2016年3月17日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 まず、幹事社から3点ある。1点目は、日銀によるマイナス金利政策の導入から1ヶ月が経った。企業の設備投資や個人の消費など経済全体への影響について、また、金融機関の経営等への影響について、会長のご見解をお伺いする。
(答)
 全銀協としての統一見解はないので、私個人の考えとして申しあげたい。
 まず、実体経済に与える影響という観点で、個人消費について申しあげたい。昨年10~12月期の実質個人消費は、前期比マイナス0.9%となり、2四半期ぶりにマイナスに転じたが、これは、衣料品などのいわゆる半耐久財を中心に暖冬が影響して下押し圧力も相応にあったことが原因だと考えられる。個人消費の水準は約304兆円であったが、これは消費増税後の反動減で大きく落ち込んだ2014年4~6月期の水準である305兆円を若干下回る状況にとどまっている。
 一般的に、金融政策は市中の金利の形成に影響を与えることで実体経済に作用するものであり、金利を引き下げた場合、貸出金利や住宅ローン金利などの低下を通じて、設備投資や住宅投資、さらには今申しあげているような個人消費を刺激することが考えられる。さらに、低金利やあるいは金融緩和の継続にコミットすることで、先行きの景気回復期待を底上げし、インフレ期待を醸成することで、いわゆる実質金利を低下させるという効果を持っていることが考えられる。
 いずれにせよ、消費という観点から申しあげれば、マイナス金利政策は導入されたばかりであり、今の段階ではまだ明確なかたちでは結果に繋がっているとは言い切れない。その影響については、今後慎重に見極める必要があると考える。
 次に、足許の市場の状況について申しあげる。マイナス金利政策の導入からちょうど1ヶ月が経過したが、無担保コール翌日物の金利は、マイナス金利政策の導入当初は数ベーシスポイント低下し、その後はゼロ%を僅かに下回る水準を中心として、マイナス数ベーシスポイントからゼロ%を僅かに上回る極めて狭いレンジの中で推移している。取引量は、日本銀行が公表した1月末と2月末の無担保コール翌日物を比較すると、約3.3兆円から約2兆円へ、およそ4割ほど減っている。一方で、国債の金利は、まだなかなか落ち着いてきたとは言いにくい状況である。10年物の金利は、1月までは0.2%台前半を中心に推移していたが、2月に入っていったん0%を割り込んだ後、再びプラス圏に戻った。その後は、再度低下に転じ、3月に入るとマイナス0.1%をつけ、足許ではゼロ%近辺からマイナス0.1%近辺のレンジの中で揉み合っている。
 株式市場は、2月上旬は下落し、2月12日には日経平均で1万5千円を一瞬割り込んだが、これを境にして足許は1万7千円前後まで緩やかに戻ってきている。昨日のFOMCの発表を受けて円高に振れたので、本日は若干ではあるが、株式市場は再び下方に向かっている。株式市場もこうしたレンジでの揉み合いが続いているということだろう。
 短期金融市場の機能不全をご指摘いただくこともある。無担保コール翌日物の取引量が1ヶ月で4割減ったと先ほど申しあげたが、長く量的緩和が続いてきた歴史を振り返ると、例えば2011年から2012年頃には1兆円を割り込んでいたこともあり、2兆円を安定的に回復したのは2014年度の後半以降の話である。したがって、現在の水準が歴史的に極めて低い水準にあるわけでもないと思っている。いくつかの指標を申しあげたが、それぞれレンジの中での揉み合いが続いていることを踏まえると、少し長い目でマイナス金利の影響度を見ていかなければならない状況であると思われる。
 預金金利について申しあげると、マイナス金利政策の導入後、普通預金や定期預金などの金利がすでに引き下げられたことはご承知のとおりである。例えば、みずほ銀行においては、普通預金金利は、マイナス金利政策の導入決定直前の1月28日には年0.020%であったが、足許では年0.001%に引き下げている。
 預金残高は、3月7日に公表した全銀協の統計によると、2月末の全国銀行の実質預金残高で、前年同月末比3.8%増えており、このうち都市銀行に限ると5.9%増えている。全銀協は全ての銀行の増減要因の詳細を把握しているわけではないが、そもそも、実質預金残高の前年同月比の増減率はかなりボラタイルである。マイナス金利政策導入前の昨年中頃にも、本年2月末と概ね同程度の増加率、すなわち全国銀行ベースで4%程度、都市銀行ベースで5%半ばの増加率を記録しており、足許の動きがおしなべてマイナス金利政策を原因とするものとは言い切れないということである。市場金利がマイナスになる中で、行き場を失った資金が銀行預金に集中することも予測されているが、今の段階でこの数字がこうした動きを示しているものと断定することはなかなか難しい。今後、各行とも、こうした数字を見ながら要因についてしっかりと分析を行うだろうと思う。
 貸出金利について申しあげると、これもマイナス金利政策の導入後、すでに引下げが行われている。例えば住宅ローン金利は、10年の固定物は、マイナス金利政策の導入決定直前の1月28日には年1.10%であったが、足許では年0.80%まで引き下げた銀行もある。
 貸出残高は、3月7日に公表した全銀協の統計によると、2月末の全国銀行の貸出残高ベースで前年同月比2.6%増えており、54ヶ月連続の増加である。また、日本銀行の統計によると、中小企業向け貸出も1月末時点で31ヶ月連続で増加しており、貸出の増加は裾野の広がりも見えてきている。しかしながら、企業の調達計画は、年間計画として予め概ね決まっていること、あるいはマイナス金利政策が導入されてからまだ1ヶ月しか経っていないということも考えると、今申しあげた貸出の増加が、おしなべてマイナス金利政策の影響であると断定することはできない。貸出について、マイナス金利政策との関係で議論するにはもう少し時間が必要だろうと思っている。
