2015年2月19日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 平成25年11月に、全銀協は「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について」を公表し、反社会的勢力との関係遮断を徹底するための対応を表明している。
 この際に、「銀行界と警察庁データベースとの接続についても、警察庁・金融庁・銀行界の実務者間で、継続的に検討する」こととしていたが、この度これに関連して、関係者間で次の枠組みについての確認がなされたのでご報告する。
(1)警察庁の暴力団情報照会システムへの接続は、預金保険機構を介して実施する。
(2)対象取引は、新規の個人向け融資とし、詳細は関係者間で調整する。
(3)運用開始時期は可能な限り早期を目指す。
 今後、全銀協としては、関係省庁等と連携しながら本件詳細の検討を進め、反社会的勢力との関係遮断を徹底するための取組みを引き続き行って参る。

 

会長記者会見の模様


(問)
 今ご説明にもあった、反社会的勢力への対応について伺いたい。運用の開始時期については、可能な限り早期にという説明だったが、具体的に開始の時期はいつになるのか、警察庁への照会に必要なシステムの開発と設置、費用負担等はどうされるのか、そういった点を含めて今後の課題について伺いたい。
(答)
 反社データベースの接続については、ご承知のとおり、これは今期の私どもの非常に重要な課題であった。もともとの経緯を振り返ると、一昨年の平成25年11月14日に、私どもは「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について」という文書を公表し、このなかで反社会的勢力の水際排除に向けた取組みということで、全銀協が独自に収集した反社データベースを他業態に展開することとあわせて、銀行界と警察庁のデータベースの接続についても、警察庁、金融庁そして銀行界の実務者間で継続的に検討していくということを表明した。
 ただ今説明があったとおり、その後協議が続き、この度、基本的なスキームの概要が確認されたため、ご報告したところである。内容については今申しあげた3点で、第一に、警察庁のシステムへの接続は預金保険機構を介して実施する、第二に、対象取引は新規の個人向け融資とする、第三に、可能な限り早期の運用開始とする、ということである。したがってこれ以上の詳細はこれから検討するということである。
 お尋ねにあった開始時期については、まさに今調整中であるので確定的なことは申しあげられない。一般的にはシステムの開発には時間がかかる。とりわけ今回はかなり膨大な量のデータを処理するシステムを開発する必要があるため、相応に時間がかかる。ただ、例えば先行して運用を開始している日証協の例では、警察庁への要望あるいは対応についての公表から運用開始まで2年半ほどかかっている。私どもとしては、極力早く、実務フローであるとかシステム対応の内容をしっかり詰めていきたいと考えている。
 費用負担についてもご質問があったが、これについても詳細はこれからということである。
 それからもう一つ、預金保険機構を介して接続する点について申しあげると、今回のような暴力団情報の照会業務を行う機関については、2つ重要なポイントがある。1点目は暴力団排除に係る経験、知見、つまりエクスパティーズを持っているということ、2点目は、厳格な情報管理が求められるので、法律上の守秘義務が課せられる必要があるということである。この2点から考えたときに、現に特定回収困難債権買取業務によって暴力団情報を取り扱っているということ、それから預金保険法によって守秘義務を課せられていることから、預金保険機構が最も適当と考えたわけである。
 今後の課題については、先ほども申しあげたとおり、極力早くシステムの運用を開始できるように詳細を詰めていくということと、あわせて、銀行界としては、反社会的勢力との関係遮断を一層確実なものにするために、今回公表した警察庁のデータベースの活用による入口段階での排除に加えて、事後的に反社取引であることが判明した取引についても、暴力団排除条項にもとづいて警察と連携のうえ、速やかな関係遮断を引き続きしっかり行っていく必要があると認識している。


