会長記者会見
2016年12月15日
國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)
髙木専務理事報告
本日の理事会において、お手元の資料のとおり、来年度の副会長を内定した。次期副会長は、10月に内定している次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日付で就任予定である。
また、お手元の資料のとおり、一般社団法人全国銀行協会と一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークは、本日開催の各理事会において、決済インフラの抜本的機能強化への取組みとして、わが国における企業間送金に係る電文を金融取引における国際標準であるXML電文に移行し、国内送金電文に商流情報の添付を可能とした金融EDI実現に向けた取組みを進めるため、「金融・ITネットワークシステム」の構築を決定した。
会長記者会見の模様
(問)
今回の会長会見は今年最後の会見となる。2016年は、日銀のマイナス金利の導入や海外の政治イベントなど金融業界にとって変化の大きい1年となったと思う。まず、2016年の総括と来年の見通しについてお考えを伺いたい。
(答)
2016年を振り返ると、一言で申しあげれば「予想外の地殻変動に揺れ動いた1年」であったと感じている。とりわけ、6月のイギリスの国民投票によるEU離脱の決定、11月の米国大統領選挙における共和党トランプ氏の勝利など、海外を中心に先行きの不透明性・不確実性を高める政治的な出来事が発生した1年であったといえる。
銀行にとっても、2月に日本銀行による国内初のマイナス金利導入により、預貸金利鞘が縮小するとともに、ボラタイルなマーケット環境が続くなど、経営の舵取りが難しい1年だったと思う。
こうしたなかで、日本経済について見てみると、年初からの円高や4月に発生した熊本地震の影響が景気の下押しに作用した。もっとも、家計部門では住宅投資が持ち直したほか、企業部門では設備投資が足元こそやや下振れたものの、総じて底堅い水準で推移した。加えて、政府の経済対策による下支えもあり、景気は緩やかな回復が持続した。一方、世界経済も、総じて見れば、先進国・新興国ともに回復傾向をたどったと言える。
この間の銀行業界の取組みであるが、私は、4月の会長就任時に、今年を「わが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年」と位置づけ、3つの柱を掲げて活動を進めてきた。主な活動についてお話させていただきたいと思う。
第1の柱である「経済の好循環に貢献する、質の高い金融仲介機能の発揮」については、国民の安定的な資産形成をサポートするとともに、経済成長に必要な成長資金の供給拡大を図るべく、全銀協として、NISAの拡充について税制改正を要望していたが、平成29年度の税制改正大綱で、長期分散投資のための「積立NISA」の創設が新たに盛り込まれた。NISAについては2014年の制度開始以降、各行が普及に努めており、足元の口座数は1,000万口座を超えるなど、着実に増加している。
また、円滑な金融仲介機能の発揮について、11月17日、全銀協として年末の中小企業金融等への取組みについて申し合わせを行ったほか、各行が事業性評価にもとづく融資やお客さまの経営課題を解決するソリューション提供等を通じた潜在的な資金需要の発掘に努めてきた。加えて、自然災害の発生により既存ローンの返済が困難になったお客さまに対し、4月から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の運用を開始し、熊本地震等への適用について会員行に周知している。
第2の柱の「安心・安全で、IT技術の革新にも対応した金融基盤の高度化」については、決済高度化に向けた取組み、具体的には昨年末の金融審の報告書に盛り込まれた13項目の提言について、いずれも日本の金融システムの競争力強化にとって重要なテーマであり、精力的に取り組んできた。ここで全てを申しあげることはしないが、例えばXML電文への移行については、金融界、産業界のほか、金融庁や経済産業省、日本銀行も交えた検討会を設置して議論し、先ほど髙木専務理事から報告したとおり、「金融・ITネットワークシステム」の構築を決定した。また、FinTechによる革新的な金融サービスの提供についても、オープンAPIやブロックチェーンなど新たな技術の活用に向けた検討を進めており、いずれも今年度中をめどに報告を取りまとめたいと考えている。
