2017年4月 3日

小山田会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 4月1日付で三菱東京UFJ銀行の小山田頭取が全銀協会長に選任された。新体制下の会長・副会長はお手元の資料のとおりである。
 また、本日はこのほかに、小山田会長の略歴をお配りしている。

 

会長記者会見の模様


 このたびの理事会において、國部前会長からバトンを受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになった小山田です。これから1年、皆さま方のご支援を賜りながらしっかり取り組んでいきたいと思うので、どうぞよろしくお願いする。
 就任に当たり抱負を申しあげる前に、この場を借りてまず一言、國部前会長にお礼を申しあげたい。振り返ると、昨年度は世界において既存の体制、枠組みを大きく変える動きが相次いで起こった。このような激動の1年において、國部前会長は、銀行界の多岐にわたる課題への対応、例えば、決済高度化に向けた検討、震災復興に向けた継続的な取組みなど、日本経済が持続的な成長に向けて力強く踏み出すため、見事にリーダーシップを発揮された。まさに昨年度は、当初掲げられたわが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年として銀行界を牽引いただいたと思う。そのご尽力に対して心から敬意と感謝の気持ちをあらわしたいと思う。
 さて、改めて、わが国の銀行界を取り巻く環境を、内外の経済、政治、金融システムの視点から見てみると、世界経済は緩やかなペースで成長を続けている一方、更なる成長の重しとなってきた新興国経済の減速、あるいは世界的な貿易停滞からの脱却は途上の状況にある。Brexitや米国トランプ政権の動向ならびに今後大統領選挙などが続く欧州の政治情勢、経済政策や景気減速の傾向が続く中国の状況によっては、グローバルなベースで大きなマネーフローの変化が生じる可能性がある。
 国内では、実質GDP成長率が4四半期連続のプラス成長を実現するなど、日本経済は緩やかな成長の軌道をたどっている一方で、財政に目を転じると、プライマリー・バランスは赤字が続いており、政府には今後、歳出改革等、財政健全化に向けた取組みが期待されるとともに、新たな政策や規制緩和を含めた成長戦略の確実な実行が望まれるという状況があろうかと思う。
 銀行界としては、そうした国の成長戦略への貢献や、さまざまな構造変化への対応などにより、経済の成長を支える役割を一層発揮していかなければならないと考えている。
 足元、内外において不確実性、不透明な要因があるが、我々日本の銀行界は、グローバルな金融危機後も、国際的に見れば、健全性を相対的に維持してきた。このような強さ、適応力は我々の強みと言えるが、この強みを活かし、実体経済を支えるべく、経済のまさに血流としての役割を積極的に果たしていかなければならないと考えている。
 以上申しあげた環境認識を踏まえ、私は本年を、「さまざまな環境変化への対応を着実に実行し、日本の持続的成長の実現に貢献する一年」と位置付け、活動していきたいと考えている。具体的には、これからお話しする三つの柱を掲げ、最大限の貢献を果たしていく。
 第一の柱は、「日本の経済成長戦略への一層の貢献」である。わが国経済はデフレ脱却に向け着実に前進しているが、この流れをより確実なものとし、経済の好循環の発現とその持続的な成長につなげていくことが重要である。そのためには、まず、安定的な資産形成の実現にしっかりと取り組む。すなわち、「貯蓄から資産形成へ」の流れを加速するため、経済成長につながる資金供給拡大に資する取組みを行っていく。例えば、平成30年1月に制度がスタートする積立NISAや既存のNISA等の利用促進に向けた取組みおよび確定拠出年金(iDeCo)の普及に向けた対応等、国民の長期的かつ安定的な資産形成を後押しする取組みを積極的に推進していく。
