2015年10月15日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 二つ質問をさせていただく。
 まずは景気認識について。昨日発表された政府の月例経済報告で景気判断が一年振りに引き下げられた。また、7~9月期のGDPはマイナス成長を予測する声が出ている。こうした状況を踏まえて、佐藤会長の現状の景気認識と先行きの見通しについて伺いたい。
(答)
 まず日本経済の現況については、一言で申しあげれば、回復の動きが若干足踏みしている、踊り場の状態にあると言えよう。
 その最大の要因は、中国経済のスローダウンをはじめ海外経済の減速であり、それが具体的には輸出の下振れというかたちで表れていると見ている。
 4~6月期の実質GDP成長率は、ご存じのとおり年率マイナス1.2%であったが、同じ時期の実質輸出は前期比でマイナス4.4%という、かなり大幅なマイナスとなっており、その後も低調な状態が続いている。それが最終的には国内鉱工業生産が7月、8月と2カ月連続で減少する状況に繋がっているのだと思う。
 今月1日に発表された日銀短観の9月調査では、大企業・製造業の業況判断DIがプラス12と6月調査の時点から3ポイント悪化したが、業況判断DIが悪化したのは3四半期振りとなる。
 さらに、先行き判断DIも、2ポイント悪化してプラス10となっているが、おそらく、今申しあげたように中国を中心とした海外経済のスローダウンが製造業の業況判断にかなり大きな影響を与えているのではないかと思っている。企業の経営者の方々とお話しするなかで、私もまったく同じ感覚を持っている。
 中国経済が実際にどの程度の状況にあるのかということについては、前回この場でもかなり詳しく申しあげたつもりだが、足元相当減速しているのは間違いないだろう。電力の使用量などから見ても、おそらくそのことが把握できよう。
 こうした点は、日本企業の景況感等に対して、下押し要因になっていると思われる。
 輸出や生産については若干弱い動きが続く中で、7~9月期のGDPが4~6月期に続いてマイナスなのではないかという懸念が出ていることは承知している。
 経済指標が出そろっていないので、今の段階では不確定だが、7月、8月の数字を見ると、マイナスになるかどうかは別として、かなり低めの成長率になる可能性が高いと認識している。
 輸出と国内生産の話を申しあげたが、一方の個人消費は、4~6月にかなり落ち込んだが、夏以降は徐々に持ち直している。8月の家計調査で、消費水準指数が前期比でプラス3.5%と大きく増加しているほか、大手百貨店の売上高もかなり上向いており、9月のシルバーウィークの売上も概ね好調だったと聞いている。
 このように、内需については比較的底堅さが見えていると思う。
 このため、先ほどの日銀短観においても、大企業・非製造業の業況判断DIは、製造業とは対照的に2ポイント改善している。非製造業では、個人向けのサービスや宿泊、飲食サービス、小売といった消費に関連する業種での改善が目立っており、インバウンド観光客による需要増なども手伝って好調が続いているのだと思う。
 これらを総合的に考えると、足元では個人消費などの内需が持ち直す一方で、海外経済の減速による輸出、あるいはそれに伴う国内生産への下押し圧力は続いており、今後の鍵を握るのは海外経済がどこまで落ち込むのか、あるいはどの段階で上向いてくるのかということだろうと思う。
 中国について、もう一つ触れると、現在、中国政府が様々な景気刺激策を総動員と言ってもよいレベルで打っている結果、例えば住宅の販売面積や電力の使用量は、もう少しよく見る必要はあるものの、直近では少し右肩上がりになってきている。こうした兆候がしっかりとした足取りになっていくかということが、日本経済の7~9月期のみならずそれ以降のGDPの成長に大きな影響を与えるため、引き続き注視していくべきだろう。
 国内についてもう1点申しあげると、雇用情勢については改善が続いている。実質賃金は7月、8月と2ヵ月連続で増加しており、消費の追い風になっている。消費増税の影響の一巡やエネルギー価格の下落などによって実質所得が上向くことで、消費の底堅さはしばらく続いていくと見ている。
 海外経済の底打ち感が本格的に見えてくれば、企業の設備投資が上向き、輸出が持ち直してくるので、消費に支えられている間に、海外経済がどういった動きを示すのかにかかっていると思う。
 日銀短観における今年度の設備投資計画を見ると、大企業・製造業で前年比プラス18.7%と大幅な増加計画で、非製造業もプラス7.2%の増加計画と2007年並みの計画となっている。業況判断DIは弱まっているものの、大きく崩れていく感じではないと思う。
 先行指標である機械受注に若干の弱さがみられるため、総合的に考えると、企業収益の改善が続いていくなかで、設備投資を本当に増やしてよいという自信が、海外経済の弱さによって未だ持ちえないのではないかと、足元ではそういった点を確認するために様子見が続いているのではないかと思う。今後の世界経済、特に中国の動向を見ながら、金融市場の動き等もにらみつつ企業が慎重に対応している状況は、海外経済を中心にどちら側に向いていくのかという踊り場にきていることの表れではないかと思う。
 今後、日本経済は、ベクトルがいい方向に向けば、今までのような心配を払拭して強い動きになっていく可能性もある一方、逆に想定以上に中国経済の減速、あるいは世界市場の混乱に近いことが起こってくると、さらに下振れる、その両方があり得る状況だと思っている。金融機関としても、これまで申しあげた各経済指標を非常に注意深くウォッチしていくことが必要ではないかと感じている。


