2013年12月19日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 2013年を振り返っての総括と、2014年の景気見通しおよび経済・銀行界における課題について伺いたい。
(答)
 2013年を振り返ると、一言で申しあげると、「潮目が大きく変化した一年」であったと感じている。とりわけ、アベノミクスのもとでのわが国の変化は大変目覚ましかったと思う。
 アベノミクスについては、目標である「デフレ脱却」「経済再生」に向け、矢継ぎ早に政策を打ち出していること、そして一つ一つの課題について、着実に解を出していることを私は高く評価している。
 日銀の強いコミットメントのもと、政府のこうした動きが潮目の変化を生み出して、日本経済のセンチメントはこの一年で大きく好転した。「デフレ脱却」「経済再生」に向けてきわめて順調なスタートを切ったといえるのではないかと思う。
 この間の銀行界の取組みについて、少し時間を頂戴して申しあげたい。4月に私が全銀協会長に就任した際に、本年を「日本経済が長期停滞から脱却し、力強く一歩を踏み出すよう、金融面からしっかりと支える年にしたい」と申しあげ、具体的な活動方針として、「日本経済の成長を支えるための金融機能の強化、震災復興への貢献」、「強靭で透明性の高い金融システム構築への貢献」、「銀行に対する信頼感、安心感の一層の向上」の三つの柱を掲げて運営してきた。
 第一の柱でまず取り組んだのは、金融円滑化法の期限到来後の対応である。全銀協では、「中小企業者等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を改定、円滑化法期限到来後に銀行界が共有すべき理念を改めて明確化した。銀行界全体でお客さまの金融ニーズにきめ細かく対応してきた結果、大きな混乱なく今日に至っていると認識している。
 成長戦略では、アジアでの金融機能の強化や制度整備、また国内でのPFIの活用といった点について、様々な機会を捉えて提言してきたが、それに加えて、新規・成長企業等の資金調達の多様化や、アジアの金融インフラ整備支援、個人保証制度の見直し、金融・資本市場の活性化、PFI/PPPの推進等、日本再興戦略に盛り込まれた様々な政策の実現に向けても、政府の議論に積極的に参加し、貢献してきた。
 このうち、個人保証制度の見直しについては、全銀協が日本商工会議所と共同で事務局を務めた「経営者保証に関するガイドライン研究会」で具体的な検討を進め、12月にガイドラインを公表するに至った。
 また、アジア各国における本邦企業・金融機関の現地通貨調達の円滑化といった施策については、具体化に向けた様々な動きがすでに始まっている。様々な項目について、今後の展開を大いに期待しているし、我々銀行界も積極的に取り組んでいきたいと思う。
 第二の柱では、国際的な金融規制の見直しの動きが続くなか、引き続き本邦銀行界の立場を各方面で主張してきたことに加え、TIBORの信頼性の維持・向上については、全銀協内に「TIBOR運営のあり方に関する検討委員会」を設置し、いわゆるIOSCO原則を踏まえ、ガバナンス強化策等にかかる具体策を検討してきた。7月には中間取りまとめを公表、現在、全銀協での検討は最終段階に差し掛かっており、先月末に金融庁が設置した「金融指標の規制のあり方に関する検討会」での議論を注視しながら、最終報告書を取りまとめていく予定である。
 第三の柱では、喫緊の課題である反社会的勢力との関係遮断に向けた取り組みや、被害額が増加している金融犯罪・サイバー犯罪への対応に、まさに全力を挙げて取り組んでいるところである。
 また全銀協では、金融経済教育活動の更なる推進に向け、今後三ヵ年における具体的な対応方針を取りまとめ、その概要を公表した。私は、日本の成長分野への資金供給の拡大といった観点からも、金融リテラシーの向上が重要になると思っており、今回の対応方針では、特に大学生、社会人、そして高齢者等を対象に取組みの強化を図っていくこととしている。
 以上、少し長くなったが、就任以来の取組みをご説明させていただいた。
 最後に、2014年の見通しと課題について簡単に申しあげたい。
 わが国経済の見通しについて申しあげれば、消費税率引き上げに伴い、4-6月期の成長は一時的に落ち込むかもしれないが、5兆円規模の経済対策が講じられること等を踏まえれば、景気の腰折れは避けられるだろうと考えている。
