういった目的で対応できるかという問題もあるし、バーゼルIIIおよびG-SIFIsに対する規制強化もあり、フリーハンドで動けるわけではない。これらを踏まえれば、欧州危機を脱却するために、邦銀の間で、そういった思い切った動きが加速していく現象にはならないと思う。


(問)
 昨日、米国の上下両院で韓国とのFTA実施法案が可決され、韓国がわが国より一歩二歩先に進みつつある状態になっている。このように、貿易に対して開国していこうという韓国の姿勢をどう思われるか。一方、日本のTPPの議論は、議員の中でも意見が二分する等、足踏み状態が続いているが、この事態についてどのようにお考えか。
(答)
 韓国では、非常に積極的に開国していこうとする動きが見て取れるが、それでないと韓国自体が成長できないというのが原点にあると思う。また、自由貿易協定、TPPも広く言えばそういう世界だが、やはりそういうことをやると、どうしても、農業とかいろいろなところに軋轢が出るが、それを乗り越えて韓国政府は動いているということであろうと思う。そういう意味では、一つの方向感をはっきりとさせた姿勢で、評価できると思う。
 ひるがえって日本だが、日本の産業界、特にメーカーは、よく三重苦とか六重苦とか言われる状況にある。一番影響があるのは円高だが、そのほかにも関税の問題、法人税の問題等、非常にアゲインストな状況の中で、各々の企業は頑張っているわけである。だからそういうものに対して、プラスの方向に動く施策というのは、全銀協としてではないが、少なくとも私の意見としては、やはり日本政府は努力すべきであると思う。
 もちろん、TPPの交渉に入っていく、更にそこに参加するということになると、先ほど申しあげたとおり、農業等で非常にお困りになるゾーンが出てくるのは事実である。このため、そういうゾーンに対する手当てが一方で大事ではあるが、大きい方向感としては国を開いていくことが、やはりアジアも含めた世界全体の成長力を日本に取り込むという面から、どうしても必要な方向感ではないかと思っている。


(問)
 欧州危機に際して、金融資産を買い取ったり、出資などを考える必要はないのかという質問に対して、個別行が思い切った動きをすることにはならないだろうという回答であった。これはもっともな気もするが、2008年のリーマンショックの際に、思い切ってモルガン・スタンレーに大規模な出資をされているが、当時と今とで何が違うのか。考え方としては、安い買い物というか、よい出物があれば買っていくというのが経営の基本のような気がするが、その点、どのように整理されて、思い切った動きはないと言われたのか、お聞かせいただきたい。
 2点目は、先週月曜日に、英文でモルガン・スタンレーとの関係について、プレスリリースを出されているが、簿価に比べて株価は下がっている状況だと思うが、含み損がでているなかで、新たな出資や買取りというようなことをするについての、重荷になるというようなことがあるのか。何故、この時点であのようなリリースを出されたのか、相手と相談なくするということはないと思われるが、モルガン・スタンレーからサポーティブなコメントが欲しいという要請があったのか。長期的には関係を維持するということだが、投資家から見れば、場合によっては良いタイミングで関係を見直すことも、戦略のなかには、今すぐということではないとしても、選択肢としてあり得ると思うが、今後のこととして、どのようにお考えかお聞かせいただきたい。
(答)
 2点目からお答えするが、モルガン・スタンレーに対する投資は、大きい戦略のなかで採用したものであり、助けるためにやったものではない。たまたまそういうタイミングにあたっただけで、モルガン・スタンレーと戦略的アライアンスを組むということが、MUFGにとっての10年の計であるという立場、考え方で出資した。ただ、あまりにもひどい状態であったので、普通株ではなく優先株にした。それから3年近く経って、モルガン・スタンレーの状況も巡航速度に入ってきたという判断から、普通株に転換したという流れである。含み損の話は、確かに12ドルとか15ドルといった株価であれば含み損になるが、これはダイレクトに我々の判断に影響を与えるものではない。連結の持分法適用会社であるから、減損となれば別だが、株価の下落がB/Sに影響するということはない。プレスリリースを出したという話があったが、これは、モルガン・スタンレーから頼まれたわけではない。マーケットが非常に荒れていて、モルガン・スタンレーという戦略的アライアンス先が狙い打ちをされつつあるなかで、何らかのメッセージを出した方がいいのではないかと考えて、むしろ我々からモルガン・スタンレーに対しこういうものを出すけどどうかと相談して出したもの。順序は向こうから頼まれたわけではない。決算発表が終わればうがった見方のマーケットの嵐というのはおさまると思うが、その直前というのは一番疑心暗鬼になり、いろいろなかたちであのような現象が起こってくる。現在は16ドル程度であるからそれほど心配はしていないが、一時期12ドルまで下がり、アライアンス先としては傍観できないと判断し、大したメッセージではないが、出させていただいたということである。
 1点目については、個別の銀行でそういうことは起こるかもしれないが、どこが違うかというと、バーゼルIIIおよびG-SIFIsの問題が非常に大きい。日本の銀行にとって一番辛いのは、控除項目がいろいろあって、普通株Tier1から引かれること。その段階で7%という数字があるところにG-SIFIsの規制で1~2.5%乗せられると、これをクリアするというのは我々にとっても辛く、努力を要する。11月か12月にはG-SIFIsの最終文書が公になると思うが、我々としてはそれに向けて、きちんとクリアしますよ、増資はしませんと常に言っている。お客さまに迷惑をかけないかたちでクリアすると言っているが、その目途がたたないと、なかなか大きい資本を使うという判断はしづらい状況ではないかということを申しあげている。個別銀行として、私どもも含めて動く可能性はゼロではないが、一般企業が円高の環境下で相当程度海外に出資している動きに乗って金融界が動くかというと、そういうことはないのではないかという趣旨で申しあげた。現実には、そういうことが起こり得ることはあるかと思うが、雪崩を打ってそういう状況になるということはないという趣旨で申しあげた。


