2017年2月16日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

髙木専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 私から2点質問する。第1点、トランプ氏が米国大統領に就任してから約1ヶ月が経過した。この間、保護主義的な経済政策や入国規制など、政治、経済にさまざまな影響を与えている。今月11日には日米首脳会談も開かれたが、この間の動きを國部会長はどのように評価しているか。
 2点目、先般メガバンクの第3四半期決算が出そろい、利鞘の縮小などで減益という結果になったが、今回の業績の評価や今年度の最終着地をどうご覧になっているか。
(答)
 最初のご質問だが、2月11日に行われた日米首脳会談は、日米同盟および経済関係を一層強化していくことで一致するなど、両国の深いきずなを世界に発信する大変よい機会になったと思う。また、今回の訪米により、安倍総理とトランプ大統領の個人的な信頼関係が深まったことも、今後の日米関係を考えていくうえで極めて意義が大きかったと思う。
 事前には、トランプ大統領から通商政策や為替政策に対する厳しい姿勢が示されるのではとの懸念もあったが、具体的な言及がなかったことでマーケットにも少なからず安心感が広がっている状況である。
 1月20日にトランプ政権が発足してから約1ヶ月が経過するなかで、世界中がその動向に注目してきた。まず、トランプ大統領は選挙戦のころから、所得減税、法人減税、インフラ投資、規制緩和、景気刺激のための財政支出等による「強い米国」の実現を主張してきたが、こうした政策が実現していけば、米国経済の活性化につながることが期待される。株価が史上初となる2万ドルを超えるなど、トランプ政権に対する期待感は引き続き高いと思う。
 一方で、懸念事項としては、政権の発足以降、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」戦略を推し進めるために、矢継ぎ早に大統領令を発出しており、依然として保護主義的な姿勢が強いことがある。通商政策では、1月23日にTPP離脱の大統領令に署名したほか、NAFTAの再交渉にも乗り出すなど、これまでの多国間自由貿易協定の枠組みから距離を置こうとしている。移民政策では、25日にメキシコ国境の壁を建設する大統領令に署名し、27日にはシリアなど7ヶ国からの入国禁止を打ち出して、米国内外からの反発を巻き起こした。
 もっとも、これらの大統領令などは、選挙時のキャンペーンの内容を実行するためのものだが、入国禁止による大統領令は連邦裁判所の判断で一時的に差止めとなっているほか、そのほかの大統領令も、具体化には各省庁による計画策定や米国議会を通じた予算措置が必要なケースも多い。
 加えて、こうした政策は冷静に考えると、必ずしも米国経済や米国民にとってもプラス影響のみをもたらすとは言えないと思う。例えば、米国の保護貿易姿勢の強化は、輸入品の価格上昇により国内物価の上昇をもたらすほか、他国の政策もより内向きとなる結果、米国の輸出へのマイナス影響として跳ね返ってくる恐れもある。反移民政策についても、優秀な人材を米国に引きつけることができなくなる可能性もあり、その場合は潜在成長力の低下をもたらす懸念も出てくる。
 私が思うに、当然のことながら、トランプ大統領自身もこうした点はよく承知していると思う。今後は、大統領が信頼し、指名した閣僚が具体化に向けて検討をしていくということで、政府、議会が協議を行うなかで現実的な着地点が見極められていくものと期待をしている。
 わが国としては、今後もトランプ大統領の発言一つ一つに必要以上に一喜一憂することなく、首脳会談で合意した麻生副総理とペンス副大統領の下での分野横断的な協議の場などを活用しながら、トランプ政権に正しい情報を伝え、冷静に少し長い目で対応していくことが必要なのではないか。
 これまでトランプ大統領のストレートな発言に特に注目が集まってきたが、米国の消費者マインド、そして企業マインドは着実に改善してきており、アメリカ国民の気持ちを前向きに変えたエネルギーは、今後の米国経済の成長に向けて大きな原動力になると思う。トランプ大統領には、ぜひ「強い米国」の実現に加え、世界経済の成長や国際政治の安定のためにも力強くリーダーシップを発揮していただきたい。
 二つ目の質問について、まず第3四半期までの業務環境を振り返ると、わが国経済は好調な企業業績等によって緩やかな回復が持続しており、海外経済も先進国、新興国ともに総じて回復傾向をたどっている。一方、国内においてはマイナス金利政策の影響で、預貸金利鞘の縮小が続くほか、海外においても6月の英国国民投票によるEU離脱決定、11月の米国大統領選挙における共和党トランプ氏の勝利など、先行きの不透明性、不確実性を高める政治的な出来事が発生し、ボラタイルなマーケット環境が続いたことから、銀行界にとっては経営の舵取りが難しい環境だった。
