2012年12月13日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、来年度の次期副会長を内定した。
 次期副会長は、9月に内定している次期会長と同じく、来年の理事会での正式な選定手続きを経て、4月1日付で就任予定である。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2012年を振り返っていただいての所感、来年2013年の課題について伺いたい。
(答)
 4月から会長を拝命し、今月で約9ヶ月間会長を勤めさせていただいた。2012年を振り返ってみると、フランス、アメリカ、中国、韓国、そして日本も現在、総選挙が行われているが、政治的に大きな動きのあった1年と言えるのではないか。また、経済・金融面においても、グローバルベースで構造変化が進捗した1年であったと思う。
 欧州では、ESMが設立され、セーフティーネットが拡充し、かつ、現在議論中であるがユーロ圏の銀行監督一元化やユーロ共同債の検討が少しずつ進み始めているなど、欧州債務問題の解決に向けた動きが見られる一方で、直近ではイタリアのモンティ首相の辞任発言を契機にイタリア国債が売られているなど一進一退を繰り返しており、欧州情勢の安定についてはなお時間がかかるのではないかと思う。
 米国では、ケースシラー住宅価格指数や住宅事情についてはかなり底打ち感が出ている一方、設備投資動向にも見られるとおり、企業は慎重姿勢を維持しているため、雇用の問題についてはまだ回復が見られていない。「財政の崖」についても妥協案が図られているという意見もあるが、オバマ大統領は強硬な姿勢を示しているとも聞いており、大統領と議会の「ねじれ」により、予断を持って見ていられる状況ではないと思っている。
 中国については、いくつかのマクロ指標を見ると、政府による消費刺激策、あるいは、金利の引き下げ、公共投資といった機動的な景気対策の効果により、底を打ったという表現に近い状況にあるではないかと思っている。ただし、以前から申しあげているとおり、各産業分野における過剰設備の問題が構造的な問題として横たわっており、その根本的な解決には至っていないことを考えると、中国の景気は底を打ったとして、これからますます良くなっていくと見るのは、流石に楽観的ではないかと考えている。
 中国以外のアジア経済については、中国、あるいは欧米経済の影響を受けているという面もあるが、中長期的には非常に大きな成長の可能性を有しており、日本経済にとってはASEANを中心としたアジアの成長をいかに取り込んでいくのかが重要であると再確認した1年であったと思う。
 わが国経済も、輸出の低迷やエコカー補助金の終了などの消費に対する政策効果の剥落により、景気後退局面に入っているとの見方が一般的になりつつある。すなわち、この1年間、経済情勢が停滞していることを踏まえると、政・官・民が一体となって、成長戦略を実際のアクションに移していくことが、なお一層重要になっていると思う。
 今、欧米や中国、アジア、日本を含めてざっと申しあげたが、一言で申しあげれば、年初の不透明感が1年経過して、むしろ増大してしまった1年であったのではないかと思う。
 私は、4月の就任会見で、今年度を「大震災からの復旧・復興を確かなものとし、新しい日本の礎を築く1年」にしたいと申しあげたが、さきほど申しあげた環境の中で、今年は銀行界として、震災復興はもとより、国内成長産業の育成と雇用確保、アジア諸国の活力を取り込む仕組づくりなど、個別の金融機関としても、銀行界全体としても足場固めができた1年であったと思っている。
 まず、「震災復興への貢献」であるが、これを我々金融界にとっての最優先課題として、特に二重ローンの問題の解決に向けて取り組んできた。
 個人版私的整理ガイドラインについては、自由財産の拡大や申込書類の簡素化といった運用面の見直しのほか、制度の利用促進に向け、金融機関からのアプローチを強化してきた。
 一方、法人の二重ローン問題についても、産業復興機構・東日本大震災事業者再生支援機構に関し、関係当局との意見交換を密にして連携を図るとともに、周知活動も積極的に展開した結果、足元、個人については、私的整理ガイドラインの適用件数が153件、法人については、産業復興機構の買取件数が62件、東日本大震災事業者再生支援機構の買取件数が64件と、着実に実績が積み上がっており、目に見える成果となって表れてきていると思う。
 しかし、被災地の状況を見ると、まだまだこの問題は緒についたばかりというのが正しい認識であると思う。
 来年3月には震災から丸2年を迎えるが、復興計画がいよいよ本格化し、新たな生活や事業をこれからスタートしようと考えている方がたくさんいらっしゃる。したがって、二重ローン問題の解決ニーズや事業計画等のご相談もこれから本格的に増えてくると考えるべきであろうと認識しており、震災復興を過去のものではなく、「今そこにある課題」として、引き続き真摯に取り組んでいかなければならないと考えている。
