会長記者会見
2016年5月19日
國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)
髙木専務理事報告
(なし)
会長記者会見の模様
まず、私から熊本地震について一言申しあげたいと思う。
熊本県を中心に、相次いだ一連の地震により、甚大かつ広範囲にわたる被害が生じており、尊い命を落とされた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご家族や家屋をなくされた方々、依然、避難生活を余儀なくされている方々など、被災された方々に対して心からお見舞い申しあげる。
被災地域が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災された方々が通常の生活を一刻も早く取り戻されることを心から願っている。
銀行界としても、復旧・復興の取組みをしっかりと支援してまいりたいと思う。
(問)
昨日1-3月のGDPが発表された。前期比年率プラス1.7%だったが、うるう年の影響を除くと、0%台後半ぐらいという見方もあり、個人消費、企業の設備投資ともさほど強い数字ではなかったが、足元の景気認識と併せてGDPの評価をお願いする。
(答)
昨日発表された、2016年1-3月期の実質GDPは、前期比年率プラス1.7%と、2四半期ぶりのプラス成長となった。もっとも、幹事社の方からお話があったとおり、うるう年による日数増で個人消費が上振れた側面が強く、企業の設備投資が年明け以降の海外経済の減速や円高・株安の影響を受けて減少したほか、在庫調整も余り進んでいないことを踏まえると、わが国景気は依然として足踏み状態から脱していないと思う。
こうしたなか、足元では、4月に発生した熊本地震による企業の生産活動・インバウンド需要などへのマイナス影響が懸念されている。在庫調整に伴う生産抑制も引き続き重石になるとみられ、当面景気は足踏みの状況が続くと予想している。
もっとも、企業収益が非製造業を中心に総じて高い水準で推移するなか、所得・雇用環境は改善傾向が続いている。昨日発表された1-3月期の実質雇用者報酬は増勢が加速し、前期比プラス1.3%と、2010年1-3月期以来の高い伸びとなった。
こうした状況を踏まえると、わが国景気の好循環そのものは崩れていないと認識をしている。加えて、政府においても本予算、補正予算の早期執行、並びにニッポン一億総活躍プランなどの策定を通じて、成長戦略、構造改革の取組みを強化していかれると聞いている。今回の地震の影響や在庫調整圧力が和らいでいけば、景気は除々に底堅さを取り戻していくものと見ている。
(問)
今週月曜日で大手銀行の2016年3月期決算が揃った。特に今期、2017年3月期の見通しについては、各行、各グループとも厳しい見通しが目立った。共通するのはマイナス金利、海外経済の変調だと思うが、今期も併せて決算の振り返りと、今年の経営環境についてお聞きしたい。
(答)
まず、2015年度の銀行を巡る経営環境を振り返ってみると、上期と下期で様相が大きく変わった年度であったと思う。上期については株価等も堅調に推移し、銀行業務にとって総じて良好な環境であり、各行とも業績目標を上回る進捗であった。
しかしながら、8月の、いわゆるチャイナショック以降、原油をはじめとする資源価格が下落し、昨年12月には米国でFRBが利上げを実施した。年明け以降は、米国の利上げに伴う新興国からの資金流出や、中東における地政学リスクの高まりなどを背景に、投資家のリスク回避姿勢が強まった。こうしたことからわが国では円高が進行し、株価が極めてボラタイルになる等、銀行にとっては大変アゲインストな経営環境となった。
全国銀行ベースの計数については、現在全銀協で取りまとめているところであるので、全体像について、この場で説明できる状況にはないが、当行を含む3メガバンクグループの決算を中心にその概略について説明をしたいと思う。
一言で申しあげると、2015年度決算は、各グループの個別事情によりボトムラインに違いはあるものの、本業の儲けを示す業務純益については、連結、銀行単体ともに前年比減益となっている。
3メガグループの業績についてそれぞれ違うところはあるが、共通する特徴点について3点申しあげる。
