2015年5月21日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 先週、大手銀行の決算が出揃った。2013年3月期に次ぐ好決算が相次いだが、それを受けて今回の決算をどのように評価するか。
(答)
 2014年度の決算については、数字が出揃ったという状況である。全国銀行ベースの計数については、現在、全銀協で取りまとめているところであるため、概略について説明する。以下、メガバンクと地方銀行・第二地方銀行を分けて説明する。
 まず、メガバンクについて申しあげる。3メガバンク合計の連結当期純利益は、前年度の水準を下回ったが、各社とも業績予想の数字を上回る決算となった。
 このうち、商業銀行単体について見ると、業務粗利益、いわゆるトップライン収益は、前年度比で大幅な増収となっている。内訳をみると、国内貸出は、中小企業向けも含めて残高は増加したものの、利鞘の縮小が継続し、国内資金利益は減収となった。一方で、海外貸出残高の堅調な伸びや円安の影響を受けて、海外金利収益は大きく増加している。したがって、国内・海外の資金利益全体では前年度比で増加となった。
 また、以前から申しあげているとおり、各行ともに注力している役務取引等利益、いわゆる非金利収支は、国内・海外ともに総じて好調で前年度比で大幅な増加となった。加えて、市場部門は債券売買益が増益となり好調であった。
 一方、経費は、将来に向けた戦略的な経費の増加、消費税引き上げや円安の影響もあり、前年度比で増加となった。
 業務粗利益から経費を引いた、本業の利益である業務純益は、前年度比で大幅な増益となった。
 以上、業務純益までを説明したが、業務純益以下の項目についてみると、与信関係費用は、前年度の大幅な戻入れから2014年度は繰入れ、すなわち費用計上に転じたが、極めて低水準を維持している。株式等関係損益は、前年度比では減益となったものの、2014年度も株価の上昇等を受けて利益を計上した。
 以上の結果、3メガバンクの商業銀行部門の当期純利益の合計は、前年度比で減益となったが、連結当期純利益と同様、各行とも期初予想を大幅に上回る水準で着地している。

 次に、地方銀行・第二地方銀行について概略を申しあげる。
 業務粗利益は前年度比増収となっている。内訳をみると、貸出残高が増加した一方で、貸出利鞘の縮小が継続しており、金利収益が弱含む傾向は続いている。他方、役務取引等利益や債券売買益が大きく増加したことから、実質業務純益は前年度比増益となっているという構造である。
 以上に加えて、地方銀行・第二地方銀行については与信関係費用が減少し、株式等関係損益が増加したことから、多くの銀行で当期純利益が前年度比増益となり、全体で見ても堅調な決算と総括できるのではないかと思う。

 2015年度については、低金利環境が継続する中で、国内の貸出業務などの伝統的な業務については、貸出金の増加傾向は続く一方で、貸出利鞘の縮小が続くことが見込まれ、引き続き国内の貸出業務という観点からは極めて厳しい環境が続くということではないかと思う。また、市場部門については、好調であった2014年度と同様に好調となるかどうか不透明であることから、昨年度から減少する可能性があるのではないかと思っている。
 一方で、日本経済については、「政策主導による景気回復」というフェーズから「民間自身の活力の発揮により景気回復を確実にする」フェーズに移ってきていると認識している。先ほど資金需要の話もしたが、マクロ的に見ても設備投資の動向は右肩上がりである。従来は大企業中心であったが、中堅・中小企業の設備投資増加という傾向も見え始めている。また、非製造業中心であった設備投資の回復が、製造業にも及んできているということから考えていくと、銀行を取り巻く環境は厳しい面と、景気の回復によって機会が生まれる面と、両方あるということだと思う。今後は、貸出業務の採算が厳しいという観点からも、お客さまの具体的な課題を解決するコンサルティング機能の強化を通じて非金利収入、役務取引等収益を拡大し、業界全体として、「成長機会の創出に繋がる、あらゆる金融仲介機能の発揮」によって、我々の収益をしっかりとしたものにしていくという年が今年だと考える次第である。
 特に今年は、アベノミクスのテーマでもある地方創生、中堅・中小企業が抱える様々な課題に対する取組み、あるいはPPPといった地方財政に関わる、さらには日本の成長戦略に関わる様々な問題に対して、金融機関が積極的に取り組むことによって、日本経済の回復の足取りを確かにすると同時に、銀行自身の業績の伸長につなげていくという意味で、非常に大事な1年になるのではないかと考えている。


(問)
 いわゆるIRRBBの問題について、会長は今どのような問題意識があって、今後の見通しはどう見ているか。
(答)
 国際金融規制の枠組みについては、IRRBB以外にもいくつかの規制の問題が残っている。いくつかの問題については方向感が固まってきていると思うが、特に2015年度の重要なテーマについて、主に3点、IRRBBも含めて話したいと思う。
