2016年4月 1日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日、三井住友銀行の國部頭取が全銀協会長に選任された。新体制における会長・副会長は、お手元の資料のとおりである。
 また、本日はこのほかに國部頭取の略歴と写真をお配りしている。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様


(問)
 本日、会長に就任されて、今後の活動方針や銀行界が抱える課題などについて、ご所見をお願いします。
(答)
 三井住友銀行の國部でございます。このたびの理事会で佐藤前会長の後を受け、二度目ですが、全国銀行協会の会長を務めることとなりました。これから1年間、皆さまのご協力、ご支援を得て大役に取り組んでいきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場を借りて佐藤前会長に一言お礼を申しあげたい。振り返ってみると、昨年度は海外発の多様なリスクファクターにより、世界経済、金融市場のボラティリティーが高まり、経営環境が大きく変化し続けた1年だった。このような難しい状況下、佐藤前会長は国際金融規制や公的金融に対するタイムリーな意見発信や、全銀システムの稼働時間の拡大に向けた検討、震災復興における二重債務問題の取組み、振り込め詐欺等金融犯罪への対応等、多岐にわたる課題に対し、見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を牽引していただいた。そのご尽力に心から敬意と感謝の気持ちをあらわしたい。本当にありがとうございました。

 改めて銀行界を取り巻く環境を俯瞰すると、世界経済では先進国を中心に緩やかな成長が続く一方、中国をはじめとする新興国、資源国の景気減速など、下振れリスクを抱えている。また、混迷を深める中東情勢や北朝鮮問題、資源価格の低迷持続など、グローバルな金融市場においてリスクオフを促す要因も引き続き残っている。
 国内では、足元においても経済の好循環の流れは基本的に崩れておらず、緩やかな回復が続く一方、海外経済の減速の影響を受けて、先行きが不透明な状況が続いている。本年1月にはデフレマインドの転換が遅延してきているとし、日本銀行が初めてマイナス金利政策の導入を打ち出し、デフレ脱却に向けた強い決意が示された。このようななか、安倍政権は、アベノミクスの第2ステージとして、「新・三本の矢」を通じた「一億総活躍社会」の実現を目指している。今後、「ニッポン一億総活躍プラン」にて具体的な政策メニューが示されると思うが、政府には、経済の持続的成長を果たすべく、岩盤規制と言われる分野の抜本的な見直し、TPPをはじめとする成長戦略、財政健全化への取組みの一層の推進が期待される。
 以上申しあげた環境認識を踏まえ、私は、本年度を「わが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年」にしたいと考えている。本年度は、わが国が長年のデフレからの脱却、持続的な経済成長軌道への回帰を達成できるかの正念場である。世界経済、金融市場における不確実性、不安定性が高まっており、国の政策、企業経営の舵取りが極めて難しい環境ではあるが、経済の好循環を力強く回し、経済再生を実現していくことが重要である。こうしたなか、私ども銀行が果たすべき役割は、環境の変化を敏感にキャッチし、金融仲介機能の発揮等を通じて、お客さまの成長、イノベーションのための取組みをしっかりと支えることにより、わが国のデフレ脱却、経済再生の実現を支えていくことだと考えている。まさに金融の真価が問われる1年となるが、わが国のデフレ脱却と経済再生を銀行界としてもしっかりと支えていきたい。具体的には、次の三つを本年度の活動の柱として取り組んでいく。
 第1の柱は、「経済の好循環に貢献する質の高い金融仲介機能の発揮」である。わが国経済は、デフレ脱却まであと一歩というところまで来ており、この流れを加速させていくため、民間による投資等により経済の好循環を力強く回し、持続的な経済成長へとつなげていくことが重要である。そのためにも、質の高い金融仲介機能を発揮していくことが、私ども金融機関の重要な責務であり、引き続きしっかりと取り組んでいく。
 まずは個別行の動きが中心となるが、政府の成長戦略、具体的には、農業・環境・医療など、成長分野とされる産業へのファイナンス、コンサルティング機能の強化や、PFIやPPPの活用促進への取組みを通じて、地方創生にもしっかりと貢献していく。また、貯蓄から投資の流れを加速し、経済の成長につながる資金供給の拡大を実現するため、全銀協としてNISAやジュニアNISAの利用促進、制度拡充のための働きかけを行っていく。
