2013年7月18日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 日銀が景気認識について「回復」という判断を示しているが、取引先の企業の設備投資に対する資金ニーズについて足元の動きをどのように実感されているのか。また以前の会見で秋頃から本格的に設備投資が増えていくのではないかという見解を示されていたが、今後の見通しについて改めて伺いたい。
(答)
 日銀が7月の金融政策決定会合の景気判断で「回復」という言葉を使われたということだが、まさに政府、日銀による経済・金融政策が功を奏して、円高の修正あるいは消費マインドの改善等を通じて幅広い産業において企業業績が上向きつつあると思う。また少し観点が違うが、これまで設備投資を抑制してきたためいわゆる設備の経過年数、ビンテージが過去最長とも言えるところまで伸びており、潜在的に更新需要が積み上がっていると見ている。こうした状況を踏まえると、大企業を中心に設備投資が回復する環境は徐々に整いつつあると思う。
 当行では、取引先の大企業を対象に、景況感、設備投資動向に関するアンケートを定期的に行っている。これは「三井住友短観」というもので、直近では今年の5月に調査を行っており、その結果では、設備投資について「前年度対比、設備投資の増額を計画している」と回答した企業数が「減額」とみている企業数を大きく上回っている。少し業種別に詳しく申しあげると、製造業でいうと、繊維で自動車向け高機能品の設備増強、機械(工作機械、農機)で国内拠点の能力増強や合理化投資を計画しているほか、機械(自動車部品)では、一部に円高修正に伴う国内回帰の動きも見られている。ただし、東アジアの供給過剰が課題となっている鉄鋼や化学では、当面は慎重なスタンスを維持する見通しが出ている。
 非製造業では、小売業で店舗の改装あるいはスクラップ・アンド・ビルドを行う動きがあるほか、携帯会社で通信基盤の強化、運輸業等で物流施設の新設・更新を計画する動きがある。
 一方、中堅中小企業について言うと、今月に入って改めて私どものお客さまの景況感、設備投資の動向等についてヒアリングをしたが、その印象で申しあげると、前回申しあげた状況とあまり変わっていない。すなわち、企業や経営者のマインドは引き続き前向きであるが、まだ設備投資の拡大といった具体的なかたちでは現れていない。したがって、実際に設備投資が拡大し、資金需要が出てくるまでには、もう少し時間がかかるのではないかと見ている。具体的な時期について申しあげるのはなかなか難しいが、設備投資の先行指標である機械受注、大体これは1四半期先行していると見られているが、この実績が本年5月に大きく増加している。6月の数字を見てみないと分からない面はあるが、こういった先行指標の動きから考えると、5月の会見で「設備投資が拡大するのは秋頃ではないか」と申しあげたが、引き続きそうした見方で良いのではないかと思っている。