 最初に、ご質問いただいたIRRBBについてお話しする。いわゆる金利リスクの問題であるが、現在、トレーディング勘定については「第1の柱」、つまり、自己資本比率規制の対象であり、また、銀行勘定については「第2の柱」、すなわち、金融機関による自己管理と監督上の検証のもと、アウトライヤー規制の対象となっている。そうした中、バーゼル委員会では、銀行勘定の金利リスクに対する資本賦課に関する議論が行われているものと認識している。
 私ども金融機関としても、金利リスクを管理することの重要性はしっかりと理解している。現に、銀行勘定の金利リスクは「第2の柱」の枠組みのもとで監督上の規制を受けており、今後も、この「第2の柱」の枠組みによる管理が適切であると考えている。
 その理由について申しあげると、第1に、そもそも、ストレス時に機動的にポジション解消が可能なトレーディング勘定と、ポジションの継続が期待される銀行勘定とでは、性質が大いに異なるものである。私どもとしては、こうした差異を十分に踏まえて、規制の内容を検討すべきと考える。
 第2に、日本においては、ストレステスト等を活用して、B/SおよびP/Lの見通しを踏まえた資本の充実に努めており、「第2の柱」によるリスク管理が十分に機能している状況と認識している。
 銀行勘定の金利リスクに対して「第1の柱」による資本賦課が導入されると、預金を中心とした短期の調達資金を、貸出や国債など期間が長い資産で運用する商業銀行の基本的なビジネスモデルに影響を及ぼす可能性がある。
 したがって、本件は金融の仲介機能そのものに関わる議論であり、慎重な議論が必要なテーマであるため、私ども金融機関も従来から意見を発信し続けているわけである。このIRRBBの議論はこれから今年度を通して議論が深化していくと思うが、今申しあげたような基本的なスタンスをこれからも然るべきところに発信していきたいと考えている。
 2点目は、G-SIBs、すなわち、「グローバルなシステム上重要な銀行」に課されるTLACの規制である。これは、2015年中に最終規則化される予定であるが、昨年11月にFSBから公表された市中協議文書では、わが国の預金保険制度が破綻処理制度として極めて強靭であるとして、いわゆる所要TLACの水準の計算にあたって考慮することが提案されている。この考え方は、金融庁、あるいは我々民間金融機関が主張してきた内容が取り入れられつつあるということである。
 また、持株会社が発行するシニア債の構造劣後性を認めることも提案されている。このことにより、傘下銀行が既に発行しているシニア債を持株会社の発行に切り替えることで、TLAC適格資本として認められる見通しとなっている。
 したがって、依然当局間での議論の最中ではあるものの、私どもとしては、TLACについては、今後の対応に関する見通しが良くなってきたと認識しているところである。
 3点目は、リスクアセットの算出に係る標準的手法の見直しと、見直し後の標準的手法に基づく資本フロアの導入である。これも2015年中に最終規則化する予定の議論である。
 リスクアセットの算出については、これまで、リスク感応度を高めるため、すなわち銀行が抱えるリスクを適切に捕捉するために、内部モデル手法などが導入されてきた。しかし、現在では、自己資本規制の複雑化や計算方法の高度化に伴い、国や銀行間での比較可能性が低下していることが問題点として指摘されている。
 こうした問題への対応として、全リスクカテゴリー、すなわち、信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクに係る標準的手法の見直し、そして、見直し後の標準的手法による資本フロアの導入が提案されている。
 標準的手法の見直しに関しては、例えば、信用リスクについて、事業法人向け与信や政策保有目的を含む株式等、全般的に高いリスクウェイト水準が提案されている。このまま規制案が導入されると、資本賦課の大幅な引上げに繋がり、銀行の本来的な役割である円滑な資金供給機能に影響を及ぼす可能性がある。
 また、見直し後の標準的手法に基づく資本フロアの水準が過度なものとなった場合は、これまで内部モデル手法を採用し、リスク管理の高度化に取り組んできた銀行のインセンティブが失われる可能性が高い。私どもとしては、銀行によるリスク管理の高度化の取組みを阻害することがないような規制の枠組みとする必要があると考えている。
 この標準的手法の見直しについては、今申しあげた論点から議論が進んでくるということだが、高い関心をもって見ていく必要がある。
 以上、3点申しあげたが、このほかにも、今後、レバレッジ比率規制について、定義や水準について最終調整が行われる予定であり、今年度はそういう意味では新しい銀行規制についての方向感が決まってくる大事な1年になるだろうと思う。