 次に、中小企業金融円滑化法が来年3月末に期限を迎えることについては、すでに関係当局の「政策パッケージ」に対し、金融界の「ヨコの連携」を強化しながら、人材派遣の面などで積極的な協力を行ってきた。先月の「申し合わせ」においても、金融界として確認したところであるが、中小企業金融円滑化法の期限到来後も、中小企業の金融円滑化は我々金融機関の本来業務として、恒常的に果たすべき最も重要な社会的役割であり、従来同様、あるいは従来以上にコンサルティング機能をしっかりと発揮することで、お客さまの経営、生活が本当の意味で改善されるよう、真摯かつ丁寧に対応して参りたいと考えている。
 また今年は、郵政民営化に関して大きな動きがあった1年でもあったと思う。私自身も郵政民営化等改正法案の国会審議の際には、参考人として意見陳述を行ったが、7月以降も、郵政民営化委員会による「調査審議に関する所見」の見直しに加え、ゆうちょ銀行による新規業務認可申請に関して、ご承知のとおり、郵政民営化委員会の調査・審議が矢継ぎ早に、特にこの年末にかけては慌しく行われてきた。
 これに対し、全銀協をはじめ金融関係8団体から成る「郵政民営化を考える民間金融機関の会」は、9月と10月に共同声明を発表したほか、民営化委員会の場でも、間接的な政府出資が残るゆうちょ銀行の新規業務参入は、将来的な完全民営化が担保されることが何よりも大前提であり、関係当局および民営化委員会におかれては、郵政民営化法の基本理念に則り、長期的な国益を十分に踏まえた深度ある審議・検討が行われることを強く要望して参ってきた。この点については今後も金融界としての主張を各方面に粘り強く訴えて参る所存である。
 グローバルな出来事に目を転じると、今年はIMF世銀総会が東京において48年振りに開催されたが、わが国にとって大変大きな意味を持ち、大成功を収めたと思う。復旧・復興を力強く果たしてきている東北地方の姿を見ていただき、また、東京という都市のもつ多機能性・安全性、日本のホスピタリティを世界に大きくアピールすることができたという点でも大変意義深いものであったと思う。わずか1年半の準備期間でここまで見事に国際会議をやり遂げた国はないというお褒めの言葉を、いくつもの金融機関のトップからいただいた。
 このIMFの一連の会合においては、欧州債務危機への対応や、先進国が抱える財政再建と成長の問題などが縷々議論され、世界経済の下振れ懸念を払拭し、世界的な負の連鎖を断ち切るため、先進国、新興国が迅速に行動すべきであるとの表明がなされるなど、世界経済の失速を回避する決意がグローバルに成されたということで、意義深いものであったと思う。このIMF世銀総会を契機として、世界経済の危機克服に向け、先進国、新興国が一致団結していくことを期待したいし、今般の会議がその大きなスターティングポイントになったと感じている。
 国際的な金融規制について申しあげれば、今年はバーゼルIIIやG-SIFIsなどの枠組みが具体化したほか、FATCA、ボルカー・ルール等の諸外国固有の規制についても具体的な形での案が示される動きがあった。
 グローバルで複雑化した金融システムの安定性を確保するため、デリバティブ市場の改革、銀行の資本規制の強化、国際的に活動する金融機関の破綻処理制度の整備などの一連の金融規制が必要であることに特段異論を申しあげることはないが、一方で、実態経済への負の影響や規制導入コストに加え、リテール顧客や中小企業に大きな影響を与えるといった問題も指摘されている。国際的な金融規制を巡る議論においては、こうした点のほか、各金融機関のビジネスモデルも十分に考慮のうえ、官民の議論の緊密化を通じ、今後も十分な検討を行っていただくとともに、国際的に共通化されたルールと各国におけるルールとのバランスがとられることを期待したいし、我々も主体的な役割を果たしていきたいと考えている。
 また、国内ではインサイダー取引の問題や企業年金資産消失問題、海外ではLIBORの不正操作の問題など、残念ながら国内外で金融機関の絡む大きな不祥事が明らかになった年でもあった。これだけの大きなスキャンダルが同じ年に出てくるということは極めて珍しいことであると思う。
 こうした状況を踏まえ、現在、金融審議会等で、インサイダー取引規制やガバナンス強化に関する各種制度の見直しが行われているが、わが国の金融資本市場の健全な発展に資するものとなるよう、今後も引き続き関係当局との「タテの連携」を強化し、金融界としての意見をしっかりと申しあげながら、正しい方向に、生産的なかたちでこうした問題が解決されるように努力をして参りたいと考えている。
