2015年6月18日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、6月10日に金融庁から法令遵守態勢等に関して行政処分を受けたウリィ銀行への対応を審議し、全銀協として同行に対する注意処分を行った。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様


(問)
 バーゼル委員会が銀行勘定の金利リスクについて、市中協議文書を発表した。
 二つの選択肢が提示されているが、銀行界の受け止め、あるいはこの規制が導入された際の影響について所見をお願いしたい。
(答)
 ただいまのご質問は、いわゆるIRRBBの件だと思う。
 先般、市中協議文書が公表され、銀行勘定の金利リスクについて、リスク量の計測を標準的手法により定式化し資本賦課する「第1の柱」案と、現行のアウトライヤー基準による監督の枠組みを維持しつつ監督対応を明確化・透明化する「第2の柱」案が、両論併記で提案されている。
 我々銀行界の声、そして、本邦当局によるご尽力もあり、私どもがかねてから主張してきた「第2の柱」による管理が選択肢として示された点は、現時点では前向きに捉えたいと思う。ただし、あくまでも、「第1の柱」との両論併記であり、今後の議論の動向を注視していく必要がある。今回、9月11日までの意見書提出等のスケジュールが示された一方で、最終規則化の期限は明記されておらず、これから引き続き議論が行われていく状況である。
 従来から申しあげているとおり、私どもは金利リスク管理の重要性を大いに理解している。また、本邦においては、「第2の柱」による監督の下、金利リスク管理の枠組みは十分健全に機能している、というのが私どもの主張である。
 市中協議文書は公表されたばかりであり、詳細はまだ分析中である。全銀協としては、定量的なものを含めて影響について申しあげることはしないが、「第2の柱こそが適切」という点について、現時点での個人的な考えではあるが、2点申しあげる。
 第1に、銀行勘定の金利リスクの性質は、実に多種多様であるため、各行が自らのビジネスモデルや取り扱っている商品の特性に応じて、内部モデル方式を用いてリスクを計測することが適切である。したがって、標準的手法に基づく「第1の柱」を一律に適用することはそもそも馴染まないと考える。国ごとあるいは金融機関ごとに、バランスシート構造やアセット・ライアビリティ・マネジメントの運営状況は区々である。したがって、金利リスクの性質は各行で異なる。
 例えば、金利が上昇した際、住宅ローンが期日前返済される割合は、それぞれの国や住宅ローン市場の状況、あるいは、取り扱っている商品の特性によって様々である。また、預金が銀行口座から流出する程度や預金金利の金利感応度も、銀行を取り巻くその時々の経営環境、あるいは銀行自らの事業戦略やバランスシートの状況によって大きく異なる。
 かかる問題点について、今回の市中協議文書では、標準的手法によるリスク量の計測に適さないものについては、銀行ごとの推計値を一部勘案可能とする案が示されているが、銀行勘定の金利リスクの性質の多様性に十分に対応するものとなっているかどうか、この点についてこれから詳しく精査する必要がある。
 第2に、銀行勘定を通じた、安定的なお客さま宛の資金供給機能は金融機関の最も基本的で重要な機能であるが、この重要性に留意すべきと考える。
 商業銀行の基本的な役割は、銀行勘定を通じて、預金による短期の調達を、企業の設備資金や社会インフラ整備に向けた資金、あるいは住宅ローン等の長期の貸出に振り向けることである。この安定的かつ円滑な「満期変換機能」こそ、商業銀行が持っている本源的かつ社会的な使命であり、これは経済にストレスがかかっている時も、当然に継続を期待されている。
 このように、円滑な金融仲介機能を支える銀行勘定と、ストレス時に機動的にポジションを変える、あるいは解消することが可能なトレーディング勘定とは、本質的にその目的が異なる。したがって、トレーディング勘定と同様に「第1の柱」による資本賦課を課すことは合理性に欠けると考える。
 以上の2点に加えて、規制を導入する際には、規制間の相互影響について十分に配慮する必要がある。場合によっては、互いに「増幅」あるいは「重複」することさえあり得る各種規制の相互影響を事前に全て予測しつくすことは極めて困難である。特に、「金利リスク」という金融取引全般に広く密接に関連するテーマであれば、なおのこと、他の規制との相互影響に対する十分な配慮が求められる。
 本邦においては、ストレステスト等を活用して、B/S・P/Lの見通しを踏まえた資本の充実に努める等、現行の「第2の柱」による金利リスク管理が十分に機能しており、先ほど申しあげた理由も含めて、敢えて「第1の柱」という新たな枠組みへ移行する必要性は無いと認識している。
 規制の最終合意時期や適用開始時期は未定であるが、今後、市中協議文書に対するコメントや定量影響度調査(QIS)の結果等を踏まえて、バーゼル委員会において規制の最終化に向けた議論が進むものと認識している。全銀協として、金融庁、日本銀行とも十分に連携を取りつつ、我が国銀行界の意見を積極的に主張してまいる所存である。


(問)
 6月から適用が始まったコーポレートガバナンス・コードだが、政策保有株式の原則で経済合理性・将来の見通しを検証する、あるいは保有の狙い、合理性について具体的に説明を行うべきであるとことが盛り込まれている。銀行界としてどのように対応されていくのか会長の考えを聞かせていただきたい。
