2014年4月 1日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日、三菱東京UFJ銀行の平野頭取が全銀協会長に選任された。新体制における会長・副会長は、お手許の資料のとおりである。
 また、本日はこのほかに平野会長の略歴と写真をお配りしている。
 事務局からの報告は、以上である。

会長記者会見の模様

 三菱東京UFJ銀行の平野でございます。
 このたびの理事会において、國部前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになりました。これから一年間、皆さま方のご支援を賜りながら、この大役に取り組んでいきたいと考えておりますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。

 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、まず、國部前会長に一言、お礼を申しあげたいと思う。
 振り返ると、昨年度は、日本経済の復活、デフレ脱却に向けた明るい兆しが見え始めた「転換点の年」であったと思う。この重要な時期において、國部前会長は、震災復興への持続的な取組み、日本経済の復活に向けた金融面からのサポート強化、TIBOR改革や反社問題への対応など、金融界の多岐にわたる課題への取組みに見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を力強く牽引していただいた。そのご尽力に対し、心から敬意と感謝の気持ちを表したいと思う。

 さて、改めて、わが国の銀行界を取り巻く環境を、やや長いレンジで見てみると、いわゆるバブル経済崩壊以降、日本経済は長年に亘るデフレ状態が継続し、金融システムの面では、1990年代の日本の金融危機、そして2000年代後半のグローバル金融危機の2度にわたる内外の危機対応に追われた、厳しい時代が続いてきた。
 しかしながら、足元、日本経済はようやく長いトンネルを抜けつつある。
 翻って、2014年を起点とした、これからの日本を展望すると、昨年一年間で得られた、閉塞感から脱する「復活」に向けた機運を、実際の「成長」に結びつけていく必要があると考える。
 同時に、人口減少や少子高齢化、累積する財政赤字といった構造的な課題にも目を向け、その解決に向けた取組みも本格化しなければならない。
 そのためには、政府には、第一の矢、第二の矢に続く第三の矢、いわゆる成長戦略において、大胆な規制緩和を含めた実行力の発揮が強く望まれる。また、本日消費税率が引き上げられたが、景気情勢を踏まえつつ、引き続き財政健全化を意識した取組みも重要である。私ども銀行界としては、こうした政府の取組みとも歩調を合わせ、わが国の実業・実体経済を支えるべく、積極的な役割をより一層果たしていかなければならないと思う。

 以上を踏まえ、私は、本年を「実業・実体経済を支え、将来に向けた日本の持続的成長を確実にするための貢献を果たす年」と位置付けたいと考える。そして、自らも産業の一つとして更なる発展を目指すとともに、日本の新たな成長ステージを支える金融システムの進化に力を尽くしたいと思う。
 こうした問題意識のもと、今年度、全銀協としては、「3つの柱」を活動方針として掲げる。

 第一の柱は、「日本の再生・成長戦略への貢献」である。
 まず、震災復興に引き続き、しっかりと貢献していく。東日本大震災の発生から3年が経ったが、二重債務問題では、東日本大震災事業者再生支援機構、産業復興機構、個人版私的整理ガイドライン等の各種支援策の活用が本格化し、着実な成果が出ていると思う。引き続き、現行制度を活用した支援を継続すると共に、今後の集団移転の本格化といった状況も踏まえ、政府と緊密に連携し、円滑かつ迅速な対応に努めて参りたいと思う。
 成長戦略の実行は、今年度がまさに正念場である。
 私ども銀行界としても、企業や個人のお客さまの金融ニーズを積極的に掘り起し、金融仲介機能の一層の強化を図ることで、成長戦略の実行に貢献していく。
 具体的には、拡大が予想される社会インフラの更新・整備や継続的な震災復興ニーズに、民間の資金が有効に活用されるよう、たとえば、PPPやPFIの普及・利用促進への一層の働きかけを行っていく。
 加えて、農業、環境・エネルギー、医療・介護といった分野では、地方においても、潜在的な市場拡大の余地は大きく、これら分野で、政府による規制緩和等が着実に実行され、新たな投資や市場等が創出されれば、地域経済の底上げに繋がると期待される。銀行界としても、関係機関との連携やお客さまの課題・ニーズに対するコンサルティング機能をしっかりと発揮し、こうした新産業の育成、そして、地域経済の発展に貢献していく。
 また、個人のお客さまに関しては、昨年10月に制度がスタートしたNISAは、「貯蓄から投資へ」の流れをつくる第一歩として、順調な滑り出しを見せている。引き続きその使い勝手向上や制度の拡充に取組んでいく。
 中小企業金融の円滑化は、円滑化法が終了して一年となるが、法の有無に関わりなく、中小企業の資金繰りを支え、経済成長の基盤固めに貢献していくことは商業銀行本来の責務である。この責務を果たすため、資金供給を支える環境整備、具体的には、今年2月から適用を開始した経営者保証ガイドラインといった枠組み、ABLや資本性借入金といった、多様な金融手法の普及と利用促進に向けて、積極的に取組む。
 また、中小企業向けの新たな資金供給手段として、「でんさい」の利用者登録数はすでに33万社に到達しているが、更なる実利用の拡大に向け、参加金融機関、関係省庁、関係団体等と連携し、引き続き、利用促進に資する施策を進めていく。

