2014年5月15日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会で、法人向けインターネット・バンキングに係る預金等の不正な払戻しへの対応について、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 申し合わせ内容は3点あり、1点目は、電子証明書のセキュリティ強化策をはじめとした「法人向けインターネット・バンキングにおけるセキュリティ対策の強化」、2点目は、「お客さまへの注意喚起」、3点目は、被害補償の取り扱いについて、各行が個別にその要否を判断するが、今後、当協会の検討部会において、「被害補償の考え方」を整理することである。
 法人向けインターネット・バンキングについては、4月にも会員銀行向けにセキュリティ対策の強化などを要請した通知を発出したが、不正送金被害が拡大している状況を踏まえ、お客さまに安心してインターネット・バンキングをご利用いただくための取組みを強化するということで、申し合わせを行ったものである。
 なお、本件に関する技術的詳細については後程、事務局へご照会いただきたい。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 銀行業界の決算がかなり出そろっていると思うが、それについての受け止めをお聞かせいただきたい。
(答)
 まだ各行の決算が出そろいつつあるところであり、全国銀行ベースでの説明は難しいところであるが、まず、地銀に関しては、昨日、谷地銀協会長が会見のなかで、「総じて好決算だが、中身をみると、貸出金利回りの低下により資金利益が弱含んでおり、それを非金利収益や低水準にとどまった信用コストが支えている状況」と説明されている。また、第二地銀も公表された個別行の決算を私どもなりに拝見する限りでは、概ね同様の傾向ではないかとの印象である。
 一方で、昨日、当行を含む3メガが決算を発表しているので、その概略について一言申しあげると、グループ全体の当期利益では、総じて期初の予想を上回っており、過去最高益を更新したグループが複数あるなど、当期利益は悪くないと思う。ただし、中身をみると、各グループとも株価の上昇による株式等関連損益の改善や、不良債権に関する、いわゆる与信費用の縮小などが共通して収益の改善を支えた要因となっており、これは地銀の状況と同じだと思う。
 他方で、商業銀行ベースで取り出してみると、本業の利益とも言うべき業務純益は、国内外の貸出増加による資金利益の確保、すなわち、これまでの落ち込みや低下傾向にやや歯止めがかかったということと、もう一つは市場環境の好調に支えられた投資信託などの販売増などに伴う手数料収入の増加によって、債券売却益の大幅な減少を補完する構図となった。まずまずとは思うが、証券なども含むグループベースでの決算との比較でみると、力強さに欠ける決算との見方もできるのではないかと思う。したがって、今後は本源的な収益の積み上げをより一層図っていく必要があるとみている。
 では、どうするかという話だが、前回の会見でも申しあげたが、日本の金融機関は、お客さまとのリレーションをベースにした伝統的な商業銀行を地道にやっていくことが基本である。
 それは、例えば、地域金融機関においては、いわゆるコンサルティング機能の発揮による地域密着型金融を引き続き進めていくことと思うし、メガバンクであれば、銀行、信託、証券等の金融総合力を発揮したグループ協働の推進を進めていくことと思う。
 一方、目を転ずれば、政府の成長戦略にも含まれている、環境・エネルギー、あるいは医療・介護、農業といった潜在的な市場拡大余地が大きい分野における金融の更なる役割の発揮がある。そして、日本の企業の海外進出をサポートする動きは、メガだけではなく、政府や関係機関との連携なども通じて、地域金融機関の努力となって、今、目に見えるかたちで動き始めたところである。このような取組み、一言で申しあげれば、実業・実体経済をサポートする金融仲介機能の発揮を一層強化することで、今後の業績の伸長を図っていく、これが重要であろうと考える。