1点目は、国内の貸出金残高は増加したものの、資金需要が強くないなか、競争激化等による国内の預貸金利鞘が低下し、その結果、資金利益が前年比減益となった。各行の収益ドライバーである国際部門収益についても、貸出は伸びているが、外貨資金調達コストの高止まりや円高の影響もあり、資金利益は各行とも減益となっている。なお、国内の資金利益には、マイナス金利政策による影響も一部あるが、導入が2月16日と期末まで約1ヶ月半程度の期間であったことから、2015年度決算への直接的な影響は限定的となっている。
2点目は、株価のボラティリティが高まったこと等から、お客さまが運用に対して慎重になられた結果、銀行、そして証券会社を含めて運用商品の販売が振るわなかったということである。
それから、3点目は、ここ数年、過去に引き当てた貸倒引当金の戻入の計上により、クレジットコストが低く抑えられてきたわけだが、その戻入の額が縮小したことに加え、海外における資源価格下落に伴う資源関連先の業績悪化等により、クレジットコストが前年比増加をしたこと。
共通する特徴点は、今申しあげた三つではないかと思う。
2015年度の実績は申しあげたとおりであるが、2016年度については、わが国では当面、景気の足踏み状態が続くなか、海外においても中国経済や米国の利上げの行方など引き続き不透明な環境が見込まれ、先月の会見の場でも申しあげたが、難しい1年になると思う。そういった業務環境下、2016年度はマイナス金利政策が1年間フルで効いてくることもあり、各グループとも厳しい業績予想となっている。
銀行としては、この預貸金利鞘の縮小等による資金利益の減少を、手数料ビジネスなどの非金利収益でカバーしていくことが、より一層重要になってくると思う。
今年は難しい1年になると申しあげたが、こうした環境を前向きに捉えて、コンサルティング機能の発揮により、お客さまが抱えている潜在的な資金需要を顕在化させ、そのニーズにしっかり応えることが必要と考えている。厳しい環境下でも、銀行界として、日本経済の持続的成長に貢献できるようしっかりと取り組んで参りたいと考えている。
(問)
冒頭地震について触れられたが、熊本地震の日本経済全体への影響というのはどのようにご覧になっているのかというところと、それに対して銀行業界として、具体的にどのようなことを対応されていくのかというところが1点。
2点目は、マイナス金利政策についてだが、先ほど銀行の収益への影響ということはおっしゃっていたが、実際の設備投資などの資金需要が出始めているのか、日本経済全体への効果という意味では、どのようにご覧になっているのかというところをお願いしたい。
(答)
まず1点目の熊本地震についてだが、熊本地震による日本経済への影響については、各所で被害状況が収集されているところであり、全体像を定量的に語るというのは難しいわけだが、例えば企業の生産面では、熊本県は自動車産業や半導体関連産業が盛んであるため、これらの業種においては一定程度の影響が考えられる。また、観光面、インバウンドという観点でいうと、中国や韓国、台湾などから九州への渡航が若干控えられたことから、熊本を中心に観光客が半減した観光地もあったと聞いている。さらに、農林水産業についていうと、これは国がまとめた数字だが、農作物や関連施設の被害など被害総額が九州全体で、9日時点の数字だが1,085億円、うち熊本県が大宗で1,072億円という数字がまとめられているが、かなり大きな影響が出ている。地震から1ヶ月強経ったところだが、今回の地震による日本経済への影響はそれなりに出ているというふうに感じている。
一方で、復旧・復興に向けた動きも着実に出ており、地震の直後は生産停止を余儀なくされた工場が多かったが、足元においては生産の復旧、再開をし始めている。また、復旧対策に絞った今年度の補正予算が成立しており、約7,800億円が手当てをされたところである。
このように、日本の景気は、熊本地震による短期的なマイナス影響というのはあるとは見ているが、政府による復旧・復興事業が進められていくなか、そうした施策に下支えされることで景気回復に大きな支障が生じることはないと思っている。今回の熊本地震は、震度7の地震が複数あったとか、あるいは地震の発生した範囲が広範囲にわたっていたことで、非常に特徴的な地震であった。
この熊本地震の甚大な被害に鑑みて、全銀協の対応だが、当局とも連携して、会員銀行が一致団結して、被災された方々をきめ細かく、弾力的、迅速にサポートできるよう、様々な取組みを行ってきた。
