2013年9月19日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、10月1日から31日までの1ヶ月間を「振り込め詐欺等撲滅強化推進期間」とし、被害防止のための啓発シンポジウムの開催や、会員銀行の店頭における全銀協作成の頒布物(ポケットティッシュ)の配布等を通じて、振り込め詐欺等の注意喚起を行うことを決定した。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2点伺いたい。消費税の集中点検会合に全銀協会長としてご出席されたが、交わされた議論への感想と、消費増税に対するご意見を改めて伺いたい。
 また、予定通り引き上げられた場合に、景気の下振れリスクが懸念されているが、それに対する政府・日銀に望む対策があれば合わせて伺いたい。
(答)
 先月、消費税の集中点検会合に出席し、私からは、「わが国財政の健全化という中長期的な課題に取り組むために、税制抜本改革法に則った消費税率の引き上げを予定通り着実に行うということと、税率の引き上げに伴う短期的な景気下振れリスクに対応するための政策を、併せて実施する必要がある」と申しあげ、消費税率については、予定通りの引き上げに賛成する意見を述べた。
 会合では、理由を2点申しあげた。
 一つは、わが国経済の状況についてだが、消費税率引き上げを先延ばししなければならないような状況ではない、ということである。
 会合時点では、4~6月期の実質GDP成長率は速報値の2.6%だったが、この数字について、「悪くない数字だと思う。」と述べた。設備投資については、その時点では弱めの数字だったが、「回復する環境は徐々に整いつつある。」と述べた。その後改定値が発表され、前期比年率+3.8%と上方修正された。したがって、1~3月期の+4.1%という数字と合わせると、年前半は高めの成長が続いたことを確認する内容だったと思う。設備投資についても6四半期ぶりに増加に転じており、先延ばしする状況にはないと認識している。
 二つ目は、先延ばしした場合のリスクと、予定通り引き上げた場合のリスクの比較について申しあげた。海外の機関投資家あるいは市場関係者の多くは、法律どおりの消費税率引き上げをメインシナリオと考えており、これを織り込むかたちで、日本の財政に対するパースぺクティブは維持されていると思う。したがって、消費税率引き上げが先送りされた場合には、国際社会に対して財政再建に向けた取組みが後退しているという、ある意味誤ったメッセージを送ることになるし、その結果、わが国財政への信認や課題解決力への期待、あるいは政策に対する予見可能性といったことが損なわれることになるリスクがある。消費税率引き上げに伴う景気下振れリスクというのは対策があるわけだが、万一信認が失われた場合は、解決するのは容易ではない。したがって、私は、引き上げを先延ばしして、わが国経済、財政への中長期的な信認を揺るがすリスクをあえて取る選択肢はないのではないか、と申しあげた。
 今日本がやらなければいけないことは、財政再建と経済成長をしっかりと両立させて進めていくことだと思う。したがって、私は、消費税率は予定通り引き上げて、短期的な景気の下振れなどのリスクについては、それをミニマイズするよう手を打っていく、つまりポリシーミックスで対応していくことが必要だと申しあげた。
 集中点検会合における議論の状況については、コメントするのを差し控えたいと思うが、7回の会合を通じ、私のような意見をお持ちの方は、かなり多かったとお聞きしている。
 もう一つの質問、短期的な景気の下振れのリスクへの対策について少し申しあげると、例えば、即効性が期待できるという観点からは、補正予算による公共投資が考えられると思う。その際には、闇雲に行うのではなく、例えば防災や社会資本の老朽化対策など、本当に必要な分野に絞って集中的に行うことが重要になると思う。
 また、家計部門への対策も必要だと思う。例えば低所得層への給付金であるとか、あるいは期間を限定したかたちであれば、個人に対する定額減税も考えられるのではないかと思う。さらに企業部門においては、成長戦略の一環として、民間設備投資に結びつく政策を打ち出すことも重要な課題であると思う。
 企業の慎重な設備投資姿勢の背景には、需要不足による設備稼働率の低下だけではなくて、国内での投資環境の魅力の低下、あるいは期待成長率の低下などの要因が、複合的に働いていると思うので、投資減税あるいは規制改革など、総合的な対策を講じることが必要だと考えている。