 金融機関が、金融仲介機能を持続的に発揮するには、金融システムやそれぞれの金融機関の健全性が前提条件であり、私どもとしては、一定の規制が必要であることは理解している。
 しかし、新しい規制の導入については、その規制が過度なものとなって銀行による円滑な資金供給を妨げることがないよう、バランスのとれた制度設計にしていただきたい。また、新しい規制の適用については、移行までの十分な期間を設けていただきたい。そして何よりも、各種規制の相互影響、複合影響を検証することが重要である。お互いの規制がバラバラに出ているが、それぞれの相関についても、銀行経営のみならず、経済そのものに対する複合的な影響をしっかりと検証したうえで新しい規制を取り込んでいくことが大事だろうと思っている。
 規制によってそれぞれではあるが、日本の銀行界の主張が最終規則に反映されるよう、今後も金融庁や日本銀行とも十分連携をとりながら、しっかりと意見発信をして参りたいと考えている。


(問)
 異業種からの参入に関して2点伺いたい。
 まず1点目が、最近、AmazonやLINEなどのインターネット系の企業がどんどん金融分野に参入してきているが、こうした動きを会長としてどのようにご覧になっていて、銀行として対抗あるいは協調する道というのはどういったことがあるとお考えか。
 2点目は関連して、金融審議会で銀行の業務範囲規制の見直し等に関する議論が以前からあるが、この議論を会長としてどのようにご覧になっているか。
(答)
 今ご指摘いただいたようにEコマース系の企業が新しいテクノロジーを使った決済代金の支払いを通じて、いわゆる一種の決済ビジネスに参入してきている。そういう状況は非常に大きな変化だろうと思う。
 このような異業種の参入が金融という産業にとってどういった影響を持つのか、それに対してレギュレーターとしてどういう対応が必要なのか、ということには海外当局幹部も関心を持っており、先日彼らと議論した際にも大きなテーマの一つとなった。
 お客さまの利便性という観点でも、新しいテクノロジーによる異業種の参入によって様々なサービスがもたらされている。アリババの例で申しあげると、皆さんのお持ちのスマートフォンをかざすだけで決済が行われるというようなサービスがある。さらに、Eコマースにおけるお客さまの取引データを、いわゆるビッグデータとして一種のスコアリングシステムに活用することで、小口の貸出を提供するところまで話が進んでいる。
 このように、伝統的な銀行業務である決済、送金、そして貸出という分野においても、新しいテクノロジーを伴った異業種から、金融機関が大きなチャレンジを受けているということは間違いのないところであろうと思う。

 3月3日の金融審議会総会において、「金融グループの業務の多様化・国際化の進展等の環境変化を踏まえ、金融グループを巡る制度のあり方について検討を行うこと」が諮問され、5月19日に「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」の第1回が開催された。
 当日は、「金融グループを巡る制度の変遷等」や「グローバル金融規制改革と金融グループを巡る動向」といった一般的、総括的な説明が行われ、その後の議論では、金融グループの健全性が重要である一方、わが国企業の国際競争力の強化、顧客利便性の向上という観点から、金融グループがIT投資をより柔軟に行えるようにすることなどのために、金融グループの業務範囲規制等を見直すことについて、基本的に前向きな意見が多かったと聞いている。
 金融機関としての受け止め方であるが、世の中が先ほども申しあげたような競争環境に向かって進んでいくことは間違いないと思うので、今後金融審議会での議論が一層進み、金融グループがより先進的なテクノロジーを自らのグループの中に取り込むなど、お客さまにとってより利便性の高いサービスを提供できるようになることは我々としても歓迎したい。現に米国では、大手金融機関がすでにグループ傘下にそのようなテクノロジーを持つ企業を取り込んでおり、しかも、実態としてかなりの数になっている。日本の金融機関もこうした分野において国際競争に負けないよう、なるべく早く必要な制度改正などが行われるのであれば、歓迎すべきであると思う。


(問)
 中国の人民元絡みのビジネスについて2点お伺いしたい。
 1点目は、現在事業会社の間で人民元決済が急増しており、中国当局の規制も次々に緩和されるなかでメガバンクの人民元関連ビジネスがだいぶ増えてきているとお聞きしている。こうしたなかで、東京にはクリアリングバンクがないなど不便な面があると思うが、「東京国際金融センター」構想等あるなかで、全銀協としてクリアリングバンクの東京設置であるとか、元建て債券の発行許可を金融庁や中国に求めかけていくというような動きはあるのか。