 本当の意味で、日本が成長力を取り戻すには、成長のエンジンである民間の活力をどう引き出すか、ということが重要である。そのためにも政府には、すでに発表されている成長戦略の着実な実行に加え、更なる規制緩和や、諸外国と比較して高い法人実効税率の引き下げ等の施策に取り組んでいただきたいと思っている。そうした意味を含め、アベノミクス二年目となる2014年は、まさに「実行力」が問われる一年となるのではないかと思う。
 私ども銀行界も、「三つの柱」で申しあげたさまざまな取組みを仕上げていくとともに、銀行界全体で、知恵を絞って、お客さまの新しい取組みを支援して参りたいと考えている。


(問)
 来月から始まる小額投資非課税制度「NISA」に対する銀行界の期待と、今後の普及拡大に向けた課題について伺いたい。
(答)
 NISAは、自助努力にもとづく資産形成の支援・促進あるいは家計からの成長マネーの供給拡大を図るために導入された制度であるが、私はこのNISAについて、若い世代をはじめとする、これまで投資経験がなかった多くの方々が投資に関心を持ち、将来に向けた資産形成に取り組むきっかけとなり、ひいては「貯蓄から投資へ」の流れの本格化にも繋がる可能性があると考えており、大変期待している。
 NISAを通じ、お客さまの裾野を広げていくことは金融機関にとっても極めて重要であり、銀行界としても、その利用拡大に向け、積極的に取り組んできている。
 銀行界全体としての計数は特に集計していないが、当行の例で申しあげれば、当行とグループ会社のSMBC日興証券、SMBCフレンド証券の3社が連携し、制度の周知やお客さまからの相談への対応に取り組んでいる。足元の申込み件数は、当行単独で約16万件、グループ全体で約49万件と、月を追うごとに順調に増加している。
 当行の実績を見ても、これまで投資を行った経験のないお客さまの申込みが3割程度を占めており、個人投資家の裾野が着実に拡大していることを実感している。
 このNISAを今後さらに普及させていくためには、三つのポイントがあると考えている。
 まず一つ目は、「制度・商品内容の周知をしっかりと行っていくこと」である。
 先日、あるアセットマネジメント会社の調査を拝見したところ「NISAの認知度が65%に上昇した」との調査結果が出ていたが、逆に言えば、まだNISAを知らない方が35%もいらっしゃるということである。この点については引き続きしっかりと周知をして参りたいと考えている。
 二つ目は「金融リテラシー向上に向けた取組み」である。
 これについては2点申しあげたい。まず、1点目は、監督指針で明記されたとおり、個々の銀行において、投資知識・経験の少ないお客さまに対し、中長期的投資や分散投資の効果等の情報を適切に提供するよう努め、一人一口座しか開設できない等の制度上の留意点を、口座開設、勧誘時に分かりやすく説明していく。
 2点目は、投資の意義、効果等をきちんとご理解いただくため、金融経済教育を推進していくということである。
 三つ目は、「NISA自体の利便性向上、拡充」である。
 先日「2014年度税制改正大綱」が公表され、全銀協が要望していた「NISA口座を開設する金融機関を一年単位で変更すること」が認められたが、引き続き、制度の恒久化や20歳未満の若年層への対象拡大、口座開設手続きの簡素化等の残された課題の実現に向け、意見発信していきたいと考えている。
 いずれにせよ、NISAの普及・利用拡大に向け、積極的に取り組んでいきたいと考えている。


(問)
 12月に予定されている東京電力の新規と借換えの5,000億円の融資についてご意見を聞きたい。会計検査院の発表で、3.11以前の無担保融資が一般担保付の私募債に振り替わっているという実態が明らかになった結果、国会や一部の識者から、原発代替の燃料費高騰や除染、廃炉によって、電気料金の負担や、税金で国費を投入するという事態が発生しているのに、なぜ、銀行の債権だけが守られるのかという意見が出ている。一方で、融資もしなければならないということで編み出されたスキームだと思うが、5,000億円の融資を行うにあたり、この点をどう解決して乗り越えていくのか。また、単に、「その場限りの資金繰りのために私募債を発行する」というかたちだけでは根本的な解決にならないと思うが、この点について、どのように捉えているか教えていただきたい。
(答)
 東電関連の質問をいただいたので、まず、東京電力の問題について、これまでの経緯を少し振り返りながら現在の当行のスタンスについて申しあげたい。