 住宅ローンについては、借換えの需要あるいは相談が急増していると新聞紙上等で報道されている。各行の相談受付状況を全て承知しているわけではないが、色々と調べてみると、おそらく住宅ローン金利の低下に伴って、借換えをお考えのお客さまの数は明らかに増えていると言えるだろうと思う。新規案件については、お問い合わせの数は若干増えているということかもしれないが、住宅の購入は一般的には相応の期間をかけて検討されるものであり、こうした問い合わせがすぐさま新しい住宅ローンの需要に繋がるわけではおそらくないと考えられる。したがって、この点についても現時点でマイナス金利政策が住宅ローンの増加に繋がっていると申しあげられる段階ではないと思う。
 資産運用について申しあげると、個人のお客さまの資産運用の状況は、足許ではまだ大きな変化は生じていないと認識している。お客さまや市場の動向、これらのマイナス金利政策との因果関係も含めて、今後の動向をもう少し慎重に見極める必要があるということが基本的な考え方である。
 「貯蓄から投資へ」の流れを加速させていくことは、個人のお客さまの健全な金融資産の形成という観点のみならず、今般のマイナス金利政策導入の目的でもあるデフレからの脱却を実現していくためにも極めて重要であり、銀行界としても、例えばNISAの利用促進あるいは確定拠出型年金の一層の普及などにもしっかりと取り組んでまいりたい。やはり、金融機関としては、「貯蓄から投資へ」の流れをしっかりと後押しするとともに、金融仲介機能をしっかりと発揮して、取るべきリスクを取ってリスクマネーを供給することが極めて重要であると思う。
 最後にマイナス金利政策が金融機関に与える影響について若干触れたいと思う。金融機関の収益に対しては、マイナス金利政策が導入されてからまだ1ヶ月程度の中で、どれくらいの影響が出るのかということはなかなか断定しにくいという状況である。銀行の業態によっても影響はかなりばらつきがあると見ており、今回のマイナス金利政策の導入が及ぼす影響は、これからさらに検証する必要があろう。ただ、当面の貸出金利の引下げが収益の下押し要因になることは事実である一方で、これが日本銀行の政策目的に沿うかたちでデフレマインドの払拭、そして実際に新しい貸出あるいは成長戦略の実現に確実に結びついていくことになると、金融機関の経営にとっても当然大きなプラスということになってくるだろう。したがって、そうしたマイナス金利政策の包括的な効果が銀行経営に与える影響は、もう少し時間をかけて判断しなければならないと感じているところである。


(問)
 2点目だが、日本経済の遅れが指摘される中で、昨日政府が開いた国際金融経済分析会合で、コロンビア大学のスティグリッツ教授が消費税の引上げに慎重な考え方を示した。教授以外にもこのところ、消費税の引上げに慎重な意見が目立ち始めているように感じるが、会長の意見をお伺いしたい
(答)
 日本経済の現状は、回復の動きが足踏みをしており、踊り場の状況にあると認識している。これは日本国内の要因というよりも、中国を中心とした新興国経済の減速の影響、欧州経済の回復の遅れ、米国経済の回復スピードに対する期待の低下、といった不安定要因が大きな影響を及ぼしている。企業の経営者も慎重姿勢を強めていることから、設備投資も力強さを欠いており、個人消費の回復も鈍い状況である。
 昨年10~12月期の実質GDPは、2次速報値で若干上方修正されたとはいえ、前期比年率1.1%減と、2四半期ぶりのマイナス成長になった。足許の1~3月期に関しても、大きく改善しているという実感はない。
 金融市場は、足許でやや落ち着きを取り戻しつつあり、今後は市場の安定化とともに、海外経済の動向が重要なファクターになってくる。海外経済に回復の兆しがでてくれば、国内経済についても、明るい見通しが出てくると思う。日本経済を見ていく上では、引き続き海外経済の動向に注目していくべきだろう。
 一方、昨日発表された2月の訪日外客数は、前年同期比36.4%増の189万1,400人と、単月で過去2番目の多さ、2月としては過去最高を記録した。
 中国経済の減速によって訪日観光客が減るのではないかという予測もあったが、インバウンドについては、引き続き大きく伸びている。3月以降もイースター休暇や桜のシーズンが到来することから、訪日旅行需要の増加が見込まれており、消費のプラス要因になると考えられる。
 消費税率の再引上げを巡る動向について全銀協としての見解はないので、個人的な見解を申しあげると、法律で定められた事項であることから、原則としてそこで定められたプロセスに則って対応されるということであろう。
 ただし、不測の事態等によって、予定どおりに実施することが明らかに日本経済にとって不適切な状況となった場合には、内閣での政治判断と国会での審議を経た上で、法律改正を含む措置がとられることは理論的にはあり得ると思う。
 安倍総理が繰り返し述べておられるように、10%への税率の引上げを確実にするための経済状況を作り上げていくことに全力を尽くしていくことが、今の段階ではまず何よりも重要である。
 一方で、日本経済の確実な回復を実現するという観点では、消費税率の再引上げを延期するかどうかは極めて重要な判断であり、今後、先ほど申しあげた海外経済の動向等を含めて、様々な角度から慎重かつ十分に検討されていくものと考えている。


(問)
 3月末で任期満了を迎えるが、全銀協会長としてこの1年を振り返っての感想をお願いしたい。
(答)
 3月末をもって全銀協の会長を交代することになる。在任期間中は大変お世話になったが、感想も交えて総括したい。
