2015年4月 1日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

 

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日、みずほフィナンシャルグループの佐藤社長が全銀協会長に選任された。新体制における会長・副会長は、お手許の資料のとおりである。
 また、本日はこのほかに佐藤会長の略歴と写真をお配りしている。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 

(問)
 本日、会長に就任されて、今後の活動方針や銀行界が抱える課題などについて、ご所見をお願いします。
(答)
 みずほフィナンシャルグループの佐藤でございます。
 このたびの理事会において、平野前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになりました。これから一年間、皆さま方のご支援を賜りながら、この大役に取り組んで参りたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、平野前会長に一言、お礼を申しあげたいと思う。
 振り返ると、昨年度は、消費税引き上げ後の一時的な景気減速が見られたものの、その後、日本経済がゆるやかな回復軌道へ戻りつつあることを感じることができた一年であった。この間、平野前会長におかれては、震災復興や中小企業向け金融への継続的な取組み、NISAの普及促進および制度拡充、振り込め詐欺・不正送金への対策、全銀システムの稼動時間拡大方針の決定といった決済高度化、反社会的勢力との関係遮断について警察庁データベースとの接続方針の公表、TIBOR改革の継続、公的金融、国際金融規制へのさまざまなかたちでの意見発信など、多岐にわたる課題に対し、見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を牽引していただいた。そのご尽力に対して、心から敬意と感謝の気持ちを表したいと思う。本当にありがとうございました。

 それでは、私の抱負を申しあげたいと思う。
 まずわが国を取り巻く経済環境についてグローバルな視点で触れてみたいと思うが、米国経済は底堅く推移している一方、ユーロ圏経済の持ち直しの動きは依然として緩慢である。また、中国は“New Normal”という中成長下の構造改革という路線変更にチャレンジしつつあり、原油価格下落に伴う資源国経済への影響や先進国へのCapital Flowによる新興国経済の減速懸念、さらには、中近東、ロシアを中心とした地政学的リスクの高まりにも注意が必要な状況となっている。こうした不確実性の高まりに加え、過剰流動性を抱えた世界経済の構造は継続しており、様々な市場において、時折見られるボラティリティの急激な上昇にも注意すべき環境が続いている。
 このような環境下、わが国に目を転じると、消費、設備投資、輸出とも回復基調にあり、一部濃淡はあるものの、マクロ的には日本経済は緩やかな回復軌道に戻りつつあるものと思われる。
 そうした状況を踏まえ、私どもとしては、「政策主導による景気回復」というフェーズから「民間自身の活力の発揮により景気回復を確実にする」フェーズへ移ってきたと考えている。
 実際、農業・医療・観光などの分野、クールジャパン、あるいはインフラ産業等、国内外で新たなビジネスが具体化しており、加えてTPP交渉、新たなエネルギー政策の策定、国際金融センター構想、東京オリンピック・パラリンピックの開催など、グローバル社会の中でわが国の中長期的な成長を確固たるものとする動きも出始めている。
 一方で、個別に見ていくと、中堅・中小企業のなかには、輸入物価の高止まりで苦しんでいるところも見受けられ、為替動向に伴う影響など、従来以上にキメ細かい対応が求められる情勢となっている。

 次に、我々銀行界を巡る環境について四つの観点から説明したいと思う。
 まず一つ目は、伝統的業務における経営環境の厳しさである。超低金利の継続を背景に、貸出金利回りは引続き縮小しており、貸出業務などの伝統的な業務の経営環境は総じて厳しく、例えば住宅ローン市場においても競争が激しさを増している。
 二つ目は、銀行に対する社会的要請が変化していることである。伝統的な資金供給だけでなく、お客さま自身が自覚していない課題やニーズを把握し、それらに対する具体的解決策を提示するコンサルティング機能が一層重視されてきている。特に、「地方創生」のための地域経済を支える中堅・中小企業の育成や、世界で戦える企業・産業の育成といった面で金融機関に求められる役割はより多岐に、そしてより重要になってきている。
 三つ目は、異業種との競争と、新たなビジネスチャンスの出現である。近年、決済サービス等リテールバンキングを中心に、異業種からの参入が相次いでおり、従来とは違った競争環境が生じている。
 一方、銀行界においても、ICTや人工知能といった最先端技術を活用した革新的サービスが可能となりつつあり、こうした面では新たなビジネスチャンスが広がりつつある状況となっている。
 四つ目は、一層強化されつつある金融規制にどう向き合うか、ということである。バーゼルIII規制やToo-Big-to-Fail問題への対応は大枠設計の最終段階に差し掛かっているが、引き続き留意すべき規制導入の動きは残っており、慎重な対応が求められる状況である。