(問)
 もう1点、安倍政権の経済政策についてお尋ねしたい。
 先日、安倍首相が新3本の矢を発表したが、新3本の矢全体に対する評価と2020年までに名目GDP600兆円の達成が可能なのかということ、さらに、銀行界としてどのような貢献ができるかについて考えを伺いたい。
(答)
 新しい3本の矢については、安倍首相ご自身もおっしゃっていたように、これまでの3本の矢が、日本経済を再生させるための政策手段であった一方、今回の新しい3本の矢は、「1億総活躍社会」という、日本経済、日本社会における大きな目標を実現するために成し遂げていかなければいけない具体的な三つの目標として設定されたということであろう。
 今回、「強い経済」に、「子育て支援」と「社会保障」が加えられたことで、「経済の再生」に加えて、「少子高齢化」や「財政規律」という日本経済の構造問題にしっかりと光を当て、取り組みを加速していくという安倍政権の強い意志が示されたと考えている。
 新味がないという見方をする方も一部にいるが、「財政規律」という観点から「社会保障」に焦点を当てたという意味で非常にバランスがとれているという見方もできるのではないか。現在推し進められている成長戦略のPDCAはしっかりと進め、成長あるいは再生というものを確固たるものにして、それをまた長期的に「持続可能」なものにしていくために、新たに二つの矢である「子育て支援」と「社会保障」とが付け加えられたと理解している。
 確かに名目GDPを2020年までに600兆円にするというのは現時点で相当チャレンジングな目標というのはご指摘のとおりだと思う。ただ、安倍政権の当初の成長戦略では、2020年までの平均で、実質2%、名目3%の成長が目指されていたわけであり、それが達成されれば、2020年の名目GDPは600兆円近くになっているはずなので、今まで示してないような高い目標が突然でてきたということではないのではないか。
 足元までの実績を踏まえて考えると、今後2020年までの間に3.4%程度の名目成長を続けていく必要があるが、そのためにはデフレから脱却し、成長戦略の実行と成果がでてくるということがどうしても必要になってくる。そして、民間部門に対しては、成長に対する強い取組みというものが求められてくると思う。逆にいえば、官のストーリー作成から、民における実際のアクションということにうまく繋がっていけば、非常に高い目標ではあるが、GDP目標に全く届かないということではないと考えている。
 六重苦という言葉について思い起こしてみると、一つ目は超円高、二つ目は法人税の実効税率の高さ、三つ目は自由貿易協定の遅れ、四つ目は電力価格問題、五つ目は労働規制の厳しさ、そして、六つ目は環境規制の厳しさである。第2次安倍政権誕生以降のことを考えてみると、まだ十分に手がつけられていない分野もあるが、かなりのレベルにおいてすでに施策が打たれているか、あるいは、施策を打つことが決められている。したがって、民間としては、六重苦というものを、前に向かって成長戦略を展開していくことがやりにくくなっていると言い訳につかうことはもうできないところまできているだろう。そういう意味で、今後は民間がいかに行動を起こしていくかということが、このGDP目標という問題一つ取ってみても、大きな課題になってくると考えている。
 もう一つのご質問である銀行界としての取組みについては、企業の成長機会の創出につながるあらゆる金融仲介機能を発揮することで貢献して参りたい。例えば、個別行の話になるが、みずほだけみても、健幸ポイントといった社会福祉の問題と地方創生、財政問題をからめたようなプロジェクトを具体的に推進しているほか、農林漁業の6次産業化についても、全国で数十のプロジェクトを進めており、PPP/PFIについても、いくつもプロジェクトが進んでいる。こうした、具体的なプロジェクトについて、民間企業とともに後押しをして具体的な成果を出していくということが、この成長戦略を確かなものにしてGDP600兆円という数字をより現実的なものにしていくために、極めて必要なことであろう。
 そのためには、金融機関として貸出を中心とした単なる資金仲介の機能だけではなく、例えば、コンサルティング機能を使った地方公共団体へのアドバイス、あるいは、中堅中小企業に対する海外進出や海外販路の拡大のサポート、エクイティの供給、あるいは、中堅中小企業同士のM&Aによる事業承継問題の解決等、幅広く総合的なコンサルティング機能を発揮することが金融機関にとって大事になってくるだろう。
 なお、「子育て支援」で目指す「希望出生率1.8」や、「社会保障」で目指す「介護離職ゼロ」についても、いずれも相当にチャレンジングな目標であろう。
 若干のコメントをさせていただくとすれば、「出生率1.8」は、今まで行ってきた託児所の整備や、子育て支援給付の充実・拡充といったような対応だけで達成できるものではないだろう。例えば、未婚化や晩婚化といった流れに歯止めをかけるために、若年層の所得について、結婚を考えられるような所得環境まで大きく改善させるなど、経済界をあげて取り組むといったようなことを、大がかりにやっていかないと到達は難しい数字だろう。
 また、「介護離職ゼロ」についても、制度を整備すれば実現するという単純な話ではなく、働き方、労働者、企業を含めて、その仕事の仕方、あるいは、生き方といったところまで踏み込んだ対応をしないと、達成することが難しいチャレンジングな目標であろう。
 ただ、この二つの目標は、日本経済、あるいは、日本という国が今後持続的に発展していくためには、難しいことが分かっていても、チャレンジしなくてはいけない項目であることは言を俟たない。そういう意味では、安倍首相が9月24日の記者会見でおっしゃった「長年手つかずであった少子高齢化の問題に真正面から挑戦する」という、政府、あるいは、国のトップの決意というものは、非常に重要なことだろうと思う。
 今後、成長戦略のさらなる推進のための施策を具体化していくことが極めて大事となってくるが、我々銀行界としても、施策の立案の段階からできる限り積極的に関与し、経済の好循環、あるいは、日本経済の持続的な発展に対して、できる限りの貢献をしていく、それが一つの使命だろうと考えている。