 第二の柱は、「安心・安全・便利な金融取引環境・インフラの構築」である。お客さまを含む社会の目から見て、銀行界、銀行取引が「安心である」「安全である」そして「便利になった」と感じてもらえるよう、汗をかいていきたいと思う。
 まず、反社会的勢力への対応では、昨年11月、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について、申合せを行った。今年度も業界一丸となってそうした対応を徹底するともに、警察庁とのデータベースの接続については、警察庁、金融庁、銀行界の実務者間で引き続き具体的な検討を進めていく。
 続いて、振り込め詐欺やフィッシングといった金融犯罪には、引き続き、銀行界として、周知活動等を通じた被害防止の働きかけを継続する。特に、足元で急増しているインターネットバンキングの不正送金被害には、キャンペーンを含む情宣の強化あるいは会員各行でのセキュリティ対策をより促進していく。
 また、高齢化対応を含め、利用者保護への取組みを強化していく。金融経済教育では、従来は中高生を主なターゲットとしていた活動を、大学生、社会人、高齢者まで対象を拡大する。本日付で設置した金融リテラシー推進室を中核として、既存教材の見直しとその活用促進などの施策を推進していく。また、金融ADRの運営についても、引き続き、迅速な解決に向けた工夫を重ねていく。
 より便利な金融インフラ作りという観点では、平成27年度下期リリースの新日銀ネットの第二段階稼働以降に予定されている稼働時間延長への対応や、平成31年度の第7次全銀システムの更改に向けた検討を開始する。また、中期的な課題として、東京オリンピックに向けて予想される外国人旅行者の増加なども視野に、将来的なATMの使い勝手向上など、国内外の利用者利便を意識した取組みの検討を各方面と行っていく。同時に、金融インフラの安全性向上と銀行界の危機対応能力を高めるべく、会員各行の業務継続プラン、いわゆるBCPの実効性向上に向けて、引き続き取組んでいく。

 第三の柱は、「公正・透明・強固な金融システムの構築」である。
 グローバルな金融システムは、足元も国際金融規制の強化の動きが続いている。日本の金融システムは、グローバル金融危機後も、国際的にみれば、健全性を保持してきたと言えるが、国際的な流れも踏まえつつ、引き続き、公正・透明・強固な金融システムの構築に努めていく必要がある。
 まず、昨年来取組んできたTIBOR改革については、「全銀協TIBOR運営機関」を本日設立し、この運営機関において、外部有識者を中心とする独立性の高い監視委員会を設置するなど、指標運営の透明性確保に主眼を置いたガバナンス体制の整備を行った。引き続き、IOSCO原則を踏まえ、TIBORの信頼性の維持・向上に着実に努めていく。
 次に、郵政民営化への対応は重要である。ゆうちょ銀行のあり方については、今年度は日本郵政の上場に向けた動きがあると思われる。従来からの私どもの主張、すなわち、郵貯事業改革の本来の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて、国民経済の健全な発展を促す、ということに変わりはない。貸出を含む新規業務の開始については、完全民営化を含むイコールフッティングの確保が前提である。また、政策金融のあり方も、「民間にできることは民間に委ねる」という民業補完の考え方が原則であることも変わらない。このような従来の主張のもと、必要に応じ、関係先と緊密に連携し、銀行界として適切な意見発信を続けていく。
 国際金融規制に関しては、G-SIFIsの実効的な破綻処理の枠組みや、バンキング勘定での金利リスクの取り扱いに関する議論が内外当局間で続いているほか、IFRSや移転価格税制、あるいは国際課税の見直しなど、会計や税制についても、グローバルベースでの新たな規制・ルール作りの議論が行われている。こうした議論にもしっかりと関与し、より強固な金融システムの構築に向けて、銀行界としての意見を適切に発信していく。