(問)
 金融庁が、主要行等に対する検査方針を見直したが、それをどのように受け止めているのか。労力を減らして、経営に集中しやすくするというメリットが言われている一方で、融資業務の監視が甘くなり、バブルを助長したり、再び不良債権を生むのではないかという懸念もされている。実務や経営への影響という観点から伺いたい。
(答)
 私は、今回金融庁から公表された「金融モニタリング基本方針」については、グローバルに活動する私ども金融機関にとって、他のメガバンクや、海外のいわゆるG-Sifisの金融機関のベスト・プラクティスを参考に、経営上の示唆を得ることができるという点で、有意義なものだと考えている。
 また、このような考え方が金融庁から出されたということは、我々のリスク管理体制や管理能力について、一定の評価をいただいたと捉えられるのではないかと思っている。
 私自身長らく経営企画部門に身を置き、検査・監督対応に長く携わってきたが、改めて過去を振り返ると、これまでも、検査のあり方は、その時々の時代の状況、要請によって変わってきたと思う。
 皆さまご存知のとおり、不良債権問題が金融機関、金融システムの最大のリスクであった時代には、資産査定の適切性が重視され、検査当局としてもこれをしっかりみるということが大きな課題であったと思う。
 その後金融システムが安定し、2007年以降、「ベターレギュレーション」という基本方針が導入されたわけである。
 これは金融当局と金融機関が十分にコミュニケーションをとり、問題意識を共有しながら、モニタリングの実効性あるいは効率性を高めて、ベストプラクティスを目指すという考え方である。
 このなかで、いわゆるイグザミナー・インチャージ制度、複数年担当制等が導入され、リスクベースで効率的な検査を実施し、検査官が経営陣と経営課題について議論し、アドバイスを行うという運営が行われるようになった。
 現在、内外の金融・経済環境が大きく変化しているなかで、金融機関や金融市場で何が起こっているのかをリアルタイムで把握し、こうした運営をワークさせるための検査と監督、すなわちオン・オフが一体となったモニタリングを行い、金融機関の実態を十分に把握することが極めて大事なことだと思っている。
 こうした意味で今回出された基本方針については、日本の金融機関が不良債権処理の重荷から抜け出して、グローバルな活動を広げるなかで、改めて検査の在り方を見直すというものであり、その方向性については、私はよく理解できる。
 また今回の方針のなかに少し触れられているが、例えば「コンプライアンス疲れへの対応」であるとか、「小口の資産査定に関する金融機関の判断の尊重」といった個別の施策についても納得感があるものが多いと思う。
 先ほどのご質問のなかに、「融資業務の監視が甘くなるのではないか」という意見があったが、今回の見直しが、我々の資産査定、リスク管理体制について一定の評価をしていただいたということであるし、またそもそも検査されるかどうかによって、資産査定のあり方が変わるものでもないので、そうした心配は当たらないと思う。
 今回の取組みは、非常に新しいものであり、特に初年度は金融機関の負担が増えるかもしれない。この点については、金融当局におかれては、金融機関の声をよくお聞きいただきたいと思うが、私としては、今回の見直しは総合的に非常に意義があるものであり、高く評価させていただきたいと思っている。


