2014年7月17日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、本日の理事会において、法人向けインターネット・バンキングにおける預金等の不正な払戻しに関する補償の考え方について、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 本申し合わせは、重要な金融インフラであるインターネット・バンキングの信頼性を高め、お客さまに安心してご利用いただくために、法人のお客さまに対する被害補償に関する考え方ならびに銀行とお客さまのセキュリティ対策事例等に関する申し合わせを行ったものである。
 2点目は、本日の理事会において、お手許の資料のとおり、平成27年度税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に対し要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけてまいりたい。なお、本件に関する内容については、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2点ご質問する。1点目は、本日、法人向けインターネット・バンキング不正送金の補償の考え方に関する資料を頂戴したが、このなかで、これまでは個人とは異なるという考え方を示されていた法人について、補償を検討するという文言が見られる。この結論に至った根拠を改めてお伺いしたい。
 2点目は、補償の対象先や補償の上限、さらには補償料率等において会員各行間で大きな差が生じることも想定されるが、その点について、会長の所見を伺いたい。
(答)
 まず、基本的な考え方について、法人のセキュリティ対策面での対応力が個人と異なるという考え方は変わったわけではない。ただ、そもそもインターネット・バンキングに関しては、銀行およびお客さまである法人が一般的に必要とされるセキュリティ対策を実施していたとしても、サービスに内在しているリスクが顕在化する可能性がある。ご承知のとおり、なりすましであるとか、送金情報の改ざん等の可能性があると我々も認識しているところである。
 したがって、このようなケースであれば、銀行に法的な責任がない場合の被害であっても、お客さまへのサービス継続の必要性、あるいは銀行の経営戦略上の判断から、被害を補償することは十分合理的なケースがあり得るという考え方に至ったということである。
 ただし、先ほどお配りした資料にも書いてあるが、利用環境あるいはセキュリティレベルが不十分なために、不正利用が発生するというケースが頻発していることを考えると、先ほど申しあげたとおり、個人に比べて対応力が高い法人のお客さまに関しては、十分なセキュリティ対策を講じていただくことが極めて重要であり、その対策をきちんと講じていただいているかどうかを補償検討の際の考慮のポイントの一つにしたということである。
 2点目のご質問だが、補償の要否、対象先、上限等の決定は各行の経営判断という整理をしているので、結果として銀行によって対応が異なる可能性はある。しかしながら、私どもの基本的な考え方としては、まず、今回申し合わせたガイドラインに沿って各金融機関が真摯に取り組むことが基本的な姿勢ということである。次に、個々の金融機関のインターネット・バンキングの内容、あるいはお客さまの対応は様々であるので、その事情を個別に斟酌する必要があること。また、法的責任ではなくあくまでも事業戦略上、もしくはサービス継続のために経営判断として補償をするということなので、各行一律の対応となるように申し合わせることは、公正取引を阻害するというリスクもないとは言えない。こうした専門家からの助言もあって今回の対応としたものである。


(問)
 リーマンショックからそろそろ6年が経とうとしているが、銀行や金融機関をめぐる規制環境はいまだに不透明であり、例えば銀行勘定における国債の扱いや、G-SIFIsに対するベイルイン債務の扱い等、これから議論が煮詰まろうとしている。現下の金融規制環境と今後の展望に関する所見を伺いたい。
(答)
 4月の就任会見の場でも、私ども金融機関が対処すべき最大の課題の一つとして国際金融規制対応に言及した。その際にも残存課題として、Too Big To Failを回避するためにG-SIFIsに対して課すことが検討されているGLACの問題、および銀行勘定における金利リスクをどう捉えるか、この二つの問題について述べた。
 リーマンショック後、二度と大きな金融危機を繰り返さない、公的資金を投入しない、Too Big To Failといったモラルハザードを繰り返さないために、各国当局が知恵を集めてバーゼルIII、そしてそれに付加すべきいくつかの施策を講じてきた。
 リーマンショックの直接の引き金となった、いわゆるトレーディング勘定における取引、あるいは投資銀行活動に関わる取引に関しては、デリバティブの規制によりほぼ整理がついたと考えているが、一方で残ったのがこの二つであり、特に日本の金融機関や金融市場、金融制度に与える影響が大きい。
 まず、GLACに関して言えば、日本の場合、預金保険制度という、ある意味で世界最先端をいく制度が、これまでの金融危機への対応のなかで確立されてきた。
 実際にこの制度を利用した破綻処理の実績があることを海外の当局に十分に理解してもらう必要がある。既存のセーフティーネットにさらに屋上屋を架すことが合理的ではないという観点から、この問題を訴えていく必要があると考えている。
 2点目の銀行勘定の金利リスクの問題については、そもそも銀行の基本的な機能が、金利の転換、すなわち短期で調達した金利を長期の金利に転換して融資・投資を行う、端的に言えば住宅ローンや長期的な国債へ投資するということを理解していただく必要がある。銀行勘定は、金利が上がって評価損が出たらすぐにそれをたたまなければならないというトレーディング勘定と著しく性格が異なる。そうした性格を十分に理解したうえでリスクをどう把握し、それに対してどういう規制をするのかということを検討すべきと考えている。
 したがって、基本的にはピラー2で対応すべきというのが私どもの立場であり、百歩譲って何らかの形でピラー1での扱いとなる場合でも、今、申しあげたような銀行勘定におけるリスクは、NII、すなわち金利収入の変動リスクとして捉えるべきであって、必ずしもEV、すなわちバリューアットリスクにもとづくようなトレーディング勘定におけるリスク計測手法を使うべきではないと考えている。


