会長記者会見
2014年3月13日
國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)
和田専務理事報告
事務局から2点ご報告する。
1点目は、本日の理事会において、来年度の次期副会長を内定した。
次期副会長は、10月に内定している次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続きを経て、4月1日付で就任予定である。
2点目は、本日の理事会において、お手許の資料のとおり、4月1日に「一般社団法人全銀協TIBOR運営機関」を設立し、同日から業務を開始することを決定した。これまで当協会が行ってきた「全銀協TIBOR」の算出および公表は、同日から同機関が行うこととなる。
事務局からの報告は、以上である。
会長記者会見の模様
(問)
今日、全銀協会長としては最後の会見となるが、この1年間を総括して、実現できたこと、やり残したことをお聞かせいただきたい。
(答)
本日で最後の会見となるが、改めてこの1年間を振り返ると、内外ともにまさに潮目が大きく変化した年であったと思う。
国内では、政府によって「デフレ脱却」、「経済再生」に向けた様々な施策が進められ、それが日本銀行の強いコミットメントにも支えられ、センチメントが大きく好転した。実体経済にも様々な面でプラス影響が現れてきている。
一方、海外に目を転じると、中国をはじめ、これまで高成長を遂げてきた新興国経済が減速する一方、先進国経済の回復傾向が明確になり、そのなかで、米国の量的金融緩和の縮小、いわゆるテーパリングに関連し、新興国のマーケットが不安定化するという動きも見られた。
こうしたなか、私は全銀協会長として、銀行界を取り巻く様々な課題に対応してきた。昨年4月に就任した際、この1年を「日本経済が長期停滞から脱却し、力強く一歩を踏み出すよう、金融面からしっかりと支える年」にしたいと申しあげ、具体的な活動方針として「三つの柱」を掲げさせていただいた。
最後の会見ということであるので、少しお時間を頂戴し、この三つの柱に沿って、この1年の取組みを振り返りたいと思う。
第一の柱である「日本経済の成長をさせるための金融機能の強化、震災復興への貢献」に関しては、まず「金融円滑化法の適用期限到来後の対応」を挙げたいと思う。
法の適用期限到来後も、「中小企業に対する金融の円滑化」という考え方は、銀行界の中でしっかりと定着しており、会員各行それぞれにおいて、中小企業のお客さまの経営改善、事業再生に積極的に取り組んできている。
全銀協としても、昨年5月に「金融円滑化に関する行動指針」を改定し、「不動産担保や保証に依存しない融資の活用」や「お客さまの目線に立った最適なソリューションの提供」といった点を改めて会員各行に徹底した。
その後も、例えば会員行向けのレポートを発行し、ABLの先進的な取組みや各行の運営体制を紹介する、といった取組みを進めてきている。
こうした取組みの結果、大きな混乱なくここまで来ることができたと考えている。
資金仲介機能を適切に発揮することは我々銀行の使命である。この1年、銀行界全体で、お客さまの資金需要の捕捉、発掘、創出に積極的に取り組んできたが、この結果、銀行貸出、中小企業貸出とも、反転してきている。
企業の資金需要が本格的に拡大するまでにはもう少し時間がかかると思うが、今後とも、お客さまの資金需要にしっかりと応えて参りたいと思っている。
次に、「政府の成長戦略への貢献」について申しあげたい。これまで様々な機会を捉えて、「アジアにおける金融インフラ整備の支援」、「PFI/PPPの推進」等、日本の金融機関、金融システムの機能強化に向けた意見発信を行ってきた。
この結果、昨年6月に政府が決定した「日本再興戦略」や、12月の「金融・資本市場活性化有識者会合」の提言にも、我々の主張が多く盛り込まれることになった。これらの施策が着実に実現されるよう、強く期待している。
また、昨年12月に、日本商工会議所とともに、「経営者保証ガイドライン」を取りまとめ、2月1日からその適用を開始している。
全銀協としては、日本全国で説明会を開催するなど、ガイドラインの周知活動に努めてきたが、これまでのところ大きな混乱もなく、まずはスムーズな導入ができたと考えている。
次に、第二の柱である「強靭で透明性の高い金融システム構築への貢献」について申しあげる。
まず、「TIBORの運営見直し」について、昨年4月以降、IOSCO等における国際的な議論、海外主要指標の動向も踏まえつつ、外部有識者にも参加いただきながら、TIBORの信頼性、透明性の維持・向上に向け、議論を重ねてきた。