 最後に、さきほど、私は、本年を、「実業・実体経済を支え、将来に向けた日本の持続的成長を確実にするための貢献を果たす年」と申しあげた。日本経済がデフレからの脱却に向かいつつあるこの歴史的な局面で、銀行界が自らの社会的使命を改めて強く認識し、5年後、10年後、そして、その先にある銀行界、日本経済の姿に思いを巡らせ、その創造に向けて最大限の貢献を果たしていく。それが、この一年間の最大のテーマだと思う。
 国内を中心とした全銀協の主な取組みは、これまで申しあげてきたとおりだが、海外に目を転じれば、中小企業を含む日系企業の海外進出が加速するなか、日系企業や銀行自身が、アジアでスムーズにビジネスを展開できる環境をどう整えていくか、アジアの成長をいかに日本の成長に取り込むか、が成長戦略の観点でも重要な論点の一つとなっている。銀行界としても、政府と連携し、そうした動きをどうサポートできるかしっかりと検討していく。

 わが国の新たな成長ステージ、業界の更なる発展に向けた、力強い一歩を踏み出す。そのような局面で、全銀協会長という重責をお引き受けすることになったが、関係各位のご支援とご協力を仰ぎつつ、全力で取組んでいく。
 この一年間、大変お世話になると思うが、どうぞ、よろしくお願い申しあげる。


(問)
 今日、日銀短観の発表があった。先行きは悪化しているところも出ているが、今回の短観の評価、そして今後の景気の見通しについて伺いたい。
(答)
 本日公表された日銀短観の調査結果だが、一言で言えば、様々な要素は見られるが、安倍政権による一連の政策効果を基点とした好循環が広がっていることを示すものと考えている。
 まず1番目に、足元の業況判断DIだが、全産業・全規模ベースでみると、昨年の12月の調査は8ポイントだった。これが12ポイントと、4ポイント改善している。企業規模・業種別で見ても、景況感の改善の広がりがみえている。今回の短観で私どもも注意して見ていたのは、消費税がどう影響するか、とりわけ足元ではなく先行きにどう影響するかということである。確かに景況判断DIでは、この先やや悪化すると見ている企業が多く、先行きは1ポイントと、11ポイント低下している。しかしながら、絶対水準で見ると、例えば大企業の全産業ベースの業況判断DIは引き続きプラス11である。これは決して低い数字ではないと考えている。
 2番目に設備投資。これも今年の好循環を作り出すうえで非常に重要な要素だが、やや低めの数字が出たという見方がある。すなわち、前年比で見ると、全産業・全規模ベースでマイナス4.2%という数字が出ている。しかしながら、昨年と比べてみると、昨年のこの時期にはマイナス3.9%という数字が出ていた。過去のケースを調べると、設備計画というのは、概ね期初においては比較的低めの数字からはじまって、それが高くなっていくという傾向がある。昨年はこの時点では3.9%のマイナスだったが、結果的には5.2%増となった。これは各企業経営者の先行きに対する慎重な見込み、そして、景気の動向を見ながらさらに設備計画を追加していく、ということと思われる。
 したがって、この数字だけをもって、今年の設備計画がマイナスになると判断する必要はないと思う。特に製造業を見ると1.2%のプラスとなっている。また、大企業全体でも、これまで概ね慎重でマイナスがついていたのだが、僅かとはいえ0.1%増である。これらのプラスはいずれも2年ぶりであり、このことも、設備投資計画が必ずしも悪くないと見ている点である。
 3番目は、今年の収益見通しである。売上高が0.7%、一方で、経常利益が前年比で2.2%マイナスになっていることから、やや懸念する向きがあることは承知している。しかし、2013年度の経常利益の見通しは、この時点で約2割の増益であり、この反動があるのではないかと見ている。業種別に見ると、やはり駆け込み需要が極めて顕著であった小売等を中心に、期初における落ち込みが顕著ということで、細かく見ていくと必ずしも悪い数字ではない。
 したがって、もう一度まとめると、全般的には昨年来の種々の政策効果が徐々に広がりつつある。この大きな流れを変えるものではないが、消費税の引き上げが、今日からはじまったこの四半期にマイナスの影響を与えるのは間違いないし、それを7月以降にどう跳ね返していけるかということについて、政府あるいは民間それぞれが努力をする必要がある、ということだと思う。


