2016年2月18日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 日銀が導入したマイナス金利政策について二つお伺いしたい。
 最初に、マイナス金利政策が銀行の業績にどのようなインパクトを与えるか教えていただきたい。
(答)
 日本銀行のマイナス金利政策が銀行経営に与える影響というご質問であるが、全銀協として統一的な見解はないので、個人的な見解ということで申しあげたい。
 1月29日に決定された日本銀行の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入は、昨年来顕著になってきた中国など新興国経済の減速、原油に代表される資源価格の低迷、あるいは中東や欧州などをはじめとする地政学リスクの増加といった日本経済を取り巻く様々なリスクが増大するなか、日本経済の下振れを未然に防ぎ、デフレからの脱却を確実にするという日本銀行の強い決意を反映したものと理解している。
 日本銀行が発表した今回の政策の最大のポイントは、従来の「量」・「質」に、「マイナス金利」という三つ目の新たな次元を加えたことで、必要に応じてさらなる緩和も可能なスキームになったという点であろう。また、直接的な狙いとして、イールドカーブの起点をマイナス圏にまで押し下げ、イールドカーブ全体に対してより強い下押し圧力を加えていくことで、物価上昇2%の早期実現を図っているものであると理解している。
 安倍政権の発足以来、いわゆるアベノミクスとして政府サイドで各種の施策が展開されている。我が国のGDPは名目・実質ともに政権発足以降拡大し、その下で雇用情勢の改善が続くなど景気の好循環が生まれ始めており、政府のそうした施策に合わせて、いよいよ民間が実際にアクションを起こす時期が来たということを昨年4月に全銀協会長に就任して以来申しあげてきた。そして、その意味で、日本銀行が示した強い決意を踏まえて、民間金融機関として何ができるか、何をすべきかということを考える必要があると感じているところである。そうしたなか、今こそ、個人・法人におけるいわゆる「ポートフォリオ・リバランス」を後押ししていくことが金融界の役割期待なのではないか、という思いを強く感じている。
 まず、個人にとっての「ポートフォリオ・リバランス」とは、従前から申しあげているとおり、いわゆる「貯蓄から投資へ」の流れを止めることなく、むしろ加速させることである。わが国の人口構造における諸問題を解決するためにも、また、何よりも資本性資金がダイナミックに稼働することで経済の活性化に繋げていくためにも、個人金融資産の活性化に向け、例えば、NISAの利用促進や確定拠出型年金の一層の普及に向けたコンサルティング機能の強化が極めて重要であると考えている。さらに、これに関連して、以前から全銀協としても要望しているとおり、NISA制度の拡充・恒久化や、米国の確定拠出年金のように長期間にわたる投資を始めやすくするいわゆる「セーフハーバー・ルール」の創設など、政策面での後押しがあるとさらに効果が大きくなると考えており、関係者に対して引き続き働きかけていきたいと考えている。
 一方、法人にとっての「ポートフォリオ・リバランス」とは、事業会社が現預金のかたちでストックしている厚い内部留保をこれまで以上に積極的に成長戦略に充てて行くことを表している。具体的には、企業による前向きな設備投資、R&DやM&Aの実施や、賃上げの促進はもちろんであるが、これらに加えて、例えば、現在の株価水準をある意味でのチャンスと捉えて企業が余剰資金を自己株式の取得に振り向けることで、株主還元はもとよりコーポレートガバナンスの向上に繋げていく、といった動きも十分に考えられると思う。こうした法人の「ポートフォリオ・リバランス」についても、金融機関として、金融仲介機能を発揮して適切なアドバイスを提供することがより強く求められていると認識すべきであると思う。
 安倍内閣が掲げる「一億総活躍社会」では、「生産性革命」をテーマとした経済政策が一層強化されることが期待されているが、今申しあげた個人・法人の「ポートフォリオ・リバランス」は、このテーマと方向を一にしており、民間そして政府が一体となって、それぞれの役割をしっかりと果たしていく覚悟を持つ必要があると考える。
 今回のマイナス金利政策は、一昨日から実施されたばかりのものであり、その影響については慎重に見極めていく必要があると考えている。まずは、本日を含めてこの3日間は、内外の金融市場は比較的冷静にマイナス金利政策というものを受け止めているように見える。
 具体的に、まず邦銀のドル調達コストの話を申しあげると、例えば、邦銀が海外でドル建てのCD、CP等を発行してドルを調達する際のコストそのものは現在低位で安定している。また、円を担保にドルを調達する通貨スワップ市場においては、昨年末は米国の金利上昇を受けてドル調達コストはいったん上昇したが、その後は落ち着きを取り戻していた。今年2月に入って、グローバルなリスクオフの流れで再びドル調達コストは上昇しているものの、量的なアベイラビリティという観点では現在も全く支障は出ていない。グローバルに銀行株が売られて、欧州の銀行も含めてCDSスプレッドが拡大した局面であっても、邦銀の本質的なクレジットは揺らいでおらず、いわゆる「ジャパン・プレミアム」のような問題は足許で起きていないと申しあげられる。