 3メガバンクグループ連結の2016年度第3四半期決算については、各グループとも純利益や本業の儲けを示す業務純益は前年同期比減益。昨年11月の会見の際に申しあげた上期決算の特徴と同様だが、資金利益の減少が続いているほか、投資信託などの運用商品販売は前年同期比低調となっている。一方で、年間の業績目標対比では、各グループとも進捗率は75%を超えており、業績目標達成に向けて着実にラップを刻んでいると思う。
 足元の状況について申しあげると、トランプ大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」戦略がわが国経済に与える影響を見極めていく必要がある。また、英国ではEU離脱に向けて今後の交渉は難航することも予想され、通商関係や各種規制などをめぐる新たなEUとの協定が具体的にどのような内容となるのか見通せないなど、当面、先行き不透明な状況が続くと考えている。
 このような環境下、今年度の銀行界の業績については引き続き資金利益の伸び悩みや不透明な海外の政治、経済動向の影響から、厳しい収益環境が予想される。
 一方、国内においては、株価の上昇等を背景に、足元では個人のお客さまの運用商品の購入に回復の兆しがうかがえる。加えて、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復、昨年8月に打ち出された経済対策の進捗等により、法人のお客さまの資金需要の増加も期待される。こうしたお客さまのニーズをしっかり捉え、収益基盤の拡充に努めるとともに、我々銀行界としては円滑な金融機能の発揮等を通じて、わが国経済の成長に貢献をしていきたい。


(問)
 コーポレート・ガバナンス改革の一環として各行とも政策保有株を減らしていっていると思うが、例えば、東芝のような財務内容やガバナンス体制が著しく劣化した先の売却、保有についてどうお考えか。おそらく採算性とか合理性から見ると認められないと思うが、一方で大きな取引先でもあるので、その辺のスタンスを教えていただきたい。
(答)
 まず、個別の企業についての話ということではなくて、一般論としてお話をさせていただくが、基本的にはケース・バイ・ケースで個社ごとに判断をするということだと思う。ご存じのとおり、政策保有株はお客さまとの中長期的な取引関係にもとづくものであって、財務内容やガバナンス体制の一時的な側面を捉えて直ちに売却を行うというものではないと思う。ご質問のようなケースでも改善に向けた対応策の中身やその取組みということと、それからやはり売却をすることによってお客さまの信用面やレピュテーションに与える影響等を総合的に見極めたうえで判断をしていく必要があると思っている。政策保有株の有無にかかわらず、お客さまに対し財務内容やガバナンス面について可能な限りサポートを行っていくということも銀行の重要な役割の一つだと思っている。いずれにしろ、各メガバンクは政策保有株の削減目標を一昨年の秋に発表していて、足元、各行とも予定した進捗度合いで進んでいると思っている。
(問)
 あともう1点だが、先ほどの会長のご見解とかぶるものがあるが、トランプ大統領の通貨安誘導批判が日銀の金融緩和にどのような影響を与えるとお考えか伺いたい。このような局面もたびたび今後出てくると思うが、日銀のデフレ脱却シナリオに影を落とすとお考えか。
(答)
 大統領に就任してからトランプ氏が幾つかコメントされている。例えば中国や日本は過去何年も通貨安誘導を繰り広げているとか、あるいは他国が通貨供給量や通貨安誘導で有利な立場を取っている等々コメントをされているわけだが、それを受けて日本銀行の金融緩和政策が問題視されているという報道は私も拝見している。
 日米首脳会談ではトランプ大統領から通商政策や為替政策に対する具体的な言及がなかったということであるが、今後は、こうした主張が再び繰り返される懸念は残っていると思う。しかしながら、日本銀行の金融政策というのは、そもそもデフレからの脱却を図って、物価が2%程度で安定的に上昇することを目的に運営をされている。為替相場は物価に影響を与える要因の一つであるとは思うが、日本銀行の金融政策が為替相場をターゲットにしているというわけではないと私は考えている。
 そもそも円ドル相場というのはわが国の金融政策だけでもちろん決まるものではなく、日米双方のさまざまな経済・金融の状況などファンダメンタルズを反映しながら相場が形成されていくものだと思う。このところの円安については、わが国の金融緩和要因というより、米国経済の上振れ期待を見込んだ米国金利上昇によってもたらされたものと私は認識している。したがって、わが国においてデフレの完全脱却を目指し、日本銀行が目標としている2%の物価安定目標を達成していくということは、日本のみならず、米国経済にとってもプラスだと思うので、政府あるいは日本銀行におかれては、やはり金融政策の枠組みや狙いについてしっかりと米国に伝えていくことが大事なのではないかと思う。