(問)
 諸外国も含めて決済システムの24時間365日化の議論が進んでいるが、全銀協としての取組みをお聞かせいただきたい。
(答)
 24時間365日の決済の問題だが、全銀システム更改の検討のタイミングに当っており、システム更改は平成31年下期が一つの目途である。そこで、4月には「全銀システムのあり方に関する検討部会」を立ち上げ、主要なテーマとして2点あげている。一つは全銀システムの時間延長、もう一つがEDIの活用である。お尋ねの点は前者で、すでに今月上旬に実務担当者が英国に行き、実地調査をしたところである。
 今後、国内における個人、法人のお客さまの振込に関するニーズ調査等を外部機関も活用しながら進めていきたいと考えている。今、英国だけでなくシンガポールでも導入され、オーストラリアにおいても2016年からの実施が計画されており、米国でも検討されている。私どもとしても、年内を目途に方向性について結論を得たいと考えている。
 お客さまのニーズに関してもこれから調査するが、個別行のベースでお客さまの意見を伺っている限りでは、個人のお客さまにとっては、夜間や休日の決済、送金ができるということになれば、例えば、ネットショッピングに今はクレジットカードを使っている方が銀行決済で振込できるようになる、週末に送金ができるようになる、といった利便性の向上がある。
 かたや、法人については、24時間営業している法人はあまり多くはないので、ニーズの性格は異なると思うが、BtoCに携わっているような法人のなかには、決済の利便性の観点から全銀システムの延長にともなうメリットがあるとの声もある。
 一方で、実施する場合には当然、体制作り、全銀協だけではなく会員行における対応が必要となる。また、お客さまに関しても、特に法人については対応が必要であり、その体制について考える必要がある。
 加えてもう一つ、日本固有の制度であるが、手形の不渡制度について、交換時限をどうするかなど、やや細かな制度的な問題も検討が必要と考えている。


(問)
 インターネット・バンキングの法人被害が4月辺りから急に増えており、補償に関しては今までは各行の判断だったが、業界団体として一定のガイドラインを作っていくのか。例えば、この銀行ではこのケースで補償されるのに他の銀行の場合は違うということが出てくると被害を受けた人も困ると思うが、そうした指針をこれからどう作っていくのか教えていただきたい。
(答)
 まず、インターネット・バンキングにおける不正送金の被害は、昨年平成25年で1,315件、被害金額は14億600万円で過去最悪と発表されている。今年に入っても増勢が続いており、直近では法人向けのインターネット・バンキング被害も拡大し、被害銀行の数も増えていると警察庁から伺っている。
 全銀協としては、まず個人を中心に、昨年5月に会員宛の注意喚起を実施した。8月には不正送金先の口座名義人リストによる既存口座凍結措置を会員行に依頼し、11月に申し合わせを行った。
 先程申しあげたように、足元、法人向けの被害が増えているため、4月11日には法人のインターネット・バンキング不正送金に関する通達を発出した。そうした流れのなかで、本日、事務局から報告したように、理事会で申し合わせを実施した。
 いくつかのことをやらなければならないわけだが、まずセキュリティ対策の強化。電子証明書のセキュリティ強化策や、認証方法の強化策としてのワンタイムパスワードの活用、あるいは事前登録先以外に対する振込を当日には受け付けないといった扱いがある。そして、セキュリティソフトの提供、あるいは不正なログインのモニターといった一連のセキュリティ対策が一つである。
 もう一つは、お客さまサイドに注意喚起を行うことであり、例えばお客さまのパソコン、OS、あるいはブラウザを最新のものにする、ソフトウェアの古いものは常にアップデートする、とりわけ、エンドオブサポートを迎えたようなOSは使わない、あるいはセキュリティソフトを必ずインストールする、などである。
 やはり、これらをいかに複数組み合わせてやっていくかが非常に重要と考えている。よく言われているが、ある意味でセキュリティ対策と犯罪者とのいたちごっこである。したがって、極力、犯罪者に付け込まれないように複数の対策を組み合わせる。被害にあうパーセンテージを掛け合わせてそのパーセンテージを下げていくという対策が必要ではないか、というのが私の持論である。
 そのうえで、補償の問題が出てくる。結論から申しあげると、まず、発生経緯の確認や原因の究明を行ったうえで、お客さまからのご相談には真摯に対応する。そのうえで、補償については、法人と個人は異なるという基本的な考え方は変わらないが、各行が個別に要否を判断するという方針を先程ご説明した。
 法人と個人の差は、法的な枠組みとして預金者保護法が制定された際にも、ひとしきり議論があったという経緯を承知している。個人のお客さまに関しては、基本的には消費者保護の考え方で補償をしている。法人のお客さまに関しては、事業者として、事業を営まれる方々が払われるであろう注意の程度をベースに、銀行界としても対応していくということである。法人と個人の間に一定の差異があるということは、まず理解する必要がある。
 ただ、足元の状況にも鑑み、外部の有識者も交えた協会内での関係検討部会において、セキュリティ対策の継続的な強化についての検討と合わせて、法人向けインターネット・バンキングの被害補償の取扱いについても協議を続けていくことを申し合わせた。