また、「安心・安全の確保」という意味では、銀行界として金融犯罪対策への取組み強化に引き続き努めている。来週22日には、東京駅のコンコースで振り込め詐欺等の被害撲滅に関するイベントを行う予定であり、私も参加する。
第3の柱の「景気に左右されない、健全な金融システムの構築」については、私ども銀行にとって極めて大きな影響を与える問題として、国際的な自己資本比率規制、いわゆるバーゼル規制の見直しがある。当初の規制見直し案は、金融システムや銀行経営に与えるマグニチュードが極めて大きな内容であったが、本邦当局とも連携し、また海外の銀行協会等とも協働しながら、積極的に意見発信等を行ってきた結果、我々の懸念材料は随分と解消されてきている。引き続き、金融システムの安定と持続的な経済成長のバランスの確保に向けて、当局とも緊密に連携しながら、わが国の金融構造やビジネス慣行も踏まえた主張を行っていく。
最後に、2017年の日本経済を展望すると、底堅い企業収益や海外経済の持ち直しを受けて、緩やかな回復傾向が続くと予想している。低迷が続いた個人消費も、雇用・所得環境の改善を受けて、持ち直してくるのではないかと期待している。
こうした日本経済の落ち着きとは対照的に、海外では引き続き激動の1年となる可能性がある。春のフランス大統領選挙や秋のドイツ総選挙の結果次第では、欧州の政治・経済体制が大きく変わる可能性もあり、今後の動きから目が離せない。また、中国経済の下振れリスクや世界的な保護貿易主義への傾斜にも注意が必要である。
さらに、1月20日に就任する米国トランプ次期大統領の動向にも注目する必要がある。前回の会見でも申しあげたが、トランプ次期大統領が就任することで、従来の金融・経済環境が全く変わる、いわば「ゲームチェンジ」となる可能性がある。トランプ氏の経済政策の全貌はまだわからないが、「強い米国」の復活に向けて前向きな政策に取り組まれるのであれば、わが国経済の再生にも追い風になる。他方、リスクファクターとしては、政策の実現可能性について依然として不透明感があり、実際の政策次第では、リスクオフへの揺り戻しのリスクも考え得ることから、こうした両面の可能性に備えておくことも必要だと思う。
いずれにしても、2017年は、日本経済の持続的な回復軌道への復帰のために極めて重要な1年となると思う。さまざまなイベントにより経済やマーケットが揺れ動く可能性もあるなかで、金融システムの健全性の確保、円滑な金融仲介機能の発揮に取り組み、日本経済の発展に貢献してまいりたいと思う。
(問)
本日、ロシアのプーチン大統領が来日され、今日、明日と安倍首相と首脳会談が行われる見通しとなっている。領土問題や経済協力について話し合われると言われているが、会長として今回の日露首脳会談にどのようなことを期待されるか。
また、政府から民間企業に対して、経済協力を要請されていると思うが、金融界としてはこのような要請に対してどのように応えていくのか。
(答)
本日と明日、安倍総理とプーチン大統領の首脳会談が開催される。これまでも安倍総理がプーチン大統領と15回も会談されているほか、さまざまなレベルで2国間の対話が重ねられている。わが国にとって日露関係を進化させることは、平和で安定的な国際社会の構築を図るとともに、アジア太平洋地域におけるビジネスを展開するという観点から、重要と考えている。
外務省から公表されているとおり、5月の日露首脳会談において、安倍総理から経済分野では8項目の「協力プラン」が提示され、9月にはウラジオストクで開催された東方経済フォーラムにおいて、それら「協力プラン」について具体化に向けた議論を深めていくこととなった、と認識している。
これを受け10月以降、首相官邸で「協力プラン」の具体化に向けた金融作業部会(ファイナンス・ワーキンググループ)が開催され、ロシア向けファイナンスに関する課題と解決策について、官民で情報共有や意見交換をさせていただいているところである。銀行界としても、個別案件が具体化する過程で協力できる部分は大きいと思う。
当行について申しあげると、米国・EUのロシアへの経済制裁が継続されているなか、これまでも、例えば非制裁対象取引や、日系企業の現地ビジネス、その他国益に資する取引等については、欧米の制裁措置を含め法令に抵触しない範囲で可能な限り支援してきている。今後のさらなる日露経済協力の推進に向けては、例えば制裁抵触懸念があるものについては、その有無について日本政府から米国政府に確認いただくなど、コンプライアンスに留意しながら、引き続き官民が一体となって取り組む必要があると思う。
