2012年7月19日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

和田専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 LIBORの不正操作問題が欧米を中心に大きな波紋を広げている。邦銀も調査対象となっているようだが、邦銀の関与の有無も含め、会長としてどのように受け止めているのか。
(答)
 LIBORの件については、現在、調査中であると理解しており、調査内容についてのコメントは差し控えたい。
 邦銀の関与の有無については、私見になるが、現在のところ、今問題とされている不正操作への関与等があるとは考えていない。


(問)
 全銀協TIBORを巡っても昨年不正が発覚し、複数の金融機関が行政処分を受けた。制度上の欠陥を指摘する声もあるが、TIBORの制度の見直しについてどう考えているか。
(答)
 すでにご承知のこととは思うが、まず、LIBORとTIBORの算出プロセスについて説明しておきたい。
 LIBORについては、各リファレンス・バンクがインターバンクマーケットで調達可能な金利水準を報告するという建付けになっている。
 対象となる通貨は10種類、対象となる期間は短いものから長めのものまで15種類のレートを報告することになっている。通貨・期間ごとに各リファレンス・バンクが報告したレートのうち上下25%を除き、残りの50%分の平均値でLIBORを算出するというのが基本的なプロセスである。
 一方、TIBORについては、東京インターバンクマーケットにおける、プライムバンク間の取引を想定した場合に市場実勢と見なせるレートを報告するという建付けになっている。算出の対象は日本円とユーロ円の2種類、対象の期間は13種類ある。そのうえで、種類・期間ごとに上下2行を除外した残りのレートの単純平均で決めるものである。
 次に今回のバークレイズ銀行の事件について申しあげれば、大きく分けて2つの点が問われていると認識している。
 一つ目は、バークレイズ銀行のデリバティブ関係のトレーダーが、LIBORの報告を担う部署に対して、自行呈示レートを操作するよう働きかけを行ったという、内部管理上の行動規範に関わる問題であると理解している。
 これによって利益を得るのは、LIBORに連動するデリバティブ等で自己ポジションを保有しているトレーダー自身であり、正に個人の行動規範に係る問題であると思う。
 二つ目は、バークレイズ銀行が、リファレンス・バンクとして自行の調達コストを基準としたレートを報告するべきところ、そのレートが他行対比非常に高い場合、自らの調達コストが高い事実を公表してしまうことで、銀行自身の信用力に関わってくるという問題である。それを避けるため呈示レートを恣意的に引き下げることが行われたのではないかと言われている。ただし、本件について、事実関係は調査中であり、新聞報道ベースで申しあげた次第である。
 二番目の問題について言えば、TIBORはリファレンス・バンク自身の調達コスト自体を示すものではないので、バークレイズ銀行に関わる報道で問われているような問題は基本的に発生しないと考えている。
 これは、TIBORのリファレンス・バンクにとって、呈示レートを低くするというインセンティブが働き難いということを表していると言えるだろう。
 TIBORを巡っては、昨年、複数の外資系金融機関に対して行政処分が行われたが、これは先程申しあげた一つ目の問題、すなわち、行動規範に関連した問題であり、二番目の問題ではないと考えている。
 したがって、全銀協TIBORの公表プロセスについて、個人的には特段の問題が発生しているとは思っていない。
 一番目の問題、すなわち個人の行動規範の問題については、TIBORやLIBORに関わらず、法令遵守や内部管理態勢の問題としてしっかりと運営されなければならないと考えている。


(問)
 先日、国家戦略室から、政府日本再生戦略の原案が発表された。この内容についてどう評価されているか。超低金利にも係らず設備投資や貸出というのはいま伸びていないけれども、政府、日銀にはどのような政策を期待しているか。
(答)
 最初に、日本経済の現状をご説明したうえで、今回の日本再生戦略についての私自身の考え方を申しあげたいと思う。