 まず2012年5月に認定された現在の総合特別事業計画は、東日本大震災後の混乱のなかで、東京電力が「賠償、廃止措置、安定供給」をしっかりと果たせるよう、東京電力自身の経営改革に加えて、ステークホルダーにも協力を呼びかけたものである。我々金融機関は、資金面でのサポート、具体的には残高維持や必要なニューマネーの支援を要請され、今日に至るまで、総合特別事業計画の枠組みにもとづいて、金融支援体制の維持に努め、東京電力を支援してきた経緯にある。
 一方で、一年半が経過した足元では、例えば、事故費用見通しの増大、汚染水問題の発生、原発再稼動の遅れ、そして電力システム改革の決定等、現在の総合特別事業計画が前提とした経営環境が大きく変化しており、福島の復興加速化のために総合特別事業計画を見直す必要が生じているということだと思う。
 こうした状況を踏まえ、福島再生を一層確実なものとするために国が一歩前に出て、東京電力もさらに改革を行うというコンセプトのもと、現在、新たな総合特別事業計画の策定が行われており、今後、東京電力、そして機構が政府に計画を申請し、認定を受けるというプロセスに入っていくものと認識している。
 新しい総合特別事業計画の中で、金融機関がどういう協力を求められるかについては、こうしたプロセスにあるため、詳細を申しあげる段階ではないが、我々としても、国・東京電力が一歩前に出る趣旨をしっかりと受け止めて、真摯に協議に応じたいと考えている。
 今月のニューマネーと借換えの支援については、計画の見直しの中で、現在の総合特別事業計画の要請にもとづいて検討することになるわけだが、新しい総合特別事業計画においては、国が一歩前に出て、また東京電力もさらに改革を行うことにより計画の実行を確実なものにするというコンセプトであると聞いており、我々としても前向きに検討して参りたいと思う。
 もう一点、一般担保付私募債の話があったが、この点について申しあげると、一般電気事業者が発行する社債は、電気事業法第37条にもとづいて一般担保が付与されることになっており、震災以前においては、東京電力は、一般担保付の公募債を発行してきた経緯にある。しかしながら、東日本大震災以降、東京電力は公募債による資金調達が厳しいという状況の中で、他方では既発債の償還が進んでいくことから、東京電力と原子力損害賠償支援機構と協議したうえで、公募債による資金調達に代わって金融機関が私募債形式の融資でサポートしているのが現状である。我々としては、こうしたサポートも通じて、東京電力が賠償、廃炉、電気の安定供給をしっかり行えるよう、責任を果たしていると認識している。
 これが現在の私どもの考え方である。
(問)
 資源エネルギー庁は、私募債での調達を止めてほしいということを銀行業界に強く要請していると聞いているのだが、その年末に来る融資はどういうスキームにしていくのか。
(答)
 今、仰ったような点も含め、新しい総合特別事業計画について、様々な内容が報道されていることは承知している。ただ、先ほど申しあげたとおり、現在、東京電力は経営環境の変化を踏まえて、新たな総合特別事業計画を策定しており、今後、東京電力、機構が政府に計画を申請し、認定を受けるというプロセスにあると理解しているので、金融機関への協力要請の中身、そして現在の検討状況についてまだ詳細を申しあげる段階にはないと思う。


(問)
 アメリカの中央銀行であるFRBが今の量的緩和を縮小することを決めた。この率直な受け止めと、今後、銀行が運用するにあたって、量的緩和の縮小でどういう影響があるか、どういう判断をしていくのか、今後の見通しについて教えてほしい。
(答)
 昨日のFOMCで、量的緩和策の縮小、いわゆるテーパリングが決定された。バーナンキ議長は9月の時点ではテーパリングを見送り、FOMC後の記者会見で今後テーパリングはデータ次第で考えていくとコメントしたわけだが、その後、失業率の低下等の米国経済のデータの改善、そしてもう一つは、これもおそらく9月の判断に大きく影響したと思われるが、財政協議の問題、この財政協議が進展をしたことを踏まえて、今回の決定に至ったのではないかと思う。
 基本的な考え方としては、以前から申しあげているとおり、米国経済が改善していくにつれて、資産買入れの規模を縮小していくということは、自然な流れであると思うが、その意味では、今回の決定に大きなサプライズはないと思う。また、今回の決定では、資産買入れを縮小する一方で、フォワードガイダンスを強化している。すなわち、失業率がターゲットとなる6.5%を下回った場合であっても、インフレ見通しが長期目標である2%を下回っていれば、現在の低金利を継続するというメッセージを出していて、まさにフォワードガイダンスが強化されている。これを受けて、マーケットもポジティブに反応しているということである。