 この1年を振り返ると、既存のルールや固定観念といったものを打ち破ろうとする力、あるいはエネルギーがグローバルにも認識された1年ではなかったかと思う。言葉を変えて申しあげれば、新しい世界の枠組みの一つの入口、第1章が始まった1年だったと感慨深く振り返ることができる。
 昨年4月、全銀協会長への就任にあたり日本経済の現状をいわゆる「政策主導による景気回復」というフェーズから「民間自身の活力によって景気回復をより確実なものにしていく」フェーズに移ってきたところであると申しあげた。そのうえで、今年度を「日本経済の好循環の広がりに貢献する1年」にしたいということで様々取り組んできた。就任にあたり掲げた活動方針の3つの柱に沿って、1年間の取組みや残された課題を整理してまいりたい。
 第1の柱として申しあげたのが、「成長機会創出につながる金融仲介機能の発揮」である。各行とも日本を支える中堅・中小企業が抱える課題に対して、積極的な取組みを行ってきた1年だろうと思う。特に地方創生という政策課題については、銀行界が持っている資金供給機能、あるいはコンサルティング機能、あるいは官民、業界・企業間ネットワークといったものをフルに活用し積極的に取り組んできた。例えば農業の6次産業化やPPP/PFIといった分野でその成果が出てきていると考えている。
 資金需要は、過去1年間を振り返ると、設備投資そのものは緩やかに増えてきており、中堅・中小企業の設備投資についても増加の傾向がみられ、貸出ボリュームという観点からも悪い環境ではなかったと思う。したがって、金融仲介機能をしっかり発揮していくという政策目標についてもそれなりの成果を上げてきた1年ではなかったかと思う。
 今年は東日本大震災から5年になる。政府主催の追悼式も行われたが、改めて被災された方々に対して心からお見舞いを申しあげたい。金融界として、被災地の復興支援においていわゆる「二重債務問題」についてもこの1年間懸命に取り組んできた。また、この東日本大震災での経験を踏まえ、「自然災害の被災者の債務整理に関するガイドライン研究会」を発足させ、昨年12月にこのガイドラインを公表した。今後、この枠組みをしっかりと周知徹底していきたい。
 続いて、第2の柱として申しあげたのは「安心、安全、かつ利便性の高い金融インフラの構築」である。ますます手口が巧妙化している振り込め詐欺犯罪への対応が、まず第一に挙げられる。昨年の10月を「振り込め詐欺等撲滅強化月間」と位置付け、警察とタイアップした啓発イベントを、東京以外では初となる東日本大震災の被災地を含む全国8都市で実施するなど、ますます変化する犯罪手口の周知を強化するとともに、足許3月14日から地上波にて注意喚起のための全銀協CMの放送を開始したところである。この金融犯罪防止については引き続き全力で取り組んでいくことが必要である。
 また、全銀システムの稼働時間の拡大、いわゆる「24時間365日」対応に関しては、本格的な業務・システム要件の検討を進めてきたが、昨年の11月に要件定義書を確定して、具体的な設計作業に入っているなど、着実に進捗している。システム要件定義の確定を受けて、全会員行向けに実施した参加意向のアンケートでは、約9割の銀行から前向きな回答を得ている。今後各行において本格的な対応が開始されるところであるが、この「24時間365日」対応についてはこうした多くの金融機関の参加によって力強く前進できるものと考えている。
 また、ICTやモバイル環境、デバイスなどの急速な発展を背景に注目を集めているFinTechについて、就任時にも触れたが、海外では伝統的な銀行業務の領域を超えて革新的なサービスの提供が行われる事例がいくつも出てきている。その一部では、既存の銀行業務を脅かすような企業も出てきている状況下、日本でも金融審議会において、「銀行グループの業務範囲規制の見直し」などについての議論がなされて、銀行法等の改正法案が国会に上程されているところである。これはおそらく今後数年間の大きな課題として、我々民間金融機関それぞれの創意工夫により、お客さまにとって最も利便性の高い魅力あるサービスを提供できるように主体的に取り組んでいく基盤を構築していくということだろうと思う。
 最後に第3の柱、「より健全な金融システムの確立」について申しあげたい。ゆうちょ銀行の預入限度額の問題については、1,000万円から1,300万円への引上げということで、銀行界が従来発信してきた強い懸念について一定程度のご理解のもとにこの結果が出たものと理解している。ただし、すでにこの場で何度も申しあげているが、公正な競争条件が確保されていない中で預入限度額が引き上げられることは、例えば金利リスクの増大へつながりかねないという面について懸念が残っている。引上げの影響をしっかり見極めていくと言われているので、そうしたものについても決められたことをしっかりと対応いただきたい。
 コーポレートガバナンス・コードについても触れておきたい。上場会社におけるコーポレートガバナンスは、この1年間相当強化されてきたと思う。政策保有株式についてもご承知のとおり、お客さまとの間でもしっかりとした議論が徐々に進みつつあり、すでに各行とも主体的な取組みの中で成果を出しつつあるということだろう。
 国際金融規制の枠組みについても簡単に申しあげたい。TLACについては当局のご尽力もあって、本邦銀行界をはじめとした意見も反映された最終規則文書が公表されているが、まだ議論が残っている大きな枠組みもある。例えば標準的手法の見直しの問題、資本フロアの問題、あるいはIRRBBなどである。ただし、この点についても、規制間の相互の影響、すなわち規制全体として金融界あるいは経済にどのような影響を与えるかということについて、包括的にしっかりと見ていこうという動きはこの1年間急速に強まったと認識している。結果として先般のG20の中で、「資本賦課の全体水準をさらに大きく引き上げることはしない」との声明が採択されるなど、従来からの我々の主張が次第に浸透してきたことが伺える。我々民間金融機関としても関係ご当局と一緒に力を携えて今後とも取り組んでいきたいと考えている。