(問)
 2020年に東京でオリンピックが開催されることが決定したことに対する会長の受け止めと、銀行業界として、これがどういったビジネスに繋がるのか、その期待や見込みを教えていただきたい。
(答)
 オリンピックの東京開催決定については、素直に嬉しく、心から歓迎したいと思っている。2020年のオリンピックは56年ぶりに東京で開催されることに決まったわけで、安倍総理、猪瀬東京都知事をはじめ、関係者の方々のご尽力には深く敬意を表したいと思う。
 今回のオリンピックの開催は、ある意味、日本国民が一致団結して勝ち取ったものであり、まさにオールジャパン、チームジャパンの勝利だと思う。4年前はそれほど支持が盛り上がっていなかったが、今回は私自身もたいへんな盛り上がりを感じていた。まさにオールジャパンでの招致ということになると思う。
 私は今回のオリンピック開催ということが日本の人々の心を一つにまとめて、わが国が大きく飛躍する後押しになると思う。前回1964年の東京大会では、首都高速道路や東海道新幹線をはじめとした交通インフラが東京という都市の姿を変えたし、また、カラーテレビや自家用車の普及を後押しし、その後人々は、高度経済成長の恩恵を受けて、生活が格段に豊かになっていったわけである。
 今回の2020年のオリンピックの効果も、一時的なものに終わらせることなく、前回の東京大会がそうであったように、人々の心に明るさと元気をもたらし、活気ある社会づくりに貢献すると期待をしている。
 ビジネスへの影響について具体的に申しあげると、東京都が今回のオリンピック開催に伴う経済効果が3兆円と試算しているが、私どものグループのシンクタンクである日本総合研究所によると、需要の増加額自体は4~7兆円弱、それに伴う生産誘発も含めると、7~12兆円の効果があり、そして、雇用創出効果については40万人から70万人の効果があるのではないかと試算している。
 これらの経済効果の中には、前回の東京大会と同じだが、大会設備整備などの建設需要や宿泊施設、飲食店の改装・増築、オリンピックグッズの売り上げ、テレビ等の耐久消費財の買い替え、都市の再開発、社会インフラの整備、外国人観光客の増加などが含まれている。
 こうしたことに加えて、私が思うのは、大会の運営などを通じて、例えば通信や自動車、ロボット等の日本が世界に誇る技術力を発展させる絶好のチャンスになるのではないかということ。また、これを機会に、今後進展する高齢化社会に対応したインフラ整備や、環境に配慮した都市づくり等を進めることも日本の社会・経済発展のためには大切なことだと思う。
 加えて、今回の2020年のオリンピックは、日本が東日本大震災から復興を遂げ、再生した姿を世界に発信する絶好の機会であるし、日本の魅力を訴える素晴らしい機会になると思う。
 多くの国から人々が来るし、そういった方々と交流を深めることで国際化が一層進み、観光立国に向けた大きな前進に繋がればいいと思う。
 いずれにせよ今回のオリンピックは歴史的イベントであり、その成功に向けて官民をあげて準備に取組んでいくことになる。私ども銀行にとっても、PFIなどを通じたインフラ整備に関するファイナンス面で大きな効果があると思う。また、外国人観光客がかなり日本に来るので、例えば外貨両替とか、その他諸々の金融サービスの向上といったことも含めて、金融界としてもしっかりと応援をしていきたいと思っている。


(問)
 もう一点お尋ねしたい。日本時間19日未明にFOMCが量的緩和政策の縮小を見送ったということがあった。これは市場の見方からするとサプライズなことだったが、この量的緩和見送り決定に対しての受け止めと、今後の市場に与える影響や見通しについて教えていただきたい。
(答)
 今回のFOMCで量的緩和策の縮小が見送られたが、市場の参加者はこの9月から縮小が始まると見ていた人が多かったので、ある意味サプライズということになると思う。
 「景気回復の進展が持続する更なる証拠を待つ」ということで見送ったとのことだが、FOMC後の記者会見で、バーナンキ議長は、「テーパリングの第一歩は年内に可能」、あるいは「テーパリングはデータ次第」とコメントしている。したがって、FRBがQE3という大胆な金融緩和策を実施し、その一方で米国経済が徐々に回復、その回復につれて出口を探っていく、テーパリングを開始していくということは、方法としては自然な流れだと思う。まさにFRBがコメントしたように、アメリカ経済の様々な指標、今回は失業率の高さとか住宅金利への影響といったことをご覧になっていると言っておられるが、アメリカ経済の様々な指標を見ながら、テーパリングのタイミング、そして規模を探っていくのだと思う。
 いずれ緩和策の縮小はどこかで実現すると思うが、新興国経済をはじめ、様々なマーケットに影響を与えうるものなので、その際には、市場との緊密なコミュニケーション、あるいは他の国への影響を十分に勘案したうえで慎重に進めていっていただきたいと思う。