 今後の注目点は何かというと、一つは緩和縮小のプロセスということになると思うが、バーナンキ議長は今回のFOMC後の記者会見でも緩和縮小プロセスはデータ次第とコメントされているので、米国経済の今後の改善状況に慎重に目配りをしながら、意図せざる急激な金利上昇を引き起こさないよう、市場の期待を適切にコントロールしていくのではないかと思う。
 米国経済がさらに改善していけば、次にタイトニングというステージに移行していくことになる。その際には、金利上昇のリスクであるとか、あるいは、新興国等からの資本流出リスク等が高まる局面が出てくるかもしれないので、引き続き幅広い目配りをお願いしたいと思っている。
 もう一つの運用方針だが、個別行の運用方針としてご説明させていただくが、これは以前にもご説明したが、昨年の秋以降、米国の景気に底打ちの兆しが見られたこと、あるいは、世界経済のテールリスクが低下をしたということも勘案して、運用対象として債券から株式インデックス投信等へポートフォリオのリバランスを一部進めてきている。今回のテーパリング開始というのも、米国経済の回復を背景にしたものという認識であるし、これは従来からの我々の見方に沿ったことであるので、運用方針は基本的には変わらない。
 ただ、もう1点付け加えると、運用については、常に環境の変化に応じて、柔軟かつ迅速にポートフォリオを組み替えていくということも必要だと思っているので、その時々の市場の状況、経済の状況等を見ながら考えていきたい。


(問)
 先ほどの関連の質問で、東京電力の今の状態だが、今期の黒字化が見えてきて、柏崎刈羽の再稼動の審査プロセスも始まっている一方で、社債の発行は依然として再開できないという状態である。そのなかで、金融機関としては、無担保での融資というのは難しい状態と判断されているのか。さらに、仮に柏崎刈羽の再稼動が実現した場合に、1,000億円規模での収支改善が見込まれているが、再稼動したときには、無担保での融資が可能になる条件が整ったということができるのか。
(答)
 これについては、基本的に個社の取引に関する事項であるし、新しい総合事業計画の枠組みについて議論中の案件であるので、現時点では詳細について申しあげる段階ではないと思っている。
 一般論で申しあげれば、融資に関すること、あるいは無担保で融資を行うかどうかということについては、当然のことだが、その会社の置かれたその時の状況であるとか、業績見通しであるとか、財務内容、あるいは資金使途、それから返済の蓋然性、融資条件などを考えて、総合的に判断していくということしか、現時点では申しあげることができない。


(問)
 ちょっと前の話になるが、先週アメリカでボルカールールという金融機関の規制の最終案が承認されて、その後分厚い規制案の読み込みも進んでいると思うが、改めて現時点で日本国債市場の影響、あるいは邦銀のスワップ業務への影響、どのようなものと見ているかを教えて欲しい。もう一つ、それに関連して、来年から欧米でバーゼルIIIが本格的に施行されるであるとか、ヨーロッパで金融取引税の議論が始まっているであるとか、かなり来年も金融機関に対する規制環境が厳しくなると推察されるが、そうしたなかで、邦銀の国際展開および業務にはどのような影響が及ぼされると見ているか。
(答)
 まず、ボルカールールについて申しあげるが、もともと銀行による自己勘定トレーディングあるいはファンド投資を禁止するという規制であるが、2011年10月に案が公表された際、私ども全銀協としては、特に邦銀への影響が大きい項目について、三つコメントしている。1点目は、自己勘定トレーディング禁止の例外規定を米国以外の政府債、もちろん日本国債を含むということだが、に拡大をすべきであるということ。2点目に、自己勘定トレーディングから、為替フォワードや通貨スワップを除外すべきであるということ。3点目は、ボルカールールの過度な域外適用は回避すべきということ。この3点について全銀協としてもコメントし、金融庁、日銀と共に米国当局に対して働きかけを行ってきた経緯にある。
 今回の最終テキスト、大変膨大なテキストであるが、これを読む限り、条件付ではあるが、日本国債等も例外とされているし、域外適用の問題についても、外銀による海外における取引を例外扱いとする基準が明確化されるなど、概ね手当てされている。2点目に申しあげた為替フォワードや通貨スワップ、そして債券先物等については、禁止対象からは除外されなかったが、流動性の管理、あるいはマーケットメイクやリスクヘッジ目的での取引は、引き続き行うことが可能とされている。