(問)
 預金保険料率に関して伺いたい。1月30日に、預金保険機構の検討会から「中長期的な預金保険料率のあり方等について」との報告書が公表されている。料率については預金保険機構の運営委員会で議決し、政府の認可を受けることとされているのは承知しているが、今回の報告書について、全銀協としてどのように評価しているのか伺いたい。
(答)
 今回の報告書では預金保険料率に関する論点がかなり網羅的に整理されている。そのうえで、平成27年度以降の適用料率については、引下げの方向が明示され、0.04%~0.05%の間で設定することが適当とされた。
 私ども銀行界としては、必要な金額をしっかり積み立てていくという預金保険の重要性を十分に認識したうえで、平成8年度に早期の不良債権処理を目的に実効料率を7倍の水準に引き上げた時点での課題が解消し、責任準備金も着実に積みあがってきているので、料率の引下げが適当と申しあげてきた。
 この問題については報告書にも書いてあるとおり二つのポイントがある。一つは預金保険制度の適切な整備・充実、そしてもう一つが、金融機関自身による健全経営に向けた努力であり、これらが金融システム安定のための車の両輪と位置づけている。これまでも会員各行は、金融危機の後も含め、自己資本の充実に努め、リスクテイク力を高める努力をしてきたが、今回の預金保険料率の引下げは、セーフティネットに対する内外からの信頼を維持しながら、今申しあげたような業界における自助努力を後押しし、金融仲介機能の一層の後押しに繋がるということ、この2点が重要と考えている。こうしたバランスをよく考えながら、最終的な料率が決定されることを期待している。


(問)
 2点伺いたい。1点目はマーケットについて、本日、取引時間中であるものの、日経平均株価が14年9か月ぶりの高値をつけた。これについて、実体経済の強さを反映したものなのか、今後の展望も含めて、どのようにご覧になっているのか伺いたい。
 2点目は昨日、日本郵政がオーストラリアの物流会社を買収することを発表し、これに加えて、機関投資家としてもかなり大きなポートフォリオを変える、あるいは、人材も社内外から集めるということを打ち出し、機関投資家として大きな方向性の変化を打ち出している。これは従前からのことであるが、今後は融資等、民間銀行と直接関わるような分野への進出についても具体的な議論が始まっていくことになると思う。これについて改めてご所見を伺いたい。
(答)
 まず、本日の株式市場の終値は1万8,200円強と株高になっている。株式相場の水準について私からコメントすることはないが、その背景あるいは今後をどう考えるかという趣旨のご質問と理解してお答えする。
 アベノミクスは、ここ2年、第一の矢、そして第二の矢と、確かに効果があったと言えると思う。大胆な金融緩和によって長期金利が低位にとどまり、円安が実現し、そして株価が上がり、それらを背景として、企業業績も引き続き全般としては堅調である。おそらく、この3月期における企業業績、決算も過去ピークに近いような数字を実現していくであろう。したがって、そうした企業業績の回復に期待する動きが現在の株価の水準を支えていることは間違いないと思う。しかしながら、これから先になると、成長戦略、いわゆる第三の矢、とりわけ構造改革への本格的な取組みが必要であろうと考えている。これまでも産業競争力強化法にもとづく各種施策、あるいは法人税改革、ガバナンス改革等の施策に前進があったわけであるが、今後は雇用、農業、医療といった、いわゆる岩盤規制に取り組むべきタイミングになっているということである。
 あわせてもう一点、重要なのは地方創生である。これらについても、先行的に予算が付いており、具体的な施策はまさにこれからである。こうした重要な政策課題に対し、政府がしっかりと実行力を示すことで、それをベースにして将来の経済成長に対する期待が高まり、起業家マインドがより確かなものになって、新たな投資の機会が生まれ、雇用が創出され、賃金が上昇し、さらにはそれがまた企業の成長に結びついていくという、いわゆる経済の好循環が続くことが望まれるところである。
 日本郵政については、前回も申しあげたが、日本郵政の上場は、郵政民営化という長い課題に対する取り組みであると同時に、東日本大震災の復旧・復興財源に充てるという政策課題への対応でもあり、銀行界としても、その円滑な上場を期待している。
 一方、金融2社を含めた3社の円滑な上場実現に向けては、一般論として、投資家に対し、個社、あるいは、グループとしての将来像や戦略を明確に示すことが重要であり、西室社長は、6月までにその骨格を纏めると言及されている。
 昨日、日本郵便によるオーストラリアの物流会社の買収やゆうちょ銀行による市場運用・市場リスク管理のプロ人材の募集が公表されたが、これは日本郵便としてアジア・太平洋地域の成長をどう取り込むか、あるいは、ゆうちょ銀行として、この超低金利下でどう運用資産の多様化・収益化を図るのかという一方で、リスク管理をどう強化していくのかという観点で検討・判断されたものと思う。私どもとしても関心を持って見ているが、新たな形で上場ストーリーを明確化しようと努力しておられるのではないかと思われる。
 ただし、預入限度額の引上げや申請されている新規業務の拡大については、引き続き認められるべきではないという銀行界の考え方に変わりはないことも付け加えておきたい。