 ご承知のとおり、7月2日に6月の日銀短観が発表され、以前に比べて、大企業の業況判断DIは、製造業、非製造業ともに改善している。製造業については、特にIT関連や素材分野の在庫調整がかなり進んだこと、あるいは、原油価格が下がりコスト上昇圧力が一服したことなどが、景況感の改善につながっていると認識している。一方、非製造業については、復興需要の本格化や、旅行、外食などのサービス業が好調であったことが、DIの改善につながっていると思う。
 また、設備投資が従来とは違った改善をしており、2012年度の設備投資計画については前年比で+4.0%と、6月の調査としては2006年度以来6年ぶりの高い伸びを示している。海外経済、特に欧州あるいは中国の景気減速等、比較的不透明なところはあるが、復興需要の進捗や底堅い個人消費と合わせて、足元の日本経済は順調な回復を示していると認識している。
 貸出についても、10ヶ月連続で銀行貸出残高が前年を上回るなど、全体として見れば緩やかな増加傾向にある。ただし、そのようなかたちで日本経済は順調な回復を続けているという認識ではあるが、これが本格的な力強い回復に向かっていくのかどうか、例えば、仮にエコカー減税の期限が到来した場合、この消費が継続するかどうかは不透明であり、復興需要についても、いろいろな要因によりその需要が減少する可能性も否定できないので、この景気回復の足取りが確かで大きなものに成り得るかということについては、今後、慎重に注視していく必要があると考えている。
 その観点から申しあげると、2010年6月に閣議決定された新成長戦略については、財界も含めて、幅広い議論を集約した結果として、取りまとめられたものであり、国内の資金需要、あるいは雇用を回復していくため、例えば医療、介護、環境関係、健康関係等の産業に対する見方、あるいはその力の入れ方といったことが謳われ、アジアにおけるインフラ需要を的確に取り組んでいくというような観点も入っている。今回の日本再生戦略は、この成長戦略を土台としつつ、震災後の環境変化も踏まえて日本の将来の成長に係る戦略として網羅的に取りまとめられており、方向観についても評価出来ると考えている。
 ただし、私も経済産業省でいろいろな審議会のメンバーを務めさせていただいているが、この日本再生戦略を含めて、日本経済の成長の方向性はかなり固まってきていると思うものの、日本経済における最大の問題は、これをどのようにしてスピーディーなアクションにつなげていくかということだと考えている。その際に、政策の意思決定、あるいは省庁の垣根を越えたアクションが可能かどうかということが、日本経済の将来の本格的な成長の最大の鍵を握っていると思う。
 現在の足元の緩やかな回復を一つのベースにして、具体的な成長戦略をまさにアクションとして一歩一歩現実のものとしていけるかどうかが、これからの最大の課題であり、金融機関、金融に携るもの全員が、この方向観にもとづき、戦略の具体化に向けて、金融という立場から積極的に関与していくということが、極めて重要であると考えている。


(問)
 公募増資インサイダーの問題だが、大手証券3社の関与が発覚したことについてどう受け止めているかということと、株価が全体として低迷しているなか、こうした不祥事が起き、行政処分の可能性が指摘されているが、独立系証券会社の経営の状況についてどう考えているのか、今後の連携や再編の可能性についての見方をお聞かせ願いたい。
 それから、金融庁から証券12社に対して来月3日までに一斉点検することが命じられているが、御グループでは問題が見つかっているのかどうか、現状お答えいただける範囲でお願いしたい。
(答)
 今の証券業界、証券市場をどう見ているのか、また、インサイダー取引を中心とした一連の不祥事に対する今後の見通し、というご質問であると理解してお答えする。
 みずほフィナンシャルグループの社長として、株主総会後に海外の投資家を往訪してきた際の個人的な感想を申しあげると、欧州経済や米国経済が思わしくなく、また、最近、新興国の経済にも若干ブレーキがかかっているなかで、日本の証券市場に対する海外の投資家の興味は非常に強まっていると思う。