一方、ロシア経済を見てみると、欧米による経済制裁や原油価格の下落に伴うルーブル安等を背景に、2015年の実質GDPが▲3.7%のマイナス成長となっており、2015年の日本の対露輸出、また、対露輸入も大幅に減少している。
両国の経済力や市場規模、地理的な近接性等を考慮すれば、貿易・投資等の面で十分にポテンシャルが活かされているとは言い難いことから、今回の首脳会談によって、日露経済関係の拡大・深化が進むことを期待したいと思う。
また、両国の間に長きにわたって残っている領土問題や平和条約締結交渉などは大変難しい課題であるが、かねて安倍総理がおっしゃっておられるように、一歩でも前進する首脳会談となることを期待している。
(問)
米国でFOMCが開かれ、1年ぶりの追加利上げが決定された。来年の利上げペースを引き上げる方向性も示されたが、会長のご所感は。また、米国の金利が上昇した場合、資金調達コストが上昇する懸念もあるかと思うが、銀行経営への影響をどう見ているか。
(答)
今日の明け方に、FOMCにおいて、フェデラルファンド金利の誘導目標を0.25%引上げ、0.50~0.75%とすることが決定された。今回の利上げそのものは、すでにマーケットにほぼ織り込まれていたものの、同時に公表されたFOMCの金利見通しが上方にシフトした結果、米国市場はドル高、金利上昇、株安となった。
今後の見通しだが、FOMCの声明文で「米国経済は年央から緩やかなペースで拡大している」とされているように、足元の米国経済の足取りはしっかりしている。非農業部門の雇用者数も、月20万人弱のペースで増加しているほか、時間当たり賃金の伸びも趨勢的に高まっており、個人消費を所得面から下支えしている。また、企業部門でも輸出や設備投資に持ち直しの動きが出てきている。さらに、来年後半からは、トランプ次期政権が公約に掲げる拡張的な財政政策が実施されれば、景気押上げに寄与することになる。米国の成長ペースは来年末に向かって徐々に高まっていく展開を想定している。
今後の焦点は、質問にもあったが、来年以降の利上げペースである。今回の声明文やイエレン議長の会見では、「ごく緩やかなペースでの利上げ」という政策スタンスが維持されたものの、金利見通しが上方にシフトした。これは、現段階で政策スタンスを変更することは早計と考える一方、インフレ上昇ペースが加速する可能性にも目配りしているということではないかと思う。FRBは当面緩やかな利上げという政策スタンスを維持しながら、次期政権の政策や議会の動向、それによる物価や景気への影響を慎重に見極めながら、具体的な利上げのペースや政策スタンス変更の是非を判断すると考えている。
わが国への影響としては、トランプ氏の政策を見極める必要はあるが、日本銀行が金融緩和スタンスを維持するなか、日米の金利差という観点もあり、円安・ドル高基調が続くと見られる。また、米国の利上げは、景気回復を阻害しないペースにコントロールされると見られるため、株価も日米共に堅調に推移すると予想している。こうしたマーケット環境により、わが国経済にプラス影響が現れることを期待している。
私ども邦銀の外貨調達コストだが、スワップ市場で円を元手に米ドルを調達する円投のコストを見ると、トランプ氏勝利以降の米国金利上昇等の影響から、上昇圧力がかかる状況となっている。しかし、金融機関によって調達方針が様々であることから、邦銀の外貨調達へのコスト面での影響を一概に申しあげることはできないが、今回の金利上昇は邦銀の経営に大きな影響を与えるものではない。また一方で、米国の金利が上昇していることによって貸出金利の上昇も見込まれる。加えて申しあげると、アベイラビリティーの観点においても、現在邦銀の外貨資金繰りに影響は出ていない。
(問)
2問あるが、1問目、バーゼルのことについて先ほど國部会長がおっしゃられたが、バーゼルの国際金融規制の議論が大詰めを迎えている。そのなかで欧州勢が独自規制の導入を示唆していると思われるが、邦銀のスタンスを教えてもらいたい。もし規制の内容が厳しい内容になった場合、邦銀のバランスシートとかリスクアセットの縮小も必要になるのかもしれないが、そのあたり対応できるとお考えか。
(答)
まず、国際金融規制の話だが、バーゼル委員会は、もともと本年末までの規制見直し完了をG20に対してコミットをしており、11月末に年内最後のバーゼル委員会の会合が行われたところである。その後のイングベス議長のご発言であるとか、あるいは報道等を通じて把握している限りでは、各種のリスク計測手法についてはおおむね合意されたようだが、リスクアセット全体の水準を調整する資本フロアについては、いましばらく議論が続けられ、来月のGHOS(中銀総裁・監督当局長官会合)での最終合意を目指していると認識している。