 次に、震災復興にも引き続きしっかりと取り組んでいく。日本経済の再生には震災復興が不可欠であり、政府と緊密に連携していく。また、二重債務問題については、東日本大震災の被災者の方々の復旧・復興を引き続きしっかりと支援するとともに、この4月から大雨・洪水等の自然災害の被災者にも対応すべく、新たなガイドラインの運用を開始しており、周知徹底、円滑な運営に努めていく。
 第2の柱は、「安心・安全でIT技術の革新にも対応した金融基盤の高度化」である。銀行は、金融仲介機能、決済機能を担うものとして、お客さまからの信頼感を高め、安心・安全を十分に確保していくことが不可欠であり、これが金融取引を行う上での大前提である。加えてIT等の技術革新により、金融界にも大きな変革の波が押し寄せてきており、今後の金融業のあり方、市場の姿を変えていく可能性も高まっている。こうした動きを敏感に察知し、お客さまの利便性の向上、わが国金融業の発展につなげていくことがますます重要になる。そのために取り組むべき課題は多岐にわたる。昨年末に金融審議会で報告書が取りまとめられ、XML電文への移行や国際送金におけるロー・バリュー送金など、わが国決済業務の高度化に向けた多くのメニューが提示された。関係者と協議し、お客さまのニーズに合致したよりよいものとなるよう十分に検討したい。
 全銀システムの24時間365日稼働については、お客さまへの利便性の高い決済サービスの提供を目的とするものであり、当初予定どおり、2018年の実現を目標にシステム開発等、対応をしっかり進めていく。また、金融グループによるIT関連企業等への出資規制の緩和やグループ内の共通・重複業務の集約化等に関する銀行法改正案が国会に提出された。この改正は、銀行界にとってフィンテックへの取組み推進や銀行グループ内の生産性向上の点で、極めて意義の大きいものである。お客さまによりよいサービスが提供できるよう、当局とも引き続き議論を行っていく。
 安心・安全の確保については、引き続き金融犯罪対策への取組みが重要であり、振り込め詐欺等の被害撲滅に注力するほか、インターネット・バンキング等の不正送金の防止に努める。また、サイバー攻撃の脅威に対抗するため、引き続き関係当局等と連携し、サイバーセキュリティ強化に取り組むほか、反社会的勢力との関係遮断についてもしっかりと進めていく。また、お客さまに金融取引、銀行取引を安心して行ってもらえるよう、金融経済教育への取組みを継続して行うとともに、高齢者への対応を含め、利用者保護等の取組みも強化していきたい。
 第3の柱は、「景気に左右されない健全な金融システムの構築」である。日本経済の発展に向けて、私ども金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、企業や個人のお客さまの前向きな取組みを支えていくためには、金融システムが健全であることが求められる。わが国の金融システムは、リーマン・ショック以降も高い健全性を維持してきた。足元で経済・金融市場が再び不確実性、不透明性を増すなか、いかなる環境下でも金融仲介機能を損なうことのないよう、引き続き健全な金融システムの構築に取り組んでいく。
 まず、国際的な金融規制改革への対応について申しあげると、バーゼルIII、G-SIFIs等の国際金融規制強化の検討が進められている。これらは金融システムの安定や銀行の健全性向上に寄与する一方、行き過ぎた規制強化は金融機関のコストの増加や業務の見直し等を通じ、金融仲介機能の制約ともなり得る懸念がある。私どもの目指すべきゴールである金融システムの安定と持続可能な経済成長の両立に向けて、引き続き当局や海外金融機関等ともしっかり連携しながら、適切な意見発信等を行っていく。
 健全な金融システムという観点では、民間金融機関と公的金融機関とのレベル・プレイング・フィールドの確保が重要であり、引き続きゆうちょ銀行を含めた公的金融セクターのあり方等について、必要な意見発信を行っていく所存である。
 以上、日本経済が持続的な成長への第一歩を力強く踏み出すよう金融面からしっかり支えていくことが、私ども銀行界の使命と考えている。今年は、わが国全体として「実行力」が問われる年であり、全銀協としても以上申しあげた活動方針に沿って、全力で取り組む所存である。皆さま方のご協力、ご支援を重ねてお願いしたい。