(問)
 官のストーリーから民間の行動へ、アベノミクスも新しいフェーズに変わるべきだというお話だったかと思うが、行動を起こす民間の経済人の層は、私が長くビジネスニュース担当しているなかで、あまりいない。層が薄いと感じている。数少ない例外でいうと、ソフトバンクの孫社長などがいるが、全体的にはなかなかリスクを取っていくという経営者はまだあまり多くないと思う。その辺はどうした事情があると考察されているか。
(答)
 特定の方に対するコメントは差し控えさせていただくが、日本の経営者が全体的にリスクに対して非常に用心深くなっている状況が長く続いてきたことは事実であろう。いわゆる「失われた20年」において、今はよくても次にはまた不安定要因が現実の問題として出てくるのではないかという発想が、ある種、体に染みついていることだろうと思う。
 先ほどいわゆる六重苦についてご紹介したが、例えば、自分たちが非常に厳しいと思っていた環境がよく見てみるとそれなりに改善されていたとしても、またそこに戻るのではないかという不安に仮にとらわれているとすれば、それは「しっかりと成長路線を敷いて、バランスシートにあるキャッシュを有効に使ってROEを上げ、ステークホルダーに報いていく」という、企業の本来目指すべき目的に対して、経営者として臆病になっているということなのであろう。
 もちろん、「失われた20年」のなかでは、円高など用心深くならざるを得なかった理由がいくつでも思い浮かぶのも事実である。しかしながら、そうした状況を克服していくためには、経営者全体がマインドセットを変えることが必要なのだと考える。今挙げられた方などはいち早くそこから抜け出して、国内の市場が狭まるのであれば、海外に向かってM&Aで打って出て、企業そのものの成長戦略をしっかりと描いていくということを意識的にやっておられるのだと思う。個人的には、日本の経営者もこの数年間に大きくマインドセットが変わってきていると思うが、まだまだ不十分な面もあるのであろう。対話を通じて経営者を後押ししていくことも我々金融機関の役割の一つであると考えており、今ご指摘のような点については、我々自身の問題としてこれからもしっかりと対応していきたいと考えている
(問)

 そういう点では孫社長は高く評価できるか。
(答)
 全銀協会長会見の場なので、個人に対するコメントは差し控えさせていただく。


(問)
 もう1点、中国経済の不振で日本からの輸出が落ちて製造業に影響が出たり、地方経済にも影響が出てくるだろうというなかで、例えばシャープのような数年間にわたって苦境にあえいでいる会社があると思うが、そうした事例をみるとその民間で行動が必要だ、とのお話があったけれども、もっと早い段階からずっと続いている問題なので、2年前3年前に民間の大胆な行動があれば、あるいは銀行も思い切った措置を講じていれば、これほど時間をロスしなくて済んだのではないかと思うが、その点はいかがか。
(答)
 個別の会社のお話はできないので、一般論で申しあげる。ご質問いただいたような話は、事例として枚挙にいとまがない。これは日本の全ての企業に言えることだが、好調な時に、企業の中に潜んでいる構造上の課題をどれだけ括り出せるかということは、経営力ともいえるが、これは電機・電子の業界のみならず日本のあらゆる業界、金融業界についてもいえることだと思う。
 例えば今話題になっているFinTechやAIの活用という新しい動きに対して、いずれは規制がかかるだろうということで、積極的に取り込む事案ではないと捉えて立ち止まるのか、やはりお客さまの利便性向上という最大の価値を念頭に置いて、この動きは止められない、としてダイナミックに動くのか。つまり今何をしておくべきかという発想を持てるかどうかで、おそらく3年で大きな違いが出てくるということだと思う。戦後の復興からここまできた日本経済であっても、インダストリー4.0といわれる新しい産業革命の中で、単なるモノづくりだけに価値観を見出していたのでは、私は十分な対応はできないと思う。イノベーティブな発想やテクノロジーを、国民経済の中でクリエイティブなものとして活かしていけるかということは、教育や人材育成というところまで遡って、直ちに対応していかなければならない問題だと思う。
 話が少し広がりすぎたが、ありとあらゆる業種、企業において、今ご指摘いただいた点はおっしゃったとおり、早く対応する方が良いケースは多く、そういった発想を持って経営をしていくということは必要なことだと思う。


(問)
 TPPの交渉が大筋合意に至り、先日、会長コメントを公表されていたが、これについて改めて評価を伺いたい。
(答)
 TPP協定については私も経緯を見守ってきた。甘利大臣をはじめとした関係各位の非常に粘り強い交渉によりここまで到達したことについて、心から敬意を表したい。
 何度も交渉成立の一歩手前まで話を進めておきながら、その度にそれを反故にされたこともあるようだが、そのなかで大筋合意に至ったのはまさに粘り強い交渉の成果だと思う。
 大筋合意の意味合いはとても大きい。今後各国において国会の承認などの手続きが控えているが、簡単なものではない。アメリカにおいても、すでにいくつかの反対意見が出ており、動向を慎重に見極めていくことが必要になると思う。ただし、TPP協定の大筋合意の意味合いは時が経つにつれて非常に大きなものであることが分かってくると私は認識している。例えば、報道ベースではあるが、韓国やタイは積極的な動きを始めており、時間とともにTPP協定の持つ効力や意義がグローバルに浸透してくると考えている。そして、それはおそらく、各国の国会の承認を後押ししていくことになるのではないか。日本にとってTPP協定を含む経済連携の推進は成長戦略の主要な柱の一つとなっており、先ほど六重苦の一つに自由貿易協定の話を挙げたが、まさにそれを打ち破る最大の一手になるのではないかと考えている。
 TPP協定を締結することによる巨大な経済圏の誕生は、日本のみならずアジア・太平洋地域さらにはグローバルにも大きな意義があり、経済圏の大きさだけでなく、そのなかで議論されているルールやスタンダードも非常に意味があると思っている。わが国が今後成長を持続して豊かな社会を築きあげていくためには、国内だけにとどまるわけには到底いかず、今後成長が見込まれるアジア・太平洋地域において、こうした経済圏ができあがることは、国土と人口が限られるなかで日本が成長していくうえで極めて重要なステップになると感じている。TPP協定を受け入れることでネガティブな影響を受ける産業があるが、それらに対して円滑な資金供給や先ほど申しあげたコンサルティング機能を提供するなど、金融仲介機能を十分に発揮していくという役割がTPP協定の締結に伴って銀行界に期待されていると考えている。
 金融サービスに関する詳しい合意内容はまだ公表されていないが、おそらくアジア・太平洋地域において、日本の金融機関が他国へ出資しやすくなるなどの内容が含まれるのではないかと思う。そういった点を見てもTPP協定の締結は大きな意味があるのではないかと思う。


