2015年1月15日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 長期金利は、本日も3日連続で過去最低を更新する等低水準にあり、原油価格も下落が続いている。また、株価の値動きも比較的激しくなっているが、こうしたマーケットの動きが日本経済に与える影響をどのように考えているか伺いたい。
(答)
 足元、市場はボラティリティが高い状況となっている。要因を一言でいうと、世界経済の先行きに対する懸念である。原油価格の大幅な下落を端緒としたロシアをはじめとする資源国経済の悪化やギリシャの政情不安等がリスク材料となり、市場参加者による、いわゆるリスク・オフの動きが強まっている。また、これまで世界経済あるいは金融市場は超緩和マネーによって支えられてきた面があるが、米国で利上げが視野に入ってきている状況のもと、リスク性資産や新興国に流入している資金が逆流することへの懸念も生じていると思う。
 次に、日本経済への影響について、原油価格の下落は、エネルギーの大部分を輸入に頼っている日本にとっては、原燃料コストの低減等を通じて企業収益の改善あるいは家計の実質的な購買力の向上につながり、全体としてはプラスに働くと考えられる。また、世界経済への影響についても、世銀が原油価格の下落は経済成長を押し上げる可能性があるといっているが、私どもも同じ考えであり、米国や日本等の先進国だけでなく、中国やインド等、エネルギー純輸入の新興国においてもプラスに働くと思う。
 一方でリスクをみておく必要もある。原油価格あるいはそれ以外の資源価格の下落スピードがあまりにも急激かつ大幅なものとなった場合には、産油国経済に変調を来たす可能性がある。とりわけ、世界第8位の経済規模を誇るロシアの変調は、ギリシャの政情不安等と相まって、デフレの継続が懸念されるヨーロッパ経済に悪影響を及ぼすおそれがある。
 また、日本経済にとっても、先程全体としてはプラスに働くと申しあげたが、株価等の金融市場が不安定になると、個人の消費マインドを抑制したり、企業の行動をより慎重にさせる等、中長期的には実体経済に悪影響を及ぼす可能性があるため、引き続き注意深く見守っていく必要があると考える。


(問)
 昨年末に日本郵政グループ3社の株式上場計画が公表されたが、これに関して銀行業界としてどのように対応していくか、また、地銀等を中心に銀行経営に与える影響についてどのように考えているか。
(答)
 日本郵政が公表した株式上場計画に関しては、昨年12月26日付で、全銀協でコメントを発表したとおりである。
 まず日本郵政の上場に関しては、政府が現在保有する3分の2未満の株式は、郵政民営化法により早期処分義務が課されている。これに加えて、復興財源確保法により、東日本大震災の復旧・復興財源に充てることとされており、その実現に向けて着実に進んでいるものと評価している。
 一方で、ゆうちょ銀行の完全民営化に向けては、日本郵政が保有する株式の一部を売却し、まずは保有割合が50%程度となるまで、段階的に売却していくと示されているものの、それ以上の具体的な道筋は示されていない。
 この点に関し、郵政民営化法改正に際しての附帯決議では、日本郵政が保有するゆうちょ銀行の株式全株処分に向けた具体的な説明責任を果たすことが求められているが、今回の計画では十分な説明責任が果たされているとは言い難い。また、引き続き政府関与が残ることから、民間金融機関との公正な競争条件が確保されない状況が続くことになる。
 私どもはかねてより、郵政事業改革の本来の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を払拭するとともに、民間市場への資金還流を図り、国民経済の健全な発展を促すことにあると考え、これを確実に実行するためには、ゆうちょ銀行の完全民営化にかかる具体的な計画を早期に示すことが不可欠である、と主張してきた。まずは、この点をしっかり実行いただくことが重要だと考えている。
 このようななか、預入限度額や新規業務の取扱い次第では、民間金融機関、特に地域金融機関に与える影響は大きいと懸念している。
 まず、預入限度額については、現在でもゆうちょ銀行は、特に地方におけるプレゼンスが高く、20%を超える大きなシェアを占めている。仮に政府関与が残る中で預入限度額が引き上げられれば、「暗黙の政府保証」を背景に、民間金融機関、特に地域金融機関からゆうちょ銀行への資金シフトが発生し、地域金融機関の経営への影響が大きくなる可能性があると考える。
 預入限度額については、「当面は引き上げない」ことが、改正郵政民営化法の附帯決議に盛り込まれている。現状その内容は遵守されているが、郵政民営化法において、「他の金融機関等との間の競争関係に影響を及ぼす事情等を勘案して定める」とされており、引き続き、政府関与が残る間は、その限度額が引き上げられるべきではないと考えている。
 次に、新規業務の取扱いについて、これまでも個別業務ごとの新規業務参入の是非に関しては、私どもは4つのポイント、すなわち、第一に公正な競争条件の確保、第二に適正な経営規模への縮小、第三に利用者の保護、第四に地域との共存、を総合的に検討して判断すべきと申しあげてきた。
 特に、間接的とはいえ政府関与が残る状況で貸付業務といった新規業務等に参入することになれば、暗黙の政府保証を背景とした資金調達面の優位性により、地域金融機関をはじめとした民間金融機関の業務を圧迫する懸念が大きいと考える。市場における経済合理性にもとづく価格形成を歪める等の問題も生じることから、私どもとしてはこれまでの主張のとおり、ゆうちょ銀行が新規業務に参入するにあたっては、ゆうちょ銀行の完全民営化への道筋をしっかりと示すとともに、その実行を担保することが最低限必要であるという考え方を変えていない。