 以上申しあげた環境認識を踏まえ、私どもは、本年度を「日本経済の好循環の広がりに貢献する一年」と位置づけ、民間・経済界がその活力を十分発揮し発展していくことにより、日本経済の回復への足どりを確固たるものとしていくために、金融機関として取るべきリスクはしっかりと取ることによって貢献して参りたいと考えている。
 具体的には、今から申しあげる三つの柱に沿って取り組んでいくつもりである。

 第一の柱は、「成長機会創出に繋がる、あらゆる金融仲介機能の発揮」ということである。
 具体的には、資金供給という本源的な役割をしっかりと果たしたうえで、総合的なコンサルティング機能を発揮することである。
 特に、3点申しあげたいと思う。
 1点目は、日本を支える中堅・中小企業が抱える様々な課題に対する積極的な取組みの強化である。具体的には、中堅・中小企業に対する目利き能力の発揮による事業性評価融資の推進や、経営者保証ガイドラインの浸透・定着への取組み強化、あるいは円滑な新陳代謝促進のための事業承継やM&Aの慫慂などである。
 2点目は、地方創生、地域経済活性化への貢献である。地方創生については、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のもと、「地方版総合戦略」の策定に向けた議論が始まっている。銀行界としても、金融機関同士の連携により、PPP/PFIの活用促進や、産官学金労の連携、地域資源の活用による産業間連携、中堅・中小企業に対するビジネス・マッチング等、様々な分野で具体的な貢献をしていく必要があると認識している。
 3点目は、金融資産の活性化への積極的な取組みである。適切な運用能力と充実した販売体制の構築により、国家レベルでの金融資産の拡大に貢献することがますます重要となってくる。例えば、適合性を十分踏まえたNISAの利用促進や、確定拠出型年金の一層の普及に向けた企業・従業員のニーズに関するコンサルティング、さらには金融経済教育の一層の充実などに注力していく。
 第一の柱の最後のテーマとして、「震災復興への貢献」について申しあげたいと思う。震災復興への取組みはいまだ道半ばと認識している。個人版私的整理ガイドライン、東日本大震災事業者再生支援機構や産業復興センターなどの各種支援策を継続して活用するとともに、政府とも緊密に連携し、迅速かつ円滑な対応に努めて参る。被災者の皆さまにしっかりと寄り添いながら、被災地域における産業・企業の育成や街づくり等、銀行界として全力で支援して参る。

 以上の第一の柱は金融の機能面に注目したものであるが、第二の柱は金融インフラの高度化である。「安心・安全かつ利便性の高い金融インフラの構築」を目指すということである。「安心・安全」と「利便性」とは、やや相反する場合もあるが、この二つの目的を二者択一ではなく、両立させることが出来る金融インフラの構築に注力して参る。
 安心・安全、については、第一に、金融犯罪対策、利用者保護への取組みの強化が重要と考えている。振り込め詐欺等の特殊詐欺被害については、店頭での注意喚起徹底や広報活動・金融経済教育に一層注力し、撲滅に取り組んで参る。また、インターネット・バンキング等の不正払出しについても、セキュリティ強化の為の継続的な取組みを続けていく。
 次に、サイバー攻撃への対応力強化である。本件は、1月に参加したダボス会議でも大きな議題になっていたが、銀行界にとっては、喫緊の課題の一つとなっている。関係各方面と情報を共有しながらタイムリーな対応が可能な態勢の整備に努めて参りたいと思う。
 マネー・ローンダリングやテロ資金供与等への対応についてもFATF勧告へのしっかりとした対応とあわせ、着実に取り組んで参る。
 また、反社会的勢力との関係遮断については、預金保険機構を介した警察庁データベースとの接続をしっかりと進めて参る。
 次に金融インフラの利便性の向上について申しあげる。
 具体的には、昨年度方針を決定した全銀システムの24時間365日化対応がある。2018年の実現に向け、システム要件定義などを鋭意進めて参る。また、国を挙げての観光立国戦略や東京オリンピック・パラリンピックなども見据え、海外発行カード対応ATMの設置についても前向きに対応していく。日本を含むアジア各国間の繋がりがますます強まるなかで、クロスボーダーでのATM接続などの機運も高まっており、こうした新しい動きにも積極的に係わっていきたいと思っている。また、「でんさい」の活用促進や、新日銀ネットの稼働への対応も、金融インフラの利便性向上を大きく進めるものであり、今後とも機能性の向上と活用促進に力を注いで参る。
 「われわれの競争相手は、FacebookでありGoogleである」と言った米銀トップの発言は有名である。銀行界にとって、いわゆるFinTechといわれる金融と情報技術の融合は、異業種からの挑戦にさらされる分野であるとともに、我々銀行にとっても大きなビジネスチャンスとなりうる分野である。この点については、今後、金融審議会において「金融グループのあり方」に関する活発な議論が行われることになると思われるが、ICTや各種イノベーション等を活用したさらなる事業の広がりの可能性については、金融界としても重大な関心をもって議論に加わって参りたいと思う。
 BCPについても一言申し添えておきたいと思う。重要な社会インフラの一つとして、金融界としても万一の災害時の備えを万全なものとすべく、今一度気を引き締めて対応して参る。