(問)
 来月から少額投資非課税制度の口座開設の申請受付が始まり、年明けには実際の投資が始まるという段階であるが、この制度に関する銀行界の顧客への説明は今の時点で万全といえるのか伺いたい。
 また、それと関連するが、新しい制度ができるとそれを悪用する詐欺集団が出てくる可能性が否定できないと思うが、そういった事件を防ぐためにはどうしたらいいとお考えなのか教えていただきたい。
(答)
 10月1日からNISAの受付が開始されるわけだが、全銀協としては、適切な販売、勧誘の実施に向け、ホームページ上での注意喚起や、あるいは重複申込等の問題を踏まえ、NISA推進・連絡協議会のメンバー連名で新聞広告を掲載させていただくなど、制度上の留意事項について、会員各行向けの周知徹底に努めている。
 また、各参加金融機関においては、様々なお客さまへの説明等を行っている。先般、金融当局から監督指針が出されているが、その中には、今回新しく投資を行う方もかなりおられるので、こうした投資知識、経験のあまりないお客さまに対し、適切に情報を提供すること、受付時に留意すべき点、例えば一人一口座しか申し込めないといったことを分かりやすく説明すること、そして、NISAの趣旨を踏まえた商品の提供を行うこと等が盛り込まれており、各参加金融機関はそれに沿ってしっかりと対応しているところである。
 私は、NISAについて、「貯蓄から投資への流れ」を推進し、個人金融資産の形成を支援する、ひいては家計から成長分野への資金の供給を拡大する、こうした観点から非常に有意義な制度だと思っており、私どものグループでも銀行、それからグループ証券会社であるSMBC日興証券、この両社が共同でテレビCMを行ったり、共同でセミナーを開催したりしている。
 更にもう一社、SMBCフレンド証券があり、各社ともお客さまに丁寧に説明しながら、現在、申込予約の受付けを行っているところである。
 もう一つの質問について、NISAに関する詐欺が、今後起こるのかどうか、あるいはどういうかたちで起こるのかということは、なかなか見通せない部分もあるが、これは今回のオレオレ詐欺を含めた対応とも重なるが、まずは、我々自身がしっかりと会員各行に注意し、そして利用者に対して丁寧に周知徹底を図っていくことが重要であり、仮に何か事件が起こった場合には、それに対する対応策を速やかに講じていくということだと考えている。


(問)
 リーマンショックから5年が経った。会長はリーマンショックから何を教訓として得て、その教訓をどのように活かしていくのか教えていただければと思う。
(答)
 リーマンショックからまさに5年が経つわけだが、欧米金融機関では、リーマンショック前の高いレバレッジを効かせて高収益を生む投資銀行業務主体のビジネスモデルから、リーマンショック後には、伝統的な商業銀行に回帰するという動きが進んでいる。一方、商業銀行を強みとし、バランスシートも極めて改善している日本の銀行のプレゼンスは、相対的に高まったわけである。先般9月15日に、BISが「邦銀の復活」と題する文書で、国際与信における国別の金融機関のシェアを発表していたが、邦銀がトップということで、まさに今の日本の銀行の置かれているポジションを表していると思う。
 ご質問に戻ると、リーマンショックで私がどういう教訓を得たかということについて、三つ申しあげたいと思う。
 まず一つ目は、我々銀行業の価値の源泉というのは、やはりお客さまからの信頼であって、お客さまと正面から向き合う、「地に足の着いた」ビジネスモデルでなければ、サステイナブルでないということである。もちろん全部が全部そうということではないが、リーマンショック前は、どちらかというと、お客さまのニーズというよりは、収益を極大化するために、例えば自己勘定取引とかオフバランスの取引を拡大するだとか、そういった取引が盛んに行われ、それが危機につながったという部分があると思う。そのようなビジネスモデルはサステイナブルではないのではないか、と思ったことがまず一つ。
 二つ目は、企業カルチャーの重要性。危機の原因はいろいろあると思うが、金融機関における過剰なリスクテイクと、歪んだインセンティブ、報酬制度というものがあったのではないかと思う。したがって、今、欧米では報酬規制といった議論がなされているわけだが、私は、大事なのは、金融機関としての組織文化と、金融機関で働く役職員のモラルということではないかと思う。我々も、グローバルに、更にビジネスを拡大していくわけなので、今後のビジネスの展開においても、この点は重要だと、私自身肝に銘じている。
 三つ目は、「銀行員の常識としておかしいのではないか」という目線で様々な事象を見ていくということではないかと思う。リーマンショックのような危機を事前に察知するのは正直難しい。ストレステスト等のリスク管理ツールも極めて重要だが、それに加えて、私は、銀行員としてのプロフェッショナルな常識で、いろいろな物事を見て考えてほしいと、行内でもよく言っている。その常識に照らしておかしいと思われることは、やはりどこかで歪みが出て、どこかで綻びが生じるということだと思う。したがって、「今の状態が常識的に見て永続性があるものなのかどうか」という目線で判断していくということが、重要だと思う。加えて言うと、そういう、現場の「おかしい」という感覚が、スピーディーにトップにまで報告が上がり、共有されるということが大事だと思う。私が教訓として思ったのはその三つである。
 もう1点付け加えると、国際的な金融規制の問題がある。リーマンショックの後、様々な金融規制の議論が行われ、一部には、金融保護主義的な動きが出てきている。規制というのは、どうしても何か事象が起こると、振り子が振れるときに片側に振れ過ぎる傾向がある。金融規制においても、本来の目的は金融システムの安定化、あるいは、持続的な経済成長の確保ということだと思うので、それを阻害しないような規制の在り方が必要なのではないかと思う。
 いずれにせよ、規模の大小はあると思うが、これからも様々な危機が起こると思う。リーマンショックで得た私なりの教訓を活かして、今後も経営にあたっていきたい。