(問)
 法人税の実効税率が引き下げられることに伴い、繰延税金資産の取崩しが発生し収益面でのマイナス要因になること、あるいは法人減税の代替財源として受取配当金の課税が強化されること等、銀行業界への影響について伺いたい。
(答)
 今回の税制改正は、部分的に捉えるのではなく、全体のパッケージとして捉える必要があることをまず申しあげたい。すなわち、実効税率を一定の時間をかけながら20%台まで引き下げることを目指すとされているが、外形標準課税の拡大あるいは欠損金の繰越控除制度の見直しといった課税ベースの拡大等を代替財源として、2年間で3.29%引き下げるということである。
 これに伴い、ご指摘のとおり、繰延税金資産の一部取崩しが発生することは間違いないが、この部分については、来年度以降、法人税率の引き下げによって収益を上げている限りは打ち消され、むしろ支払税額が減少していくという効果があり、評価すべきと考える。
 また、受取配当金への課税については、私どもも今回の税制改正に際して要望を提出した。二重課税排除および課税中立性の観点から、本来的には、100%益金不算入とすべきであると主張してきた。しかし、結果的には、持株比率が低いことをもって課税を強化するということになった。銀行の場合、いわゆる5%ルールによって持株比率が抑えられていることから、全業種を見渡しても、おそらく影響が大きいのだろうと思う。
 特定業種への負担の偏重がないようにということを申しあげてきたが、全体としてみれば、わが国の財政状況も踏まえ、銀行界として応分の負担をさせていただくということだと思っている。ただし、先ほど申しあげたように、今後、実効税率を20%台まで引き下げることを目指し、平成29年度以降も第二段階の改革が検討されていくこととなるが、受取配当金等の益金不算入制度については、これ以上の見直しが行われることがないよう、慎重な議論を求めて参りたい。


(問)
 日本再興戦略のなかに、産業の新陳代謝を促進するために、開業率や転業・廃業率を高めていくとの項目があるが、転業や廃業を促すという点で、銀行界ができること、あるいは行っていくべきことがあれば教えてほしい。
(答)
 このテーマについては、私としては、ようやくここまで来たなという感慨がある。すなわち、リーマンショック後の経済危機のなかでは、金融の円滑化が大きなテーマであったが、そこから一歩進んで、円滑化法の精神を引き継ぎつつも、企業が債務超過や破綻に陥る前に、債務の整理、事業再生、あるいは転廃業を促していくことに、ようやく私どもも手を付けることができるようになったとの思いである。
 以前にもご説明したが、全銀協では昨年11月に、これまでの「中小企業者等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を、「中小企業等に対する積極的な金融仲介機能の発揮に向けた行動指針」に改定し、事業再生・業種転換・事業承継による事業改善等について、コンサルティング機能を発揮しつつ、円滑な金融仲介の機能を発揮していくこととした。昨年2月には「経営者保証に関するガイドライン」の適用が開始されたが、このガイドラインに沿って債務保証を整理する事例も出てきた。昨年12月には金融庁が実際の事例を公表したところである。
 また、地域経済活性化支援機構が昨年10月に開始した「特定支援業務」を活用することで、事業者の債務整理を行うと同時に、経営者の保証債務の整理を進めることもできるようになった。
 このように、いくつかの制度の整備が進んでおり、金融界としては、日本のこれからの経済成長に向けた新しいステップとして、産業、企業の新陳代謝を図ることに力を尽くして参りたい。


