2012年4月 2日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 4月1日付開催の理事会において、みずほフィナンシャルグループの佐藤社長が全銀協会長に選任された。新体制における会長・副会長は、お手許の資料のとおりである。
 また、本日はこのほかに佐藤会長の略歴と写真をお配りしている。
 事務局からの報告は、以上である。

会長記者会見の模様

 みずほフィナンシャルグループの佐藤でございます。
 このたびの理事会において、永易前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになりました。これから一年間、皆さま方のご支援を賜りながら、この大役に取り組んでまいりたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、永易前会長に一言、お礼を申しあげたいと思う。
 振り返ると、昨年度は、東日本大震災に見舞われた国内だけではなく、欧州債務問題に直面した海外においても、大きな試練を受けた一年であったかと思う。この間、永易前会長は、未曾有の困難を克服し、新しいステージに踏み出すためにしっかりと取り組んでいただいた。
 東日本大震災への対応にあたっては、被災地域における緊急措置や金融取引の円滑化に最大限努められるとともに、二重債務問題に木目細かく対応していただいた。また、金融犯罪の防止等を目指した「より安心・安全な金融取引環境創り」や、バーゼルIIIの自己資本比率規制等の「新たな法制度の枠組み創り」に、わが国銀行界の代表として見事なリーダーシップを発揮いただいた。永易前会長のご尽力に対し、心から敬意と感謝の気持ちを表したいと思います。

 さて、改めて最近のわが国を取り巻く経済情勢を見ると、グローバルな実体経済の構造が大きく変化してきている。これまでの世界の需要を支えていた米国では、金融危機後の構造調整局面が長引き、欧州においてもソブリン問題の影響で低成長が見込まれるなど、世界経済における先進国の牽引力は大きく低下している。
 一方、中国がGDPで世界第2位となり、中資系企業が資本市場・金融市場でも存在感を増している。また、アジア地域等の新興国は、堅調な経済成長を背景として、先進国に代わって需要を創出する役割を担うに至っている。この世界経済の構造変化は、わが国経済への影響という点で、特に製造業について申しあげれば「良いものを作れば売れる」という発想から「売れるものを作る」という、新興国のニーズに目線を合わせる企業が増えてきており、こうした企業の動きに注目することが必要と思われる。
 欧州債務問題については、ECBの流動性供給を受け、足下落ち着きを取り戻している状況であるが、第一に、単一通貨でありながら財政政策は各国が個別に権限を持っているという、ユーロの枠組みの基本的問題点はいまだ解決策が見い出されていないこと、第二に欧米亜各国の金融緩和策の継続により供給された高水準の流動性が、今後国境を越えて株や債券、不動産あるいは原油等のコモディティに一気に押し寄せてくるリスクが存在していることから、世界経済は引き続き不安定な要素を内包していると考えられる。
 このような状況下、わが国では、急速な円高を背景とした産業空洞化の進行に加え、少子高齢化による将来的な成長力減退といった短期的・中長期的な構造変化が同時並行的に進行している。特に、都市部と経済格差が広がっている地方経済はより厳しい状況にあると認識している。
 「右肩上がり」という状況を期待しにくい状況になりつつあるなかで、新たな需要を創出し、日本国内の雇用を確保していくためには、農業・漁業、あるいは医療・介護等、環境の変化に対応した新産業・新市場を創出することが求められている。わが国は、産業構造の歴史的転換期にさしかかっていると感じており、金融の果たすべき役割は増大していると考えている。
 この歴史的な局面にあって、わが国は東日本大震災という未曾有の国難に直面した。政・官・民が一体となって早期の復旧・復興に取り組んだ結果、経済は回復に転じているが、依然としてその取り組みは道半ばであり、震災については、「1年が経過した」と考えるのではなく、「今そこにある課題」として捉えなければならないと思う。また、震災からの復興にあたっては、震災前の姿に戻るということではなく、これまで申しあげてきたような内外経済の構造変化を踏まえながら、被災地に留まらず新しい日本を創り上げていくという視点と気概が重要になると感じている。