(問)
 シャドーバンキングの問題を背景に中国の金融システムへの不安が広がっており、一部では第二のサブプライムローン問題として懸念する見方もある。この問題についてどう見ているか。
 また中国に関しては、4-6月期のGDP伸び率が7.5%と減速しているが、今後の中国経済の先行きと日本経済に与える影響についてどうお考えかお聞かせいただきたい。
(答)
 まず中国経済の先行きについて私の認識を申しあげたい。年内は政府による投資抑制策や素材メーカーによる在庫の調整、公務員に対する倹約令による消費抑制等の要因から、7.5%程度という従来比少し低い成長が続くと見ている。また、場合によっては金融緩和や財政出動等によって過度な落ち込みを防いでいくのではないかとも考えている。したがって、その程度の減速であれば、日本経済へのマイナス影響は極めて限定的ではないかと思う。
 次にシャドーバンキングについてであるが、先日の会見で中国の銀行業管理監督委員会の尚福林主席が、シャドーバンキングの代表的商品である「理財商品の残高は、3月末で約130兆円」、「監督を強化することによって理財商品のリスクの拡散を防がなければならない」、また「地方政府債務や不動産バブルは、経済発展モデルを転換する過程で生じている問題であって、そのリスクは十分に認識している」、「正確に対応すればリスクはコントロール可能」とコメントをされており、十分問題認識されているものと理解している。
 また、これまでの不良債権問題に対する中国当局の対応実績や、あるいは経済政策を考慮すれば、今後も実態経済へのマイナス影響が深刻化しないよう対処していかれるものと考えている。
 これがメインシナリオであるが、一方で欧州経済や新興国、資源国経済の更なる減速や、グローバルなマネーフローの変調等の複合的な要因によって、中国経済や世界経済に相当なストレスがかかる可能性は否定できないので、このリスクについては引き続き注視していきたい。
 また、シャドーバンキングの全体像についてG20の場で説明が求められているという報道もあったが、シャドーバンキングの規模については様々な数値が指摘されており、なかなか外部から正確に全体の金額を把握することは難しいのは事実。ただし、グローバルな金融システムと中国の金融機関との繋がりを考えると、先ほどご指摘のあったサブプライム危機やリーマンショックの時のように、国際金融市場を通じて危機が伝播するリスクはそれほど高くないと考えている。いずれにしろ、中国政府・当局にはシャドーバンキングの全体像の開示等も含めて、適切な対応を期待している。


(問)
 東京電力の問題について伺いたい。柏崎刈羽原発の再稼動に向けて東電と地元県知事との調整が難航して、再稼動の時期の目処すら立っていない。柏崎刈羽原発の再稼動は、東電がコミットした2014年3月期黒字化の大前提であるが、この状況下、今後の追加融資や支援の枠組み見直しの可能性があるのか、また、電力料金の値上げを求めていく可能性があるのか、所見を伺いたい。
(答)
 東京電力は、ご存知のとおり、総合特別事業計画を策定しており、その計画を達成するために、計画に織り込まれている原発の再稼動に向けて、もちろん安全対策を取ることは当然のこととして、関係当事者と鋭意交渉を進めているものと認識している。また、柏崎刈羽原発の再稼動が当初計画より少し遅れるわけだが、これをカバーするためにコスト削減などで当面対応することなどを含めて、あらゆる手段を講じていくと東京電力は説明している。したがって、我々としては、東京電力のこうした対応を見守っているところである。当初計画から、どのように収支や事業計画が変わってくるのかは東京電力の今後の計画の提示を待つということになるが、基本的には、先ほど申しあげたとおり、東京電力は、あらゆる手段を講じて対応していくと説明しているので、それを見守っていく。
(問)
 1点、最後のところで話されたアップデートされた計画というのは、いつ頃、銀行に提示されることになるのか。
(答)
 それはまだ、我々も具体的に聞いていない。秋口ぐらいになるのではないかと見ているが、今のところ時期は分からない。


(問)
 参院選終了後に政権に対して期待していることについて教えて欲しい。
(答)
 参議院選挙の後、政権にどういうことを期待しているか、ということだが、昨年末の安倍政権誕生後、いわゆる三本の矢によって、デフレ脱却を達成するとの方針を明確に示されて、矢継ぎ早に具体策を打ち出された結果、景気はようやく上向き始めている、と感じている。今後の最大の課題は、この上向きな動きを日本経済の本格的な再生・成長にしっかりと繋げていくことだと考えている。したがって、そうした観点から、参議院選挙後も経済重視の政権運営をしっかりと継続していただきたい、と思っている。
 具体的に3点、申しあげる。
 まず、経済再生に向けた日本再興戦略の早期かつ着実な実行を期待したいと思う。これまでは、成長戦略が作成されることはあっても政権が交代したりして、実行が中途半端に終わっていたこともあったので、今回は是非、掲げられた目標の達成を目指して、成長戦略を実効性のあるものにしていただきたいと思っている。
 2点目は、さらに、日本の企業が抱えているいわゆる六重苦の解消をはじめとする積み残された課題へ取り組んでいただきたいと思う。円高はかなり修正されたが、高い法人税率などの問題は依然として残っている。安倍総理も「改革に終わりはない。更なる高みへ成長戦略は進化を続ける」と発言をされているので、残る課題の解決に向けて、大胆かつ実効性のある規制緩和や法人税減税を含む税制改正といった追加施策を期待したいと思う。
 3点目は、財政健全化に向けた具体的な道筋の明確化を期待したいと思う。三本の矢で名目成長率を高めていくことに加えて、財政健全化に向けた取組みをしっかり進めていく必要があると思う。しっかりとした道筋が出来ないと、ある意味、悪い金利上昇のリスクが現実となる可能性もあるので、この点が着実に策定されることを期待している。
 以上、3点申しあげたが、我々銀行界としても日本経済の成長を金融面から支えるよう、しっかりと取り組んで参りたいと考えている。


