2012年9月13日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

髙木理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日、正副会長会議において、三井住友銀行の國部頭取を次期会長に推薦することを決定し、理事会において了承された。来年の理事会での正式な選定手続きを経て、4月1日付で就任予定である。
 事務局からの報告は、以上である。

会長記者会見の模様


(問)
 LIBORの問題を受け、全銀協ではTIBOR公表要領の遵守状況について一斉点検が行われ、結果として問題は認められなかったということだが、LIBORの問題、あるいはTIBORの一斉点検を踏まえ、TIBORの運用見直しというものを考えているのか、改めて聞きたい。
(答)
 ご指摘のとおり、全銀協が行った一斉点検の結果概要については、8月17日付ですでに公表しているとおりである。その際、精査を継続している旨を記していたが、本日の理事会で精査の完了報告が行われた。17日に公表した内容に特段付け加えるようなものはなかったという結論である。これにより、全銀協の作業は完了となり、TIBOR公表要領の遵守状況について、特段の問題は生じていないことを確認した、という旨の総括を行った。
 したがって、現在、全銀協としては、TIBORの公表プロセス自体に何か問題があるとは認識していない。しかし、ご指摘のとおりLIBORを巡り海外で様々な検討が進んでいる状況を踏まえれば、全銀協としても、TIBOR公表プロセスの信頼性を一層高めていくことが今後必要になる可能性もあり、海外のLIBORを巡る動向などについてスタディを始めたところである。LIBORの問題については、足元見えている議論の状況だけでなく、恐らくこれからも様々な動きがあるであろうと考えているので、TIBOR運営の信頼性を一層高めるために、それらをしっかりと勉強していきたいと考えているところである。


(問)
 欧州に関係して、先日、ECBが新しい国債購入プログラムの導入を決定し、昨日、ESM条約への批准をドイツ憲法裁判所が認め、かつ、欧州の銀行監督をECBに一元化する案が欧州委員会より発表された。こういった一連の動きに関する対する評価と、今後、欧州問題が世界経済に及ぼす影響についてどのようにご覧になっているか聞きたい。
(答)
 大変重要なご質問だと思う。ご指摘のとおり、ECBは9月6日に新証券市場プログラム(OMT:Outright Monetary Transactions)の諸条件を発表した。それによれば、OMTは、残存期間1~3年の国債を購入対象とし、購入額には特段の上限を設けずに流通市場から買取る、ということである。市場はこれを一旦好感し、焦点となっていた一部債務危機国の対独国債スプレッドは落ち着きを取り戻した。そうした国債市場の鎮静化は、スペインを中心とした債務危機国のファンディングに明らかにプラスとなると思う。 また、ドイツの上下両院が6月に行ったESM承認決議を巡るドイツ連邦憲法裁判所の判決の帰趨は、大きな不安材料であったが、ご指摘のように違憲請求を退ける判決が出された。ESMに対するドイツの負担に関し、憲法裁判所は幾つか条件を付けてはいるが、ドイツがESM条約に批准したことは非常に大きな前進だと受けとめている。
 しかし、ECBによる国債買入れについては、実施に付帯条件がついており、買入の対象となる国は、EFSF(欧州金融安定化基金)あるいはESM(欧州安定メカニズム)による適切な支援プログラムを受ける必要がある。このような条件により、スペインなどの債務危機国は必ずしも積極的にOMT申請を行わないのではないか、という報道もされており、そういう点で、このプログラムが有効に機能するのか、不安材料が残っているのではないかと思う。
 また、ドイツ憲法裁判所の合憲判決についても、ESMに対する拠出金額の引き上げには連邦議会の同意が必要との条件が付いており、ドイツの負担額に制約が課されている。こうした状態で、仮にESMがスペインを支援する場合、資金が果たして足りるのか再度問われる局面も、可能性として考えておかなければならない。そのような観点から申しあげると、今回の一連の動きについては、基本的には大変前向きに捉えたいが、今申しあげたとおり、いくつか不安材料は残されている。
 もう少し全体感で申しあげると、このような支援の枠組みが前進しても、下落傾向にある欧州経済のファンダメンタルズが回復するわけではない。欧州経済の本質的な課題として、緊縮財政を続けていく中で経済運営を行っていかなければならないという点から、我々としても注意深くこの局面を見ていく必要があると考えている。