その結果、昨年末に「運営見直しに関する報告書」を取りまとめ、4月1日から、その内容にもとづく新たな体制を始動することとしている。
4月1日まで残された時間は少ないが、遺漏なく準備を進めて参りたい。
また、「国際的な金融規制」に関しては、金融庁や日本銀行と連携し、「レバレッジ規制」、「トレーディング勘定の抜本的見直し」といった様々な論点に関し、全銀協として、日本の金融機関の実情を踏まえた、積極的な意見発信を行ってきたところである。
国際的な金融規制の問題については、まだそのほかにも、邦銀への影響が無視できない議論が残されており、引き続き、しっかりと対応していく必要がある。
第三の柱である「銀行に対する信頼感、安心感の一層の向上」についても様々な取組みを進めてきた。
まず、「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応」について、昨年11月に全銀協として「対策パッケージ」を取りまとめ、これを着実に実施してきている。例えば、全銀協の反社データベースの他業態との共有については、すでに信金、信組、信託、労金、信販、生保、損保の7業態と情報共有を開始している。
また、「警察庁とのデータベース共有」についても、実務レベルでの議論を進めている。
このほか、被害額が急増している「金融犯罪」や「インターネットバンキングの不正出金」などについて、会員各行による申し合わせや利用者への周知活動等に努めてきた。
また、「金融経済教育」についても、昨年10月に「今後3か年における具体的な対応方針」を取りまとめ、特に、大学生、社会人、高齢者等を対象として、他業態とも連携しつつ、取組みの強化を図ることとしている。金融リテラシーの向上は、「日本の成長分野への資金供給の拡大」といった観点からも大変重要であり、今後具体策を本格的に実施していくために、全銀協内部での組織対応を行うこととし、先日公表させていただいたところである。
以上、この1年の取組みについて、少しお時間を頂戴してお話させていただいた。来年度についても、日本経済が本格的な回復、成長を果たしていくうえで、大変重要な年になるが、我々銀行界としても様々な課題を克服しながら、お客さまの前向きな取組みを積極的に支援し、日本経済の成長に貢献していくことが大きな使命であると考えている。
次期会長となられる三菱東京UFJ銀行の平野頭取に、しっかりとバトンを引き継ぎたい。私どもも、個別行としてしっかりとサポートしていきたいと考えているところである。
(問)
先ほどのお話にもあったが、日銀の異次元緩和が始まってまもなく1年が経つ。
金融機関には一段の積極的な貸出が期待されているが、貸出現場の実態と、今後どう取り組んでいきたいか、お聞かせいただきたい。
また、日銀は2年で2%の物価目標達成を掲げているが、國部会長は去年5月の会見では、「成長戦略が合わされば、実現の可能性は高い」と話されていたが、現時点での達成可能性について、どう考えているのか、お聞かせいただきたい。
(答)
まず、前段の質問だが、この1年間の取組みの変化について、現場から聞こえてきている声を踏まえ、申しあげたい。
今、営業現場がどんな取組みに時間をかけているのか、という点で申しあげると、以前は、例えば、お客さまの業績悪化やリストラといった課題に対するものが多かったと思う。それに対して、この1年は、お客さまの前向きな動きに対応する、あるいは、次の成長のための一手を我々も考えてご提案する、という取組みが格段に増えてきている。
お客さまの側からすると、内部留保が蓄積、増加し、あるいは、株価が上がってリスクを取れるようになり、成長のための新たな取組みや、長年の課題となっていたことに手が打てる、そうした環境が整った1年だったのではないかと思う。
実際、この1年を振り返ると、海外向けを含め、M&Aが予想以上に動いたというのが実感である。M&Aのご相談も、大企業だけではなく、中堅企業にまで広がってきており、企業規模の大小に関わらず案件が増えている。
M&Aではよく「時間を買う」と言うが、株価の水準が大幅に変わり、あるいは企業経営者のセンチメントも好転し、ある意味、「自社の立ち位置を含め、見える景色が一変し、時間軸が変わった」という側面もあるのではないかと思う。また、事業承継のご相談も引き続き多く頂戴している。
一方で、製造業の海外進出ということについては、ある意味「止まるところを知らない」という感じも以前はあったが、これはそこまでではなかった、というのが実感である。製造業では、国内企業への発注でも事業を継続できる為替水準になってきた、という一面もあるかと思う。