(問)
 今も指摘があったが、今日から消費税が増税され、5%から8%になったが、まずこの増税をどう受け止めているか。そして、今後、安倍政権で10%へのさらなる引き上げをするかどうかを判断していかなければならないが、引き上げの是非を含めてどのようにお考えになられているか。
(答)
 今申しあげたとおり、4~6月の一時的なGDP成長率の落ち込みは避けられないと考える。但し、今回の場合、それを跳ね返し得る要素、すなわち、いわゆる好循環を作り出すための経済対策5.5兆円、そして様々な租税上の措置1兆円がすでに打ち出されており、それが効果を発揮する可能性が高いと思う。しかも中身を見ると、住宅ローン減税や自動車取得税など、裾野が広い分野において適切な対応がとられていることが今回のポイントの一つと考えている。
 また、消費税の引き上げに伴う駆け込み需要の反動減以外の影響としては、物価上昇による所得の引下げ効果、実質購買力の低下があるが、これに対しては、ベースアップを含む賃上げが昨年来の政治の呼びかけもあり、労使協議を経て、実現がかなり見えてきている状況である。先週初の賃上げ率の集計でも、約2.2%の上昇と、昨年を0.4%ぐらい上回るということであり、おそらく10数年ぶりの賃上げ率になる可能性が高いというふうに見られている。これが所得を下支えする要素になるのではないかと考えており、そのような意味で、様々な施策が打たれている。
 ただし、もう一つ非常に重要だと思っていることがある。それは、昨年6月の日本再興戦略、この改定が6月目処に行われることになっているが、その追加施策、あるいは昨年は必ずしも十分に踏み込めなかった領域に対するさらなる施策の中身がどうなるのかが極めて重要であるということである。具体的に言えば、いわゆる構造改革という意味で、規制改革がどう行われるのか、そして、法人税引下げの問題、また雇用改革がどこまで進んでいくのか、そういった様々な課題に対してインパクトのある施策が打ち出されることを期待している。
 以上、これらが上手く、相互に機能しあって、この4~6月の落ち込みを最小限にとどめ、7月以降に再び成長軌道に復する可能性は十分にあると思う。
 次に、消費税率の10%の引き上げであるが、日本の財政は極めて厳しい状況にあり、220%を越えるGDP対比での公的債務というのは、世界的に見ても、高い水準というのは間違いない。このような状況下でも、低金利が続き、国債が円滑に消化されているのは、基本的には国内で国債が消化され、外国人投資家への依存比率が8%に過ぎないこと、日本が世界最大の純債権国であること、国民の金融資産は更に増加し1,600兆円にのぼることなどが理由である。しかし、この状況がサスティナブルであるかどうかという点はあり、現政権が掲げるとおり、成長戦略と財政再建を両立させることが重要だと思っている。しかも、財政再建のためには経済成長なくしてはありえない、との順番が大切だと思っている。そういう意味で申し上げれば、7~9月の経済状況を勘案したうえで、年内に10%への引き上げについての判断をされるというのは正しいアプローチと考えている。
 その際に、私ども金融界として念頭に置いておかなければならないのは、国際社会からの、あるいは市場からの信認である。長い目で見れば、日本の市場も海外の市場とつながっており、海外投資家からの信認というのが、日本の財政を持続させるためにも極めて重要だと思う。そういう意味では、10%の引き上げを含めて、2015年におけるプライマリーバランスの赤字半減、2020年におけるプライマリーバランスの均衡という既に掲げられた目標を常に念頭に置きながら、政府におかれても施策を進めていかれるのが重要であろうと考えている。


(問)
 先ほど冒頭で全銀システムについて言及があったが、使い勝手の面で、今後24時間365日化等の報道があるが、世界と比べて日本の今のシステムはどう変えていくべきとお考えか。
(答)
 まず現在の全銀システムは、世界的に見て、機能においても信頼性においても高い水準にあると考えている。8時半から15時半までの7時間、参加行約1,300行のほとんど、日本全国津々浦々の金融機関をカバーし、規則としては1時間だが、実際には15分以内での、ほぼリアルタイムでの入金が大量かつ金額的にも大きな資金で可能である。この点、現時点でいえば、機能性の高い優れたシステムと申しあげられると思う。
 そのような中で、平成31年の下期のカットオーバーに向けて、今年から第7次の全銀システムの検討に入るところである。このなかでは、二つのことがテーマだろうと考えている。一つが、今ご質問にあった、利便性の問題。もう一つは信頼性の問題。後者から申しあげると、フィナンシャルマーケットインフラストラクチャーズ原則、FMI原則がIOSCOから出ており、これに準拠する信頼性の高いシステムが求められている。さらに金融庁からも監督指針が出ており、これに準拠する見直しをやらないといけないというのが一つ。
 2番目に、利便性の問題。これについては二つのテーマが今話題になっている。まず一つは24時間365日という決済時間の延長である。
 今、全銀協においても7次システムの更改に向けて、様々な調査を行っているが、英国は2008年に24時間365日を実現した。また、シンガポールも今年の3月にこれを開始している。ただし、その中身を見ると、まだ予備的な調査ではあるが、英国においても二つのシステムが同時並行的に走っている。従来のシステムが決済量の7割ほど占めており、その背景として、新システムへの参加行の数がそもそも少なく10行である。また、金額の上限も比較的低く10万ポンド程度。シンガポールでは14行の参加で、上限金額が1万シンガポールドルだと思う。
 したがって比較的金額の小さな送金を、限られた数の金融機関のなかで実現するシステムのように見える。こうした例もさらに研究していく必要がある。
 加えて、実際のニーズがどのくらいあるのか。当然、かなり大がかりなシステムになるので、かなりコストがかかる。真のニーズはどこにあるのか、それに対してどのくらいのコストがかかるのか。コストベネフィットをよく見ていく必要があると考えている。現状のシンガポールあるいは英国のシステムが一つの参考になる可能性はあるかもしれないと考えている。
 利便性のもう一つに、EDIがある。これは第6次で、XML形式の電文フォーマットへ対応できるようにしており、すでにEDIにも対応できるようになっている。流通業界を中心に研究会を立ち上げ、一昨年にはその調査レポートもまとまっているが、必ずしも、全産業にわたるような共通したニーズでもなく、統一のフォーマットを作るのはまだ難しい。金融の決済と商流データが融合すれば、利便性は高まると考えており、今申しあげたような研究を続けていきたいと考えている。
 いずれにしても、全銀システムは社会的なインフラとして極めて重要なものなので、利便性と同時に、安全性、信頼性のバランスを取りながら、今後の検討を進めていく。