(答)
 6月1日、東京証券取引所においてコーポレートガバナンス・コード、および改正上場規程等の適用が開始された。コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものである。
 これらが適切に実施されることにより、それぞれの会社において、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することが期待されている。全銀協においても、5月14日に通達を発信し、全銀協会員宛に趣旨を周知したところである。
 コードの特徴について申しあげれば、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用し、形式的な準拠・適用では無く、その趣旨・精神に照らして適切か否かを判断することを求めていることと、法的拘束力を有する規範では無く「コンプライ・オア・エクスプレイン」、すなわち「実施するか、実施しない場合にはその理由を説明しなさい」という手法を採用していること、の2点である。
 ご質問の政策保有株式について申しあげると、銀行側での保有のねらいや合理性についての説明のみならず、上場している事業会社、つまりお客さま自身もコードの趣旨・精神に照らして自らのガバナンス上の課題への自律的な対応や、株主との建設的な対話などが期待されている。つまり双方向の問題であるということが、一つの重要なポイントである。
 まず株式を保有する銀行側としては、政策保有株式に関する方針を開示しつつ、取締役会で主要な政策保有株式について、そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うことが求められている。
 銀行が一般事業会社の株式を持つ意義としては、先ほど申しあげた採算性・収益性等に加え、その企業の成長性あるいは将来性について金融機関としてコミットする点、株主としての目線でその企業を見るという点等があると考えている。
 一方、一般事業会社にとって金融機関が株式を保有する意義としては、推論も入るが、自社に必要性が生じた際、円滑に資金調達できるよう、金融機関との取引関係を強化するといった考え方、あるいは自社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に資するよう、株主である金融機関と建設的な対話を行うことへの期待感などがあるのではないか。
 ただし、そもそも金融機関は、コンサルティング機能を発揮し、お客さまの様々な相談に対して最適なソリューションを提案することが求められている。したがって、株式を保有しているか否かに関わらず、お客さまが解決すべき課題を持っている場合や、さらなる成長の機会について決断をしようとしているとき、金融機関として、そうしたお客さまが抱えている課題、プロジェクト、あるいは計画に対して最適なソリューションを提供し、それらを一緒に克服し、ともに成長していくことを実践していくことが極めて重要な役割となっている。逆にいうと、そうした関係をお客さまと金融機関との間でしっかりと築きあげていくことができれば、お客さまの抱いているかもしれない持合い株の解消という不安要素を取り除いていけるのではないかと考えている。
 いずれにせよ、銀行とお客さまとの共通の関心事として、政策保有株式を含めたガバナンスのあり方について議論する、という一つの下地が、コードの適用により徐々に醸成されてきているものと考えている。
 今後、コードの趣旨・精神を踏まえた建設的な対話を通じて、様々な検討・取組みがなされるものと理解しており、それが日本経済に対する見方を、よりポジティブなものにしていくと期待している。
 なお、個別行の話ではあるが、みずほFGは6月1日に「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を東京証券取引所に提出した。その中で、当社および当社の中核子会社は、コーポレートガバナンス・コードを巡る環境の変化や、株価変動リスクが財務状況に与える影響等に鑑み、お客さまの成長性、将来性、もしくは再生等の観点や、現時点あるいは将来の採算性・収益性等の検証結果から、保有意義がない政策保有株式は保有しないことを基本方針としたところである。この「保有意義」の考え方等について、今後、より詳細な議論を重ねていくとともに、お客さまに対しては、それぞれのお客さまとの取引関係を十分念頭に入れたうえで、みずほの考え方を丁寧にご説明していく方針である。
 さらに、議決権行使基準については、発行会社が適切なガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の増大につながる適切な意思決定を行っているかという観点や、当社グループの企業価値向上の観点も踏まえ、総合的に賛否を判断し議決権行使を行うことを明確にした。


(問)
 2点伺いたい。
 1点目は、今月12日に新銀行東京と東京TYフィナンシャルグループが経営統合に向けた基本合意を発表した。新銀行東京については、自治体による初めての銀行経営ということで、色々と注目を浴びた銀行だったが、結局、東京都は設立から10年経って、経営からある程度手を引くという決断をした。