(問)
 マイナス金利の導入について、実際に適用されてから1年ということもあり、第3四半期決算のところの話でもあったと思うが、その影響についてはおおむね当初の想定どおり進んでいる感じだが、これが今後長期化することに対してどのような対応が必要か、また、深掘りもあり得ると黒田総裁もおっしゃっていて、その場合の対応についてどのようなお考えがあるか教えていただきたい。
(答)
 マイナス金利政策の効果をどう考えるかというご質問であると思う。マイナス金利政策の効果ということについては、以前も何度か申しあげさせていただいているが、実体経済への影響という観点からすると、消費者物価の押上げ効果はまだあまり現れていない。また、10-12月期の実質GDP成長率を見ると、わが国の景気は緩やかな回復が続いているわけだが、この背景には政府の経済対策や為替動向など、さまざまな要因が考えられるので、マイナス金利政策が実体経済にどのような効果を及ぼしているかを切り出して評価するというのはなかなか難しい面があると思う。
 金融面について、当行の状況を申しあげると、プラス面としては、住宅ローン金利の低下を受け、住宅ローンの取組件数を見てみると、マイナス金利導入直後ほどではないものの借換えが引き続き高い水準にあるほか、店頭での新規のご相談件数もマイナス金利導入以降、前年同月比プラスが続いている。また、企業が発行する社債の年限の長期化が見られるなど、個人、企業ともに低金利での資金調達が可能な状況にあると言えると思う。
 一方で、マイナス金利政策の銀行収益に対する影響ということについては、3メガバンクグループの第3四半期決算でも預貸金利鞘の縮小により、いずれも前年同期比減益となっているので、マイナス影響が出ているということである。
 改めて現場の声を聞いてみると、マイナス金利政策の導入から1年経過したわけだが、企業のお客さまにおける前向きな投資意欲が高まっているという状況にはまだないと思う。また、全銀協が公表している統計だが、全国銀行の預金も増加を続けており、低金利下で運用先に困っているというお客さまの声と整合的な動きなのではないかと思う。
 このように、マイナス金利政策はプラス、マイナス両面の影響があるわけだが、日本銀行におかれては政策効果を検証しながら、引き続きしっかりと対応されるものと期待している。
 先ほど深掘りという話があったが、現在の状況を踏まえると深掘りの可能性はほとんどないのではないかと私は思っている。
(問)
 先ほど米国の金利上昇の話があったが、この間、日銀が10年国債で指値オペを実施した。こうした米国の経済の回復に伴う金利上昇を日銀の政策としてのイールドカーブ・コントロールで押さえ込むというかたちをとらざるを得ないと思うが、こうした政策により金利上昇を押さえ込めるのかも含めて会長はどのようにお考えか。
(答)
 昨年9月の金融政策決定会合で、10年物国債金利が0%程度で推移するようなかたちでイールドカーブ・コントロールを行うことが、新たな枠組みとしてスタートしたわけである。その後の長期金利の動きを見ると、10年物国債金利は0%程度で推移しているわけだが、これは日銀が市場とのコミュニケーションを重視しながら、2%の物価安定の目標を実現するためにいろいろと手を尽くされていることによるものだと思う。2月3日に昨年11月以来2ヶ月半ぶり2度目として実施された指値オペも、その一環と見ている。このオペレーションへの解釈をめぐって一時的に長期金利が大きく変動する局面もあったが、長期金利に誘導目標を設けることは初めての取組みであり、日銀はこの新たな枠組みにしっかりと取り組まれていると思う。
 今後も、トランプ政権の動向やさまざまな政治イベント、今年は欧州で幾つかの選挙があるわけだが、そういう政治イベント、それからアメリカの利上げの動向等によって、マーケットが大きく変動する可能性がある。日本銀行におかれては、今後も難しい舵取りになる面はあるが、やはり2%の物価安定の目標の実現に向けて、状況の変化に応じて、金融政策を検証しながら、そして、市場とのコミュニケーションをしっかりととりながら対応していただくことを期待している。


(問)
 FRBのイエレン議長が議会証言をしたが、金融規制の緩和、移民政策、財政出動についてもトランプ大統領に異論を唱えるようなかたちの証言が多かったように思う。大統領と意見を異にするかたちでイエレン議長が表明したことで、今後のFRBの金融政策運営について不透明感が増すように思うが、どのように先行きを見通しているか。
(答)