(問)
 インターネット・バンキングの法人補償の考え方について、有識者を交えて考えを整理するとのことだが、結論を出す時期はいつ頃か。本日警察庁が、被害が増えていることで対策の強化を要請したが、会長として、この要請をどう受け止めているか、この2点について伺いたい。
(答)
 まず、警察からの要請は確かに承ったところである。目を通したが、私どもが申し合わせた内容とほぼ軌を一にしているという認識である。改めて会員各行に周知をしていきたい。
 補償に関する検討については、夏休みに入る前には何らかの結論を出していきたいと考えている。


(問)
 国際的な政治情勢とリスク管理への影響について伺いたい。ここ1ヶ月ウクライナ情勢の緊迫化により日本の銀行がロシアから手を引いているという指摘もある。また、タイも政治的情勢が不安定で首相が失脚するなど、日本の企業も進出しにくくなっているのが事実と思うが、その辺りについて対策なども含めて伺いたい。
(答)
 まず客観情勢について述べる。欧州の人と話をすると彼らが地政学的リスクに非常に敏感になっていることが分かる。今年のグローバル経済を俯瞰すると、米国は底堅い回復を維持しており、欧州は底打ちして緩やかな回復に転じ、中国は減速するがアジアも一定の成長が期待できることから、新興国の経済には若干の不安定さも残っているものの、経済状況はそれほど悪くはない。こうしたなか、金融機関を含めた企業経営者の間で、一つの大きなリスクとして地政学的リスクが認識されている。
 ウクライナについては、現在、日本の金融機関による与信は約200億円と極めて限定的であり、かつ、これはECAや政府系の保証機関による保証が入っているものが多いので、あまり直接的な影響はない。ただし、ウクライナ問題を通じて、欧州とロシアとの緊張関係が高まり、経済制裁がいっそう強化されるといった事態になれば、緩やかに回復すると見られている欧州経済に影響が出てくるという事態もあり得る。
 それともう一つ、ロシアに対する日本の金融機関のエクスポージャーは約1兆6千億円ある。これはインドネシアもしくはインド並みで、決して小さなものではない。したがって、ロシア経済に与える影響は気になるところである。
 タイに関しては、同様に選挙を迎えるインドネシア、インドと同じようにやや不安定な時期を迎えているが、タイは、日本の企業が他国に例を見ないような高度なサプライチェーンを構築しており、日本企業による投資は3兆円、進出企業2千社と、おそらく中国に次ぐ規模の投資がなされている。したがって、タイの情況の推移は十分見守る必要があると考えている。
 タイにおける政治的混乱は過去周期的に起こっているが、タイの経済成長率とはほとんど関係がないと言われている。ただし、これらは比較的短期間に収束したものであり、今回、混乱が長引くようであれば、タイの経済成長率が低下する可能性がある。ただ、現状は比較的治安が維持されており、日系企業においても生産拠点の移転といったことはあまり見られないため、事態の推移を見守りながら適切に対応していくということだろうと思う。
 このような問題が世界中で起きているなかでどうすればよいか、との問いへの回答としては、一つはリスク分散であろう。例えば、昨年初の時点で新興国の将来は明るいと皆さんも展望していたと思うが、この1年半で状況が大きく変わった。したがって、地域的にもビジネスのポートフォリオの観点でも、分散を図っていくことがどの産業においても必要である。製造業のみならず金融機関においてもそうであろうと考えている。
 もう一つは、インテリジェンス、すなわち、情報収集力と情勢分析力ではないか。米国のある情報機関のCEOによれば、日本のCEOはもう少し海外、とりわけ欧州の情勢について関心を持ってもいいのではないかとのことだった。レーダーの感度を上げて情報収集を行い、適切に分析してそれを自社の経営戦略に反映させる。こうしたことが短期的にも中長期的にも非常に重要と考えている。