 さて、国際金融システムの状況に目を転じると、リーマンショック後の金融危機により、金融市場における自由な取引を重視する英米型の資本主義の行き過ぎが見直され、バーゼルIIIなどの国際的な金融規制強化に向けた取組みが進展している。
 わが国の金融システムは、金融当局のこの間のご努力もあり、幸い堅確性の面では、欧米に比べ優位な状況にあるが、金融市場がグローバルに一体化しているなか、国際金融システムからの影響を受けやすい状況にあることにつき、引き続きしっかりと認識していきたいと考えている。
 このように、グローバルレベルでの経済構造や金融市場のパラダイムシフトが急速に進行しつつあるなか、金融業には、伝統的な資金仲介機能の発揮にとどまらず、日本経済やアジア経済の成長にアクティブに関与していくことが、これまで以上に強く求められている。先般策定された政府の「日本再生の基本戦略」でも金融の戦略的な重要性について言及されているが、私ども銀行界としては、地域や成長企業への円滑な資金供給を行うのはもちろん、環境の変化に対応した新産業・新市場の創出に繋げていけるよう、努力していきたいと考えている。
 具体的には、震災からの復旧・復興に向けた取り組みはもちろんのこと、わが国経済の構造変化に対応した新しい産業への資金供給に向けた取組み、成長著しいアジアにおけるインフラ需要や日系・非日系企業のニーズへの対応等を通じて、わが国経済の成長やアジア経済の拡大に貢献していきたいと考えている。
 金融市場が適切に機能を発揮していくためには、その健全性が十分に確保されている必要がある。金融システムの構造変化に対して、個々の金融機関が健全性やリスク管理体制を強化していくことに加え、金融市場において市場規律がより適切に発揮される環境を整備していくことも、わが国金融業が取り組むべき重要な課題であると認識している。
 以上を踏まえ、この一年を「復旧・復興を確かなものとし、新しい日本の礎を築く一年」と位置付けたいと思う。日本が活力を取り戻すための金融面からの支援を通じ、次のステージに向けた基礎固めを行うべく、しっかり対応して、意見発信を行っていく。
 具体的には、今から申しあげる「3つの柱」の実現を通して、最大限の貢献を果たしていきたいと思う。
 第一の柱は、「金融界内部の「ヨコの連携」の一層の強化による、震災復興への貢献と、日本経済の力強い復活に向けたフレームワーク創り」である。
 まず、震災復興への貢献に、今年度も最優先で継続的に取り組んでいく。特に、二重債務問題への対応については、個人版私的整理ガイドライン、産業復興機構・東日本大震災事業者再生支援機構の活用を推進していきたいと思う。
 次に、内外経済の構造変化等に対応して、日本経済の力強い復活を実現するためのフレームワーク創りを進めていきたいと思う。
 中小企業をはじめお客さまの事業の発展を支え、国内雇用を確保し、ひいては日本経済の健全な発展に貢献するため、銀行界としては、資金需要への対応やコンサルティング機能の発揮についてさらに前向きに取り組んでいるところである。
 先般、中小企業金融円滑化法が1年間延長されたが、中小企業金融の円滑化は金融機関の本来業務であり、法の有無に関わらず、恒常的に果たすべき重要な社会的役割の一つであると認識している。全銀協としては、円滑化法の主旨を十分踏まえ、安定的資金供給とコンサルティング機能の一層の発揮等を通じて、お客さまの経営改善をサポートしていく所存であり、円滑化法の期限を見据え、関係当局とも力を合わせてしっかりと取り組んでいきたいと思う。
 また、中小企業における資金調達手段の多様化を通じて成長支援を強化する観点から、本年5月に予定されている「でんさいネット」の円滑なスタートや普及促進、ABLの活用促進に向けた取組み等を進めていく。また、中小企業等の海外進出のサポートや、公的部門との連携等を通じた成長資金の供給強化の枠組み構築に向けて、重要課題として積極的に取り組んでいきたいと思う。
 続いて、第二の柱は、「金融当局との「タテの連携」の一層の推進による、より健全な金融制度の枠組みを目指した取り組み」である。
 銀行界としては、バーゼルIIIへの対応を着実に実施するとともに、国際金融市場の変動にも適切に対応できるようリスク管理態勢を強化することにより、一層の健全性確保に努めていく。また、グローバルな金融規制を巡る議論に対しては、中長期的に健全な金融システム構築という主旨を踏まえつつ、わが国金融機関の実情や実体経済への影響にも十分な配慮がなされるよう、金融当局とのコミュニケーションを深めるなど連携を強化しながら、積極的に議論に参加し、意見発信していく。その際、国際会議の場等において、日本の金融界全体のプレゼンス向上にも積極的に取り組んでいきたいと思う。