(問)
 地方創生についてお伺いしたい。金融機関のなかにはプロジェクトチームや専門部署を立ち上げる等の動きもあるが、金融業界にとってどのようなビジネスチャンスがあると見ているのか。また、これまでの地方の活性化や過去のばら撒きと、どのように違いを出していくか、ばら撒き等にならないためにはどのような視点が必要なのか、ご意見を伺いたい。
(答)
 今、地方創生に関して二つご質問をいただいた。まず、二つ目のご質問からお答えしたい。
 私の理解では、今回の取組みが過去と違うのは2点である。すなわち、石破5原則にもとづいて、第一に地域の「自立性」、第二には「結果重視」という姿勢を明確にしていることである。
 具体的に申しあげると、「自立性」については、まず国が「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、これにもとづき各地方自治体が平成27年度中に中長期を見通した「地方人口ビジョン」と5ヶ年の「地方版総合戦略」を策定して自ら実行する、国はそれをサポートするという枠組みである。次に「結果重視」については、政策の実効性、効果の検証の仕組みが導入された。いわゆるPDCAサイクルであるが、このプロジェクト計画にはそれが組み込まれている。
 私どもとしては、こうした取組みのなかで、各地域がそれぞれ特色のある地域資源を最大限に発掘し活用することで、地方経済の活性化に自らが知恵を絞り、その政策効果が最大限に発揮されることを期待している。
 こうした取組みのなかで、私ども金融機関の出番は大きく分けると二つあると考えている。一つ目は自治体による計画の策定段階において、産官学金労の5者による総合戦略推進組織を整備することが望ましいとされているが、これへの参加を通じて地域経済や企業実態についての情報提供を行う、あるいは課題解決に向けたソリューションのメニューを提案することが考えられる。
 二つ目は実行フェーズにおいてである。「まち」の創生については、PPP/PFIへの取組みが考えられる。「事業機会の創出」「公的部門の効率化」「民間の担い手の広域的な連携」の実現にもつながると考えており、私どもはこうしたファイナンスの面でお手伝いすることになる。
 次に、「しごと」の創生については、コンサルティング機能の発揮がある。例えば、創業段階にある企業にはビジネスマッチングによる販路拡大のサポート、逆に、成熟段階あるいは衰退段階に達した企業には、外部機関と協力しながら経営改善や事業再生、場合によっては事業の整理といった再チャレンジを後押しする等、新陳代謝へのサポートができるのではないかと思う。
 最後に「ひと」の創生であるが、地方創生に関して、最も欠けているのはお金ではなく「ひと」であるとよく言われている。現在、政府の「プロフェッショナル人材のマッチング支援に関する検討会」で、必要とされる人材を都市圏から地方へ還流させる仕組みについて検討されていると聞いている。経営課題の解決に向けて、地域における中堅・中小企業の人材の受け入れニーズを発掘する、あるいは喚起をすることも金融機関に期待される役割であり、地銀協と一緒に取り組んでいきたいと思うし、人材提供していくことも検討していきたいと考えている。