 最後、第三の柱は、「より健全な金融システムの確立」である。
 まず、TIBOR改革であるが、今年度は従来の様々な意見をベースに、可及的速やかに具体的な方向性を示していきたいと考えている。
 次に公的金融問題であるが、上場計画を発表した日本郵政傘下のゆうちょ銀行をはじめ、日本政策投資銀行や商工中金といった公的金融セクターのあり方に関して、民間金融機関としての意見発信をしっかりと続けて参りたいと思う。
 また、国際金融規制への対応については、TLAC、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)、リスクアセット計測の標準的手法の見直しなどに加え、銀行以外も対象に含めたシャドーバンキング規制についても、今後議論が本格化する見込みである。地域金融機関も含めた国内の大多数の銀行に影響を与える項目も多く、過度でない、適切な規制体系となるよう、関係各方面とも充分協議の上、銀行界の意見を適時・適確に集約・発信して参る。
 国内の制度改正に対しても、十分な目配せが必要である。例えばマイナンバーについては来年1月から支払調書へ番号を記載するといった実務対応が予定されており、しっかりと対応を進めている。
 また、今後議論が進んでいくことになる将来的な銀行口座への番号付与についても、円滑な付番が進められる制度となるよう、意見発信して参りたいと考えている。
 なお、将来的な観点としては、利用者と金融機関双方の利便性向上に資するかたちで民間での活用が認められるよう、要望していきたいと考えている。
 これらに加えて、銀行界の持続的成長に向けた取組みにも注力していきたいと思う。先ほど、ICTを活用した新しい金融の可能性に触れたが、そうした面も含め、銀行界を巡る環境は、大きな転換点に差し掛かっており、次の10年・20年の持続的成長に向けた取組みが非常に重要な局面であると考えている。
 そのためには、次世代の銀行界を担う人材の育成は極めて重要である。女性や外国人等、人材の多様性向上を目指した取組みが一層求められる状況である。変化への対応力、既成概念に捉われない柔軟な発想力を持った人材を金融界全体として育成していく取組みを考えていきたいと思う。
 そして、最後にコーポレートガバナンスの高度化について触れたいと思う。金融機関にとって、コーポレートガバナンス高度化の目的は、健全なリスクカルチャーの醸成や、適切なガバナンスに基づく積極的なリスクテイクを可能にする、という観点も重要である。
 現在、国際金融市場では、RAF(リスクアペタイトフレームワーク)というガバナンスのあり方が議論されている。RAFの基本的概念は、リスク管理をリスク制御という側面だけでなく、取るべきリスクはしっかり取るということを促す考え方である。日本の金融界としても、こうした考え方に対して積極的に対応していく必要がある。

 以上、申しあげた環境認識と三つの柱をベースとした活動方針に沿って、しっかりと一つ一つの課題に向き合い、日本経済の回復を確固たるものとし、それに伴う景気の好循環を全国各地に拡大していくことに貢献する一年とするために全力で取り組んで参りたいと思う。皆さまのご協力、ご支援を是非、よろしくお願い申しあげる。

 

(問)
 本日、日銀短観が発表された。内容は市場の予測を下回る内容だったが、それに対する受け止めと、それを踏まえて先ほどの中堅中小の話も出ていたが、銀行界の行うべき取組みについてお願いしたい。
(答)
 まず、本日公表された日銀短観の結果について、個人的な感想を申し述べる。今回の結果は、事前に期待されたほどの改善ではなかったものの、日本経済の緩やかな回復を示す内容だったと考えている。
 最も注目される業況判断DIは、全規模・全産業ベースでプラス7ポイントと、昨年12月調査から1ポイント改善した。製造業・非製造業別にみると、非製造業が3ポイント改善していることは、国内景気が消費増税後の落ち込みから緩やかに持ち直していることを映じているといえるだろう。他方で製造業は12月調査から2ポイント悪化している。海外経済に対する慎重な見方が反映されたということかもしれない。総じてみれば、全体としての景気は回復に向かっているものの、そのペースは緩やかで、業種ごとにばらつきも残っている、ということだろう。