(問)
 今の回答に関連して、景気と財政規律の面から見た場合に、10月に首相が消費税率引き上げを判断されると思うが、その引き上げ判断について、全銀協としてはどのように見ているか。
(答)
 全銀協として意見を統一しているわけではないが、私が考えていることを申しあげると、消費税率はしっかりと予定通り引き上げていくことが大事だと思う。もちろん、景気弾力条項が税制抜本改革法の中に入っているので、政府が今年の秋に経済成長率であるとか物価動向等々、いろいろな経済指標を総合的に判断して決められるということになっている。まずはしっかりとした経済環境が整うことが前提であるので、そのためにいろいろな施策を実行していくということが必要であると思う。海外の機関投資家と話をしていても、もちろん日本に対する注目度が高まっているが、アベノミクスの進展がどうなるか、あるいは消費税率引き上げについて、しっかりと実行されるのかどうか等々については、海外の機関投資家の関心が非常に高い状況。やはり債務削減に向けたロードマップを明確に示していくことが必要だと思っている。したがって、着実な経済成長の実現ということと、財政再建の健全化の道筋を示すということを両方しっかりと作り上げていかなければいけないと思っている。


(問)
 4-6月期は、マーケットオペレーションや貸出においていろいろ変化のあった時期だったと思うが、第1四半期を振り返り、銀行の経営環境や決算の概況に関する認識を教えてほしい。
(答)
 第1四半期の経営環境を振り返ると、国内経済に明るさが見え始め、景気回復に向けた足取りが徐々に確かなものになってきた時期だったと思う。それを受けて、国内の銀行貸出も前年同期比増加というトレンドを続けており、また、住宅ローン等の取組みも各行ともに好調だったようである。一方で、残念ながら利ざやに関しては、引き続き厳しい状況が続いている。
 金融市場については、金利、株、為替ともに、ボラティリティが高まる局面が何度かあったが、第1四半期末に向けては落ち着きを取り戻していった。債券運用で高い収益を上げることは難しかったかもしれないが、逆に、大きな損失が出るような状況でもなかったと思う。
 以上を総合的に踏まえると、第1四半期の国内銀行の業績の基調は、総じて堅調だったのではないかと見ている。
 第2四半期以降もこの傾向は続くと見ているが、ポイントは、今、企業や消費者のマインドが好転してきているので、このマインドの好転を、いかに維持向上させていくかということだと考えている。したがって、政府による成長戦略の着実な実行等が必要になってくると思う。