(問)
 経営者保証に関するガイドラインが適用されて1年が経過したが、これまでの取組みと成果、今後の課題についてお伺いしたい。
(答)
 経営者保証に関するガイドラインは昨年2月に適用が開始された。私ども金融機関ではお客さまへの説明や活用に努めており、無保証での融資の実績や保証契約の変更や解除の実績も徐々に増えている。前回の記者会見でも申しあげたが、昨年12月には金融庁より各金融機関における具体的な活用事例も公表されたところである。
 とは言え、例えば新規融資の時機が到来していない、あるいは保証の期限が到来していない等の理由でガイドラインについてまだ十分にご案内ができていないケースがあるかもしれない。
 全銀協としては、本年に入り、中小企業基盤整備機構が主催する全国各地での説明会に後援という形で参画をした。引き続き周知、広報、そして普及に努めて参りたい。


(問)
 経営者保証に関するガイドラインについてもう1点お伺いしたい。実際に企業から保証を外して欲しいとの要望が多いのか、あるいは法人と個人の区分の明確化等について周知がしっかりとできているのかを改めて確認したい。
(答)
 この場では具体的な数字を申しあげることはできないが、相当数の保証解除の実績が上がっている。ただし、完全に浸透しているかといえば、まだまだであろう。
 したがって、制度の存在についての広報や、各金融機関によるガイドラインの趣旨に即した対応の推進について、全銀協としても取り組んでいきたい。少し時間をかけて浸透させていきたいが、比較的上手くスタートしたと思っている。


(問)
 海外与信リスクについて伺いたい。メガバンクの海外での貸出は引き続き好調だが、一方で地政学リスクや原油安、ソブリンリスク等、海外発のリスクも散在する。今年も現在のペースで貸出を増やしていくのか、資金需要があれば、リスクを取って増やしていくつもりなのか、またその一方でリスク管理や目利き力は養われてきているのかという点を伺いたい。
 特にMUFGは今回の決算でも海外でのプレゼンスがかなり収益に貢献していると思うため、そのあたりを伺いたい。
(答)
 個別行の話は別にして、金融界としての考え方を回答する。業態や個社によって取組みにばらつきがあるので、それを前提としたうえでの回答である。
 一般的に言って、与信管理は、国内でも国外でも、二つのアプローチがある。一つ目はミクロのアプローチ。これは個別与信先の実態をいかに的確に把握できるか、また産業動向や将来性等をいかに深く的確に理解できるかといった点であり、まさにこれが目利き力である。
 二つ目はマクロ的な管理であり、これもやはり重要である。簡単にいえば、ポートフォリオの分析・管理であり、この数年で大きな進展があったと思う。すなわち、与信の集中を回避し分散の効いたポートフォリオを業種・地域といった属性ごとに作っていけるか、それが景気の動向に対してどういう耐性を持っているかということを理解したうえで、ポートフォリオの管理を行うといったことである。場合によっては、いわゆるダイナミックな管理、すなわち売却やヘッジといった手法を組み合わせながら、ポートフォリオの管理をするということである。この二つをいかに深めてくか、高めていくかが勝負になる。これに関連して、海外に関しては、日本からの派遣社員というよりは、むしろ現地における事情、個社や産業の動態、国の経済動向、あるいはカントリーリスクといったものを十分に理解し、かつ刻々と変化する情勢をビビッドに理解し対応することができる、そういうベースとなるネットワークを持っている人を育て、あるいは採用していくことが勝負だろうと思う。
 したがって、海外の与信業務に取り組んでいる金融機関に関して言えば、外銀であろうが日本の銀行であろうが、同じことを考え、かつそのレベルをいかに高めるかという努力をしていると思っている。
 最後に、そうはいっても、ご指摘のとおり、いくら努力しても事態が急変するということはあり、地政学リスクが高まったり市場のボラティリティが高まったりということを完全に排除することは困難である。大事なのは、第一にいかに予兆を把握するモニタリング体制をグローバルに構築するかであり、第二に、これは内外で話題になっているが、リスク・アペタイトのフレームワークをいかに構築するかである。簡単に言えば、銀行の体力、能力との比較でどこまでリスクを取ることができるのかというフレームワークであり、これは与信だけではなく、市場部門でも言えることであるが、このフレームワークをしっかりと作って、経営陣としてそれを理解し、その枠組みのなかで動的な管理を行っていくということが極めて重要であるということを申しあげておきたい。まだまだやるべきことはたくさんある、という認識である。