(問)
 外国の規制について伺いたい。FATCAという米国人の租税回避を防止するための法律が7月から日本で適用が始まるが、ここまでの邦銀の対応状況や7月を迎えるにあたっての課題、懸念事項等について会長の考えを伺いたい。
(答)
 当初、海外における金融機関の負担を著しく増すものだということで、様々な批判があった。そこで、私ども全銀協も日本の当局と協力し、他国とも連携することで、比較的対応可能なレベルにFATCAの要求水準、規制の内容を変えていただいた経緯にある。今後同じような課題が発生した場合、端的に言えば域外適用に近い、他国の規制が外の国の金融機関の活動に大きな影響を与える、国民経済に大きな影響を与えるケースにおいては、積極的な情報発信や働きかけを行うべきであるし、それをやれば一定の成果を上げることができるという事例と評価している。
 それを前提にして、米国当局に対して報告義務のある金融機関に関しては、準備が着々と進んでいる。全銀協としては、7月からの導入を目指して、会員行向けのQ&A作成、あるいはリーフレットを作り、お客さまにも周知徹底するといった努力を続けているところである。


(問)
 インターネット・バンキングの不正について伺いたい。銀行のシステムにアクセスしたうえで不正があったときの被害補償というのは分かるが、利用者のパソコンがウイルスに感染したり、インターフェイスに入ってくるウイルスにより不正があった場合に、銀行が被害補償するというのは、どういう理屈か。
(答)
 これはなかなか難しい。現状では、預金者保護法の精神に則って、カードのスキミング等の被害への対応と同様に、個人のインターネットの不正被害に関しても、法では決まっていないものの、十分な知識を持っていない弱い立場の方に対して、過失の程度はあるが一定の補償を行うこととしている。
 したがって、製造物責任に近い考え方かもしれないが、法的には必ずしも十分に整理されていない。基本的には消費者保護ということで立法が行われ、我々もそれに従っている。
 インターネット・バンキングという商品をお客さまに提供しているなかで、ユーザーの方に留意していただく点はある。自動車でエンジンオイルやブレーキオイルを適切に交換したり、ブレーキ操作に注意を払うといったことと同様、インターネット・バンキングについては、セキュリティ対策ソフトを入れたり、サポート終了となっていないようなOSを使い、セキュリティホールのないブラウザを使うといった点は守っていただく必要がある。それを怠ったところで起きた被害について全部金融機関が補償するのかどうか、とりわけ、法人に関してはそういった論点があると考える。
 ただ、金融機関はお客さまに対して商品やサービスを提供するなかで、その使い方を説明する義務、先ほど申しあげた注意喚起やお客さまが身を守るような手段を提供することは必要と考える。例えば、ワンタイムパスワードの提供、あるいは銀行がセキュリティソフトを提供するといったことは必要であり、それによって銀行としてサービスの質を上げていく努力を続けなければならない。それを超えたところで仮に被害が生じたときには、真摯にお客さまと向き合って協議をしたいというのが、今日、この時点での私どもの考え方である。ただし、弁護士や学者といった有識者の意見も是非聞きたいので、検討部会に専門家を交え、さらに検討を進めていきたい。


(問)
 消費税が上がって振込手数料も上がっているが、御行も含めて多くの銀行が金額3万円以上の振込の場合は振込手数料が高くなる。今の状況であれば、オンラインで同じようなことができると思うが、3万円以上で振込手数料が仕切られる理屈を教えていただきたい。
(答)
 気を付けなければならないのは、価格設定、手数料、金利水準については各行が決めることであり、全銀協として意見を述べることはない。ただ、個別行の立場で考えてみれば、従量制という言葉があるが、金額が増えれば、ある程度ご負担が増える、例えば、5千円送る時と、100万円送る時では手数料が違ってもいいという考え方はあると思う。
 なぜ振込手数料が3万円で仕切られるのか、という問いに対しての明確な回答は持ち合わせていない。ただ、お客さまに対するサービスレベルの改善、引き上げは、金融機関として不断の努力を続けていかなければならないと考えている。
 個別行でいろいろなご意見をいただいたが、三菱東京UFJ銀行では、昨年12月にATMの利用手数料の無料時間帯を拡大し、営業時間の延長も実施した。例えば、ATMでの振込は、従来は、土日祝日と夜6時以降、ATM手数料が必要であったが、夜9時までは土日祝日も無料としている。この例のように、各金融機関がこれからも適正な手数料について検討していくのであろう。