(問)
 インターネット・バンキングについて、法人は対応力が高いということで線引きするという整理をされていると思うが、実際にはセキュリティ対策への対応力に個人とほとんど差がないような零細の事業者も被害に遭っているようなケースも多い。今回その部分にも目配りをした対応にはなっているのではないかと思うが、実際の運用として対策が不十分な零細業者に対してきちんと補償されるような対応になっていくのかどうかを伺いたい。
 また、その点を事前にルール化せず、銀行側の一方的な、時として恣意的な裁量に任される形になると、果たしてそれが望ましいことなのかを伺いたいと思う。
 2点目だが、インターネット・バンキングは、銀行側の整理としては、無過失でも経営戦略上ある種のサービスとして補償するという考え方ではないかと思うが、そもそもインターネット・バンキングを利用することによって銀行は人件費を削減したり窓口へ並ぶ人が少なくなったりして非常に大きな利益を得ている。今回補償が実態としてあまり進まないようなことになると、法人利用者の不安が高まり、結果的には銀行側にとってダメージになるところがあるのではないかと思う。今回の補償の対応によってそうした不安が払拭され、きちんとした形でインターネット・バンキングの利用が進んでいくのか、伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおりインターネット・バンキングは、いまや極めて重要な社会的な決済インフラになっている。したがってその利用者も、個人、法人、法人のなかでも零細、小規模事業者に至るまで多様であり、それはよく承知している。
 それもあり、今回の申し合わせに、「法人のお客さまの属性やセキュリティ対策への対応力等に応じて、補償の対象先や上限等を個別に決定すること」とあるように、属性を考慮することになっている。ITのハイテク企業と、個人事業主では当然違うということは私どもも非常によく分かっているので、そのあたりの考慮をしようというものである。
 それから次に、先ほど申しあげたように、インターネット・バンキングは社会的なインフラとなり、これがお客さまの利便性にも大きく貢献し、銀行のビジネス、オペレーションの効率化にも寄与している。これをなくしてはならないという想いは非常に強い。先ほど私は事業戦略という言葉を使ったが、その意味するところは、然るべき対応をとらないとこのシステムに対する信頼が失われ、結果としてお客さまが利用されなくなることは、お客さまと銀行の両方にとって不幸なことであるため、真摯に対応しようということである。銀行もディフェンスを固める、そしてお客さまにもディフェンスを固めていただく。これがしっかりとできれば、ご懸念のような事態にはならないし、そうならないように努めなければならないと考えている。
 ディフェンスとして、私どもが銀行に求めたことについては「(別紙1)」をご覧いただきたいが、強調したいのは、前回の記者会見でも申しあげたが、「1.」の「(1)」の二行目にある「これらを複数組み合わせて万全の対策を講じていく」という部分である。対策が一つだけだと防御力に限界がある。この種の犯罪は今の環境ではただちにゼロにはならず、必ず事故は起こるという前提でその確率をいかに下げていくかが重要である。仮に確率を9割落とせる対策があったとすれば、一つであれば10%の確率が残るが、二つであれば1%、三つやれば0.1%という風に幾何学級数的に確率は下がっていくので、そうした対応を銀行がとるべきだということである。
 一方で、次頁には、お客さまにしていただくセキュリティ対策事例を挙げている。「(1)」と「(2)」に分かれており、「(1)」の方は是非お願いしたいということで、補償する場合にもこれはしっかりと見させていただくということが書いてある。ここに書いてあることは普通のことであり、おそらくここにお集まりの方であれば皆さんやっておられるようなことである。無理なことをお願いしているわけではないと思っている。