(問)
 消費税の軽減税率の導入について、先日、安倍首相から指示があり、明日から与党税調の協議が始まるが、軽減税率の導入についてご所見を伺いたい。
(答)
 消費税への軽減税率の導入について、様々な意見があることは承知している。消費税は低所得者にとって相対的に負担が大きい税目と言われているため、10%への増税時の低所得者対策は、重要な政策上の論点であると思う。
 現在の議論は、与党が衆議院選挙の中で、消費税率を10%に引き上げるときは関係事業者を含む理解を得たうえで軽減税率を導入する、との公約を掲げたことを受け、具体的な方策を検討しているものと理解している。
 個人的には議論における重要な観点は4点あると考えている。一つ目は低所得者対策として十分に有効かという点。二つ目は税収にどの程度インパクトがあるのかという点。三つ目は実務上のフィージビリティ、実際に事業者や消費者がどの程度の実務的な負担を負うのかという点、これも大きなポイントであると思う。そして四つ目は国民の総意、国民の理解が得られる負担軽減策なのかという点。どのような案にせよ、今申しあげた4点を中心として具体的な議論が進んでいくのではないかと考えている。


(問)
 日本郵政グループ3社の上場について改めてお伺いしたい。ゆうちょ銀行の預入限度額の引上げについて自民党の提言があったが、結局、上場後の議論になるということになっている。一方で、ゆうちょ銀行の完全民営化の道筋も示されていないという状況も継続している。これまで佐藤会長は会見の度に上場に関して触れられているが、上場直前ということで改めて、民業圧迫という点について今後強く改善を求められていくのか、あるいは銀行業界として共存共栄を図れるところはあるのか、といった点について何度も申し訳ないがお話をいただきたい。
(答)
 ご存じのとおり、先般、郵政民営化委員会から、金融担当大臣と総務大臣からの「今後の郵政民営化の推進の在り方」に関する調査審議要請に対して、現段階における調査・審議の状況の報告があった。今後も郵政民営化委員会によって、ヒアリング結果等を総合的に勘案して、「郵政民営化の在るべき姿」というものが、整理され、まとめられていくのだろうと認識している。
 全銀協としての、郵政民営化推進のあり方に対する基本的なスタンスというものは、変わっていないが、敢えてもう一度申しあげるとすると、上場が成功裏に進むということは、財源が復興支援に充てられるということも含めて考えると、非常に重要な課題である。そして上場の成功という観点で、我々は四つのポイントを申しあげている。
 1点目は、ゆうちょ銀行自身の成長戦略について、実行可能性のあるかたちで上場会社として持続可能な成長をしていけるのかということ。2点目は、公正な競争条件の下で、民間金融機関と競合するのではなく、協調・連携していけるかたちになっているのかということ。3点目は、適切にリスクコントロールをし得る規模への縮小という方向に向かって進めていけるかということ。これは全銀協としても重ねて主張しているが、今のゆうちょ銀行はバランスシートに巨大なマーケットリスクを抱えており、これがひいては国民経済への負担になっていくことを避けられるかどうかということ。4点目は、日本郵便との取引に係る透明性の確保。この4点の着実な進捗および実践を含めて、ゆうちょ銀行が上場後も持続可能なビジネスモデルを確立していくことが極めて重要である。
 日本郵政グループは、先般公表した中期経営計画の中で資産運用の高度化や役務手数料の拡大を目指すという方向性を謳っており、それらが具体的に進むのであれば、国民経済の観点からも望ましい方向ではないかと思う。
 その方向性が本当に確認されるのであれば、我々全銀協としてもゆうちょ銀行との協調・連携を十分にやっていける分野があるだろう。例えば、ATM連携の拡充であるとか、安倍政権の重要課題である地方創生に関して、地方の新しい産業育成に向けたファンドの共同組成、あるいは過疎地域における地銀・第二地銀と日本郵便との代理店契約などが考えられる。これらは、国民経済の観点からも非常に意義の深い提携・連携になると思っており、そうした方向に向かっていくならば、我々全銀協としてもこの上場をポジティブに捉えられると考えている。
 ただ、基本的な問題点が現段階で解決されているわけではない。例えば先ほど申しあげた約200兆円という巨大なバランスシートの問題であるが、資産運用の高度化や役務手数料の拡大というビジネスモデルへのシフトが進めば、当然、バランスシートは縮小していく筈である。それらが目に見えるかたちで実行されているかについてはもう少し時間をかけてしっかりと見る必要がある。したがって、今の段階で全面的に協力・協調していくということではないが、そういう方向で検討していくということが必要だと考えており、ゆうちょ銀行の取組みの実効性や実態を引き続き注意深く見ていく必要がある。

(問)
 預入限度額引上げの議論や、完全民営化の道筋が示されていないという点についてはどのように考えられているか。
(答)
 預入限度額の問題についても郵政民営化委員会による「今後の郵政民営化の推進の在り方」の議論の一つのテーマとなっている筈である。預入限度額引上げについては、地方銀行に対するネガティブな影響や、バランスシートがさらに膨らむことによるリスク管理のあり方等、整理されていない事項がいくつかあるという状況は変わっていない。現時点で郵政民営化委員会から方向性は示されていないが、預入限度額の引上げに対して我々は反対の立場を貫いているということに変わりはない。