(問)
 本日、日銀短観が発表された。前回調査時と比べて6ポイント悪化した大企業製造業をはじめとして、大企業、中小企業とも幅広い業種で景況感が悪化している。景気の先行きに不透明感が強まる懸念が出ている中で、今回の短観について会長の所感をお伺いしたい。
(答)
 わが国の景気は、2015年10-12月期の実質GDPが2四半期ぶりのマイナス成長となるなど、いわば足踏みの状況にあると思う。個人消費や輸出、生産など足元の各種経済統計を見ても、強弱が入り混じる印象を持っている。
 こうしたなか、年明け以降、大幅な円高・株安が進行するなど、金融市場が不安定な動きとなったことも加わり、今回発表された短観では、大企業製造業の業況判断DIが、前回調査と比べて6ポイント低下するなど、企業マインドはやや慎重姿勢に転じたように見受けられる。もっとも、大企業や中小企業の非製造業では、水準は依然としてプラスを維持している状況である。
 また、先行きの6月見通しでは、業況判断DIの悪化が見込まれているが、雇用人員判断DIは引き続き大幅な「不足超」となっているほか、2016年度の企業の経常利益計画を見ても、下期にかけて増益を見込むなど、高水準の企業収益が総じて維持されることを踏まえると、景気の回復基調は崩れていないと判断している。
 さらに、年明け以降の金融市場の混乱は足元で落ち着きを取り戻しつつあり、企業マインドがこの先持続的に悪化する公算は小さいと考えている。
 今回新たに公表された2016年度の設備投資計画を見ても、前年度の設備投資が高水準であったことに加えて、調査時点では計画未定の案件もあるなか、大企業では製造業で前年度比増加を見込むほか、非製造業でもその減少幅は前年度のこの時期の数字と比べると小幅にとどまっている。足元で経済の好循環の流れは崩れていないと見ているなかで、今後、投資計画は上方修正されていくものと見ている。
 私が実際にお客さまと話していても、金利の低下に伴い、資金調達に前向きな動きが出てきている。私ども銀行としても、コンサルティング機能の発揮等を通じて、お客さまの潜在的な資金需要を掘り起こしていきたいと考えている。
 政府には、わが国経済を下支えし、持続的な成長に導いていくためにも、金融政策に加えて、先般成立した本年度予算の早期執行や、TPP・規制緩和など国内の成長期待の引上げにつながる成長戦略の実行、「新・三本の矢」にもとづく具体的な政策メニューの策定、実行等を併せて進めていただきたいと思う。


(問)
 日銀のマイナス金利政策が銀行経営に与える影響について伺いたい。マイナス金利政策で、市場金利や銀行の預金、貸出金利の低下などの影響が出ており、銀行収益に逆風になるとの指摘がある。会長として、銀行経営への影響をどのように考えているかという点と、景気を回復させていく効果があるのか、その辺りの考えを伺いたい。
(答)
 先般の日本銀行による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入は、日銀当座預金金利の一部をマイナス化することでイールドカーブの起点を引き下げ、金利全般により強い下押し圧力を加えることで、消費や投資を刺激し、実体経済の拡大を企図するものである。
 まさに黒田総裁が導入時におっしゃったように、これは日本銀行としてデフレ脱却をより確実なものにするための政策ということで、強い決意の下で実行されたものだと思う。
 世界市場がリスクオフとなっている影響により、その効果が弱まってしまっている面もあるが、本来的には、やはり消費・投資を喚起する政策効果を持っていると思う。したがって、時間が経過すれば、その効果は少しずつ出てくるのではないか。
 銀行収益に対する影響だが、短期的にはマイナスの影響がある。現在、日本の銀行は基本的には預金超過であるため、預金を調達基盤としている。預金金利の引下げ幅は極めて限定的である一方で、貸出金利の多くは市場金利の低下につれて引き下げられることから、金融機関にとっては預貸金利鞘が縮小していくことになる。
 さらに、国債等の運用手段の利回りも低下するため、証券ポートフォリオからの金利収入も低下することになる。マイナス金利政策が導入されてからまだ2ヶ月程度ということもあり、2015年度はそれほど業務影響は大きくないかもしれないが、2016年度には現れてくると思う。
 我々としては、こういった低金利環境下においても収益を上げ、金融仲介機能をしっかり発揮できるよう、各金融機関が努めていかなければならないと思う。
 もっとも、中期的には、マイナス金利政策の本来持っている政策効果が実現されていけば、わが国経済がデフレから脱却し、経済の好循環がより強まってくることで、銀行のビジネスチャンスは拡大し、プラスの効果が出てくると思う。また、この効果をより大きくするには、金融政策のみならず成長戦略、あるいはすでに成立した本予算の早期執行等、政策ミックスを強く推進していくことが必要だと思う。
 銀行界としては、マイナス金利政策の導入の趣旨を踏まえ、金融面から経済にしっかりと貢献していくことが必要である。少し具体的に申しあげると、一つは、やはり銀行が持っているコンサルティング機能を発揮して、お客さまの抱える潜在的な資金需要を顕在化させていくということだと思う。お客さまに寄り添って経営課題を把握し、ソリューションを提示することによって、その経営課題を解決し、お客さまに成長、発展していただく。これを通じて、より一層資金需要を喚起していくということ。これはもちろん従来から我々金融機関が力を入れている取組みだが、その重要性が一段と高まってくるということだと思う。
 もう一つは、貯蓄から投資への流れをつくるということ。例えば、こうした低金利下においても、一定の金利が付く商品を開発し提供できれば、お客さまの運用ニーズを喚起することができると思う。全銀協としても、貯蓄から投資へ資金を流していけるよう、NISA等の制度拡充を働きかけていく。
 我々銀行界としては、こういった取組みを粘り強く、継続的に実施していくことによって、経済の好循環、日本経済の再生に向けて貢献していくことが重要だと思う。