(問)
 投信の乗り換え規制についてお尋ねする。金融庁は監督指針の見直しとか、モニタリングレポートで問題視しているが、実態として銀行が投信の乗り換えを手数料稼ぎのために積極的にやっているのか、お客さまの相場を見て売却益を得るために解約してまた新しい商品に乗り換えるということなのか、実態をどう見ているのか。また今後の対応についても聞かせてほしい。
(答)
 投資信託に限らず、運用性商品は、これからの国民の健全な金融資産の形成という意味で非常に重要な商品であるが、あくまでもお客さまのニーズに合ったものをきちんとご説明して、ご理解いただいて販売するということが大前提である。私自身は、各行ともにこの大前提に立って、金融商品取引法で規定されている適合性の原則に則ったセールスをしていると思う。しかしながら、今回の金融庁のレポートのなかで10年間薦められるままに運用したときにどうなるかということが観測されているが、結果として必ずしもお客さまのためになっていないのではないかとの指摘があった。このことは真摯に受け止めて改善に努める必要があると考えている。
 その一環として販売体制あるいは販売員の業績評価のあり方についても指摘があった。一般に販売員に関していうと、商品の販売額であるとか販売手数料を用いて評価するが、今回のモニタリングレポートでは、販売手数料に過度に依存するべきではないとの指摘がある。すなわち、預り資産の残高であるとか、お客さまの長期的な金融資産の形成に資するような項目を業績評価体系に取り入れるべきであるという指摘であり、会員各行もこういった指摘を踏まえた対応をする必要があると考えている。
 会員各行の業績評価についてはコメントする立場にないが、私どもの個別行について言えば、収益、基盤と呼んでいるお客さまの数、業容と呼んでいる預り資産残高、この三項目をバランスよく三位一体で評価していくことを改めて確認しているところである。


(問)
 FATFの対日声明が出た。その評価と今後の見通し、邦銀に与える影響について考えをお聞かせいただきたい。
 二つ目は先ほどの質問にもあったが、GLACと預金保険制度に関連して、預金保険料率の改定の議論が進んでいる。GLACのような厳しい規制が議論されているなか、保険料率を引き下げたいというのが銀行界の意向であろうが、場合によっては引き上げなくてはいけないということもあるのではないかと思う。この関係性は大変難しいと思うが、現時点で会長のお考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 まず、FATFに関して結論からいうと、声明にはなかなか厳しいことが書かれている。簡単に言えば、日本がテロ資金提供行為の犯罪化であるとか、あるいはエンハンスト・デューデリジェンス、つまり顧客管理措置義務等に関する法制の制定が未だ不十分であるということを指摘されたものである。
 ただし、今回の措置は、他の一部の国のようなハイリスク国リストに掲載されたわけではなく、関係各国による対抗措置が勧告されたということでもない。すなわち、今回改めてFATFに指摘された事項への日本政府による対処を促し、その状況をモニタリングするという内容である。
 各行は関連の法規であるとか、あるいは監督指針に則ってAMLに対する基本方針の策定あるいは内部手続きの整備を進めてきたところであって、現時点において私ども自身、邦銀自体のこの分野における国際的な信任が著しく損なわれたということではないと思う。かつ、日本政府もいくつかの法的な措置を進めている。具体的には、テロ資金提供処罰法の改正が秋の臨時国会で継続審議になっているほか、犯収法の再改正法案も秋に提出される予定になっている。その他いくつかの法整備を行おうと努力しているところである。
 ただし、今はそういう状況だが、これらの対処があまりにも遅れると、諸外国からの見方が単に政府に対して厳しくなるだけでなく、日本の銀行に対しても厳しくなる可能性もあるということは申しあげておきたい。すなわち、海外の機関投資家やソブリン先との取引に影響が出たり、コルレス取引に影響が出るといった最悪の場合は考えられなくもない。
 いずれにしても、全銀協としてもFATFの求める水準のマネー・ローンダリング対策がわが国およびわが国金融機関の大きな責任であるということをしっかりと認識して対応してまいりたいと考えている。
 さらに一点付け加えると、お客さまのご理解がかなり重要であるということである。例えば、エンハンスト・デューデリジェンスに関していうと、法人口座開設の場合に最終的な自然人まで遡って本人確認を行う必要があり、法人口座を開設するのは大変だということをご理解いただく必要がある。
 日本の社会ではややテロに対する感度が低いところがあるので、国民あるいは利用者のご理解をいただけるように、政府におかれても努めていただく必要があるし、我々も努力する必要があると考えている。
 続いて、二つ目の預金保険料率については、すでに一部で報じられているが、先日、検討が始まった段階である。現在の料率は、平成24年3月に、当面3年間、すなわち平成26年度までは0.084%となっている。元々0.012%から平成8年度に7倍に引き上げられたという経緯にあるが、これを維持する一方で、仮に破綻がなかった場合は一定の払い戻しを行う形となっている。今回はその期限が到来するので、来年度以降の料率については今年度中に検討が必要で、議論が始まったということである。
 預金保険に関する責任準備金のマイナスは、ピークで4兆円くらいまでいった。ところが今現在は、1兆7,000億円程度までプラスになってきている。したがって考え方としては、いつまでにどのレベルの積み立てが必要なのかということをまず議論して、そこに到達するためには、今の責任準備金の残高、そして毎年だいたい6,000億円程度がこの勘定に入るわけで、これを勘案していくらの料率が必要か、という話になると思う。そうした議論をこれから行っていく。
 海外においては、むしろ預金保険強化の方向とのご指摘があった。これについては、先ほど申しあげたとおり、わが国の制度は明らかに一周先を走っている。だからこそ、一旦マイナスになったものがプラスになっているわけである。したがって、諸外国において今必要とされているような預金保険の積み立てのレベル感、それから、日本におけるこれまでの破綻の実績も考慮しながらあるべき水準を決め、そこから保険料率を算出するという考え方に立つのであれば、十分説得力があることだろうと考えている。