 国内においても、郵政改革の見直しや、会社法、債権法、投資信託法等を始めとする法改正が今後予定されているが、金融関連法案等の改正等がわが国金融市場の健全な発展に資するものとなるよう、民間金融機関の立場から協力していきたいと思う。
 最後に、第三の柱は、「より安心・安全で親しみやすい銀行を目指した取り組み」である。
 市民社会の秩序や安全に脅威を与え、健全な経済・社会の発展を妨げる反社会的な勢力とは断固として対決し、安心・安全な利用環境を更に拡充するため、振り込め詐欺やフィッシングなどの金融犯罪対策および反社会的勢力排除に向けた積極的な取組み等を継続する。
 また、為替デリバティブ問題等の現状を真摯に受け止めるとともに、投資信託の販売等の問題についても、利用者保護の観点から適合性原則を徹底し、お客さまの立場に立って十分なご説明を行うなどの取り組みを一層強化していく。こうしたなかで、残念ながら問題を抱えたお客さまに対しては、迅速かつ丁寧な問題解決を図るため、金融ADR制度の適切・円滑な運営に努めていく。
 くわえて、銀行がもつ公共性を十分に自覚し、社会の健全な発展に貢献するため、視覚障害者対応や金融教育等のCSR活動や、節電等の環境問題にも積極的に取り組んでいく。
 以上、この一年間、全銀協として取り組むテーマを申しあげた。こうした課題にしっかりと対応することで、「復旧・復興を確かなものとし、新しい日本の礎を築く」ことが、銀行界に期待される役割だと考えている。この一年は、これからの日本にとって大変重要な意味をもつ一年となるが、どうか皆さまのご支援・ご協力を仰ぎながら、全力で取り組んでいくので、是非、よろしくお願い申しあげます。


(問)
 景気認識について伺いたい。本日日銀短観が発表されて、大企業製造業が前回調査から横ばいということで、日銀短観の内容の評価を交えて、足元の景況感と今後の日本経済、世界経済の先行きをどう見ているか見解をお願いしたい。
(答)
 本日の日銀短観を一言で申しあげると日本経済の復興・復活の足取りが確認された発表ではないかと思う。
 昨年は震災以降、タイの洪水もあって10~12月の実質GDPはマイナスであった。しかしながら、足元では部品調達の復活もあり、ITあるいは自動車産業で輸出がかなり強い状況になってきている。また、エコカー補助金の復活ということも大きなプラス要因となって、足元、日本経済の復活はかなり確かなものとなってきているという感じがする。
 今回の日銀の短観は、特に非製造業においてかなり強い数字が出ている。ただ一方で、製造業については、残念ながら横ばいの数字となっている。この製造業の横ばいの数字というのは、どういうところからくるかと言うと、一つはやはりエネルギー需給、特に原材料の高騰ということが若干足を引っ張っているという状況ではないかと思う。また、円高がまだ、引き続きかなり足を引っ張っている要素も加わっているのではないかと考えている。しかしながら、これからの1年ということで申しあげれば、3次補正の支出に伴う復興需要が足元も少し出てきているが、これから今年の中頃、あるいは後半に向けて、かなり復興需要が本格化してくるということ。それから、ただ今申しあげたエコカー補助金の復活、あるいは今度は円安による製造業に対するプラス効果といったものも複合的に効いてくるし、また株価の上昇といった資産効果も市場にはプラスになってくると考える。これからの日本経済については、しっかりとした足取りで復活していけるのではないかというのが私の感想である。ただし、不確定要素がいくつかあると思うが、特に申しあげたいのは3点。先ほど申しあげた原油価格の問題が、今後どのようなかたちで高まってくるのかということについては、中東情勢も踏まえ、不測の事態というものがあり得るのかもしれないので、注意していかなければいけない。それから二つ目は、今ご質問いただいた2番目の問題に絡むが、欧州の経済危機、足元ではECBの資金供給があり、やや安心感を取り戻している状況であるが、これからギリシャの総選挙、フランスの大統領選挙もある中で、このギリシャの経済再建がうまくいくのかどうかというような問題。それから、もともと、このEUの問題の基本的な発生要因であった通貨は単一だが財政は各国で独自に運営されているという根本的な構造問題については、今のところ解決策が打たれていないという点。それから三つ目には、今足元で欧州系金融機関が、6月に中核自己資本比率9%を達成しなければならないことから、引き続き、バランスシートの縮小に向っていることが挙げられる。これは、経済現象で言えば、貸し渋りに繋がる可能性が高い行動であり、それと財政再建が同時並行的に欧州で進行するという事態のなかで、欧州経済が今後どのような局面に向かって進んでいくのかということについて、足元は、今申しあげたとおりの状況にある日本経済に、今後、悪影響を及ぼす可能性がある一つの不安定要素というふうに捉えていかなければいけないというふうに認識している。