(問)
 先ほどマーケットの話が出たが、追加で銀行経営に与える影響についてもう少し詳しく教えていただきたい。上期から下期にかけて各マーケットでかなり変化があったが、銀行経営や業績がどのように推移しているか、また、あと3か月を切った今期の見通しについても何かあれば教えていただきたい。
(答)
 銀行経営への影響について一言でいうと、いつも申しあげることだが、金融は実体経済を映す鏡であり、金融と実体経済はまさに一体不可分であるということである。
 したがって、先ほど経済あるいは市場に与える影響についてお話したことを前提に簡潔に申しあげれば、原油に関して、現在の原油価格のレベルが長期にわたって続いた場合には、まず一つは、エネルギー関連のプロジェクトファイナンスについて、ある時点で影響が出てくる可能性がある。加えて、エネルギー関連産業に対して影響し、その貸出のポートフォリオの劣化を招く可能性がある。さらに、やはり産油国、あるいは新興国に対する与信リスクが高まり、これへの対応が必要になるというような状況も考え得ると思っている。
 よって、各銀行においては、市場の動きを睨みつつ、ストレステスト等を行い、必要な対応をとっていかれるのではないかと思っている。今期の決算にどこまでの影響が出るかは、まさにこれからの市況次第というところでもあり、注意深く見て参りたいと考えている。


(問)
 政府の予算について伺いたい。かねてから会長は景気の回復あるいはデフレからの脱却を確実にするために追加の経済対策の策定、ならびに経済成長と財政健全化の両立ということを強くおっしゃってきたが、先般、閣議決定された補正予算案と、昨日決まった当初予算案の全体的な評価を伺いたい。
(答)
 まず、今回の補正予算そして来年度予算の策定までの動きに関しては、昨年12月の総選挙後、緊急経済対策の発表、そしてそれを裏付けるための今年度の補正予算の編成、そして来年度予算の閣議決定と、非常にスピード感をもって進められてきた点を評価したい。
 中身に関して、補正予算のベースになる地方の好循環拡大に向けた緊急経済対策については、アベノミクスの恩恵が十分にいきわたっていない地方、あるいは中小企業や家計の浮揚に直接的に働きかける施策が多く盛り込まれている。
 また、規模については、執行が非常に難しくなってきている公共事業を一定程度抑制することで、補正予算額としては3.1兆円と、これまでに比べるとかなり小さな規模に抑えている。前年度の剰余金と税収の上振れ、それと既定経費の減額の範囲内に抑えたという点については、経済と財政のバランスを強く意識した補正予算と考えている。
 次に、昨日決定された2015年度の当初予算であるが、これも100兆円を超えるのではないかと言われていたが、最終的には96兆円台に抑えられた。
 その中身については、法人税の減税等の税制改正も含め、農林水産業や医療・エネルギー分野の構造改革の支援等の成長戦略の加速、あるいは地方創生に関する施策、これらがきっちりと盛り込まれている。
 それから、課題である社会保障の充実策に関しては、年金の上乗せ給付が一部先送りされる一方で、出産や子育てに関する施策が優先されており、長期的なわが国の成長力の引上げに向けた政府の意思が反映された、メリハリのついた内容になっていると思う。
 ご質問のあった財政健全化の観点から言えば、2015年度は政府の中期財政計画における最初の目標年度ということで、プライマリーバランスのGDP対比の赤字を6.6%の半分にまでもっていくという計画であるが、すでに報道されているとおり、補正予算を加えても目標達成が可能な所にきている点は評価できると思う。
 ただし、その先の2020年度のプライマリーバランスの黒字化目標の達成に向けては相当の努力が必要だと思う。麻生大臣もそのようなご発言をされているし、歳出・歳入の両面における取組み、目標達成の道筋の明確化という大きな課題に是非正面から取り組んでいただきたいと考えている。
 歳出面では社会保障改革を含む聖域なき見直し、そして歳入面での税制改革や今回踏み込めなったような分野への踏込み、これらがしっかりと実現されることを期待しているところである。
 夏までに2020年度のプライマリーバランスの黒字化計画を策定されると伺っているので、まさに政府の持続的な経済成長、日本再生に向けての本気度を問う一つの試金石になるものと注目している。