 今回の消費税の問題について、海外の投資家も非常に注目していたが、結論を得ようと動いている日本の政治は、非常にポジティブに映っていることは間違いないと思う。
 もちろん、消費税については国内でいろいろな意見があることは承知しているが、従来より海外の投資家は、日本が自らの課題を確実に解決できる国であるか否かという点に注目しており、消費税については一歩前進という印象を持っていると思う。
 したがって、海外の投資家は、消費税のみならず、日本が抱える諸問題に対し、わが国がどのように対処していくのかを注意深く見ており、こうした問題を打開できれば、日本の証券市場に対する投資が従来とは異なってくる可能性はあると思う。逆に打開できない場合、日本市場に対する見方は非常にネガティブなものになると思う。
 証券会社の今後の動向についてコメントする立場にないので、個人的意見として申しあげるが、証券会社の大きな収益源は、IPOやPOなどのエクイティ関連ビジネスであることは従来と変わりはなく、最近は、株式上場件数が少なかったため、国内リテールでの株式売買等により収益を上げる構造であったと認識している。
 こうした観点からすると、今後、国内のみならず海外も含めてキャピタルマーケットにおける投資銀行的な役割を果たしていくことが、おそらく証券会社にとって大きな課題になっていくであろう。
 以上が証券市場の全体感であるが、公募増資インサイダー問題について申しあげれば、日本の証券市場のプレゼンスを向上させるためには、市場が開かれたものである必要があり、主幹事という極めて重要な立場にある証券会社が、信頼を損なうということがあったとすれば、大変遺憾である。
 そのような場合には、可及的速やかな対処が必要となるが、野村證券や大和証券のケースでは、インサイダー問題が発覚した時点で内部調査委員会を設置し、原因究明や再発防止策の策定など、確りと対処されており、発生した事実は大変遺憾であるが、その後の対応については、各社とも精一杯、日本の証券市場の信頼を守ろうと取り組んでいる。
 今後、当局がどのようにご判断されるかは全く分からないが、証券会社のみならず、日本の金融市場の信頼性を高めていくためには、今回の問題について、関係者が十分かつ適切な対応をしていただくことが、極めて重要であると思っている。


(問)
 世界中の金融の指標であるLIBORが歪められたことの深刻さ、根深さというのをどのように受け止めているか。マーケットの信頼を損なうという面もあるかと思うが、若干騒ぎすぎということなのか、その点をお願いしたい。
 もう1点はTIBORについてであるが、呈示レートの基準が異なることもあり、現時点では問題ないということであるが、LIBORの算出方法の見直しを見たうえで、より透明性を高めるために見直す考えがあるのかどうか、お願いしたい。
(答)
 LIBORの問題について、全容がまだ十分に解明されていないものの、行動規範に関連した問題、つまり先程申しあげたバークレイズ銀行のケースにおける一番目の問題について申しあげれば、仮にトレーダーが自行の呈示レートを操作しても確実に収益をあげられるとは限らない仕組みになっていると理解しており、今後の実態解明の進捗に、私自身、非常に重大な関心を持っている。
 LIBORは世界中の金融取引において基準金利として用いられており、融資取引のみならず、デリバティブでも利用されているため、そのような不正行為がもし仮に事実であれば、これは重大な問題であろうと考えている。
 TIBORについては、先程申しあげたように、現時点で公表プロセスについて何らかの問題があるという認識は全く無いが、全銀協としても、LIBOR問題の展開を見極めながら、今後の対応を検討していきたい。そのためにも、まず、全銀協TIBOR公表要領に記されている各プロセスについて、リファレンス・バンク、事務代行会社、および全銀協の事務局において、手順がきちんと遵守されていることについて、一斉点検を行うこととした。8月10日までに点検結果を提出してもらうよう依頼しており、その結果を十分吟味したいと思う。
 この点検等を通じ、全銀協TIBORの信頼性を一層高める、あるいは分かりやすくする為に必要なことが見えてきた場合には、私ども全銀協として、自ら検討を進めていきたいと考えている。その際、現在進められているLIBOR事案の全容が解明され、それを受けた何らかの具体的な改革案あるいは改正案が示され、それが全銀協TIBORにとって有益なものであれば、是非参考にしたいと思っている。