(問)
 G-SIFIsとは、巨大金融機関を対象としたサーチャージの問題のことか。
(答)
 1%から2.5%上乗せすることが宣言されている。個人的には、我々がその対象になる可能性は高いと考えており、その場合には、非常に高いバーになる。


(問)
 バーゼルIIIが、金融システムの維持にマイナスになる部分があるということなのか。その部分を緩和してくれれば救済しやすくなるということか。
(答)
 一面のみを捉えればそうかもしれないが、そのようなことはないし逆だと思う。今のヨーロッパの動きを見れば、むしろ早めようとしている。本当の一部分、我々が動けないという点のみについてはそういうことかもしれないが、トータルとしては反対だと思う。


(問)
 1点目は、東電の特別事業計画について、原発再稼動の問題や電気料金値上げなど、どれぐらい踏み込んだ内容になり、金融機関としてはどこに注目しているのか。2点目は、今回の欧州の債務危機について、リーマンショックと比べて、影響の大きさを比較して、どれぐらいになると見ているか、お聞かせいただきたい。
(答)
 第三者委員会の報告書では、原発稼動時期と電気料金値上げに仮定を置いたシミュレーション結果がマトリックスになっている。原発稼動時期と値上げは、相当程度、政治マターである。11月上旬くらいまでに、それらを特定してメインシナリオの計画を打ち出すのは非常に難しいのではと感じている。一方で、一番の目的である賠償はどんどん進めなければならない。11月に経済産業大臣と総理大臣が特別事業計画を認可する流れにあると考えられるが、その時までに、それだけ大きな問題に結論が出るのは難しいのではないか。むしろ、これから実際の賠償額等が固まってくるので、それに対応できる案が出てくるのではないかと想定している。原発再稼動と電気料金値上げは相当難しい話であり、じっくりと時間をかけて検討せざるを得ないのではないか、と考えている。
 もう1点のリーマンショックと比べてということだが、性質としてはリーマンショックよりも重いと思う。これは原点が財務問題であり、国の問題であるからである。これが金融機関の方に飛び火しているという図式である。国の問題、財政の問題であるため、EUのなかでコンセンサス作りというのが非常に遅れるし、今度の基金の拡充にしろ、もっと着実にステップを踏んで、スピーディーにやっておれば、こういうマーケットが荒れるという事態にはならなかったのではないかと思われる。
 したがって先ほど申しあげたとおり、今後1ヶ月の間に、着実にステップを踏んで、マーケットも納得するような案をG20で了承するという流れになるだろうし、そうなってほしいと思っている。
 そこまでいけば、リーマンショックよりは軽い形で、収束することは十分にあり得るのではないか。ただ、財政問題というのは各々の国が抱えており、そう簡単に解決する問題ではないという意味で、やはりリーマンショックのような個別金融機関の問題とは違う、性格的には非常にシリアスであるということだと思う。