 イエレン議長の議会証言について詳細は承知していないが、今後の見通しとして、割と早期の政策金利引上げの可能性も示唆したような発言になっている。もともと今年3月の利上げはあまりないというのがマーケットの見方だったが、足元では、利上げ確率が40%程度という動きになっている。現在の米国経済は底堅いものがあり、そこに財政出動が加わってくると、やはりある程度早期の利上げをやっていく必要があるとイエレン議長は判断しているのではないかと思う。
 米国政府とFRBの関係について申しあげると、基本的にFRBは独立して経済情勢、物価情勢等を踏まえて金融政策の判断をしていくわけなので、FRBと米国政府との関係がおかしくなることはないと思う。したがって、トランプ大統領が今後2-3週間の間に減税に関する提案を行うと言っていることも含めて、これからさまざまな政策が打ち出されてくるが、それを踏まえて、米国経済、雇用情勢などを見ながら、FRBは適切な判断をしていくと思っている。


(問)
 本日、日本銀行の黒田総裁が講演をしているが、そのなかで、金融機関の課題について、収益力の向上が重要な課題であると指摘し、その対応としては、ビジネスモデルの抜本的な見直しとともに、金融機関の合併や経営統合といったことも選択肢になり得るという認識を示した。それについての受止めを聞かせてほしい。
(答)
 本日、黒田総裁が講演をされ、金融機関の収益力低下は金融システムに対するリスク要因としたうえで、収益力向上に向けて、それぞれの環境に応じたビジネスモデルの構築が必要であって、金融機関間の合併・統合も選択肢の一つと述べたと理解している。
 我々銀行界の収益環境は先ほど冒頭に申しあげたとおりで、預貸金利鞘の縮小あるいはお客さまの運用、例えば投資信託の販売などがまだ完全に回復していない状況であり、収益環境は非常に厳しい。それから、構造的な問題として人口減少の問題もあるので、各金融機関がそれぞれの経営基盤、事業基盤を踏まえ、どう持続可能なビジネスモデルを構築して収益の多様化を図っていくかを経営者は真剣に考えていると思う。したがって、それを実現するための一つの手段あるいは選択肢として、合併・統合という手法もあると私も思っている。


(問)
 2点あるが、まず、銀行のカードローン事業について伺いたい。先週発表された日銀の統計で、昨年末時点の銀行のカードローン残高が5兆4,000億円という18年ぶりの高水準になった。日銀の金融緩和によって低金利の環境が長く続いていることで、銀行がカードローン事業に力を入れ過ぎているのではないかという指摘も出ている。金融庁がこうした点を踏まえて、銀行界に対して監督指針に沿った適切な業務運営しているか点検するように求めていると思うが、会長は、現状、銀行としてのカードローン事業への取組みを適切だと捉えているか、もしくは過剰な融資などの問題があると考えているか。また、全銀協としての対応が何か必要と考えているか。
(答)
 カードローンの問題は以前の会見でも申しあげたことがあると思うが、今ご指摘のとおり、貸付残高が増加している。そのなかで、例えば日本弁護士連合会から頂戴した意見書など、銀行の貸付スタンス等についてご指摘を頂戴しているケースもある。私ども銀行としては、カードローン業務に当たって、改正貸金業法における多重債務の発生抑制といった趣旨を十分理解しているところだが、今一度、まずは会員各行自らが監督指針に則った適切な業務運営を行っているか点検を行うことが重要だと思う。
 全銀協としての取組みだが、すでに検討部会において、消費者向け貸付に関する広告宣伝を実施する場合には、改正貸金業法の趣旨を踏まえて、適切な表示等に努めるよう、周知を行っている。今後も我々としては、より健全、適正な消費者金融市場の形成に資するよう、各行の取組みをサポートすべく、必要な対応を検討していきたいと思っている。
(問)
 2点目、全然別の話になるが、東芝について、一昨日、決算の発表をされて、その場でアメリカの原子力子会社での新たな不正という疑惑が浮上した。これは会長としてというよりも、取引行の頭取としてのご発言になると思うが、まず、その受止めを伺いたい。
(答)
 まず、東芝という個別の取引先に係る事項であるので、詳細なコメントは差し控えるべきと考えるが、東芝は2015年春に不適切会計が発覚して以降、その発生原因となったガバナンス体制の見直しに取り組んで、新しい経営体制の下、半導体、原子力、社会インフラの3事業を柱として構造改革を断行してきた。足元、競争力のあるメモリ半導体事業が大変好調で、当社の再建が順調に進んできたなかで、突然、昨年12月に米国の原子力事業で大きな損失が発生する事態となった。更に先日、内部通報により、ぎりぎりになって決算公表が延期されるなど、内部管理体制やリスク管理には依然課題があり、我々メインバンクとしても大変残念に思っている。現在、東芝において、ガバナンス体制の再構築や事業ポートフォリオの見直しに鋭意取り組まれており、今後、具体的な対策を伺ったうえで、メインバンクとして可能な限りサポートをしていくつもりである。


(問)