 2点目は、人民元を巡って金融取引がだいぶ規制されていたり、あるいは中国の経済指標が若干不透明ではないかという見方もあるなかで、最近はAIIB等を含めて人民元の国際通貨化という動きがかなり顕著な動きになっていると感じる。そうした中で、人民元という通貨そのものへの不安や、逆に日本円を人民元に対抗して国際通貨化を改めて目指すべきなのか、会長は確か外為審議会のメンバーに入っていらっしゃったと思うが、それを踏まえてご意見いただきたい。
(答)
 人民元の国際化の問題についてだが、2008年以降、中国人民銀行は各国中銀と通貨スワップ協定を締結してきた。また、2009年の7月から開始された、いわゆるクロスボーダー決済は2012年以降かなり本格化してきており、ドルを介さない、例えば日本円と人民元の直接取引も2012年の6月から開始している。現状ではロンドン、フランクフルト等で人民元のクリアリングバンクといわれるものが中国当局から認可されているということで、いわゆる人民元の国際化というものは、時間をかけてはいるが着実に進展しているということであろうと思う。
 人民元建ての債券についても、中国本土におけるパンダ債、あるいは香港での点心債だけではなく、2014年に初めてルクセンブルグやパリなどで債券の発行が人民元建てで行われている。しかしながら、今年の3月、李克強首相も参加した「チャイナ・ディベロップメント・フォーラム」というフォーラムに私も参加した。そこでの人民元の国際化の議論によれば、中国当局は、本当の意味での人民元の国際化というにはまだ相当時間がかかるという認識を持っているようであった。例えば金利の自由化や資本取引の自由化といったような制度面、それから、例えばディスクロージャーの問題とか格付け制度の問題といった、いわゆる金融インフラというものがベースにないと、本当の意味での国際化は進まない。それは中国当局自身が良くわかっている。中央銀行総裁にあたる周小川氏は今年中に金利の自由化を出来る可能性が非常に高いといっている。金利の自由化というのは日本でも過去にあったけれども、今の中国で金利の自由化をすると弱い銀行に影響が出る可能性がある。先般、ご承知のとおり、中国人民銀行は預金保険制度をつくるということを発表している。人民元の国際化に関連して、金利の自由化をしなければ国際化ができない、金利の自由化をすれば弱い銀行に問題が起こりかねない、そういう観点から先に手を打って、預金保険制度、これはかなり中身が充実していると私は思うが、環境を整備するようにしている。
 残った問題のうち大きいのは資本の自由化。資本というものはいたずらに自由化すれば中国経済全体に大きな影響を与えるということもあり、かなり慎重に進めるであろう。それについての道筋は、しっかりと中国政府の中で議論はされているとは思うが、まだ表になって出てくるという状況ではなく、少し時間はかかると思う。ただ、実需という観点から申しあげると、例えば日本の企業も円と人民元の取引がもっと自由化された方が便利であるとか、あるいは人民元の投資あるいは人民元建ての送金といったものがより自由になれば利便性が高まる。この要望は基本的には増加傾向をずっと辿っているので、そうした具体的なニーズがある以上、この動きは進んでいくと思う。円の国際化の話も出たが、円と人民元の最大の違いは、国内マーケットの大きさである。ドルもかつてのポンドもそうであったが、国際通貨になるためには、自国の経済が世界経済に占める比率が非常に高いということ、あるいは高くなるということが一つの大きな条件だと思う。そういう観点からいくと、何年先かということは色々議論があるが、現在中国経済はGDPで世界第2位であり、おそらく、いずれはアメリカを抜いてくるであろうし、そうした国の通貨は国際化するという基本的な要件を備えているということは言えるのではないかと思っている。時間軸はいろいろあると思うが、顧客のニーズ、その通貨としての基本的な強さあるいは経済としての強さをベースにすると、この国際化の流れは進んでいくと思う。
 円はどうしたら良いか。一つの考え方は、アジアという経済圏の中で人民元と円が一緒に強化されていくという道があるのではないか、と個人的には考えている。そういう意味では「東京国際金融センター」構想に繋がるよう、例えば人民元建ての債券も円建ての債券も東京のマーケットで発行され、そこで取引され、そして投資家が来る、あるいは金融機関がここで商売をする、ということでモノと人民元と円の関係というものを戦略的に整合化させていく試みなどが考えられる。円単独での国際化ということもあろうが、人民元とアジア経済のこれからのプレゼンスを活かしながら、協働して、例えばこの円と人民元というものをより幅広く使える通貨にしていくという、そうした試みに可能性がないわけではないと私は考えている。
(問)
 そうすると先ほどのクリアリングバンクの東京設置の必要性についてはどうお考えか。
(答)
 私ども自身、東京におけるクリアリングバンク設置に向けて何か具体的なアクションを進めているという状況ではないが、今申しあげたようにこの問題はお客さまの利便性が一番大事である。したがって日本企業、特に日本のお客さまにそうしたニーズがより強くなってくるとすれば、当然のことながらその先にはそうしたステータスも検討課題になってくるということではないか。