(問)
 2点伺いたい。1点目は資源大手のグレンコアに対する信用不安が拡大した。邦銀もグレンコアのような資源関連企業や日本商社への与信があると思うが、どのような問題認識を持っておられ、どのように対応されるつもりなのか。
 一山越えたようにも思えるが、今回の資源価格の下落によるパニック的な信用不安というのは一時的なものか、それとも予断は許さないものなのか、会長の所見をお聞かせ願いたい。
(答)
 全銀協としてのコメントがある訳ではないので、私見を申しあげる。ご指摘のように、先般グレンコアの株価が急落した。足元はだいぶ回復してきてパニック状態の前に戻ってきたが、やはり資源価格、特に原油価格が下がってきている。2014年12月頃から始まった原油価格の下落について、当初一時的だと思われていたものが、かなり長く続くことになるのではないかという見方が強くなってきている。
 私は以前この記者会見で、原油価格はかなり長いこと低位で推移するのではないかということを申しあげたと思うが、やはりマーケットで、その可能性が確認されてきている。そういう状況のなかから、グレンコアのような資源価格によって業績が振れやすい企業に対する見方が、時を経るに従って厳しくなってきているということはあると思う。
 これは企業だけではなくて、ロシアやブラジルなどの産油国やエネルギー国に対しても同じようなことが言え、当初は外貨準備があるから大丈夫と言っていたが、時間が経つにつれて外貨準備が減り、徐々にリスクに対する不安感が増幅していく傾向にある。
 そういったことを考えると、一般論としてエネルギー関連会社あるいはエネルギーの上流の開発に対するプロジェクトファイナンスへのリスクの見方は、今後とも厳しくなっていくということであろう。ただし、邦銀においては、海外のエクスポージャーのなかでもエネルギー関連の比率は極めて限定的であり、また日本企業が絡んでいる案件が多いこともあり、こうしたエネルギー関連の非日系企業のクレジットが痛んできたことが大きな問題となって直接跳ね返ってくることにはならないだろう。むしろ、それが世界経済にどのような影響を引き起こすのか、という視点の方がこれからは必要になってくるだろう。
 ただし、需給関係が簡単に回復すると見るのは、少し楽観的すぎると思う。これは需要サイドと供給サイドの両方に原因がある訳で、需要サイドで大きいのは中国経済、供給サイドでは例えばイランの原油がどうなるかといったことなどで、まだまだこのパワーバランスについては方向感にブレが出てくる可能性があり、今後とも注意深く見ていく必要がある。


(問)
 個別の件で恐縮だが、先日、みずほフィナンシャルグループが資産運用会社を統合して、アセットマネジメントを「第四の柱」と位置付けた。統合する狙いを伺いたい。また、ゆうちょ銀行はグローバルな資産運用会社を目指すことになるかと思うが、それに対抗しうる勢力になっていくのか。
(答)
 「第四の柱」というのは個別グループの話なので、その前に一般論で申しあげたい。
 資産運用に関するフィデューシャリー・デューティーの話は非常に注目されている。昨年9月の「金融モニタリング基本方針」でも打ち出されたとおり、資産運用業界でフィデューシャリー・デューティーがしっかりと果たされているのか、ということは金融庁も大きなテーマとして取り上げているし、この流れはグローバルにもいえることである。また、今年の「金融行政方針」のなかでも、金融機関による資産運用の高度化の促進、あるいは商品開発、販売、運用などといったものに関わる各金融機関の行動の検証などが重要だろう、とはっきり言われている。
 資産運用会社に関わるそのような一般的な環境を踏まえたうえで、みずほの今回の発表の大きなポイントは、グループの中の販売会社と運用会社の双方をかなり大型で持つ、ということである。この戦略的な意味が何かということと、フィデューシャリー・デューティーをどう全うしていこうと考えているかということ、この2点が「第四の柱」を考えていくうえで大きなポイントになる。
 最近、高齢者とそうではない方、海外に対する投資を選好する方と国内を選好する方、あるいは安全資産中心の方とリスク資産中心の方など、運用に関わるお客さまのニーズが相当広がってきており、そうしたニーズに応えていく運用会社が日本にはどうしても必要なのである。1,700兆円といわれている個人資産をはじめ、GPIFもゆうちょ銀行も、運用ということでいくと、大きなニーズがある。しかし、それにしっかりと応えていけるような運用会社は残念ながらまだない。
 GPIFもゆうちょ銀行も、これから、単純な株や債券ではないオルタナティブといわれる複雑な資産に運用資産の一部を投入していくことになると思う。例えば、カリフォルニア州のCalPERSは運用資産の15%程度をオルタナティブで保有している。そういうなかで、そのリスクをしっかり説明してアドバイスできる運用会社がどうしても必要になってくる。そういうことができる運用会社を作ろうというのが、今回の統合の最終的な目的である。
 販売会社と運用会社の両方を持ってその両方を強くしていく、ということの意味であるが、まず、販売力の強化ということについて申しあげる。これは単に販売力を強化するために銀行・信託・証券のルートを使うというだけではなく、その逆のフロー、すなわち、銀行・信託・証券のお客さまが持っている運用ニーズを販売網から引き揚げて、それをベースに相応しい運用商品を製造できるようになるということである。つまり、販売と製造というものを有機的に結びつけていくことで、最適な商品を作り、お客さまのニーズに応えていく。これが一つ目の大きな目的である。
 二つ目は、運用会社には投資信託や投資顧問、信託銀行、生命保険など様々な業態で運用業務に携わっている人が多数いるが、これを一本化することによって、人材の力が強化されるということである。つまり、それぞれ異なる運用を行っている人材が集まり、多様な運用ノウハウを集積することで、運用力が圧倒的に強化される。これが二つ目の大きな目的である。
 そして最後に、フィデューシャリー・デューティーが非常に大事になってくる。よくオープン・アーキテクチャーといわれる考え方は、私は正しいと思っている。大きな運用会社を作るからといって、みずほの商品だけを売っているというのではフィデューシャリー・デューティー上、問題であろう。そのようなことはしない。オープン・アーキテクチャーを採用することと統合した自らの運用会社を持つということは矛盾しておらず、グループ内の運用会社の商品がお客さまのニーズに適していなければ外部から商品を持ってきて、お客さまに合った商品を販売していくということである。一方、運用会社をグループ内に置くことで、お客さまのニーズを汲み上げるルートを確保し、同時にそれを最強の運用会社とすることでニーズに合致した商品を組成することを可能とする。これらのようにして、お客さまに最も適した商品を提供していきたいと考える。
 今回の発表内容については、取締役を含めた組織のあり方などをしっかりと踏まえ、フィデューシャリー・デューティーを非常に重視したガバナンスを持った新しい投資運用会社を作っていかなければならない、と考えている。