 これに対する受けとめと併せて、今、東京の金融のマーケットを巡って、銀行同士の競争が激しくなっていると聞くが、首都圏地域での今後の再編を含めた動きに対してどのような見通しを持っているのか伺いたい。
(答)
 東京TYフィナンシャルグループの2行の統合がすでにオンスケジュールで進んでいるなかで、新銀行東京との経営統合という新しい事実が加わった。東京TYフィナンシャルグループと新銀行東京の両行の発表によると、統合後の新しい銀行は、「東京都と連携を継続し、都の補助金や制度融資などの中小企業施策を生かした金融サービスを、120店舗超の営業網で展開する」とのことである。
 詳細は存じあげないが、そういう観点からすると、新銀行東京の成り立ち、あるいは趣旨をある程度引き継ぎながら、東京TYフィナンシャルグループの中に新銀行東京を巻き込んでいくというような戦略だろうと感じている。
 首都圏というエリアの中で、こうした銀行が出てくるということは、合理性があるのだと思う。
 ご承知の通り、大田区などを中心に、東京都あるいは首都圏でも、大企業を支える極めて技術力の高い中堅中小企業は非常に多い。その中には今後さらに成長し、海外を展望するという会社もたくさんある。それらの取引先を元々持っていた東京都民銀行や八千代銀行が、さらに規模を大きくすることによって財務基盤を強化し、そうした取引先の成長を助けていくということは、日本経済全体にとっても極めて有意義なことだと思う。そこに新銀行東京が、東京都との連携を継続しながら入ってくるということも、ある種の合理性があると感じている。
 また、大都市圏というものは、東京を中心に一極集中と言われるほど経済活動が集まっており、地方銀行にとってもそれなりに魅力的なエリアに見えるのではないか。あるいは今後地方創生を考える場合でも、大都市圏の企業との関係が非常に大きなテーマになってくる。例えば、農業の6次産業化において地元の企業や農業と大都市圏のリテーラーといった関係が非常に重要であること一つをとってみても、地方銀行の大都市圏への進出というものが別のかたちで起こってもおかしくはない。
 このように大都市圏には、傘下に証券や信託といった様々な機能や海外の広いネットワークを持っているいわゆるメガバンクと、地場の企業に根を下ろして、そうした企業の成長を助けるいわゆる地方銀行、あるいは信用金庫、信用組合が共存していける余地も大いにあり、こうした流れが今後進んでいくのではないか。


(問)
 2点目は、ギリシャについて伺いたい。
 今、ギリシャの金融支援に向けてユーロ各国とギリシャは協議をしているが、なかなか進展せずにデフォルトの懸念が高まっている状況にある。仮にギリシャ国債がデフォルトした場合の日本の金融機関への影響や、日本経済に対するインパクトはどのようなことが考えられるかについて伺いたい。
 また、最悪のケースとして、ギリシャがユーロ圏を離脱するということに発展しかねないと言われているが、そういった最悪の事態になったときの金融市場や世界経済へ与えるインパクトとはどのようなことが考えられるか伺いたい。
(答)
 ギリシャの問題が注目を集めてきているということは、ご指摘のとおりだと思う。ギリシャの新政権は2月にユーロ圏と支援策の延長でいったん合意をみたわけである。ただ、その後支援の実施に向けた交渉というものはご承知のとおり、一言で言えば難航しているという状況であり、事態がますます流動的になってきているということである。なかなか見極めが難しく、マーケットも大げさに言えば固唾をのんで見ているという状況である。
 ギリシャ政府の債務はGDP比で見て170%と非常に大きく、さらに2015年に大型の償還があることから、キャッシュフローが回るのかどうか、という問題が切迫した状況になっている。
 したがって、今後の交渉の行方を見守るしかないという状況であるが、従来のギリシャ危機と言われた時期から比べると、ギリシャの問題がユーロ圏全体の危機ということに広がっていく可能性は少なくなってきているのではないかと思う。
 例えばスペインについて、欧州債務危機が深刻化した時期と比べると、その後の改革によって財政健全化あるいは労働市場の改革などの必要な調整が進展しており、経済状況はかなり良くなってきている。ギリシャがトリガーになって欧州中に広がるという連鎖の問題は、以前のギリシャ危機の際には確かに存在した。そうしたリスクが現在は全くないと言えるかどうかは分からないが、その当時との比較ではかなりそういう要素は少なくなってきているということが、理由の一つとして挙げられると思う。
 また、もう一つの理由として、いわゆる制度的な観点からのサポートが、当時に比べるとより強くなってきていることが挙げられる。一つ例を申しあげると、欧州安定メカニズム(ESM)が稼働し、国債市場への介入の仕組みであるOMTという制度も、対象は短期国債のみではあるものの出来あがっているので、そうした一種のセーフティネットが以前に比べて整備されてきており、その点でもギリシャの問題の波及ということは、仮にギリシャがユーロから離脱するというような結論を出したとしても、その影響を極小化する仕組みはできているということだろうと思う。
 もともと、ギリシャのユーロからの離脱については国民が必ずしも離脱を望んでいるわけではないということから、可能性はそれほど大きくはないと思う。リスクシナリオで考えた場合にも、それが欧州全体に影響が及んでグローバルな危機に繋がるという可能性が全く無いわけではないが、その対応についてはだいぶ整備されてきているという認識である。