 また、全産業・全規模ベースの設備投資計画をみると、2014年度の実績見込みは前年比で4.4%と、12月調査から0.7%上方修正されている。2015年度の計画はまだ期初段階ということもありマイナス5.0%と低めだが、2014年度の見込みが上方修正されたことは、今後の上積みも期待できる結果だと思う。

 その他、注目に値するのは、販売価格判断DIと仕入価格判断DIとの差、すなわち企業にとっての「交易条件」が、大きく改善した点である。原油安によって仕入価格が下がり始めたことに加えて、一部では円安による輸入コスト上昇分の転嫁も徐々にではあるが進みつつあるようだ。交易条件の改善は、長期的にみれば収益回復から賃金・投資の増加といった経路を通じて景気回復・デフレ脱却に資するものであり、歓迎される動きだと考えている。

 他方、短観からは離れるが、足元の景気動向についての個人的な見方をもう少し付言したい。
 まず個人消費であるが、消費増税後に大きく落ち込んだ消費は、足元では緩やかに持ち直しているようだ。昨年10~12月期の実質個人消費は、サービス支出を中心に、前期比プラス0.5%と2四半期連続の増加となった。
 ただし、現時点ではまだ、回復ペースは緩やかなものにとどまっている。個人消費の回復は、むしろこれからではないか。
 名目賃金が緩やかに上昇を続ける一方で、原油安の影響で消費者物価の上昇率は低下している。さらに、この4月からは、消費増税分の物価上昇の影響が一巡することになる。したがって、昨年度の個人消費を押し下げる一因となった実質賃金の減少には歯止めがかかり、今後は増加に転じてくるだろう。最近では家計のマインドも改善してきており、今後は個人消費の回復力も徐々に高まってくるのではないかと期待している。
 また、ご案内のとおり最近では海外からのインバウンド観光客の増加が顕著である。観光庁によれば、インバウンド観光客による国内旅行消費額は年間2兆円を上回るとのことである。こうした訪日外国人の消費増加も、小売業をはじめ、飲食・宿泊業、旅客運送業、旅行業など幅広い業種にとって恩恵になるだろう。

 次に企業の設備投資であるが、全体として設備投資は回復を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は昨年8月を底に回復基調にあり、機械受注額もブレの大きい船舶・電力を除く民需ベースで、底をつけた昨年5月の水準と比べて、今年1月時点では2割強増加している。アベノミクスが始まった2013年以降の設備投資は、中堅・中小企業の非製造業の投資回復が顕著であり、建設業、運輸(陸運)業、不動産業などが設備投資を増やしてきた。
 銀行貸出残高も増加基調が続いており、日本銀行の統計で貸出先別に見ても、最近では個人、中堅中小企業、大企業ともに増加している。今回の短観でも2014年度の設備投資見込みが上方修正されており、今後も企業収益の回復を支えに設備投資は回復基調を続けると予想している。

 次に輸出について申しあげる。円安にもかかわらず輸出の回復が鈍いことが指摘されてきたが、昨年度後半からは輸出にも回復がみられるようになっている。輸出数量は昨年秋口以降に、アジア向けにスマートフォン用の電子部品輸出が増えたほか、米国向けの機械類などの輸出が持ち直したようである。円安に加えて海外経済の緩やかな回復が続くなかで、輸出も基調としては緩やかな増加を続けるのではないか。

 もっとも、円安に関しては、輸出にとっては追い風となりうるものの、個社によっては輸入コストの増加というデメリットを受ける企業もあるため、一概にプラスであるとは言い切れない点には留意が必要だろう。
 以上のように景気は消費増税後の落ち込みを経て、足元では緩やかながらも上向いてきているとみている。今後、原油安に加えて、3.5兆円規模の経済対策が実行されるなかで、それらの効果にも支えられ、景気回復の流れが続くことが期待できると考えている。

 最後に、その景気回復に向けた銀行界の貢献ということであるが、冒頭でも申しあげたとおり、私どもは今年度を「日本経済の好循環の拡がりに貢献する一年」と位置付けた。

 大企業や首都圏を中心に好循環の芽が出てきたなか、これを拡げていくためには、中堅・中小企業と地方に好循環を波及させ、元気になっていただくこと、つまり、銀行が「産業・企業の新陳代謝」と「地方創生」にどう貢献していけるか、が大きなポイントと考える。

 アベノミクス前と足元の状況を比較すると、中小企業の利益や利益率の回復度合いは、大企業に対して遅れをとっており、このため賃金の伸びも中小企業では大企業に比べて低いものに止まっている。

 中堅・中小企業には、自ら成長戦略を描きづらい、あるいは経営課題が見えづらい、といった悩みを持っているところも多いと思う。我々銀行は、「起業」の他、成長期・成熟期などの様々なステージにあるお客さまの事業承継やM&A、転廃業などのお手伝いに際し、事業内容のみならず、産業全体の状況や成長可能性などを適切に評価していく必要がある。つまり、目利き力を活かした事業性評価を実施し、お客さまの課題に対応した適切な解決策を提供すべくコンサルティング機能を発揮していく。