 LIBOR問題について若干触れると、英国ではWheatley Reviewが公表され、LIBORの信頼性の再構築に向けた動きが本格化し、国際的にも、LIBOR問題を端緒に、LIBORを含む様々な金融指標について、国際的な議論が進められているところであると承知している。わが国のTIBORについては、先般実施したTIBOR公表要領の遵守状況に関する一斉点検の結果から見ても、現段階でその仕組みそのものに何か問題があるとは認識していないが、金利指標としての重要性に鑑み、引き続き、その信頼性維持・向上を図っていくことは必要であると考えている。全銀協としては、TIBORの運営機関として、今進められている国際的な議論の進展を注視しながら、TIBORの在り方に関して、必要に応じ、できるところから検討を進めて参るということで、すでにアクションを起こしているところである。
 なお、こうした金融機関の不祥事の多くは、自らの収益を最優先する姿勢に起因するものであるが、不祥事を根絶し、持続的な成長を可能とするためには、一つひとつの金融機関が、自ら強固なコーポレートガバナンスを構築していくことが必要不可欠であると考えている。こうした問題への対応の遅れは、自らの組織にとってのキラーファクターになりうるという強い自覚を持ち、コスト増大要因という後ろ向きの捉え方ではなく、むしろ強いガバナンスを持つことが差別化の武器となるという考え方のもとで、積極的にガバナンスの強化をしていかなくてはならないとこの1年を通して強く認識したところである。
 その他にも、振り込め詐欺や、インターネットバンキングの不正利用等の金融犯罪などを含め、本当に数多くの課題への対応が迫られた1年であったと思う。
 最後に、来年の課題については、これはいくつも山積しているため、詳しくは年頭所感などの機会を捉えて申しあげたいが、一言だけ申しあげるとすれば、やはり、震災復興そして国内成長産業の育成と、何としても国内の雇用を守る、確保していくということを通じ、金融機関が自らの問題として成長戦略の実現に向けて大きな役割を果たしていきたいと考えている。
 わが国経済は、デフレの継続、また、円高やエネルギー政策の問題が大きな足枷となり、国内の成長基盤の再構築と雇用の確保はますます難しく、厳しくなってきていると感じている。
 メガバンクを中心に、海外ビジネスにおける邦銀の収益拡大のチャンスが広がっていることは事実であると思うが、日本の金融機関としては、金融システムの安定的運営を維持しつつ、銀行の本来的役割である金融仲介機能、健全なリスクテイク能力の発揮を通じて、何としても国内産業の育成と雇用の確保に能動的に貢献していくことこそが重要であり、従来にも増して期待されていると理解している。今後、なお一層、政・官・民が緊密に連携して、日本の成長戦略において、具体的な成果を出していくことが必要と考えている。
 こうした意味では規模の大小を問わず、地域の内外を問わず、来年は日本の金融の底力を示す1年になると考えているところである。


(問)
 昨日、郵政民営化委員会において、ゆうちょ銀行の新規業務について審議が行われた。2012年を振り返っていただくお話の過程でも言及されていたが、改めて銀行界としてのスタンスをお聞かせいただきたい。
(答)
 昨日の郵政民営化委員会については、報道内容は承知している。先ほども若干触れたが、銀行界のスタンスについて、一般論として改めて申しあげたいと思う。
 共同声明等で繰り返し申しあげてきているが、間接的な政府出資が残るゆうちょ銀行の新規業務への参入については、民業圧迫の懸念が極めて大きく、またゆうちょ銀行の完全民営化に係る具体的な計画が示され、その実行が担保されない限り、新規業務への参入は一切認められるべきではないというのが一つ目の主張である。
 二つ目には、実際にどのような新規業務に参入するかにもよるが、基本的には新しい業務を進めるうえでは、「経営の抜本的な効率化」に加え、「民間企業としての内部管理態勢の整備」、「リスク管理のあり方」といった、事前の準備が不可欠な様々な態勢が幾多もあることから、こうした点について、ゆうちょ銀行がしっかりと対応したうえで物事を進めることが、非常に重要な問題であると思う。新規業務を始めるや否や何か問題が起これば、ゆうちょ銀行の規模の大きさに照らしても、ゆうちょ銀行の問題に留まらず、日本の金融界全体の安定性に関わる問題になるという点を十分踏まえていただきたい。
 三つ目は、民業圧迫の問題であるが、間接的な政府出資が残るゆうちょ銀行が世界的に例が無いほど肥大化したまま市場に参入すれば、市場の資源配分が歪められたり、地域経済に悪影響を与えることも懸念される。特に、ゆうちょ銀行が圧倒的なシェアと個人情報を有する地域において業容拡大をしていくことになれば、相対的に経営規模の小さい地域金融機関にとっては、まさに経営上の死活問題になると思う。民間金融機関とのイコールフッティングを確保するためには、ゆうちょ銀行の株式売却スケジュールを早期に示していただいて、民営化していくことをしっかりとスケジュール化することが、何よりも大前提であると思う。
 3点申しあげたが、これらの点については、金融庁も郵政民営化委員会等において、日本郵政および金融2社に対して、株式処分スケジュールと中長期的なビジネスモデルの考え方を示すよう強く求めるとともに、内部管理態勢等の確立の必要性を指摘し、業法上の認可申請に対しては一定の時間をかけて、しっかりと審査する方針を示されているところである。