 次に、日本国内における重要な金融市場である無担保コール市場の動きであるが、マイナス金利政策開始日である2月16日は、取引の中心であるオーバーナイト物は0.001%から0%ちょうどで始まった。2日目の昨日になると、プラス0.001%からマイナス0.05%のレンジでマイナス圏に少し踏み入れた状況となっており、おそらく日本銀行が予想した姿に近い動きを見せ始めていると思われる。
 全体の印象としては、システム面の対応に一部時間を要していることや、マーケット参加者が新たな環境下での需給のバランスを探っていることから、足許は取引量が減っているものの、市場はマイナス金利といった新しい動きについて、その環境への適応を冷静に少しずつ進めている状況ではないかと受け止めている。
 なお、マイナス金利政策の導入が発表されて以降のマーケットでは、円高・ドル安が進んでいるが、こうした市場の動きには様々な要因が絡み合っている。この背景は、例えば、中国経済の減速懸念に加えて、米国経済まで足踏みするのではないかという懸念が高まったことで円高・ドル安の動きが加速し日本株の足を引っ張った、という足許のマーケットの状況ではないかとみている。したがって、個人的な見解ではあるが、マイナス金利政策の導入によって足許の円高・ドル安といった金融市場の大きな動きが引き起こされたと捉えるのは必ずしも当たってはいないのではないかと思う。
 次に、今般の日本銀行のマイナス金利政策の導入が今後の銀行経営に与える影響について申しあげる。各銀行のそれぞれの事業ポートフォリオや顧客構成や、今後の市場動向等によって色々と異なる影響が考えられるため、一般論として申しあげたいと思う。
 そもそも、マイナス金利政策が銀行収益に与える影響としては、直接的な影響と間接的な影響の二つがあると考えられる。
 一つ目の直接的な影響としては、銀行が日本銀行に預けている当座預金残高のうち、今回は限界的な部分、すなわち三層構造のうちの最上位層である「政策金利残高」に対してマイナス0.1%の金利が付与されることが挙げられる。しかしながら、日本銀行の発表によると、階層構造方式の採用によってマイナス金利の適用は日銀当座預金残高の一部に限定されるなど、金融機関の収益への影響にも配慮がなされていると考えている。具体的には、マイナス金利政策発表時の日本銀行の説明によれば、「政策金利残高」は日銀当座預金約260兆円のうち、導入時点で10兆円程度とそれほど大きくないとみられており、日銀当座預金に対して課されるマイナス金利の直接的な収益影響は限定的であると考えている。
 二つ目の間接的な影響としては、マイナス金利政策の導入により市場の全般的な金利低下が預金ビジネス・貸出ビジネスに与える影響が挙げられる。市場金利の低下により、貸出金利あるいは市場運用利回りが低下する一方、預金金利はすでに極めて低水準で引下げ余地が限られているため、金利収益には相応の影響があるだろうと見ている。
 一方、金利低下を通じて、経済の前向きな循環メカニズムを実際に作用させていくことが重要であり、民間セクターも今回の金融政策をバネにして、実体経済の改善・強化を図っていくことが重要であると思っている。私ども金融機関としても、金融仲介機能やコンサルティング機能の一層の強化といった経営努力を続け、実体経済の改善を力強く後押ししていく必要があると考えている。例えば、取引先企業の事業性等を適切に評価して、金融機関として適切なリスクテイクを行うことや、フィデューシャリー・デューティーを徹底した投資運用商品の販売等を通じて「貯蓄から投資へ」の流れをより太く強くしていくことなども、重要な役割となるだろう。
 マイナス金利政策は、本邦の金融機関にとっては、初めての経験となる。各金融機関が知恵を絞り、経済活性化に向けた取組みを実行に移すことが、景気の下支え・好循環の維持に繋がり、金融機関としては、自らの経営環境を好転させることにも繋がるということを改めて認識して、具体的な貢献をしていくことが求められていると考える。
 なお、システム面・事務面など実務上の課題については、それぞれの金融機関において課題の洗い出しと対応に向けた準備が行われているところである。今回の金融政策の意図をしっかりと踏まえて、金融仲介機能を一層発揮していくために、今後の市場環境も見極めながら、適宜適切な対応が必要となってくるということは申し添えたいと思う。
 最後になるが、デフレからの脱却が現実のものとなり、日本経済全体の好循環が一層確かなものとなることは、我々金融機関にとっても、経営環境として相当プラスに働くものと認識している。銀行界として、デフレ脱却に向けた日本銀行の政策意図を後押しすべく、特にアベノミクスの成長戦略において期待されている領域について、大企業から中堅・中小企業、個人のお客さまに至るまで、健全な資金需要に幅広く対応し、金融仲介機能を粘り強く発揮してまいりたい。