(問)
 全銀協の統計の9月末の貸出が23ヶ月ぶりに増加になったという発表があったが、それに対する受け止めと、大手行に関しては依然としてマイナスが続いているが、そちらに関してはどう考えているのか。増加のトレンドというのは今後続いていくのか、それとも一時的なものだと見ているのか。教えてもらいたい。
(答)
 ご指摘のとおり、昨日全銀協から発表した全国銀行ベースの貸出が約2年ぶりにプラスになったのは、+0.1%ではあるが、事実である。ただし、期末のワンポイントであり、本日日銀から出た期中平残では少しマイナスである。ただし、この数ヶ月をみてみると、マイナスであったものが、ゼロに近づく過程が続いていたので、ここでやっとプラスに転じたということだと思う。
 やはり、復興需要というものがベースとしてあり、金額的には電力会社の社債が貸出に振り替わっているということもあると思う。もともと、地方銀行、第二地銀ではプラスが続いており、都市銀行が大幅マイナスであったために、全体としてマイナスという図式であった。これが、9月には、都市銀行のマイナスが2%程度にまで縮小し、それがゆえにトータルでプラスに転じたということである。今後については、第3次補正というわけではないが、復興需要がベースにあるし、生産が増えていくと、結局、運転資金、設備資金が出てくるので、このプラスは一時的なものではないと思う。おそらくある一定期間はこの流れに乗って、プラスでいくのではないか、そうなって欲しいと思う。


(問)
 日航の支援をやっていた企業再生支援機構の支援要請締め切りが明日までと聞いているが、企業再生支援機構をどうみているか。震災が起き、景気低迷が続きそうななか、このような官民ファンドが打ち切りとなり、それに代わるものがまだ見えない状況で、民間としてどのように支えていくのか、意見を伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、支援要請は明日で締め切られるが、来年の4月中旬までに支援決定を行うものもある。これは時限立法であり、法律の問題であるが、要請が強ければ延長もあり得るものだと思う。支援の持ち込みはそのような形となるが、現在進行形で相談している案件は、様々な銀行で各々あると思う。そういうものは、4月中旬まで検討されるのであるから、実際に支援決定に至ることも十分にあり得る。
 企業再生支援機構は元々中小企業のために設立されたものであるが、たまたまJAL問題が生じ、この機構の利用が良いのでは、と2年前に判断され、非常に大きな案件を手掛けることとなった。その後も、それ相応に大きな案件を扱ったという経緯にあると思う。このような支援機構は、それが必要な時には何度も立ち上がっているので、公的な支援機構が全くなくなる状態が続くということはないと思う。一方、民間の再生ファンドもそれ相応に整備されているので、企業再生支援機構が来年4月中旬に支援決定終了となっても、それほど心配していない。


(問)
 東京電力について、第三者委員会の報告書にあるとおり、残高維持要請が来た場合、債務者区分はどうなるのか。
(答)
 債務者区分が変わることはない、と考えている。