 いくつかの項目を挙げながら1年間を振り返ったが、引き続き我々の金融仲介機能をしっかりと発揮して取るべきリスクをとる、あるいはコンサルティング機能を強化することで法人・個人のお客さまそれぞれに対して最良のサービスが提供できるように今後とも努力していきたい。少し長くなったが、以上を総括とさせていただきたい。


(問)
 銀行のカードローンについて取材をしており、カードローンについて伺いたい。非常な勢いで各社ともカードローンの残高を伸ばしているが、それに伴い、現場では一部、銀行のカードローンによる多重債務という事例も生まれてきていると聞いている。そこで質問は、貸金業法で定められている総量規制、3分の1ルールといったところをどのようにご覧になっているかを質問させていただきたい。全銀協としての見解、もしくは、みずほさんとしての見解、どちらでも構わない。
(答)
 総量規制について全銀協としての統一見解はなく、個人的な認識をお答えする。2010年に施行された改正貸金業法により消費者金融業者やクレジットカード会社に対して総量規制が課された一方、銀行は対象外とされた。
 銀行については、例えば主要行等向けの総合的な監督指針では、「我が国における消費者金融市場を、中長期的に健全な市場として形成する観点から、同市場における個人向け貸付けについて、銀行による社会的責任も踏まえた積極的な参加」が期待されていると認識している。
 こうした経緯も踏まえ、現在でも会員各行においては、お客さまの返済能力等の実態をしっかりと踏まえた深度ある審査、すなわち個人のお客さまが無理なく返済をすることができ、生活を壊すようなことがないか等を十分に見極めたうえで、適切な対応を行っているものと理解している。現状、銀行のカードローンについて、改正貸金業法が施行された当時にあったような消費者金融における社会的な問題を惹起するような状況にはなっていないと認識している。
 銀行界としては、引き続き改正貸金業法における多重債務者の発生抑制の趣旨や利用者保護の観点を踏まえた適切な取り組みを行っていくことが大変重要な責務であると考えている。それが、銀行がこのような業務を継続していけることの大きなベースであると認識している。
(問)
 もう1点追加で伺いたい。銀行界としても貸金業法をしっかり遵守してという話があったが、一部の地方銀行のカードローンの広告を見ていると、「銀行のカードローンは総量規制の対象外です」などと謳った広告がいくつか、私が取材した中で見られた。その辺りについて、全銀協の会長としてどのようにご覧になっているか。
(答)
 ご指摘の事実について私個人は把握していないが、会員各行においては、金融機関の責務や貸金業法の趣旨を踏まえたうえで、しっかりと対応していると認識している。


(問)
 マイナス金利に関係して2点お伺いしたい。先ほど佐藤会長もおっしゃったとおり、まだ1ヶ月なのでよくみていかないということで軽々に判断できるものではないと思うが、考え方として改めてお伺いしたい。
 一つはどんどんこれからマイナス金利が仮に深掘りされていった場合に、銀行の収益の預金金利にゼロバウンドがあるとすれば圧縮されていく、その場合に口座維持の手数料などというのをやるのかどうなのか、これは各行で判断することであるので、今やりますとは言えないと思うが、そういうものがありうるのかどうかの考え方を改めて教えてほしいというのが1点目の質問である。
(答)
 マイナス金利政策は日本ではこれまでに経験がないので、先ほど申しあげたように全体的な影響はもう少し見ていく必要があると思う。
 預金金利については、前回の会見で申しあげたように、グローバルに起こっていること、特に欧州におけるマイナス金利政策の導入で起こった事例についてかなり研究させていただいた。皆さんもすでにご承知のとおり、事例だけを事実として申しあげれば、法人の大口預金についてマイナス金利を適用するような事例は無いわけではない。一方、個人の預金に対してマイナス金利を適用する事例は、欧州ではマイナス金利政策を導入してからすでに3年程経っているわけだが、ゼロではないが極めて稀である。日本とヨーロッパでは法制が違うし、考え方や社会のあり方も違うので必ずしも同じではないと思うが、やはり個人の預金に対してマイナス金利を適用することは少なくともヨーロッパでは難しかったということは事実であろう。
 日本でも0.1%のマイナス金利政策が導入されたが、これが本当にご指摘のように「深掘り」されていくのかどうかはまだ分からない。仮に今後「深掘り」されるとしても、その程度にもよるが、今申しあげたような欧州の事例や、それが社会に与えた影響あるいは銀行経営上どういうリアクションが起こったのかといったことなどを相当慎重に分析して、そしてその後に各行がアクションをとるかとらないかを決めていくというプロセスを踏んでいくことになるであろうと思っている。
(問)
 もう1点は、そうは言ってもこれだけ貸出金利が下がったら、むしろ貸出を積極化して借りたい人に貸してあげるというのが、先ほどおっしゃった金融仲介機能を果たすことになるかと思うが、むしろ収益が圧迫されるため、言ってみればちょっと危ない先に貸したくないな、というのが強く出て、貸出が慎重になると、金融仲介機能がむしろ果たされなくなるということを懸念される方もいる。そこについての考えを伺えないか。
 先ほど、FinTechの話もされたので、あまり既存の銀行が中小企業とか、スタートアップとか流行りの段階の企業にお金を貸さないということになると、どんどんFinTech企業に乗っ取られていくのではと私は思うのだが、そのあたりも含めて伺いたい。
(答)