(問)
 リーマンショック以降邦銀のバランスシートを見ると、JGBの保有残高を急増させてきた。もちろん様々な原因があるのだが、この点について、銀行がとるべきリスクをとってこなかったのではないかという指摘もあるかと思う。この点はいかがお考えか。
(答)
 「銀行がとるべきリスクをとってこなかったのではないか」という指摘は、私は、当たらないと思う。JGBを多く保有しているからリスクをとっていない、ということではない。銀行のポートフォリオの中には、もちろん貸出も、日本国債もあり、外国の国債、株式関連の商品、様々な代替投資も含めていろいろな運用手段がある。そのなかで我々は、足元まで、あるいは4月くらいまで、JGBの運用を行うということを我々の判断としてやってきたわけで、それがリスクをとらないということにはつながらないと思う。
 一方で、我々銀行の本業というのは、しっかりと適切な金融仲介機能を発揮するということであり、様々な企業に資金を供給していくということがメインである。当行の貸金残高、特に大企業ではなくて中堅中小企業向け貸出は、この6年くらい減少を続けてきたわけだが、この2月から残高が反転している。足元、前年同月の増加幅が徐々に拡大しているという状況になっており、ようやく企業の資金需要も少し出てきて、貸出も増える、という状況になってきている。
 貸出が伸びないのは、銀行がリスクをとっていないからなのか、資金需要がないからなのか、なかなか切り分けるのは難しいが、基本的には企業の資金需要がなかったということだと思う。ただ、各金融機関ともに努力しているし、私も、お客さまのニーズにしっかりと向き合って、我々自身も知恵を出してお客さまの資金需要を創出し、貸出を増やしていこうと行内で言っている。こうした努力をしていることもご理解いただければと思う。


(問)
 日本郵政について伺いたい。7月にはかんぽ生命がアフラックと提携する等の動きがあった。グループとしては、2015年春の上場を目指して取り組んでいるが、中計が延期になったり、新規業務の認可がなかなか見通しが立たなかったりと、結構ハードルがあるように思う。西室体制の取組みについて、会長はどのように評価しているか、ご意見を伺いたい。
(答)
 西室体制になって、まだ、それほど経っていないので、私が評価するような状況ではない。今回のアフラックとの提携について申しあげれば、もともと保険商品の販売をしていたが、それを郵便局のネットワークを使って拡大していくということで、西室社長自身の言葉を借りれば、「お客さまの利便性を高めて、グループの企業価値を高めることができる」ということである。
 郵政民営化については、過去何度も、その時の会長がお話をしているが、我々の基本スタンスを改めて申しあげさせていただくと、そもそも郵政改革の本来の目的は、国際的に比較しても類を見ない極めて肥大化したゆうちょ事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を払拭するとともに、民間市場に資金を環流させて国民経済の健全な発展を図るということである。
 ゆうちょ銀行が新規業務に参入することについては、我々は、昨年も共同声明を発表しているが、ゆうちょ銀行の完全民営化の担保、経営の抜本的な効率化、民間企業としての内部管理体制の整備、これが大前提である。そのうえで、個別業務ごとの新規参入の是非については、民間との公正な競争条件の確保、適正な規模への縮小、利用者保護、地域との共存というのを総合的に検討して判断すべきであると主張してきており、このスタンスは変わっていない。


(問)
 あと一点お願いしたい。最近マーケットが活況となってきたことで、企業の資金調達、エクイティでの増資などが増えているが、企業が直接金融による調達にシフトしているという考えは、まだ早いのか。つまり、企業の借り入れ状況、足元の企業の動きは、どのような感じか。
(答)
 いわゆるエクイティ調達、公募増資の案件が少しずつ増えて、またIPOの案件も増えてきている。これはまさに、日本政府のデフレ脱却それから景気浮揚への強い意志を受けた様々な施策が功を奏し、株式市場も比較的順調に改善・上昇してきていることを受けた動きだと思う。加えて、やはり企業が公募増資をするということは、その資金を使って、例えば、投資など、将来への成長をある程度見通して、企業が積極的に前に出て行こうという表れなので、これ自体は私は非常に良い動きだと思っている。
 おそらく、ご質問の趣旨は、資本市場からの調達に流れて、銀行からの借り入れがなかなか増えないのではないか、ということだと思うが、今のところの感じでは、企業が公募増資することによって、銀行からの借り入れに大きなマイナスの影響を与えているという状況ではないと思う。株式市場からの調達とデットによる調達は、もともと性質が違うものであるので、足元、銀行の貸出に対して悪影響が出ているという状況ではないと思う。