 日本の銀行については、それぞれビジネスモデル、あるいはオペレーションが違っているので、影響度合いは一様ではないかもしれないが、当初案で不明確であった点が多岐にわたり明確化されているので、総じて言えば、日本の銀行へのネガティブな影響は、当初案対比かなり限定されたのではないかと思っている。
 しかしながら、懸念点として三つ申しあげたいと思う。一つは米銀の市場取引能力への影響。当然アメリカの銀行は米ドル関連の為替フォワードや通貨スワップ等の市場取引における主要プレーヤーである。マーケットメイクであるとかリスクヘッジ目的での取引は許容されるとはいえ、厳格な運営基準が課せられることが予想され、アメリカの銀行の対応能力は、従来対比制約される可能性がある。そうなると、やはり市場の流動性が低下して、我々銀行だけではなく、我々の先にいるお客さまの米ドルの資金繰りあるはヘッジコストにも悪影響が出かねないと思う。
 もう一つは、今回の複雑なボルカールールを遵守するために、取引状況のモニタリングや分析、あるいはポジションの報告等のための内部管理態勢の構築が必要となることから、これに伴う管理コストであるとかコンプライアンスコストの増大が懸念される。
 三つ目は後段の質問にかかわるが、規制の累積的影響が懸念される。すなわち、バーゼルIIIの流動性規制や、あるいはボルカールール等、危機後に提案された様々な金融規制が実施フェーズに入ってくる。これらが全て実施されたときに、どういう影響が起こるのか、これはある意味、完全にはテストされていない、いわば未知の領域ともいえる。したがって、様々な規制が同時に導入されることによる意図せざる影響が出た場合には、各国の金融当局においては、制度の見直し等、検討してほしいと思っている。


(問)
 今年を振り返ってみると、大きな動きとして、金融庁が9月に監督・検査指針を変えたということが挙げられる。今も水平レビューで検査が入っていると思うが、これまでは不良債権を作らないよう、締め付けるかたちだったのが、これからは資金供給をどんどんしてくださいというかたちに方針転換したと思う。これを受けて、銀行の貸出方針は変わったのか、あるいは今後変わっていくのか。
 一方、与信判断については、銀行に、ある意味、任せられる部分で、銀行の目利き力が大きいと思うが、それを踏まえてどのような課題が残っているのか、お聞かせいただきたい。
(答)
 銀行貸出と金融庁検査との関係だが、今回、金融庁の検査方針が、従来のミニマムスタンダードを検証することから、ベストプラクティスの水平レビューというかたちに変わることにより、銀行貸出に影響を与えることは、多分ないと思う。
 かつて銀行が不良債権処理に取り組んでいた時代、銀行による資産査定について、相当厳しい検査を受けていた。しかし、このような検査方針は、かなり前に転換をされており、現在すでに、各会員行は貸出の増強に積極的に取り組んでいるので、今回の検査方針の変更が、直接的に銀行の貸出スタンスに影響を与えることはないと思う。
 ただし、金融庁の新しい金融モニタリングの検証項目の中に、金融円滑化の取組み等が謳われているし、成長分野への新規融資促進ということも検証項目に入っていると聞いているので、そのような点については、検証されるということになろうかと思う。
 それから、目利き力ということについては、貸出は銀行の本業であって、貸出を行うに当たって、銀行の目利き力が大事だということはそのとおりだと思う。今、銀行では、若い職員が多くなってきているので、融資に携わる職員に企業の見方であるとか、目利き力についての研修を継続的に行っているところである。
 今後、銀行が企業の成長をサポートして、融資を拡大していく際には、職員の目利き力に加えて、例えば、個別行の話だが、業界の知見を銀行に蓄積するための専門部隊を作るなどして、業界の動きがどうなっているのか、そして企業を見る力、すなわちその会社の財務内容や、経営者の資質、技術力などを見る力を養っている。それから、例えば我々もNECの関連会社と提携したりしているが、そういう外部の知見も活用するといったことを組み合わせながら、銀行全体の目利き力の向上に取り組んでいるところである。


(問)
 先ほど、今年は潮目が大きく変化した年であり、デフレ脱却、経済再生に向けて順調なスタートをきった一年だったとおっしゃったが、銀行にとって融資業務や資金運用面でどのような影響や変化があったのか、加えて、足元と来年の動きをどう見ているのか伺いたい。