 もちろん、これらを支える資金供給についても同時に取り組んでいくことで、 成長を後押ししたいと考える。

 また、「地方創生」でいえば、今年度内に全国の自治体で策定される「地方版総合戦略」への積極的な参画のほか、「産官金連携によるPPP/PFI」や「お客さま同士をつなぐビジネス・マッチング」、「地域金融機関やメガの連携等」により、例えば農業の6次産業化を実現するなど我々が持つ金融仲介機能、コンサルティング機能と様々なネットワークを活用することで、新たなビジネスを立ち上げていく。

 それが上手くいけば、地方を中心とした中堅・中小企業の成長プロセスが出て来る。それを日本経済の本格的な回復に繋げるべく努力していく。

 

(問)
 2点ご質問させていただきたい。1点目は株持合い解消の議論について。日本の企業で、企業価値の向上を意識した、ROEなどを意識した企業が急増している。コーポレートガバナンス・コードや資本効率化の一環として、株の持合いを解消しようという動きもみられるが、銀行として政策保有株を削減しやすい環境になってきているのか。進捗具合と、今年それは課題になるのか教えてほしい。
(答)
 ただ今のご質問は、コーポレートガバナンス・コードにかかるご質問である。コーポレートガバナンス・コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもので、東京証券取引所において関連する上場規則などの改正が行われる予定である。これは上場会社について、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じ、会社、投資家そして経済全体の発展に寄与することが期待されているものと理解している。
 コードの特徴を申しあげれば、いわゆる「ルールベース・アプローチ」ではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用していることが一つのポイントである。単純に形式的な準拠あるいは適用ではなく、その趣旨あるいは精神に照らして本当に適切か否かを判断することを求めている。
 それから二つ目の特徴として、このコードは法的拘束力を有する規範ではなく、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」、すなわち実施するか、あるいは実施しない場合にはそれをしっかりと説明しなさい、という枠組みになっている。
 政策保有株式の問題については、それを保有するのであれば、取締役会においてしっかりとした検証をしたうえで、政策保有株式を持つねらい・合理性を各金融機関がしっかりと説明できるかどうかということがポイントになってくる。株式を保有することに合理性あるいは妥当性があるかということは、その個別の金融機関が株式を保有するに至った経緯や取引の厚み、さらには歴史といったものが全て絡んでくるので、一律の基準で判断することはなかなか難しいと思う。ただ大きな方向感としては、それぞれの金融機関が、それぞれの事情を踏まえて保有理由を十分に説明することが必要になると思う。従来以上に、政策保有株式の保有について、しっかりとした基軸を持つことが必要になってくるのであろうが、未だ議論が端緒についたばかりであるので、今後個々の金融機関から様々な意見が展開されてくると思う。しかしながら、このコードがこういう形で議論されるということは、大きな流れとして、政策保有株式の保有意義に関する真摯な議論が進むことに繋がっていくと考えている。

 

(問)
 2点目だが、これは銀行の企業支援のあり方について伺いたい。先ほど会長も少し触れられたと思うが、今シャープなどをどのように支援するかが議論されていると思うが、一般的な話として、企業が赤字に陥ったり、赤字体質から抜けられそうにない場合、銀行はどういった尺度から支援を決定するのか。数字だけではなく、それこそ目利き力が必要になってくると思うが、企業の新陳代謝という観点からもお考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 一般論で申しあげるが、特に新しい手法があるということではない。企業が持っている技術力や販売力あるいは人材等を含めた将来の資質などを分析し、その企業が、どの分野でどのようなかたちで競争力を発揮できるかを包括的に見極めながら、企業全体としての支援について判断していくということだと思う。
 もっとも、企業全体を見ていくということではあるが、その企業が置かれた状況によっては、社会における構成員としてしっかりとした役割を果たすことができないこともある。もちろん、基本的には企業ご自身が判断することであるが、その際は、競争力のある分野と競争力のない分野とを十分に見極め、そうした分野の峻別あるいは取捨選択をしながら、しっかりと競争していける会社を作っていくということだろう。そのために必要であれば、我々金融機関としては、色々なかたちで大いにサポートしていくというのが基本的な考え方である。

 