(問)
 東京電力の汚染水問題が最近非常に国際的な注目を集めているが、この汚染水問題が東京電力の経営改善の取組みにどのような影響を与えると見ているか。
(答)
 今回、福島第一原子力発電所で汚染水漏れの問題が発生したわけだが、この問題は、やはり一日も早く根本的に解決していくことが必要だと思っている。したがって、日本政府もこの汚染水問題については、国が前面に出て、必要な対策を実行していくという基本方針を9月3日に発表されたと認識している。今後、この問題については、国と東電が連携をして、高度な技術や、あるいは英知を結集して課題の解決に向け取り組んでいき、早期に解決されることを切望している。
 基本的に東京電力の問題を考えるときには、我々は三つの点、「電力が安定的に供給されること」、「被害者へ円滑に賠償されること」、そして、「金融マーケットへの不測の影響を回避すること」が重要だと思っている。そのような観点を達成する方向で、今後も関係者が取り組んでいかれることを期待している。
(問)
 似たような質問だが、汚染水の対応が長引くことによって、東京電力の経営改善計画に遅れが生じるなどの影響をどう見ているか。
(答)
 この汚染水問題でどのような影響が出るかは、現段階では東京電力からも聞いていないため、分からない。ただ、先ほど申しあげたとおり、国が前面に出て対応するということも表明されているので、この汚染水問題が現在の総合特別事業計画の枠組みに大きな影響を与えるとは思っていない。


(問)
 海外貸出についてお聞きしたい。先日BISの統計で、邦銀が海外貸出の世界シェアで首位に立ったわけであるが、このまま右肩上がりにいくのかどうか、それこそファンディングとか新興国の経済失速等で頭打ちになるのではという指摘もあるが、どう見ているか。
(答)
 海外貸出について、中期的なトレンドとして、我々大手行はグローバルに業務を展開していく。そして、我々のお客さまである日本企業の海外への進出という動きも続いていくと思う。したがって、海外貸出の増加トレンドは続いていくと思う。もちろん、その時々の経済情勢であるとか、その他の状況に応じて、そのペースが鈍化したりすることはあると思う。例えば、足元では、アメリカのボンドマーケットが非常に好調であり、したがって、一部の米国のトップティア企業については、ボンド市場から資金を調達して、銀行借入を返済するという動きも出てきている。したがって、私ども個別行でいうと、海外貸出については、今年度は伸びてはきているが、その伸び方は少しスローダウンしている状況である。ただ、この傾向がずっと続くということではなくて、先ほど申しあげたとおり、海外貸出の中期トレンドというものは各行とも増加していくと思う。