 昨年末時点のBISの統計によれば、ギリシャの国外からの融資残高は468億ドルだが、そのうちドイツが133億ドル、アメリカが127億ドル、イギリスが122億ドル、そのほかオランダ、フランス、イタリアなどが十数億ドル程度で、そういったヨーロッパの金融機関に比べると、日本の金融機関の個別の銀行の数字は分かっていないが、ギリシャのリスクというのは相対的には極めて小さい。したがって、ギリシャのリスクが直接的に日本の金融、あるいは金融システムに及ぶということはないと思う。
 これが欧州危機あるいは世界経済の危機になる場合には、日本の金融機関も大きな影響を受ける可能性はあるが、繰り返しになるが、その可能性は大きくない。


(問)
 ゆうちょ銀行の限度額引上げの問題に関して、自民党の特命委員会による提言の原案が今朝、報道され、それによると現行の1千万円から、9月末までに2千万円、2年後までに3千万円とするような内容である。
 これまで全銀協としておっしゃっていたのは、国の信用力を背景にした状況が見えるなかでは限度額引上げは民業圧迫に繋がるのではないか、あくまでも反対していくという話をされていたと思うが、具体的にスケジュール感と数字が出てきたことついて、今の佐藤会長の受けとめについて伺いたい。
(答)
 そうした報道があることは承知しているが、どこまで事実なのかという詳細については存じあげない。ただ、今ご指摘いただいたように、私ども金融界としては、預入限度額の引上げがもたらす様々な弊害を大変危惧しており、万が一その報道が事実だとすれば、明確に反対ということを申しあげる。
 そもそも、郵貯改革の本来の目的は、肥大化した郵貯事業を適正な規模に縮小して、国民経済的なリスクを減じること、それから郵貯の資金を民間市場への資金還流という形で国民経済の活性化へと繋げていくことである。
 そして改正郵政民営化法の附帯決議では、日本郵政はゆうちょ銀行の株式全部処分に向けた具体的な説明責任を果たすということが定められている。しかしながら、完全民営化に向けた具体的な株の売却スケジュールはこれまでも要求してきたが、未だに説明責任が果たされていない。言葉を変えれば、引き続き政府関与が残った状態である。これは非常に影響の大きな事実であり、民間金融機関との公正な競争条件が確保されていない状況が続いているということをはっきりと認識すべきである。
 そうした状況の中で、預入限度額を引き上げることは、「規模の縮小」あるいは「民間への資金還流」といった郵貯事業改革の本来の目的に逆行することになる。「当面は引き上げない」、あるいは「他の金融機関等との競争関係に影響を及ぼす事情等を勘案して定める」と、しっかりと記されている改正郵政民営化法の附帯決議にも反する内容である。こうした理由から、従来より預入限度額の引上げについては反対の声をあげてきた。
 我々金融界としては、ゆうちょ銀行にとって預入限度額引上げよりももっと大切なことがあると考えている。それは「円滑な上場をしっかりと果たしていくこと」や「郵貯事業を円滑に既存の民間金融システムの中に融和していくということ」、そしてここが大事であるが、「地域との共存あるいは地方創生に貢献すること」である。
 この「円滑な上場」に関して申しあげると、預入限度額の引上げによる郵貯事業のさらなる肥大化や民間金融機関との競合は、運用戦略の高度化や手数料収入の拡大、あるいは地域金融機関との連携を柱とするゆうちょ銀行自身が謳っているビジネスモデルの方向性とは全く整合していない。
 また、国内外の投資家からも、「ゆうちょ銀行がいかにバランスシートやリスクをコントロールできるかに注目している」といったような声も聞かれている。そのような投資家にとってみると、さらなるゆうちょ銀行の規模拡大は、エクイティストーリーにとってもネガティブな評価に繋がりかねない。これはすなわち、上場時の企業価値が下がるということ、ひいては復興財源として財政面で期待される売却金額に至らないということに繋がりかねない。したがって、預入限度額の引上げはゆうちょ銀行の成長戦略やそれを前提とする円滑な上場の実現に向けて決してプラスにはならないと考えている。
 もう一つ、「融和」や「地方創生への貢献」について申しあげると、巨大な経営基盤や信用力を背景とするゆうちょ銀行の預入限度額が引き上げられれば、民間金融機関、特に地域金融機関の預金や顧客基盤が流出して、その地域やあるいは地域の金融システムに甚大な影響を与えかねない。「そんなことはない」という意見もあるが、それは、現在の環境の継続を前提としている面が非常に強いのではないかと思う。金利上昇など、今後激しい環境の変化が生じれば、先程申しあげた政府関与のあるゆうちょ銀行の優位性というものがより強く出てくる可能性がある。言い換えると、民間の地域金融機関にとって、その経営基盤が大きく損なわれるということに直結する。その結果として地方創生のメインプレーヤーである地域金融機関の金融仲介機能は低下し、アベノミクスの最重要課題である地方創生の推進力が大きく損なわれるということに繋がってしまう。
 これは今そこに見えている危機である。今、地方創生において各自治体が地方版総合戦略を作成しているが、70%以上の地域金融機関が地元でその議論に参加している。そうした力が削がれていくということは、国家的な課題である地方創生の推進力が大きく損なわれてしまうということであり、大変危惧しているところである。