 一言付け加えれば、LIBORは確かに影響の大きな指標であるが、TIBORについても、すでにこれをベースとする金融商品が相応に存在している。これは東京金融市場がそれだけ認知されていることの表れであろう。世界を見渡してもTIBORのような広がりをもつ金利指標はさほど多くはない。したがって、全銀協としても、このように重要なTIBORの信頼性をさらに高めていくという努力を続けていくが、その際には、TIBOR、即ち東京金融市場の存在感を十分踏まえたうえで、必要に応じて多面的な検討を進めていきたいと考えている。


(問)
 為替デリバティブの金融ADRについて伺いたい。今の、金融ADRの企業の申立ての状況を教えていただきたいのと、それに伴う損失を各銀行それぞれ違うと思うが、全体としてどのように見ているのか、今後もそういった金融ADRの申立てが増えるのかどうか、聞きたい。
(答)
 みずほの金融ADRの取組みについて申しあげる。当行としては、基本的な方針として、金融ADRを積極的に活用することとしている。もちろん、それぞれの案件の内容は様々であるので、すべての事案について金融ADRを活用すべきというわけではないが、金融ADR制度の趣旨を踏まえて、しっかりとそれを活用し、迅速に問題を解決することがお客さまにとってもベストなサポートになると考えている。
 金融ADRの申立件数は、2012年3月期は、前年度に比べて増加したと思う。これは、円高が進行するなかで、為替デリバティブを利用していた取引先に損失が生じるケースが増加し、それに伴って金融ADRの申立も増加したと考えられ、やむを得ない面があるのではないかと思われる。その結果として、銀行の負担が相応に増加したわけだが、財務的な側面を申しあげれば、すでに保守的に会計処理を行なっているため、今後において突発的な影響が出ることはあまり想定していない。
 全銀協としても、今後とも、金融ADR制度の存在あるいは活用の仕方について、より積極的に広報活動、宣伝を広範に行ない、この制度の活用を進めていきたいと考えている。
(問)
 個別行として財務への影響はあまり見ていないとのことだが、引当てによるその影響は。
(答)
 これまでの決算のように、今後についても、保守的な会計処理を行なっているので、突発的な影響が出るようなことはあまり想定していない。


(問)
 東京電力の関係で、本日家庭向けの電気料金の値上げ幅を8.47%とするということで関係大臣が合意したが、どのように受け止めるか。値上げ幅が当初の予定から随分圧縮されたが、東京電力の将来の収益計画がこれで維持できるのか、また、銀行の融資判断に影響はあるのか、お伺いしたい。
(答)
 金融機関の東京電力に対する新規融資、残高維持の判断基準は、あくまで総合特別事業計画のフィージビリティ、実現可能性に依っている。すでにご承知のとおり、1兆円の政府の増資、電気料金の値上げ、あるいは、柏崎刈羽原子力発電所の再稼動などのいくつかの要素が計画の中に盛り込まれており、個別の要素のみではなく、それらを全て含めたトータルとしての総合特別事業計画の実現可能性を見て、我々は判断するということである。しかしながら総合特別事業計画の中で、電気料金の問題、あるいは1兆円の増資の問題が大きな要素を占めるというのは事実であるので、本日、8.47%で値上げが決まったとすれば、私どもはもう一度、そのことにより事業計画のフィージビリティを見直すということになろう。個人的な考えではあるが、それに加えて政府の出資が行われるとすれば、基本的には、金融機関として東京電力を支えるという立場から、貸出ができるように順次ステップを踏んでいくということになるのではないかと思う。
(問)
 圧縮幅、値上げ幅は、想定の範囲内か。
(答)
 今ここで、圧縮幅や値上げ幅が妥当か否かということを申しあげる材料は持ち合わせてはいない。私の申しあげている意味は、その数字でもって総合特別事業計画をもう一度見直したうえで、それが東電の事業計画の妥当性あるいは実現可能性に大きな影響がでない範囲であるとすれば、計画どおりに進めていけるのではないかということであり、私どもを含めた関係金融機関も検討作業をしていくことになろうかと思う。