(問)
 インターネット・バンキングについて、今後の具体的な補償内容は個別行の経営判断とのことだが、それをいつ頃までに各行が定めるといった目途があるのか、または、決めたものを開示することが前提になるのか、教えていただきたい。
 それから、万が一各行の基準が今回の申し合わせの内容から逸脱している場合、例えば条件が厳しすぎる場合に何らかの是正を求めることになるのか、それともやはり個別行の判断ということで問題視しないことになるのか、以上2点を教えていただきたい。
(答)
 まず前者であるが、本日、こういった申し合わせを行ったが、この事案については4月、5月以来、全銀協でかなり議論を重ねてきた経緯がある。また、実際に被害が出ていることもあり、会員各行はかなり緊張感のある対応をしてきている。したがって本日の申し合わせに対する各行の対応は早いだろうと思う。おそらく今日ホームページで方針を公表する金融機関もあるだろうと考えている。開示するかは各行の方針だが、おそらくそういう対応をする金融機関もあるのではないかと考えている。
 それから2番目の逸脱した場合の対応は、これはなかなか難しいところである。個別の事案について私どもが一つひとつ立ち入るということは考えていない。各行の真摯な対応に期待しているところである。
 もちろん、全銀協には相談窓口等もあるので、そこに纏まったお声が寄せられるようなことになれば、真摯に対応することになる。


(問)
 銀行界の相続業務について伺いたい。来年1月の相続税改正まで約半年を切っているが、改めてこの改正が銀行界にどういったインパクトがあり、どのようなビジネスチャンスとなるのか。また、それに対してどのように対応していくのか伺いたい。
(答)
 今回の相続税法の改正はかなり大きなインパクトがあるというのが、これは個別行として、あるいはグループ各社の窓口から聞こえてくる実感である。
 一言で言えば、この新しい相続税法のもとでの資産承継ニーズが高まるので、私ども金融界としては、こういった新たなニーズを捉え、資産承継ビジネスを組み立てていくということだと思う。
 一つの鍵となるのは信託商品であろう。これは各信託銀行において取り組んでいる遺言信託や遺産整理に加えて、いくつかの新しい商品・サービスも出ている。
 例えば、教育資金贈与に関して言えば、今非常に好調であり、個別行で見ても、8,000件に近い成約がある。これもある意味での資産承継であると思う。
 もう一つは、相続発生時に口座が停止されてしまうため現金の引き出しが出来なくなることに対して、対応しようということがある。これには、一時的な支払いが出来るような信託商品を提供している。
 さらには、毎年110万円という贈与税の基礎控除額のなかで贈与が行われるような信託商品を作る等、様々な取り組みがなされている。これらの取り組みを通じて、新たなお客さまのニーズに応えてまいりたいと考えている。