 今申しあげたように、預入限度額の引上げがもたらす弊害というのは国民経済に影響を与えるほど大きい。万が一報道されている内容が事実だとすると、従来以上に強く、明確に反対していかなければいけないと思う。これは、金額の多寡の問題ではないと考えている。ゆうちょ銀行と民間金融機関との本当の意味での公正な競争条件のもとで、預入限度額が引き上げられるのであれば、これは「競争」ということでありうる話だと思うが、不公正な競争条件のもとで預入限度額が引き上げられるということは許されるべきではない。
 むしろ、ゆうちょ銀行と民間金融機関が公正な競争条件の下で共存し、それぞれの機能や経営基盤を活かして連携あるいは協調して、わが国の最重要課題である地方創生あるいは成長戦略に共に貢献していくことがあるべき姿である。
 昨日、全国地方銀行協会の寺澤会長が同様の趣旨のことをおっしゃっている。私自身、地方銀行あるいは第二地方銀行とゆうちょ銀行が共存できる道というものがあるのではないかとずっと考えてきたし、地方銀行のトップの方々とも議論してきた。例えば、ATMの共同利用や、過疎の地域で店舗を維持していくことが難しいところを郵便局が代理店業務を行う、あるいは地方を創生していくためのファンド投資で連携していくなど、ゆうちょ銀行と地方の金融機関が共存していく方法がいくつもあるなかで、限度額引上げという論理的には全く受け入れられないことを主張するということは、せっかく醸成されてきた地域金融機関とゆうちょ銀行との共存という道が断たれてしまう。昨日の会見で寺澤会長はここを非常にはっきりと示唆されており、私も日本経済の将来にとって、あるいはゆうちょ銀行の将来にとって、預入限度額引上げが正しい方向であるとは全く思えない。


(問)
 アメリカのFOMCの利上げによる金融市場に与える影響についてお伺いしたい。
 昨日、アメリカのFOMCにおいて、年内の利上げが可能ということが再度示されたが、これは少なからず今日の為替や株のマーケットに影響を与えたと思う。アメリカの利上げが与える日本の金融市場への影響についてご所見をお願いしたい。
(答)
 今回、金融政策自体は据え置かれた。ただ、年内の利上げの開始可能性が高いとマーケットが見ていることはご指摘のとおりだと思う。雇用とインフレ率の両面で進展が見える中、今回据え置かれた根拠について、イエレン議長は明確には言わなかった。
 FOMCの参加者による2015年の経済成長率の見通しは引き下げられたが、ご承知のとおり、1月から3月期についてマイナス成長を織り込んだ結果であり、天候不順によって米国経済のGDPがかなり下に引っ張られた特殊要因が含まれている。一方、緩やかな成長が続いている中で実際に利上げということになると、雇用の改善や、インフレ率の向上、こちらは2%への上昇といわれているが、もう一段しっかりとした根拠を確かめたいということをイエレン議長は話している。
 ただ、先ほど申しあげたとおり大方の見方では、年内に利上げがあるのではないかといった観測が強くなってきており、9月という人もいれば、年内という人もいる。具体的にFOMCの資料を見ると、年内に利上げを開始することを支持するFOMC参加者は15名、来年を支持する参加者が2名となっており、ほとんどが年内の開始を支持している。
 2週間前に私がアメリカの投資家やFRBを訪れた際は、色々な米国経済の見通し、あるいはグローバルな経済への影響といった観点から、利上げがあるとしても急激な利上げをすることはないだろうという人が大勢であった。一般的な見方で言うと、初めは25ベーシスポイント程度上げ、それを数回続けていくという流れがメインになるのではないかという意見が多い。先ほど、イエレン議長の話を申しあげたとおり、もう少し米国経済の実態を見たいということがFRBの本音であろう。これから上期が終わって下期に向けての経済指標を確かめたうえで、利上げに踏み切ることになると思われるが、その幅は決して大きくならないのではないかと私は考えている。
 もう一つ別の角度から申しあげると、イエレン議長は、経済の実態的な現状を踏まえると、急激な利上げはないのだから、過度に時期に注目してほしくないと再三言っている。米国の金利が上がっていくことになると、恐らく、ドルが買われることになり、ドルがより強くなっていく。こちらは私の個人的な感想になるが、米国経済に与える影響も考えられるが、加えて世界経済に対する影響を相当懸念しているようである。金利が上がると世界のお金がドルに集まってくるため、発展途上国に影響を及ぼす懸念があることに加え、例えばプロジェクトファイナンスでは、ドルのコストが上がることでファイナンスの採算性が落ちてくることになる。金利を上げるということと、ドルが上がるという両方の側面から、金利の引上げについて相当に慎重な判断をするように感じられる。
 したがって繰り返しになるが、今年金利を上げるかどうかはわからず、時期を特定することは難しいが、上げるときは大きく上げるのではなく、少しずつ様子を見ながら上げていくといった対応を取るのではないかと予想している。その方が日本経済にとっても影響について織り込んでいけるため、良いのではないかと考える。いずれにしろ、突然の動きがあると、世界経済や国の経済に与える影響は非常に大きくなると思うので、うまくハンドリングしていただきたいと考えている。


(問)