 ゆうちょ銀行が将来にわたりどのような形で、どのような新規業務への参入を希望されるのかという点が、今のところはっきりしていないが、今申しあげたように、ゆうちょ銀行が巨大な資産規模はもとより、委託先である郵便局も含めた実質的な店舗数、従業員数の点でもメガ銀行をはるかに凌ぐ規模であることから、仮に貸出業務に本格的に取り組むのであれば、態勢整備には相当な時間をかけたうえで、さきほどの3点に関する吟味が行われ、議論される必要があると思う。
 この問題は先ほど申しあげたとおり、ゆうちょ銀行自体の問題に留まらず、日本の金融システムの安定化、成長といった観点から検討されることなく新規業務が行われることは、絶対に許されないことであると考えている。したがって、郵政民営化委員会におかれては、「金融二社の完全民営化にかかる具体的な計画」や「内部管理態勢等の整備」など、新規業務に関する議論を進めるうえでの前提となる点については、議論された内容も含めて調査審議のプロセスをしっかりと公表していただくとともに、我々と公平な議論を重ねていただく必要がある。今後とも我々の金融界の主張は、いろいろな立場で、あるいはいろいろな場所で強く主張していきたいと考えている。


(問)
 週末に衆院選が行われるが、次期政権への期待、要望について金融政策等も含め、ご見解を伺いたい。
(答)
 選挙の直前であるので、選挙に直接関わる個別の話を申しあげるべきではないと考えている。今回の選挙は、その特徴として、例えば、消費税、原発などエネルギー問題、TPP交渉への参加・不参加、そして金融政策、といった争点が比較的はっきりしていることが挙げられると思う。今挙げた点は、全て、日本の将来、すなわち5年~10年後の姿を規定していく大変重要な問題であり、それらが今回の選挙の争点になっているという意味において、非常に重要な選挙であると認識している。
 ご承知のとおり、わが国は、過去20年来、あるいはそれ以上の長い間、デフレに悩まされてきた。その間、為替の面では円高の進展があり、日本の産業界は次々に海外進出を続け、その動きはまさに現在も継続している。そのなかで、従来の海外進出においては、日本にとっての基幹産業の最も重要な技術は国内に残し、それ以外の部分について海外生産を行うというやり方であり、それが同時に空洞化の定義であった。しかし、今の海外進出はそれに止まらず、経済産業省の表現を借りれば、所謂"丸ごと空洞化"が起こっており、主力工場が海外にある、といったケースも実際にある。
 そうした観点から考えると、先ほども申しあげたが、次の政権がどのような枠組みになろうとも、経済の成長戦略についてしっかりと実行していただき、デフレからの脱却について道筋を付ける、そういう政権であってほしいと願っている。
 日頃、地域金融機関の頭取と様々な議論を行っているが、例えば、成長産業と言われている、高齢者ビジネス、農業、自然エネルギー、社会資本等の分野において、地方でもいくつか芽が出つつあると非常に強く感じている。その点からも、我々金融界としても、メガバンクと地域の銀行、信金・信組等の金融機関間でのヨコの連携を強くして、金融が担える役割はまだまだあるという共通の想いを持って、芽が出つつある新しい成長産業がしっかりとした基軸産業になるよう是が非でも育成していくため、頑張って参りたい。ただ、そうした取り組みの中で、個々の具体的なプロジェクトを進めていくと、多くの障害にぶつかってしまうことがあり、その際に規制緩和がやはり必要であると感じる。
 新政権には、経済成長の恩恵をどのように配分するかという、高度成長期の政治の役割とは異なった役割を担って頂く必要があるのではないかと考えている。つまり、今、我々が直面している苦境を脱するためには、換言すれば、今後日本が生き残っていくためには、負わなければならない痛みが存在することをしっかりと認識し、そしてその痛みをどう分け合うかということを念頭に入れて行動いただきたい。そういう意味では、高度成長期の政治のあり方と、全く状況が異なってきているのだろうと思っているし、痛みを分け合うことを主導していくことは非常に難しいと思われるが、だからこそ、政治の強いリーダーシップを期待したいと考えている。
 また、日銀の金融政策について、多くの方々が様々なことをご提案されていることは十分承知している。現在の日本の金融政策については、日銀が各国の金融政策を踏まえ、デフレ脱却に向けて果敢な緩和政策を採用していると思っている。ただし、デフレからの脱却が一段と強く認識されるなかで、政府と日銀が、さらに会話を行い、採り得る手段は全て用いていくべきだとのスタンスに立つのであれば、現在議論されている様々な手段についても、一度議論のテーブルに乗せ、そのメリット・デメリットなどをしっかり整理したうえで、可能なことは全て行っていくという姿勢も必要なのではないかと考えている。