(問)
 銀行の貸出について伺いたい。ここ数年、メガバンクが貸出を増やすなか、特に地方の優良企業への貸出を積極的に行っており、結果として地方銀行の経営を圧迫しているとの指摘があるが、会長の見解を伺いたい。
(答)
 まず、いわゆるメガバンクと地域金融機関は、機能、あるいは果たすべき役割に違いがある。
 メガバンクであれば、例えばグループの金融サービスを総合的に提供した資産承継・事業承継のお手伝い、あるいは海外進出のお手伝いといった、メガならではのサービスを目指した活動を行っている。
 一方で、地域金融機関は、いわゆるリレーションシップバンキング、すなわち、お客さまの事業戦略や今後の事業の展開を把握したうえで、事業の実態を深く理解し、適切なコンサルティング機能を発揮して金融サービスを提供するというのがビジネスモデルである。
 貸出に限って言えば確かに競合するところはあるかもしれないが、それぞれの機能が異なっているため、二つの機能をお客さまにお選びいただける機会を提供していると考える。
 若干、誤解があるかもしれないが、一時期、一部のメガバンク、これは三菱東京UFJ銀行もその一つであったが、各県庁所在地にいわゆるモデル審査を専門にした非対面型の貸出の機能を展開しようとしたが、今では一段落している。全国津々浦々でメガと地域金融機関の間で貸出競争が起こっているわけではないと認識している。


(問)
 アルゼンチンの債務問題に関連して伺いたい。アルゼンチン政府が今月末にもテクニカルデフォルトとみなされる事態に陥る可能性が出ているが、アルゼンチン政府と債務の再編に応じなかった債権者との話し合いがこのまま上手く進まずに不調に終わる場合、国際金融システムに与える影響はどうか。
 あるいは、日本の銀行業界、もしくは国内の債権者にどのような影響があると見ているか伺いたい。
(答)
 アルゼンチンの債務問題の現状は、今ご指摘のとおりである。同国は、過去2005年と2010年に債務の元本削減を実施した経緯があるが、その際に合意に達しなかった一部の債権者からの訴訟について、今般、アメリカの法廷で、債権者の勝訴判決が出たということである。
 同国に関しては、今も申しあげた過去の経緯から、長らく、ある意味で国際金融市場の外側にある国であり、金融機関、あるいは投資家におけるそれぞれの備えは、ほぼ終わっているものと見られる。
 日本の金融機関に関して申しあげると、アルゼンチンで活動しておられる日本企業とのお取引や、あるいはそれ以外のお取引もあるが、与信にあたっては、適切な保全確保等の手当てがなされていること、また、金額も限定的と考えられることから、大きな影響はないと思う。
 ただし、気がかりなことは、現在、エマージング市場に対する不安感が燻り始めており、他の市場に波及することである。この点については、波及の有無を含めてよく推移を見ていく必要があると考えている。いずれにせよ、足もとの問題だけをとって言えば、大きな影響はないと思う。


(問)
 東京電力への融資について、川内原発で再稼動に向けた動きがあったが、柏崎刈羽原発は依然として厳しい。当初の予定では、7月中にも再稼働という前提で金融機関は協調融資をされてきたと思う。大手銀行が無担保融資に切り替えるという動きもあったが、こうした前提を欠くなかで、今後、どのように対応されるのか。
(答)
 以前この場で申しあげたが、電力事業は国民生活、そして国民経済に不可欠なインフラであり、金融機関も同じ社会インフラを担う立場として最大限の協力を行うというのが基本的なスタンスである。
 東京電力の問題に関しては、昨年12月にまとまった新総合特別事業計画のなかで、東京電力もさらなる合理化を行う、他に先んじて電力改革に取り組む、その代わりに国も一歩前へ出る、という方針が打ち出された。具体的には、廃炉の費用や賠償金・補償金について枠が増額され、予算措置が行われた。
 こういうなかで「金融機関も一歩踏み込んだサポートをするように」という要請を受けている。具体的には、いわゆる一般担保を使わないような融資や、電力制度改革に伴い会社形態が変更された場合にも引き続き円滑に資金を供給すること、今後の成長戦略に伴う必要資金の供給を行うこと等が要請されている。もちろん個別の案件ごとに判断することになるが、基本的にはこうした要請に対し真摯に応えていく必要があると考えている。
 足もと、ご指摘のとおり当初のシナリオに比べると原子力発電の再稼働が遅れている。ただし、數土会長も3月の会見で、まずは自助努力で頑張るということを言っている。値上げについても、年内ギリギリは合理化で切り抜けるということである。そういった東京電力のご努力に期待し、見守ってまいりたい。