(問)
 シャープについて質問する。資金繰りがかなり厳しくなっていて、以前ルネサスの時にも似たような質問をしたが、日本のものづくりという観点で、シャープへの支援というのは、やはり必要になるのか。その場合どういうものが求められていくのか。どういった条件が備わっていくのか。
(答)
 なぜ日本の電機電子業界が今のような状態になったのかという点については、様々な意見があると思うが、私からは2点申しあげる。1点目は、大きく変化していく世界の需要構造に対し、日本のものづくりが十分に対応できなかったということである。世界の需要の70%程度を先進国が担っていた時代には、「良いものを作れば売れる」という日本が最も得意とする分野で戦うことができたが、最早、世界の需要の半分以上を新興国が担うという時代へと大きく変化したなかで、「良いものを作れば売れる」という発想から、「売れるものを作る」という発想に、ある種コペルニクス的な発想の転換が必要になってきたということである。電機電子製品は製品サイクルが非常に短いため、こうした問題が早期に現れたということである。会見でもお話したことがあるかと思われるが、サムスンの携帯電話は中東ではスイッチを入れるとメッカの方向を指す矢印が出るし、LGのエアコンはインドネシアではマラリアを媒介する蚊が逃げていく香りが出るなど、それぞれの国によって異なる新興国の需要に合わせてカスタマイズされているが、日本の電機産業はこうした需要に十分対応できなかったという、いわば、マーケティングの敗北であろうと思う。そのことがこの電機電子産業の世界に強く出たということである。2点目は、非常に時間がかかる日本企業の意思決定構造である。一見、日本の電機電子産業を取り巻く環境が非常に厳しいように見えるが、カスタマイズやマーケティングの必要性、組織の意思決定のスピードといった問題は、日本の製造業のみならず我々サービス業も含めたわが国全体に突きつけられた問題であり、それが、製品サイクルの短さから電機電子産業に色濃く出ているのではないかと思う。
 シャープに対する支援方針について全銀協会長としてコメントするのは、相応しくないため、個別行の頭取として申しあげる。以前、会見の場で、ルネサス・エレクトロニクスの支援姿勢を問われた際に、同社は世界の自動車用マイコンについて、3、4割のシェアを持っていると申しあげた。シャープの製品と言えば皆さまは大型液晶テレビをイメージされると思うが、世界で最も注目されている同社の技術は、モバイルPCなどのディスプレイの消費電力を抑える技術である。モバイルPCはCPUの消費電力が大きいように見えるが、実はディスプレイの消費電力が最も大きく、これを抑えることができる同社の技術は、世界最先端、オンリーワンの技術であり、また、日本独自の技術である。こうした技術がこれからの日本の製造業の中心を担っていくのではないかと考えている。シャープやルネサス・エレクトロニクスのみならず、日本の製造業あるいは素材メーカーの中には、こうしたオンリーワンの非常に優れた技術をお持ちの企業がたくさんあり、そうした企業が、日本の産業クラスターを支えているのである。我々金融機関としても、金融の基本的な役割として、できるかぎりサポートしていくということが必要であると考えている。
(問)
 追加的質問であるが、銀行の側から見ると株主等もいるのでそういった融資に対する査定、目利き力というのもかなり必要になってくると思うが、時代の流れで、特に大手メーカーというのは、資金が苦しくなっているなかで、銀行側から見て、そういった融資への査定力についても変化を求められているのか。
(答)
 もちろん我々は、金融機関であり、預金者もいらっしゃれば、株主もいらっしゃるので、基本的には善管注意義務、フィデューシャリー・デューティを果たしたうえで貸出を行う必要がある。したがって、我々は技術を有していることだけをもって貸出を行っているわけではなく、シャープについて申しあげれば、その技術力をもって、今後、どのように立ち直ることができるかという点を確り審査・査定し、対応していくことになる。こうした審査・査定は、貸出の基本的な考え方と何ら異なるものではなく、何か手綱を緩めたり、別の考え方を導入するということは一切ない。