(問)
 先週末、消費税率の引上げが閣議決定されたが、銀行セクターでそれなりの規模の国債を保有していることを踏まえて、今後財政再建へ向けてどういった国会の議論を期待しているか、認識をお願いしたい。
 震災後の金融仲介機能は、復旧・復興にあたって、極めて大事な要素になってくるかと思うが、例えば中小企業貸出のデータを見てみると、必ずしも貸出が伸びている状況にない。今後、復旧・復興を金融面から後押ししていくなかで、銀行界としてはどのようにリスクテイクしていくか、どのように資金需要に応えていくか。そのあたりのお考えを聞かせてほしい。
(答)
 日本経済への世界の見方の一つに日本経済が抱えている政府の債務問題があるのはご指摘のとおりと思う。GDPに対する債務の比率でいえば、日本はギリシャより悪い数字であり、そういった点について日本経済の問題として考えられているということだと思う。
 いくつかの観点で申しあげたいが、この政府債務の大きさは、足元では日本経済の三つの点から問題には至っていない。一つは、日本が、外貨準備の面では未だ世界最大の資産を持っているという安心感。二つ目に、日本国債が95%程度国内で消化されているという、ギリシャやヨーロッパの国々とは全く違う構造を持っていること。そして三つ目には5%の消費税に代表されるように、日本国内においてはまだ増税余地があると見られていること。この主として三つの点によって、日本は政府の債務の大きさにもかかわらず、金利が安定し、国債の価格が安定しているという状況になっている。
 しかしながら、こういった状況は足元の状況であって、これから少子高齢化のなかで、高齢者の方々が預金を取り崩して消費に回すという行動がますます進んでくるということもあるので、国内の貯蓄で日本の国債を買ってその債務のファイナンスに充当されるという構造が、今と同じような形で十分保たれるのかということは、やはり中期的には問題になってくる可能性があるということだろうと思う。
 さらに、特に社会保障の問題から申しあげると、年々社会保障費は兆円単位で増えているのが実態であり、この構造問題に何らかの手を打たないと、先ほど申しあげた国内で95%消化されていくという構造が、中長期的には変わってくる可能性がある。また、マーケットが、変わっていくだろうと認識し始める、そういうリスクは内在していると思う。
 したがって、先般、閣議決定した消費税の問題を含めて、税と社会保障の一体改革の推進あるいは具体的な実行は、やはりこれから日本が何らかの形で具体策を決めていかなければならない重要な項目である。それは、全く疑問の余地はないところだと思う。
 私も海外の投資家といろいろなところでいろいろな議論をしてきたが、今の海外の投資家は、日本の消費税が何%かというようなことよりも、むしろ日本が様々な課題を自ら思案し、自ら実行していく、決定することができる国家であるかどうかということに日本に対する信任の機軸を置いているというのが私の印象である。何も決められない、問題を先送りしていくだけの国家という見られ方をすると、日本の信任が、その資産の内容に関わらずやはり問われてくるということだと思う。そういう意味において、消費税の議論あるいは、それとともに進められなければならない社会保障の問題等については、今後ある程度痛みを伴ってもしっかりと議論し、決めていかなければならない、そういう課題ではないかと思う。
 また、最後に一つだけ申しあげるが、もう一つ大事な点は、税の問題、社会保障の問題と表裏一体の問題であるが、どう日本経済が成長していけるのかという成長戦略である。成長戦略無しに税収を上げて社会保障費を抑えるだけでは、個人的には、日本という国家が復活していくことはなかなか難しいという意識を持っている。