そもそも資本フロアとは、内部モデルを用いて算出したリスクアセットに対して、標準的手法にもとづいて算出したリスクアセットの一定割合をフロアとして設定するものであるが、各行のリスクセンシティブな業務運営を促すためにも、我々としてはこのフロアの水準は可能な限り低く設定することが適切だと考えている。どういう交渉になるかわからないが、予定どおり来月には最終合意をして、規制上の不確実性を払拭することが重要だと思っている。
ご質問のなかにあったが、足元で欧州委員会が独自の規制見直しを提案するなど、各国の独自規制の傾斜が懸念されているわけだが、私が思うには、国境を越えてグローバルに競争している金融業界においては、レベル・プレイング・フィールドの確保あるいは業務の効率性等の観点から、グローバルなルールとしてのバーゼル規制の枠組みをしっかりと維持し、機能させることが極めて重要ではないかと考えている。それが最終的には各国にとってもベストな選択になるのではないかと思う。
それから、厳しい規制内容となった場合にバランスシート管理が必要ではないかということについてだが、今回の見直しがどう決着するかまだ見通せないところはあるが、いずれにしろ、リスクウエイトが増え、リスクアセットが増加する方向になる。したがって、同じアセットに対しては、今後はより大きな自己資本が必要となるケースが出てくるということだと思う。
したがって、今回のバーゼル委員会の提案では、例えば大企業あるいは中堅企業向け貸出あるいはプロジェクトファイナンス等に必要な自己資本が引き上げられる方向となっている。それを受けて、新しい国際的な金融規制の下で、我々金融機関がどういう運営をしていくかということだが、一定程度バランスシートのコントロールを行いながら、アセットを使わないかたちのビジネスを拡大する、あるいは資産を回転させていくオリジネーション・アンド・ディストリビューション型モデルへ移行していく、あるいは貸出ではなくて社債等の直接金融手法の活用をしていく等々のビジネスモデルの見直し、そしてバランスシートコントロールを行っていく必要があると思っている。それは可能だと思う。
(問)
2問目は、IR法案が成立した。カジノなどリゾート施設が建設されたり、海外からの旅行者が増えたりと期待されていると思うが、金融機関としてはビジネスチャンスとなるのか。個別行としては、シンガポールとかマレーシアでカジノリゾートに融資とかされているが、どうか。
(答)
まず、今回のIR推進法だが、これはカジノや会議場、レクリエーション施設、宿泊施設など、いわゆる特定複合観光施設を設置する区域の整備に関する基本理念や基本方針を定める法律である。今後、法にもとづき設置される特定複合観光施設区域整備推進本部において具体的な検討が進められ、実施に当たって必要な法律案が策定されるものと理解している。
IRの推進というのは、現在、日本へのインバウンド観光客が2,000万人を超えるなか、さらなる増加に向けて、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、また地域経済の振興に寄与するものと思っている。もちろん、一方で犯罪の防止であるとか、治安の維持、青少年の健全育成、依存症対策などといった課題も指摘されているところであり、双方の適切なバランスをとりながら、日本全体にとって一番よいかたちは何かという観点でIRの議論が一層深まることを期待している。
銀行にとってのビジネスチャンスという観点からいうと、IRは地域、観光、産業の振興等に資する大型の新規投資、設備投資が発生するわけで、ひいては日本経済に大きく貢献する可能性があると認識している。先ほど申しあげたように、特定複合観光施設はいろいろな施設を兼ね備えることから、銀行としては、資金面のサポートに加えて、IRに関連する業界・業種の垣根を超えた銀行のお客さまのビジネスマッチングや海外IR事例の情報提供など、さまざまな面でお役に立てる機会が多いのではないかと思っている。
(問)
OPECの減産合意について、減産合意の話を受けて原油価格が上昇しているが、これが世界経済や金融市場に与える影響について会長の所感を伺いたい。また銀行への影響について、今年はプロジェクトファイナンスなど資源関連融資が若干抑え気味だったかと思われるが、これについても反転する可能性があるのかどうか。
(答)
まずOPECによる減産は、トータルで見れば世界経済にプラスに働くのではないかと見ている。それは、原油価格の上昇が原油生産国の景気下支えやエネルギー企業の業績回復、あるいは投資家のリスク許容度の改善等に寄与することが期待されると考えているからである。