ご承知いただいていると思うが、具体的には、被災されたお客さまの銀行窓口での柔軟な対応や特定の義援金口座への振込手数料の無料化、そして「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が適用されることについて会員銀行宛ての周知徹底等を実施した。特に熊本地震の影響を受けたお客さまであれば、「災害救助法適用市町村」に含まれない地域に生活基盤や事業基盤等がある方も対象となり得ることを確認し、関係者に周知をしている。
こういった取組みについては、私自身が4月28日に銀行業界を代表して熊本を訪問し、被災者の方々に広く知っていただくべく関係者の方々にご説明をさせていただいている。また、全銀協としても、このガイドラインの適用について、福岡と熊本で説明会を実施している。今後も私どもとしては、金融仲介機能を発揮しながら、被災地域の復旧・復興を後押ししていきたいと考えている。
次に2点目の、マイナス金利についてのご質問であるが、貸出等への影響ということも含めてご質問をいただいた。
先月の就任会見でも申しあげたが、マイナス金利政策というのは、イールドカーブの起点を引き下げて、金利全般により強い下押し圧力を加えることで、円安や株高という経路によって消費や投資を刺激し、実体経済の拡大を企図するものであり、本来的には消費、投資を喚起する効果を持っていると思っている。したがって、この政策効果が実現されていけば、わが国経済がデフレから脱却して、経済の好循環が強まってくることが期待できると思っている。
では、足元、こうした政策効果が現れているかというと、まだ導入して3ヶ月ということもあり、現時点においてはそれほど現れていないのではないかと思う。確かに企業向けの貸出金利、住宅ローン金利の水準は下がっているが、それがまだ消費や投資の拡大にはつながっていないと思う。例えば5月11日に公表した全銀協の統計によると、4月末の全国銀行の貸出残高は、前年同月比で56ヶ月連続で増加が続いているが、これまでのトレンドに大きな変化が現れたというところには至っていない。
当行について見てみても、貸出残高の増加トレンドというのは継続しているが、目先、前向きな資金需要が本格的に高まって、これまでのトレンドを超える大幅な増加が見込まれるような状況とはまだいえないと思う。また、個人のお客さまにおいても、「貯蓄から投資への流れ」の本格化もまだこれからというところである。いずれにしろ、こうした効果が現れるにはまだまだ時間がかかるということではないかと思う。
それから、マイナス金利政策のさらなる緩和について申しあげると、もちろん金融政策というのは日本銀行が様々な要素を勘案して総合的に判断されることであり、全銀協会長としてコメントする立場にはないわけだが、あえて申しあげるとすれば、金融政策の効果が実体経済に及ぶまでには相応のタイムラグが伴うことから、まずは現在のマイナス金利政策の効果を慎重に見極めていただくことが重要ではないかと思う。
一方で、消費、投資を喚起していくということについては、金融政策のみならず、成長戦略や財政政策を政府がパッケージで力強く推進し、わが国経済の期待成長率を上げていくこと、先行きの不透明感から慎重になっている消費者心理、経営者心理が好転していくことが極めて重要だと思っている。
先月も申しあげたが、銀行収益についてどうかということを若干申しあげさせていただくと、短期的にはマイナスの影響があると思う。4月22日に日本銀行が公表した「金融システムレポート」のなかでも指摘されているとおりであるが、マイナス金利の導入により、預貸金利鞘が縮小するため、銀行収益には下押し圧力が働くことになる。こうした収益力の減少傾向が長引く場合には、銀行の損失吸収力が低下し、いずれ、場合によっては金融仲介機能の制約につながっていく可能性も否定できない。これは「金融システムレポート」でも指摘されているところである。ただし、金融政策の効果が実現されていけば、わが国経済がデフレから脱却し、経済の好循環がより強まってくることで中期的には銀行収益にもポジティブな影響が出てくると見ている。