 また、このような家計の長期安定的な資産形成と経済の持続的成長に資する資金の流れの実現のため、各金融機関は顧客本位の業務運営の確立と定着に努めることが、これまで以上に求められている。銀行界としても、会員各行の取組みが中心となるが、いわゆるフィデューシャリー・デューティー向上のための取組みを急ぐ。加えて、金融仲介機能の向上を通じたお客さまの成長への貢献を果たしていく。質の高い金融仲介機能の発揮は、金融機関の重要な責務である。会員各行が切磋琢磨し、担保・保証に過度に依存することなく、お客さまの事業力、成長性などに着目した融資を推進し、資金供給をしっかり行っていくことが引き続き肝要である。
 私ども金融界は、目利き力の養成・強化を図りつつ、技術力や将来性など、事業性評価にもとづく融資を推進するとともに、外部の支援機関などと適切に連携しながら、お客さまのパートナーとしての価値を共有し、課題解決に向けたコンサルティング機能を更に発揮できるよう、その取組みを推進していく。そして、こうした取組みは、地方創生、地域経済活性化にも資するものと考えている。
 また、企業統治改革に関しては、すでに、私ども金融機関はコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいるが、更なる向上を目指してスチュワードシップ・コードの議論等も踏まえながら、ガバナンス態勢・運営を継続的に見直していく。
 また、震災や自然災害からの復興にも引き続き取り組んでいく。日本経済の持続的成長には、震災復興は不可欠であり、東日本大震災の被災者の方々の復旧・復興を引き続き支援するとともに、熊本地震その他の自然災害の被災者の方々の支援にも取り組んでいく。本日、「自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」を設立したが、引き続きガイドラインの適切な運営を図っていく。
 続いて、第二の柱は、「IT技術の革新も踏まえた、利便性が高く、安心・安全な金融インフラの整備・構築」である。銀行の金融インフラはお客さまの経済活動を支える重要な役割があり、これまでも高い安全性を持ってその機能を担ってきた。最近では、金融とITを融合したFinTechの登場等、IT技術が急速に進展するなか、銀行業、市場を取り巻く環境も大きく変化が続いている。特にこの1年は、お客さまの利便性の向上に向けた制度面での手当てが金融審議会等において議論され、我々金融機関も参画をしてきた。今年度はそうした利便性向上、お客さま目線の業務運営の実現に向けた具体的な取組みを更に進める1年になる。
 例えば、決済高度化に向けた取組みでは、30年度中のXML電文移行のための新システムの開発、またその普及のための関係省庁、産業界の協力を含めたオールジャパンでの取組みを促進するとともに、オープンAPIへの対応、あるいはブロックチェーンを含めた先進的な技術の活用検討など、金融のイノベーションに資する取組みを一つひとつ、着実に実行していく。
 次に、「全銀システム」や「でんさいネット」等の金融インフラの高度化に向けた取組みを進めていく。まず、全銀システムの24時間・365日稼働について、平成30年後半のサービス提供開始に向けた準備を進める。また、でんさいネットの活用促進に向け、記録機関間の接続等、利用者利便等の向上に向けた検討も継続していく。
 同時に、金融インフラの安心・安全確保のため、振り込め詐欺などの被害撲滅、反社会的勢力との関係遮断等、金融犯罪対策への取組みにも引き続き注力していく。そして、長期安定的な資産形成の実現のため、金融経済教育の推進等を通じた金融リテラシーの向上支援、あるいは高齢化への対応を含め、利用者保護の取組みも継続していく。更には、マイナンバーの預金口座への付番対応準備、休眠預金活用に係る周知など、社会インフラとしての機能発揮のための諸課題への対応もしっかりと行っていく。
 最後に、第三の柱が「公正・健全な金融システムの維持・進化」である。金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、お客さまの活動を支えるためには、金融システムの安定が必要不可欠である。わが国の金融システムはこれまでも高い安定性を維持してきたが、更なる進化に向けて適切に対応していく。