(問)
 北海道電力の経営悪化で、銀行による増資という報道が今日あったが、九州電力や関西電力など、ほかの電力会社も東電の原発事故後に値上げと再稼働がなかなかできずに経営悪化で苦しんでいると思う。銀行界としてこの状況をまずどう見られているのか。金融機関はどういう姿勢で支えていくのかを聞かせていただきたい。
(答)
 北海道電力に関する報道がなされていることは私も承知している。ただ、個社の案件についてこの場でコメントするのは適切ではないと考えるので、一般論として申しあげたい。
 電力業界は、まさに日本の社会インフラである。電力の安定供給は、家計あるいは産業を支える、なくてはならない重要なシステムである。したがって、金融界としても、社会的使命といった観点からも、電力業界に対するサポートを行っていかなければいけないというのが基本的な認識である。
 電力会社については、この3年間いろいろなことがあったが、こうしたスタンスで取り組んできたと考えている。実際、福島における原子力発電の事故の後、原発の全面停止というなかで、各電力会社が厳しい経営環境にさらされていることは事実である。ただ、各社ごとにそれぞれの取組み、原発再稼働に向けての取組みであったり、あるいは経営の抜本的な改革、コスト削減、あるいはやむを得ない場合は、値上げということを含めて経営改善の努力に取り組んでおられるということであるので、先ほど申しあげた基本的なスタンスに則って、我々金融界はこれからも適切なかたちで支援を続けて参りたいと考えている。


(問)
 日本政策投資銀行について伺いたい。日本政策投資銀行の民営化は、かつて議論されて法律もできたが、グローバル危機の時に改正法によってスケジュールを延期、さらに大震災が起きて財特法によって再度延期され、実際には、当初のスケジュールどおりに進んでいない状況にある。
 日本政策投資銀行のホームページによると、平成26年度末を目途として、政府による株式の保有の在り方を含めた政投銀の組織の在り方等を見直すこととされ、それまでは引き続き政府が保有する政投銀の株式は処分しないものとされている。つまり、今年度、政投銀の株式の保有のあり方、組織のあり方が一年間議論されることになるが、この問題について会長の所見を伺いたい。
(答)
 先ほど一般論として、政策金融機関は「民業の補完に徹するべきである」という原則について述べた。日本政策投資銀行も、そういった基本的な枠組みの中で検討されるべきと考える。ご指摘のとおり、もともと完全民営化を前提に進められてきたが、リーマンショックや東日本大震災などを受けて、政策金融機関がその役割を果たすべきフェーズにあったことから、今年度までいったん凍結されてきたということだと思っている。
 政策金融機関は、民間金融機関には担えないような役割があり、必要なものだと思う。民間金融機関がとり得るリスクには限界があり、それを超えるような融資の領域は、ある局面においては存在すると考える。まさにその典型例がリーマンショック後の危機対応や東日本大震災後の復興対応といった局面であったと思う。
 具体的には、政策金融機関の果たすべき役割は、たとえば、融資期間が非常に長いものであるとか、先ほどの災害・危機対応であるとか、全く新しい領域で民間の金融機関ではリスクアセスメントが極めて難しいものに関して、政策的な観点からそれを促進するところなどにあると考える。
 ただし、最初に述べた「官業は民業の補完に徹する」という原則の下、分野は限定されるべきであるし、その局面によって伸縮が起こるべきだと考えている。加えて、民間金融機関との間では、適切なリスクシェアのあり方が考えられなければならない。今後、こうした考え方をベースに、政策金融改革に取り組んでいきたいと思う。