我々銀行界としては、このマイナス金利政策導入の趣旨を踏まえ、金融面から経済にしっかりと貢献していくことが必要だと認識している。先ほど申しあげたお客さまの潜在的な資金需要を顕在化させていく、掘り起こしていくことであるとか、貯蓄から投資への流れをつくるということを通じて、日本経済の再生に向けて貢献してまいりたいと思っている。
日本銀行におかれては、引き続き市場とのコミュニケーションにも配慮いただいた運営により、金融政策効果の浸透を図られることを期待しているところである。
(問)
1点目、週末のG7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議と来週のG7伊勢志摩サミットで、経済・金融分野において、銀行業界として期待される点について伺いたい。
2点目、銀行法改正に伴う持株会社の今後のあり方について、これまでは商銀が各グループのなかで強い立場であったが、業界としてはどういうかたちに変わっていくとイメージしているか伺いたい。
(答)
1点目のG7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議やG7伊勢志摩サミットへの期待について、先ほど2016年度の銀行業界の経営環境、業務環境について触れたが、中国をはじめとする新興国の景気減速が続くなか、世界経済の下振れリスクは非常にあると思う。急激な為替相場の変動など、我々の環境としては難しいものがある。そうしたなか、今度のG7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議やG7伊勢志摩サミットで、世界経済の回復へ向けて、まさに先般の4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議で、金融政策、財政政策、構造改革の全ての政策を総動員することが必要ということが共同声明で確認されたことも踏まえ、財政出動による景気の下支え、構造改革による成長力強化、為替相場の安定などについて、各国が連携して積極的に取り組んでいくという力強いメッセージを打ち出すことが大変重要だと考えている。今回は日本で開かれるサミットということで、政府や安倍首相におかれては、サミット議長国として強いリーダーシップを発揮していただくことを期待したい。
2点目の持株会社のあり方だが、今回の銀行法改正法案では、IT企業等への出資を緩和することや持株会社の一部機能の規制緩和等が今審議されている。質問の趣旨は、どちらかというと個別行にかかわるものかもしれないが、基本的に、今、3メガバンクは持株会社体制をとっており、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループが指名委員会等設置会社へ移行された。私どもも、もちろん株主総会の承認を前提としてだが、先般、指名委員会等設置会社への来年からの移行と、併せてグループ経営体制の強化ということで、CxO制度の導入や事業部門制の導入の検討を行うと説明した。これは、二つの側面がある。一つは、国際的な金融監督当局の考え方からすると、持株会社を中心とした規制体系になっているということ。今、G-SIFIsのなかで、かなり多くの金融機関が指名委員会等設置会社になっているということで、アカウンタビリティーの観点から、指名委員会等設置会社へ移行することがいいという側面である。もう一つは、グループ経営体制の強化ということについては、銀行グループにおける業務が非常に多様化、多岐にわたってきていること、そして、我々がお客さまに提供する金融サービス力の向上を図り、グループ全体の収益力を向上させていくためにも、グループ一体の連携が非常に大事になってきているという側面である。したがって、持株会社を中心とした体制を確立していくことが必要だと、我々は判断して、体制変更を来年から実施することを先般発表した。
(問)
来月にイギリスの国民投票を控えていると思うが、現状どのように見通しを持っておられるか。仮にEU離脱となった場合のマーケットや金融業界、あるいは世界経済、それから日本経済への影響をお話しいただきたい。
(答)
6月23日に英国でEU離脱の是非を問う国民投票が実施されるが、現在の世論調査によると、EU離脱賛成派と反対派の割合が非常に拮抗しており、私も大変関心を持って見守っている。