(問)
 一昨日、経団連が正副会長会議で、昨年に続き政治献金を呼びかける方針を決定した。今後幹事会等を通して伝達があると思われるが、それに対して経団連の会員団体である全銀協としての対応を二つお聞かせいただきたい。
 一つ目は、全銀協の会員行に対して、どのようなタイミングで、またどのようなかたちで経団連からの要請を伝えるのか。
 二つ目は、ここ数年で大手行は一部を除き大方公的資金を完済し、また以前指摘されたような法人税の支払いについても納付を再開している。経済の好循環のお手伝いをするという方針の中で政治献金の再開に支障となるような要素はあるのか。
(答)
 今ご指摘のとおり、経団連から改めて政治献金に対する呼びかけが行われると認識している。経団連は、企業からの政治献金は企業の社会的貢献の一環として重要性を有するとの考え方に立っており、政策本位の政治の実現、議会制民主主義の健全な発展、政治資金の透明性向上を図るうえで、クリーンなかたちでの民間寄付が拡大していくことが相応しいという考えであると認識している。
 また、経団連の政治献金に対する考え方は、政治献金は何か見返りを求めて行うものではなく、企業の社会貢献の一環として重要性を有するとの考え方を示しているということを踏まえる必要がある。
 そのうえで経団連は会員企業・団体に対し、このような趣旨にもとづいて政治献金を行うことを検討して欲しいと要請しており、最終的には各社が自主的に判断するべきものであるということが枠組みとしてしっかり位置付けられている。
 本件については、各行が自主的な判断のもと、独自に検討すべき案件であり、全銀協として政治献金の取りまとめを行うという考え方はない。あくまでも個別行として政治献金の趣旨に賛同できるかどうかで判断するものであると考えている。


(問)
 もう1点、マイナンバーについてお聞きしたい。
 今回の法改正で2018年から、銀行口座の預金情報とマイナンバーの結びつけが可能になるということだが、これについては、預金者本人の同意が必要であり、これからのことになるが、この口座との結びつけを進めるにあたって、事務対応も含め、銀行業界として具体的にどのような方策をとっていくのか、何か方向性のようなものがあれば教えていただきたい。
(答)
 預金口座へのマイナンバーの付番については、まだ、具体的な運用方法が定められていない段階である。今後、事務ガイドラインが定められていくなかで、より明確なかたちで決まっていくと考えている。
 ご承知のとおり、改正法では銀行に対して付番された預金口座の情報をマイナンバーによって検索できる状況で管理する義務が課されている。詳細な対応は事務ガイドラインの内容により変わってくるものと思うが、いずれにせよ2018年のスタートまでに、定められたかたちでの管理が可能なシステムの開発を含めた事務体制の整備が必要である。したがって、この点についてはお客さま本人の同意の有無によって、銀行の整備負担に大きな変化が生じるものではないだろう。
 マイナンバーの告知を義務化するという議論があることは承知しているが、これについては、マイナンバーをどう使っていくのかということについて、国民あるいは社会の理解や納得がどこまで進むかということに懸っているのではないか。
 なお、預金口座にマイナンバーを紐付けると言っても、預金口座数は銀行界だけでも8億口座にのぼり、その一つ一つにマイナンバーを紐付けていくには膨大な時間がかかる。今後、事務ガイドライン策定に向けた議論のなかでは、そうした実態面も踏まえて方向感を決めていく必要があると考えている。
 銀行界としては、マイナンバー制度が、将来の社会の効率性に資するような、日本経済あるいは日本社会にとっての重要な基盤になっていくだろうということは十分承知しており、国民の理解を基本として、色々な議論に参加し協力をして参りたい。

(問)
 日本郵政について追加でお伺いしたい。四つの観点を示された四つ目の「日本郵便との取引に係る透明性の確保」について、具体的にどこが不透明であると全銀協として考えているのか教えていただきたい。
(答)
 日本郵便とゆうちょ銀行との間に代理店契約があるのはご存じのとおりであり、その代理店契約の内容、あるいは、今後のあり方といったものがしっかりと示されている必要があるということである。代理店契約に伴う資金の流れが今現在もすでに存在しているわけであるが、銀行としての健全性の確保という点で十分アカウンタブルなものになっているのか、あるいは、改正すべき点があれば今後どういう方向感で改正していくのか、ということをはっきり示していただくことが必要であり、それに関して不透明感が残るのであれば問題であるというのが銀行界としての主張である。


(問)
 確認であるが、例えば、ゆうちょ銀の場合、日本郵便に対して年間に約6,000億円を銀行代理店手数料として払っているが、この手数料が何に対し支払われているかよく分からないということか。
(答)
 例えば、投資信託を販売したような場合に、そこに何らかの対価が必要になることは、おかしなことではない。ただ、その金額の水準や、代理店手数料のあり方に関する明確な方針、あるいは戦略といったものを、今回の上場を機に、新たに株主に対しても示していただく必要があるだろうということである。