(問)
 2点目だが、日銀の発表を受けて国債の利回りが低下して長期金利が一時マイナスになったりする動きが出ているが、非常に関心が高いところで、銀行の預金であるとか、住宅ローンや企業向け融資、こうした預金や貸出の金利がマイナスになる事態はあり得るのか。
(答)
 全銀協は金利水準について申しあげる立場にない。基本的には、各行がそれぞれの立場で検討し対応していくものであるので、ここでは一般論として申しあげたい。
 今回の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」政策は、デフレからの脱却を確実にするという日本銀行の強い決意を反映したものと理解している。民間金融機関としても、経済の好循環を金融面から強力に後押しし、金融仲介機能を着実に発揮していくことが重要であるということは先ほど申しあげたとおりである。
 一方で、マイナス金利政策は日本では初となる金融政策である。今後の金利水準に加えて、個人・法人のお客さまやマーケットの反応等、先行きが不透明な面があり、今後の動向を慎重に見極める必要があるということが基本的な認識である。
 そのうえで、まず預金についてお答えすると、これはそもそも市場動向なども踏まえ、各行が個別に判断するものであることはすでにお話ししたとおりである。一般論として申しあげると、欧州では、ユーロ圏、デンマーク、スイス、スウェーデンなどで、大口のホールセール顧客等の預金に対して残高に応じた手数料を設定している事例はかなりあるようである。
 個別行の状況については、日本におけるマイナス金利政策は初めての経験であるため、様々なケースを想定して、ただ今申しあげた欧州の事例を含めて調査・研究を進めているところである。そのうえで、こうしたものを実際に導入することがあるのかどうかということについては、現時点ではまだ分からないという状況である。なお、個別行の預金残高は足許では大きな変動は起きていない。マイナス金利政策が始まってからまだ3日であるので、もう少し時間をかけてこの影響をみていく必要があるだろうと思う。
 一方で、貸出に対するマイナス金利導入の可能性であるが、これも一般論としてお話したい。各行がそれぞれ判断することではあるが、日本銀行のマイナス金利政策の水準がさらに深くなるような状況を仮に想定した場合、貸出金利のマイナスというものは、あくまでも理論上ではあるが、否定するものではないであろう。しかしながら、マイナス金利政策を導入している欧州においても、一部のリテール銀行がローンにマイナス金利を適用している事例はあるものの、別途銀行に支払われる手数料も含めて実質的に考えると、ローンを借りているお客さまが銀行から借り入れを行った結果として銀行からお金をもらうということは、実際には普通はないだろうとの情報も聞いている。
 なお、みずほ個別行の立場で申しあげると、貸出についてもやはり先ほど申しあげた預金と同じように、現在、欧州の事例などを含めてあらゆる面から調査・研究を行っているところであり、現時点で貸出金利についてマイナス金利を導入することになるかどうかについてはわからない。
 ここまで、貸出・預金についてのご質問にお答えしてきたが、マイナス金利政策の導入が事務やシステムといった銀行の実務に与える影響について若干追加でお話ししたい。貸出や預金、デリバティブなどの銀行取引に関して、システム上の制約でマイナス金利を入力できないのではないかというご指摘も一部出始めていると思う。各行の状況は承知していないので一般論として申しあげると、当然のことながら、事務やシステムは各行が業務上の必要に応じて対応するというのが通常の考え方である。現時点では、商品によっては一部、事務やシステム上の制約が出てくるだろうと思う。今後の金利環境によっては、追加的なシステム上の手当やエンドユーザーコンピューティングの活用、あるいは一部マニュアル処理等も考えなければいけない状況になることも否定はできないかもしれない。いずれにせよ、その時の市場の状況に即して、お客さまのニーズにお応えすべく、事務やシステム面をしっかりと対応することは銀行としての当然の責務である。