(問)
 先日アメリカのFEDにおける一連のストレステストで、シティバンク等の一部の大手金融機関の資本計画が却下された。そういった金融機関にとっては株主還元策への影響がでかねない状況なのだが、会長はいろいろな尺度からのストレステストの実施、資本の水準だけではない側面を見るストレステストと、厳しい資本規制についてどのようなお考えをお持ちか。
(答)
 リーマンショック後、欧米では、納税者の負担による金融機関の救済はあってはならないという強い考え方があり、いわゆるプルデンシャル規制であるが、バーゼルIIIの自己資本比率規制、流動性規制、レバレッジ比率規制といった規制が強化された。それに加えてデリバティブ規制やボルカールールといった一連の規制強化が行われている。金融システムの持続可能性や強靭性を担保するためには、こうした規制は基本的には必要なものだと認識している。
 一連のストレステストについては、そういった規制の手法、あるいはリスク管理の手法の中では有効なものだと思っている。というのは、リーマンショック前のリスク計測は、VaR等、過去のデータにもとづいたリスク計測が主体であった。ところがリーマンショックではそれを超えたことが起こってしまった。このため、今後起こるかもしれないストレスを想定して自己資本比率や流動性や貸出の中身がどこまで悪化するかといったテストをするのは、新たな手法としては極めて重要であると思う。それに対して金融機関は積極的に取り組む必要があると考える。
 米国のストレステストでは、自己資本比率においては30行中29行が基準をクリアしたが、リスク管理に関する取組み、すなわち定性的な部分で不合格になった金融機関が4つあったということである。こうした取組みについては、我われもレベルアップに努めなければならない。
 私は基本的にはバーゼルIIIを支持しているが、いくつか未決の課題がある。とりわけ、私どもが今年重要だと思っているものの一つが、銀行勘定の金利リスクの取扱い、すなわちIRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book)と言われているものである。これは短期資金の長期資金への転換という商業銀行の本質的な使命に対する阻害要因になる可能性があると認識している。たとえば、短期の預金をお預かりして、長期の住宅ローンでお貸ししたり中長期の国債を保有するというのは、いわゆる投資銀行のトレーディング勘定とはリスクの性格が全く異なるので、これをトレーディング勘定と同様に扱うのは正しくないと考える。この議論はこれから本格化する。
 2点目は、GLAC、すなわちGone-concern Loss Absorbing Capacityと言われているもので、破たん処理の際のベイルイン債務をどこまで持つかという議論である。これをバーゼル規制の2倍持つべきという主張も見られる。これについては、日本の金融機関のバランスシートの構造や親子の関係などを考慮すべきであるし、日本には預金保険機構というすでに十分によく整備され過去に破たん処理においても活用されたことのある仕組みがあるという点で、海外と異なる点がある。こうしたことを反映してベイルイン債務に関する議論を行わなければならない。
 それともう一つ、やや別の話になるが、各国がバラバラに規制を強化しているという問題がある。これはフラグメンテーションやゴールドプレーティングと言われている問題である。例えば、米国の外銀プルデンシャル規制では、500億ドル以上の総資産を持つ外国の金融機関は中間持ち株会社、IHC(Intermediate Holding Company)を再来年までに作らなければならない。これは一種のリングフェンシングといって、各国が自分の国内に資本や流動性を封じ込めようという動きである。こういった問題は、国際的にビジネスを行っている金融機関にとっては非効率なものになり得る。
 以上の様な問題がまだ残っていると考えており、これらについては、全銀協としても意見発信を行い、金融庁、日銀とも十分に連絡を取りながら対応していきたいと考えている。