(問)
 バーゼルIIIに関する質問であるが、金融危機の中でバーゼルIIIの導入を延期したらどうかという話が欧州方面から出てきているようであるが、そうした導入延期論について、どう考えているか。
(答)
 それが採用されることはありえないと考えている。導入延期論は銀行側から出ていて、JPモルガンのダイモンCEO、ドイツ銀行のアッカーマンもそう言っている。ただし、当局側からそういった声はまったく出ておらず、私も先般ワシントンで開催されたIMF総会の場でいろいろな高官とも話してきたが、むしろ必要性が増しているとの意見を持っている印象。それどころか今の欧州の状態を踏まえて、前倒しすべきとの主張すら聞かれる程である。規制強化を強く主張していたのは、アメリカ、イギリス、スイスであったが、これにEUが加わりつつあるのが今の状態であることからしても、導入が延期になることはまずありえない。いろいろな当局と話したが、それが共通認識であったと思う。


(問)
 ゆうちょ銀行が特例会員として、加盟をする流れだという話があったのでこれに関連して伺いたい。ゆうちょ銀行が属している日本郵政であるが、郵政改革法案がずっと国会で継続審議となっている。この法案に関して限度額の引き上げを含め全銀協は一貫して反対の立場であると思うが、このスタンスに変わりがないか。変わりがないということであれば、今回加盟を受け入れることになるが、姿勢として矛盾しないのか、どう考えればよいのか教えて欲しい。それから、郵政改革法案であるが、かなり長い間国会で審議されないという状態が続いている。このこと自体金融システムの中でよいことではないという声もあるが、どのように考えているか教えて欲しい。
(答)
 全銀協は元々、郵政改革に対しては大反対であるので、宙ぶらりの状態が続いていることは良いことではないと思うが、そうかといって法案が通ることは全銀協としては納得できないということである。あの法案のエッセンスは、官の出資を残しながら、最終的には3分の1超残しながら、業務範囲は拡大するという案である。そういうことは元々あってはならないということを、全銀協として言い続けているが、それに反する改正法案になっているため、反対しているということである。官ということであれば、それはあくまでも民の補完であり、元々は少額貯蓄のためにできた制度であるにもかかわらず、世界に冠たるというような巨大金融機関になってしまったわけである。それが、様々なところで経済全体、金融全体に悪影響を及ぼしており、もともと、300万円の時代が長かったのであるが、それが匍匐(ほふく)前進のように1,000万円になっていった歴史もあるので、そのようなことはやめて欲しい、ということである。
 少なくとも官は民の補完であるということを明確に法律の第一条ぐらいに記載し、縮小していくという内容でないと賛成はできない。郵政民営化法の議論の際も、官ということであればやはり、今申しあげたように縮小し、民で行くのであれば適正規模もあり一気に100%民営化するのには時間がかかるので、その間の段階論的なものを入れて欲しいということはこれまでも言い続けて、民営化法案ができたわけである。現在は凍結法が成立している状態ではあるが、完全民営化にしろ、官の影響力を残すにしろ、どちらも我々には主張があるわけで、少なくともそういうものに応える法案でないと我々は賛成できないということだと考えている。
 特例会員になることと矛盾するのではないかということについては、一見するとそのような感想を持ってしまうかもしれないが、我々としてはそういう意識はなく、例えばゆうちょ銀行は預金保険制度に入っているし、かつ、お客さまの立場から見れば、マネロン、振り込め詐欺、ADRの分野では、ゆうちょ銀行だからこうだとか、民間金融機関だからこうだとか言うものではない。そういった分野の情報提供をお願いしたいということは、ある面でよく分かるので、そういう分野に限った形の加盟の方法というものを、これまで検討してきたわけである。このような形であれば、両方の要請に応えられるではないかという我々民間金融機関の考え方と、ゆうちょ銀行のその分野の情報が欲しいというニーズを踏まえたうえで、これは結局、顧客利便、顧客保護という世界に通じるため、全銀協としても受け入れてよいという結論に至った訳である。