(問)
 住宅ローンについて、先ほど、御行も引下げを発表されたが、異例の月中の見直しが相次いでいる理由を聞かせて欲しい。
(答)
 個別行として先ほど住宅ローンの金利引下げを発表したところであるが、もともと住宅ローンの金利については、市場環境を見極めながら適宜設定している。本日はまだ日本銀行におけるマイナス金利の適用が始まってから3日目ではあるが、先ほど述べたとおり、全般的な金利環境としては事実すでに低下圧力が発生している。お客さまにとっての利便性の観点から、適宜適切にそれに対応した金利を適用すべく、速やかに住宅ローンの金利引下げを行ったものとご理解いただきたい。


(問)
 もう1点だが、これまで住宅ローンでは、変動金利などで基準金利は下げずに優遇幅を拡大することで、すでにかなり低金利になっていたと思うが、すでに低くなった住宅ローンを今後さらに引き下げていく余地がまだあるとお考えか。それとも限界値に近づきつつあるとお考えか。見立てを聞かせて欲しい。
(答)
 これも全銀協会長としてお答えすることではないので、個別行としてお答えする。今後、仮に金利環境にさらに低下圧力が強まると想定した場合、理論的にはさらに住宅ローンの金利を引き下げる余地はある。
 ただし、先ほども申しあげたとおり、マイナス金利政策によってどの程度金利に低下圧力が働くのかについては、少し期間を置いて見ていく必要がある。今回の引下げについては足元の市場環境に対応した結果であるが、マイナス金利政策自体日本では初めての経験なので、これがどのような速度で、どのような範囲で広がっていくかについては、引き続き見極めをしていく必要がある。


(問)
 マイナス金利に関して質問させていただきたい。先ほど、個人の預金金利のマイナス化については、各行の判断というような話であったが、併せて、例えば、今後、ATMなどの手数料を各行が引き上げるということで、ひいては預金者の負担にならざるを得ないという場面が出てくるのか、その辺りについてどうお考えなのかお聞かせいただきたい。
(答)
 冒頭の質問に対するお答えのなかで申しあげたとおり、預金に対してどのように対応していくのかは、現在、個別行としても欧州の事例なども含めて調査・研究しているところであり、今後、そうした調査・研究をもう少し進めていく必要があると思っている。同時に、今回の日本銀行によるマイナス金利政策がどのような影響をもたらすのかということも見極める必要があると思っている。
 したがって、今のご質問に対しては、現段階では分からない。


(問)
 もう1点、個人的な見解でも結構だが、日本の場合だと、銀行への預金の場合、預金保険の対象になったり、あるいはマイナス金利が仮に個人にきた場合に所得課税の対象になったりと、マイナス金利を仮に適用した場合、法制上の調整点、課題はあるのか伺いたい。
(答)
 預金にマイナス金利を適用した場合という、仮定の話についてはお答えできない。