(問)
 冒頭、日本の金融システムは強固な金融システムという話があったが、日本の金融システムを語る時にオーバーバンキングの問題が、しばしば指摘される。銀行の数が多いという指摘もあれば、オーバーデポジット、すなわち、預金が多すぎるという意味でのオーバーバンキングだという指摘もある。銀行の数が多すぎるのか、預金が多すぎるのか、あるいはその両面なのか、日本の金融が構造的に抱えている問題として会長はどのようにこの問題を認識しているのかお聞かせいただきたい。
(答)
 これは、非常に古くて新しいテーマであり、なかなか難しい問題だと思う。まず、数については、先ほど申しあげた全銀システム加盟の金融機関数は約1,300の一方で、アメリカの金融機関数は、一時10,000と言われていたが、足元は7,000程度である。アメリカのGDPが日本の2.5倍~3倍であることを考えると、1,300が必ずしも多いとは言えないかもしれない。もちろん、地理的な違いもあり、単純比較はできないかもしれないが、私は、数の問題ではなく、基本的に需給と金利の絶対的な水準の問題であると思う。
 以前よりオーバーバンキングということで話題になるのは、金融機関の利ざやの低さである。大雑把に言えば、アメリカの金融機関は3%くらいで、日本は1%程度ということであるが、その要因は申しあげた二つだと思う。昨年9月の国内銀行ベースの数字では、貸出が約480兆円、預金が約680兆円、預貸率で約7割となっており、この一事をもっても、明らかに需要が供給を大幅に下回り、貸出スプレッドが圧縮される要因となっている。加えて絶対的な金利水準の問題があり、現在の預金金利はほぼゼロ、貸出金利のベースとなる市場金利も昨年は下落し、銀行の利ざやは引き続き毎年数ベーシスポイント程度低下している状況である。この需給と絶対的な金利水準の問題が構造的な問題であると思う。これが先々どうなるのかであるが、日本経済の再興、そして持続可能な成長軌道への復帰が出来れば、資金需要の拡大に伴い、徐々に、まず需給が改善し、利ざやがよりリスクを反映したものとなる。そして、次にベースレートが上がることで、総利ざやの改善が期待出来るのではないかと考えている。


(問)
 先週、3メガでベアが決定したかと思うが、この流れというのは銀行界全体に広がっていくのか。また、来年以降のベアへの取組みについて、どのように考えているのかお聞かせいただきたい。
(答)
 先ほども触れたが、いわゆる景気回復の好循環の輪を広げていくために、賃金の引き上げが重要であるということは論をまたない。そうした中で、今回の賃上げ、あるいはベアの動向を見ていて良かったと感じる点がある。それは、たしかに賃上げの一つのきっかけは、昨年末の政府による労使に対する呼びかけであったかもしれないが、各企業からの回答、あるいは労使間交渉の妥結内容が様々な点である。すなわち、業種によっても様々であり、また、同じ業種の中でも各企業によって対応が異っている。これは、各企業の経営者が自社の業績動向、今後の見通し、あるいは過去の様々な経緯等を総合的に勘案し、自社にとって何が一番良いかということを熟慮された上での結論と思う。ただ、その前提として、日本経済全体の回復なくして将来はない、という共通の認識を持ち、できるところから賃金の引き上げに取り組んでいこうという雰囲気が形作られた上での対応でもあり、そうした観点で良かったと感じている。
 金融界においても同様である。確かにメガバンクは3行の足並みが揃った。ただし、ベアについては+0.5%と同一であったが、賞与については、当行は前年度総資金量対比101%を予定しているが、他メガは同105%の模様である。これは各行の経営者が熟慮の上で判断した結果である。地域金融機関やその他の主要業態においても、各金融機関が、現状の業績動向、将来の見通し、更には、従業員との関係等を勘案し、判断していくものである。したがって、この場で私が見通しを申しあげることにはあまり意味はない。来年どうなるかという点も、各社が考えていくことになるであろう。
 ただ、冒頭の所感でも触れたが、日本の経済を立て直していかなければならないというのは、我々銀行界で共有している認識であり、来年は今年以上に賃上げが行われるようになる、あるいはそうなるために努力していくというのがポイントだと考えている。


(問)
 円滑化法の期限が切れて一年経ち、実際利用された企業は30万から40万社と言われている中で、そういった企業を今後どうしていくのか、転業・廃業を促す、あるいはM&A、さらには事業再生といった問題が控えている。とりわけ銀行にとっては取引先の事業再生は非常に重要な課題だと思うが、会長として事業再生について今後どう取り組んでいくのか、伺いたい。
(答)
 中小企業の金融円滑化については、法が終了した昨年の4月以降、その動向が非常に関心を集めていた。結果的には、倒産企業数はむしろ減少を続け、各金融機関とも、中小企業の金融円滑化を本来の業務として取組みを強めたというのが実態であったと考えている。
 ただ、ご指摘のとおり、私どもとしても、局面が変わっていくとの感覚はある。即ち、従来は、一言でいえば円滑化とはリスケ対応であったが、これからは、金融面の対応だけではなくて、事業自体の再生、それが本当に難しいのであれば、中小企業が体力を完全に失われない段階での転業、場合によっては廃業など、事業自体をどうするかということについて、取り組んでいく段階に入ったということだと思っている。
 これはいつも申しあげているが、日本の金融機関は極めてユニークな取組みをしていると思う。すなわち、中小企業の円滑化の中で強調されたのは、コンサルテーション型のバンキングやビジネスマッチング。2~3年前の話だが、私自身が中小企業のお客さまをお訪ねした際、「金はあるが、仕事がない」という話を聞いたことがある。普通、金融機関の対応はそこまでだが、日本の金融機関は、中小企業が抱えている大きな二つの課題に取組んでいる。一つ目は経営上の課題に対する対応。コンサルテーション型のバンキングを提供し、事業再生、場合によっては転業などを含めた経営管理面での取組みをサポートする。二つ目は、ビジネスマッチングによって販路を紹介する。最近では海外の販路を紹介し始めている金融機関も現れている。ある意味で非常に独自のモデルであり、こうした局面だからこそ、こういった機能を引き続き発揮していくことが重要だと思っている。
 また、地域経済活性化支援機構については、法律の改正が検討されており、事業の再生や転業・廃業を進めていくために貸出債権の買取りの機能を新たに持とうとしている。この点もプラスに働くし、企業再生税制といった税制上の特権もプラスに働くと思う。こういう官民双方からの取組みが今後重要になってくると考えている。