 2点質問がある。先ほどお話しされた日本郵政グループについて、上場が今年後半のどこかで行われるということで、エクイティストーリーを着々と作っている最中であるが、そのなかで先日、三井住友信託銀行、野村証券との個人金融資産獲得に向けた合弁会社、これは資産運用であるが、全国の郵便局で販売していくという計画が一部報道された。これについてどのようなお考えを持っているかということを、まず1点目として伺いたい。
(答)
 報道の内容しか判らないので、いま正確な情報を持っているわけではないという前提で申しあげる。先ほど、民業圧迫の話は一般論として申しあげたが、暗黙の政府保証という状態が残っている段階で、その影響を受ける業務を拡大する、あるいは規模を拡大するということについては、徹底的に反対していきたいという立場である。逆に言うと、すでにゆうちょ銀行に取扱いが認められている分野で、暗黙の政府保証の影響を受けないような形であれば、一種の成長戦略としてそこを強くし、拡大していこうというゆうちょ銀行の取組みについて、一般論としては反対するということではないと思う。
 したがって、今回の報道のような個人向けの資産運用ビジネスの強化ということ、つまり先に申しあげたような範囲の中にとどまっているものであれば、それぞれの機能や経営基盤を活かして、ゆうちょ銀行と民間金融機関が提携を通じてより強い成長戦略を描いていくということはあり得ると思う。
 そうした認識が共有できる環境である限りは、民間金融機関との個別の連携について、なにか批判的なものを申しあげるという立場にはない。あくまでも個別の経営判断であると思う。詳細がこれから発表されるということであれば、今後注目してみたいと思うが、いまのところは以上のように認識しているということである。
(問)
 2点目だが、上場のために各証券会社、それから銀行系証券は主幹事として、またコマネとして準備をしているが、こうした不公正な競争環境下で規模を拡大しようという動きの中で、例えば、みずほの系列の証券としては、顧客に対してエクイティストーリー、成長性を訴えて、そして株を買ってもらう努力をしていかなければいけないと思うが、そこは矛盾・齟齬というものが生じないものなのか。あくまでもウォールがあるから構わないということなのか。
 バンカーとして、どのように発行体の成長のあり方を、今後、いろいろな考えをもった中で、どうやって株を個人投資家なり機関投資家に売るかといったときに、矛盾を感じないものなのか、その辺をお聞かせ願いたい。
(答)
 主幹事証券会社の立場というのは、ご指摘いただいたように、しっかりとしたエクイティストーリー作りのお手伝いをはじめ、投資家に株を買っていただくべく、上場をサポートするということである。今回の場合は、国家的な要請もあるなかで、なるべく高い値段で買っていただけるよう、上場をサポートすることが証券会社の役割であり、コンプライアンスや開示なども含めてアドバイスしていくという立場だと思う。したがって、我々銀行界が反対しているような問題があったとしても、主幹事証券会社の業務の内容が我々とバッティングするということはないと思う。
 ただ、先ほど申しあげたようなエクイティストーリーがどういったものであるべきか、ということについては、当然のことながら各証券会社は、それぞれのマーケットの見方とか、あるいは投資家の見方というのをアドバイスする立場にある。エクイティストーリーを決定するのはその企業であり、そのストーリーがしっかりとマーケットに認められるのかどうか、例えば限度額の引き上げの件をどう考えるか、あるいは投資家に対して説得力を持つのかということについて、個別にアドバイスしていくという立場なのであろう。銀行と証券会社とでは金融機関としての立場と役割は違うが、最終的にこの上場を成功させて、それが国民経済的に受け入れられ、ひいては復興財源問題の解消にもうまくつながっていくということを目指すという大きな意味においては、同じ方向に向かっているということだと思う。したがって、ご質問にストレートにお答えすれば、立場の違いからそこに矛盾はないわけであるが、証券会社としては、今申しあげたような投資家の考え方をはじめ、マーケットの受け止め方について適宜適切に発行体に対して情報を入れていくということが重要な役割ではないかと思う。


(問)
 6月に入って、年金機構や東京商工会議所でサイバー攻撃による情報漏えいが相次いでいる。個人情報を大量に取り扱う金融機関も他人ごとではないと思うが、一連のサイバー攻撃による情報漏えいについて会長のご所見と金融機関の現状の対策、また今後の取組みについて教えていただきたい。
(答)
 サイバー攻撃の問題は日に日に大きな課題になっている。国内を見渡してもウェブサイトの不正改ざんの事例は多数報告されており増えている状況である。大企業に対する不正アクセスや標的型攻撃の脅威は日々増加し、大変深刻な問題となっている。金融機関にとってもサイバー攻撃をはじめとする金融犯罪への対策が極めて重要な課題の一つになっていることは言うまでもない。
 日本においては、2014年11月に「サイバーセキュリティ基本法」が成立し、このなかで、国が行政機関などのサイバーセキュリティを確保するとともに、重要インフラ事業者に対しては自主的な取組みを促進させる必要がある、と規定されている。銀行は、政府の定める重要な社会インフラの1つに掲げられており、各行において、システム面での手当てとともに、従業員に対する基本動作の徹底を実施している状況である。