一言で言うと、借入の手段ということだけではなく、経営戦略自体についても、企業にとって取ることのできる選択肢が増えてきた、というのがこの1年の特徴だと思う。経済の体温が徐々に上がってきているなかで、「利益や売り上げといった数字にはなっていないが、受注は増えている」という会社の数も多くなっている。
したがって、今後、我々銀行界の取組みとしては、固定観念や先入観に囚われることなく、お客さまに多くお会いし、その声に耳を傾け、お客さまの新しい動きを支援していく、ということが大変重要になってくる。
先月も少しお話ししたが、企業のマインドが前向きになって投資をし、タイムラグを伴って銀行貸出が増加する、という一連の動きを、今年、来年と本格的なものにしていくのが課題である。
会員各行では、この1年間、それぞれが工夫をしながら、資金需要の発掘に取り組んできたわけだが、今後もお客さまの新しい前向きな動きにしっかりと向き合い、我々も知恵を絞り、取るべきリスクを取って、日本経済の成長を金融面から支えていきたい、支えるように取り組んでいきたいと思っている。
後段の質問の物価安定目標だが、これまでのところ、日本経済は、ほぼ日銀の想定通りのシナリオで「デフレ脱却」に向けて進んでいるとみている。1月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年比上昇率が+1.3%となるなど、デフレ脱却が視野に入りつつあると思う。黒田総裁も一昨日の会見で「道筋を順調に辿っている」とおっしゃっていたが、そのとおりなのではないか。
一方で、多くのエコノミストが指摘しているように、今後、為替の前提にもよるが、円安による輸入物価の上昇効果が剥落していくということからすると、やはり、内需を中心に需給が改善していくこと、すなわち、生産・所得・支出の好循環が実際に回転しはじめることが、物価安定目標を達成するうえで、極めて重要である。
まずは、4月の消費税率引き上げによる景気の下振れを乗り越えること。加えて、政府が着実に成長戦略を実行し、企業が成長期待を高めて投資をし、企業業績の改善に合わせて賃金の上昇や消費の増加という前向きな循環が起こり始めれば、目標達成が見えてくるのではないか。
(問)
ベースアップについて、これまで総報酬引き上げは表明されていると思うが、どのような姿勢で臨まれるのか。みずほ銀行はベア実施の方向、という報道も一部にあり、その姿勢をまずお伺いしたい。併せて、業績好調な他業種でベアを表明しているところがたくさんあるが、その理由に安倍政権の要請というのが挙げられている。ベアを検討するに当たって、政権の意向や要請について、どのように考えているかお聞かせいただきたい。
(答)
ベースアップに対する考え方については、以前、申しあげているスタンスと大きな変化はない。私どもの労使協議プロセスについて申しあげると、現在、従業員組合の執行部が組合員の意向集約を行っているところであり、現時点では、まだ組合からの正式な要求は受けていない。今月下旬を目途に、労使交渉を行う予定である。現時点での考え方を申しあげると、当行の現在の業績を前提とすると、何らかのかたちで総報酬を引き上げて、従業員に報いたいと考えている。そのやり方については、ベースアップも選択肢の一つであるが、そのほかにも賞与の引き上げなど様々な方法があるので、こうしたやり方を含め、組合からの要求を踏まえながら、真摯に検討していきたい、というスタンスでいる。したがって、以前申しあげたスタンスと変わっていない。
それから、後段の質問だが、日本政府が賃上げを要請している状況は、当然よく理解している。そして、先ほども申しあげたが、日本経済が再生・復活を遂げていくために、やはり企業業績の上昇、あるいは雇用の確保、賃金上昇、消費の拡大という様々な好循環を生み出していくことが、今の日本経済にとって大変重要だと私も理解している。賃上げ・ベースアップを考える際には、我々の企業業績という観点と、現在の日本経済の置かれた状況、そして日本政府の意向、こうしたものを踏まえて、総合的に判断していきたいと考えている。
(問)
仮想通貨のビットコインの取り扱い、対策の必要性などについて銀行界としてどのように考えているか。それから、マウントゴックス社が破綻したが、口座などの取引有無を含めて、その破綻について伺いたい。
(答)
まずビットコインについての考え方だが、1月だったかと思うが、会見の際に、「まずは実態をしっかりと把握したうえで法令上の位置づけを明確化し、適切な規制の在り方を検討する必要があるのではないか。」と申しあげた。その基本的な考え方は変わっていない。