(問)
 マイナス金利の質問2問、立て続けで恐縮だが、日銀当座預金にこれまで行っていたお金というのは、今後日銀当座預金ではなくどこかに運用とか、貸出は急速に伸びないと思うので、どこかにお金が回っていくかと思うが、国債を買ったりとか、どういった道筋でお金が流れていくか。
(答)
 先ほど申しあげたように、現時点では今回のマイナス0.1%が適用される金額はそれほど大きくないという状況でもあり、今のご質問に対しては「理論的に」ということでお答えする。
 金融仲介機能という観点で申しあげれば、やはり住宅ローンを含めた貸出を伸ばしていくことが必要であろうと思う。我々は、従来より特にアベノミクスの成長戦略において期待されている領域においてリスクをとって資金提供していくことに努めてきたが、マイナス金利を受けて、改めてその政策目的をしっかりと金融機関として受け止め、適切なリスクを取っていく努力を続けていくということだろう。
 他の運用方法ということについては、あらゆる金融マーケットの動きとの関係、金融全体がどのように動いていくのかということ、あるいは世界中のリスクオフの流れのなかでどこがリスクをとれる分野なのか、といったことももう少し幅広く、そしてある程度の時間をかけて見ていく必要がある。
 いずれにしても冒頭申しあげたように、金融仲介機能を発揮する努力をさらに続けていくことが、日本銀行の今回の強い意志に対して民間金融機関がまず最初にやるべきことであると思っている。


(問)
 マイナス金利関係でもう1問だが、企業の持合い株式について、やはりこれだけマーケットが下がってしまうと、銀行が要請しているような取引先などに「今は売却を控えてください」など、条件もなかなか合わなかったりすると思う。個別になってしまうかもしれないが、御行にそういった声は聞こえてくるか。削減目標に影響は出てくるか。
(答)
 個別行の立場でお答えする。政策保有株式の売却は、みずほにとって非常に大きな課題であり、達成すべき数値目標も公表している。したがって、株式市況がどうなるにせよ、簿価を削減していく、政策保有株式を売却していくという基本的な考え方に全く変更はない。
 株価が非常に下がってしまうと、株価が高かった時に比べて、取引先との交渉が難しくなってくるのではないかというご指摘かもしれない。そういう面もないわけではないと思うものの、実際に声を聞いている訳ではない。一方で、株価が下がるということは、余剰資金を持っている企業にとっては、自社株の買入消却の最大のチャンスという面もある。個別の企業においても、この株価の下落をそのように捉えようとしている企業もないわけではない。
 安倍政権も、バランスシート上の余剰資金の活性化という観点から、株主に対する還元ということも言っておられる。自社株を買入消却すれば、それは株主に対する還元の方法の一つになる。したがって、株価が下がっているとしても、我々が交渉している政策保有株式の売却の勢いが必ずしも下がってしまうということにはならない、と個人的には考えている。


(問)
 マイナス金利についてお伺いしたい。先ほど、日銀のマイナス金利の政策意図はイールドカーブ全般の押下げによる資金需要の増加ということであったが、低金利の時代が長く続いたなかで、内部留保が積み上がっていてなかなか企業の資金需要がないというのがメガバンクの悩みだったと思う。今回各行が貸出金利を下げていくことでどれほど国内の資金需要が生まれるのかと疑問視しているエコノミストも多いが、その辺りについての見解を伺いたい。
(答)
 日本経済全体の動きによってもかなり影響を受けると思う。設備投資の動きについて申しあげると、先般発表された昨年10-12月のGDPは思ったほど強くない状況であるが、今年に入ってからは先行指標である機械受注の数字もそこそこ上がってきている。昨年の暮れあたり、中国経済のマイナスが非常に大きく影響し、特に輸出にブレーキがかかったことで企業のセンチメントがかなり警戒的な動きになったように、今後も中国経済がかなり下振れるとか、あるいは米国の経済指標が更に悪くなるということになると、環境が悪化する可能性も全くない訳ではない。
 ただし個人的な見解で申しあげれば、そういう不透明な状況から少し落ち着いてくることもありえると思っており、大企業だけではなく中堅・中小企業に関しても既存設備の耐用年数長期化から相応に設備投資需要が出てくると思う。また、統計上の設備投資ではないが、個別行の目で見ていると成長資金の一つであるR&DあるいはM&Aのための資金需要もいくつか出てきている。それからアベノミクスの重要課題である地方創生への取組みにおいて、昨年一年間で地方銀行、第二地方銀行も地方公共団体とかなり密な議論をしているなかで、小さいけれども世界企業になっていけるような企業が出てきている。あるいは農業についても今まで議論ばかりが先行していたが、いよいよアクションを起こすようなプロジェクトも出てきているので相応に資金需要は出てくるだろう。
 競争環境が厳しいこともあるので、引き続き貸出スプレッドの動きについては目で見えるかたちで改善していくことにはなりにくいと思うが、資金需要という観点からはある程度環境が整っていくと考えられる。
 また、銀行の経営環境という観点では、適切なリスクテイクに加えて、非金利収入をどのように伸ばしていくのかについて工夫していくことがこのマイナス金利の環境下では非常に重要な課題となっていくと考えている。