 今の質問に少し関係するが、可能な範囲で答えてほしい。東芝の問題は、そもそも非常に不透明な理由で巨額の損失が発生して、さらに改めて情報開示やガバナンスの不備が重ねて発生したということで、非常に危急存亡の秋かと思う。そうしたなかで、昨日のバンクミーティングでは、メイン行として支えていくという表明もあったかと思う。
 ただ、銀行としても株主がいるなかで、こうしたある種損失が今後発生し得るリスクの高い先となってしまった東芝を支えていくことは結構な経営判断があると思うが、なぜそれでも東芝を支えていかなければいけないのかというところを、これまで付き合いが深いとか、そういった表面的な理由だけではなくて、深くもう一度考え直したうえで、それでも支援していくという判断があったかと思うが、その辺りの支援に至った判断について少しコメントをいただきたい。
(答)
 私どもの現時点の考え方を少し申しあげると、東芝は社会インフラやメモリ半導体等の分野において、世界最先端の優れた技術を有する企業であって、わが国の産業競争力を維持していくうえでも重要な役割を担うべき企業とまず考えている。そして、第3四半期決算が適正な会計処理により確定すると、2017年3月末の表面の株主資本が一時的にマイナスとなる可能性があるといわれているわけだが、メモリ事業等の企業価値を活用することによって、実態的な株主資本はプラスが維持されると思っている。
 また、今回、ガバナンスに問題が生じたわけだが、経営陣と従業員が一丸となって経営改革に全力で取り組んでおられる。今後、私どもとしては経営改善に向けた具体的な対策を伺ったうえで、先ほど申しあげたとおり、メインバンクとして可能な限りサポートしていくつもりである。
(問)
 可能であれば、東芝の経営陣にメインバンクのトップとして、あるいは非常に多くの銀行が関わっているので、全銀協会長としてになるかもしれないが、注文や要望のようなものがあれば、重なる部分もあるかもしれないがお願いしたい。
(答)
 あまり東芝の話ばかりというわけにもいかないと思うが、今回、直前の内部通報によって数字が確定していないわけだが、1ヶ月間かけて調査をすると発表しているので、その調査をしっかりしていただいて、まず数字を確定するということ。そして、2017年3月末の資本の状況も踏まえながら、東芝としてどういう経営改善策を取っていくのか、あるいは資本の増強対策を行っていくのか、そういったことをしっかりと固めていただくとともに、やはりガバナンス体制をしっかり強固なものとしていただいたうえで、将来、東芝としてどのようなビジネスモデルで成長していくのかという姿を提示していただく、こういったことが必要なのではないかと思っている。


(問)
 まず、働き方改革の関係で、政府が先般、月平均60時間を時間外労働の上限として罰則も設けるなどとした原案をまとめている。これについて銀行業界としての受止め、あるいはこれを受け入れられるのかについて考えを聞かせてほしい。
(答)
 これは銀行業界としてではなくて、私個人の意見として申しあげるが、働き方改革に向けた残業時間の上限については、現在、政府の「働き方改革実現会議」で議論が行われており、今月14日の会議において、長時間労働の是正に向けて、月平均60時間、年720時間とする原案が示されている。時間外労働に上限規制を設けるということについては、基本的には賛成である。従業員の生産性の向上を図る、あるいは時間に制約のある従業員に働いてもらうためには、やはり長時間労働の是正が必要なので基本的には賛成だが、企業の実態等が勘案されずに、あまりに厳しい上限規制がかけられると、企業の競争力の低下につながるほか、人手不足のため対応できないといったケースも懸念される。したがって、わが国の企業の事情、あるいは業種によってもいろいろ事情があるので、そういう現場の声も聞いていただきながら、現実的な規制を検討いただくことが重要ではないかと思っている。
(問)
 2問目は、文部科学省の「天下り」の問題の関係で、あっせん自体の問題とともに官僚のOBが民間に再就職した際、わずかな勤務なのに多額の報酬をもらっていることも問題視されている。銀行でも中央省庁などからOBが再就職することはあるかと思うが、就任の経緯、報酬と勤務の整合性があるかなどについて適切に行われているか、その辺についてどう考えるか。
(答)
 いわゆる「天下り」については国会等で議論されているが、国家公務員法の再就職等規制を遵守することが重要だと思っている。国家公務員が退職された後、民間企業からの申し出に応じて民間企業に再就職すること自体は否定されるものではないと思う。銀行界において官僚OBを受け入れているかどうかは、各行のことを承知していないのでわからないが、官僚OBを受け入れている銀行は、法令を遵守しながら、それぞれの社内ルールに則って採用の是非や処遇について適切に判断されていると思っている。


(問)