(問)
 本日から日本郵政が新体制を発足し、ゆうちょ銀行の預入限度額が増額されたが、これに対する受止めは。また、銀行界としては特に地銀がゆうちょとの連携などを模索しているが、これに対する考えを伺いたい。
(答)
 まず、せっかくの機会なので、郵政民営化に関する考えも含めてお話をしたい。私どもはかねてより、郵貯事業の見直しが必要とされた本来の目的は二つあると申しあげてきた。第1に、官業としての信用力を背景とし、国際的に類を見ない規模にまで肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減少させること。第2に、市場における公正かつ自由な競争を通じて民間市場への資金還流を図り、国民経済の健全な発展を促すことである。
 昨年11月の株式上場により、郵政民営化は新たな局面に入ったとはいえ、まだゆうちょ銀行の完全民営化に向けた具体的な道筋は示されておらず、公正な競争条件が確保されない状況が続いている。このような状況下で、本日より預入限度額が引き上げられたわけだが、預入限度額の引上げについては、不公正な競争条件をさらに悪化させ、ようやく進みつつあるゆうちょ銀行と民間金融機関の連携、協調の流れに、場合によっては水を差す懸念がある。また、限度額引上げがゆうちょ銀行のさらなる規模拡大につながる場合、中期経営計画に掲げている資産運用の高度化の阻害要因となり、同行の企業価値に悪影響を及ぼすことも懸念される。したがって、これらの懸念が現実化し弊害を生じさせることがないよう、日本郵政グループにおいては貯金規模を適切にコントロールするための対応を進めていただくとともに、政府および郵政民営化委員会は、先般方針を打ち出していただいているが、モニタリングを通じて、万一問題が発見された場合には、その解消に向けた措置が講じられるような実効的な枠組みを構築することが不可欠と考えている。
 ゆうちょ銀行との連携、協調ということだが、ゆうちょ銀行との連携、協調を考える際には、郵貯事業をいかに円滑に民間金融システムの中に融和させていくかという観点や、地域との共存、地方創生への貢献という観点が重要となる。ゆうちょ銀行においては、現在、運用型のビジネスモデルへの移行を進めておられるが、これは現在取扱い可能な業務範囲の中で安定的な収益基盤の確立を目指す取組みであり、貯蓄から投資へという国の政策にも沿ったものだと思う。例えば、我々民間金融機関としても、アセットマネジメント業務における取引先として、ゆうちょ銀行との連携、協調が可能だと思うし、また、地域活性化ファンドの共同組成や金融商品の共同開発、あるいは民間金融機関による郵便局ネットワークの活用といった分野においても、連携、協調の余地はあるのではないかと思っている。


(問)
 直近の住宅ローンの動きについて2点伺いたい。4月にメガバンクが住宅ローンの10年固定の金利を引き上げたと思うが、その理由と、一方で15年、20年の金利は引き下げるという動きがあるが、これはどう見たらよいのか。
(答)
 住宅ローンの金利水準というのは、各行個別に判断するもので、全銀協としてどうこう申しあげるものではない。当行についていうと、固定型の住宅ローンの金利水準は毎月見直しを行っている。我々は、この4月1日から住宅ローンの金利を一部変更し、期間によっては引き下げたところもあるし、引き上げたところもあるということだが、基本的には市場金利の動向であったり、競争上の観点も踏まえて、総合的に判断して、毎月金利設定を考えているものである。
(問)
 10年の固定を引き上げる一方で、15年、20年を引き下げるというのは、長期金利のどういった動きにもとづくものなのか。
(答)
 我々は常にお客さまのニーズであったり、競合上の観点と先ほど申しあげたが、他行の金利水準も見ながら我々の金利政策を決定している。そういった観点で、今回はそのようになったが、いろいろな局面を踏まえて金利政策を変更しているということである。