(問)
 今朝、1~3月期のGDPが公表され、年率換算で5.9%、6四半期連続のプラスという結果であった。この数字は、駆け込み需要が含まれた数字であるが、業界を代表して、どう受け止めているかを伺いたい。
(答)
 ご質問はホットな話題である。まず数字を確認すると、実質GDP成長率は、1~3月期で前期比1.5%、年率換算で5.9%という非常に高い数字となった。
 注意すべきはその中身だが、個人消費は前期比2.1%、年率8.5%となり、注目していた設備投資は、前期比4.9%、年率21%となった。また、これまでマイナスだったGDPデフレータが、ほぼトンになったことも、もう一つ着目すべき点である。
 1~3月期の実質GDP成長率は、過去2年半で最も高い伸び率である。しかも6四半期連続のプラスであり、やはり、経済の好循環の勢いが増してきたのではないかとの印象をもっている。
 もちろん、この数字には駆け込み需要が含まれている。その反動減の影響を正確に読み解くことはできないが、おそらく、この4~6月期のGDP成長率はマイナスになると思う。ただし、いくつかのことを申しあげたい。
 まず、1点目は、企業業績は着実に改善している。一部新聞報道でもあったが、決算発表をした上場企業の前年度の経常利益は前期比30%を超える増益が見込まれている。
 今年度も金融機関以外の企業は微増益であり、引き続き底堅い収益を見込んでいる。これは、昨年以来の安倍政権の異次元緩和策や機動的な財政出動といった景気刺激策が功を奏し、企業活動が活発化し、好業績が設備投資、さらには、この4月のベア、賃金引き上げにもつながり、それが消費の拡大にもつながるといった、まさに、経済の好循環が実現しつつある。
 2点目は、4月の落ち込みについてである。まだ正確な数字はないが、確かに自動車や家電の販売は落ちているが、お客さまと話をしている限りでは、ほぼどの業態でも当初懸念していたほどの落ち込み幅にはなっていないとのことである。端的にそれを表しているのは、百貨店売上であり、3月に前年比で約3割のプラスとなった後、4月第一週はかなり落ち込んだが、週を追うごとに落ち込み幅が縮小し、1ヶ月を通して見ると10%強ぐらいの落ち込みで着地したのではないかというのが、話を伺った実感である。
 以上を踏まえると、日本の景気は、堅調な消費と企業活動の活発化を受け、第3四半期、7~9月以降は回復に転じると期待してよいのではないかと思う。


(問)
 自己資本について伺いたい。この3月期の実績は良好な水準にあり、業績も良く、株主還元の方向に向かっている。ただ一方で、レバレッジ比率規制、大口信用供与規制、GLAC等の国際金融規制の問題もあり、当局主導でストレステストを行っている欧米では、これらを意識してCET1の積み上げを行っていると思う。現時点では良好な水準であるが、それら先々のことを踏まえて、資本の余力を見ていくことになるのか、考えを聞かせてほしい。
(答)
 金融機関の経営者が考えなくてはならないことは、足元だけではなく長期に渡って持続的な成長を果たし、いかなる環境下においても、社会、お客さまの金融に対するニーズにしっかりと応えられるような、盤石な基盤を維持するように努めることである。
 ただ一方で、国際的にも国内においても、企業に対する評価、金融機関に対する評価の目線が、やや変わってきているのも事実である。
 リーマンショックの直後には、恐らく健全性が金融機関評価の主軸であった。しかしながら、金融システムが安定化し、米国あるいは欧州の金融機関も一定の健全性と安定性を取り戻すなかで、資本の効率性に対する株主の要請も強まっている。
 したがって、金融機関においては、常に3つの要素をバランスよく考えながら、環境に対応していかなければならない。
 第一は、やはり健全性である。国際金融規制の強化は最後のフェーズに入りつつあり、トレーディング勘定を中心に自己資本の規制は固まり、流動性規制も固まりつつある。そのなかで、残った問題は破綻処理の問題、すなわちGLACの問題と、急速に脚光を浴びている銀行勘定における金利リスクの問題である。
 日本のように預金保険も含めて他国に勝る破たん処理システムが出来あがっている国に対して、諸外国と同様の資本の備えを要求するのは過大なコストになると思う。また、銀行勘定の金利リスクに関して言えば、商業銀行にとっては、短期の預金をお客さまからお預かりして長期の住宅ローンや企業の設備投資資金でお貸しするという基本的な機能の部分に過大な負担が発生すると、円滑な金融機能を大いに損なうことになりかねない。したがって、こうした点に注意しながら、健全なレベルの自己資本を維持しなければならない。
 二つ目は、先ほども申しあげたとおり、持続的成長である。企業である以上は金融機関も成長しなければいけない。成長に向けた備え、必要な資本を確保するというのが二つ目である。
 三つ目は、株主に対する利益の還元である。
 これらは順不同であり、三つはいずれも重要である。局面局面によって、あるいは金融機関の事業モデルや戦略によって、各経営者が適確な判断を下していかなければならないと考えている。