 もちろん、金融政策に関わる個別の手段については日銀の専管事項であり、私はコメントする立場にはないが、政府と日銀がしっかり連携し、デフレからの脱却に向け、我々民間とも手を組みながら、何としても来年以降デフレ脱却の糸口を見つけ、日本経済復興の道筋をつけていくことが重要であり、その意味で、ますます新政権の強いリーダーシップに期待したいところである。


(問)
 先月の衆院解散以降の円安、株高の動きについてのご感想とこの流れが一時的なものなのか、しばらく続くものなのかというご見解を伺いたい。
 もう1点が、各党の選挙公約を見るとやりたいことは沢山書いてあるけれども、財政再建はどうするのかということを具体的に書いている党が少ないと見受けられるけれどこのあたりについてご懸念等があれば教えてください。
(答)
 昨日も、海外の著名な投資ファンドといろいろな議論をしたところであるが、海外の投資家と議論をしていて感じるのは、現在の円安、株高の流れが今後も継続するか否かについて、海外投資家は、自民党の安倍総裁の日々の発言と、今後それがどのように具体化されるかという点に非常に注目しているということである。そうしたことを踏まえると、安倍総裁の一連の発言が、円安、株高の一種のきっかけになったと言えるのではないかと思う。
 一方で、そこにはある種の期待感が含まれていると思われ、次のステップとしては、選挙後に具体的にどのような政策が打ち出されるかということが問われてくることになると思う。
 期待は期待として良いとは思うが、この期待が何ら具体的な政策、行動に移されずに終わった場合には、同時に期待が失望に変わるということであろうと思う。
 円安、株高がどの程度継続するかという質問であるが、今まさに選挙後の新しい政権が、金融政策、あるいは経済成長政策について具体的にどのような政策を採るのかという点を、マーケットは固唾を呑んで見守っている状況であり、今の段階ではそれ次第としか申しあげられない。
 次に、選挙の争点の中で、財政再建に対する方針があまり見えてこないとのご指摘だが、私なりの解釈では、次のように整理できるのではないかと思う。
 すなわち、消費税の引き上げに関しては3党合意により道筋はついているが、その際に日本の経済成長が一つの前提条件となっており、仮に財政再建そのものが直接、選挙の争点とはなっていないとしても、成長戦略といった経済成長に関する論点と併せて、消費税の引き上げという論点そのものが、日本の財政再建に関する議論になっていると理解をすることも可能ではないかと思う。
 あえて申しあげると、一体改革のうち社会保障に関する部分については、争点としては少し注目度が低いのではないかと個人的には感じてはいるが、財政再建に関しては、間接的ではあるが、しっかりと争点として議論されていると思う。


(問)
 みずほがメインバンクのシャープの件であるが、りそなや地銀に一部のローンを引き受けてもらうように交渉していると思うが、基本的に主力行として支えていくという方針に変わりはないのか。シャープのこれからの再建のストーリーをどのように考えているか。
(答)
 電子業界の問題という切り口であればお答え出来ることもあるかと思うが、この場は、全国銀行協会会長の記者会見であるため、個別の会社について主力行の立場でのお答えは差し控えさせていただきたい。
(問)
 個別のことは答えられないということであれば、先ほど、産官民の成長戦略が必要だと言っていたし、成長戦略は何回も議論されてきたが、そういうなかで日本のエレクトロニクス産業、今まさに惨憺たる状況だと思うが、中国や台湾は国家が支援しているなかで、日本はそういう競争力を担保するためにどんなことをするのが良いと考えているか。
(答)
 産業政策の観点からは、中国、あるいはアメリカも多少そういう面があるが、電機電子産業に限らず、主力産業に対して、国がサポートをし、国家戦略として産業育成を行っていることはご指摘のとおりであると思う。これを新しい国家資本主義と整理する人もいる。中国は、例えば鉄、自動車などの大きな会社を世界のトップ企業にするため、いくつかの産業政策的なサポートを行っている。韓国も同様である。それに対して、日本は、経済産業省が展開する中長期の産業政策とは別に、例えば産業再生機構あるいは産業革新機構などの官製のファンドが充実してきており、また、先端技術の開発については苦しい財政の中でも、相応に資金が投入されてきたと思う。従来の開発は総花的であったが、ここ数年で、日本が将来勝てる産業が明らかになり、集中的に研究開発費が投入されている。これが他の国の政策との競争において、十分か否かという点については様々な見方があると思う。日本の場合は政府のサポートに拠らない民間の経営努力が、従来から重んじられてきたが、今後は官のサポートと民の努力のベストミックスにより、世界で戦っていける企業あるいは産業を守り育てていくことが、おそらく日本の国益を守るためには非常に重要になっていくと思う。逆に、残るべき産業・企業と、残ることが出来ない産業・企業との選別が、国民負担あるいは国民経済の観点からも従来以上に必要になってくると思っている。