(問)
 金融庁の「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」において、銀行の業務範囲規制の見直し議論が出ていると聞いているが、この議論をどのように受け止めているか。特にインターネット決済や電子モールへの参入等について、銀行界としてどのように考えているのか、会長の考えを伺いたい。
(答)
 いま足下でホットな話題であると思う。
 この場でも何度か申しあげているが、近年ICTの急速な発展等を背景に、銀行のコアビジネスである決済業務を巡る環境が大きく変化しており、利用者の利便性に対する要請が非常に高まるなか、決済を起点にノンバンクプレイヤーが金融サービスの分野に進出してくるという状況が出てきている。
 私ども銀行としても、ノンバンクプレイヤーが参入可能な業務領域に関しては、必要に応じて関連事業者との連携等を図りつつ、各行の創意工夫によって戦略的な展開が可能になるような法制度のあり方も、検討していく必要があるとの問題意識を持っている。そうしたなか、銀行等に対する業務範囲規制と議決権保有比率規制がスタディ・グループで議論されている。
 もしそうした見直しが実現するのであれば、私ども銀行界としては、ビジネスチャンスが増え、かつお客さまのニーズにお応えできる領域が広がるという意味で、歓迎すべきものと考えている。
 電子モール運営事業について、この領域はインターネット系企業が急速な成長を遂げ、ビジネスモデルを大きく変えてきている。銀行から見ても、物流と資金決済は密接に関連する領域であり、すでにアリババや、日本でも何社か行っているが、加盟店企業向けのファイナンス等、銀行業務との機能上の親和性は高いように見受けられる。
 ただし、当然ながら事業リスクはある。したがって、いわゆる古典的なテーマであるバンキングとコマースの分離の問題をどう考えるか、また、今申しあげたようなリスクを銀行業務からどう遮断すべきか、あるいは遮断しなくてもいいのかといった点について、さらに議論を深めていく必要があると考えている。


(問)
 郵政上場について伺いたい。先ほど、会長も郵政グループ3社の円滑な上場を銀行界としても期待したいとのことであったが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社については規制が厳しく、新規業務は、先ほども会長がお話されたとおり、全銀協も反対している。難しいのは、金融2社に関しては新しい事業をしないとエクイティストーリーが描けないのではないかということ。一方で、新規事業をするには50%以上の株式を放出しないと認められにくい。鶏と卵の話でジレンマがあると思うが、こうした難しさを抱えた金融2社のエクイティストーリー作りをどうお考えか伺いたい。
(答)
 ご質問のご趣旨は私も理解できる。ただ、私ども全銀協としては、これまでも繰り返し申しあげているとおり、新規業務への参入については、公正な競争条件の確保、適正な経営規模への縮小、利用者の保護、そして地域との共生、とりわけ地域金融機関への影響について総合的に検討して判断すべきと言っている。
 特に政府の関与が残っている状況で貸付業務に参入することになれば、暗黙の政府保証を背景とした資金調達の優位性により、地域金融機関への影響が大きく、場合によっては、市場の混乱が起こる可能性がある等、懸念が極めて大きい。
 いずれにせよ、重要なのは民間金融機関との公正な競争条件の確保であり、その点については、ゆうちょ銀行が完全民営化への道筋をしっかりと示すとともに、その実行を担保する、これが最低限の条件との立場は変わらない。
 ただ、今回は、現在可能な業務領域において新たな取組みを始められたということであり、そういった動きについては、私どもも歓迎するということを申しあげておきたい。