(問)
 政策投資銀行と商工中金の完全民営化が先送りされることになっているが、この点について銀行界の見解を伺いたい。
(答)
 政策金融改革の経緯はご承知のとおりであり、もともと平成13年に財政投融資改革のなかで、民営化の方向が打ち出された。しかし、その後リーマンショックや東日本大震災が発生し、危機対応については民間金融機関だけでは難しいということで、政府系金融機関の活用が官民協調のもとに行われてきたという状況である。
 ただし、そうしたなかでも、私どもとしては政府系金融機関のあり方について、民間にできることは民間に委ねるという民業補完の考え方を貫くべきであるという主張をしている。実際、昨年設置された政府の「成長資金の供給促進に関する検討会」でもテーマの一つとなり、11月に公表された中間とりまとめでは、「官と民のあり方」について、「当面は官が民間を補完し、触媒・リードオフ機能を担っていくことが期待される」こと、その一方で、「将来にわたり官が同じ機能を担い続けることは、市場を歪め、健全な市場の形成を妨げかねないことに留意すべき」であり、「あくまで民業補完の徹底、市場規律の尊重、民間とのリスクシェアを心掛けるべき」との認識が示されている。
 したがって、今後このような認識を踏まえつつ、各種の検討が進められることを期待している。政府の基本的な方針が変更されたとは考えておらず、私どもの考え方も変わっていない。


(問)
 金融市場のボラティリティについて説明いただいたが、長期金利が3日連続で過去最低を更新するなか、直接的に銀行経営に影響が出てくると思う。この点は過去も何度か説明いただいているが、果たして今後、どのような影響があるとみているか。
(答)
 金利低下の影響については、これまでも繰り返し申しあげてきたが、現在の日本における資金循環や日銀の金融緩和政策を踏まえると、当面は資金の需給環境が変わることはないと見ておくべきだと思う。したがって、いわゆる預貸金利ざやが低位な状態が続くことは経営者として覚悟せざるを得ないと思う。
 そのため、この状況に対応するためのいくつかの試みを、各金融機関において行っているところである。いくつか紹介すると、まず一つは、新たなビジネスチャンス、例えば、新たな内外における貸出機会を発掘するだけでなく創出するということ。また、地方創生においても言及されているが、新しい産業の発掘・育成にも取り組んでいくということがあると思う。地域金融機関でも、そういう取組みを続けている。
 もう一つは、海外に対する融資で、国内の資金需給に当面変化がないのであれば、海外に対して融資活動を行うということがある。現在はメガバンクが中心であるが、地域金融機関にもそうした動きが活発化してきており、日本の金融機関の資金を海外の市場の成長にも振り向け、その収益をまた国内に還元していく、そういった流れが作られることを期待している。
 最後に、いわゆるフィー収入であり、ノンアセットビジネスといってもいいが、これを増やすということ。資金が余剰になっているということは、つまり、投資の余力が極めて大きいということである。個人においても1,600兆円の金融資産、法人においても300兆円を超える利益剰余金があるなか、こうした資金を投資に振り向けていく際の、「貯蓄から投資へ」という動きのなかで、金融機関の仲介機能を発揮し、運用性商品のご案内等、国民の健全な金融資産形成のサポートを通じて、収益を上げていくといったことが、今以上に重要になってくると思う。


(問)
 原油安に伴い日銀が目指す2年で2%という物価目標の到達がかなり難しい状況になっており、甘利大臣からも「難しいのではないか」とのコメントがあった。原油安はGDPにとってはプラスの影響が大きいと思うが、物価目標について、あえて日銀が無理をして2年で2%まで持っていくべきかどうか、お考えがあれば教えていただきたい。
(答)
 インフレ目標は、黒田日銀総裁が一貫して、目標として掲げているものである。確かに足元では原油安が続いており、日本経済にとってはマクロ的にはプラスであるが、インフレの観点から見ればマイナスであるといったなか、それをさらに跳ね返すような経済の好循環を続けることでインフレ目標を達成しようと取り組まれている。私どももそうした認識に立って銀行のビジネスを進めていくということだと思っている。