(問)
 順不同とおっしゃったが、現状は株主還元がやはり一番なのか。
(答)
 これは難しい。先ほども申しあげたとおり、そうした流れはある。健全性が圧倒的に重要な時期はあったが、それが少し変わりつつあるのも事実。加えて、ご指摘のとおり、日本の金融機関はかなり自己資本が積み上がっている。これを成長のために使うのか、株主に対する利益の還元に使うのかということを考えなければいけないタイミングに来ているということである。


(問)
 インターネット・バンキングについてお聞きしたい。これからもこれまでなかったような手口が犯罪者のなかで開発され、色々と被害が増えてくる可能性もあると思うが、そのなかで補償しなければならないケース、特に法人についてだが、補償が増えていくのかどうか、基本的には各行の判断だと思うが、業界としてどのように受け止めているか。また、保険制度を業界として考えていくことがあるのか、その2点を伺いたい。
(答)
 前者に関して言えば、これからもどんどん増え続けていくようなことはないようにしなければならないというのが、私どもの本日の申し合わせである。
 二つ目に関しては、仮に補償をする場合に、法人でも個人でも、そのコストをどう賄うのかは個別行の判断である。保険が有効と考えればそれでよいと思うし、セキュリティ対策を一段と強化することで、保険がなくても大丈夫という判断であれば、それでも構わないと思う。これは各行が判断することと思う。


(問)
 業界として保険に入るといった方針は作らないのか。
(答)
 預金保険のようなイメージかと思うが、これは非常に難しい。各行が提供しているインターネット・バンキングのサービスの内容は様々であるし、不正を防止するための手立ても様々である。
 私ども全銀協として推奨しているのは、複数の防止策を組み合わせて対応するということであり、変数は無数にある。したがって、同じ料率で保険を掛けるというのは難しいのではないかと、今私は思っている。


(問)
 インターネット・バンキングについて2点質問したい。外部有識者を交えた検討部会にて被害補償の取扱いを整理するということだが、これは補償をするかしないかという是非の段階から検討されるのか、もしくは、ある程度の対策を講じたうえで、発生してしまった法人被害について、どのライン以上は補償するかといった、一定の指針に近いものを検討されるイメージか、具体的にお伺いしたい。
(答)
 現時点では決まっていない。今後、様々な検討を法的な立場や実務の立場からも加えたうえで、適切な対策・対応を極力早期に出したいと考えている。


(問)
 現時点の被害状況について、冒頭に被害が増勢傾向にあるとの説明があったが、現時点で、全銀協として今年に入ってからの被害状況について確認している数字等はあるか。
(答)
 現在公表されているインターネット・バンキングの不正利用被害に関する計数は2種類ある。一つが、全銀協が公表している個人の被害に関する計数である。もう一つは、警察庁が公表している法人と個人の被害を合算した計数である。
 全銀協の計数について、個人の被害に加え、法人の被害も公表してはどうかとの意見があり、前向きに対応したいと思っている。早ければ、1月~3月分の計数を5月下旬に公表できればと考えており、被害状況を公表することによって、より注意を喚起したいと考えている。