(答)
 貸出と運用面ということだが、もう少し大きなスコープでお話しさせていただく。まずこの1年を振り返ると、先ほども少し申しあげたように、アベノミクスのプラス効果が実体経済に波及していくなかで、企業の業績が改善し、株価も上昇する一方で、長期金利も落ち着きを取り戻しているという展開であり、銀行の業績に大変ポジティブな影響を与えている。
 当行の上期の数字と合わせて、貸出面、運用面ということを含めて申しあげると、まず国内の貸出だが、一年前に比べると約1兆8,000億円増加している。これは、事業再編に伴うMBO・LBOファイナンスやクロスボーダーM&A関連の大型法人案件による部分が大きかったのだが、やはり、アベノミクスによって経営者のマインドが前向きに変わってきていることも、こうした動きに寄与していると思う。
 一方、中堅中小企業であるが、以前の会見でも申しあげたが、当行で中堅中小企業を所管する法人部門の貸出は、今年の2月くらいから前年同月比プラスに転じている。現場に聞いてみると、夏以降、「売上が増加した」とか「設備投資を拡大していく」といった話も出てきている。企業の手許に現預金が多いので、企業の設備投資が進んでいくのと、銀行の貸出が力強く増えていくのとでは、少しタイムラグが発生するが、いずれにせよ、アベノミクスの効果が現れてきていると思う。
 アベノミクスは個人のマインドにも大きく影響を与えている。株式市況が回復しているので、当行の上期の個人のお客さま向けの投資信託販売額は、1年前と比べて大きく増加しているし、グループの証券会社の業績も良くなってきている。
 また、住宅ローンについても、消費税増税に伴う駆け込みという要因も多少あると思うが、国内銀行全体の住宅ローン残高の数字で申しあげると、15四半期連続で前年同期比プラスということで、好調を維持している。
 このように銀行の業績に非常にプラスになっている。
 次に、運用面ということで1年前と比べると、皆さまもよくご記憶のことと思うが、昨年は、政策保有株式の減損が大きく発生したが、足元では株式相場が上昇しているので、ほとんど発生していない、ということが一つ。
 もう一つは、私ども個別行で申しあげると、昨年の秋以降、債券から株式インデックス投信等へ運用をシフトしているので、今回のアベノミクスによる相場の好影響を受けて収益が出ているという状況である。
 以上、貸出面、運用面にどういう影響があったのかということを含めて、私どもの上期の数字を用いながら説明させていただいた。
 来年どうなるかということだが、おそらく、現在のような経済の情勢が、トレンドとして続いていく。4-6月の経済成長率は一時低下し、マイナス成長になると思うが、全体としては回復トレンドを続けていくと見ている。
 来年のポイントは、成長戦略がしっかりと実行されていくということと、やはり、民間の活力がどう引き出されていくのか、ということだと思う。
 有価証券の運用については、今、ポートフォリオのリバランスが、市場全体で大きく出てきているかというと、まだ限定的だと思う。ある意味、「緩やかに着実に進行している」ということだと思うが、来年、アベノミクスが進展し、日銀の物価安定目標の達成可能性が高まるにつれて、リバランスの動きは広がりを見せていくのではないかと見ている。


(問)
 東京電力について、個社取引だが社会的に関心が高いので可能な範囲で答えて欲しい。新しい総特について協議のうえ前向きに検討すると先ほど答えていたが、国が前面に出るということが銀行にとって現在プラスなのか、ポジティブなのかということ。同時に銀行に対して負担が求められているということが今報道されているが、こうした現在の状況をどう捉えているかということと、新たに求められているということが、これまでずっと銀行が支えてきて、ずっと向こうの求めに応じ続けているという印象を個人的には受けるが、東電と国に対して銀行側から要望したいことがあるか。
(答)
 まず、国が一歩前に出てくるということについては、我々は東京電力の経営の安定性に資するということになると思うのでポジティブに捉えている。それから、今おっしゃっていただいたように我々は震災が発生した後、2兆円の緊急融資を行い、そして総合特別事業計画にもとづいて残高の維持であるとか、必要なニューマネーの支援を行って支えてきたということである。もちろん、その時々に各金融機関が、先ほども融資の判断のとき少し申しあげたが、会社の業績であるとか収支計画であるとか、そういったことを踏まえて都度判断をしてきたものである。したがって、今回の新しい総合特別事業計画の枠内で、金融機関に要請されることがあれば、それはそれぞれのものについて我々なりに判断をしていくということだと思う。