(問)
 4-6月期、第1四半期が終わった。個別行の決算は今月末に出されると思うが、この4-6月期を振り返って銀行業界全体の経営環境はどうであったか、1年前の4-6月期と比べてどのような違いがあったかを聞かせてほしい。
(答)
 私はアナリストではないため的確なお答えができるか分からないし、全銀協でも統計をとっているわけではないため、あくまで私自身の断片的な観察にもとづくコメントと思っていただきたい。
 まず、マクロの経済環境は悪くなかったと思う。報道でもあるとおり、4月の消費税率引き上げのネガティブなインパクトは、ほぼ想定の範囲内に収まる一方で、消費は比較的堅調であり、また、企業活動、設備投資も活発化の傾向にある。
 ただし、資本市場にあまり冴えがなかったことが、おそらく昨年とは一番異なる点ではないかと思う。まず金利が動かず、株はある意味で小動きの推移であった。昨年の金融機関決算、特に第1四半期の特徴は、量的・質的金融緩和の影響を受けた債券や株式に係る市場関連の収益であり、また、お客さまとの取引でも、証券関連や投資信託等、運用商品の販売が極めて活況であった。今期については、こういった要素はあまりないだろうと思う。
 もう一つ、経済活動は活発であり、6月の全銀協統計では、貸出は前年同月比2.2%の増加と、34ヶ月連続のプラスとなった。しかし、その一方で、おそらく貸出利ざやは下がり続けており、依然、需給バランスの均衡には至っておらず、ボリュームは増えるが、それ以上の預貸利ざやの低下により、資金収益は弱含んでいるのではないかと思われる。
 したがって、この4-6月期は前年同期で比べるとやや力強さに欠ける決算になる可能性はあるのではないかと思う。
 いずれにせよ、金融機関は実体経済を写す鏡である。安倍政権が取り組む日本再興戦略の改訂版や骨太の方針が出たが、それらが実現されて、日本経済の本格的な再興、そして、持続的な成長が軌道に乗る。したがって、金融機関の事業活動を通じて持続的な成長の実現に最大限の努力をすること、そして、それによって、業績を上げていくことが重要だと考えている。


(問)
 企業への融資競争が激しくなっているなかで、もう少し高リスクで高金利がとれるような企業への開拓等は考えているか。あるいは規制等で難しいと考えているかという点をお聞きしたい。
(答)
 これはまさに各行の事業戦略そのものであり、リスク管理そのものである。一般的な答えは難しいため、個別行の例で回答する。
 私どもは昨年来、「リスク・リターン施策」というものを採っている。リスク・アペタイトの枠組みと言っても良い。幸い、私どもは比較的バランスシートが健全であり、自己資本も高いレベルにある。それをいかに有効に使うか、平たく言えば「取れるリスクは取ろう」という活動を始めている。
 その一例が、格付の低いお客さまと真摯に向き合い、事業戦略を伺いながら将来を共に分析し、融資をすれば再び成長軌道に乗る見通しが持てる場合には融資をするといった取り組みである。これをバリューアップと呼んでいる。こうした取り組みやプロジェクトファイナンス、あるいは一部の地域金融機関にも見られる海外への融資等、与信の対象を広げることでリターンを改善する、適切なリスクで適切なリターンを取っていく。こうしたことは各金融機関においても考えているであろう。実際、クロスボーダーのシンジケートローンの組成額は、最近かなり増えており、地域金融機関の参加もかなり活発化していることからも、それぞれの金融機関が様々なことを考えて活動しているのだと思う。