 個別行の話になるが、みずほとしても三つの対策を展開している。「入口対策」として外部からの不審なアクセスやウイルスの検知遮断、「出口対策」として不正サイトへのアクセス防御、「内部対策」として最新のウイルス対策ソフトの導入や不審なアクセス等の監視といったことをシステムベースで徹底的に行っている。また、社内体制の整備という観点からも、不審なメールの開封禁止、ウイルスメール検知時の連絡の徹底、あるいは顧客リスト等へのパスワードの設定やフォルダアクセス権限の適切な設定といったようなことを、時間と労力をかけて従業員の教育を通じて行っている。
 こうした努力を継続することが必要であるが、最近のサイバー攻撃により起こった事象を見ていると、入口、出口、内部の対策のどこかに弱点があるというケースが多いと感じているので、金融機関全体としてこの三つの対策をさらに強化していくとともに、お客さまである事業会社や個人の方々に対しても、そうした対応の必要性についてしっかりと発信していきたい。引き続き、銀行等CEPTOARや金融ISACを通じた攻撃事案情報の共有化、例えばサイバー攻撃に関する事件、事故の情報を展開して、日々巧妙化・高度化しているサイバー攻撃あるいはサイバー犯罪への対応にしっかりと取り組んでいきたい。
 また、6月4日付で金融庁から全銀協に対して、「日本年金機構の個人情報流出に伴う不正の防止についての要請」があった。全銀協としても金融庁の要請を踏まえ、各会員行に対して通達を発信し、こうした事象に関する注意喚起をさらに行うとともに、一般の方々に対しても全銀協のウェブサイトにおいて具体的な注意喚起を行っているところである。
 サイバー犯罪への対応は、相手の技術がどんどん進歩しているという面もあり、不断の努力でその点をしっかりとカバーすることを、これからも続けていきたいと思っている。


(問)
 先ほどのギリシャもそうだが、ギリシャあるいは米国の利上げに伴う環境の変化は結構急激に起こるかなと思うのだが、銀行グループのリスク管理あるいはデータガバナンスについて質問で、金融当局からも求められてきていると思うが、経営情報システム、いわゆる、MISと呼ばれているものの高度化が、こうしたものに対応するには欠かせないと思う。そういう意味では、バーゼル委員会からもリクエストが出ていると思うが、この点について会長はどのようなお考えか。
(答)
 経営にとって、経営情報へのアクセスの迅速性やその高度さは非常に重要になってきている。ご承知かもしれないが、現在のリスク管理の一つのあり方として、RAF、すなわち、リスクアペタイトフレームワークという考え方があり、このなかでも、データの収集・活用に焦点が当たっている。経営情報をいち早く経営のトップレベルまで伝えることにより、迅速な対応を可能とするべく経営情報システムを構築しなければならないということである。経営情報システムの整備・高度化は、リスクデータの集計あるいは報告体制の高度化を通じて、銀行自身のリスク管理の高度化に資することになるが、このことを従来以上にはっきりと認識しなければならないということだと思う。
 個別行の対応状況については、それぞれ区々だと思う。その中でも、G-SIBsである3メガバンクは特に、先ほど申しあげたRAFの議論などもあり、MISの整備がグローバルに強く要請されている状況で、これは迅速に対応していかなければならないものと考えている。
 今申しあげたような、グループベースでの経営情報システムの構築は、2015年内に構築する必要があり、スケジュールどおり進んでいると考えている。しっかりと対応し、グローバルな水準に合わせていくことが必要である。
 ただし、恐らく、G-SIBsのみならず、G-SIBs以外の国内行も含めて、経営情報システムも高度化はますます重要になってくると思う。
 各行のシステムの問題にも関係するので、タイミングや水準感は区々であろうが、経営者自身が感度を高めていくことが重要だと思う。


(問)
 政策保有株について伺いたい。
 保有意義がないものは減らすとおっしゃっているが、本当に減らせるのかということが質問で、減らしやすいところはもう減らしているはずであり、もう岩盤ではないかと。お客さんとのリレーションで売るな、売ったらビジネスが傷つくと言われたら、これが保有意義ということになるのか。個別行になるが、御行においては、「1兆円増資に応じたではないか、何を言っているんだ」というところも出てくると思うが、そのなかで本気でお客と喧嘩してまでも保有株を削減できるのか、それともやはり保有株削減は時間が非常にかかるものなのか、どちらであるか。
(答)
 全銀協会長としてお答えするのは非常に難しいので、個人的な意見としてお答えする。
 政策保有株式を保有するということは、当然、含み益がバーゼルのCET1、すなわち資本にカウントされるということである。今は株価が右肩上がりであるから含みはプラスであり、これからも景気がこのまま継続すれば良いものの、世界経済がシクリカルなものであるとすれば、いずれ株価が下がり、その分だけCET1が下がるということになる。つまり、資本の質としては変動する資本であり、やはり脆弱な部分があると認識する必要があると思う。
 そのような観点からすれば、銀行経営に堅確性を持たせる意味において、今のような段階で、政策保有株式の含み益を固定することを考える必要がある。コーポレートガバナンス・コードの議論をする以前に、銀行経営のあり方として方向感はご理解いただけるだろうと思う。