先日、政府から「ビットコインは通貨に該当せず、その取引は銀行法上の銀行業として行う業務にも該当しない。」との見解が示されている。全銀協としても、これまでに海外主要国の銀行協会と各国のビットコインを巡る法規制についての情報交換を行ったり、あるいは有識者との意見交換を行ってきている。
しかしながら、ビットコインの実態については依然として、不明な点が多いと言わざるを得ないと思う。先日、ビットコイン取引所大手のマウントゴックス社が民事再生法の適用を申請し、お客さまのビットコインと購入用の預り金が消失したことを公表したことが報じられているが、この実態についても、まだよくわからないことが多い。どのような原因・経緯でビットコインや預り金が消失したのかも不明であり、それがビットコイン自身の問題に起因するものなのか、それともマウントゴックス社固有の問題に起因するものなのか、これも分かっていない。したがって、まずは情報分析に努め、実態を正確に把握することが急務だと考えている。この点については、関係当局でも情報収集・分析をされていると聞いているので、その分析結果を待ちたいと思う。取引の有無については、個社に関することなので、基本的にはお答えは差し控えた方がいいと考えている。
(問)
先ほど、この1年の振り返りの中でPFIについても少し触れられていたが、過去1年間取り組んでいて足元の状況と今後の展望、見通しをどのように考えているのか教えてほしい。
(答)
PFIについては、就任当初から「社会インフラの整備に民間資金を有効に活用するために非常に重要なツール」だと申しあげてきたし、様々な機会を捉えて、意見発信をしてきた。そうしたなか、日本再興戦略にも、「PPP/PFIの活用拡大」が盛り込まれたわけである。
その後10月には、官民が連携してPFI事業に対する出融資やPFI事業者に対する専門家の派遣および助言等を行う器として、PFI推進機構が設立された。この機構には我々も出資、人材派遣を行っているが、現在は日本各地の地方自治体を訪問して、PFIの普及および案件の発掘に向け精力的に取り組んでいると聞いている。
まだ、公共施設等の運営権を民間に譲渡する、いわゆるコンセッション方式の具体的な案件が積み上がっているところまではいっていないが、着実に少しずつ進展してきているという状況ではないか。ガイドラインの見直しもされ、環境も整ってきているということであるので、これからは案件を一つ一つ積み上げていくということが大事だと思っている。以前も申しあげたが、PFIについては、我々をはじめ、銀行界が持っている海外で培ったノウハウ等を有効に活用して、我々としても積極的に貢献をしていきたいと考えている。
(問)
ジャパンディスプレイが、19日に上場する。官製ファンドによる上場案件の第1号と聞いているが、会長は政府系ファンドによる企業再生という側面から捉えると、どのように評価しているか。官製ファンドについては民業圧迫とかいろいろ指摘する声もあるが、一方で民間銀行のお金も一部入っていたりすることに対する見方を教えてほしい。
(答)
ジャパンディスプレイの上場については、個別案件に対するコメントは控えたほうがよいと思うが、日本の各社の技術を結集した、ある意味「日本連合」という企業が、世界のライバル企業と戦っていく環境が整うということは、わが国産業の成長力あるいは国際競争力の維持・強化という観点で評価できると思う。
産業革新機構については、民間では対応困難なリスクマネーを提供するという点で、私は一定の役割を果たしてきたと評価している。産業革新機構の業務によって、民業が圧迫されているとはあまり考えておらず、今後とも民間の取組みを補完するような機能・役割を果たしていただくのではないかと思っている。
ただし、様々な官民ファンドが設立されており、また、これからも設立されていくと思うが、一般論として官民ファンドの考え方自体は、日本経済の成長に資する事業分野に対して、官によるリスクマネー、呼び水として民間投資を活発化させる枠組みだと認識している。一方で、官と民の役割が明確に整理されない場合には、例えば投資効果や回収可能性のチェックが十分になされないとか、あるいは資金が有効に活用されないという事態が起こり得る。また拠出した資金が毀損するという事態もあり得るわけであり、こうした官民の役割分担というものをしっかりとさせておく必要があると思っている。
(問)
日銀の延長した貸出増加支援策で質問させてほしい。1つ目は、低利の資金供給をしてくれるということであるが、これが銀行の貸出ダンピング競争に与える影響あるいは利鞘の縮小に与える影響について聞かせてほしい。2つ目は、結局、「安い金利ならばお金を借りる」という顧客はどのような顧客で、どの程度いて、銀行はそういった顧客をどのように見ているのか教えてほしい。