 貸出金利について申しあげると、金利全体のイールドカーブはフラット化しているので、貸出スプレッドの圧縮は当然起こってくる。国内貸出は、残高は先ほど申しあげたとおり増えているが、預貸金利回差あるいはマージンはずっと下がってきている。
 そうした中、よりリスキーな、あるいはなかなか貸出ができなかったところにスプレッドを求めて貸出するという動きがでてきてしまうのではないか、という点については、各行が判断することであるから私はコメントする立場にはないが、数年前に比べれば、各行のリスク管理手法あるいはガバナンスは格段に強化されている。これは、実は世界的にも評価されており、リスクのあるものに簡単に資金を投入して目先のスプレッドを取っていこうという動きには繋がらないと思う。
 それではどのように対応していくのか、という問題が出てくると思うが、これこそ、これから民間金融機関の真価が問われるところである。個別行としてのみずほ銀行について申しあげれば、以前も申しあげたように貸出のみで収益を得るにはやはり相当限界があるという環境が続くかもしれないなか、いわゆる非金利収入に注力している。お客さまに様々なサービスを提供することで、新しいビジネスチャンスが生じるようになる。人的なリソースあるいはキャピタルといった経営資源をそこに集中させることによって、アセットあるいはキャピタルの収益率をむしろ上げていくことができる可能性は、国内のマーケットにも十分あると思っており、そうした努力を続けていくということだと思う。非金利収入を拡大する余地がない金融機関が仮にあるとしたら、その場合、やはり最大限努力して、例えば地方創生という動きの中で自ら貸出先を発掘する、あるいはコンサルティング機能を発揮して発展途上の企業がより大きく成長していけるように共に歩んで、そこで貸出機会を創っていくという金融本来の機能を強く発揮してくことによって生き残りを図る方向に向かっていくと思う。それこそが預金を集めて、リスクを判断して貸出につなげていくという金融機関が持っている本来の金融仲介機能であろう。こうした努力を各行が続けていくことで、必ずしも目先のリスクの高いところに資金を投入してスプレッドを稼ごうという動きに皆がなだれを打つということは考えにくいと思う。


(問)
 先ほどFinTechについて少しお話があったが、仮想通貨について伺いたい。革新的サービスを行って存在を脅かす危機感を持っているとさきほどおっしゃっていたが、送金手数料の安さからビットコインが再び注目を集めている現状がある。銀行としては仮想通貨に対して危機感を持たれているのか。
(答)
 仮想通貨については、全銀協として統一した見解はないので、私個人の考え方を申しあげる。
 仮想通貨に対する規制導入の方向性についての議論は、登録制などの手段も含めて、仮想通貨をある程度社会的に認知したうえでそれに規制をかけていくという考え方に整理されつつあると認識している。今までのような、規制のない状態から、そうしたかたちで整理がされつつあるということは有意義なことだと思う。
 金融審議会のワーキング・グループの報告書においても「今後、仮想通貨の利用が多方面で進む場合、新たな類型の業者が登場する可能性もあり、国内における今後の利用の広がりやサービスの実態に留意しつつ、機動的な対応が必要と考えられる。」との指摘がなされている。利便性向上の可能性の進展と併せて、利用者保護や犯罪防止の観点から規制がされていくという方向に動き出しているということだろうと考えている。
 今般の閣議決定された法案では、仮想通貨を「決済手段として利用可能で、かつ、不特定多数の者と売買可能な、電子的に移転できる財産的価値」と定義している。この定義からすると、やはり一定程度、社会的認知がされているということだろうと思う。こうした定義を踏まえた適正な規制の枠組みをどう作っていくのかということが、今後進められていくのではないか。
 また、仮想通貨そのものが銀行から見て悪というものではなく、社会の利便性を上げるという意味で有用な面もある。あるいは、一種のツールとしてみずほとしても、例えばブロックチェーンの技術をどう活用できるかなど、前向きに検討しているものもある。
 このように、革新的な、あるいは前向きなお客さまの利便性につながるものはしっかり進めていく。一方、それに伴うある種の副作用については、消費者保護や規制逃れの防止などによりしっかり阻止していく。今後仮想通貨の問題についてはこの両面で議論が進んでいくのではないか。日本に限らず、各国ともそういう方向で当局が仮想通貨について取り組んでいく、あるいは取り組み始めているという状況であり、我々としてもそうした議論に加わってお客さまの利便性向上に反映させるとともに、既存の金融システムの堅確性を損なわないようにしていくということが大事だろうと思う。


(問)
 今ブロックチェーンと出たので、加えてもう一つだけ伺いたい。少し重複するかもしれないが、なぜ海外の金融機関とブロックチェーンの共同研究をされているのか、銀行側のねらいについて教えていただきたい。
(答)
 ブロックチェーンの技術は汎用性の高いものであり、世界中の金融機関がブロックチェーンの技術を使って何ができるかということを模索している状況である。私も参加した先般のダボス会議でも、各国の有名な金融機関がほぼ全て集まるなか、議題のひとつとしてブロックチェーンのことが議論されていた。
 一つはっきりしてきていることは、例えば、決済の世界でブロックチェーンの技術を使うことによってスピードや、利便性が高まるといった可能性が十分でてきているということではないか。
 我々みずほ銀行としても、他社と共同して試験的な取組みを行っているところで、まだ、具体的にどういうサービスが可能になってくるのかということをお話しできる状況ではないが、ブロックチェーンの技術が、決済のスピードアップ、あるいは手続きの簡素化など、お客さまにとって利便性があるものに繋がっていく可能性が見えてきている。