(問)
 決算の総括のところで補足をお願いしたい。
 15年3月期の決算で大手行・地銀ともに総資金利鞘がマイナスのところが出てきているがこれをどう見ているか、というのが1点。
 2点目に不良債権比率についてお聞きしたい。3メガバンクなどが過去最低の水準にある。今後この見通しはどうなるか。
(答)
 一つ目の総資金利鞘については、先ほども少し触れたが、貸出のボリュームは増えていく一方、貸出金利鞘は引き続き低下していくだろうと私は見ている。
 その最大の理由は、競争が非常に激しいこと、それから絶対的な金利水準の低い状態が長期化していることの2点である。また現在の金融緩和状況も踏まえると、国内の貸出金利鞘の低下傾向は、少なくとも今年1年は続くのではないかと思う。どこかで底を打つと思われるが、今のところそのタイミングが見えてきているという状況にはない。
 メガバンクであれ地銀であれ、国内貸出業務で収益を右肩に上げていくことは、基本的には難しい状況が今年度も続くのではないかと思う。今後重要なことは、非金利収入でどれだけ収益を獲得できるかであり、それが競争力の源泉になってくることだと考えている。非金利収入にもいろいろなものがある。例えば地銀では債券の運用益などがあり、メガバンクではM&Aやコンサルティング手数料、あるいは信託・証券という銀行以外のエンティティでの非金利収入などがあり、今後は各々を強化していくことができると考えられる。
 したがって、国内の貸出金利鞘の環境はこれからも極めて厳しいが、国内の金融ビジネスが一方向に右肩に下がっていくということではないと考えている。例えば、少子高齢化というような社会全体の構造のなかで、遺言信託や中堅・中小企業の事業承継といったビジネスをグループとして取り込むなど、日本経済の構造変化に絡んで、むしろ非金利収入を拡大する環境になってきているという見方もできると思う。メガバンクと地銀との違いについて、そうした様々なビジネスのバリエーションが、メガバンクに比べると地銀は少ないという見方もある。しかしながら、地銀は地銀特有の地域に根差したニーズの掘り起こし方を当然に保有しており、そうしたところを強化しながら国内ビジネスの収益を上げていくということがこれから大きな課題になってくると考える。
 もう一つは、不良債権比率の問題だが、歴史上最も低い水準になっていると言ってもいいと思う。先ほどマクロ環境については少し申しあげたが、倒産件数については日本国内で見てみると昨年度は1万件を割っており、これは24年ぶりの水準である。それだけ企業の財務状況が大きく改善されてきているのだと思う。これには二つの理由が考えられる。
 一つは何と言っても、リーマンショック以降の厳しい時代に大企業、中堅・中小企業を問わず徹底的なリストラあるいは構造改革をしてきたため、あるいは極めてイレギュラーな円高に対して生き残るべく厳しいリストラ・構造改革をしてきたためだと思う。それらが今大きく花を開きつつあるということではないだろうか。
 二つ目は、原油安など、マクロ環境の風が今フォローに吹き始めているためである。したがって国内について申しあげれば、当面不良債権が大きく膨らんでいくという環境にはないと考えている。
 一方で海外に目を転じてみると、個人的には不確定な要素があると見ている。例えば、原油価格の下落によってエネルギー関連企業の一部では影響を受けているところもあるし、ソブリンリスクについても、いくつか考えなければいけない問題が起こっている。また、いわゆるプロジェクトファイナンスと言われる資源開発の分野では、非常に高いレベルでの原油価格において採算が成り立つことを前提としているようなビジネスやプロジェクトがある。そういった貸出案件においては、今後原油価格の動向次第で、リスクが出てくる可能性は残っている。海外については、不動産関連の案件でも同じようなことが言え、ポートフォリオの作り方によって銀行のバランスシートの質に多少違いが出てくる可能性があるのではないかと思っている。


(問)
 2点質問がある。まず1点目は、個人消費の質問だが、消費増税から1年が経ち、クレジットカードの利用や住宅ローンの動向などから見て、足元の個人消費はどのような状況であるか。消費自体は回復していると思われるか。
(答)