仮に国民投票でEU離脱が決定される場合は、短期的には、英国において、例えば通貨安や株安の進行、それから景況感の悪化や先行き不透明感の高まりを受けた成長率の鈍化などが懸念されると思う。また、こうした悪影響が、欧州の経済、世界経済に波及する可能性もあると思っている。
わが国の金融市場においても、円高・株安の進行等の影響が生じる懸念もあると思う。
もっとも、中長期的には、英国がEUを離脱した後のEU諸国との関係がどうなるかについては、今後の交渉に委ねられるため、英国政府としても経済への影響を最小化する道を模索されるものと思っている。
金融業界への影響については、英国が離脱した後もEUの単一パスポート制度の適用を受けられるか否かに大きく左右されるのではないかと思う。EU離脱に伴い、この単一パスポート制度の適用外ということになれば、例えば英国の銀行や英国の現地法人による、EU諸国での支店の設置、あるいはEU諸国の顧客とのクロスボーダーの取引、英国を除くEU諸国の銀行およびEUの現地法人による、英国での支店の設置や英国の顧客とのクロスボーダー取引が制限されることも考えられる。したがって、このBREXIT自体は金融業界にとって大きな影響があるイベントだと認識しており、状況をよく注視していきたいと思っている。
(問)
たしか、SMBCは、ロンドンでEUパスポートを取っていると思うが、その場合、どういう影響があるのか。また、どういう対応策を練っているのか教えていただきたい。
(答)
まず、私どもの状況を申しあげると、欧阿中東地域における与信残高は約12兆円ある。それらは、従来より、英国現法の他に当行本体の大陸拠点、例えばブラッセルやデュッセルドルフは三井住友銀行の拠点だが、それぞれに分散してブックしている。英国現法でブックしているのは欧阿中東地域全体の約20%程度にとどまっている。短期的な対応ということになるかもしれないが、本年6月の国民投票実施前後において、為替相場、金利など金融市場が予期せぬ反応を示す可能性があるが、当局指導もあり、流動性の確保など、すでにしっかりとした対応を実行済みであり、英国のEU離脱により直ちに私どもが大きな影響を受けるとは考えていない。
少し中期的な話だが、英国がEUを離脱することが決定した場合、先ほど申しあげたとおり、単一パスポート制度の適用を受けられるかどうかが大きなポイントになる。私どもの単一パスポート制度にもとづくヨーロッパの拠点は、設立時には設立国の当局が主体となって支店の設立を認可したわけではなく、本店の所在する英国当局が認可した経緯がある。したがって、この単一パスポート制度の適用がどうなっていくかが大きなポイントである。これに対する対応については、離脱が決定した場合も最長2年間の移行期間があると認識をしているので、状況をよく注視しながら、情報収集を行い、将来の業務運営体制等について検討していきたいと思っている。我々も、そうした事態が起こった場合、どう対応すべきかという議論はすでに始めている。
(問)
パスポートを別の欧州拠点で取り直すことも考えられるのか。
(答)
それも一つの考え方である。
(問)
ロンドンに現法を設立するにあたり、いろいろな経緯があったと思うが、自発的に別の欧州拠点でパスポートを取り直すことができるものなのか。
(答)
私どもが英国現法を設立したのは、たしか2003年だったと思う。いろいろな事情があって現法を設立したのだが、その現法の設立経緯と、EU離脱への対応は基本的には関係ないと思っている。
(問)
先ほどメガバンクの決算の総括のなかでも出てきたが、海外融資を拡大しているなかで、石油、ガスなどの資源関連の融資の残高が増えてきている。前期は価格の下落などもあって、引当を積み増した状況もあったと思うが、今期以降、この資源関連融資が抱えているリスクをどう見ているかということと、シェール関係だが、アメリカで幾つかの企業の破綻が出てきている。この影響は邦銀にはどう出てくるか。
(答)