 いずれにせよ、これは技術的にも制度的にも世界中の金融機関がもう少し研究を続けていくということであると思う。


(問)
 あと2週間ほどで今年度末ということで、決算発表の時期を迎えるわけだが、今期と来期、マイナス金利政策が始まって今期は残りわずかではあるが、それぞれ今期と来期、どのくらいのインパクトを見ているのか、現時点での考えを聞かせていただけるか。
(答)
 難しい質問であって、マイナス金利政策の影響を定量的にどう把握するのかは、前提条件をどう置くのかによってかなり違ってくる。私どもでもいくつかのシミュレーションをしているが、可能な範囲で申しあげると、0.1%のマイナス金利が日銀当座預金にかかることによる収益の圧迫要因は、少なくとも個別行で申しあげればたいしたものではない。
 やはり、イールドカーブがフラット化して貸出金利が下がってくる影響のほうが大きいと思う。ただし、まだ判断することは難しい。このマイナス金利政策によって、政策目的のとおりに、実質金利を抑えて潜在的な日本経済の力というものを16年度に発揮できるような状況に本当に繋がるのかどうかを見極める必要がある。さらに言えば、これは必ずしも日本における事象にとどまらない。例えば、アメリカ経済の強さがもう一度再認識されて、昨日のFOMCで公表された資料で示されている2016年中の50ベーシスの利上げといったペースを超えて、12月に示されていた同年中の100ベーシスの利上げでも可能な状況が仮に加わってくるとすれば、日本銀行のマイナス金利政策がうまく合わさることによって、日本経済がさらにエンジンをふかすといった状況も理論的には考えられるのである。その場合はむしろ全体として考えると我々の収益にとって必ずしもマイナスではない、ということにもなる。
 いわゆるストレスシナリオというものをいくつも考えているが、特定の要因がどう動くかということをいくつかのケースでシミュレートしてみると、もちろんかなり厳しいシナリオを書こうと思えば書けるし、今申しあげたように包括的な影響をポジティブに捉えるシミュレーションもできる。結論を言えば、想定の置き方によってかなりバラツキがある、ということだと思う。
 ただし、16年度の計画をどのくらいとするのかということは、個別行として各行が判断していかなければならない。おそらく各行ともどれをメインシナリオとして考え、どれをサブシナリオとして考えるのかによって、目標となる収益が変わってくるだろうと思う。日本経済だけではなく、世界経済、例えば原油価格がどうなるか、といったあらゆる要素も含めた世界経済の認識についての各行の状況判断があったうえで、業務計画を作っていくということだろうと思う。


(問)
 昨日、日本郵政の社長に長門さんが就任という発表があった。長門さんはもともと民間金融機関の出身で、これまでゆうちょ銀行の社長もされているわけだが、改めて日本郵政のトップになられるというところで、佐藤会長の受け止めを伺いたい。
(答)
 個別の人事について申しあげる立場ではないので、回答は控えさせていただく。頑張っていただきたい、と申しあげたい。


(問)
 抽象的な質問なのだが、先ほどおっしゃられた、今年になって欧州の信用不安が広がって、欧州の金融機関も赤字決算になって、結構大手は赤字決算になっている。このようなグローバルな視点で金融不安、信用不安というのが出てきているのだが、邦銀にとっては連動して出てくるような影響なのか。以前に8年から10年に一回くらい金融危機はやってくる可能性がある、とおっしゃられたかと思うのだが、グローバル的な見方で今の金融界をどのように捉えておられるか。
(答)
 欧州の金融機関の状況が最近少し良くないのではないかという観測には、欧州特有のものがかなり含まれているだろうと思う。何点か申しあげると、一つは、欧州では例えばLIBORの問題や色々な金融商品に伴う巨額の訴訟リスク・訴訟コストというものがかかってきているということがあると思う。もう一つは、全て個人的な感想だが、原油価格の30ドル近辺での推移は欧州の金融機関に対し日本の金融機関以上にダメージを与えているのではないか。なぜならば、欧州の金融機関はエネルギー関係のプロジェクトに相当融資しており、しかもかなりロシアが絡んでいるエクスポージャーが多いと認識されているからである。ロシアに限らず産油国の経済が落ち込んできているということが、実際の銀行の財務体質に影響を与えるという面と、資源関係のエクスポージャーが大きいということからくるレピュテーション上のダメージが株価等にかなり反映されているということが二つ目の要因として挙げられるのではないか。これもまた欧州金融機関にとって特徴的なことだと思う。ギリシャの問題は一応しのぐことが出来たと考えても、今申しあげたような観点から、欧州の金融機関を巡る観測はネガティブな問題が続いている。
 それからもう一つだけ加えるとすれば、単なる推測ではあるが、リーマンショック以降の欧州の金融機関の財務体質について、例えば、バランスシートの健全性が本当に確保されているのだろうかという疑心暗鬼もまだ残っていることから、明示的にいえば、欧州の金融機関の株価が余り上がらない、あるいは下がる、といったことにつながっているといえると思う。したがってお答えするとすれば、この欧州の金融機関の状況がストレートに日本の金融機関、特にメガバンクに同じようなかたちでネガティブに効いてくるということは全くないと思う。


(問)
 グローバルに見ても、日本の銀行の収益性、なかなか稼げない環境であるということはどこも同じだと思うが、その日本の銀行がどのように稼いでいくのか、特に邦銀は公共性が高いということで、リテールであってもシティのように一定の残高未満だと手数料を払わなくてはならないとか、マイナス金利の影響も絡んでくるが、そういうことが日本の銀行ではできない。そういうことを考えると、さほど大きく変わらないサービス、皆さん非金利収入であったり、海外であったり、オンラインFinTechであったり、そういった方向でこれから収益を伸ばされると思うが、それを踏まえたうえで、今後競争力で勝つための条件というのは何になるのか。