(問)
 円安を背景に、一部のメーカーで海外の工場から既存の国内の工場に製造を切り替える動きがみられるが、実際、取引先の足元の状況としてこのような動きは増えているのか。その結果、国内の資金需要にもつながると会長はお考えか。
(答)
 これまで、自動車や電機といった加工組立業種を中心に、海外へ生産拠点がシフトされてきた。これは製造コストや人件費の抑制と同時に、為替に左右されない収益体質を作る、あるいは、地産地消、需要地と生産地を極力近づけて効率化を図るといった、より長期的な事業基盤の強化を意図して進められてきたという面が強い。また、東南アジア等では顕著であるが、各地域において部品等も含めたサプライチェーンが集積してきていることもあり、一時的な円安の進行によって日本の産業界全体のグローバル生産体制が大きく変わることはないと思う。
 一方で、白物やカメラといった一部の家電業界で日本回帰の動きが起きていることも事実である。新興国においても人件費が高くなってきていることや、メイドインジャパンの品質に対する信頼を大切にしたいという考えもあるかと思う。また、円安とは関係ないが、リーマンショック後、設備の更新がかなり遅れていた。設備計画が昨年来強含んでいることからわかるように、これから設備の更新需要や新規投資需要は増えていくと思う。これらのことが、銀行に対する資金需要につながることを期待している。


(問)
 政府が海外からの観光客誘致に取り組んでいるが、そうしたなか、海外発行のカードに対応するATMの導入がグローバル的に見て日本の金融機関は遅れていると指摘されている。現在導入しているのは、ゆうちょ銀行やセブン銀行くらいだと思う。設置が遅れている背景と、メガバンクを中心とした今後の取組みについてご教示いただきたい。
(答)
 これは全銀協会長としての立場でお答えすることではない。お客さまのニーズ、ビジネス上のコストベネフィットを見ながら各行で判断していくことだと思うし、これからもそうだと思う。
 例えば、私ども個別行のケースで申しあげると、東京オリンピックの開催が決定し、観光立国推進閣僚会議においては、観光立国の実現に向けたアクションプログラムが改定されており、そうした流れのなかで、海外カードに対応したATMの設置に向けて検討しているところである。具体的には、Visa、そしてMasterCardのブランドのクレジットカードが新たに利用できるような仕組み、そして、海外発行のキャッシュカードについてもこの2つのブランドのネットワークに接続が可能なものについては利用を可能にしたいと考えている。平成28年の春ごろを目途に設置を開始し、最大1,000台程度のATMでVisa・MasterCardに対応している海外発行のクレジットカード・キャッシュカードが利用できるようにしたいと考えている。


(問)
 グローバル的に見て、設置が遅れている要因は、コストの問題なのか。
(答)
 利用頻度の問題だと思う。ご存知のとおり、日本のいわゆるインバウンドの観光客数は昨年1,300万人になったところで、一昨年の世界ランクで見ても20番台の後半である。
 したがって、観光客を増やしていくことは重要なことで、私どもも協力していきたいと考えている。それが実現できれば需要も増えてくる、銀行としても意味がある、こういう循環になっていくのだと思う。


(問)
 マイナンバー制度に関して伺いたい。今後、銀行界にとってどういった課題があるとお考えか。全銀協としての対応や取組みがあれば伺いたい。
(答)
 マイナンバー制度に関して、私ども銀行界としては、社会保障・税制度の効率性、透明性を高めるために極めて重要な取組みであり、社会基盤であると認識している。
 したがって、マイナンバーを将来的に預金口座に付番することについて、その意義や趣旨は十分に理解している。ただ、銀行の預金口座数は約8億口座もあり、付番をいかに円滑に進めていくかということは極めて重要である。また、お客さまと連絡が取れない多数の口座があるほか、私どもがいくら付番したいと考えても、お客さまに付番へのご協力をいただけない可能性もある。膨大な預金口座数、お客さまと連絡が取れない多数の口座の存在、お客さまの協力を得られない可能性、この3つのハードルがあると認識している。
 新たにマイナンバー制度が導入されることについては、政府におかれても、国民に対して、わが国としてマイナンバー制度を導入することの意義や、預金口座に付番することの必要性について、丁寧にご説明いただき、国民の幅広い理解と納得を得ることが重要だと考える。
 もう一つ、全銀協としては、各行において事務体制の整備、あるいはシステム対応が必要になる。そして、お客さまへの周知に必要な十分な準備期間も必要になる。したがって、先般、内閣官房から発表された「預貯金付番に向けた当面の方針(案)」では、金融機関における対応事務ガイドラインを策定することとされ、導入時期は、「平成30年」を仮置きしつつ、「金融機関のシステム対応等に必要な準備期間を確保できるよう、関係者間で調整」とされたところである。
 こうした政府の方針を踏まえて、私ども銀行界もしっかり対応していきたいと考えている。