(答)
まず、日銀の貸出支援制度であるが、これは先月も申しあげたが、この制度による低利かつ長期の資金供給は、企業の前向きな資金需要に対応する観点から非常に有効だと思っている。ご質問にもあった、銀行の利鞘との関係について申しあげると、低利の貸出が銀行の貸出利鞘の低下につながりかねないという点は、私は否定できないと思う。
こうした影響はあるものの、我々金融機関として貸出機会を創出する、企業にとっては新しい投資をしていく、こうした動きを作り出していくことが、日本経済にとっては大変重要である。今我々銀行の利鞘は低下局面にあるが、しっかりと貸出をし、日本経済を支えていくことが重要な局面であると思っている。その意味では、この日銀の貸出支援制度は非常に有効だと考えているし、今回枠も拡大され、期間も延長されたということなので、我々としてはしっかりと活用し、資金を提供してまいりたい。
当行では本制度を活用して様々なファンドをつくっている。先月も申しあげたかもしれないが、環境設備支援ファンドであったり、あるいは中国事業支援ファンドであったり、様々なファンドをつくって、お客さまの資金ニーズに応えており、私どもの例でいうと1,500億円という枠はすでに全て使い切っているという状況である。今回枠が拡大されるので、さらに活用していきたいと思っている。
低い金利で借りる企業をどう見るかということだが、これは、その企業の経営、信用力の状態による。低い金利で貸すことができる企業には、そうした金利で融資をしているということである。
(問)
日本の金融機関がなかなか融資を伸ばせなかった背景として、そもそも日本の国際的な製造業の競争力が他国に比べて相対的に落ちてきていて、資金需要がなかなか伸びないという構造的な背景があったかと思う。この1年を振り返って、この構造的な日本の製造業の競争力低下ということが改善され、日本の経済が回復する兆しが見えてきているのか、所見を伺いたい。
(答)
これは、産業、企業によって区々だと思うが、一般論として申しあげると、これまで日本は15年を超えるデフレの状況にあり、今後の先行き、経済成長が見通しにくい状況であった。こうしたなかで、製造業では、国際競争力を維持するために海外に進出する動きが強まったが、円相場が100円を超える状況になってきたことを踏まえ、日本での生産比率を従来よりも拡大するという会社も増えてきている。まさに今、日本政府、安倍政権が行おうとしている様々な改革、すなわち、設備投資減税であったり、第一の矢、第二の矢といわれるもの、そして、それに伴う金融市場の変化、すなわち、株高、円安という一般的な環境変化、こうしたものが相まって、企業が前向きになってきていることは間違いない。
我々の銀行貸出の残高も、30か月連続で前年同月比増加ということであり、中小企業向け貸出も昨年の7月から前年同月比プラスが続く等、反転局面に入ってきている。このように、一般的な環境は良くなってきていると思う。
あとは個社の問題。自社が扱っている製品の国際競争力をどう強化していくかは個社によって区々である。競争力を回復している企業もあるし、まだ回復途上の企業も多いと思う。そのような企業に対し、競争力強化に向けた様々な提案をしていくことが我々金融機関の役目だと思う。
(問)
ビットコインについて政府の公式見解が出たが、それについての評価と利用者保護のあり方についてどのような考えをお持ちなのか、さらに今回の件を踏まえてビットコインの将来性についてどのようにお考えか伺いたい。
(答)
ビットコインについては、先ほど申しあげたように、まず実態をしっかりと把握したうえでないと、なかなか確たることが言いにくいというのが正直なところである。政府の見解もそうだが、これは通貨ではない。すなわち通貨が持っている性質を具備しているわけではなく、日本銀行等の裏付けがあるわけでもない。インターネットの世界で流通しているモノ、ビットコインというモノなので、まずはこれがどういう実態かよく把握したうえで、それに対する規制が必要なのかどうか、規制するとすればどういう規制をするのか、そして利用者保護をどう考えるのか、これからいろいろと議論をし、作り上げていかなければいけないものだと思う。
ビットコインの将来性について話すのは、なかなか難しい。実態に応じて将来性があるのかないのか分かれてくると思うので、今の段階では何とも申しあげようがない状況である。
(問)
日本郵政が中計を公表し、ゆうちょ銀行の新規業務への参入について、全銀協としてリリースを出しているが、ゆうちょ銀行の新規業務参入の条件について、全銀協としてどのように考えているのか。