(問)
 昨日、日本郵政がオーストラリアの大手物流会社の買収を発表したが、最近、近鉄エクスプレスやキヤノン等、日本企業による海外企業の買収が相次いでいる。円安が進んで条件面では少し悪くなったのかもしれないが、このトレンドについて会長がどのように見ているのか伺いたい。
 また、銀行にとって、貸出やアドバイザリー業務等、ビジネスチャンスになっているかどうか伺いたい。
(答)
 確か年末の会見でも同じご質問をいただいた。その繰り返しになると思うが、まず、日本企業が成長を考える場合、国内だけではなく海外における事業領域の拡大を志向するというのは、ある意味で非常に自然な流れである。
 確かに円安というマイナス要因はあるものの、第一に、こうした事業戦略は中長期的な観点からの取組みであるということ、第二には、リーマンショック以来の各企業の大変な経営努力によって内部蓄積が進み、企業体力があるということ、言い換えれば、日本企業には買収ニーズがあり、かつそれを可能にする経営資源を有していることから、この傾向がしばらく変わることはないと思う。
 2点目の質問、銀行にとってのビジネスチャンスについては、このところ、大企業向けの融資が順調に増加しているが、その要因の一つは、やはり買収に対するファイナンスである。ブリッジファイナンスからパーマネントファイナンスまで、エクイティであれデットであれ、一連のファイナンス機会がある。
 もう一つは、いわゆるM&Aアドバイザリー業務である。いま、日本が世界の中でもM&A市場として非常に注目されていることはご承知のとおりである。
 このような日本企業のニーズに、私ども金融機関としても積極的に対応して参りたい。


(問)
 決済システムについて伺いたい。昨年、全銀協が決済システムの在り方に関する検討結果を纏められて、2018年までに24時間365日稼働できるような新システムを導入すると表明された。それについて、日経新聞が、張子の24時間であると指摘していた。この24時間365日というのは表面的なもので、数時間しか時間延長されないとしていたが、実際はどのようになるとお考えか。
(答)
 全銀システムの時間延長については、昨年末にスキームを固めて、現在システムの要件定義を行っている最中である。
 各加盟銀行の接続時間帯に関する対応方針は、この要件定義を踏まえて本格的に検討されることになると思っている。
 ただし、全銀協でアンケート調査も実施しているが、私自身が得ている感触としては、私がこのプロジェクトに取り組み始めた当初に考えていたよりは、より多くの金融機関が、お客さまの利便性向上、そしてさらに重要なことだが、先ほども申しあげたICT技術を活用した新たな決済サービス、コンペティターに対する対抗手段として、今回の稼働時間の拡大を前向きにとらえている。
 各金融機関の最終的な対応方針が固まるのは少し後になるが、全銀協としては、要件定義がある程度固まってきた段階で、各加盟銀行に改めて参加意向を確認していきたい。各業態とも連携して検討を進め、あらゆる業態の金融機関がより多く参加できるようなスキームの開発をしたいと考えている。
 広範な金融機関の参加というのは、日本の全銀システムが世界に冠たるシステムといわれてきた一つの大きな鍵であり、信頼・信用に加え、ネットワークの幅広さ、この二つが競争力の鍵だと思っているので、是非、張子の虎と言われることのないように頑張って参りたい。