(問)
 アメリカの店頭デリバティブ規制について伺いたい。先週末、日本にも適用されるクロスボーダー規制の猶予期限を迎えて、結果的に12月まで猶予されることになったようだが、これが実際適用されると邦銀のシステムとかオペレーションにも影響が及ぶと思う。この影響についてどうご覧になっているのか。また、今後の対応についてどう考えているか。
(答)
 米国の店頭デリバティブ規制が邦銀にどれくらい影響を与えるかということについては、全部の銀行の状況を聞いているわけではないので、完全には分からない部分がある。もともと、米国の店頭デリバティブ規制はドット・フランク法における規制で、一定基準以上のデリバティブの取引量を上回る金融機関等に対して、スワップディーラーとしての登録を求め、その対象行については資本の充実、リスクマネージメントに対する態勢整備、一定の取引に対するセントラルカウンターパーティーでの清算集中義務、記録の保存等を求める、というものである。我々が一番、問題視していたのは、当初は外銀に対してもスワップディーラーになる場合には原則として連邦の支援、すなわちFRBの窓口貸出利用等を禁止するという、いわゆるプッシュ・アウト・ルールと言われているものが適用されるという案が示されていたことである。我々としては、その影響を非常に懸念し、金融庁とも連携して米国当局に対して規制案の見直しを要請してきたが、最終的には、外銀が行うヘッジや銀行業務に係るデリバティブ取引についても、プッシュ・アウト・ルールの例外として許容されることになったので、実務上、かなり問題が軽減されたという経緯にある。
 今般、最終ガイダンス案が発表され、その内容をよく検証する必要はあるが、プッシュ・アウト・ルールの例外が許容されたことから、今のところ、日本の銀行に対する業務の影響は限定的ではないかと見ている。


(問)
 2点お願いしたい。1点目は、今月上旬にTIBORの改革について中間報告を公表されたが、各国の改革が進むなかで、東京市場の改革について、この案でどの程度実効性が保たれると見ているのか。
(答)
 TIBORの見直しに関する中間取りまとめを7月5日に公表させていただいた。
 全銀協では、以前にもお話ししているが、4月に「TIBOR運営の在り方に関する検討委員会」を設置して、3点、すなわち、「リファレンス・バンクのガバナンス向上」、「運営機関である全銀協自身のガバナンス向上」、定義の見直しあるいはテナー数の削減等の「その他の論点」について国際的な議論の動向も踏まえながら検討を進めてきたが、ある程度方向性がまとまってきたので、今回、中間報告として公表させていただいた。
 IOSCOの議論も進展し、またEURIBORの議論についても近く改革案が示されるという状況を踏まえ、このタイミングで公表することとした。詳細についてはさらに検討を重ね、出来れば年内に最終報告案をまとめていきたいと思っている。
 リファレンス・バンクのガバナンス体制強化への取組みについては、行動規範(Code of Conduct)を策定する方針を示しており、また、全銀協のガバナンス体制強化への取組みについては、専門組織の設置や、これを監督する独立性が確保された監視委員会の設置、内部管理体勢の強化や外部監査の活用によってガバナンスの強化を図っていくこととしているが、私はこうした方向でTIBORの見直しを行っていくことで、実効性を担保できると考えている。


(問)
 もう1点、先月の会見の直後に川崎重工と三井造船の統合が破談になり、個別行としてはお関わりになっている立場だと思うが、日本の産業競争力の強化という観点、あるいはコーポレートガバナンス上の観点から、どのように受け止めているか。
(答)
 川崎重工、三井造船の件については、個別の案件なのでコメントは差し控えるが、一般論として、企業の競争力を強化していく観点として、統合再編等は一つの選択肢としてあり得る話だと思う。今後もいろいろな業界でこのような統合再編が起こってくると思う。もちろん同業者同士の再編もあるだろうし、業種をまたいだ、あるいは国を越えたM&A、再編も起こってくると思う。いずれにせよ、日本企業が国際競争力を強化するために、統合再編も一つの選択肢だということである。
 今回の事態については、詳細を承知しておらず、なぜこういう経緯、結論になったのかは分からないので、何ともコメントのしようがない。当行も統合再編を経験しており、私自身も数多くのM&A案件に携わってきているが、基本的には、いろいろな案件を進めるにあたっては、当初は限定した人数で検討し、然るべきタイミングで役員会議、それから取締役会で審議をしていくという手続きになると思う。今回解任という事象になったのは、私自身も少し驚きではあるが、詳細な内容、経緯が分からないので、それ以上はコメントできない。