(問)
 もう1点、マイナス金利に絡んだ個別行のことで恐縮だが、先ほど普通預金金利を過去最低まで引き下げる発表をされていると思うが、預金の流出の懸念はないのか。あるいは円預金は余っているので、これ以上増えると困るというところからの判断なのか。ご見解を改めて伺いたい。
(答)
 まず、お客さまが預金をするということに対して金融機関が拒否するということはありえない。普通預金を含めた預金金利の変更というのは、あくまでもマーケット全体の動きを踏まえて行っているので、もちろん上げることも下げることもある。金利の変更によって預金の受け入れを拒否しようといった目的で行っているものではない。
 他の金融機関においても、概ねマーケット全体の動きを踏まえて預金金利を定めていると思う。金融機関にとって、個人あるいは法人のお客さまの預金を受け入れるということは、金融仲介機能を果たすうえで非常に重要な役割だと思っている。したがって、そういう目的で金利を下げているということではない。


(問)
 貸出の環境、海外の方なのだが、こちらは色んな国での減速懸念があるなかで、邦銀からみた場合に、貸出の環境っていうのが今どういうふうに変化しつつあるのか、現状認識をまず教えていただけないか。
(答)
 海外の貸出需要については、やはり少し環境に変化が見られると思う。特に、全体としてリスクオフという状況がしばらく続いてきているので、一言で申しあげれば、クレジットの高い取引先に世界の金融機関が集まるという状況になりつつある。以前は、多少クレジットが低くても貸出スプレッドを厚く取れるところに資金を出していくという考え方の金融機関もたくさんあったが、世界経済全体が不透明になってきている環境下では、相対的にクレジットの高いところに金融機関が集まるという状況になりつつある。個別行の立場から見ても、特にA格以上の格付を持つ貸出先については、そうした競争が激しくなってきており、貸出スプレッドが競争によって下がっていく傾向が見られ始めている。貸出の機会そのものが減っているかどうかは明確に申しあげられないが、競争が激しくなってきているため、海外においても、先ほど国内について申しあげたことと同様に、貸出だけの収益に依存して国際業務を展開することは、当面少し厳しくなるのではないかと強く感じている。
 個別行のビジネスとしては、貸出だけではなく、非金利のビジネスを海外でどう展開できるのかということが、これからの重要な課題になってくる。これは私どもでいえば、銀行・信託・証券が協働しながら、例えば、社債や株式、M&Aのアドバイザリーなどからの非金利収入をどれぐらい厚く、広く得られるかということであり、こうしたところが、国際的な金融機関にとっての競争の主戦場になっていくだろうと感じている。