(問)
 2点ある。1点目は、先ほどの質問をブレイクダウンした意味で、コーポレートガバナンス・コードの持合い株に関して、合理的な説明を行い、議決権行使の基準を開示するということだが、佐藤会長がおっしゃっていたように、これは強制的なものではないというのも存じあげているが、日本の銀行界において、銀行同士で株を持ち合っている。つまり、例えば、メガバンクは多くの地銀の株を持っているという構造があるが、この構造の中で、持合い株の問題、問題というかその合理的な説明と議決権行使の基準というものを落とし込むと、どういう風に考えていったらよいのかと思っている。
(答)
 私なりの考えをお答えすると、金融機関と言っても、取引先であるということには変わりはないと思う。
 個別行の話となるが、みずほ銀行は地域金融機関と様々なお取引を行っている。また、先ほど申しあげたように、地方創生を考えたときには、今後はメガバンクと地域金融機関との協働が非常に大きなポイントになってくると思う。
 このような観点から、地域金融機関との関係を非常に深く持っていることが、メガバンクあるいはみずほ銀行にとって、非常に大きな経営上のプラスになっている面は間違いなくあると思う。具体例を申しあげると、みずほ銀行は様々な地域における農業の6次産業化を地域金融機関と進めているし、地方インフラのPPP/PFIでも協働している。さらに、今後の地方創生における地方版総合戦略のなかで、例えば、医療関係の産業を呼び込んでくる、あるいは地方の特産物をアジアや中東、例えば湾岸諸国に輸出していくということを、メガバンクと地域金融機関が協働して取り組むことによって、具現化されていくことが数多くあると思う。
 そういう意味においては、一般論として申しあげると、ご質問のメガバンクが地域金融機関の株式を持つということについて、経済合理性を証明できるケースはもちろんあると思う。ただし、実際には、経済合理性あるいはその将来の発展可能性というものを、しっかりと取締役会のなかで理解いただく必要があるということである。したがって、ここから先は、個別にどういう取引関係があるのか、どういう関係を将来構築できるのか、そういったことを各銀行が一つずつ見ていくということになってくるだろうと思う。

 

(問)
 会長もおっしゃったように、日本の銀行界にイノベーションという言葉が久々に高まってきたのは結構なことだが、そのなかで24時間決済というのもするのだと思う。
 一方で、EDI、産業界の物流のデータと銀行の金融のデータを併せて決済を合理化させていくことについて、たしか、全銀協ではテストをされて、今年に入ってから2回実施されたと思うが、今後、今年、この分野というのはどのように手をつけていくのか伺いたい。
 例えば、先ほど、会長がおっしゃったように、マイナンバーをどう落とし込むという問題があるなかで、日本においては企業コードというのが非常に数多く、種類がありすぎて、これが非常にEDIを定着させていくうえでの阻害要因になっていたという歴史があったと思うが、そのなかでマイナンバーというのが、大きな企業コードとして定着していくのであれば、EDIに落とし込むという発想も生まれてくるのではないかと思うがどうお考えか。
(答)
 大変重要なご質問であろうと思う。昨年6月に改訂された「日本再興戦略」の中で、「国内送金における商流情報の添付拡張について、産業界と金融機関の連携強化による速やかな対応が図られるよう促す」とされたことを受けて、昨年度、全銀協として、ご指摘いただいたような調査・検討を実施した。
 詳細な結果については公表を行っていないが、調査の結果を大まかに申しあげると、一部の業界・企業では、確かにそうしたニーズがあるということは確認された。ただし、必ずしも産業界全体としてニーズがある訳ではないということも判明してきたところである。
 つまり、業界や個別企業によって、金融EDIを活用するということが自分にとってプラスになるのか、マイナスになるのか、判断しかねているというのが足元の状況だろうと思う。
 こうした結果を踏まえると、金融EDIの裾野拡大の鍵となる商流EDIにおける課題なども含めて、各業界の意向を踏まえながら、もう少し深みのある議論をしていくことが重要であると考える。
 マイナンバーの活用についても同じことが言えると思っている。マイナンバー制度はマクロ的に見ると、社会全体の効率化、あるいはコスト削減につながる基盤であると理解している。ただ、個々人や個別企業にとっては、そのメリットを享受するためのコストをどうするのかといった観点も考える必要がある。あるいは、銀行口座への付番についても、口座数が8億口座以上あるなかで、実際に銀行に番号を告知することを自分の利便性が高まることとして理解し、活用したいと考える方がどの程度いらっしゃるかといったことを含め、まだ十分に議論が尽くされていないというのが、今の状況であろうと思う。
 しかしながら、これが正しい方向で建設的に議論されていくならば、将来的には、日本経済のICT化も含めて非常に大きな効果を生む可能性はあると思う。
 そういう観点から、全銀協としても、関係各方面、官庁、利用者の方々と、幅広い議論をしながら、皆さま方が利便性を理解していただく分野があるとすれば、決して受け身ではなく、前向きに検討を進めていきたいと思う。

 