 昨日発表されたGDP速報値でも、消費は回復しているが、その力はまだ依然として弱い。分析する際に考えなくてはいけないのは、高所得者層と低所得者層との間で消費のビヘイビアが大分違うということである。百貨店売上高の中身を見ていると、高所得者層の動きは、消費増税後6か月を経過するあたりからすでに回復基調に入っている。一方、一向に立ち上がらないのは、低所得者層の消費であり、むしろ倹約・節約という流れが続いていると思う。この要因は、マクロで見ても実質賃金のマイナスが続いているということであろう。今後大きなポイントになってくるのは、その実質賃金がプラスに転じるのはいつなのか、ということであり、それは次の四半期あたりでプラスに転じる可能性が出てくるのではないかと思う。何故ならば、賃金がベア等で上がってきており賞与も合わせてそれが浸透していくということ、原油安がマクロ的に浸透してくること、加えて、消費増税から時間がさらに経つ、というプラス要因があるからである。従って、遅れてきた低所得者層の消費マインド、あるいは行動パターンというものがもう少し強くなってくる可能性は非常に高いと思っている。残念ながら今は十分に消費が立ち上がってきているとは言い切れない状況にあるが、ここから先を考えるとこの状況はより回復していく、そういう意味では期待ができるのではないかと思っている。
(問)
 2問目はトピックが異なるが、東芝の不適切な会計処理が表面化している。このような取引先企業のガバナンスの問題について、銀行としてモニタリングできるものかどうか。モニタリングすべきか。銀行は財務上の観点だけではなく、取引先企業のガバナンスなども融資の基準などに含めているか。
(答)
 金融機関が貸出業務を通じて、借入企業のガバナンスにどこまで口を出せるのかという質問と理解したが、基本的には難しいと思う。貸出をするときには資金使途、あるいはプロジェクトファイナンスであればエクエーター原則に照らして環境に対する配慮がなされているかなど、そういったものをしっかり聴きながら、貸出に相応しいかを判断するために様々な質問をすることは可能であり、現にそうしている。その際、どのようなガバナンス体制を採用しているかということは企業を知るうえで大いに参考になるが、実際にどのようなことが起こっているか一つ一つチェックすることは難しいと思う。コーポレートガバナンスとは、企業が外部の目も入れながら自らの経営体制を強固にしていくというものであり、金融機関がそういったところまで何らかの優位的な立場で口を出すということは、基本的には難しいことではないかと思う。


(問)
 政策保有株について伺いたい。
 まず一つ目、コーポレートガバナンス・コードが導入されるが、これは銀行の持合い解消にどのような影響を与えるか。
 二つ目は、銀行を含めた企業の持合い構造が日本のコーポレートガバナンスを劣化させているといった指摘があると思うが、この点について佐藤会長はどのようにお考えか。
 三つ目は、国際金融規制の標準的手法の見直しのなかで、保有株式についてのリスクウェイトが市中協議案では上場企業が300%、非上場だと400%というように、ある意味懲罰的な水準になっていると思う。グローバルに見たときに、ドイツの銀行が株の保有を事実上やめて以降、日本の銀行しか株を持っていないというふうに言われている。そのなかで日本の銀行は株を減らす努力を続けていると思うが、そこで岩盤にぶち当たっている感がみられるのは、やはり株を持ち続けなければならないということか。
(答)
 3点質問があったが、まとめて回答させていただく。
 コーポレートガバナンス・コードは6月1日から適用される。コードの特徴の一つは、「コンプライ・オア・エクスプレイン」であり、もう一つは、「プリンシプルベース・アプローチ」である。そして、株を持つことが合理的であるかなど、主要な政策保有株式について取締役会で検証し、説明できるようにしておかなければならないと考えている。先ほど申しあげたとおり、「コンプライ・オア・エクスプレイン」という基本的な考え方をベースとして、個別の企業が政策保有株式について考えていかなければならない。
 金融機関にとって政策保有株式を持つことにどういう意味があるのか、ということについては、まず、お客さまとの関係において、政策保有株式を保有することによって、その企業の将来性あるいは成長性について金融機関としてコミットするという点がある。また、先ほどガバナンスの話もあったが、株主としての目線でその企業を見るということも、機能としてあるかと思う。
 むしろ、金融機関による政策保有株式が問題になってくる一つの背景がいわゆるサイレント・シェアホルダーといわれているものである。サイレント・シェアホルダーとして、自らの収益に何らプラスがない株を保有しながら、株主としての役割も十分に果たしていないということであるならば、国際的な議論の方向にも反するということに繋がると思う。もしそうであれば、この政策保有株式の保有意義というものを取締役会でしっかりと検証するということだろう。個別の金融機関にとって、また金融機関の使命としての日本経済への貢献といった観点も含めて、その株を保有することに意義があるのであれば保有し、意義がなければ売却する。それらをしっかりと説明できるよう決めていくことに、このコードの意味があると考えている。そしてこれから先は、金融機関のみならず上場している事業会社も含め、今申しあげたような観点から議論を重ね、最終的には「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」として6月1日以降に公表していくことに繋がると思う。