 春闘が本格化しており、今日は大手電機メーカーの主要労働組合の要求が出揃うようだが、個別行の頭取として賃上げやベアに対する考え方について伺いたい。
(答)
 先月の会見でも考え方を少し申しあげたが、わが国のデフレ脱却に向けて経済の好循環の流れをより力強くしていくためには、賃上げのモメンタムを継続していくことが極めて重要だと思う。
 一般論だが、個々の企業から見た場合でも、従業員の勤労意欲の向上、優秀な人材の確保等の面で、賃上げは有効である。また、経営者としても従業員の努力にどう報いていくかは、常に、私自身考えているところである。
 銀行界の賃上げについて言えば、これは各行それぞれ経営状況や将来見通しが異なるほか、諸手当などの賃金の内訳もさまざまであることなどから、一概に申しあげることはできないが、経団連がまとめた経営労働政策特別委員会報告の考え方も踏まえて、各行で労使による真摯な話し合いが行われ、処遇のあり方が検討されていくと思う。
 当行個別行については、今後組合の意向を聞きながら真摯に検討していく。経営者としては、先ほど申しあげたような厳しい経営環境のなかで頑張っている従業員の奮闘に応えるべく、年収ベースの引上げへ向けてさまざまな選択肢があるわけだが、ベースアップを含めて検討していきたい。
(問)
 来週「プレミアムフライデー」が行われる。これに対して銀行界全体での統一の取組みは特にないかもしれないが、個別行なりで実施する予定の政策はあるか。
(答)
 「プレミアムフライデー」は、もともと「官民戦略プロジェクト10」の一環として、官民合同で導入されることになり、2月24日が1回目となる。
 この「プレミアムフライデー」の狙いの一つは個人消費の活性化である。わが国経済のデフレ脱却、経済再生のためには、GDPの約6割を占めている個人消費の活性化が重要になる。これを後押しするために、政府と経団連などの業界団体が連携して「プレミアムフライデー」をスタートすることになった。
 また、個人消費だけではなく、個人が幸せや楽しさを感じられる体験や、そのための時間の創出を促すことで、充実感・満足感を実感できる生活スタイルの変革への機会となり、デフレ的傾向を変えていくきっかけにもつなげていこうという狙いもある。こうした趣旨には、私は大いに賛同しており、よい取組みだと思う。
 銀行界においては、金融という社会的インフラを提供しているため、全ての銀行が一斉・一律に勤務時間を短縮するような対応はなかなか難しい。会員各行がそれぞれ創意工夫して対応されると思う。
 私ども個別行について申しあげると、定時退行をまず目標として、2月24日を行内統一の早帰り日に指定する。また、業務の状況に応じて定時前の退行も奨励していく予定で、すでに行内には通達を発出済みである。


(問)
 東芝に関連して、原発プラント事業について、果たして民間でリスクを負ってできるものなのかという点について、お考えをお伺いしたい。今回、東芝の減損損失も出たが、三菱重工も原子力プラント事業で、アメリカで数千億円単位の訴訟になっている。海外に目を転じれば、フランスのアレバもプラントで、コストオーバーランが重なって経営危機になっている。銀行から見て、原子力発電所をつくるというビジネスは、民間に担えると考えることができるのか。融資をする銀行として、そういう事業はバンカブルであると考えることができるのか、その点についてお伺いしたい。
(答)
 原発事業だが、もともと日本においては2030年の望ましい電源構成というのがまとめられていて、原子力の比率は20~22%となっている。ここまでの数字にいくかどうかはともかくとして、日本にとっては、当面、原発が必要だということだと思う。また、世界的に見ても、電力の需要は高まっており、今のところ原発へのニーズが事実として存在している。さらに言えば、すでに稼働している原発のメンテナンスや将来的な廃炉まで見据えると、原子力事業を責任を持って着実に実施できる担い手は必要不可欠であると思う。
 原子力事業と一言で言っても、例えば設計・機器製造・プラント建設から発電売電・廃炉まで多岐にわたるわけだが、民間レベルで原子力事業を行うためには、それぞれのセグメント別に、リスクや不確実性等を分析して、自社で担えるセグメントを選択したうえで、リスク、コスト管理を徹底しながら推進していく必要があると思う。また、グローバルに原子力事業を行う場合には、それぞれの国や地域で市場環境や諸制度が異なることにも注意を払う必要があると思う。
 今回、東芝は原子力事業の今後の方向性として、「土木建築部分のリスクは負担しない」と事業の見直しを発表されているが、これもリスクの低減を考えているということである。
 わが国では、原子力事業のあり方について、東日本大震災の教訓を踏まえ、原発の安全基準が強化をされるとともに、損害賠償制度の見直しについても議論されているところだと思う。