(答)
 一経営者としてお答えするが、金融業という産業の歴史を振り返ったとき、今は大きな節目に来ているのではないかと思う。先ほどご質問にお答えしたとおり、マイナス金利環境であるかないかにかかわらず、貸出業務についてはプレーヤーが多いこともあり、それだけで十分な収益を上げていくことはなかなか難しくなってきている。
 この状況は日本だけではないと思うが、そのような状況において、どのようなビジネスモデルを作れば収益力を上げることができるのかについて大きく二つ申しあげたい。
 一つは収入サイドの問題である。法人であれ個人であれ、それぞれのお客さまに多面的なサービスを提供することによって、そのお客さまから得られる収益の水準を上げていく。これが可能なビジネスモデルなのかどうかが決定的に重要であると考えている。みずほは、銀・信・証、アセットマネジメント、リサーチ&コンサルティングなど、それぞれのお客さまをグループ全体のお客さまとして全方位的にサービスを提供することを追求している。これはお客さまにとって非常に利便性が高いと同時に、我々も貸出だけではない様々な非金利サービスを提供できるビジネスモデルであり、このビジネスモデルを確立できた金融機関が勝者になる可能性はあると思う。
 もう一つはコストサイドの問題である。例えば、欧州の金融機関における最近の中期経営計画をみると、よくオペレーショナル・エクセレンスという言葉を使っている。これは銀行によって言葉の使い方が少しずつ違うものの、単純化して申しあげると、既存のオペレーションの効率を上げてコストを絞ることによって、収入が増えない中にあっても当期利益あるいは業務純益を守ろうという趣旨がかなり含まれているものである。このオペレーショナル・エクセレンスという言葉が、今後の銀行の競争力を考えていくうえで重要であると思う。
 収入サイドの競争は相当厳しい一方、コストサイドは自助努力でできる部分もある。実はここに隠れたFinTechの活用の場もあり得ると考えている。FinTechというと、小口金融やロボアドバイザーなど新しいビジネスを想像しがちであるが、それは収入サイドの話である。大事なのは、テクノロジーを使ってコストをどのように抑えるのかであり、オペレーションの効率性をどのように高めるのかということの方がインパクトとしては大きいかもしれない。いかに知恵を絞りオペレーションの効率性を上げていけるかが、勝者になれるかの一つの条件ではないか。
 収入サイドとコストサイド、両方での戦いがこれから繰り広げられる。そこで勝ち抜くことが、銀行として勝者になるための道であろう。


(問)
 ちょっと細かい話で恐縮だが、マイナス金利の会計処理の問題について会長にお考えをお聞きしたい。現状、マイナス金利が適用されて以降、実務上の課題の一つとして、会計処理の問題というものが指摘されるようになってきている。特に、短期金融市場でマイナス金利の取引をどういうふうに処理するかという問題があるかと思うが、今後、マイナス金利が続くとすれば、ある程度の会計処理の統一した見解が求められてくるのかなと思っている。その対応策について、どういうふうにお考えか。
(答)
 お客さまの会計処理に対する影響についてのご質問と理解してお答えする。例えば、運用商品についてお客さまの決算にあたり時価評価をしようとすると、その時の金利がマイナスだった場合の時価評価の正確性が、お客さまの決算作業に影響するといった問題が技術的には起こり得る。
 運用商品の時価評価については、マイナス金利でなければ、基本的にはシステム上で直ちに計算して、お客さまにお渡ししている。ただし、それがマイナス金利になった場合については、残念ながら現状のシステムで処理することはできないことがある。
 こうしたことがお客さまの決算に支障を来さないよう、いわゆるEUC、エンドユーザーコンピューティングといった、システムに一種のカセットをはめこむような暫定的な方法で時価を算出するなど、現在大急ぎで手当てを行っているところである。
 期末ということもあり、我々がまだ見えていない実務的な困難さがこれから出てくることはあるかもしれないが、お客さまや監査法人とはかなり密に議論をしており、想定される技術的な問題はほとんど克服しつつあると考えている。
 もちろん、マイナス金利が常態化した場合には、臨時的な措置ではなくしっかりとしたシステム開発が必要になってくることはあり得るが、当面、マイナス金利によって大混乱が起きるということにならないようしっかりと対応していると認識している。


(問)
 春闘について2点お伺いする。昨日、春闘の集中回答日があり、ベアの水準というのはやはり昨年よりは控えめな状況だったというところと、一方でベアを行うという流れは止まらなかったという点があると思うが、まずその評価についてどのように捉えていらっしゃるかということが1点。
 もう1点は金融機関の春闘について、メガバンクの労組などではベアの要求を見送るという流れが主流になっているかと思うが、その点で連合の会長や経団連の会長から否定的なコメントも出ているというふうに聞いているのだが、その金融業界を巡る春闘の状況、賃上げの状況についてどう考えていらっしゃるか。またその外部からの批評についてどう感じていらっしゃるかを教えていただきたい。
(答)