 まず、国際金融規制への対応である。最終化段階を迎えたバーゼルIIIの見直しに関しては、国際政治情勢の影響等もあり、今後のスケジュールに不確実性が増す状況にあるが、公正・透明な競争環境と成長実現のため、関係当局と適切に連携し、意見発信を継続していく。
 次に、TIBORについて、一層透明性の高い指標実現のための改革をしっかりと実現し、内外の信認に応える金融システムの枠組み構築を図っていく。
 最後に、先ほど私は、本年を「さまざまな環境変化への対応を着実に実行し、日本の持続的成長の実現に貢献する1年」と申しあげた。銀行はまさに経済の血流を支えることがその役割である。個人、企業にかかわらず、お客さまのライフステージ、成長ステージに常に寄り添い、真摯に向き合い、支える役割を担っている。将来への飛躍、成長が試されるこの重要な局面で、銀行界は日本経済、世界経済への貢献を強く意識し、その成長に向けて最大限の責務を果たしていかなければならない。資金面の仲介に加えて、経済成長の根幹を支える日本の事業力、技術力について世代を超えて、つなぎ、更には拡大を支える役割を果たさねばならないと考えている。不透明で、目まぐるしく状況が変化する時代だからこそ、銀行界は次の成長を育むチャンスと捉え、自らの使命をしっかりと心に刻み、変化の先頭に立って愚直に進んでいくことが必要だと考えている。
 今般、私は全銀協会長という責を引き受けることとなったが、わが国の持続的成長を実現する1年を目指して、関係各位の声に耳を傾け、ご支援とご協力を仰ぎつつ、意思を持って取り組んでいきたいと考えている。この1年どうぞよろしくお願いする。


(問)
 国際情勢と地銀再編についてお聞きしたい。まず、足元のトランプ政権をどう見るか。海外は不安定な状況が続いているが、今年度メガバンクが果たす役割をどう考えるか。
 地銀再編について、今年に入り各地で地銀再編が相次いでいる。今の状況をどう見るか。また、今後メガバンクと地銀の関係はどのように変容していくのか。
(答)
 最初のご質問だが、昨年度の世界情勢を振り返ると、欧米での政治の大きな変動、中東アジアの地政学リスクの高まりなど、激動の1年だったと思う。今年度も引き続きこの不確実性は継続すると思う。銀行のみならず、お取引先にとって、海外の事業運営は更に難しい局面を迎える可能性もあり、緊張感を持って対応する1年になっていくのではないか。特に米国のトランプ政権の動向、あるいは英国のEU離脱に向けての交渉、これは今後よく見ていかないといけない。
 ご質問のトランプ新政権について申しあげると、トランプ大統領は選挙戦から一貫してインフラ投資の拡大、減税等の積極的な財政政策、成長志向の規制緩和など、「強いアメリカ」の実現を主張してきた。現在は、大統領就任後100日の基礎固めの時期だが、これまでの施政方針演説や予算教書概要は、選挙公約におおむね沿ったものと捉えている。現在取り組んでいる積極的な財政政策が実現すれば、もともとアメリカ経済は循環的に強い局面であり、改善の状況に来ているので、更に活性化につながる。そして、このようなことから、最近まで米国の株価、消費者・企業のマインドは改善してきた。ただしその一方で、政策の実現可能性、通商政策、あるいは金融規制の見直しには留意が必要な状況になっている。
 一つ目の政策の実現可能性は、オバマケア代替案の撤回のように、公約として打ち出した政策案の見直しが今後も続くと、先行きの不透明感が強まり、トランプ相場自体が曲がり角を迎える可能性もある。また市場のボラティリティも高まることから、各種政策の遂行状況、実現可能性についてはよく見ていかなければいけない。
 二つ目の通商政策だが、新政権はTPP離脱を表明したほか、自由貿易協定の見直し、国境税に言及している。先週末には、不公正貿易に関する調査と今後の対応を検討することを趣旨とした大統領令が出され、またG20の共同声明においても、反保護主義へのメッセージが盛り込まれなかったこともあり、今後、多角的な自由貿易の推進に影響がでる可能性がある。グローバル経済にとって自由貿易の拡大は極めて大きな意義を持っている。特に天然資源に乏しく、少子高齢化が進む日本にとって、この自由貿易の推進は、持続的な経済成長を実現するうえで不可欠な要素であり、また米国を主要な事業基盤あるいは輸出先とする、更にはメキシコ等へ進出を検討している企業、こういったお取引先の事業展開にも影響をもたらす懸念があることから、トランプ政権の通商政策をよくウォッチしていきたい。