(問)
 リーマンショックから4年経つが、今、日本経済あるいは世界経済においてどのような影響を及ぼしているのか、また、何か変わったことがあるのか、ご見解を伺いたい。
(答)
 リーマンショックを金融業界の歴史の中で捉えると、非常に大きな影響があると思っている。
 1980年代以降、金融機関のモデルはいくつかの変遷をしているが、リーマンショックは、投資銀行モデルを決定的に崩したという意味において非常に大きなインパクトであったと思う。ただし、その端緒は、リーマンショックというよりも、その前段階のサブプライム問題が大きかったのではないかと考えている。
 リーマンショックの影響下における我々の立ち位置を考えると、それまでの投資銀行の収益構造が否定されたところに立っており、それは、欧米においてレギュレーションが強化されているということだと思う。そして、金融に限らず、世界経済にとって、金融サービスのあり方がどうなるかによって世界中の金融利用者に大きな影響が出てくるのではないか、と考えている。
 リーマンショックが与えた影響は、特に金融を中心として、従来のモデルが完全に否定され、全く新しいものを模索しなければ生き残っていけない時代になってきているという意味において、非常に大きかったのではないかと、私なりに総括している。
(問)
 実体経済への影響という意味で言えば、まだ悪影響が残っているのかどうか、という点ではいかがか。
(答)
 基本的にはあまり残されていないと考えている。しかし、様々な計算方法があるものの、欧州の金融機関の自己資本対比の総資産のレバレッジはまだ20倍を超えている一方、アメリカの金融機関のレバレッジは約10倍という点から、欧州の金融機関は、バランスシートの縮小を引き続き進めるべきだと見る向きが多い。
 このレバレッジの違いは、単に会計処理の違いによって総資産が膨らんだことが主な原因かもしれないが、欧州の金融機関においてリーマンショックにより生み出された負の遺産が完全には払拭されていない可能性も考えられる。
 一方、実体経済においては、リーマンショックがもたらしたマイナスの影響が世界のどこかで大きなブレーキになっているとは考えていない。ただし、敢えて申しあげると、リーマンショック以降、全世界で低金利政策が続き、過剰流動性の問題が潜在的に残されていることが、一つの不確定要素となっていると言えるのではないかと思う。


(問)
 大きく2つ質問がある。来週の19日に日本航空が株式の再上場をして、一応政府機関による公的支援が終わる見通しとなっているが、債権放棄を迫られた銀行側として、現時点でのJALの立ち上がりをどのようにご覧になっているのか、というのが一点。
 もう一点は、ゆうちょに対する共同声明のなかで、政府支援下での競争条件の確保に触れられていたと思うが、直接関係するわけではないが、そういう見方を踏まえながら、公的資金のあり方、特に航空業界に与える影響が、競争条件の確保という点でどうだったのかというのを伺えないか。
(答)
 JALの再建計画について、私どもも取引金融機関として関与していたが、結果的に経営状況はかなり改善され、大きな収益を上げる体質になってきた。これは、しっかりとした再建計画を立案し、関係者にも認めて頂いたうえで、計画に沿って取組みを整斉と進められてきた成果ではないかと思う。
 そうしたなかで、一部に、JALの再生が成功したのは、競合相手との間で不公平な競争が行われたからではないかというご意見もあることは承知している。しかし、これは私の個人的な見解として申しあげるが、2011年度のJALの経常利益は2009年度と比べ3,000億円超のプラスであるが、そのなかで、金融機関の債権放棄に伴う金利負担軽減によると考えられる部分は、せいぜい4~500億円である。言い換えれば、それ以外の部分については、稲盛会長の陣頭指揮のもと、従業員のみなさんによる必死のリストラ策の実行やOBの方々の献身的なご協力も仰いだ年金額の引き下げなどが寄与したものである。JAL再生の背景にはこうした様々な努力があるということは認識しておかなければならないと思う。
 また一方で、航空業界、特に国際航空業界のビジネスは非常にボラティリティが高いという点も認識しておく必要がある。例えばSARSや戦争の発生、あるいは火山の噴火などにより、非常に大きなインパクトを受けることになる。こうした観点から、JALの直近の業績が、これから航空会社として全く支障なく事業を行っていける水準かどうか、いろいろな意見があることと思う。
 したがって、ご質問のあった競争条件について申しあげれば、それは具体的には税金の取扱いや、公的資金が入った会社に対するイコールフッティングのための措置等を指されていると思うが、まずは現在のJALの状態が、今申しあげたような事実や今後の見通しも踏まえたうえで、問題なく事業を行っていける状態なのかどうか、しっかりと見極めることが大事なのだと思う。そのうえで、仮に競争条件の確保等の議論を行う際には、他の競合他社とのイコールフッティングなどの観点から、検討すべき課題があれば検討するということになるのではないかと考えている。