一方、原油価格の過度な上昇については、原油消費国の個人消費の重しとなる可能性があり、その動向を注視することが必要だと思う。その原油価格がどれぐらい上昇するかということだが、これはなかなか見通し難いところがあるが、OPECの今後の減産合意の実効性を見極めていく必要があるほか、今回減産が免除されたリビアやナイジェリアの生産量が大きく回復すれば、OPEC全体の減産幅が小幅にとどまる可能性もあることや、米国のシェールオイルの増産が進む可能性もあることから、上昇はするが、その上昇ペースは緩やかなものにとどまるのではないかと思っている。それが銀行経営にどういう影響を与えるかということだが、まずクレジットコストという観点では、この原油高は資源関連のクレジットコストの減少要因になると思う。我々のグループでも、2016年度については、例えば期初は1バレル30ドル台が続くのではないかということで一定程度のコストを見込んでいたわけだが、例えば2016年度上期については資源関連のコストは数十億円にとどまっており、今後も原油価格の上昇が続くと仮定すれば、銀行の資源関連のクレジットコストは期初の想定よりも減少すると思う。
それから貸出についても、これから原油価格が今の50ドル台前半から60ドル台ぐらいで推移することになると、かなりプロジェクトも出てくると考えられるので、我々のビジネスでいうとコーポレート融資、あるいはプロジェクトファイナンスの機会は増えていくと思っている。
(問)
今月で改正貸金業法の成立からちょうど10年を迎えるが、この間、多重債務者は着実に減少している一方で、銀行のカードローンも伸びており、日弁連などからは貸金業法で規制している年収の3分の1を大幅に上回る貸付など問題点も報告されている。会長のこの問題に関する現状認識と全銀協として何か対応をとる必要があるとお考えかどうかお伺いしたい。
(答)
今、ご質問にあったとおり、改正貸金業法は2006年12月に成立しており、改正から10年になる。振り返ってみると、「多重債務者」の増加が深刻な社会問題となり、これを解決するために貸金業法が抜本改正され、総量規制、上限金利の引下げなどが導入された。当時の議論を思い返してみると、改正法の円滑な実施のためにも、「中長期的に健全な消費者金融市場を形成する観点から、消費者向け貸付について、銀行・信金等による社会的責任を踏まえた積極的な参加」が期待された。こうした背景もあり、10年前の日本銀行の統計で約3.4兆円であった銀行のカードローン等の残高は、現在、2016年9月末時点で約5.4兆円と大きく増加している。
一方で、当時から「銀行・信金等による貸付の場合にも、改正貸金業法における多重債務者の発生防止の趣旨や、利用者保護等の観点を踏まえることが重要」という意見が同時にあり、法改正と併せて監督指針も改正され、銀行に対し「改正貸金業法の趣旨を踏まえた適切な審査体制等の構築」などが求められたところである。
各行においては、私どももそうであるが、グループ内の消費者金融会社と連携をするなど、それぞれの業務戦略に応じた体制をとっていると思うが、足元では、今お話にあったとおり、銀行の貸付スタンスなどについて指摘を受けているケースも出てきている。したがって、我々としては、健全な消費者金融市場の形成に向けて、今一度、各行が監督指針に沿った適切な業務運営を行っているか、まずは自ら点検を行っていく必要があると考えている。
(問)
金利が上昇してきていることを受けて、昨日、日銀も国債買入額を増額しているが、この間のイールドカーブ・コントロールに対する評価を教えていただきたい。
もう1点、金利が上昇してくると、消費者の目線では住宅ローン金利も気になるが、住宅ローン金利はもう底を打って、今後は上がっていく可能性が高いとみるべきなのか、その辺の見解を教えてほしい。
(答)
9月の金融政策決定会合で行われた総括的検証では、イールドカーブの過度なフラット化が経済活動に悪影響を及ぼす可能性について言及したうえで、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するようなかたちで、イールドカーブ・コントロールを行うことが新たな枠組みの中心とされたわけである。
その後の長期金利の動きを見ると、10年物国債金利はゼロ%程度で推移している。長期金利に誘導目標を設けることは、これまでにはない手法であるが、今のところ、金利は日銀の想定の範囲内で推移しているということである。