(問)
 先ほどおっしゃっていた川崎重工と三井造船との件に関連した質問だが、日本国内の業界再編は製造業を中心にまだ進んでいない。同じ製品を造っていながら赤字のままできており、その理由も会社内のしがらみ等いろいろあると言われているが、取引先がそういった状況にある中で、国内の再編に絡めた銀行の役割について、どのように考えているか。
(答)
 我々銀行としては、取引いただいている企業が競争力を高めて成長していく、そのお手伝いをするということが大きな使命だと思う。当然、融資、ファイナンスというサポートをさせていただくこともあるが、これに加えて、金融には「情報産業」としての役割もある。我々は内外にネットワークを持ち、いろいろな情報を持っており、そういった情報をテコにして、我々の方から再編の提案をするとか、あるいは、海外企業の買収のお手伝いをするとか、そういったことで企業の成長を助けるということが、銀行の役割だと思っている。


(問)
 上半期における邦銀の海外シンジケートローンのリーグテーブルについて、昨年に比べ、日本の銀行のランキングが少し下がり、貸出の勢いが少し落ちてきたように見えるが、これは欧米勢の金融機関が復活してきたからなのか、もしくは日本の銀行も新興国の景気減速などを踏まえて慎重になってきたからなのか、お聞かせいただきたい。
(答)
 まず、日本の銀行のシンジゲートローンへの取組み姿勢は変わっていない。引き続き力を入れているし、積極的に取り組んでいる。私も本年1-6月のシンジゲートローンのリーグテーブルを見たが、たしかに順位は少し下がっている。これは、一部のヨーロッパの銀行が、ヨーロッパの金融情勢が安定する中で市場に戻ってきているということと、アメリカのマーケットが好調な中で大型プロジェクトも多く出てきており、米銀の取扱額が増えていることが要因。こうしたことから、リーグテーブル上は、日本の銀行の順位が2、3ランク下がっているが、先ほど申しあげたとおり、基本的に状況は変わっていないと思う。


(問)
 成長産業の中でも農業分野で6次産業化のファンドを各金融機関が作っているということで、従来の銀行界では、なかなか農業関連のファイナンスが上手く出来ていないところがあったと思うが、そういった関係で銀行界と農業分野について今後どういったふうに見ているのか。
(答)
 政府の成長戦略にも掲げられているが、日本経済を持続的に成長させていくためには、成長分野を一つでも多く創り出していくということが必要である。私は、農業は成長分野になり得ると思っている。もともと、日本の農産物に対する世界各国からの評価は非常に高いので、ある意味、競争力をもった商品だと思う。日本としては、この農業分野を成長分野としてしっかりと育成していくことが大事だと思っている。すでに各行で、農林水産省が創設した農林漁業成長産業化支援機構、この枠組みを通じてファンドを立ち上げ、生産者が6次産業化を目指すことを後押しするなどの取組みを進めている。
 当行の取組み状況を少し紹介させていただくと、今申しあげたとおり、当行でも農業を成長分野と位置付けており、大規模農業法人を中心とした融資であるとか、企業の農業参入へのコンサルティング、これは私どものグループ会社である日本総合研究所がノウハウを持っているので、このコンサルティング、あるいはビジネスマッチング等を行っている。もう少し具体的に申しあげると、全国展開をしている食品加工・外食・小売業などのいわゆる川下企業と、6次産業化に取り組む農業者をマッチングさせるとか、あるいは農業者、あるいは農業資機材企業の海外展開を支援するといった取組みを推進しているし、6月には農林漁業成長産業化支援機構、それから外部の専門業者と連携して農業ファンドの設立もしている。
 我々は、成長分野として、農業にはしっかりと取り組んでいきたいと思っている。