 三つ目の金融規制の見直しだが、2月3日にドッド・フランク法をはじめとする規制の120日以内の見直しに関する大統領令が発出された。緩和の方向にあるとの見方がある一方、米国において外銀である邦銀のオペレーションにどのような影響があるか、よく見ていく必要がある。
 もう一つはBrexitだが、3月29日に英国がEUに対して正式に離脱通告を行っている。これはお取引先あるいは銀行のオペレーションの視点からよく見ていく必要がある。例えば、日系のお客さまにとっては、英国とEUの間で構築したバリューチェーンに対して、仮に新たな関税の賦課、通関手続等が複雑化するといった状況が生ずると、物流の遅延、コストの増加等、事業活動に影響が生じる虞がある。
 トランプ新政権の動向、あるいはBrexitの状況、ならびに欧州大陸で選挙がこれからも続くなど、さまざまな不確実性、不透明性があるなか、我々メガバンクの役割としては、こういう環境であるからこそアンテナの感度を高め、情報をしっかり収集し、分析して、タイムリーにお客さまに提供する機能が一層求められていくと思う。また、お客さまと情報交換をしながら、環境変化が事業に大きな影響を与えるならば、それに対するソリューションを、我々も一緒になって考え、金融面からサポートしていきたいと考える。
 特に足元、中小企業から大企業まで、日本企業は海外に色々なかたちで展開を進めている。こういった展開をしっかりサポートしていくことが我々邦銀の大きな役割なので、引き続き情報提供、付加価値の高いソリューション提供、利便性の高いサービスに向けて対応していきたい。
 以上が、まず海外のトランプ政権の動向をはじめとする状況への対応である。
 2点目の、地域金融機関における足元の状況、再編の動向、あるいはメガバンクとしての今後の関係だが、改めて言うまでもないことだが、地方銀行は地域経済においてまさに中核を担う存在であり、これまでも地方創生への取組みを経営の重要課題と位置付け、豊かな地域社会の創造に向け色々な貢献を果たしてきたと考えている。
 例えば、自律的で持続的な社会の創生を目指すため、全国の自治体が推進する地方版総合戦略の策定にも関与し、計画の達成に向けたサポートを行っている。あるいは地域の観光振興、地域産品等のローカルブランド力の向上、地域の成長産業育成に取り組んでおり、これまでも地域密着型金融の実践に努めてきたと考える。
 ただ足元では、少子高齢化で人口減少が続く、あるいはマイナス金利の影響もあり、マーケット環境は非常に厳しくなってきている。資金収益で見ると、この10年間一貫して低下基調をたどっており、こういった厳しい逆風にどう対応していくかが金融機関には問われると思う。
 各金融機関においては、その地域の持続的成長あるいはお取引先の成長のために、将来性等をよく見る事業性評価、あるいはそれに基づく助言機能・融資といったものに一層取り組んでいるし、付加価値の提供のために努力をしていると思う。
 そうしたなか、規模拡大による効率化、あるいは経営基盤、競争力強化のため、経営統合はそのための一つの大きな手段、選択肢だろうと思う。現在、銀行は、持株会社の機能について共通業務の集約や傘下の銀行間の資金融通が可能になる等、柔軟性が増してきている。規制面、法制面でも見直され、再編の選択肢は増えてきている。こういった枠組みを利用することで統合・提携を進める、あるいは企業価値の向上を成し遂げていくことのできる下地が整ってきていることだと思う。
 複数の銀行において、今年に入ってからも色々なかたちでの経営統合に向けた協議・検討が進められており、それが公表されてきている。これは各行が個別に判断するものであり、全銀協会長としてコメントする立場にはないと思うが、経営統合によって経営体質が強化され、あるいはソリューション機能が強化されることになれば、地域経済、地域のお取引先、地域創生にとっても大きな役割を果たしていくのではないかと思う。決して統合が全てのチョイスではないが、一つの有力な選択肢として具体的な検討も進んでいると思う。