(問)
 2点ご質問する。1点目はコーポレートガバナンス・コードに絡むご質問である。6月の導入をにらみ、上場企業の中では独立社外取締役を採用する企業がある一方、5月の改正会社法を踏まえ、監査等委員会設置会社への移行を表明する上場企業が、続々と増えている。これは監査等委員会設置会社への移行であり、委員会設置会社ではないといった状況であるが、この状況についてどのようにお考えか。
(答)
 今後、監査等委員会設置会社という枠組みが使えることとなった結果、そのようなガバナンス体制を採用する企業が増えていることはご指摘のとおりである。大きな流れで考えると、従来のガバナンスの体制からは、一歩も二歩も前進したと考えている。
 みずほとしても、改正法における指名委員会等設置会社、すなわち今の委員会設置会社へと移行をしたわけであるが、私の個人的な見解としてガバナンスに関して思うことは、指名委員会等設置会社であれ、監査等委員会設置会社であれ、目指す方向は共通であるということである。つまりは、各企業において、その業務または執行ラインに対してしっかりと外部の目線が入り、これを企業の成長につなげていくというかたちが作れるか、それが本件の要諦になると考えている。
 指名委員会等設置会社の場合には、指名委員会もあり、報酬委員会もあり、ある意味では、経営者自身が継続的な経営者としてのステータスを社外の人間に委ねるという体制まで進めているところもある。ただし私は、採用する形態自体が重要なのではなく、どちらの形態をとったとしても、今申しあげたような基本的な要諦である社外の意見をしっかりと経営に反映させて、それを実際に執行ラインが真摯に受け止め、企業の発展につなげていくという覚悟が経営者にあるかどうかによって左右されるのであり、これによって結果が180度違ってくると考えている。言葉を選ばずに申しあげれば、どのようなガバナンス形態であっても、その覚悟がなければほとんど意味をなさないということであろうと、個人的には思う。
 したがって、大きな流れとしては歓迎すべきことだと思うが、指名委員会等設置会社でなければいけないということではなく、むしろ、今申しあげたガバナンスの本当の意味をそれぞれの企業の経営者が考え、各企業の歴史や現状にふさわしい形態を選ぶことがよいのではないかと考えている。

 

(問)
 冒頭の決意表明のなかで、今年はこのようにしたいという話があった。金融審議会でもこれから議論が活発になると思うが、銀行持株会社のあり方について、議論が行われるわけだが、佐藤会長は、10年後の銀行界・銀行とはどういうふうになると、現時点で考えているか。
(答)
 非常に難しい質問だと思う。
 個別行の話になるが、みずほでは2年前、若手を中心に次世代リテールプロジェクトチームというものを作った。その際、私は「お客さまが銀行のカードを持って、街角にあるATMコーナーに行き、現金を手にするという世界が10年後の世の中にも存在していると考える方が不自然。その位の発想で、次のイノベーションを考えていく必要がある」という話をして、プロジェクトチームを立ち上げた。
 プロジェクトチームでは、まずは異業種の方々との議論を行ってきた。例えば、ある製造業の最先端の会社では、次の世の中をどう見るかといった研究施設を持っており、そこで大いに議論を行った。あるいはeコマース業界とは、ネットを使った商流の将来を、彼ら自身がどう考えているのかといった議論があった。その上で、シリコンバレーにも出かけて行って、金融に係る新しい技術はどこまで進んでいるのかを調査した。
 私は当初、「10年後の世界」と言ったが、こうした動きはものすごい勢いで進んでおり、10年後ではなく、もう来年のような世界になっていると、この調査を通じてますます実感したところである。

 冒頭のご質問で「競争相手はFacebookであり、Googleである」というJPモルガンのトップの言葉をご紹介した。私自身もアリババ、あるいはテンセントといったネット系のビジネスを大きく展開しているCEO達と議論してきているが、技術は確かにものすごい勢いで進んでいる。例えば、アメリカでの、ウェアラブル端末の技術などがその一例だろう。まだ実用化されていないが、メガネを掛けて虹彩により個人がしっかりと認証される。そして、そのウェアラブル端末で、預金や送金、決済を行うこともおそらく技術的には相当なレベルまで可能になると言われている。

 もちろん、金融はインフラなので、それを実際に運用するには様々な検討が必要になる。特に重要なのは、金融機関が免許業種であることの本質的な意味にも繋がるが、新しい技術に伴う新しい金融の姿を描く際に、例えばマネー・ローンダリング対策や反社会的勢力との関係遮断など、コンプライアンス上、あるいは社会要請上求められる考え方が守られていくのかどうかという観点が一つある。
 二つ目は、そうした新しい技術に伴う金融のあり方が、金融機関の経営の安定性に資するのかどうかという観点。例えば、具体的に申しあげれば、新技術などに過剰に資本を投入した結果、金融機関自身の経営がおかしくなる、となればこれは社会的負担になってくるということである。
 三つ目に、それはお客さまが本当に求めているものなのか、という観点が挙げられる。
 以上の三つの観点から、金融機関がイノベーションにどう向き合うかということについては、これから大きな議論が進んでいくだろうと思う。