(問)
 邦銀、特に大手行ではアジアをマザーマーケットとして、オーガニック、インオーガニックで事業展開を図っているところであるが、アジア諸国における規制がボトルネックになっているケースについて、例えば今現在では、どういう国のどういった規制についてプライオリティーが高いものとして解決を望むのか、全銀協としてどのように取り組んでいくのかをお聞かせいただきたい。
(答)
 アジアという市場は、日本の金融機関あるいは日本のお客さまにとって極めて重要な市場であるので、いくつか要望事項を述べたい。
 まず1点目は、イスラム金融である。昨年度発表された2013年におけるイスラム金融の資産規模は、アーンスト・アンド・ヤングの統計で6,620億ドルであり、今後5年で2.5倍になるという見通しもある。イスラム金融に関しては、日本の銀行法での制約があるために、地場の銀行や欧米の金融機関が先行してきた。日本の銀行では、私ども自身も含めて、マレーシアの現地法人で外貨建て業務ライセンスを取得しており、すでに預貸、スワップ等の取扱いが可能になっている。昨年6月に閣議決定された規制改革実施計画では、イスラム金融の銀行本体解禁について盛り込まれており、今後この話が進んでいくことを期待している。これは日本国内サイドの問題である。
 2点目として、海外の当局に対する要望の一つ目であるが、インドネシアにおける外国人雇用規制である。2015年にアセアン・エコノミック・コミュニティが始まり、本来アセアン市場というのはより一体化されていくはずだが、各国を見るとやや違う動きも見られる。インドネシアでは派遣日本人行員の数が規制されており、日系企業のお客さまとの取引や、あるいはプロジェクトファイナンスといった、現地の人達では十分な知見がないようなビジネスの実現に支障が出てくると懸念している。派遣行員規制、外国人行員規制の緩和がインドネシアでは重要である。
 もう一つインドネシアで重要なのは、IT規制である。これは、サーバーを国内に置かなければいけないというもので、外銀が一様に当惑しているものである。今後グローバルなビジネスを通じてインドネシア経済の発展に寄与していきたいというのが私ども国際的な事業展開をしている金融機関の立場であるが、この規制はそれに逆行するような動き、すなわちインドネシアへの投資の抑制に繋がりかねないのではないかと懸念する。
 もう一つ、外銀の出資比率規制がある。これは色々な国に存在し、むしろマジョリティーがとれる国が例外的である。したがって、この外銀の出資比率規制の緩和について、各国に対して日本の当局にも是非働きかけていただきたい。
 最後に、クロスボーダーの資金移動の規制も厳しく、いわゆるクロスボーダーのプーリング等の支障になっているため、外貨規制の緩和と並行して進めていただきたい。こうしたことを日本の当局にも働きかけていただくようお願いして参りたいと思っている。


(問)
 個別行の話が含まれてしまうかもしれないが、店頭にロボットを置いたり、ビッグデータを活用したIT技術が金融機関に入ってくるようになると思うが、どのようなメリットがあるのか。そして、将来的にどのような金融機関、銀行業に関わっていくのか、あるいは、どのような展開をイメージしているか。
(答)
 個別行に関して、先般、ロボット設置の話題が紹介された。一言で申しあげると、例えば製造業ではドイツでインダストリー4.0という名称で呼ばれているが、ICTの急速な発展が生産の革命的な変化をもたらすだろうと言われている。そして、マス・カスタマイゼーションに代表されるような、個別のお客さまのニーズに合わせて商品・サービスを提供するようなことも可能になる。また、ビッグデータの活用によって、医薬の開発、お客さまのニーズに合った金融商品のご案内、あるいはリスク管理等、様々な可能性が増してくる。
 したがって、先進国だけではなく新興国も含め、世界中の金融機関の経営者が今この分野に大変注目している。スペインの金融機関が、シリコンバレーにあるスタートアップの会社を買収したり、私ども個別行としてもシリコンバレーに行員を派遣することにしたが、そうした動きのなかで、ICTを活用して製造業、サービス業、金融業、あるいは農業で、大きな変化が起こってくる。そのような変化に我々も対応していく必要があるということだと思う。