まず足元、資源価格の低迷という事態になっているが、それが邦銀の業務やクレジットコストにどういう影響を与えるかということで申しあげると、原油価格についてはWTIが一時1バレル26ドルぐらいまで下がったが、足元では大体48ドルに戻ってきている。引き続き資源関連先の動向はよく注視していく必要があると思っている。日本の銀行のクレジットコストへの影響について、他行の状況を今よく存じあげていないので、個別行の状況を申しあげると、石油・ガス関連先等についてはお客さま1社1社ごとに原油価格下落に伴う収益影響等を分析するなどして、お客さまの実態を把握して適切に引当を計上している。今年3月末の私どもの非日系の石油・ガス関連エクスポージャーは約550億ドルであった。SMFGのトータルのエクスポージャーに対する割合で申しあげると6%程度である。このなかにはオイルメジャーも含まれているので、約85%はクレジットの極めて良好な先となっている。クレジットコストについていうと、非日系の資源関連のクレジットコストについては、2016年3月期に約320億円発生している。2017年3月期には非日系向けで資源関連を中心に500億円程度のコスト発生を蓋然的にリスクとして見ている。今の段階で顕在化しているということではないが、今年度1年で約500億円程度のコストが発生するのではないかと蓋然的に見ているということである。例えば資源関連の融資を行うときに、我々は融資基準というのを、ストレスケース等については従来より厳しい価格、例えば石油価格だったら石油価格の見通しを厳しい前提で置いて、そのプロジェクトあるいは融資の是非を判断するようにしている。したがって、今の資源価格の状況が続くことを前提にすると、今年度は資源関連の融資については比較的慎重に見ていくということだと思っている。
米国でのシェールガス、シェールオイルの企業の破綻だが、今、この業界で破綻が発生しているのは比較的小規模のシェールガス、シェールオイル採掘業者が多いと認識しているので、現時点において大きな影響を銀行業界に与えている、あるいは今後与えるとは今見ていない。先ほども申しあげた石油価格が少し回復をしてきているので、今の時点の見方ではそこが日本の銀行にとっての大きなコスト影響を与えるものというふうには見ていない。
(問)
先ほど触れられた銀行法改正案についてだが、今国会で成立した場合、欧米と同様に、わが国においても銀行グループによるIT関連企業への出資が加速するかについてお考えを伺いたい。
もう1点は、今、主要な生命保険会社において外貨建保険や変額年金保険の手数料を開示しようという動きが出ているが、その動きについてどのように捉えているか。また開示によって販売手数料が低下することも予想されると思うが、銀行業界の収益への影響についてどのように考えているか、教えていただきたい。
(答)
まず、1点目についてであるが、今回の銀行法改正法案が成立すれば、銀行グループによる金融関連IT企業への5%超の出資等が可能となる。先月の就任会見でも申しあげたが、近年、新たなデバイスの普及も背景に、銀行のみならず様々なプレーヤーから新たな金融サービスが次々と生み出されている。こうしたなかで、私ども銀行グループとしても、お客さまに利便性の高い金融サービスをタイムリーに提供していくうえで、オープンイノベーションの下、外部の金融関連IT企業と積極的に連携していくことも重要な選択肢となってくる。欧米の金融グループではすでにそうしたIT企業への出資や、IT企業・ベンチャーと組んだ新たな金融サービスの提供が始まっている。わが国の銀行グループも、現行制度の枠内で様々なIT企業との連携に取り組んでいるが、今回の銀行法改正は、こうした銀行グループのオープンイノベーションの促進に大きく寄与するものだと考えており、私は銀行と金融関連IT企業との連携はさらに拡大していくと思っている。
2点目のご質問だが、そのような議論があることは承知している。貯蓄性保険の販売手数料の開示については、基本的にフィデューシャリー・デューティーの観点から、お客さまにとってわかりやすく、誤解を招かないようにすることが重要だと認識している。
収益への影響については、今回議論されているのは、あくまでも販売手数料の開示のあり方であって、開示した後にどのような影響が出てくるかという問題とは別問題になる。現段階で販売手数料の開示そのものによる銀行収益への影響については、一概には申しあげられないと思う。
(問)
為替に関する質問をお願いしたい。足元では少し円安に振れているものの、円高は長期化が続いている。為替の今後の見通しをどのように考えているか。また、国内の企業業績への影響をどのように見ているか。
(答)