(問)
 やはりシャープは産業革新機構か。
(答)
 そのような質問への回答は、ご容赦いただきたい。


(問)
 1点目は選挙の関係であるが、高めの物価目標、インフレターゲットを置くことでインフレ期待を起こして、経済を引っ張っていくという考えについて賛否両論あるわけであるが、こういったリフレ政策が持つ効果について、見解をお聞きしたい。2点目は、建設国債を出して公共事業を増やすべきだというところにも賛否があるが、長期金利の上昇リスクをどのように見ているか。
(答)
 1点目は、インフレターゲットに関するご質問であると思うが、これは学術論的に様々な見解があるが、例えば、物価のレベル感の目標を立て、その目標に向けて金融政策を展開していくことが、必ずしも効果を示しているわけではないと認識している。むしろ、インフレターゲットには副作用もあり、それぞれの国の置かれている財政の状況、国内の個人資産の状況等様々なファクターが上手く絡みあって初めて有効に機能すると思っている。したがって、他国が政策として採用したからといって、日本において、必ずしもデフレ脱却に大きな効果が出るとはあまり考えていない。インフレターゲットという言葉だけが先行するのではなく、むしろ、具体的に何を行うのか、どのような効果が出るのか、デフレがどのように回復されるのか、もう少し分析的あるいは論理的な説明が必要であると思うし、多くの識者がこうした政策の有効性を議論していくことが望ましいと考えている。
 2点目の公共事業の質問であるが、公共事業に関していろいろと議論はあるが、先日のトンネル事故のような、社会インフラの老朽化という課題については誰も異論がないと思う。先日、地方銀行の頭取の方々と議論した際、概ね地方の社会資本のほうが新しく、地方はまだ大丈夫だという意見をお持ちの方が多かった。逆に、首都圏の社会資本は非常に老朽化している。昭和39年の東京オリンピックの時期に建設されたものがほとんどであり、こうした設備の再構築あるいは修復が、国民あるいは首都圏に住んでいる方々の安全性の観点から、必要ではないかと思われる。
 しかし、足元の財政状況を鑑みるに、財政再建と社会資本の問題は表と裏の問題であるため、社会資本の充実の必要性は明らかでありながら、今の財政状況でそれを実施するための財政、資金手当をどのように実現するかという問題がある。建設国債を発行し、それを日本銀行が購入するということも1つの方策かもしれないが、社会資本の充実という観点から、他にもまだ試されていない、いくつかの方策があると考えている。
 一つ例をあげれば、パブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)というファイナンスの手法を使うことにより、多くの社会資本の資金が捻出できる可能性があると思っている。個人的な意見だが、例えば5,000億の資金が必要な場合に、2,000億部分を財政資金でエクイティとして出資してもらう。残りの2,000億を中間のメザニンの部分として、我々メガバンクや地方銀行がそのリスクをとる、そして残った1,000億を例えば1,500兆円ある個人資産により、ファンド形式などにより投入するということが考えられる。
 現状、個人資産の多くが銀行預金になっており、それが国債の購入等に回っている。現在の金利状況の中では、主に高齢者の方が保有しているそうした資金は、わずかな金利収入しか生んでいない。社会資本の充実を通じて、孫や子の代の安全につながり、しかもそれが銀行預金よりも、多少なりともリターンが大きい場合には、この様な資金の使い方は、かなり多くの高齢者の方にも理解してもらえると思う。しかも、エクイティを国がサポートし、メザニンを銀行がサポートしているため、ある意味で、リスクは非常に限定されており、そうしたPPPの仕組などをうまく利用しながら1,500兆円を活かしていくことにより、必要不可欠な社会資本の充実を図っていくことができると思う。
 行政の方々の中にもこうしたことを考えている方もいらっしゃる。財政の問題の厳しさ、社会資本の充実の必要性は、誰が政権を担っても変わらないが、今、申しあげた手法などを用いて、実際に実行に移せる政権が必要になるであろう。こういう施策を実際に行う場合には、行政の縦割りに横串を刺していかなければならないが、将来の日本のためにこうした問題を乗り越えリードする政権が求められていると思う。


(問)
 日本原電について、敦賀原発の廃炉の可能性が焦点になってきている。日本原電から受電する電力会社があり、また日本原電に出資する電力会社もある。3.11以降、金融機関は東電も含めて電力会社を融資で支えてきたと思うが、原電に関しては、ある種、国家プロジェクトで原発が始まったという経緯もあるが、金融界としてどのように受け止めているのか、考えを聞かせて欲しい。
(答)