(問)
 かなりの数の金融機関が関わっていると思うが、枠組みがいろいろ見直されるなかで足並みが乱れるのではないかという懸念もされるかと思うが、メインバンクとしてどういうふうにどの方向性でイニシアティブをとっていくのか。
(答)
 基本的な考え方としては、東京電力は日本の約4割の電力の安定供給を担っているという公益的な企業であるし、賠償も担っている企業であるので、各取引金融機関がしっかりと足並みをそろえてこれまで支援をしてきたし、今後もそういう協調支援体制を崩さないかたちで、臨んでいきたいと思っている。


(問)
 先ほどの国内融資の質問に関連して、アベノミクス効果で国内貸出が伸びる一方で、日銀の緩和政策の影響もあって、利ざやの拡大というところにはまだまだ時間がかかりそうだと思うが、貸出の収益性というところについて、現状とこれからの展望について付け加えることがあれば教えて欲しい。
(答)
 質問の中にもあったが、国内の貸出残高については、大企業向け貸出は、例えば、大企業が行うM&Aであったり、事業再編であったり、あるいは新しい事業への進出であったりということで、大変需要が出てきているが、中堅中小企業は、私どもの所管部署である法人部門でいうと、6年ぐらい低下傾向を続けてきたが、この2月ぐらいから反転をしてきたところ。ただ、質問にあったとおり、日本銀行の大胆な金融緩和によって市場金利が下がっているので、利ざやは低下傾向が続いている。したがって、国内の貸金収益という意味においては、ボリュームは増えるけれども利ざやは低下しているという傾向が続いているわけである。利ざやの改善については、例えば今年度、あるいは来年度になんとか横ばいに持っていきたいと思っているが、力強く回復する局面が来るかと言えば、今のところは、なかなか難しいのではないかと思う。日本銀行の金融緩和はしばらく続くと思うので、利ざやについても現在のような状況が続くと思う。
(問)
 そこを海外事業で補っていくという方針はあるか。その収益性のところを海外の貸出を伸ばすことで補おうというような方針はあるか。
(答)
 私どもの銀行の戦略として、どのような成長戦略をとっていくかということについては、一つは海外ビジネスを拡大していくことを考えている。投資家説明会のようになって恐縮であるが、我々は、今の中期経営計画の中で、海外部門の収益比率を3割にするという目標を2年前に設定したが、昨年度それを1年前倒しで達成した。海外部門の利ざやはかなり回復し上昇してきていたが、今は少しその上昇幅が低下しているという状況である。国内とは違い、利ざやが拡大傾向にあるということ、それから様々な貸出機会、例えば、インフラファイナンスやエネルギー関係のファイナンス等のプロジェクトファイナンスを通じ、相当大きな貸出機会があるので、海外のビジネスは拡大していくと思う。
 一方、私は国内のビジネスも拡大していくことができると思っている。先ほど申しあげたように貸出残高は反転してきたが、私どもで様々な提案を企業にさせていただきながら、貸出に加えて、例えばM&Aの手数料等、いわゆる非金利手数料を含めて伸ばしていこうと思っている。また、個人取引においては、やはりこれからアベノミクスのもとで、貯蓄から投資へという大きな流れが動き始めると思っている。そういう局面を捉えるために、銀行とグループの傘下にあるSMBC日興証券とで、リテール取引の一体的な運営、連携の強化を通じて、収益を捕捉していこうと様々な取組みをしているところである。


(問)
 2点伺いたい。
 1点目は、みずほの問題に端を発して反社会的勢力との関係遮断の問題について大変ご苦労をされたと思うが、改めて、反社会的勢力というのは、どのように定義できるものなのか伺いたい。人によって受け止め方も違い、機関によって狭さ広さが少し違っているような気もするので、少しお考えを伺えたらと思う。
 2点目は、再三、質問が出ていた東電問題に絡むが、最近、小泉元首相が「反原発」ということを強く主張され、社会的にも影響を与えていると思う。前回の総合計画では、原発の再開が条件になっていたかと思うが、銀行としては、東電の経営を立て直すという意味で、今回の総合計画にも、当然原発再開が入れられるべきだと思われるのか。また、それが前提でなければ、融資は出来ないとお考えになるのか。この点について、教えて欲しい。