為替の展望については、全銀協会長として申しあげる立場にないのでコメントは控えたいと思うが、4月28日の日本銀行の金融政策決定会合での追加緩和見送りを受けて、ドル・円相場で円が急騰し、5月3日には一時105円台まで円高ドル安が進行した。いろいろな要因があると思うが、日本銀行が金融緩和をするのではないかとの見通しがあり、それを実施しなかったという緩和期待の剥落、1-3月期の低調なGDPを受けた米国の利上げ先送り懸念、中国や韓国等と並んでわが国を監視リストに指定した米国財務省為替報告等に見られる米国政府のドル安志向の強まり等が、背景として指摘できるのではないかと思う。先行きの予測は難しいが、米国景気の回復持続が確認され、足元のさまざまな報道からすると、6月の米国FRBによる追加利上げに向けた予想が増えてきており、ドル・円相場は少し円安・ドル高に振れる局面もあるかもしれない。もっとも、日銀の追加緩和余地に限りがあるとの見方もあること、わが国貿易収支が黒字に戻っているなか、実需面で円高圧力が強まりつつあること、あるいは、米国は大統領選挙を控えているので、米国政府も当面円安・ドル高に寛容な姿勢を打ち出しにくいと考えられること等々から見ると、昨年央まで見られた円安・ドル高の進行は見込みにくくなっているのではないかと個人的には見ている。
企業収益に与える影響ということだが、足元のドル・円相場は4月の日銀短観で公表された、企業が収益計画の前提とする想定為替レート117円台を大きく上回る円高水準で推移している。もともと短観における企業の収益予想は上方修正されていく傾向にあるので、そういうことがあるとは思うが、しかしながら、足元の円高水準、今日は110円に戻っているが、この水準が続けば増益幅の縮小に伴って経常利益の頭打ち感が強まることも予想されると思う。したがって、企業にはある程度マイナスの影響が出てくると思っている。
いずれにしろ、為替レートの水準ということもあるが、為替相場の急激な変動が企業経営にとっては望ましくないと私は思っている。
(問)
消費税率引上げについて、先月の会見で予定どおり引き上げるべきだという考えを示されたが、その後、熊本地震があり、また、うるう年効果を考えれば、実態としては弱かった1-3月のGDPがあり、昨日は民進党の岡田代表が2年程度の凍結を求めるという事態となっているわけだが、改めてお考えをお聞かせいただきたい。
(答)
消費税率引上げの判断についてだが、安倍総理は昨日の党首討論で「リーマン・ショックや大地震のような経済に大きな影響を及ぼす事態が起こらない限り、消費税率を予定どおり引き上げる」とこれまでの方針を述べられているし、「専門的な議論を聞いて適時適切に判断する」とも述べられている。今後、安倍総理が世界経済の状況、あるいは熊本地震による影響等を踏まえて総合的に判断されるということだと思う。
個人的には、4月の会見でも申しあげたが、持続可能な社会保障制度構築のための安定財源の確保、それから財政に対する信認確保のため、日本経済に重大な事態が生じない限り消費税率の引上げは予定どおり実施すべきという考え方に変わりはない。
消費税率引上げに向けては、先月も申しあげたが、個人消費の大幅な下振れなど、経済が腰折れすることのないよう環境整備を進めていく必要があると思う。熊本地震で被災された地域の復旧・復興をしっかりと進めていくことはもちろんだが、今年度予算の早期執行等により経済のてこ入れを図るとともに、現在取りまとめが進められている成長戦略の実行等を通じて、中長期的な経済の成長力を高めていくことが重要と考えている。仮に消費税率引上げを見送るのであれば、社会保障改革を含むわが国の財政健全化に向けた道筋について、改めて明確に示していただくことが重要だと思っている。
(問)
現時点では、日本経済に重大な事態は生じていないというお考えでよろしいか。
(答)
今の時点では、私の個人的な考えとしては、重大な事態は生じていないと思っている。ただし、これは安倍総理が総合的に判断されると思う。
(問)
ややこしくて恐縮だが、二つ質問したい。1問目は、SWIFTに関して、海外でいろいろ事件が起きており、セキュリティに対する懸念が高まっているが、まずそれをどうご覧になっているのか。また、海外の銀行、もしくは当局によっては、それをきっかけにセキュリティを見直す動きが出ているが、邦銀は何もしなくてもいいのか。
(答)