(問)
 成長ファイナンス推進会議で、休眠口座の活用についての方針が示されたと思う。従来からの全銀協の立場はあると思うが、改めて休眠口座の活用に向けた政府の方針について意見が欲しい。
(答)
 古川大臣が中心となって提唱された休眠口座の活用について現在検討が進められているところだが、全銀協としては、その検討にあたって最大限ご協力申しあげてまいりたいと考えている。預金は預金者のものであるという基本的な考えを踏まえたうえで、国民のコンセンサスや法律的な手当てといった政府の方針のもと、実務的な課題についても詰めていくことが必要と認識している。たとえば休眠口座を活用するためのスキームやコストの問題等、いくつかの論点があり、こうした点に関する検討を進めるためにも、金融機関として協力しなければならないことは多数あると思っている。私ども全銀協の中にも、本件検討のため睡眠預金検討特別委員会を作っており、また、みずほ個別行としても様々なかたちで全面的に協力をしていきたいと思っている。


(問)
 2問伺いたい。1問目が長期金利について。0.75%を割ってさらに低下余地があるということで、日本経済と銀行界への影響と長期金利の見通し。2問目が、日本に関わらず世界中で超低金利状態であるが、そのなかで銀行としてどうやって稼いでいくのか。手数料ビジネスや非金利ビジネスを伸ばしているが、まだまだ資金利益が大宗を占めていると思う。これだけの低金利で銀行はどうやってお金を稼いでいくのか。
(答)
 アメリカでもドイツでも歴史上始まって以来という低金利の状態が続いており、さらに米国経済について申しあげると足元でかなり不安要因が広がっていることもあり、QE3と言われる更なる低金利政策も議論の対象となっている状況である。
 欧州の金利については、ドイツでは下がり続けているが、その分イタリアとスペインでは高くなっている。この金利状況がどうなるかは欧州経済にとって非常に影響は大きいと考えている。
 敢えて最初の質問にお答えすると、各地で景気が非常に低迷しており、それに対して金利を下げて刺激しようという考え方を各国の金融当局がベースとしていると言うことができると思う。
 しかし、実は一方で、超低金利の継続方針には問題を孕んでいるとも考えている。日銀の白川総裁も言われているように、金融政策による景気刺激はある局面においては非常に伝統的に正しいものの、それ以上は効果が無くなる局面を迎えることもあり、日本のバブル崩壊後の様々な金融政策がそれを証明している。イギリスにおいても、最近まで金融政策の有効性を唱える人が多かったが、資金を供給しても実際には貸出は伸びない状況が続いており、懐疑的な見方も広がっている。
 この超低金利の継続という問題は二つの課題を惹起していると思う。一つは、金融政策と財政政策のバランスをもう一度考え直す必要があるという課題。もう一つは、大量に供給されるマネーが、過剰流動性として様々なマーケットに大きな影響を与えるという課題。超低金利政策はこれら現在の金融を取り巻く構造に起因する二つの大きな課題を惹起しており、看過できない問題だと考えている。
 金融政策と財政政策のバランスという課題について、日本に関して申しあげれば、資金供給を増やして景気を刺激する、デフレに対して戦うという日銀の基本的なスタンスは、非常に心強く思っているが、一方で金融政策だけでデフレの脱却あるいは景気の回復ということに結びつくかというと、極めて難しいと考えている。
 この状況は、今や日本のみではなく、もはや世界中で、それぞれの国あるいは地域において、経済成長戦略をどう作り上げ、素早く実行に移すかが、最も重要な問題となっているということだと思う。
 経済成長戦略の必要性を唱えるうえで、各地域の経済情勢に目を向けると、決して楽観できない状況が浮かびあがる。
 まず、欧州では、金融機関のバランスシート縮小の動きが急激に進んだ結果、相当な勢いで貸出が減少しており、同時に借入需要も後退している。
 一方、アメリカのGDPの70%を占める消費はかなり回復してきているが、住宅需要は回復していないなど、センシティブな状況である。場合によればアメリカの景気は緩やかな回復ではなく、緩やかな下降とも言えるかもしれない。