今、米国の金利が上がってきているので、日本の金利に対して上昇方向の力が働いているわけだが、それを日本銀行が、先日は指値オペ、今回は買入額の増額ということで、最適なイールドカーブの形成を促すオペレーションをしており、今のところは、日本銀行の想定した範囲に収まっているということであると思う。
住宅ローン金利については、短プラベースの変動金利型、市場金利の動向を踏まえて金利が決定される固定金利型、あるいは変動金利型と固定金利型の組合せ、この3種類の金利タイプの商品を、私ども個別行として提供させていただいている。このうち固定金利型の住宅ローンは、長期金利動向等を踏まえ、競争環境等を考慮し、総合的に判断して金利を決定しているので、例えば長期金利が上昇してくれば、住宅ローンの固定金利が上昇することも考えられる。今のところ、日本銀行がイールドカーブをコントロールしているので、住宅ローン金利が急激に上昇する環境にはないと思うし、今の住宅ローン金利は歴史的に見て大変低い水準にあるので、住宅ローン金利が上がり住宅投資に影響が及ぶかどうかという観点でおっしゃっているとすれば、あまり影響は及ばないということだと思う。
(問)
積立NISAも開始される見通しになり、来年1月からは個人型確定拠出年金の対象者が拡大するなど、貯蓄から投資への流れがより一層進むことが期待されている。金融界、銀行界としてそれを進めるために、改めてやらなければいけないと認識していること、課題などがあれば教えてほしい。
もう1点、全銀協会長というよりも財界人としてご意見を聞きたい。今月末に安倍首相がオバマ大統領とともにハワイの真珠湾を訪れる。歴史的な意義のある訪問になるかと思うが、そのあたりの受止めがあれば教えてほしい。
(答)
12月8日に与党税制改正大綱が公表され、積立NISAの創設が盛り込まれた。年間投資額が40万円、非課税期間が20年とされているほか、投資対象が長期の積立・分散投資に適した商品に限定されることになっている。したがって、今まで投資の経験のないお客さまが積立によって資産形成を図るうえで、大変ご利用しやすい商品ではないかと認識している。
また、個人型確定拠出年金については、ライフスタイルや働き方の多様化のなかで、生涯を通じて切れ目なく、老後のための資産形成を図れるように、2017年1月から、基本的に60歳未満の全ての国民が加入できるよう、制度の拡充が図られる。
いずれも少額からの長期分散投資が可能で、安定的な資産形成に資する商品であり、大いに期待をしている。貯蓄から投資へ、あるいは貯蓄から資産形成へと推進していく必要があるわけで、その資産形成の一助となる商品と認識している。
制度の普及にあたって、積立NISAについては、今後、制度の詳細について検討が進められると思うが、平成30年の制度開始に向けて、銀行界、そして個別行としてもしっかりと対応していきたい。
また、個人型確定拠出年金については、すでに全銀協が確定拠出年金普及・推進協議会に委員として参加しており、制度の普及・促進に向けた取組みに積極的に協力してまいりたい。貯蓄から資産形成へとできるだけ推し進めたいと思っている。
次に真珠湾訪問についてだが、安倍総理は、オバマ大統領とのハワイ真珠湾訪問について、「犠牲者の慰霊のための訪問であり、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。その未来に向けた決意を示したい」とおっしゃっている。また、同時に、「まさに日米の和解、この和解の価値を発信する機会にもしたい」と述べている。
昨年、日米戦後70年を迎えたが、この間、日米両国は極めて強固な同盟関係を築いてきた。5月27日のオバマ大統領の広島訪問もそうであったように、今回の真珠湾訪問を機に、未来志向での日米関係の一層の強化を世界に発信していくことは、アジア太平洋地域の平和と繁栄にも大きく寄与するものと考えている。
(問)
株式の議決権行使結果の開示についてお考えを聞かせてほしい。金融庁の有識者会議で議決権行使結果の個別開示を原則進めようということで、スチュワードシップ・コードが改定される見通しになっている。最初の質問は、この動きをどう評価されているのか。二つ目は、銀行がスチュワードシップ・コードの対象となっていないのは理解しているが、保有している政策保有株の議決権行使の結果を個別開示するお考えはあるのか、ないのか。
(答)