(問)
 冒頭の抱負の部分、あるいは幹事社質問でも触れていたが、貯蓄から投資へに関する課題についての質問をしたい。マイナス金利政策が導入されて以降、銀行界でも貯蓄から投資への流れの加速が期待されている。ただ、振り返ってみると、日本では貯蓄から投資への流れはなかなか定着できなかったのではないかと思う。そうしたことを踏まえ、現状に対する評価とこの流れを加速させるための課題についてどのようにお考えか。
(答)
 まず、トレンドで見てどうなっているかということで申しあげると、先般、3月25日、日銀の資金循環統計が公表された。2015年12月末時点の家計の金融資産の状況が公表されたわけだが、例えば10年前の2005年12月時点で比較してみると、家計の金融資産に占める現預金の比率は当時も今も5割程度で、欧米に比べると現預金の割合が高い状況が続いている。
 一方で、投資信託の残高は96兆円だが、10年前に比べると約45兆円増えており、家計の金融資産全体で1,741兆円あるので、まだまだ割合は小さいが、投資信託の動きなどを見ていると投資の方向に向かっていると言えなくもない。
 日銀によるマイナス金利政策が導入されたわけだが、まさにこの環境下では貯蓄から投資への流れを強化して、個人金融資産の増加につなげていくことが重要だと思っている。これは一朝一夕にはいかないところはあるが、我々金融機関としてはお客さまにしっかりと寄り添って、お客さま本位を徹底しながら質の高いコンサルティング機能の発揮等に努めていく。そういったことに地道に取り組んでいかなければならないと思っている。まさに我々も営業現場にいつも話しているが、お客さまがどういう投資のプロファイルを持っていて、どういう商品で運用したいのかということを丁寧にお話しし、コンサルティングをして、優れた商品を提供していく、これを繰り返していくことだと思う。
 先ほど、NISA口座の活用と申しあげたが、例えば当行でNISA口座を開設していただいているお客さまを見てみると、約4割強は当行ではこれまで投資商品の購入がなかったお客さまであり、ある意味裾野が広がってきていると感じている。したがって、抱負のなかでも申しあげたが、全銀協としても投資を通じたお客さまの安定的な資産形成の促進に向けてNISA、あるいはジュニアNISAの利用促進や制度拡充等に取り組んでいきたいと考えている。


(問)
 消費増税についての考え方を伺いたい。与党内で消費増税の先送りといった声が強まっているという報道も出ているが、今日の短観でも明らかなように、景気は確かに少し弱含みで、そういう声が強まるのも分かる一方で、財政健全化については不安が出てくると思う。まだ決まってはいないが、こういった消費増税先送りの可能性についての受止め方と、どうすべきかという考え方を教えてほしい。
(答)
 わが国にとって社会保障の充実のための安定財源の確保、あるいは財政に対するマーケットや国際社会からの信認確保というのは極めて重要な課題であると思う。したがって、安倍総理がおっしゃっている「リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない」ということが前提となるが、消費税率の引上げは予定通り実施すべきと私は考えている。
 一方、前回の引上げ時には、駆け込み需要の反動や税率引上げによる個人消費の落込みにより、わが国景気が大きく下振れたことも事実であり、今回、引き上げるに際しては、こうした短期的な景気の下振れをミニマイズしていくことが必要だと思う。
 すでに低所得者の方々への影響を配慮して、軽減税率制度の導入が予定されているわけだが、これに加えて「一億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策の実行等を通じて、経済の好循環を力強く回し、増税のための環境整備を進めていくことが重要だと考えている。


(問)
 日銀の黒田総裁は就任から3年が経つ。大規模緩和も3年を迎えるが、これまでの金融政策の評価をいただきたい。
(答)
 2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以降、黒田総裁は一貫してデフレ脱却に対する強いコミットを示されてきた。本年2月にも、海外経済、金融市場の不安定な動向が家計、企業のデフレマインドの転換を遅延させるリスクに対して、先んじてマイナス金利を導入されたわけだが、これも改めてデフレ脱却に向けた断固たる意志を示されたものと認識している。
 こういった日本銀行の取組みやアベノミクスのさまざまな政策が相まって、過度な円高の修正や株価上昇などが実現している。黒田総裁が就任された2013年3月は、ドル円の為替相場が95円程度、日経平均株価が12,000円程度という水準であったが、そこから円高の修正、株価上昇が実現している。そして、企業収益の増加や個人消費の回復など、実体経済においてもさまざまな面でプラス影響が顕在化してきたことは紛れもない事実であると思う。
 足元の物価動向を見ても、原油価格下落の直接的な影響が大きいエネルギー価格を除いてみると、食料品やサービス価格などを中心に緩やかな上昇傾向が定着してきている。わが国を取り巻く環境を見ると、中国をはじめとする新興国、資源国の景気減速、資源価格の低迷持続など、主に外部要因による下振れリスクを抱えているが、こうしたリスクの顕在化等をきっかけに景気回復が腰折れすることのないよう、政府、日本銀行が一体となって取り組んでいかれることを期待している。
 そういう意味では、黒田総裁の3年間、効果は上がってきていると認識している。