 去年の暮れ、あるいは特に今年に入ってからの状況を大きく申しあげると、世界経済が順調に伸びていると見ていたところに、不確実性のある様々な要素が出てきた。まさに米国の金利の引上げスピードが半減する見込みになってきているところにも表れているし、中国経済についても、しっかりと底を打ったのかどうか見極めができない。そうしたことが続く中で、暖冬の影響もあり日本の10-12月のGDPもあまり良い数字ではなかった。そういうことから経営者のセンチメントが、特に去年に比べると相当慎重姿勢になったということだろう。これがベアの水準が前回よりも低くなったことの背景にあるのではないか。
 ただし、そうは言ってもベアを続けられたことは大いに評価すべきだろう、という声もあり、私もそのように思う。
 大事なことは実質的な賃金が上がっていくことであり、もちろん名目のベアが何%かということも心理的な面で大切だが、個人それぞれが明らかに実質的な所得が上がっていることを感じられることが大切であると思う。もちろんベアはプラスだが、出来ることはそれだけではないのではないか。
 そうしたことから考えると、今回ベアを実施した業界もあったが、ベアを実施していない業界もある。ただし、詳しく見ていくと、ベアを実施しなくても例えば賞与などの成果給を上げて、実質的な所得全体を上げようというセンチメントはかなり広範に残っていると思っている。したがって、より強調すべきは、ベアが引き続き残ったことに加えて、中堅・中小企業も含めて全体の所得の水準を上げようという経営者の意識が残っていることにポイントがあるのではないかと思う。
 個別行の話になるが、我々のベアは物価水準や業績を踏まえて組合側が要求してくるもので、ゼロということになれば、組合がその要求を見送ることを表わしているわけである。ただし、日本経済全体に対するインパクトも含めて実質的な給与としては成果給も含めて相応の引上げは行っていこうと思っており、そうした意味でこの流れを止めるということではないと考えている。


(問)
 銀行の貸し手責任についてお伺いしたい。不振企業の話になると銀行の貸し手責任というのが出てくるが、そもそも銀行の貸し手としての責任というのは何を持って責任というのか、責任を果たすことになるのか。また、よく責任が取れなかったことのさらに責任をとるという意味で債権放棄という言葉もよく出てくるが、そもそも株式・債権の優先劣後の話からすると果たしてそれでいいのか。それとも本来ならば債権放棄をする場合はきちんと法的整理というクリアなかたちで債権・債務を確定させてからやるべきではないかという議論があるが、このあたりについてお聞かせいただきたい。
(答)
 借り手企業が業況不振に陥った場合の貸し手としての銀行の責任についてのご質問だろうと思う。一般論で申しあげれば、我々は借り手企業の業務内容や将来計画をしっかり検証した上で貸出しを行うため、そういった中で財務上のアドバイスを行うことや、場合によっては営業面での支援をすることもある。ただ、それはあくまで銀行の役割として行うものであり、事業を立て直す責任を負っているのは企業自身である。企業の経営陣による会社経営がうまくいかなかったことの結果責任を貸し手の銀行が取るということは一般論としてあり得ないことだと思う。もちろんそうなる前に様々なアドバイスをすることはあるが、経営の全てに目を光らせられる立場でもないため、そういった意味でも銀行の責任というのは極めて限定的だろうと考える。
 債権放棄については、我々は銀行の経営者として法律上の善管注意義務を負っているため、債権放棄をするほうが銀行にとってトータルに見てプラスになるという判断が成り立つことが絶対に必要である。例えば、ある会社に100の資金を貸していたとする。業況不振に陥ってこの100の債権のうち50を放棄することによって、この会社が立ち直って成長路線に乗っていく蓋然性が高まり、結果として、現時点で法的整理を行ったケースよりも将来的な回収額が増加するのであれば、今ここで50を債権放棄することが経済的に合理性を持つと判断される。そういう判断があって初めて債権放棄が行われるのであり、それを逸脱した債権放棄は許されていないと思う。


(問)
 会見の最後に会長から一言お願いしたい。
(答)
 冒頭に申しあげたとおり、今年の3月末で全銀協の会長という立場を終えることになる。本当に1年間、様々なかたちでご支援いただき、心から御礼申しあげたいと思う。
 金融機関をめぐる環境については、先ほどから幾つもご質問にあったとおり、おそらく過去5年と比べるとこれから先の3年、5年は誰も経験したことがないような荒波の中へ入っていくことになる。それは規制の問題であり、テクノロジーの問題であり、あるいはビジネスモデルの問題である。そういう中で日本の金融機関として大事なことは、日本の経済にコミットし、その回復を社会的使命として捉えどう活動していくのか、という本質的な責務を各金融機関が肝に銘じて果たしていくということであり、このことを皆で共有できるように会長として微力ではあるが尽くしてきたつもりである。ゆうちょ銀行の限度額の件や最近のマイナス金利等の件に対しても、やはり金融機関というものは社会的な責任を負っているということを会員各行と共有しながら、我々としてできるだけのことをやっていかなければいけないものなのだと思う。
 ただし、申しあげたとおり環境は極めて複雑で厳しいものになっていくと思う。だからこそ、銀行界として一つになって、地銀、メガ、あるいはゆうちょ銀行も含めて世界に冠たる日本の金融市場の堅確性というものをメンバー全員が守っていくことが肝要であり、これがひいては日本経済にとって大きなプラスになると私自身は確信している。
 今後は三井住友銀行の國部頭取に会長のポストをお願いするわけである。國部新会長を、私は一金融機関の経営者として全面的に応援していく所存である。國部頭取は旧くからの友人だが、ご存知のとおり見識もリーダーシップも兼ね備えた最良のリーダーだと思っている。私にいただいたご厚情と同様に、國部頭取へのサポートを強く皆さま方にお願いして、1年間の御礼のご挨拶とさせていただければと思う。本当に1年間、どうもありがとうございました。