(問)
 岩盤規制の一つである雇用問題に関し、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションについては、今通常国会に厚生労働省が労働基準法の改正案を提出することがほぼ固まっている状況であるが、対象に金融関連の業務がかなり含まれている。将来、この制度が施行された際に、銀行界が活用する可能性についてお伺いしたい。
(答)
 まず一般論として、今回の労働規制の見直しは、すでに報じられているとおり、働き方の多様化に対応した柔軟な労働時間の管理を可能とすることで、労働者の能力を十分に発揮できる環境を整えると同時に、生産性の高い働き方を可能にし、かつワーク・ライフ・バランスの実現に繋がっていくと考える。それが、ひいては日本企業の国際競争力を高めるうえでも重要であり、労働者、そして雇用者である企業の双方にとって極めて重要な施策だと考えている。
 一方で、課題も認識しておく必要があると思う。すでに指摘されているが、長時間労働の抑制、あるいは健康確保に向けた対策も求められ、実効性のある環境整備も必要と認識している。
 金融界においては、最終的には各行が経営環境や人材活用策を踏まえ検討していくことになると思う。
 個別行に関して言えば、今後の労働法制の見直し、そして詳細化を見極めつつ、先ほど申しあげた二つのバランスをしっかり取りながら、前向きに制度の導入を検討していきたいと考えている。一言で言うと、日本の銀行と海外の金融機関が、正面から競争できるような環境を作っていく必要があるということが、個別行としての事情である。


(問)
 2点ご質問したい。1点目は、農協改革に関連して、今回の改革では、銀行業界にも関係する信用共済業務について、大幅な改革は検討を先送りされたが、政府の規制改革会議等では、准組合員の問題とあわせて改革が必要との声も依然として強くある。銀行業界として、農協の信用共済業務の改革の必要性についてどのような考えを持っているか。
 もう1点、休眠預金に関して、国政では超党派の議連ができる等、休眠預金の活用に向けた検討が進み始めているが、当事者たる銀行業界として、休眠預金の活用にどのようなスタンスで臨むのか、現段階の所見を伺えればと思う。
(答)
 まず、JAバンクグループについてのご質問について、全銀協としてのコメントはない。JAバンクグループは民間金融機関として事業を展開している。一方、先ほどから話題になっているゆうちょ銀行、あるいはこのところ議論があった政策金融機関は、公的金融機関としての色彩を持っており、両者は性質が異なる。したがって、私どもとしては、お互いに切磋琢磨してお客さまに対するより良質なサービスの提供を心掛けるということに尽きると思っている。
 休眠預金に関しては、全銀協としてすでに方針を明らかにしている。私どもとしては、基本的に法制の枠組みが確りとできることを前提にご協力するということであり、その方針は変わっていない。
 資金活用をどうするのか、誰がやるのか、どうモニターするのか等、様々な課題があると聞いているが、これらの検討が政府において進められ、有効かつ実効性のある資金の使い途になることを期待しているところである。


(問)
 昨日、日本郵政の西室社長の会見では、ゆうちょ銀行の資産運用について、新たな人材を募集して予断を持たずに資産運用のポートフォリオ構成を見直していくということであった。ゆうちょ銀行の資産規模は約200兆円であり、予断を持たずに変更した場合、やり方によっては、マーケットの混乱を含め非常に大きな影響が出てくるのではないかと思うが、お考えを伺いたい。
(答)
 ゆうちょ銀行でもそれ以外の金融機関でも、ALMの運用、すなわち、バランスシートをどう活用するかは、極めて本質的な課題である。さらにリスク管理の高度化は、それこそ先ほど申しあげたリスク・アペタイト・フレームワークの取組みであり、どこまでどういうリスクをとるかを明らかにしながら、運用の高度化を図っていくということである。この点、ゆうちょ銀行では、昨日、運用人材とリスク管理人材の両方を募集しており、極めて自然な対応であると思っている。
 もう一つ注意すべきことは、ご指摘のとおり、現在、日本郵政グループは日本国債の主要なプレイヤーであるということである。私ども個別行も同じであるが、当然、その投資や運用の方針を変更する場合には、自らの方針変更が市場に対して与える影響には慎重に配慮したうえで投資行動を考える。ゆうちょ銀行においても、同じような対応をとっていかれるのであろうと推察しているところである。 /p>