 一昨年政府で議論が始まった日本経済の成長戦略は、ピクチャーとしてはかなり具体的なものができていると思う。しかし、肝要なのは、それを実行に移せるかどうかということ、それから様々な規制の問題を省庁を超えて、クリアしてくことについて、国民、あるいは国全体が日本という経済を成長させていくために議論し、努力し、また実行していけることが、日本の将来にとって大切なことであるということを付け加えさせていただきたい。


(問)
 東京電力に対する支援スタンスについて聞かせていただきたい。もう1点、東京電力の会長人事について、今日トヨタの元社長で国際協力銀行の総裁に就任された奥田氏が、ボイコットなどが起こることなども可能性があるとして、一般消費財メーカーの出身者は難しいのではないかというようなことを言っていたが、どういった方が相応しいと思うか、考えを聞かせていただきたい。
(答)
 東京電力の問題については、全銀協の会長として答える問題ではないが、個別行の立場で若干答えたい。
 ご承知のとおり、東京電力の総合特別事業計画については、機構の方から提示があって、我々も主力行の一つとして検討してきた。現在、その計画について、東京電力と機構、経済産業省との間で議論が進んでいるということである。ただ、基本的には我々のスタンスは、総合特別事業計画のいくつかの前提を含めて、計画自体がきちんと具体化して実行可能なものであるかどうか、この点が東京電力に協力申しあげる最大のポイントである。東京電力という会社は、日本のインフラ会社の代表格であり、また電力という社会インフラの基本を提供している会社であるから、特に被災者の方々にしっかりと賠償責任を負っていける会社として存続していけるように、我々は基本的にはその支援・再生に協力申しあげる立場であり、そのポイントである総合特別事業計画が実行可能なものであるかという点を踏まえて、今後の協力関係について検討していきたいと思う。
 二つ目の質問の会長人事については、私の立場で申しあげる問題ではないし、何ら情報を持ち合わせていない。総合特別事業計画の策定・決定において、会長がどなたになるかということは、大変重要な要素だと認識しているので、なるべく早くしっかりした方が会長になっていただくことを期待したいと思う。


(問)
 先ほど会長がご挨拶で言われていたが、先週終わった邦銀の前年度決算は好調との報道があった。約5年半ぶりの高水準とのことだが、それでも国債依存という収益構造は変わっていないと思われる。国債保有はリスクと背中合わせだと思うが、欧米の銀行がかなり苦しんで、収益が伸び悩んでいる一方で、ビジネスチャンスだと思われる邦銀が国債依存という収益構造になっていることついてどう考えているのか、今後はどういったところで収益を上げていきたいと考えているのかお伺いしたい。
 また、郵政民営化改正法案が今国会で成立する可能性が出てきており、先月、全銀協の声明も出されていると思うが、新全銀協会長としてのコメントもお伺いしたい。
(答)
 まず、銀行の収益構造の問題が国債依存ではないか、ということと、今後どうやって収益を上げていくのか、というご質問についてお答えしたい。
 収益構造は金融機関によって多少違う状況であると思っているが、国債の問題については先ほど少し触れさせていただいたとおり、私自身も足元国債の価格が暴落して日本の金融システムに大きなダメージを与えるというようなことにはならないだろうと思っており、その理由は先ほど3点ほど申しあげた。
 国債依存という言葉がどこまでを指しておられるのか分からないが、先ほど日本経済の今後について申しあげたように、国内においては、まず復興需要が期待されるし、あるいは、所信表明で申しあげたように、被災地のみならず他の地方においてもいくつか新しい産業の芽が吹きはじめていることも注目に値する。一つは農業や漁業・林業のいわゆる"6次産業化"といわれているようなものが該当し、それから、太陽光発電・風力発電・地熱発電といった、いわゆる自然エネルギーのプロジェクトがかなり本格化して出てきていることにも期待ができる。これらの資金ニーズはそれぞれの地方で発生するもので、雇用もそれぞれの地方で発生するものである。国内雇用を維持するという観点からも、こうした新しい産業をサポートしていくことは大変重要な金融の役割だと思っており、同時に、我々金融界にとって業態を問わず大きな資金ニーズを捉えていくチャンスになっていくと考えている。
 その観点から申しあげると、お預かりした預金を日本経済の成長にどう結びつけていけるかが金融界にとっての課題であり、目の前にはそうしたビジネスチャンスが出現してきているとも言える。これを日本の経済成長につなげるためにも、金融界としてはその役割期待に応え、具体的な事例を積み上げていきたいと考えている。