スチュワードシップ・コードにおいて、これまでは議決権の行使結果については「議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべき」とされており、コードを受け入れた投資家は集計開示を行っている。「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、議決権行使結果の公表のさらなる充実が検討されてきたが、11月30日に取りまとめられた意見書において、「集計による公表にとどまらず、コンプライ・オア・エクスプレインベースで個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべき」とされ、来年のコード改正に盛り込まれる方向と聞いている。この動きについては、私としてはよい流れではないかと思っている。
スチュワードシップ・コードの対象である機関投資家は、主に投信・投資顧問会社、年金基金、生保などと思うが、銀行について言うと、行使結果の個別開示については銀行が発行会社の経営に与える影響力が大きい場合もあることから、開示することが当該企業の他のステークホルダーに影響を与える可能性もあり得る。そのことも念頭に入れて慎重に検討していく必要があるのではないかと思っている。
一方で、もう一つ、コーポレートガバナンス・コードの観点から言うと、いわゆる政策保有株式の議決権行使に関しては、「適切な対応を確保するための基準を策定、開示すべき」とされており、それぞれ設けた基準にしたがって適切に議決権行使を行うことが重要だと考えている。
個別行について申しあげると、現状では、議決権行使結果の公表はしていないが、開示している議決権行使基準に従って適切な行使を行っており、その行使状況については取締役会に報告をしている。
(問)
よい流れだと思っているという話があった。どういう観点でよいと思われているのか教えてほしい。流れができたものの、生保にしても運用会社にしても結構デメリットもあるという声が根強く聞かれて、メリット、デメリットの議論をちゃんとすべきではないかという意見もあると思う。したがって、國部会長がなぜよいというのか聞かせてほしいのと、銀行が影響を与えるということはそうだろうが、そういうことをいうと、生保だって投資運用会社だって開示することでみんな影響を与えるではないかというのがデメリットの議論にあるなかで、銀行が特に影響が大きいということの、「例えば」という話があったら教えてほしい。
(答)
これについてはメリット、デメリット両方あると思う。フォローアップ会議でもいろいろ議論をされ、来年のコード改正に盛り込まれる方向で検討していくと聞いているが、その過程でメリット、デメリットについてはさらに議論がされていくのではないかと思う。銀行については、発行会社とより関係が深い部分もあって、そういったことも含めて銀行が開示するかどうかについては慎重に検討する必要があるので、今、具体例を申しあげるのは差し控えさせていただく。
(問)
金融審議会の市場ワーキング・グループで議論になっている顧客本位の業務運営に関する原則についてお聞きしたい。現在、原則をつくる方向になってきていると思うが、かつて金融行政でプリンシプルベースを志向したこともあったがなかなか定着しなかったと捉えている。このプリンシプルベースの金融行政に転換した場合、これが根付くようになるためには、どのような仕組み、考え方が必要になってくると考えるか。
(答)
金融審議会の市場ワーキング・グループにおいてフィデューシャリー・デューティーに関する検討がこれまで行われてきた。11月25日の会合では、「顧客本位の業務運営」について金融庁から「顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融業者がお客さまのほうから選択されていくメカニズムの実現が望ましい」として、従来型のルールベースということではなく、プリンシプルペースのアプローチが必要という説明があった。ルール、すなわち法令については、必ず遵守しないといけない、いわばミニマムスタンダード。銀行としては、ルール違反が生じないよう、厳格に対応するとともに、お客さま本位の観点から、それ以上のことにも取り組んできているわけだが、いろいろ議論をお聞きしていると、まだ課題が残っているということだと思う。今回、プリンシプルが策定されることとなり、我々銀行としては、顧客本位の業務運営の徹底に受け身で対応するのではなく、「お客さまへのサービスの競争」だと前向きに捉えていくことがより重要になると考えている。
また、12月7日の会合では、「顧客本位の業務運営を定着させるための方策」として、金融庁から、金融事業者の行動や取組みについて「見える化」を進めることが重要、という論点も提示されている。もともと銀行業務においては、他の施策においても、PDCAサイクルを回して効果を検証し、改善してきたわけだが、顧客本位の業務運営についても、各行がPDCAサイクルを回すことによって営業現場の隅々にまで徹底するとともに、各行が自らの取組みをお客さまにわかりやすくお伝えしていくことが重要だと思っている。そうしていけば、先ほど申しあげたとおり、より良い取組みを進める金融機関がお客さまから選択され、我々のビジネスチャンスにつながっていくのではないかと思う。