(問)
 その先にあるのは、コストカットといったことなのか。
(答)
 今のご質問は、要するにICTが進むと職場が奪われるという趣旨だと思う。この点については、MITの研究員が書いた「Race Against The Machine(機械との競争)」という本が有名だが、見方が分かれていて、ICTの活用によって産業が新たな展開を見せ、企業の収益が産み出され、個人の所得が増え、また新たな投資が起こってくるという循環が作られるのであれば、経済全体はむしろ大きくなり、雇用も増えるはずという考え方もあると思う。私はどちらかと言うと後者を信じているほうなので、今、我々がやるべきことは、最新の技術を使ってお客さまに対して最善のサービス、付加価値の高いサービスを提供し、かつ企業として生産性を高めていくことと考える。ここでためらっていては、日本の産業、金融自体が、むしろ世界の流れから取り残されることになりかねないという危機感を持っている。


(問)
 マイナンバーについて1点伺いたい。預金口座付番は、平成30年に任意でスタートする方向になっている。将来的に、マネー・ローンダリング対策等、口座に付番することによるメリットを最大限に引き出すためには、既存口座も含めて全口座に付番しないと効果が限られる懸念があると思うが、全口座に対する付番の義務化についての所見を伺いたい。
(答)
 預金者への義務化の議論については、今回の政府による検討の過程で議論があったと理解している。
 ただ、預金口座への付番自体が、わが国では新しい事柄であり、まずは制度の意義や趣旨について、国民の理解を得ることが重要ということで、今回の決定になったと考えている。
 したがって、預金者への義務化を議論する前に、まずは制度の意義や趣旨を十分に説明することが必要であり、政府においても広報活動を通じて、国民の理解を得るというステップを踏んでいくことが大事ではないかと考える。


(問)
 アジア含めて海外展開の話があったが、それに当たって必要な外貨の調達について、最近、ドル等の外貨の調達コストが上がっているという話を聞く。特にメガバンクにおいては、昨年の格下げ等があるなかで、調達コストが上がっているという認識はあるか。
 また、調達コストが上がっているかどうかにかかわらず、調達量は増やさなければいけないと思うが、それに向けてどのような対応があり得るのか。他のメガバンクのなかでは、地方銀行も参加するスキームを作っている先もあるが、今後、どのような対応が必要か聞きたい。
(答)
 昨年12月に発表された、ムーディーズによる日本国債の格下げに伴い、日本政府のサポート力が低下するとの見方を受けて、金融機関の一部格下げが起こったことに関する質問と思う。今のところ、日本の金融機関の外貨資金調達への影響は、ほとんどないと申しあげてよいと思う。
 個別行のケースで言えば、発表直後、外貨建て普通社債のセカンダリー市場でのスプレッドが2-3bp上がったものの、その後すぐに格下げ前の水準に戻り現在は安定している。また、大口預金、例えば中銀預金その他の流出もない。つまり、今のところはあまり大きな影響はなく、これは邦銀自身の信用力が落ちたわけではない、ということも一因であろうと思う。
 また、量をどのように確保していくのかという質問については、色々なやり方があるが、一つは外貨の流動性を確保するための現地法人を作るやり方がある。例えば、海外に米ドル債や豪ドル債等、我々が必要としているような通貨の、流動性の高い債券つまり国債を保有するための機関、ビークルを作って、必要な場合にはそれを売却して流動性を確保する。もう一つは、極力自分の流動性を使わないという方法。先ほど質問にあった、地方銀行の場合は流動性を持っているわけではないので、おそらく何らかの形でこちらから流動性の供給をしなければならないこともあると思うが、海外においてもバランスシートを極力使わないよう、シンジケーションでいわゆるディストリビューションして単位あたりの収益を上げていくというやり方である。これは欧米の金融機関では一般的である。もう一つは、海外のリテール預金を持っている現地法人の活用である。私どもで言えばユニオンバンクであり、今般、東海岸の支店とユニオンバンクの業務を統合した。これによって、ユニオンバンクが持っているリテール預金が、東海岸における私どものホールセールの貸出に使える、といった対応もある。これから先も拡大するであろう日本の金融機関の海外での貸出活動を支えるために、様々な工夫を凝らしていく必要があると考えている。