 ここまでは国内のことについて述べたが、一方で海外について申しあげれば、アジアを中心とした海外の資金需要の旺盛さはここ数年来、あるいは初めてと申しあげても良い程かもしれない。こうした、アジアを中心とした海外の資金需要は、いわゆる個別企業の資金需要のみならずインフラのプロジェクトといったような比較的広範囲で大型のものまで含まれている。
 先ほどの所信表明における第一の柱、横の連携についてだが、金融界全体にとって海外事業はどのレベルのお客さまに対しても大きなビジネスチャンスになっており、特に中堅中小企業の海外進出についてはメガバンク・地銀・第二地銀といった銀行の業態を超えた横の連携でお客さまを強力に支援し、お客さまが海外でも収益を計上できるような構造をつくっていくことが金融のもうひとつの役割になってきている。別の言い方をすれば、そこには収益余地がまだまだ存在しているとも言える。
 日本経済は、アジアの成長という大きな流れにフックをかけながら成長していくという形をこれからも採らざるをえないと考えているので、そういった面からも海外における我々の収益機会はどんどん広がっていくのではないかと考えている。
 それから、もうひとつのご質問の郵政の民営化についてだが、今回の法案については、従来の郵政改革関連法案の内容から比べれば、基本的には民営化という方向感が確認されたということだと思われるので、ひとつの流れとしては評価したいと思う。
 ただし、金融2社については、当面の間は国の関与が残るということは事実であるので、その間、株式を2分の1以上処分した後は新規業務を届出制にするといった枠組みでは、民業圧迫という懸念は残ることから、これは先月の全銀協声明でも強調したことだが、完全に民営化するまでは届出制にすることはあり得ないと思っている。
 預入限度額についても同様で、完全に民営化するまでは国の関与は残るので、その引上げは当然考えられないことだと思っている。
 完全民営化に向かう方向感が確認されたことは、一つの評価の対象になると思うが、詳細はこれからと認識しているので、特に今申しあげたようなこと2点について、民業圧迫にならぬように進んでいくよう、これからも全銀協として、しっかりとこれを見極めていきたいと考えている。


(問)
 佐藤新会長が旧日本興業銀行、長信銀の出身で初めて会長に就任されたと思うが、そのご経験を踏まえて、長期金融の現状の認識と課題、例えば、東京電力や大企業との取引にしても、日本政策投資銀行いわゆる政府系の存在感の方が高まっている、そんな印象を受けるが、民間としてこれからどのように立ち振舞っていくのか、あり方として、佐藤会長として想いなどがあれば教えていただきたい。
(答)
 ただ今の質問についてお答えしたいと思う。一つは、政府系金融機関のあり方について、二つ目は、おそらく、国の関与というものをどう考えるのか、という二つの点で申しあげたいと思う。
 一つ目の政府系金融機関のあり方については、これはもう非常にはっきりしていて、やはり平時と危機時というものを分けて考える必要があるだろうと考える。リーマンショックのときもそうだったが、やはり非常に急激に大きな危機が訪れたときに民間金融機関では対応できない資金需要が確かにある、ということは事実だと思う。そういうものに対して、政府系金融機関で対応していただくということは社会的にも必要とされることであるし、そういう機能を持っていただくことは社会全体にとっても有益だろうと思う。
 逆に、平時になった場合にはその機能が危機時と同じように残り、それが民間金融機関あるいは民業の圧迫ということに繋がるようなかたちでいることは、本来の姿ではないだろう、と考える。したがって、今、申しあげた観点から、現在、存在しておられる公的金融機関が今後どうなっていくのか、ということについては全銀協としても大いに興味を持って見ていきたい、と申しあげられると思う。
 例えば、JBICのようなケースは、海外におけるプロジェクトについて、官、民が一緒になって、大きなプロジェクトをやっていくということでもあり、また、例えば今、長期資金の話が出たが、JBICはより長期のお金を出すことが出来る、一方、われわれ民間金融機関は10年程度なら比較的容易にお金を出すことが出来る、そういった意味においても、補完的な位置付け、量の問題だけではなくて質的な問題においても共存していけるということである。公的金融機関といっても、一概に申しあげることができず、共存できるものは共存して、ということだが、原則は、平時においては、民業圧迫にならないようなかたちで運営していただきたいということが基本だろうと思う。