 まずは原子力事業を担うメーカー、プラント業者、そして電力会社自らがリスク管理をしっかり行うことが前提となるが、やはり原子力事業には特有のさまざまなリスクが伴うことも事実であり、国にもしっかりと目配りしていただき、安定的な原子力事業に資する環境整備など、必要なサポートを行っていただくことを期待したいと思う。
 最後に、銀行として融資可能な事業か否かというご質問には、一概にお答えできるものではないが、今、私が申しあげたようなことを一つ一つ確認しながら、銀行として融資ができるかどうかを個別に検討していくということになると思う。


(問)
 1月の会見でもご指摘されていた、世界的なマネーフローの変化についての銀行経営上の対応について質問させていただく。米国の利上げなどもあってマネーフローの変化の可能性は高いと思っているが、その一つとして新興国から資金が流出した場合、新興国経済に大きな影響を及ぼすと思う。こうしたボラティリティの高い状況で新興国向け与信はどのように管理されているのか。特に予兆管理が重要になると思うが、その辺りをどのようにお考えか。
(答)
 今、新興国の資金流出がどうかについてまず申しあげると、新興国の外貨準備高の推移を見てみると、米国の利上げやトランプ政権の発足前後でトレンドに大きな変動はない。したがって、足元では新興国からの資金流出が問題になるような状況ではないと認識している。
 それから、新興国向け与信の管理についてだが、私ども個別行で申しあげると、新興国向け与信についてはカントリーリスク管理の枠組みのなかで対応している。
 具体的に申しあげると、それぞれの国ごとに外貨準備、為替相場の推移、経常収支、GDP等の各種指標をモニタリングし、何か変調があった場合には、カントリーランクや国別与信方針の見直し、それに伴う与信枠の変更について検討を行っている。個社については、当然それぞれの事業特性に加えて、通貨安が個社の財務に与える影響、例えばドル建債務が現地通貨安によって増加することも含めて適切に管理しているというのが私どものリスク管理の枠組みである。現時点で大きなリスクが顕在化している状況ではないと考えている。


(問)
 先日、日銀から2016年の不動産融資が過去最高になったという発表があったが、現場で聞いていると、一部の地銀が県境を越えて都心のアパートローンに集中する動きが多く出ているようだ。これは地方で資金需要があまりにもないことの表れなのか、低金利が長く続き過ぎたことの弊害がこういうかたちで現れているのか、いろいろな見方があると思うが、不動産融資がこれほど増える理由をお聞かせ願いたい。
(答)
 不動産融資の残高は、日銀が今月9日に公表した統計を見てみると、12月末の国内銀行の全産業向け融資残高が478兆円、そのうち不動産業向け融資残高が約70兆円になっており、過去最高の残高となっている。この背景は何かということだが、私は、今の時点ではアベノミクスによるオフィス需要の増加、あるいはマイナス金利による調達コストの減少等を背景に不動産取引が増加しているものと考えている。
 そうすると、今、不動産マーケットにバブルの懸念があるかどうかということだが、足元では、マンションの初月契約率やオフィスの空室率、賃料、こういう各種指標に大きな変化は生じていないので、まだ実需の裏付けがあると思う。したがって、現時点では不動産バブルの状況にはないと思っている。ただ、残高はかなり高水準になって増えてきているので、引き続きマーケットの状況は注視をしていく必要がある。
 なお、当行の状況について少し申しあげると、与信運営に当たって我々は過去、バブルとその崩壊のときに大変貴重な教訓を得たこともあり、モニタリング指標を定めて、不動産市況が過熱モードに入っていないかどうかを常時チェックする体制でリスク管理を行っている。今の段階では大きな異常値が発生している状況ではない。


(問)
 2問お伺いする。一つは、トランプ大統領のところで、現在の金融規制を見直す大統領令に署名をされた。これについて邦銀としてどのように受け止められているか。もう一つ、バーゼル規制など国際的な金融規制にどういう影響を与えると見ているか。
(答)
 これはもう皆さまご存じのことだと思うが、2月3日にトランプ大統領が「米国金融システムの規制に係る基本原則」という大統領令に署名したが、その内容は、七つの基本原則(コア・プリンシプル)を示すとともに、財務長官に対して、その基本原則に照らして現在の規制をどのように評価するかを、120日以内に取りまとめて報告するよう指示するものとなっている。大統領令自身は具体的な見直しには言及していないが、これまでにも申しあげているとおり、ドッド・フランク法の見直しが一つのポイントになると思う。今回示された基本原則は七つあるが、「影響分析を厳格に実施し、経済成長や金融市場の活性化を促進する」という項目が盛り込まれているので、それを踏まえて、過度に厳格な規制が見直される可能性はあると思う。