(答)
 まず、最初の反社に関するご質問だが、私どもでは、反社会的勢力等の取引を行うべきではない相手方に関する情報をデータベース化している。このデータベースの中には、例えば暴力団員等の反社会的勢力の情報の他、反社会的勢力との関連が懸念される者、あるいは取引関係を持つことで当行の財産権が侵害されかねない者の情報、これは、例えば恐喝とか脅迫とか、そういった類いの関連情報であるが、こうした情報がデータベース化されている。反社チェックを行ったときに、これらの情報にヒットした場合には、その中身をよく精査したうえで、取引の可否を判断することになっている。おそらく、ご質問の趣旨は、反社会的勢力との関係遮断という社会的要請と反社会的勢力でない方を不当に取引から排除してしまう可能性とのバランスをどうとっていくのか、というご質問だと理解しているが、これは非常に難しい問題を含んでいる。反社会的勢力との繋がりが懸念される場合の対応というのは、各行それぞれの判断ということになるが、新たに取引を開始する場合には、情報の内容を精査し、慎重に対応するということだと思う。一方、既存の取引については、警察に反社会的勢力であるかどうかを確認し、確認できた場合にのみ、暴力団排除条項にもとづいて、関係遮断を行っている。
 原発の問題だが、これはまさに東京電力が、今後の収支計画において、原発の再稼動を含むのかどうか、再稼動する場合にはどの時期から再稼動させるのかといった点を、どのように考え、計画を立てるのかによる。我々は、東京電力から出てきた収支計画あるいは経営計画にもとづいて、融資の可否を判断していくということになる。原発を再稼動するかどうか、これはまさに関係各位が判断をしていくものであり、もちろん原子力規制委員会が安全性を確認し、判断をしていくということに尽きると思う。


(問)
 先ほど、量的緩和の縮小、テーパリングの開始の決定について、コメントがあったが、本日、5年ぶりの円安になり、株価もかなり高くなり、高値を更新するというなかで、この量的緩和の縮小の日本経済への影響や改めて想定されるもの、見通しなどを教えて欲しい。
(答)
 先ほども、どなたかの質問にお答えしたが、これまで過度の円高が発生していたわけで、それがアベノミクスの第一の矢、大胆な金融緩和で修正された。企業の業績にも良い影響を与え、そして株価も上昇し、日本経済には大変ポジティブな影響を与えている。さらに、足元の日本経済の回復には、第二の矢、すなわち機動的な財政政策の効果が含まれているわけだが、いずれにしても、第一の矢・第二の矢を主体として、この1-3、4-6、7-9と成長してきた。私は、もう一つは企業経営者のマインドがすごく前向きになっていることがあると思う。お客さまに会うと、大企業そして中堅中小企業も含めて、非常に前向きになってきている。ただし、先ほども申しあげたが、中堅中小企業のところに、例えば設備投資を大きくしていこうといったような動きが、それほど広がっていない。中堅中小企業の経営者の方のマインドは非常に好転しているが、例えば投資をするということは、それにより売上が伸び、リターンが必ず返ってくるという確信が持てないと踏み込めない。まだ今の時点で、そこまでの段階には至っていない。しかし、経営者のマインドが好転しているので、2014年において、さらに政策を矢継ぎ早に打ち出していけば、投資に前向きになる、あるいは、新しい成長産業が起こってくるということに繋がっていくと思っているし、またそれを強く期待している。
(問)
 つまり、FRBが量的緩和の縮小を始めたとしても、アベノミクスの効果が継続して、あまり悪い影響は出ないだろうということか。
(答)
 あまり出ないのではないか。ただ一つ懸念するのは、新興国の経済、あるいは資金フローにどのような影響を与えるのかという点。これについてはよく注視をしていかなければいけないと思う。5月に、バーナンキ議長がテ-パリングの話をしたときにマーケットは動揺した。先ほども、今後FRBがマーケットとのコミュニケーションを十分にとって、過度な影響が出ないように運営していただけることを期待する、と申しあげたが、まさにFRBには、そういう運営をしていただきたいと思っている。リスクファクターとしては、新興国の経済、金融への影響というのを見ておかなければいけない。今、新興国の経済が、世界の経済を引っ張っているという部分がかなりあるので、それが減速することによって、日本の輸出が減速し、経済に影響を与えるファクターになり得る。そこはよく見ておく必要があると思っている。