(問)
不動産融資の関係で、会長は9月の会見では、バブルの様相を呈しているものではないという発言をされている。それから3ヶ月ほど経ち、現在の見解としてはどういうふうに思っているか。
(答)
不動産融資については、以前申しあげた認識と基本的には変わっていない。その後の統計等を見ても、それほど大きな変化は出ていないと思うので、基本的には、今、バブルの様相にはなっていないと思う。
(問)
そのなかで、個別具体的で恐縮だが、貸家の部分、アパートローンの部分に関しては特に地銀を中心として、大変加熱しているのではないかという指摘があるが、その点についてはいかがか。
(答)
アパートローンについては、日本銀行が先月公表した統計によると、9月末では、国内銀行の「個人による貸家業」向け融資残高というのは22兆円、前年同期比4.5%増加と増加傾向にある。この貸家マーケットについては、今バブルになっているとは思わないが、相続税の基準改定等を受けて増加してきており、個別行としても、マーケットの状況をよく見ておく必要があるとの認識はある。
もっとも、各金融機関が融資をするに当たっては、当然お客さまのニーズをしっかり伺って、事業の収益性やキャッシュフローによる債務返済能力等を見て、総合的に判断をして貸しているので、リスクの高い融資を行っているとは認識していない。
(問)
前回会見でも聞いたが、政治献金について、自民党・国民政治協会から年内によろしくと言われているとは思うが、年末も迫ってくるなか個別行としてどうされるのか。献金される場合、なぜ自民党なのか、あるいは金額の妥当性という点についてご説明頂きたい。
(答)
先月もお答えしているため繰り返しにはなるが、まず、基本的な考え方を申しあげると、わが国は少子高齢化、経済の成熟化、グローバル化が進んでいるなか、日本経済を持続的に成長させていくために取り組むべき課題が山積しており、政治の果たす役割は大きいと思う。
経団連は政治献金について、「企業の社会貢献の一環として重要性を有する」、「政策本位の政治の実現、議会制民主主義の健全な発展、政治資金の透明性向上を図っていくうえで、クリーンな民間寄附の拡大を図っていくことが求められる」、と整理されているところである。
私ども個別行としても、企業市民として社会的責任を果たす観点に立って、その政党の政策が、企業の健全な発展を促進し、日本経済の持続的成長に資するか、ということが、政治献金を行う際の判断の重要なポイントと考えている。そうした観点から、昨年は、自民党に対して献金を行った。今年については、まだ現時点では決めていないが、今申しあげた考え方に沿って献金を行う方向で考えている。
(問)
融資における担保について、過度に担保に依存した融資が非常に批判されているので、担保をとることは悪いことみたいになっているが、担保は本当に悪いものなのか。借り手にとっても、無担保で借りたら、クレジットリスクによってはべらぼうに高い金利を取られてしまうおそれもあるので、そういう意味で、担保の意義は何かというのを聞かせてほしい。
(答)
まず一般論で申しあげると、我々がお客さまへ融資する際には、お客さまの経営の状況あるいは事業の将来性などを定量、定性の両面から評価を行い、お客さまのキャッシュフローによる債務返済能力を見極めて総合的に判断している。一方、例えば一時的に業況が悪化して信用力が低下しているケースや、長期の融資で事業の将来性に確たる評価が難しいようなケースにおいては、先ほど申しあげた総合的判断に加え、必要に応じて担保による信用補完を行うこともある。これにより、お客さまにとってスムーズな資金調達が可能となったり、あるいは低い金利での調達が可能となることで、お客さまの企業価値の向上につながるケースもある。
また担保については、業況が悪化した際の信用補完という意味だけではなくて、銀行ではいわゆるAsset Based Lending、すなわちお客さまの保有する在庫や、売掛債権等を担保とした融資等を提案しており、お客さまの多様なニーズに応えることを可能にしている側面もある。もっとも我々銀行としては、必要以上に担保に依存することなく、いわゆる目利き力を発揮し、取るべきリスクをしっかり取ることで日本経済の発展に貢献していく、それが大事だということは十分認識している。