 我々邦銀としては、米国中間持株会社の設立や、資本・流動性の積み増しを義務づける規定等には見直しの期待もある。しかしながら、トランプ大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」というスローガンに加えて、今回の基本原則にも「外国企業に対する米国企業の競争力の確保」といった項目が盛り込まれている。この項目の趣旨は必ずしも明確ではないが、仮に「外銀に対する米銀の競争力の確保」という意味だとすると、私ども邦銀が期待するような規制の見直しが行われるかについては、慎重に見ておく必要があるかもしれない。むしろ米銀向けの規制が外銀にも適用される、いわゆる域外適用の可能性についても注意していく必要もあると思っている。いずれにしろ、今後の動きをよく見ておく必要があると思う。
 それから、新政権のバーゼル規制に対するスタンスについてだが、これはまだ明らかになっていないが、今回の基本原則には別の項目として、「国際金融規制の交渉・協議において、米国の利益を優先する」と謳われている。したがって、バーゼル委員会の規制見直しの議論にも影響が出るのではないかと懸念している。
 バーゼル規制については先月も申しあげているとおり、一旦は結論が先送りされているが、場合によってはこうした膠着状態が長期化する可能性があるのではないかと懸念している。私の考えとしては、グローバルに競争している金融業界においては、レベル・プレイング・フィールドの確保という観点からも、グローバルなルールとしてのバーゼル規制の枠組みをしっかりと維持し、機能させることが極めて重要と考えているし、我々の経営に当たっても、規制上の不確実性を回避する必要があるとも考えており、バーゼル委員会において、もちろん各国が受入れ可能なバランスのとれた枠組みというかたちで早期に取りまとめられることを期待している。
(問)
 先ほど東芝のところのお答えで、2017年3月末の表面の株主資本が一時的にマイナスになる可能性があると。ただ、実態的な株主資本はプラスが維持されるのでサポートしていくという趣旨だったと思うが、表面的なという意味と実態的なという意味をもう少し詳しく教えていただきたいということと、表面的な株主資本がマイナスになることは容認されるという理解でよいか。
(答)
 個社に関することなので東芝の話はこの辺で打ち切りたいと思うが、表面的な株主資本というのは、まさにバランスシート上の株主資本で、メモリ事業の事業価値と申しあげたのは、メモリ事業は非常に好調な事業で、これ自身が大変な価値を持っているということ。東芝が一定割合を売却しようとしているが、この価値を勘案すれば、実態的には株主資本はプラスだと私は見ている、ということである。


(問)
 銀行の手数料ビジネスについて伺う。天地開闢以来の低金利のなか、預貸収益が儲からないので手数料で頑張ろうとなっているが、同時に預金金利がほとんど付かないなか、お客さまからすれば、銀行サービスから手数料を取られることへの抵抗感がむしろ強まっていると思う。結局、金利が上がらないと手数料ビジネスは儲からないのではないかと思うが、この点についてどう考えるか。
(答)
 預貸金収益が伸び悩んでいるなかで、我々は手数料ビジネスを拡大しようとしている。例えば、決済ビジネスやM&Aのアドバイザリー、あるいは運用商品の販売、承継ビジネス等々、これまでにも増して手数料ビジネスの重要性は高まっており、各行それぞれ工夫をしながら取組みを強化している。私は、お客さまから頂く手数料については、質の高い、魅力ある商品・サービスの提供、あるいは利便性の向上に我々が努めて、しっかりとお客さまのご理解をいただくことが基本だと考えている。当行についても、商品・サービスや利便性の向上に絶えず取り組んでいるわけである。
 少し事例を申しあげると、当行は2016年10月に、「預金残高10万円以上」のお客さまのATM時間外手数料とインターネット取引による本支店宛て振込手数料について、これまで無料としてきたものを見直している。その対象となるお客さまの多くが、私どもの会員制サービス「SMBCポイントパック」の加入要件を満たされていて、ご加入いただければ、引き続き同様の優遇を受けられることになる。我々としては会員制サービスを拡大し、実質的にお客さまにあまり負担をかけないかたちでやっているということである。加えて、VISAブランドのデビットカード、「SMBCデビット」の発行を開始したわけだが、「SMBCデビット」は世界中のVISAの加盟店、そこで利用できる利便性の高いものであるが、全てのお客さまに年会費無料で提供をしている。また、ご利用金額の一部をキャッシュバックさせていただいている。
 我々銀行界、金融界としては、お客さまに利便性の高いサービスをどう提供していくかを常に考えて、それに見合う対価を頂戴する、これが基本的な考え方だと思っている。