 中国に目を向けると、あらゆる指標が景気の減速感を示している。注目すべきは、2回の利下げによりこの景気の下降曲線を上に持ち上げることができるのかどうかだと思う。また、長期的な視野に立てば、中国は、様々な分野において、設備過剰の状態が起こっている可能性も否定できないのかもしれない。将来的には、過剰設備の問題を産業構造として整理することが求められる可能性があると思っている。
 そしてもう一方の課題である過剰流動性について申しあげると、ある統計では、世界の資金量は足元で2000年比約3倍超となっている一方、その間のグローバルなGDPの成長は2倍に留まっており、その差の部分が全く実態を伴わないマネーということになる。将来起こり得るリスクとして、過剰流動性についても絶えず頭の中に入れておかなければならないと考えている。
 次に、低金利の中で銀行がどのように収益を上げていくかというご質問であるが、国内の貸出需要は、復興需要や電力会社の需要はあるものの、基本的にさほど多くは伸びないであろうと考えている。また、例えば住宅ローンの金利についても、競争が非常に熾烈であり、足元徐々に金利が下がってきている。そのような状況のなかでどのように収益を上げていくのかということは、全ての金融機関にとって大きなテーマであると思う。
 国内に限って申しあげれば、ひとつは手数料収入・非金利収入であり、投資信託や保険の窓販で収益を上げる余地は引き続きあると考えている。また、さきほどの再生戦略の中に出てくる様々な施策が前に進むとすれば、特に地方において設備投資をもたらすプロジェクトが進んでいくと思う。例えば、1次産業の6次産業化などは、産業クラスターを作ることで設備投資と雇用創出が期待される。それが地方経済を潤し、雇用を増やし、地域金融機関を中心とした融資に結びついていくという順回転が起こっていけば、デフレからの脱却や構造変化をもたらすことができると思う。そういう具体的なアクションを我々金融機関自身が踏み出すことが出来れば、銀行の収益にも大きな影響が出てくると思う。
 一方、国際業務を展開する銀行では、もう少し他の要素が加わってくる。例えばみずほで申しあげれば、去年に引き続きアジアにおける貸出需要は強く、案件を相当厳選しても貸出残高は伸びていく状況にある。加えて、国内貸出のスプレッドが緩やかに縮小する状況であるのに対し、アジア向け貸出のスプレッドはむしろ拡大する状況にある。海外での業務展開については、各行とも異なる戦略を採っているが、その中でもアジアでどのように収益を上げていくのかという点が、おそらく今後の最大のポイントとなってくるであろうと考える。


(問)
 TIBORの公表プロセスに関し点検をお願いしているとのことであるが、点検の内容についての具体的な指示はあるのか。(点検が)あくまで自主的なものなのかということと、仮に問題が発覚した場合、何か処分や対処を考えているのか、についてお聞きしたい。
(答)
 点検内容はかなり広範に亘るため、この場では個別に全て申しあげられない。基本的には、全銀協TIBORのレート公表プロセスが、全銀協が定めた公表要領どおりに行われ、しっかりと遵守されていることを点検するものである。
 点検の結果、何らかの不具合が判明する可能性を全く否定することはできないが、現時点で不具合に対する具体的な対応策について申しあげることは難しい。例えば、その不具合が昨年の外資系金融機関によるユーロ円TIBORに関わる問題と類似したケースであれば、我々全銀協としてというよりも、内部管理態勢の問題として適切に対処されることとなるであろう。しかし、それと異なるケース、つまりTIBOR公表要領に関わる手続き上の問題として、見直しが望ましいと考えられる部分が明らかになれば、TIBOR運営機関たる全銀協として、全銀協TIBORの信頼性向上につながる対応策を前向きに検討していくことになると思う。
 仮定の話として、現時点で全銀協として何らかの罰則を下す必要が生じるケースを想定するのは難しい。
 繰り返すが、この点検の主旨は、基本的には、公表要領の各プロセスの遵守状況を当事者がしっかり確認し、全銀協として現状を把握しておきたいということである。