 ただし、テクノロジーがあっという間に進んでいることは事実である。10年後の社会の話に戻ると、おそらくいちばん変わるのは銀行の店舗のあり方ではないかと思う。駅前の最も賃料の高い、最も良い場所に銀行店舗が沢山あるが、そこでスペースを使い、多くの人を配置し、預金や送金に取り組むことが、10年20年後の世界に本当にあるのかどうか。むしろ、そうしたビジネスについては、ICTを使った非対面の取引に移っていくことが、自然な姿だろう。では、「店舗は世の中からなくなるのか」といえば、そうではなく、むしろ逆に、金融の姿がコンサルティング重視にどんどん移っていくと私は思っている。そうなると、例えば、リタイアした人が自分の退職金を運用したい時に、その人のために、もっとFace to Faceでご相談を受けることになる。むしろ、そうした高度なコンサルティングのためにFace to Faceの拠点が必要になってくるのではないか。それは、必ずしも駅前ではなくて、もしかしたら住宅街の真ん中なのかもしれない。

 かなり幅広い分野について申しあげたが、おそらく店舗のあり方、そして対面と非対面の分野におけるすみ分け、あるいはそれに伴う金利収入と非金利収入のあり方といった収益構造にまで至る大きな変革が進むことが、10年後20年後には展望できなくはない。したがって、金融界としては重大な関心を持って見ていくと申しあげたが、まさにこの問題は金融機関の将来の競争力を決定的に左右する可能性のある、重要な項目だろうと思っている。

 

(問)
 中国主導で設立するアジアインフラ投資銀行の創設メンバー申請期限を昨日迎えて、日本は不参加を表明した。世界では40ヵ国以上が参加を表明するなか、日本、アメリカもだが、孤立を懸念する声もある。今回の日本政府の対応についての評価、感想と今後の対応についての注文、そして中国とかアジアでインフラ輸出などをする日本企業や、そういった地域でビジネスをする銀行界への影響についてどのように見ているか教えていただきたい。
(答)
 ご質問のいわゆるAIIBの設立の問題については、先週、先々週と色々な会議があって私が北京に行ったときに、「日本はどうするのか」、「みずほはどう考えるのか」というような話があったほど関心の高い、非常に大きな問題だろうと思う。ただし、当然のことながら、全銀協の会長としては、日本によるAIIBの設立メンバーとしての参加、不参加について何か申しあげるという立場にはない。
 個人的に、私見として申しあげると、ADBの試算では、2010年から2020年の10年間で、アジア地域でのインフラ投資は、約8兆ドルの需要があるとされている。今後、新興国を中心としたインフラの需要というのは、かなり大きな金額が必要となってくるという見方が大宗であろう。しかし一方で、世銀あるいはADBがこうしたニーズに対して実績を積み上げてきているというのもまた事実である。そうした永年の経験のなかには、どういうプロジェクトに対して、どのようなファイナンスをつけるべきか、ということ等、大きなノウハウが蓄積されている。その中には環境に対する配慮といったことも、当然入っているだろうと考える。そういう意味では、彼らが積み上げてきた実績と経験というものは、公正でかつ有意義な内容だろうと理解している。したがって、AIIBも含め、この種の新しい取組みには、そうした経験あるいはこれまでの実績をベースに、いわば国際的なベストプラクティスに沿った活動が求められるということだろうと思う。
 AIIBが今後どのような活動をしていくのか、あるいはどのような資本構成になっていくのか、ということについてはまだ明確なことが分からない。今後そうしたことが参加国のなかで話し合われ、例えば参加を表明した国の金融機関が、AIIBが展開するプロジェクトのなかで特別な地位を占めるのかどうかといったこともまだ全く分からない。このような状況では、今の日本政府のお考えをベースにして、日本の金融機関が利益を得るのか不利益を蒙るのかを判断する段階にはないと思う。ただし日本の、特にメガバンクを中心とした金融機関は、アジアのインフラについては日本の製造業と、あるいはJBICと組んで、従来から相当大きな存在感を示してやってきている。そうしたことを踏まえて、これからもAIIBがどうなるかにかかわらず、アジアあるいは新興国におけるインフラに対して、積極的な役割を果たしていくべきだし、また果たしていくこともできるだろうと考えているところである。

別添資料:佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)