 先ほどと同様、個別の企業の話なので、全銀協会長としてコメントする立場にはないが、一般論として申しあげると、原発の問題というのは、日本原子力発電のみならず、各電力会社にとって、企業の存立、あるいは維持といった観点から、やはり非常に大きな問題であると思う。例えばLNGの輸入ひとつをとってみても、大変なコストがかかっている。
 ご質問の、原電の敦賀原発の活断層を巡る議論については、今般、一つの見解が示されたわけであるが、今後原電としても自身の見解を主張していかれると認識しており、基本的には、そうした議論を見守っていきたいと考えている。いずれにしても本件については、個別の一企業の話に留まらない可能性もあり、その場合には、日本全体として、しっかりとした議論をしていく必要があると思っている。


(問)
 さきほど東南アジア、アセアン諸国が中国に並んで非常に重要なということで、邦銀各行がアジアでやってらっしゃると思うが、その時に外資規制で多くの国でマイノリティー・ステークしかとれないことが非常にネックになっていると思うが、その辺りの厳しい外資規制について邦銀のアジア進出においてどのような影響があるかを伺いたいのと、もう一つはその結果でもあるが、邦銀各行のアジア戦略でマイノリティー出資、5%とか4%とか非常に小さなステークで出しているところも多いが、出資先にほとんど影響力がないようなかたちであるが、そういう少額出資は意味があるものなのかを伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、外資規制については国によって多少異なるものの、特にアジアにおいては、基本的にマジョリティーをとることが認められていない国が多い。
 このことについては、各国の金融市場、産業としての銀行、あるいは資本市場等の発展段階を考えると、外資が50%以上の出資をして参入していくことが、その国のマーケットを席捲することになるため、経済の根幹を成す金融を徐々に成長させていきたいと考えることは、それぞれの国の立場からは当然であると思う。
 したがって、我々は外資の立場として、例えば支店開設の規制、あるいは業務内容の規制をもう少し緩めて欲しいということはあるものの、特にアジアにおいては、マジョリティーをとれるよう、出資に関する規制を絶対に緩和して欲しいと考えているわけではない。
 やはり、アジアの中で日本の銀行がプレゼンスをしっかりと示していくためには、まずその第一歩として、我々がアジア経済の発展に貢献したいと考えていることを示すことが大事であると考えている。そういう観点からも、資本の規制については今の状態のもとで参入するということであると思う。
 2番目のご質問は、5%、4%の出資は意味があるのかということであるが、会計上の一つの境目は、持分法適用会社にするか否かである。持分法適用会社の収益は自らのPLに反映するため、我々が努力すればするほど、その銀行の収益が上がって、そのリターンが我々に返ってくるということである。
 ただし、5%、4%の出資についても、私は意味がないとは思っていない。例えば、5%、4%の出資であっても、当然に業務協力協定等は相当綿密に検討したものを締結しており、銀行収益に直結するものではないが、日系企業の海外進出に際して出資先の銀行に支援していただいた場合は、その企業から我々等に対してもリターンがあるし、当該銀行との間のトレードファイナンス等の資金取引の中に、大きな収益源もある。また、発展途上の銀行が現地でカードビジネスを始めたい、消費者金融を始めたい、あるいは販売金融を始めたいという場合には、ジョイントベンチャーという形で、我々が相当な持分を持ったうえで展開できるといった副次的な収益が望めることが経験則的に解ってきており、5%、4%の出資が必ずしも意味がないということではない。
 これからしばらく経てば、ミャンマー、カンボジア、ラオス、バングラディッシュといった国が主戦場になってくると思う。そういう国も外資規制の問題は残ったままであると思うが、例えば、5%、4%しか出資できないからといって、全く意味がないということにはならないと考えている。


(問)
 今のアジア戦略について追加で伺いたい。これまで邦銀の海外進出はなかなか最後撤退ということになって、これまでの歴史からいうとうまくいかなかったケースが多いと思うが、今の現状のアジア進出についてのリスクとして捉えられていること、もしくは課題として考えられていることはどういうことなのかお願いしたい。
(答)
 日本の銀行の国際展開が一番進んだのは1994年であり、この時に日本の銀行の海外における貸出残高は約7,000億ドルのピークを迎えた。その後、世界経済の後退の影響を受け、毎年急降下した結果、2003年には約1,300億ドルのボトムまで減少した。その後少しずつ増加し、さらにここ数年で目立って伸びてきている。
 つまり、日本の金融機関の国際業務に関して言えば、今はフォローの風が吹いているものの、過去の歴史を振り返ると、このまま喜び浮かれていられる状態ではないということである。