(問)
 先ほど少しお話のあったFinTechについて、先日FinTech協会という団体もできたり新しい動きも出ているが、一つの方向性として、金融機関とFinTech企業との協調があると思うが、金融機関から見てFinTech企業と協調していくうえでの課題や条件のようなものがあれば教えていただきたい。
(答)
 FinTechという言葉の意味合いは、使う人によって多少異なってくると思う。あえて定義をすると、IoTやAIといった技術を使って、新しい金融のかたち、新しい業態、商売が出てくるという面と、そういう技術やテクノロジーを使って、異業種が既存の金融業にチャレンジしてくるという面と二つあると思う。
 前者については、押し並べてビッグデータをどう使うかという点でかなり大きく異なってくる。日本政府も大きく踏み込もうとしているが、ビッグデータを社会においてどう使えるかということに、国際的な違いが出始めているのは確かであろう。もちろん、プライバシーを守ることは非常に重要であり、全てを解放すれば良いというものではないが、そうした問題を踏まえたうえで、ビッグデータをどのように使って新しい産業や金融を興すのかということが、今後大きく左右するであろう。すでに米国では行われているが、今後日本においても、そうした技術を持つ会社を傘下に収めて展開していくことができるようにならなければ、日本の金融機関の競争力はグローバルベースで失われていくことになりかねない。金融庁も共有していただいていることであるが、そのためには法制等の整備が必要であり、金融審議会等を含めて議論が行われている。我々としては、海外の金融機関が何をやっているのか、そこにどういう商売が興っているのかということも含めて、積極的にこの議論に参加していくべきであるし、この道筋に成長戦略を描くことができるようにしていただくということも肝要だと考えている。
 後者、即ち異業種が金融業にチャレンジしてくるという流れについて申しあげると、金融機関自らがテクノロジーを開発するということだけではなく、そうした異業種と連携するということが必要になってくることも多々あるであろう。米国では、決済に限らず金融サービスといった投資顧問のような分野や小口金融にまで異業種が入り込んでいる。2014年の実績では、そういったFintech絡みの会社にグローバルでは122億ドルの資金が投入されるにまで至っている。2013年の同実績が40億ドルなので、1年間で3倍に広がっている。このような動きに対しては、自らベンチャー企業を見つけては出資し、テクノロジーを作っていくということでは間に合わないであろう。このような観点からは、そのような異業種と連携するということも一つの戦略になるのではないかと思う。
 今、二つの面から申しあげたが、例えばリテールの世界では、今後店舗網のあり方とか、仕事のあり方そのものが変わってくる等、革命的なことが起こる可能性さえあると思う。これについては、個別行の業務戦略ではあるが、しっかりとした戦略を持って対応していくということが、おそらく将来の勝者と敗者を決めるといっても過言ではないと思う。


(問)
 一昨日稼動した新日銀ネットについて、今後2016年2月に21時まで稼動時間が拡大することになっているが、稼動時間拡大で顧客サービスの面で向上できる面はあるか。もう1点、日本銀行は更なる稼動時間拡大を考えたいという姿勢を見せており、これから邦銀とも話をしていきたいという姿勢だったが、これについてはどのようにお考えか。
(答)
 今ご指摘いただいたように、新日銀ネットは今週13日に全面稼動し、お陰さまで全銀システムあるいは個別行のシステムにおいても無事移行を完了した。
 新日銀ネットは、最新の情報処理技術を採用し、色々な変化に対する柔軟性やアクセスの利便性ということから、非常に優れたシステムとなっている。これによって将来的な発展性が確保され、利便性がかなり高まったということだろうと思っている。
 また、金融機関にとっても、特に銀行間取引の資金効率の向上などが実現されていくのではないかと思っている。
 今後、2016年2月には夜間の稼動時間を21時まで拡大することが予定されている。これは、例えばクロスボーダーの取引をイメージした時間帯であるが、グローバルなビジネスを行っている金融機関には大変利便性の高いものであって、私どもとしても時間拡大への対応について積極的に検討していく。
 なお、拡大される時間帯の利用は各行の任意であり、あらゆる金融機関がこの稼動時間拡大に対応するかということは、今の段階ではよく分からない。


(問)
 経団連から呼びかけのある政治献金について、経団連の言葉を用いて社会貢献の一環であるとおっしゃったが、社会貢献がお金でできるのであれば、特定の政党に献金をするよりも、法人税を支払った方が社会貢献になるのではないか。
(答)
 法人税はきちんと支払っており、その部分はすでに行っている。


(問)
 アセットマネジメントの話になるが、海外での運用力強化というのは日本のアセットマネジメント業界の課題であると思うが、海外のメーカーが作っている商品をそのまま輸入販売していることが結構多いと思っている。これで本当に日本のアセットマネジメント会社がグローバル運用力を強化できるのか、という点に関して教えていただきたい。
(答)
 個別グループの話ではあるが、先日、みずほはアメリカの運用会社であるMatthews International Capital Management LLCの約16%の持分を取得することとした。Matthewsは、特にグローバルな運用に強みを持っている。
 先ほど申しあげたこととの関係は強く、運用を希望している日本のお客さまのニーズをMatthewsに伝えることにより、Matthewsは日本の投資家、つまり個人や機関投資家などの様々なニーズに合わせたアジアプロダクツを作っていくことができるようになる。そこが非常に有用な部分だと考えている。すでに作られているものを組み合わせればいい、ということだと本当のカスタマイズには対応できない。そこに、投資顧問ビジネスについても自ら海外に進出して、出資や買収をしていく大きな意味があると考えている。