(問)
 前の質問に関連して追加で聞きたい。先ほど第1四半期、4-6月期の総括をいただいたが、第2四半期以降の見通しはどう見ているか。
(答)
 この点は、資金需給がどうなるか、あるいは金利がどう動くか等、その動向次第と申しあげざるを得ない。すなわち、先ほど第1四半期の振り返りとして、いくつか申しあげたこと、例えば、株式や債券等の市場、そして、預貸利ざや等が、この第2四半期以降にどうなるかということであるが、基本的にはストックビジネスはなかなか難しい面があるのではないかと思う。そのため、いかにそれ以外の分野でお客さまに付加価値のあるサービスを提供し、収益を上げることができるかということが、おそらく法人サイドのビジネスの課題となろう。
 一方で、個人に関して申しあげれば、先ほどもご指摘があったが、やはりこちらはむしろストックの強化が必要であり、地道ではあるが、個人のお客さまからお預かりする金融資産の残高を増やすことで、安定的な収益を積み上げていく努力を重ねていくことになるのではないかと思う。
(問)
 金利の見通しはどうか。先ほど利ざやの低下はまだ続いているという発言があったが。
(答)
 市場のボラティリティは大きくなく、比較的安定的に推移するのではないかと思う。ただ、この4-6月期に比べれば、市場のビジネスという意味から言えば、若干好転するのではないかというのが、おそらく国内だけではなく、海外も含めた状況であろうと理解している。


(問)
 インターネット・バンキング不正送金に関連して、まず1点目は、最近の被害の状況はどのようになっているか。2点目は、先ほど会長がおっしゃった開示について、各行の判断ではありながらも望ましいあり方はどのようにお考えか。
 それと、被害が急増したことを受けて各金融機関が対策に取り組まれてきたと思うが、対策の実施に伴い銀行実務面で何か影響は出ていないか。
(答)
 まず最近の状況であるが、全銀協は会員銀行からの報告を3か月毎にまとめて、翌々月の下旬に発表している。前回は1-3月分を5月の下旬に発表したが、次は8月下旬になると思うので、それをお待ちいただきたい。
 2番目の開示のあり方であるが、非常に難しい面がある。開示をすると、「この金融機関は、これさえクリアすればいつでも補償してもらえる」ということになり、結果として、犯罪者に狙われる可能性があるという意見がある。一方で、お客さまとの関係を考えれば、ある程度クリアな目線を示した方がよいとの意見もある。これはまさに各金融機関が判断することだと思う。ただし、基本方針については、少なくとも聞かれれば答えるというのが望ましいと思う。
 実務上の影響としては、特に混乱しているということはない。コールセンターを各行ともおそらく整備されると思うが、個別行として、私どもも間もなくアナウンスする予定である。


(問)
 銀行界では最近、女性役員の誕生等、女性の活躍が目立ってきた。そうしたなか、より広義のダイバーシティ推進という観点で、外国人材の受け入れや登用に銀行はどのような姿勢をとるべきか、とっていくべきかという点について、会長のご意見を伺いたい。
(答)
 外国人材の受け入れの論点はいくつかある。対象層として見ると、いわゆる高度人材と呼ばれている層と、研修制度の拡大の対象となる層の二つである。おそらく、ご質問は前者だと思うので、それについて申しあげる。
 この点は、各金融機関におけるビジネスの必要性から判断すべきことである。したがって、海外でのビジネスを大きく展開している、あるいは、これから展開していこうという金融機関であれば、海外での人材の登用を行うだろうし、現地で採用して活用するだけではなく、東京に来てもらい本部で活躍してもらうという動き方も、当然あると思う。
 一方、そういったこととは全く別の観点として、日本社会のダイバーシティ、日本人だろうが外国人だろうが、この東京という市場で技を競い合うという意味で言えば、ITあるいはエンジニアリング、そういった人材が日本に来ている外国人のなかから現れる、海外からリクルートしてくることは、これまで以上に活発化していくのではないかと思う。個別行としてもそうしたいと考えている。
 なお、個別行の話をすると、当行では、現在、元々ニューヨーク採用の執行役員が東京に1名おり、非日系法人取引を統括している。そういった形での活用が、これから先も、より活発化することを期待している。