 ご指摘のように、政策保有株式については、これまで金融機関は売却の方針を丁寧に伝えて、理解を得たうえですでにかなり減らしてきており、最大時と比べると大まかに5分の4は売却してきていると思う。残りの5分の1は、今までにも話し合ってきた企業であるため、了解を取るのは難しい面もあるかと思うが、今申しあげた考え方については、金融機関だけではなく上場している事業会社、つまりお取引先自身もこのコードに応えなければならないことが一つの大きな変化だと思う。
 また、アベノミクスの改訂版日本再興戦略における主要施策の冒頭に「コーポレートガバナンスの強化」が打ち出されたということを高く評価した投資家が、日本の株式市場に投資してきている。そのことを考えると、今申しあげたコードのエッセンスを各企業がしっかりと受け止めて、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨も踏まえ、それをしっかりと外部に説明できるように「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を作りあげていくことが、極めて重要なことではないかと考えている。
(問)
 さらに銀行が株を売る背中を押す機会になりうるのか。
(答)
 個社によって受け止め方は違うと思うが、一般論として申しあげると、今申しあげたように、上場している事業会社もこの問題に答えを出していかなければならないということだと思う。お取引先の経営者自身もこのコードについてどのように考え、どのように説明するかを求められているため、従来に比べると、お互い共通の関心事としてガバナンスをどうしていくか議論する、という一つの下地にはなってきていると思う。


(問)
 金融政策に絡んで1点お伺いしたい。先日、日本銀行において物価目標の到達時期について、若干後ろずれするような発表があった。後ろずれするということで、銀行業に与える金利や債券などの影響についてと、気が早いかもしれないがその出口戦略についてどのようにみられているかをお聞きしたい。
 また、物価目標の到達が難しいようであれば、日本銀行の黒田総裁も躊躇なく金融の調整を行うということで、可能性としては追加の金融緩和も選択肢の中にあると思うが、仮に行われた場合、相場等を含め銀行業に影響があるのか、あるとすればどういった影響があるのか教えていただきたい。
(答)
 金融政策は日本銀行の専管事項であるため、全銀協会長としての立場で申しあげることはない。したがって一般的な考え方を申しあげたい。CPIは、事実として原油価格の下落によって、2%の目標からは離れてきている。ただ、黒田総裁がおっしゃっているように、これから少しずつ右肩に上がっていくことを想定すれば、足元の状況からすると来年度のいつかは別として、そうしたレベルに近づいていくということはありえると考えている。
 ここから先は個人的な見解を申しあげる。我々は、20年間デフレというものに大きく影響され、足を止めてきたわけである。黒田総裁のおっしゃっていることの最大のポイントは、絶えずデフレマインドというものに対してファイティングポーズをとり続けるということであり、私はとても大事なことだと考えている。そういった観点からすると、2%の到達時期ということよりも、むしろ物価目標2%を必ず成し遂げるという中央銀行総裁の強い意思表示がマーケットへのメッセージとなる、といった面があると思っている。よって、今の日本銀行の政策をそのように受け止めて、民間企業としてできることをやっていきたいと考えている。出口戦略については、申しあげるタイミングではないこと、また誰も出たことのない出口でもあるため、それについてはコメントを差し控えさせていただく。


(問)
 1点目に、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の預入限度額の引き上げの問題についてのご見解を伺いたい。2点目に、それに関連して、ゆうちょ銀行の社長に興銀出身の長門さんが就かれたが、佐藤会長と先輩・後輩の間柄でもあるので、全銀協として民間金融機関の意見のとりまとめに苦労するのではないか、といった話も一部で出ているが、もしご所見があれば伺いたい。
(答)
 2点目からお答えする。長門氏がみずほのOBであり、お互い長い国際部門の経験の中で色々なところで接点があったことも事実である。ただし、今回の人事についてみずほは全く関与しておらず、経緯や理由も承知していない。また、長門氏がゆうちょ銀行のトップになったからといって、全銀協として何か変化があるということもない。