(問)
 先ほどの質問と関連するが、国内外の貸出についてお聞きしたい。まずは、海外の貸出についてであるが、その増加ペースは日系企業と非日系企業ではどちらが強くなっていくと見ているのか。また、国内の方であるが、アベノミクスがスタートして大分経つが、それが国内の貸出の増加にすでに効果として表れ始めているのか。大企業から中小企業までその効果が出ていると見ているのか。
(答)
 海外での日系、非日系貸出の増加ペースということであるが、まず、今後の見通しを少し申しあげると、我々メガバンクは、海外でのビジネスを継続的に強化していこうとしているので、もちろん日本の企業が海外に行くサポートをするということもあるが、非日系の企業との取引を拡大していくことを進めていく。したがって、おそらく非日系企業向け貸出の方が伸びていくと思う。
 当行の直近の数字を申しあげると、2012年度の貸出の伸びのうち、海外貸出は約1兆5千5百億円増えているが、日系と非日系に分ければ、日系が6千5百億円、非日系が9千億円増えている。この割合はもちろん変わると思うが、やはり非日系向けの貸出が増えていくと思う。ちなみに、我々の海外での貸出の日系と非日系の割合を残高ベースでいうと、日系が3割で非日系が7割という数字である。
 それから国内の貸出の方であるが、これは今、足元、大企業はある程度伸び始めているが、中堅中小企業では、まだ力強く設備投資が出ているという状況ではないと思う。
 数字について申しあげると、これは皆さまご存知のとおりだと思うが、まず、銀行界全体では8月の貸出金残高、これは速報ベースであるが、全国銀行ベースで前年同月比3.5%増という数字である。これは、24ヶ月連続で前年同月比増加ということになっている。内訳は、これは日本銀行が公表しているマクロデータを見たわけであるが、まずは個人向け貸出、これは2010年6月以降前年同月比プラスということで、足元でも前年同月比プラス3%という数字である。一方、法人向け貸出残高、これは2012年8月から前年同月比でプラスに転じているわけであるが、大企業向けの貸出の増加が大きく効いているということである。中小企業向け貸出は、前年同月比の数字を見るとマイナスが続いていたが、足元そのマイナス幅が縮小、かつ今年の5月と7月にはプラスに転じているということで、下げ止まりから少し底打ちして反転をしかけているという状況、これが個人、それから法人については企業規模別にみた貸出のマクロの数字の動きである。
 私どもの中堅中小企業部門の貸出の動きを見ていても、先ほど少し別の質問の回答でも申しあげたが、2月以降、前年同月比プラスに転じている。その数字は月を追うごとに拡大してきているわけであるが、内容を見ると、事業再編に伴うMBO、LBOであったり、あるいはM&Aであったり、そういった案件が多くて、設備資金あるいは増加運転資金というものは、強い動きにはまだなっていない。
 ただ、我々銀行界は、様々な工夫をしながら、たとえばABLを使った融資であるとか、あるいは事業承継に伴う貸金とか、様々な努力をし、そして貸金ニーズを創出し貸出を伸ばしているのが現下の状況である。今後、今回の成長戦略が実行に移され、また、今、議論されている設備投資減税が入ってくること等もプラスに働いて、中堅中小企業の設備投資が、少しずつ動いていくという状況になることを期待している。
 設備投資と銀行の貸出残高ということについてはもう一つあり、企業は設備投資をするけれども、全て手元に持っている現金で賄うということになると、銀行の貸出には反映されない、すなわち銀行の貸出は増えないということになる。したがって、まさにその企業が将来の成長を確信し、設備投資をし、それが銀行の貸出につながるようになるには、少しタイムラグがあるかもしれない。
(問)
 その貸出であるが、アベノミクスの効果が効いているということなのか。
(答)
 アベノミクスの効果が効いていると思う。


(問)
 農林漁業を成長産業として見ていると以前から話があったが、いわゆる6次産業化ファンドということで、銀行界でも取組みがどんどん広がっているかと思う。以前もお話を伺ったが、その後の進捗状況をお聞かせいただきたい。
(答)
 先々月に農業分野への取組みをご説明させていただいた。6次産業化ファンドの状況というと、他行での話であるが、先日、北海道、千葉、沖縄で地方銀行が出資する6次産業化ファンドが出資第一弾を支援決定したという報道があった。
 当行のケースについての進捗を申しあげると、当行と当行の連結子会社で投資業務を行っているSMBCベンチャーキャピタルは、今年の7月、マザーファンドの「SMBCアグリファンド」に出資した。このファンドが、サブファンドを作り、農林水産省が創設した農林漁業成長産業化支援機構の支援を受けて、8月1日に「SMBCアグリファンド」の傘下に「SMBC6次産業化ファンド」を作った。現在、当行のお客さまから農業への新規参入のための出資の相談があった案件、あるいはファンド運営会社自身が発掘した案件など、投資案件については約40件くらい積みあがってきている。いくつかの投資候補先については、デューデリジェンスや投資ストラクチャーの検討を進めており、投資実行の可否を検討中である。ざっくり言うと「年間3件から4件くらいの投資実行が出来れば」というかたちで進めている。いずれにしろ、農業分野は、以前にも申しあげたとおり、成長分野だと思っているので、こういう6次産業化ファンドだけでなく、それ以外の取組みも強化していきたいと思っている。