(問)
 インターネット・バンキングの話だが、申し合わせで対策事例をいくつか列挙されていると思う。銀行から対策を促したところで、お客さまにそうした対策をとってもらわないと意味がないと思うが、どのように、銀行としてお客さまの意識を変えてもらうかお聞きしたい。
(答)
 まず全銀協としては、お客さまに対する注意喚起など、様々な呼びかけを行う。これはこれまでもやっており、これからもやっていく。もう一つは、個別行として努力をしなければいけないと考えている。
 例えば、私ども三菱東京UFJ銀行においては、テレビコマーシャルやインターネット上において誰が見ても見落とすことはないような表示、あるいはダイレクトメール、その他の手段を複数組み合わせることで、極力お客さまの認識が高まるような努力を行っていくことだと考えている。


(問)
 銀行で働く従業員の働き方についての考えをお伺いしたい。あと10年もすれば、銀行だけに限らず、ほぼすべての職場で介護をしながら働く従業員が2~3割に達するという試算もあり、各行がしっかりと対応しなければ、銀行の競争力にも影響を及ぼすと考えるが、現状の会長の考えを伺いたい。
(答)
 少し大きく構えると、日本の労働力人口の問題でもあると思う。このまま放置すれば出生率が下がり、労働力人口が右肩下がりで落ちていくことから、それに対応するためにも、いかに労働参加率を上げるかが重要である。これはまず子育てという観点から出てきた話題だが、ある意味、子育ては人生の最初の段階であり、介護は人生の最後の段階で、双方に関して仕事と家庭を両立させなければならないという課題に、多くの人が今直面している。
 全銀協では、行動憲章において仕事と家庭の両立支援を掲げており、そのなかで「少子高齢化の進展に鑑み、出産・育児・介護に携わる従業員の負担を極力軽減するため、当該従業員に対する支援制度の拡充に努めなければならない」と定めている。また、全銀協ではワークライフバランス講演会を開催しており、介護の問題を取り上げたことがある。そういった趣旨を受けて、各行がこの課題に取り組んでいくと思う。
 個別行としては、育児休暇・育児休業と相似形であるが、介護についても介護休暇・介護休業、介護時短という制度を設けており、介護という課題に直面した従業員たちにとって働きやすい環境を整備したいと考えているところである。
 加えて、行内で情宣活動としてDVDの製作等を行っており、女性活用と全く同じで、先例をどんどん作ることで、みんなが休暇等を取得しやすくすることが大事と思う。これからも各行において、そういった努力を積み重ねていくことになると思う。


(問)
 成長戦略について、6月にも改定版が出されると思うが、全銀協としてこれまでどのような要望をしているか。政府・与党の反応についてはどうか。少し気が早いが、銀行業界に対する政策として、次の成長戦略にどういったものが入るとみているか。
(答)
 全銀協として、今回の日本再興戦略の改定版に対してまとまった要望をしているわけではない。ただ、現在議論されているいくつかの施策、具体的には、規制改革、法人税率の引き下げ、TPP、規制改革の中で特区の活用などについては、我々として異存ない。インパクトのある施策がまとまることを強く期待している。
 昨年の安倍政権発足以来、日本の経済の風景が大きく変わったと思う。長いデフレから何とか脱したいという国民の強い願い、それが具体的な形で経済界や家計の中に見られるようになってきた。それをさらにもう一段高めていくためにどうすればいいか。金融政策や財政政策に依存しない形で実体経済をどう成長させていくか、まさに成長戦略が問われていることだと考えている。


(問)
 イスラム金融に関連して、全銀協ではないが、メガバンクが規制改革会議に要望を出している。成長戦略に盛り込まれていくのか。
(答)
 イスラム金融については、あれだけ大きな経済圏を世界市場の中で築いているので、この地域における金融ニーズに応えていくことは日本の金融機関にとっても重要と思う。ただ、イスラム金融に固有のスキームが、日本の銀行法の下ではうまくワークしないという問題があり、これについて規制緩和をお願いしている。私どもとしても実現できることを期待している。