全銀協のリリースでは「完全民営化への道筋が具体的に示され、その確実な実行が担保される」ということが書かれているが、これは日本郵政が持っている、ゆうちょ銀行の全株式の処分が前提になっているのか、可能な範囲で具体的に教えていただきたい。
(答)
ゆうちょ銀行の新規業務に対する考え方は、今おっしゃられたとおりだが、我々のそもそもの考え方を申しあげると、まず新規業務に参入するためには、将来的な完全民営化の担保と、経営の抜本的な効率化、そして、民間企業としての内部管理態勢の整備が大前提である。先ほど「全銀協のリリースでは、完全民営化への道筋が示され、その確実な実行が担保されることが、ゆうちょ銀行の新規業務への参入の条件」と言及していただいたが、今申しあげた点もこのリリースの中に入っている。したがって、将来的な完全民営化の担保、経営の抜本的な効率化、民間企業としての内部管理態勢の整備、この三つが大前提。そのうえで、個別業務ごとの新規参入、すなわちどういう業務に新規参入するかということについては、公正な競争条件の確保、適正な規模への縮小、利用者保護、地域との共存、これらを総合的に検討して判断してほしいと主張してきたところである。
ゆうちょ銀行の株式の売却割合については、我々は、原則として日本郵政が持っているゆうちょ銀行の全株式を売却することが前提だと考えている。そのベースにある考え方は、政府の出資が残る状況下においては、暗黙の政府保証というものがどうしても存在し、これを背景として、例えば資金調達面での優位性等によって、民間金融機関の業務を圧迫する懸念が極めて大きいということ。基本は完全売却が前提である。
(問)
個別行の話で恐縮だが、三井住友銀行は4月から国内の営業体制を15年ぶりに刷新するということを聞いている。現状で何が足りなくて、それについて具体的にどういうふうに変えることによって、そこを補っていくと考えているのか、お考えを伺いたい。
(答)
この場は全銀協会長会見の場なので、個別行の質問についてはあまりお答えするべきではないと思うが、簡単に言うと、今回我々が国内の営業体制の見直しを考えた背景としては、我々の現在の組織について、大企業と中堅・中小企業を分けたのは住友銀行では1979年に遡るし、法人と個人を分けたのは1999年に遡る。
この間、お客さまの動きは変化してきている。例えば、大企業。我々でいう法人部門、すなわち中堅中小企業の中にも上場企業があるが、こうした大企業、上場企業に対し、我々が提供するソリューションは基本的に同じであるが、そういった大企業はグローバルに活動し、また、いわゆる投資銀行的ニーズも多くなっている。一方、オーナー系の中小企業では、法人と個人にまたがるニーズ、例えば、オーナー取引や事業承継といったニーズが拡大し、法人と個人が一体となってサービスを提供する方がいいという状況になってきている。そういった様々な企業の動き方の変化に合わせて我々の営業体制を見直す必要があると思い、4月1日から体制の見直しをすることにした。
体制の見直しに当たり、取引移管をお願いするお客さまがあるが、これまで、かなりのお客さまに打診し、応諾いただいている状況である。
(問)
政府税調が法人税の実効税率の引き下げの検討を始めた。欠損金の繰越控除制度などの見直しも検討されるようだが、会長の所見はいかがか。
(答)
法人税減税についてどう考えるかということだが、やはり日本の経済を活性化させるためには、かつて「六重苦」と言われたものの解消、すなわち大胆な規制緩和であるとか、設備投資減税あるいは法人税減税等の施策を行っていくことが必要だと思う。法人税減税は、日本の企業の競争力の強化にもつながるし、例えば、外国企業の日本進出という、立地競争力強化の観点からも非常に重要だと考えている。
法人税を減税することは、一義的には法人税収が減少することになるので、当然、その分の税収の確保、代替財源の確保ということが必要になってくる。ただし、法人税を減税して企業の競争力が高まれば、あるいは経済が活性化すれば、それによって税収が増加するという面があるのは事実だと思う。
代替財源の検討にあたり、繰越欠損金の控除制度の縮小という話を出されたが、私は、何を代替財源とするかということについての基準の一つは、やはり国際比較だと思う。欠損金の繰越控除について、わが国では9年間の黒字の8割を控除、相殺することが認められている。しかし、海外がどうなっているかというと、この繰越期間については、アメリカでは20年、欧州主要国では無期限となっている。したがって、何を代替財源とするかということについては、やはり国際比較をしていただき、著しく日本の企業の競争力を弱めるということであれば、そうしたことも踏まえて判断をすべきではないかと思っている。