(問)
 消費税の増税であるが、それに合わせて5兆円規模の経済対策が言われているが、それに対して銀行業界として要望や意見などがあればお願いしたい。
(答)
 今、議論されている経済対策について、詳細を承知しているわけではないので、それについてのコメントはなかなかしにくいが、冒頭の質問に対しても申しあげたが、やはり消費税を増税すると景気には一定の下押し圧力がかかる。したがって、その一時的な経済の低下、停滞を緩和するために、先ほど申しあげた補正予算、公共投資であるとか、あるいは個人の皆さんが消費税を支払われるということで影響があるので、特に所得の低い方には給付金を配布する等々の対策を、消費税増税と合わせて行うことが大事なのではないかと思っているし、消費税の点検会合で同趣旨のことを申しあげた。正確に言うと、その時には具体的な中身にまでは言及せず、その後の皆さんからの質問に答えたということではあるが、そう考えている。
(問)
 5兆円規模という規模感についてはどう受け止めているのか。
(答)
 5兆円規模という中身が分からないので、つまり、経済対策のパッケージの中身が分からないので、なかなか評価はしにくいと思う。ただ、消費税1%の引き上げで、大体2.5兆から2.7兆くらい影響があるということなので、3%だと8兆円くらいの影響が出るわけであり、その一部を別の対策で緩和するということなので、何兆円が適正かは分からないが、ある程度の対策は必要だと思う。


(問)
 東京電力のことで、追加で伺いたい。おそらくこの会見中のことだと思うが、安倍総理が東電の広瀬社長が会談し、安倍総理は東電の福島第一原発の5号機、6号機を廃炉にするよう東電に指示して、広瀬社長は1兆円の引き当てを積むことを安倍総理に説明したという報道が出ている。この1兆円の引き当てについて、銀行団に対する打診や折衝は進んでいるのか。
(答)
 先ほど仰られたとおり、今、安倍総理が東京電力に指示をしている話だと思うので、私自身、その中身を承知していないが、今日、東京電力が、安倍総理から何らかの指示を受けられたということであり、それについての対応は、今後、東京電力と金融機関が打ち合わせをしていくということになるのではないかと思う。
(問)
 廃炉に向けた1兆円の引当金積み増しについてか。
(答)
 そういうことではないのではないかと思うが、私も詳しく聞いていないので分からない。


(問)
 銀行全体の資産サイドのポートフォリオ・リバランスの話であるが、果たしてポートフォリオ・リバランスというのが進んでいるのか、これからも進んでいくものなのか。それから、ポートフォリオ・リバランスを進めるに当たっての課題、例えば、ある一定以上になると進まないという制約要因といったものはあるのか。
(答)
 ポートフォリオ・リバランスについて、もともと黒田日銀総裁は、「長期国債で運用していた機関投資家あるいは金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸出を増やしていくことが期待される」とおっしゃられたと記憶しているが、足元のリバランスの状況というのは、まだ限定的ということだと思う。ただ、限定的ではあるが、緩やかに、着実に進行しているということではないか。貸出については、先ほど別の質問でお答えしたように、中堅中小企業の設備投資などに大きく動きが出てきているということではないが、少しずつ増加してきている。もう一つの株式や外債等のリスク資産への運用のシフトは、一部で発生しているという状況で、まだ大きな動きにはなっていないと思う。が、今回のアベノミクスで目的としているデフレからの脱却や、あるいは、黒田日銀総裁が目指している2%の消費者物価上昇率、こういった政策目標の実現ということを考え合わせていくと、ポートフォリオのリバランスというのは、各機関投資家、金融機関で、今後少しずつ起こってくると私は思う。


(問)
 先ほどの消費税の対策の絡みで、短期的な話ではないが、法人税の実効税率の引き下げの議論も足元でされているが、これについてどうお考えかお聞かせいただきたい。
(答)
 これは、先ほど申しあげた消費税導入に伴う一時的な影響を緩和するための政策というよりは、日本経済、それから日本企業を今後活性化し、日本経済が成長を遂げていくために必要な施策だと思う。やはり、諸外国に比べて法人税率の水準は高いので、日本企業の発展、あるいは海外からの進出、いわゆる立地競争力の強化という観点からも、法人税率の引き下げは進めていただきたいと私は思っている。日本は六重苦といわれており、円高についてはかなり修正をされたとは思うが、まだ、いろいろな制約が日本の市場に残っている。そういった制約を一つ一つ取り除いていく、大胆な規制改革も行いながら取り除いていくということが、必要なのではないかと思っている。


(問)
 消費税増税に伴って手数料がアップされるかどうかについて、各行判断だとは思うが、見通しがあれば教えていただきたい。
(答)
 各行がそれぞれ提供しているサービスの手数料をどうしていくかという点については、消費税率の引き上げが決まった時点で、各行で検討されていくことになると思う。これは各行の経営判断になってくるが、私ども個別行としても、今、その方向感について申しあげる段階にはない。