 ご承知のように、みずほとしても政策保有株式の削減を続けてきた。売却を進めてきて、いよいよ岩盤にぶつかっているのではないかということかもしれない。しかしながら、やはり大きく変わりつつあるのは、昨年6月アベノミクスの日本再興戦略改訂版の冒頭に「コーポレートガバナンスの強化」が打ち出された結果として、いよいよ日本経済の枠組みが変わってくるという期待感がマーケットに出てきたということであろう。
 したがって、政策保有株式について少なくともこの話が出てきたことにより、海外の投資家を中心として、日本経済全体の枠組みが変わるのではないかという期待感が醸成されつつあることは事実であると思う。また、今のご質問は政策保有株式の問題に焦点を当てたものであるが、ほかにも、社外取締役の選任を含めて、経営のガバナンスがより効いてくることにより日本経済の成長に繋がる要因として捉えられている面があるのではないかと思う。例えば、キャッシュリッチでROEが2%という大企業があれば、世界の基準からみれば会社の将来に対してしっかりと目線をすえた投資を行っていない、またはリスクをとった経営ができていないためにROEが低いのではないか、と言われても仕方がない。そのような状況を変化させ、日本経済の成長に結びつけていこうという大きな流れの中で、このガバナンスという問題が議論されていると考えるべきであろう。海外からは「日本が変わるのではないか」と期待されているのである。
 また、さきほど申しあげたように、コーポレートガバナンス・コードが銀行のみならず事業会社も対象としていることもあり、上場している事業会社も「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を定時株主総会の日から6か月以内に提出しなければならない。事業会社も持合い株式を多く保有しており、事業会社自身それらの保有のねらい・合理性について疎明しなければならない。したがって、交渉する相手となる事業会社自身が日本経済の次の成長に向けた課題としてガバナンスの問題をしっかりと捉えはじめている。その流れの中で、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」において、社外取締役や政策保有株式を取り上げるという状況となっている。
 もちろん、いわゆる岩盤にぶつかっていた状況もあるし、これからも岩盤であり続けるところもあるとは思うが、例えば個別行の話でいえば「みずほの政策保有株式に関する基本方針そのものについては十分理解できる」というお客さまはたくさんいらっしゃる。そこから先、個別に議論をしていくわけである。もちろん基本方針を理解していただいたからといって、株式の売却を承諾いただけるかどうかは話をしてみなければ分からない。ただし、対話を始めているなかで、銀行側の説得力や覚悟あるいは事業会社自身のガバナンスに対するご認識、こうしたものが銀行とお客さまとの対話のなかで深まっていけば、少しずつ状況は変わっていくであろうし、現に変わってきていると感じている。
 こうした動きが徐々に色々な形で広がっていくことにより、着実に進捗していくのではないか。私やほかのメガバンクのトップも、さらには事業会社の経営者の方々も、覚悟を持ってそのような方向に向かって進んでいるだろうという実感を持っている。決しておっしゃったような残念な状況にしてはいけない課題であると思うし、そのようにはならないと確信している。


(問)
 今週、政府の規制改革案がまとめられ、総理に答申が提出された。企業の農業参入など議論が進まなかった重要課題もあるようだが、評価できる点、評価できない点について、会長のご見解をお願いしたい。
(答)
 今年の成長戦略については、例年同様6月末の取りまとめに向け、報道もされ始めている。一部にはあまり新味がないという話も出ているようであるが、カバー範囲は百数十項目にわたっており、かつ2年前の6月に始まった成長戦略のいわゆる第1稿から時系列で見ても、決して立ち止まっているわけではなく、深度はそれぞれあるものの進捗をしているものと思う。
 あるべき規制緩和や、成長戦略の姿については、もうすでに十分出されている。これから先は、民間の力でこれを実際に進めていくというステージに変わってきていると思う。先程申しあげた海外の投資家も、昨年までは成長戦略は何も進んでいないとの指摘が多かったが、最近では、成長戦略は1年で何か結果がすぐに出るものではないため、一歩一歩着実に進んでいるかについて、しっかり見ていくという表現に変わってきている。今後は、掲げられた項目が十分かということを見るのではなく、各々の項目が着実に進捗しているか否かというような、一種の政策のPDCAを見ていく方向に注目点が変わっていくであろうし、それが望ましい姿でもあろうと思う。
 そういう意味では、政府の役割は、このPDCAをしっかりと回して成果を着実に上げているかをフォローし、逆に民間においては取り組むべきことを進捗させ、成果が着実に上がっていることをしっかりと示していくということが、今後重要になってくると思う。
 仮に、もう少し規制緩和をすべき項目があったとしても、まずは取り組んだうえで、その中で出てくる岩盤についてまたPDCAの中で議論していくことが、成長戦略を本当に実のあるものにしていくために重要になる。これからは、誰が何を見てどうフォローしていくのかということが、アベノミクスの重要な要素になってくると個人的には感じている。