(問)
東日本大震災から3年が経った。現地ではまだ復旧、復興が進んでいる途上だと思うが、今後、金融機関としてどのように復旧、復興を支援されていくのか教えてほしい。
(答)
まず、大前提として、震災復興への貢献というのは、我々金融機関にとって大変重要な課題と認識している。被災されたお客さまが、1日も早く、復旧、復興を遂げていただくよう、我々としてもしっかりお手伝いをする。
いくつかあるが、一つは二重ローン、二重債務問題への対応。個人については個人版私的整理ガイドラインの周知に努めており、法人については産業復興機構、東日本大震災事業者再生支援機構と連携して取り組んできている。こうした取り組みによって、それぞれ利用実績は着実に積み上がってきている。被災地の復興が本格化するのはこれからであり、今後とも、二重債務問題への対応についてはしっかりと取り組んでいく。
それ以外にも、震災復興にはいろいろな関わり方があるが、例えば、産業振興という観点から、企業誘致の支援を行っている。具体的には、東北への進出を検討している取引先企業の紹介であるとか、復興特区の制度、各種補助金等々の案内を行うことによって、企業誘致を支援している。また、被災地での街づくりやプロジェクトの支援も行っている。これは、金融面での支援に加え、スキーム自体、すなわち、街づくりをどう進めていくかといった点についてアドバイスを行っている。
当行でいえば、例えば、東北地域で最大級の水族館の建設というプロジェクトに関わった。これは、商社や地元の自治体、地元の金融機関等とタイアップして推進したプロジェクトであったが、そういった取組みであるとか、メガバンクや地元の金融機関が一緒になって様々なファンドを組成して地元企業の資金需要に応えていく、こういった様々な取り組みを進めてきている。
我々金融機関としては、引き続き、こうした取り組みを積極的に行っていくことが大事だと思っている。
(問)
高齢者に対する金融商品の販売ルールに関してお尋ねする。すでに日証協がガイドラインを策定され、監督指針にも盛り込まれており、来週から全面適用されるが、このルールによって現場にどのような影響が出ているのか。金融商品の販売がしづらくなると思うが、どういった影響が出ているのか。それから、このルールをしっかり守っていくために、どのような課題があるのか。
(答)
高齢者に対する投資勧誘については、もちろん、商品性やリスクの特性を正しく理解いただいているかどうかということが重要である。それに加え、投資判断能力に変化がないかどうかということも、我々としては、しっかりと確認していくことが重要になる。
今般、日証協がガイドラインを制定したが、各行とも、以前から、高齢者に対する販売ルールを作成しており、今回の日証協のルールが、我々にとって、極めて厳しい販売ルールというわけではない。従来から、それぞれルールを設けて取り組んできたので、販売に対する影響は、それほど大きくはないと思う。
全銀協の取組みとしては、今回のガイドラインの趣旨や内容をしっかりと周知するため、昨年末に、会員行向けに通達を発信したことに加えて、今月下旬に会員行のコンプライアンス部門の実務担当者等を対象としたセミナーを開催する予定である。
各行とも、今回のガイドラインは、あくまで最低限の目線という認識であり、銀行によっては自主的に、より厳しい社内規則を制定しているところもある。
例えば、ガイドラインでは、75歳以上が高齢者となっているが、当行では、高齢者の範囲を70歳以上と、より厳しく運用しており、おそらく各行においても、今回の日証協のガイドラインを前提にして、それぞれの実情に合わせたルールを作っていかれることと認識している。
(問)
先日、野村信託銀行において、女性社長の就任が発表された。女性の活躍の推進というのは、アベノミクスの成長戦略の中で、中核に位置付けられていると思うが、銀行業界でもそういったものが目に見えるかたちになってきたように思う。会長はどのように見ているのか。
さらに、政府では、女性が指導的地位に占める割合の数値目標を掲げているが、三井住友銀行ではこれまでの取組みの他に、新たにそうした具体的な目標を策定する考えはあるのか教えていただきたい。
(答)
今回、野村信託銀行に女性社長が誕生したということは、私は大変良いことだと思っている。ダイバーシティ推進の中には、女性の活躍というものもあるし、外国人の登用もある。やはり、女性の活躍推進というのは、企業の成長にとって大変重要、また競争力を向上させる一つの要素だと私は思っている。頭取就任以来、行内でもそれは繰り返し、繰り返し言っている。