(問)
 先ほど貸出の話をされた時にもおっしゃっておられたが、改めて、震災からの復興関連資金需要について、春には、「秋口にもそろそろ顕在化してくるのではないか」とおっしゃったが、当初、夏前、春前に想像されていた資金需要の出方と、実際の出方はどのように違っているか。もし少ない場合、どういったことが理由なのかというところを教えていただきたい。
(答)
 春の段階では、サプライチェーンの寸断で生産できないという状態があったわけで、この期間、メーカーというのは、ものすごい赤字になる。そうすると資金も当然足りなくなる。だから、当時は相当巨額の資金需要が出るだろうと思っていた。
 ただ皆さんご存知のとおり、各メーカーの努力というのは凄かった。サプライチェーンの再構築には、秋口ぐらいまでかかるだろうと思っていたが、実際には、6月くらいまでには復旧されたため、結果として、4-6月には、そういう種類の資金需要というのが、思ったほど出なかった。そして、7-9月には、グイグイという感じはないのだけれども、非常にコツコツという状態で貸出が増え始め、9月にはプラスに転じたということだと思う。
 したがって先ほど申しあげたとおり、この動きというのは当面続くとみている。一気に+0.1%が+1%になり、+2%になるかどうかは別として、少なくとも資金需要がそれ相応に強い状態というのは、10月以降、この下期全般くらいは続くのではないかと思っている。もちろんこれも先ほど申しあげたが、電力会社に対する貸出が社債から銀行貸出に振り変わっている部分もあり、これが本当の復興需要と呼べるのかという点はあろうが、ただ、貸出需要としては、着実に改善していることは事実であると思う。


(問)
 中小企業金融円滑化法について伺いたい。足元では円滑化法を利用しても倒産するケースが増えてきていると聞く。もともとは、返済猶予期間中に業況が改善していくシナリオだったと思うが、円高などの要因で、なかなか改善が見込みにくい状況になっている。また、同じ顧客が繰り返し条件変更するケースも増えていると聞く。もしそうであれば、今後、債務者区分の分類が変わり、銀行の与信費用が増える状況が顕在化してくるのではないかと思う。今後の動向について、どのようにお考えか。
(答)
 中小企業金融円滑化法の精神については、私自身も決して反対ではなく、当時、亀井大臣と話をしながら方向観を決め、1年の時限立法として成立した。今年3月に期間を1年延長し、現在2年目に入っている状態である。ご指摘のとおり、返済猶予期間中に銀行とお客さまが一緒になって再建計画を作成していくが、再建計画通りに進む非常にいいケースもあれば、当然、そうではないケースも起こる。
 ただ、返済猶予の申出があった際に、倒産に近い会社が例えば10社あった場合、そのうち5~6社、あるいは3~4社でも、再生計画に基づいて最終的に再生できたとなれば非常にいい制度だったということだと思う。ご指摘の点は、逆のケース、再生が難しい先が倒産するということだと思うが、そういう現象は起こるとは思う。


(問)
 バーゼルIIIと関連して、報道ベースであるが、欧州において6%とされているコアTier1比率の最低水準について、9%まで上げるべきであるとする意見も出てきている模様だが、一方ではそういうことをすれば貸し渋りを誘発し、経済に悪影響を与えるのではないかという意見も出ている。つまり、規制を導入するタイミングを誤ると、かえって経済を壊したり、金融システムにとってマイナスになることもあるのではないかと思われるが、どう思われるか。
(答)
 おっしゃるとおりだと思う。タイミングを間違えるとそういうことが起こりうる。その点については、我々は、バーゼルIIIの議論開始時からずっと主張していた訳である。ただ、議論を始めてから2年、3年と、様々な協議を経て、今のルールが出来あがり、時間をかけて段階的に導入しましょうという内容であるから、この段になってやっぱりそれはおかしいということは、言うべきではないのではないかと思っている。しかも、これまで欧州大陸系諸国は、非常にバーゼルIIIに対して批判的に動いてきた。それが、今のご指摘のとおり、逆方向で、しかも早期に、真偽の程は不明ながらも、欧州銀行監督機構が定義するコアTier1について9%を要求するというのは、ちょっと行き過ぎではないかと感じている。しかしながら、先程申しあげたとおり、今週末、来週、それと11月3日に向けていろいろなトップクラスの会議で認定されるという流れになるであろう。ご指摘の心配は当然にあると思う。