 それから、もう一つの国の関与について申しあげれば、例えば、民間企業が再生していく過程で、国の関与というものがどのくらい認められるのかどうか、といった議論があり得ると思う。これは、その個別の案件の持っている性格によって相当異なり、民間金融機関が企業の再生について深く噛みこんで、リスクをとってやっていくというケースも当然ある。一方、国策的な色彩が強い場合においては、国の関与というものが、当然認められる部分も出てくると思う。だだし、そのどこの部分まで国が関与して良いのか、あるいはどこの部分までは民間で対応しなければならないか、という線引きについては、個別案件によって、相当事情が違うと認識しているので、それは個別案件ごとに区々に対応していくということだろうと思う。


(問)
 消費税の議論について。海外から、日本は何も決められない国なのではないかという視点で見られているという趣旨の発言があったが、佐藤会長ご自身は、今の民主党あるいは国会での議論をどのように見ているか、考えを伺いたい。
 また、本日発足した三井住友信託銀行で少しシステム障害が起こっているようであるが、それに対して金融庁でも昨年来みずほのグループでのシステム障害もあって、システムリスクに万全に備えるようにと指導もしていると思うが、改めてこういったことが統合時などに起きる背景についてどのように考えているか、あるいは全銀協としてまたシステム強化について、対応があれば教えて欲しい。
(答)
 2点目から回答する。システム障害が発生しているという第一報は耳に届いており、ATMでの障害というように聞いているが、規模と現状について今十分な情報を持ち合わせていないので、個別案件について申しあげる状況にはない。ただ、一般論として申しあげれば、私どもみずほは昨年大きなシステム障害を起こしてご迷惑をおかけ致しましたが、銀行システムは、社会的に非常に大きな影響を与えるということを我々自身が身をもって体験したことであり、システムリスクについては各行とも様々なストレステストを重ねながら、あるいは、システムリリースについても、いくつものチェックポイントを設けながら確かめて進んできているという状況であろうと思う。我々全銀協もシステムリリースがあるわけであるが、個別行としても銀行界全体としても金融機関の持っているシステムリスクというものを、社会的影響の大きなものと認識して、万全な体制で進んでいくことが極めて大事だと認識している。個別の話は情報が十分ではないので、一般論として、このようにお答えしたいと思う。
 最初の質問の、消費税の議論に関しては、政治の状況についてコメントする立場にないので差し控えたいと思う。ただ、野田政権の今回の改革のスタンスについて言えば、先ほど別の質問で答えたように、日本が置かれている立場と課題を認識し、税と社会保障の問題を一歩でも二歩でも前に進めなければいけないという信念で取り組まれているということなのだと思う。このブレない姿勢というものは、個人的な意見であるが、ご評価申しあげたいと思う。いろいろな政治的な要因もあり前に進められないということになると、先ほど申しあげたように、日本という国家に対するクレディビリティに問題が出てくる可能性もあるということだと思うので、なんとしても国民の幅広い理解をきちんと得ていくことが肝要だと思う。社会保障についての説明であるとか、歳出面の問題など、いろいろな議論があると思うし、当然政府としても工夫をされているところだが、とにかく議論を深めて国民の理解を得ることにより、この議論を一歩でも二歩でも前に進めていただきたいと考えている。


(問)
 欧州危機の件でお聞きしたい。ECBの資金供給で、欧州系金融機関が緊張感というか、その辺に緩みが出ているという話を聞くが、会長の印象として足元欧州系金融機関の資産圧縮の動きとか引上げとか、その辺のところがECBの供給で少しもたついているところがあるのか、その辺の切迫感が変わらないのかどうかというところを教えてほしい。
(答)