(問)
 銀行界の女性の登用、あるいは女性の役員への登用について伺いたい。また4月にメガバンクにおいて女性の執行役員が初めて誕生したが、今後、女性の役員、あるいはボードメンバーに登用する可能性について会長のご見識を伺いたい。
(答)
 金融機関に限らず、日本の企業、あるいは雇用市場へ女性が積極的に参加し、その中で活躍していくというのは、まさに日本の再興を考えるうえで、極めて重要と考えている。
 とりわけ金融機関は、従業員に占める女性の比率が高く、女性の活躍の場が多くあり、実績を上げた方が管理職、役員になっていくことを強く期待している。これは社内だけではなく、社外の役員についても、そういった努力が自然な形で行われることが望ましいと考えている。
 ただ、これらは、ある日突然実現できるものでもないので、女性が活躍できる環境作りが非常に重要と考える。政府においても、様々なかたちで女性の働きやすい環境、職場作りに取り組んでいる企業を「なでしこ銘柄」として選定する試みを始めている。また、各社における独自の取組みも重要であると思う。
 例えば、当行の場合、産休・育休取得者が1,300人を超えており、概ね女性の10人に1人が出産や育児での休暇を取得している。ここまでくるのに時間はかかったが、職場への復帰を容易にするような研修機会の提供や、保育に対する補助等の複合的な施策を実施してきた結果であり、各行にも、色々な取組みを期待するところである。


(問)
 邦銀の国際競争力、グローバル競争力についてお伺いしたい。リーマンショック後、それから欧州債務危機後、特に欧州銀行の地位が低下し、その間隙を縫って邦銀のグローバルプレゼンスが高まったが、プロジェクトファイナンス分野などで欧州銀行の地位が戻ってきていると聞く。今後、欧州勢の回復に伴い、日本勢がかつてのような勢いがなくなるのか、それともゲームのルールが変わってきているので、欧米勢との昔の競争関係は変わってきているのか、その辺りをお聞かせいただきたい。
(答)
 ご指摘のとおり、海外市場におけるプレゼンスについては、リーマンショック後、資本と流動性において相対的に有利な立場にあった日本の金融機関がシェアを伸ばしてきたのは事実である。
 ただし、金融機関の場合に重要なことは、やはり母国市場における安定的な事業基盤をいかに強化し、維持できるかということである。これもリーマンショックが我われに教えたことであり、主要国の金融機関が、母国市場の支援範囲を超えたところで、大幅な業務縮小を迫られたというケースは、枚挙に暇がない。したがって、今後の邦銀のあり方を考える場合、母国市場をいかに強化できるかという点が重要であり、逆に言えば、世界で第3番目の経済規模を持つわが国の金融機関に与えられた特権といってもよいと思う。
 また、もう一つは、やはり自社のコアビジネス、強味をいかに中心としたビジネスモデルを組み立てられるかということが重要である。投資銀行の時代が終わって商業銀行の時代になったと2~3年前に言われたが、これは全く間違っていると思う。投資銀行には投資銀行のコアコンピテンスがあり、それは端的にいえばM&Aであり、エクイティやデットのアンダーライティングであり、それに関連する取引であり、そういったものがなくなるわけではない。証券化、あるいはデリバティブといった極めて複雑でリスクの管理が不十分な商品を、リスクを十分に理解しない投資家に販売したことによって、自らと投資家の両方が傷ついたのがリーマンショックであり、そういったモデルがおかしいからといって、投資銀行業がなくなるわけではない。
 ただ、日本の金融機関は基本的には商業銀行業務であり、その強味をいかに活かして今後も国内外において事業展開ができるかが重要だと思う。そうなると、貸出もそうであるが、決済機能や、あるいは市場においても実際のビジネスのフローに根差すようなセールスやトレーディディングといった商売など、まさにコアビジネスを大切にしながら、国内外において事業をより高度化し、競争力を高めていくこと、これが重要だと考えている。

別添資料:平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)