(問)
 2点質問したい。1点目は冒頭におっしゃられた中国のリスクの受けとめとして、国際市場を通じて危機が伝播するリスクは高くないとおっしゃられたが、この理由について、もう少しご説明いただきたい。
(答)
 サブプライム危機、リーマンショックの際に起ったことは、証券化商品等がグローバルに取引されており、こうした経路を通じアメリカ発の危機が一気に世界に伝播したということである。
 今回の中国のシャドーバンキングの問題については、全体の規模感はまだ分からない部分はあるが、中国政府がコントロール可能な状況であろうということ、もう一つは、中国は、世界とのリンケージという点では未だ限定的であり、米国で起った事態とは状況が違うということから、世界の金融市場に伝播するようなリスクは小さいと思っているということである。


(問)
 2点目は、先ほど参院選後の政治・政府に期待することとして、「成長戦略を実行に移してほしい」という趣旨のお話があった。改めて成長戦略を見ると、金融面、あるいは金融セクターの弾出しが少ないと感じる。PFIや金融特区やクラウドファンディング等はあるが、一言で言うとぱっとしない感じがある。國部会長として、もう少しこうしたことをやればどうかということがあれば、ご紹介いただきたい。
(答)
 まず、成長戦略に盛り込まれている様々な施策については、金融が後押しする部分も多々あるので、それらをしっかりサポートしていくということが一つある。
 加えて、先ほどおっしゃったPFI、これは今回の成長戦略に盛り込まれているが、私は、PFIは大きなマーケットになり得ると思っている。以前の記者会見でも申しあげたが、我々としても、海外でのノウハウを活かしながら、知恵を出して進めていきたいと思っている。
 それから、金融特区の議論からスタートした「金融・資本市場の活性化」の議論が今後進められていくことになる。官庁・民間有識者でワーキンググループを作る予定になっているが、金融・資本市場の活性化のために何が必要かを議論することによって、金融の役割の向上にもつながっていくのではないかと期待している。
 なお、この「金融・資本市場の活性化」は、以前から何度も議論されてきたテーマであり、私自身、企画委員長を務めていた2007年にワーキンググループに参加し、議論してきた。今回のワーキンググループでも、銀行界からいろいろな意見を発信していきたいと思っている。
 例えば、日本には1,570兆円の個人金融資産があるので、これを有効活用することによって、「日本の投資」を活発化させること、あるいは、日本のマーケットを活性化させていくことによって、海外の資金による「日本への投資」の流れを拡大していくこと等、いろいろ知恵を絞りながら意見を出していきたいと思っている。


(問)
 改めてPFIについて伺いたい。銀行業界としてどう取り組むのかということと、今回道具立てが揃ったわけであるが、これまでもPFIは続けていながらなかなか日本では根付いていない面もあるので、どういうことがあったら根付くとお考えなのか具体的に教えていただきたい。
(答)
 ある程度枠組みは出来てきているので、今後は、個別案件の取組み実績を積み上げていくという段階に入っているのではないかと思う。一部、規制の見直しなどが必要となる部分はあるが、例えば、経済財政諮問会議の場で言われているような高速道路の再整備にPFIの手法は使えないのかという議論とか、あるいは空港のコンセッションの話もあるので、基本的には、こういった案件を積み上げていくことが重要であり、国内での貸出需要にもつながってくると思う。我々は海外では高速道路や鉄道など、様々なPFIを手掛けているので、そういったノウハウを是非国内に活用して、案件を仕上げていきたい。