 全銀協会長としてお答えすべきかどうかという面はあるが、まずは今回ドイツ案として議論されているESMを活用した7,000億ユーロという枠組みについて考えてみると、既に使用が決定済みの2,000億ユーロを除外したいわゆる真水分の5,000億ユーロで今の欧州危機に十分対応できるかということについては、全体感を情報として持っているわけではないが、マーケット参加者の見方で言えば必ずしも十分ではないということだろうと思う。加えてもう一つ大事な観点は、ギリシャ経済が本当に復活できるのかどうかということであるが、ギリシャでは今度の総選挙によってどういう政権が出てくるのかといったことも含めていくつかの不安要素を残していることから、今の欧州経済についてはまだ不安が残っているということだと思う。
 欧州の金融機関が、ECBによる大量の流動性供給により少し安心し、やや危機感に欠ける状態になっているかということについては、少なくとも私がお付き合いしている大手の金融機関のトップは現状について安心しているわけではなく、危機感をむしろ高めているというふうに申しあげてよいかと思う。ただし、今回の状況がこれからどうなっていくのかということについては、今議論されているEFSFあるいはESMの最終的な安定化案がどのように決着するかということ、それからもう一つ、バーゼル2.5ベースで9%という中核自己資本比率を今年の6月末までに達成せよという要請に対して主要行がどういう対応をしてくるのかということ、この二点を見極める必要があると思う。私どもは、この問題についてはマーケットにいろいろなサインが出てくると思っているので、非常に注意深く見ており決して安心できる状態ではないと考えているし、また彼ら当事者もそのようには思っていないと言えると思う。従って、資産の圧縮について、例えばアジア等新興国の海外からの資金は、全体で見てみると、6割超はヨーロッパからの資金がファイナンスとしてついているわけだから、このファイナンスが徐々に本国に引き揚げられるというような兆候があるかどうかということについても、十分気をつけながらアジアにおける資金量といったものを見ていかなければならないと考えているところである。


(問)
 就任会見ということで少し前広でお伺いしたい。日本の金融システムを語る時に、しばしばオーバーバンキングというものが指摘される。銀行の数の問題であったり、本質的には預金量の問題なのだと思うが、このオーバーバンキングの問題について、会長はどのような認識でいるのか。特に預金量の問題で、低スプレッドの問題であったり、国債のファイナンスの問題であったり、ゆうちょの問題であったり、必ずいろいろなところに波及してくる問題なのだと思うが、もし問題があるとしたら、どのように改善しなければいけないのか。
(答)
 今、日本が置かれている金融の現状から申しあげると、金融機関の数という観点において、必ずしも日本がオーバーバンキングの状況であるという認識ではない。地銀、第二地銀、あるいは信金、信組といった地域金融機関の姿をよく見ていくと、特に金融円滑化法への対応の中で、各地域の金融機関が取引先に対し、相当深く入り込んだ議論をしている。そういう状況を考えると、現状がオーバーバンキングになっている、何か金融システムの不具合に繋がっているといったようなことはないと理解している。今後、地域経済のあり方という議論が活発になると思う。その中で地域の産業構造のあり方とか、そういったことを踏まえた地域経済のあり方が変わってくるなかで、金融のあり方も当然議論に挙がってくると思う。そういった議論の中で必ずしもオーバーバンキングの解消といった観点ではなく、地域経済のあり方ということについて、それぞれの地域で議論が進むという可能性はあると思っている。


(問)
 預金量としての預金過多という意味のオーバーバンキングということについてはいかがお考えか。
(答)
 それは、先ほど国債依存の収益構造というご質問でもお話ししたが、わが国が成長戦略をどのように描けるか、ということに大きく影響される話である。もし成長戦略をうまく描けないということになると、貸出よりも預金が超過する部分が投資の行き先を失って、結果として国債投資に充てられるといったようなことが構造上起こってしまうということかと思う。これからの日本経済のあるべき姿を考えると、地域経済の活性化、特に国内の雇用を守るということも含めて、これは日本経済というよりも日本社会として成長が必要になってくるなかで、今後そういったことが展開されていかなければいけないし、またそのシーズはすでにあると思っている。この預金超過という状態も、国内の貸出需要の増加ということの中で徐々に解決されていかなければいけない問題だというふうに思っているし、またそれが可能な状況になっていくと思っている。

別添資料:佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)