(問)
 量的・質的金融緩和導入から3年たってみて、銀行の融資について、貸出の姿勢は、積極性が増したのか。積極性が増しているのは、大企業、中小企業、業種など、どのような先なのか、特徴があれば教えていただきたい。
(答)
 黒田総裁就任直後の2013年4月の銀行貸出残高は、トータル436兆円。それが足元、1月の貸出残高は475兆円で、約40兆円銀行の貸出は増加している。これは、私どもも含め各金融機関がお客さまのニーズを掘り起こし、各行工夫しながら融資してきた積み重ねが40兆円という数字である。
 どういうタイプの貸金が多いかというと、確かにM&Aの資金が多いのも事実だが、一方で設備投資資金も出てきている。まさに日本銀行の緩和策、政府のアベノミクスの政策が経済に徐々に浸透してきて、経済活動も少しずつ活発化し、また、金融機関のそれぞれの努力も功を奏して40兆円の貸出増加につながってきていると思う。
 大企業と中小企業という面で見ると、M&A資金などは大企業がかなり多いが、足元、中小企業向け貸出も増加してきている。そういう意味では、企業規模別に見ると、それぞれの規模において残高が増加してきていると思う。我々としては、これまでもそういう努力をしてきたし、また、今回マイナス金利政策という環境下、預貸金の利鞘は低下をしていくことになるが、そのなかで貸出の増加に向けて積極的に今後も取り組んでいくし、各金融機関もそういう努力を続けていくと思う。


(問)
 マイナス金利の影響について、地銀などもそうだが、保有している国債の売却に動く可能性があるか。そういった場合、どのような影響が出るか。
(答)
 各行の有価証券運用方針は、まさに各行の戦略にもとづいて区々だと思う。したがって、地銀が持っている国債を売却されるかどうかは、各行の運用戦略によるので、一概には言えない。


(問)
 1点目。地政学的リスク、新興国の景気減速、欧州の信用不安など海外でのリスクが散在しているが、銀行の海外貸出への融資スタンスは変わってきているのか。慎重になってきているのか。今まで海外貸出は右肩上がりだったと思うが、ペースも減速していくと思われるのか。貸出の中身、与信先の種類も変わってくるのか。
(答)
 海外貸出については、全銀協全体の数字を持ち合わせていないので個別行の話になるが、まず3メガについてはこれまで海外ビジネスを拡大し、海外融資を拡大してきている。したがって、海外向け融資残高も増加してきている。例えば当行では、海外貸出金残高は2015年12月末現在においては1,970億米ドルだったが、約3年前の2013年3月末から比べると約3割増加している。銀行によって規模は少し違うかもしれないが、大体そういうかたちで伸ばしてきている。
 一方、ご指摘のあったとおり足元で世界経済の不透明性、不確実性が増しており、引き続き地政学リスクも存在する。加えて国際的な金融規制強化の動きも注視していく必要があると思うので、日本の銀行の海外ビジネスを取り巻く環境は難しくなってきつつあると思う。しかしながら、こうした環境下において、例えば当行の成長戦略ということで考えると、引き続き海外ビジネスは有力な成長ドライバーだと思っている。海外ビジネスを伸ばしていくに当たり、リスク管理の強化と安定的な外貨調達を図るという2点には注力していかなければならないが、海外ビジネスは引き続き拡大していくつもりである。
 もう一つ注意しておかなければいけないのは資源価格の動向だと思う。足元、石油価格は30ドルから40ドルぐらいで推移しているが、この水準でいけば、会社によっては少し状況が悪くなるところも出てくるとは思うが、それほど大きな影響は出てこないと思う。ただし、繰り返しになるが、今後の資源価格の動向等には注意をしていく必要がある。当行ではアジア・セントリックという戦略を掲げており、アジアに対する中長期的なコミットは変わらないが、アジアの経済は少し減速をしているので、足元ではリスクを注意深く見ていく。また、昨年度も当行の海外貸出が伸びた要因としては、欧米でのM&Aファイナンスへの取組みであったり、アメリカのGEから欧州におけるLBO関連資産を買収したことなどである。そういった高採算で質の高いアセットを購入し、ポートフォリオの採算の改善、質の向上に取り組んでいるところである。