 1点目に戻るが銀行界の基本的なスタンス、これは平野前会長以前から申しあげているとおりであって、郵貯事業改革の本来の目的の一つは、肥大化した郵貯事業をコントローラブルな規模にまで縮小し、民間金融市場に融合させていくことである。また、その実現に向けて何よりも大事なことであるが、日本郵政が保有するゆうちょ銀行株式をいつまでに全部処分するかというスケジュールを示してほしいということをずっと申しあげ続けている。残念ながら現在公表されている上場計画では、まずは保有割合を50%程度となるまで段階的に売却していくということが示されているにすぎず、我々銀行界としては、これでは国の影響を非常に大きく受けた巨大な金融機関が存在すると受け止めざるを得ない。
 郵政民営化法等改正法の附帯決議にも、日本郵政がゆうちょ銀行株式の全部処分に向けた具体的な説明責任を果たすよう努めることや、預入限度額の水準を当面は引き上げないという内容が盛り込まれており、預入限度額の引き上げに反対するという銀行界の基本的な立場に変化はない。
 特に、地方創生という安倍政権の大事な課題に対して、ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げというのは、地域の金融機関に最も大きくネガティブな影響が出ると思う。これは地銀、第二地銀のみならず、信用金庫、信用組合に非常に大きな影響が出る。地域の金融機関が弱っていくなかで地方創生を実現することが果たして本当に政策的に可能なのかということ、この1点を取り上げてみてもゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げというのは、反対すべきと考えている。


(問)
 メガバンクを中心とした海外貸出について伺いたい。
 個別行の決算でも説明されたが、国内と比べたら利鞘はあるものの、それでもあまり高くない、むしろ低下傾向にある。一つはメガバンクを中心に海外の超優良企業を相手にしているからではないかと。もう少しリスクアペタイトを海外でも取れないのか、それとも邦銀が海外でリスクアペタイトを広げすぎるとまた来た道になるのではないかと慎重になられているのかを伺いたい。
(答)
 国際業務のことをお話しするのは、全銀協会長としては極めて難しいため、個別行の立場でお答えする。
 先ほども申しあげたように、海外の資金需要は引き続き強い。特にアジアについては、ヨーロッパの金融機関が引き続き問題を抱えていることもあり、邦銀のアドバンテージはまだあると私は感じている。
 その中で、もっとリスクを取ればいいのではないか、ということについてお答えすると、メガバンクの中でも戦略はだいぶ異なっている。よりレーティングの高いところをターゲットにしている銀行と、もう少しレーティングが低くスプレッドが厚く取れるところで勝負している銀行で、かなり違ってきている。
 海外収益が伸びているという面では同じだが、これから先はそれぞれの金融機関の、特に世界経済をどう見るかによってくると思う。みずほの、ということかも知れないが、邦銀の国際業務戦略の過去を振り返ってみると、良いときは勢いよく伸びて、なにか危機が起こると急に縮小していく。過去大きな波で見ても3回ぐらいあった。
 みずほということで申しあげれば、私は頭取就任以来、国際業務戦略について10年タームで見たとき、とにかくサステナブルにプレゼンスを拡大していくことが、最も大事だろうと考えてきた。一時的にスプレッドが大きいところで稼いで、経済が悪化すると引き揚げるというやり方は、日本の銀行のグローバル金融マーケットにおけるプレゼンスを決して高めることにはならない。
 この判断はいろいろある。邦銀のバランスシートの強さからもっとリスクを取った方がいいだろう、という投資家もおり議論になる。ただ、歴史認識の話になるが、リーマンショックが2008年、その前の大きなマーケットの混乱というのは、1997年のアジア通貨危機、すなわちリーマンショックの10年前。その前は何があったかというと、1987年のブラックマンデー、やはり10年前である。偶然かもしれないが、10年ごとにマーケットは危機を経験している。これを単なる偶然というのか、あるいは、資本主義というもののもっている一つの構造問題というのか。もし仮に成長するときに必ずその中に負の要素を蓄えながら進んでいくというのが資本主義だとすると、今、我々が立っている2015年というのは、リーマンショックから7年経過して、8年目に入り、あと2年で10年経つ。これから2、3年の世界経済を考えたときに、何かが起こってもおかしくない。一番大事なことは、世界経済のどの部分が最もウィークリンクなのかという観点でグローバルマーケットを見ていかなければいけないタイミングであるということだろう。利鞘が厚いところがあったとしても、業界、国の動向や、世界経済全体の抱えている過剰流動性の問題、それからアメリカが金利を上げていくかもしれないという環境、そういった世界経済というものをどう見るか、という非常に複合的で多面的な見方をしたうえで、さらに個々のスプレッドを取りにいくのかどうかを個別行が考えていくという局面にいるのではないか。