(問)
 先ほどもあった金融庁の金融行政方針に関連し2点伺いたい。
 まず1点目は資産運用の高度化についてだが、資産運用の高度化、リスク性資産を含めた分散投資を進めていくうえで、日本国債の運用という課題があると思う。9月に日本国債を格下げした格付会社もあり、金融行政方針には長期金利が上昇したときのストレステストなどについても記述がある。銀行界として長期金利上昇リスクにどのように備えていかれるか教えてほしい。
(答)
 長期金利の上昇リスクへの備えとしては、各行とも相当多様な負荷を想定したストレステストというものを行っている。長期も短期も含め、どのようなかたちで金利が上がってくるか、それが自分のポートフォリオにどういう影響を与え、その最大のダメージはどれぐらいか、ということは各行とも相当詳細に検討・検証しており、コントロールされている。
 ただし国債というのは、金融機関にとっては1つの運用商品であると同時に、例えば、市場のビジネスの中では、担保としてもある程度持っていなければいけないものでもある。国債保有残高がゼロになればそれで良い、という話ではない。
 したがって、しかるべき保有をしながら、今申しあげたようなストレステストを精緻化して、リスクをコントロールしていくということが重要だろうと思う。
 加えて申しあげると、日本国債について日本の居住者が持っている比率は引き続き92%から93%もあることや、日本にはまだ税率を上げていく余力があること、日本の外貨準備は世界ナンバーワンクラス、というような環境を考えると、すぐに長期金利が大きく上がっていくというようなことはないと思われる。ただしそれに安住しているのではなく、各行ともリスク管理態勢はしっかりとられているだろうと考えている。


(問)
 地域金融のあり方についても金融行政方針に目指すところとして、ゆうちょ銀行が地域金融で民間金融機関と連携したり、地域金融機関が担保依存の融資から事業性を評価する融資へと転換していくことが謳われているが、これについて会長の評価を教えてほしい。
(答)
 金融庁の行政方針についてコメントする立場にはない。
 ただし、現在、特に地方創生ということで、地域金融機関各行が地域の地方公共団体と一緒になって各地域の成長戦略を議論しているなど、それぞれのビジネスモデルがあると思う。国内の貸出のボリュームは伸びているものの、過当競争もあってスプレッドは徐々に下がってきている。したがって単なる貸出のみで成長していくことは非常に難しい。大手金融機関のようにグループの信託銀行や証券会社で非金利収入を稼ぐことが必ずしもできないとすると、単に集まってきた預金を運用に回していく、というスタイルで将来の画が描き切れるのか、というのが金融庁の問題意識だろうと思う。今、それぞれの金融機関が描いている戦略が、十分説明可能なものになっていれば、それはその地域における各銀行の役割がしっかりと示されているということだと思う。
 戦略の中身については、それぞれの地域の状況によるので一概には言えないが、その地域のステークホルダーや株主などにうまく説明責任を果たせるような画を描くためのひとつの選択肢として、統合などのインオーガニックな形を考える、ということも個別行の戦略としては今後もあり得るだろう。


(問)
 2015年度の上半期が終わった。決算発表は来月になると思うが、銀行の経営や業績にとってどんな上半期であったか、そして、下期の見通しについてどのように考えているか教えてほしい。
(答)
 まだ数字が出ていないので、個人的な実感しか申しあげられない。
 国内の銀行業務については、先ほども少し触れたが、資金需要が伸びているので貸出ボリュームも増えていると思う。これは、大手行も地域金融機関もトレンドは同様であろう。ただし、スプレッドが引き続き下がっているので、国内の貸出金収支は右肩上がりにはならず、苦しい状況が続くのではないか。一方で、非金利収支は、例えば、投資信託や外債、あるいは保険商品など、銀行窓口における販売に伴うものは伸びているのではないかと思う。これは、ボリュームは違うものの、地域金融機関でも同様であろう。したがって、国内の貸出金収支は非常に厳しいが、非金利収支ではそれなりにカバーしているということではないか。
 クレジットコストは、引き続き、相当低位に抑えられてきており、足元で大きなロスが認識される状況にはなっていないだろう。一方で、保有株式の売却益については、少し株価が下がっていることもあり、大きな要因となることもなさそうである。このような要因から、全体感としては、そこそこの上期決算になっているのではないか。
 下期の展望を申しあげることは非常に難しい。冒頭でご質問があったことに関連するが、海外の経済のセンチメントによって、国内の設備投資が違ってくる。それが下期の資金需要にかなり影響を及ぼすであろうが、今の段階では極めて読みにくい。ただし、先ほど申しあげた個人のお客さまに対する投資運用商品の販売は、引き続き、ある程度今のトレンドを維持するだろうと思う。したがって、大まかに申しあげると、世界経済の動き次第ということではあるが、国内の非金利収支は、ある程度の強さを示していくことができるのではないか。
 クレジットコストについては、大きなネガティブな要因が出てくるという環境にはないと思う。もちろん、中国が突然クラッシュしたら違うかもしれないが、そういうことは起きないとすると、大きなコストが発生することはなさそうである。
 日銀の金融政策次第で多少は影響があるかもしれないが、貸出金収支をはじめとして、今の段階では、下期も上期のトレンドが概ね続いていくのではないかと思う。
 ただし、3メガについては、国際部門の伸びが決算に影響してくると思う。全て推測の話にはなるが、先ほどご質問があったエネルギー関連のクレジットコストなども含めて、国際部門収益は過去2年間と比べると少し傾向が違ってくる可能性があり、それが各行の決算に、各々違った雰囲気を醸し出す可能性はあるのではないか。国際金融の世界において、邦銀は非常に高いプレゼンスを発揮し、事実、業績を伸ばしてきたが、これが今後数年間でどうなっていくか、3メガにとって非常に大きな注目点になってくると思う。