(問)
 住宅ローン市場について伺いたい。長期金利が歴史的な最低水準になっており、それに加えて銀行間の競争激化に伴い短期的には利ざやが低下し、収益性が低くなることで銀行経営に悪影響が出てくるリスクがあると思われる。また今後人口減少が進むと、長期的には建物とか土地の担保価値も需要の低下とともに下落し、信用リスクが高まることも考えられる。金融機関全体として住宅ローンへの依存度が高まっていくと、そうした危険な事態が起こるということもあるのではないかと思うが、ご所見を伺いたい。
(答)
 ご指摘の点は確かに足もとの金融機関の課題の一つだと考える。個人のお客さまに対する貸出の主軸は何と言っても住宅ローンである。この重要性が変わることはないと思う。ただし、ご指摘のとおり現在の住宅ローンの市場においてはとりわけ資金需給の緩和が著しい。かつ、長期間にわたって資金が供給される性格のものであるから、それらを踏まえた金利面での、あるいは信用リスク面での十分な管理が必要と考える。
 したがって、住宅ローンの重要性は認識しつつも、それ以外の、例えばリテールであれば個人のお客さまの金融ニーズに対してどうお応えするかということを考えていく必要があると思う。例えば、個人の金融資産の形成というバランスシートの左側に着目した取り組みであるとか、あるいはこれから高齢化が進み資産承継が行われるのであれば、それに即したようなビジネスも重要になってくるであろう。そういった意味では社会構造、あるいは人口構成の変化に対応した金融商品・サービスのあり方を各行が十分に考えて、新たな商品・サービス等の開発に取り組んでいかなければならないということだろうと考えている。


(問)
 インターネット・バンキングの件だが、基準を厳格化すると悪用される可能性があるとのことだが、どういったことを想定されているのかお伺いしたい。
 今回のような基準にある程度あいまいなところが残ると、これが逆に補償するための方針ではなく、補償しないための方針になりかねないのではないか。
 本来補償するという方針で出すのであれば、救済するような前向きな形で運用されるべきだと思うが、そこはどのように担保されるのか。
 さらに、銀行にコンサルティング機能が求められているわけであるが、被害に遭わないようにメイン先や零細企業に対してきめ細かく対応すべきと思うが、そういった点も聞かせていただきたい。
(答)
 前者については、例えば、「上限なしでいくらでも補償する、ここにいくつか書かれているセキュリティ対策のうち極端に言えば一つだけやっていただければ結構である」と宣言した銀行が出てきたとする。そうすると犯罪者は、この銀行であれば、お客さまはすっかり安心して先ほど私どもが申しあげたディフェンスを固めることはないので、他の金融機関に比べればやすやすと犯罪行為を行えると考える可能性がある。
 これは極端な例であるが、こういったことも踏まえて犯罪を誘発しないような対応が必要だと申しあげたわけであり、基準を明確にしないことで補償しないことを私どもが勧奨しているわけではないので、そこはよくご理解いただきたい。
 実際、これから補償に関するご相談に金融機関が取り組んでいくことになると思う。繰り返しになるが、今回の方針は、極めて利便性が高く、社会インフラとして重要なインターネット・バンキングを継続できるように、またお客さまに安心して使っていただけるように打ち出したものである。その趣旨を各金融機関に徹底していくつもりである。
 ただし、お客さまにも守るべきものは守っていただく、対策を実施いただくという趣旨もご理解いただきたい。


(問)
 政府の成長戦略への対応について伺いたい。資金決済高度化のなかで訪日外国人の増加を見据え、海外発行クレジットカード等の利便性向上が謳われている。特にメガ3行は、国内ATM端末の対応を行うことを、昨年12月時点で観光庁を通じて発表しているが、全銀協としてこの課題についてどのように取り組んでいるのか。現在の進捗状況と今後の対応について伺いたい。
(答)
 日本のATMにおける海外発行クレジットカード、あるいはキャッシュカードの利用についてのご質問としてお答えする。
 メガは東京オリンピックまでに、自行ATMで海外のカードを使えるようにするという方針を明らかにしている。これは、各金融機関の立地やATMの置かれている場所等を勘案し、各金融機関が判断することだと思う。
 ただ、メガが仮にオリンピックまでに準備できれば、かなりの部分はカバーできるのではないかと期待している。
 もちろん、メガ以外にも広域的にATMネットワークを展開している金融機関があれば、独自の判断があると思う。
 今回の日本再興戦略は、ある意味で日本再生のラストチャンスという認識のもと、様々な施策が列挙されており、金融機関としても、それをサポートしていく姿勢で取り組んでまいりたいと思っている。この点、資金の仲介や決済はもとより、全てにわたって、出来る限り対応していきたいと考えている。