やはり女性には、女性特有の共感性というのか、肌理の細かさというのか、そういったものがある。私は、企業というのは様々な能力を持った人材の集合体であるほうが組織としては強いと思っているので、女性の活躍を推進していきたいと思っている。もともと金融業界は、古くから女性が多く働いているので、他の業界よりも女性の活躍推進を行いやすい業界だと思っている。もちろん、私どもでいうと従業員の半分は女性、当然お客さまの半分も女性であるので、女性の活躍推進のために、しっかり環境整備を進め、そして銀行業界が女性の活躍推進を行う先端的な業界となっていければ良いと思っている。
個別行の話をすると、2005年頃から女性の活躍の前提となる「両立支援」の制度を整備して取り組んできたわけであるが、現在は次のステップとして、女性のリーダー育成に取り組んでいる。例えば、部長や課長クラスの女性だけを集めた「ウィメンズ・リーダー・プログラム」をスタートさせた。また、若手女性向けに「キャリアフォーラム」というプログラムを開始している。
私は、女性の活躍推進には、トップのコミットメントが大事だと思っており、私自身これをしっかりと推進していきたいと思っている。
数値目標の件であるが、私どもの女性管理職比率は10%強である。行内的には数値目標の設定については、まだ決めておらず、検討している状況である。
(問)
与信コストについてお伺いしたい。ここ数年、銀行業界全体、非常に与信コストが低く、戻りもあって全体的な決算の底上げにもなっている。経済状況が良くなっているので、貸付先の格付けの上昇要因も大いにあると思う。一方で、銀行側が取れるリスクを本当に取っているのかというところもあると思う。もちろん、不良債権が出来たらまたメディアが文句を言うだろうとおっしゃるのは分かっているが、あえて与信コストは低ければ低いほど良いのか。それとも銀行は取れるリスクというのをまだまだ取っていないのかを伺いたい。
(答)
今の銀行業界のクレジットコストの状況は、銀行がリスクを取っていないからというよりは、経済環境の好転によるところが大きいと思う。私どもも第3四半期までで、クレジットコストが戻っているわけであるが、まず、経済環境が改善していること、それから中小企業等を対象とした政策の効果もあって、企業の信用の劣化、それに伴うコストというのは抑制されている。むしろ、経済環境の好転により、企業の信用が改善をしているということ、そして不動産価格の上昇により担保価格が改善し、過去に計上した引当てが戻っているというような理由でクレジットコストは非常に少ない状況になっている。それ以外にも、やはり、我々銀行界がお客さまの経営改善であるとか、事業再生に向けて、いろいろな提案、お手伝いをしているということもプラスに効いていると思う。
この状態がノーマルかというと、やはり、銀行として一定の貸出残高を保有している以上、一定のクレジットコストは巡航速度という意味でも生じてくるのが普通だと思う。したがって、今は経済環境が大きく好転しているので戻ってきているが、どこかの段階では、クレジットコストが当然発生する状況になってくる。我々は銀行業、融資業をやっているから、リスク管理とリスクテイクは車の両輪である。冒頭でも申しあげたが、金融機関として、取るべきリスクと取れないリスクを見極めて、取るべきリスクは取っていく。そしてリスクを管理しながら経営をしていくということが、私が経営に際し考えていることである。
(問)
最後に一言お願いしたい。
(答)
この一年間、全銀協会長を務めるにあたり、ここにお見えの皆さまをはじめ、全銀協の事務局の方々、会員各行の皆さま、そのほか、数多くの関係者の皆さまから大変なご指導・ご協力を頂戴した。この場をお借りして、厚く御礼を申しあげる。
冒頭にも申しあげたが、来年度は、日本経済が本格的な回復、成長を遂げていくうえで大変重要な年となる。そのようななかで、来月から、三菱東京UFJ銀行の平野頭取が会長に就任されるわけである。
平野頭取とはこれまでもメガバンクのトップとして共に銀行界が抱える様々な課題に対応してきたが、その卓越したリーダーシップについては、皆さまもよくご存知のとおりだと思う。国際会議等でもご一緒する機会が多いが、平野頭取は実務経験に基づく非常に優れた国際感覚をお持ちであり、金融のグローバル化が進み、国際的な課題への対応が重要となるなか、まさに平野頭取のような方が、銀行界を率いられることを大変心強く感じている。
私ども銀行界としても、今後、平野新会長のもとで一丸となって、様々な課題に取り組んでいきたいと決意を新たにしているところである。
最後に皆さまに平野新会長への一層のご支援を心よりお願いして、私からの挨拶とさせていただく。一年間、ご支援をいただきありがとうございました。