(問)
 三井住友銀行を含めて、アジア地域の金融機関への出資が相次いでいるが、いわゆる成長地域への出資は非常に良いことだと思っている。いくつかの質問の中にもあったとおり、アジア地域、新興国の先行きに不透明感が出てきているなかで、出資のリスクについてどうお考えなのか。また、大型の出資をするとBIS規制上の資本を食うわけであるが、それに関連して国内での出資を見直していくということにつながっていくことはあり得るのか。
(答)
 新興国の問題であるが、今回まさにFRBのバーナンキ議長のテーパリングの議論や発言から、今まで新興国に流れていた資金が少し巻き戻しになることが懸念される等、既にQE3の縮小が新興国経済に影響を与えつつあると見ている。ただ、アジア通貨危機当時と比べると、アジアの新興国の外貨準備の規模や、経常収支の規模、あるいは有事に対する備えとしての通貨スワップ協定の存在、一部の国でのドルペッグから変動制への移行といった面で、当時とは事情が大きく異なっているので、新興国経済に与える影響は、大きな問題、危機にはならないと見ている。
 アジア新興国の金融機関に対する出資について、個別行として申しあげると、やはり中長期的には、アジアの新興国というのは高い経済成長を実現していく。また、中間層が急激に拡大している。加えて、日本と地理的に近く、文化的にも近い、親日国も多いということで、私ども三井住友銀行としては、アジアをマザーマーケットとして将来的に商業銀行業務を展開していきたい、という戦略のもとで、先般もインドネシアの銀行に出資をした。
 その出資のリスクについては、新興国経済は短期的に変動する可能性もあるので、一定のリスクはあるかもしれないが、我々は出資をした銀行の将来の事業計画を、ストレスをかけてみたうえで、十分に意味のあるもの、プロフィタブルなものだと考えて投資をした。先ほど申しあげた「アジアをマザーマーケットとして商業銀行業務をやっていく」ために必要な投資だと考えている。
 当然のことながら、BIS規制上、資本控除される部分もあるので、我々のターゲットとなっている7%+サーチャージ、これは今1%というカテゴリーに入っているが、このリクワイアメントを十分クリアする計画のもとで出資を決めている。国内での出資との関係については、我々は自ら成長するための戦略を策定するうえでは、国内・海外ともによく見ている。海外に投資をしたから国内投資は出来ないということでもなく、両方を見ながら、我々の企業価値の向上にとって意味のある投資があれば考えていくということである。


(問)
 円滑化法が3月末で切れて、一般論として言えば、基準を緩くして貸していたもので、かつ、長くなっているものが多くなっているので、健全化をするということは必要なことであろうと思うが、ただ、それを進めると貸金が減っていくことになるのかなと思う。一方で、政権与党の議員の中から、預貸率を見て、つまり、銀行はなぜ貸さないのか、貸出を増やせという要請、希望が強くなっている。二律背反の面があると思うが、会長としてどう考えているのか。
(答)
 中小企業を含む企業に対する資金供給を円滑に行っていくことは金融機関の使命であり、我々は大企業も中堅中小企業も含めて、いろいろな工夫をしながら貸金の増強に努めている。実際に足元では、全銀協ベースの貸出残高も22ヶ月連続で前年同月比プラスになっている。また、私ども個別行の中堅中小企業部門の数字もこの2月に前年同月比プラスとなり、それ以降、前年同月比プラスが続いている。各行とも、工夫をして、努力をして、貸金を積み上げている。預貸率規制というお話があったが、これは、規制をどうこうするということではなく、各金融機関が、銀行の本来的な使命である資金供給の円滑な資金供給に努めるということが大事なのであり、それを比率で縛るというのは少し違うのではないかと思っている。その時々の資金の需給動向も経済動向もあることから、各金融機関が努力をするということに尽きるのではないかと思う。
(問)
 貸出先が不良化して、整理すれば貸金は減るのではないか。
(答)
 もちろんそのとおりだが、今、我々には、金融円滑化法の趣旨に沿って、出来るだけ企業の再生に向けた努力、再生のお手伝いをしていくということが求められているわけであって、実際に、我々の取引先でもいろいろ話し合いをしていくなかで再生している会社もある。したがって、そういう再生の努力をしながら、一方で新しい成長分野に対する融資を増やし、トータルの貸出も増やしていくということが、我々の役割だと思っている。