(問)
 先ほどもリーマンショックから4年という話が出たと思うが、そのあと欧州危機を経て邦銀の位置付けというのは、よく言われているが相対的に有利になっていると言われているが、こういった状況は一面を見てみれば敵失ではないけれども、欧州銀行が財務面で困っているから結果的に邦銀が有利になっているといった側面もあるし、例えば、業務面では特に専門性が高ければ高いほどまだまだ欧米銀行に追いついていないというような指摘もされているところだが、特に佐藤会長がよく言われるグローバルでトップ集団に入るということを実現するためには、何が一番邦銀に足りない課題なのかがあったら教えていただきたい。
(答)
 極めて根本的なご質問であるが、銀行界全体としてお答えするのは難しい話であるため、個別のみずほグループのトップとしてお話しさせていただきたい。
 現在、邦銀が有利に見えるのは、あくまでも相対的なものであって、「敵失」との表現が適切かどうかはわからないが、欧州の金融機関のトーンダウンによって邦銀のポジションがあがっているという分析は、おそらく事実であると思われる。したがって、我々自身が本当の意味で実力のあるグローバルプレーヤーになるためには、乗り越えなければならない課題があると考えている。
 この際、最も重要なことは、どのようなスタイルの金融機関を目指せば次の勝者となることにつながるのかという点をしっかり踏まえたうえで、その実現に必要なものと不必要なものをしっかり切り分けて、スピード感をもって果敢に構造改革に取組むことであると考えている。
 我々とすれば、銀行・信託・証券を一つの形として、グローバルに打って出るということであるが、これはいわゆるクライアント・オリエンテッドのようなシンプルな事柄を標榜するだけでは十分ではない。抽象的にはなるが、銀信証というビジネスモデルの真髄を究めるということが、国内のみならず海外においても我々にとって非常に重要なものであると考えている。
 また、今後の主戦場はアジアであるということは間違いないと思う。これから4、5年は欧州の状況がさほど改善せず、アメリカも少しずつキャッチアップしてくる程度であろうが、一方で、中国には多少の不安はあるもののアジアの成長性に疑いは無いと考えている。その際に、単にアジアの時代と言うのではなくて、アジアにおいて業務・リソースをどのようにするかといった具体的な戦略を描き、相当のスピードをもって展開していくことが、おそらく次のグローバルバンクになっていくための最低条件であると考えている。
 日本の金融機関が大きなチャンスを迎えているということは事実であるが、それをしっかりと戦略に組み込み、また同時に人材の面でも現地化をしっかりと実現させて、真にグローバルなネットワークを活かして戦える体制を整えることが、本当の意味で日本の金融機関が世界のトップとしてプレゼンスを高め続けられる大事な要素であると考えている。