(問)
 国内で貸出を増やしていく時に、先ほどの海外とは逆の考え方で、少しクレジットの低いところでも多少はリスクをとって増やしていく、資金需要を掘り起こしていく、というところに目線を広げていくというような考え方が、この低金利下で必要になるのかどうか、お考えを伺いたい。
(答)
 各行が個別に判断していくことだと認識しているが、各行ともこれまでもリスクの取れるところではしっかりとリスクを取ってきていると考えているのではないか。
 日本経済の今後を考えると、世界経済とのリンクが強まり景気がより変動しやすくなるなか、リスク管理の基本的な考え方を変えてまで貸出を増やしていくことは中期的にみて銀行経営にとってプラスにならない面も多いと思う。むしろ、先ほど申しあげたような金利収入以外の収入源をどのように作っていくのか、という点が重要である。お客さまのニーズに寄り添ってしっかりとコンサルティング機能を発揮していくことが非金利収入に繋がるため、そうした機能の強化に向けて戦略を組み立てていくことが、個別行として力を入れていくべきところではないかと考える。全体がリスクの高いところへ一斉に寄っていくというようなイメージにはなりにくいのではないかと思う。


(問)
 マイナス金利が銀行経営に与える影響についてもう少し伺いたい。先ほど資金利益には相応の影響がある、ということをお話しされたが、例えば銀行の株価を見ると1月29日に大幅に下がっている状況で、相応どころではないのかな、という気もするのだが、こういった、もっと大きな悪影響があるのではないか、という方に対してどのようにお考えなのか。
 それから大手行と地方銀行とを分けた場合、海外がない、あるいは非金利収入の道が限られているということもあり地方銀行への影響が特に大きいと言われているが、このあたりも含めお願いしたい。
(答)
 銀行経営、特に預金と貸出の収益にどれくらいの影響が出るのかということは、今、個別行でそれぞれ試算していると思う。試算の前提条件として、これ以上マイナス金利が拡がるのか、拡がらないのかということも大きく影響してくるうえ、どのくらいの期間続くのかということも検討するうえで一つの要素になる。そして何よりも、イールドカーブ全体が下押しされる深さというものが今回の当座預金の一部にマイナス0.1%を適用するという日本銀行の発表によってどのくらいになるのか、全く経験がないことなのでなかなか予測できない。したがって私どももそうだが、現時点で預金と貸出の収益がどのくらい下押しされるのかということについて、ケーススタディーはしているが様々なケースがあり、かなりの幅が出てくるというのが実態だと思う。
 もう少し正確性の高いシミュレーションをするためには、少なくとももうしばらくマイナス金利政策が金融マーケット全体に対してどのようなインパクトを与え得るものなのか、あるいは与えていくものなのかを見極める必要がある。極端なワースト・ケースを考えれば、ご指摘のように相当なインパクトがあるだろうが、マーケットは相互に複雑に影響しまるで生き物のような動き方をするので、その前提条件によっては影響はそのケースに比べればかなり少ないという試算結果となることもある。日本で初めてのマイナス金利政策がマーケットにどのような影響を与えるのかということをもう少し見極めていったうえで、各行が自らの経営に与えるインパクトも見極めていくというプロセスがどうしても必要になるだろうと思う。


(問)
 もうひとつ、地方銀行への懸念が特に強いかと思われるが、この点についても一言お願いしたい。
(答)
 これも銀行によってバランスシート構造が異なるため地方銀行ということでひとつに括れるものではない。預貸金収益のウェートが大きなところも地方銀行の中にあるというのは事実だと思うが、一方ですでに手数料収入を強化する方向に舵を切る、あるいは収益構造の転換をしているところもある。したがって、一概には申しあげられないが、基本的に預貸金収益に下押し圧力がかかってくるということは先ほどお話ししたとおりである。
 そうした時にどのような対応をとっていくのかは各行毎の戦略によるが、当面の対応として例えば国債も含めて少しでも金利の付いているところに資金をシフトしていくという考え方で経営されるところも短期的には出てくると思う。ただし、中期的にはやはり収益構造の転換に取り組んでいくことが必要になってくるのではないか思う。
 地域金融機関ということで特別な要素があるわけではなく、むしろマイナス金利のベーシックな影響が比較的ストレートに出やすいのではないかという印象があるのだと思うが、いずれにしても、地方創生の重要な役割を担っているので、自ら貸出先を発掘してそのプロジェクトを創り上げていくということが強く求められており、現に各行ともそのことを自覚して動いている。これがアベノミクスの政策目標のひとつである地方創生にうまく繋がっていくことが、経済の順回転をもたらすことになるのではないかと感じている。