(問)
 2点目は、資源安を受けて先日大手商社が赤字になると発表している。商社だけでなく、石油元売など、原油価格に影響を受けるような会社があると思うが、資源安で影響を受ける銀行の取引先はどれぐらい広がっているのか。銀行としての対応を教えてほしい。
(答)
 これも他行の動向が分からないので個別行の話で申しあげる。当行では、資源関連融資の多くは非日系の石油・ガス関連である。そのエクスポージャーがSMFGのトータル・エクスポージャーに対してどれくらいの割合かというと、約6%。加えて、そのうちの約9割は私どもの行内格付けでいうと極めて信用力の高い格付け先である。先ほども少し触れたが、原油価格でいうと今は30ドルから40ドルの水準が続いているが、こうした傾向が今後も続いた場合、一定程度のクレジットコストは発生する可能性はあるが、それほど大きなものではないと思う。ただ、今、こういう資源価格の状況であるから、我々が海外で融資をするに当たっては資源価格の動向、あるいは資源関連先の経営の状況はよく見ておく必要があると思っている。


(問)
 先ほど会長の抱負の中で、「IT等の技術革新」という言葉があったが、そうしたテクノロジーの進化・進展は、今後の金融機関経営にどのような影響を与えるか。例えば、既存の銀行はどう向き合っていくべきか、お考えをお伺いしたい。
(答)
 フィンテックは銀行のサービスレベルの飛躍的な向上や大幅なコスト削減を可能とするもので、金融ビジネスにパラダイムシフトを生じさせる可能性を持っていると思う。
 具体的にどういうことができるかは、各行がそれぞれ創意工夫していくことになるが、例えば、金融機関にとっては、モバイルバンキングの普及により、事務手続が電子化、自動化され、対面取引と比べると取引コストが大幅に低下することなどにより、従来ビジネスになりにくかった小口取引であっても、採算性が成り立つことで新たなマーケットとして捉え直すことが可能になる。また、お客さまが単純な取引のために店舗を訪れる必要がなくなって、従来の物理的な店舗の位置づけも、時間をかけてだとは思うが、変化する可能性がある。
 コストの面では、業務フローへのテクノロジー活用の巧拙が金融機関の競争力に大きな影響を与える可能性がある。また、ブロックチェーン技術の登場によって、中央集権的でコストと時間のかかるシステムを見直すことができる可能性も出てきている。
 こうした動きは、個人のお客さまにとってみると、銀行店舗でなくても、モバイルを使って地理的、時間的制約なく、いつでも・どこでも・手軽に、金融取引が可能になるというメリットにつながるほか、従来ばらばらに提供されていた各種の金融サービスがアプリなどを通じて一元化されることにより、資金管理の一元化や資産運用の自動化、最適化も可能になるなどのメリットも考えられる。
 法人のお客さまに関しても、特にベンチャー企業や中小企業にとって、クラウドファンディングに代表される小口の資金調達が可能になることや、商流データにもとづくファイナンスなど、財務内容に依存しない資金調達がより容易になるといったメリットも考えられる。
 フィンテックを活用したこれら新たな金融サービスは、既存金融機関が場合によっては取り扱っていなかった業務ということもあり、オープンイノベーションの下、外部の金融関連IT企業等と積極的に連携していくことも重要な選択肢になる。つまり、金融サービスを向上させるために、新たな技術を自行グループ内に取り込むというやり方もあるし、さらに一歩進めて、オープンイノベーションの下、外部の金融関連IT企業等と積極的に連携していくことも戦略になってくる。
 すでに欧米主要行では、フィンテックベンチャー等に出資して、新たなテクノロジーを取り込む動きが活発化している。現在、銀行法の改正案が国会に上程されているが、今回の銀行法改正により、わが国銀行グループでも同様の出資が可能となれば、まさにオープンイノベーションの促進によるサービスの多様化、高度化に大きく寄与するものだと考えている。