 私なりに過去の教訓について申しあげれば、貸出のチャンスが数多くマーケットに存在しているときに、バランスシートを使い、高い収益を上げて国際網を広げていったが、景気はどの場所でもシクリカルなものであり、景気が悪くなると、貸出資産が不良債権化し、ビジネスとしての魅力を失って海外から撤退するというサイクルであった。
 今、我々の足元ではある種の神風が吹いており、それを十分に享受するといった選択肢もあると思うが、今こそ邦銀の海外展開というものを2年、3年のタームではなく5年、10年のタームでしっかり考え、景気に左右されずに我々の収益の3割、4割を海外で稼ぐといったしっかりとした収益の柱を構築できるか否かが分かれ目になると考えている。
 各行によって戦略は異なると思われるが、景気に左右されない収益の柱として国際分野を育てるためには、海外の非日系のお客さまとの間でトップ同士の関係を築き、その企業の戦略に深く食い込むというリレーションシップをどうやって作れるかということが一つの勝負であると考えている。
 これには二つの意味があり、一つはお客さまの成長分野に先回りして、貸出だけではなく、社債や場合によっては株式といったキャピタルマーケット、M&Aといったアドバイザリー業務、あるいはトレードファイナンスや、セトルメントといったバランスシートを使わないビジネスで、どれだけ収益を上げられるかということである。非日系のお客さまに対して、バランスシートを使って貸出を行うだけでは足らず、貸出以外の副次的な収益につながる分厚い関係を作っていけるか否かということが重要であると考えている。
 もう一つの意味は、取引先企業に関するリスク管理、将来起こり得るリスクを見ていくうえで、その企業がどのような産業の中でどのような方向に自分のポジションを進めようとしているのか等、財務的な数字のみならず彼らの戦略上の意図をしっかりと把握することが、実はリスク管理上最も大切なことであると考えている。
 この二つの面において、非日系のお客さまと直接的な深い関係を構築することが、過去1994年から2003年にかけて急激に縮小した日本の金融機関の国際展開と同じ状況に陥らないためにも重要であると考えており、この戦略を継続していきたいと考えている。
 そのためには、コマーシャルバンキングのみならず、証券業務についてもしっかりとサポートする必要があると考えている。例えばみずほグループでは、銀・信・証と言っているが、国際部門、特にアジアにおいて、銀・証の連携をいかに効率的に、あるいはいかに他行との間で差別化していけるかということが、おそらく日本の金融機関の国際戦略、あるいはアジア戦略の10年後の姿を規定すると考えている。


(問)
 2点ほどお願いしたい。一つ、ゆうちょの問題について、先ほど、足早にいろいろなことが進んでいるとのお話があったが、選挙もやっていて、政治の空白期間という中において審議が進み、来週には一定の結論が出そうだというような状況になっているが、今の状況のなかで審議を進めていく、あるいは結論を出していくというのは妥当なのかどうか、見解を教えて欲しい。
 もう一つ、選挙の中でマイナス金利の導入についての議論も少し行われていると思うが、実際に日銀の金利がマイナスになり、日銀にお金を預けているとコストがかかるという状況になったときに、市場にお金が回って、マイナス金利の導入を主張している人々が言っているような効果が生まれるのか、それとも逆に副作用が大きいのか、その辺の考えをお願いしたい。
(答)
 最初のゆうちょの問題について、我々民間金融界としては、物事の順序として、まず最初に民営化の具体的な計画、タイムフレームがあって、そのうえで初めて議論のテーブルに着くことができると以前から申しあげてきていると思う。したがって、民営化の具体的計画について全く議論がされないまま、新規業務についての議論が進んでいくことについては、相当な違和感を感じている。そうした点も考えれば、そもそも質問にあったようなスピード感でこの話が進んでいくということにはならないと思うし、また、あってはならないと思っている。
 2点目のマイナス金利についてであるが、考え方としては、銀行が日銀の当座預金に預けている資金にマイナス金利が適用されると、銀行は日銀への預け入れ以外で資金を使うことになり、その結果市中に資金が回り、経済が活性化するという考え方であると思う。これは以前からある考え方であり、日銀の中でも考え方自体は何年も前からある話であると思う。外国では、実際にインターバンクでマイナス金利が適用されたこともある。したがって、今、マイナス金利というものが、金融緩和政策の一つの手段として議論の俎上に上っているとすれば、冒頭にも申しあげたように、まずはテーブルの上に乗せて、そのメリットとデメリット等について、様々な観点から議論すること自体は良いことなのではないかと思っている。マイナス金利がデフレ脱却のためにどの程度の効果があるのか、市中に有効な資金がまわっていくのか否かといった点について、これから大いに議論すれば良いと思う。その上で、仮に我々が民間金融機関として意見を求められれば、現場の実態を踏まえてしっかりと意見を申しあげていきたいと考えている。