(問)
 2点質問させていただきたい。1点目がギリシャ問題である。ギリシャ国債のデフォルト、あるいは、ギリシャのユーロからの離脱等の懸念が強まっているが、ギリシャ問題の今後の行方についてどうお考えか、世界あるいは日本の金融機関等への影響についてもお考えをお聞かせいただきたい。
 2点目の質問は、世界的にマイナス金利が広がっている。中央銀行の付利をマイナスにする、あるいは民間銀行も大口預金者に対してマイナス金利を提示するといったことが出始めているが、今後日本でも同様のことが起きるのか、今後の見通しと影響等についてお考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 まず、ギリシャ問題については、ご承知のとおり、1月25日の総選挙で新政権が誕生し、その後、ギリシャ政府とEUとの間で交渉が続いており、その状況を見ながら市場が非常に神経質に動いている。
 目下のところ、ギリシャ以外の金融市場への影響に限って申しあげれば、まず第一にギリシャ自身がユーロ離脱を志向しているわけではなく、否定していること、2番目にはECBが国債を含むいわゆる量的金融緩和に踏み切る方針を明確にしていること、そして、OMTといわれる国債の買い入れプログラム等のセーフティーネットが整備されたこと等から、その影響は比較的限定的と見ている。
 ただし、仮に今申しあげた前提が変わってくる、例えばギリシャがユーロから離脱するということになると、ギリシャ自身はさておき、周縁国に対する信用不安の高まりをきっかけに、市場に混乱が生じる可能性はある。そうなるとユーロ経済だけではなく、世界経済にも波及する可能性があることから注視していく必要があると考えている。
 2番目、マイナス金利はすでに日本でも起こっている。ユーロ圏について言えば、いわゆる「ジャパナイゼーション」ということが言われて久しく、今も申しあげたECBの政策のもとで言えば、マイナス金利が起こりやすい状況であり、おそらく今後も続くであろう。日本国内でも海外でも、そうした事態を前提として、私どもも事業運営をしていく必要があると思っている。具体的には、資金収益だけに依存しないようなビジネスモデルに移行していくというのが基本であると思う。
 加えて、気を付けなければならないのはクレジットバブルであろう。金利がなくなると信用リスクをとりにいく、これは何度も繰り返されている。アメリカでもアジアでも起こっており、それには十分留意する必要がある。先ほどご質問があった与信に対する取組み姿勢というのは、これからかえって慎重にならなければならない。今は日本国内でも海外でも非常に与信コストは低いが、このまま続くわけではないという気持ちで我々金融機関としては対応しなければならないと考えている。


(問)
 賃上げについてお尋ねしたい。
 春闘の労使交渉が始まり、大手銀行の業績は軒並み好調であるが、改めて賃上げについて、どのようにお考えか、消費税率の引上げで、物価が上がっていることも踏まえて教えていただきたい。
(答)
 このテーマは、各社が経営を考えるうえで、労使の関係、将来の事業戦略等を、総合的に勘案して決定していくことであり、全銀協会長として個別にコメントすることはない。ただ先ほども申しあげたが、アベノミクスにおける、いわゆる経済の好循環を作っていくためには、個人消費がより伸びなければいけない。そのためには、雇用環境が改善され、雇用者所得が増えなければいけない。これは間違いないことなので、それを念頭に置いたうえで、対応できる企業は対応するということであると思う。
 また、ベアについてよく言われるが、ベアにこだわらず、実質賃金を上げるという点を念頭に対応していくということが基本と考えている。


(問)
 個別行についてはどうか。
(答)
 個別行については今ここでお答えするテーマではないと思うが、今申しあげたとおりの考えにもとづき、私自身が判断する。まだ何も決めていない。