(問)
 国内経済のなかで中小企業の活性化も重要なテーマになるかと思うが、銀行界としてどのように対応していこうと考えているか。
(答)
 わが国企業の大宗は中小企業である。したがって、中小企業が元気になって底力を発揮していただくことが地域経済の発展にもつながり、ひいては日本経済の持続的成長にもつながっていくということだと思う。銀行界としては、まさにコンサルティング機能を発揮して、中小企業のお客さまの経営課題に向き合って、しっかりと金融仲介機能を果たしていくということに尽きるのではないかと思う。各行いろいろな創意工夫をしながら取組みをしているが、当行の取組みについて少しご紹介すると、ビジネスセレクトローンというものがあるが、これはある程度蓄積された顧客の定性情報の分析等を通じて、ローンを出していく商品である。また、我々の行内では評価型融資と言っているが、例えば、環境により強く取り組んでいる企業に対して融資をしていく環境配慮評価であったり、食・農評価であったり、事業継続評価、あるいはなでしこ融資等々、いろいろな切り口で中小企業のファイナンスのお手伝いをしている。
 あるいは、今、中小企業に非常に評価をいただいているのは、ビジネスマッチングの取組みである。これはそれぞれの中小企業によってニーズは異なるが、例えば新しい販売先を開拓したい中小企業があったときに、その中小企業が持っているネットワークだけでは、なかなか新しい販売先は開拓できない。我々は全国に大変多くの顧客基盤を持っているので、その中小企業のニーズに合ったお客さまをご紹介するビジネスマッチングに取り組んでいる。それから、中小企業にとっては後継者がいないとか、事業承継が大きな経営課題となるケースが多い。そういったときに事業承継のサポートをするなど、幅広いソリューションを提案している。
 少し中小企業と外れるかもしれないが、次世代の企業育成の観点で言うと、将来有望なベンチャー企業に対しては、我々の子会社であるSMBCベンチャーキャピタルを通じたエクイティの投資であったり、あるいは成長性評価融資、最初の段階ではエクイティを出すが、次の成長の段階では成長性評価融資を出していく。また、他に今我々が取り組んでいるものでは、成長企業と大企業のアライアンスの支援がある。成長企業が持っているいろいろな技術をビジネスに生かしていく、そこに壁を感じている企業と大企業を結び付けて、その技術を使った新しい商売を育成していくということを行っている。
 最後の段階では、ベンチャー企業が成長してきてIPOを考えるときは、我々のグループ会社でIPOを支援する。そういったベンチャー企業の成長ステージに合わせてさまざまなお手伝いをしている。今はベンチャー企業の話をしたが、中小企業に対しては、私は「寄り添って」という言い方をしているが、その企業のニーズに寄り添って親身に相談に乗ることが大事なのではないかと思う。


(問)
 金融機関の業績について、2016年3月期はどんな着地となったと見ているか。また、2017年3月期はマイナス金利の影響がフルに効いてくると思うが、見通しはどうか。
(答)
 2016年3月期の決算は、私どもも取りまとめ作業に入っているところで、今コメントを申しあげる段階にはない。
 来年度は、非常にボラタイルな要因が多い年ではないかと思う。海外の成長減速、資源価格の低迷、マイナス金利政策の導入についても短期的にはマイナス影響が出てくると思うので、今の状態が続くとすれば、2016年度は銀行界にとっては難しい年になるのではないかと思う。ただ、その中で各金融機関がどう収益をあげていくのかは、各金融機関の戦略によるところが大きい。マイナス金利政策で預貸金利鞘が低下していくので、2016年度は貸金ボリュームを伸ばして、それをどう相殺するかということもあるが、やはり非金利収益、フィービジネスといったものを伸ばしていく方策を、各行が強化していくことになると思う。


(問)
 今年の國部会長の全銀協の運営について伺いたい。全銀協会長のポストは3メガで輪番されているが、加盟行は都市銀行のみならず、規模の小さな地方金融機関も入っている。そのなかで必ずしもそれぞれの課題や訴えていかなければいけないことが一致するばかりではなく、相反するときもあるかもしれない。小さな金融機関からすれば、「本当にメガバンクの頭取が我々の気持ちになって一緒に戦ってくれるのか」ということもあると思う。そのあたりは、どのように声を拾っていくのか。
(答)
 これは今新たに起こった問題ではない。全銀協傘下の金融機関には都市銀行から第二地方銀行までいろいろな業態の銀行が参加している。したがって、全銀協の役割としては、例えば手形交換などいわゆる現業の部分と、さまざまなことに対する意見発信、政策発信の二つの機能があるが、後段の部分は時と場合によっては意見が異なるケースもあるとは思う。我々全銀協のなかでは、最後の意思決定機関に理事会があるが、その下に各部会があり、これには各業態の金融機関が参加されている。そこで十分な議論をし、コンセンサスを得て結論を出していく。まさにこれは我々がこれまでずっとやってきたことなので、私としては、各銀行が持っている意見を十分に吸いあげて、最終的な結論に持っていきたいと思っている。

別添資料:國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)