本年2月の、ニューヨーク連銀にあるバングラデシュ中銀の口座から、多額の外貨準備が不正送金されるという事件が発生したことを指していっておられると思う。これについてはもちろん私も報道で承知している。ただ、何が原因なのか等々については、現在、関係当局が詳細を調査中である。報道等によれば、バングラデシュ中銀の内部犯行の疑いもあるということだが、現在、関係当局が詳細を調査中であるので、今の時点においては、私の方からSWIFTのセキュリティの問題も含めて、コメントする段階ではないと思う。ただ、いずれにしろ、システムのセキュリティ対策については、銀行界として、あるいは銀行の個別経営者としては大変重要な問題だと認識しているので、銀行界としても、あるいは個別行としても、不断のセキュリティ対策の高度化は努めていかなければならないと思っている。
(問)
もう1問はパナマ文書だが、パナマ文書によって租税回避地を利用したビジネスについて議論が高まっている。一部の権力者による不正蓄財はもちろんよくないが、税金も含めてローコストのところで会社を設立するのは、ビジネス活動においてはむしろ常道ではないかという考え方もある。租税回避地の利用のどこまでが悪くて、どこまでが許されることなのか。
(答)
難しい質問だ。パナマを拠点とする法律事務所、モサック・フォンセカから流出したとされる、いわゆるパナマ文書については、ICIJが公表した個別のそれぞれの内容について全銀協会長としてコメントする立場にないが、今回指摘された問題は、一つは違法な脱税であり、これは論外だが、タックスヘイブンを活用した節税ということについてどう考えるかということだと思う。行き過ぎた節税については、これは合法ということだと思うが、合法であっても、税負担の公平性の観点から広く納税者の理解が得られないケースもあるのではないか、という報道だと認識している。これは一つ一つのケースの実態をよく見ていく必要があり、なかなか一律的にその是非を論ずるのは難しいと思う。また、どの程度の節税が問題になるのかといった点については、個々の論点について、まずは税務当局が判断される事項であり、全銀協会長としては、それについてお答えする立場にない。
いずれにしろ、こうした課税逃れの対応策についてはいろいろな枠組みができあがってきており、OECDが中心となって国際的な金融資産に関する情報交換の体制整備が議論されてきている。その結果として、一つは共通報告基準、CRS(Common Reporting Standard)、いわゆる自動情報交換。これは、日本では2017年1月1日から適用される予定であり、我々全銀協としても円滑な運営に向けて協力をしている。もう一つはBEPS。これはOECDが2015年10月に発表したBEPSの最終報告書、Base Erosion and Profit Shiftingというものだが、一部のグローバル企業による国際課税の隙間、あるいは抜け穴を利用したスキームを防止するための国際課税ルールの見直しである。こうした取組みがすでに行われており、銀行界としても適切に対応していきたい。
(問)
日銀と市場との対話について伺いたい。昨日、FRBが議事要旨を発表し、丁寧に市場との対話をしようという意欲が見受けられたと思う。日銀の場合は、1月末も4月末も、会合当日になるまで何が出てくるのかわからない状況であったため、1月末は銀行株が暴落し、逆に4月末は何もしなかったのに円高株安が進んだ。6月以降も何が起こるかわからない状況にある。日銀の市場との対話の問題点はどこにあると考えているか。
(答)
個人的な見解として申しあげるが、金融政策に関して、各国中央銀行と市場のコミュニケーションのあり方に、おそらく普遍的な正解があるわけではないと思う。FRBはそのように議事要旨を公開し、政策の方向感を示しながら、政策を打っているわけだが、もちろん中央銀行と市場のコミュニケーションが必要な要素であることは、まず申しあげられると思う。
一方で、金融政策におけるサプライズ効果というものもあるのは間違いない。3年前に黒田日銀総裁が発表した大胆な金融緩和政策が円安株高を誘導したのも、やはりサプライズ効果があったということだと思うので、一般論として申しあげれば、政策運営においてサプライズに一定の効果があるということは事実である。したがって、そこは、日本銀行が金融政策を運営されるに当たって、市場とのコミュニケーションとサプライズの両面を十分に勘案しながら政策を発動していただくということだと思うし、私としてもそれを期待している。