 メガバンクと地域金融機関との関係は、ある意味、同一経済圏ではコンペティターというところもあるが、一方で協働も進めている。さまざまなかたちで役割分担をし、地域経済のために協働することもある。やはり、再編の有無に関わらず、メガバンクと地方銀行はある意味で切磋琢磨しながら共存共栄を図り、地域経済の発展、地方の創生に貢献していくことが大事だろうと思う。そうしたなかで、地域金融機関においても経営努力を今まさに進めているので、そういったものをメガバンクと一緒になって実現していくことも考えていかなければいけないタイミングにあろうと思う。


(問)
 二つお願いしたい。一つはマイナス金利の話だが、去年2月の導入から1年以上経過して、改めてその評価を教えていただきたい。効果、副作用、当然両様あると思うが、金融機関の経営という意味で言えば相当厳しいということもあり、先ほどの経済の発展のために寄与していく機能のための余力という意味で考えても、相当インパクト、負荷がかかっている状況かと思えるが、その点も含めて全銀協会長としてどのように見ておられるのかを一つ目でお願いしたい。
 二つ目はFinTechの話だが、利便性が高まっていくということで、各行ともいろいろ取組みされていると思うが、実際、これまで経営の資源、リソースを割いてきたところがITに置き換わっていくときに、これまでの人の張り付け方を含めて、レガシーへの対応をどのように進めていかれるのか。大胆に変えていかないといけないという現実的な問題もあると思うが、そこも含めてFinTechをどのように進めていかれるのかという2点をお願いしたい。
(答)
 まず、最初のマイナス金利の影響だが、ご指摘のとおり、プラス面、マイナス面、両方あると考えている。プラス面では、企業の調達金利、借入金利が下がってきていること、あるいは社債市場も非常に活性化されて、2016年の発行額が前年に比べて1.6倍ぐらい拡大し、また期間も長くなっているということ等、資金調達のアベイラビリティーが非常に増してきている。また、法人・個人向け貸出も、足元、着実に2%を超える伸びを示してきているということで、金融緩和が色々なかたちでの下支えになっているという効果はあろうかと思う。ただ、貸出のベースとなる設備投資がかなり力強く拡大、回復してきているかというと、まだその効果が本格的に出ている状況には至っていないという感じを受ける。引き続き、金融緩和環境のもと、一定の時間軸のなかでの成長戦略の着実な実行を通じた、民間の自律的な資金需要の拡大を待つ途上段階、と考えている。
 一方で、マイナス面ではイールドカーブのフラット化を受けて保険あるいは年金の利回りが低下してきているとか、あるいは運用商品の伸びが順調に拡大していかないこともある。また、金融機関の資金収益も、ご指摘のとおりかなり厳しい状況、逆風を受けている状況にあろうかと思う。マイナス金利政策については、プラスとマイナスをしっかり見ながらその効果が検証され、状況に応じて適切に見直しも含めながら運営されていくということだろうと思うが、引き続き、金融界としても、デフレ脱却あるいはマイナス金利政策の出口がなるべく早く来るように、成長戦略の実現に向けて対応すべきことは対応していきたいと思う。
 また、金融機関における資金収益のマイナスに対しては、銀行自らがビジネスモデルを変えていく、あるいは金融仲介機能を更に高め、顧客本位の業務を推進していくということで、我々のビジネスモデルをレベルアップしながら、自らが能動的に対応していくことも非常に大切であろうと思う。そうしたなかで、まさに成長戦略と軌を一にするようなかたちで実体経済全体の成長が促されていくことが必要なことだろうと思うし、しっかりと取り組んでいきたいと考えている。
 それから、FinTechの方だが、まさに今、さまざまな分野で取組みが進んでいる。各行とも経営の極めて大事なテーマとして、会員各行、また全銀協レベルでも、例えば、オープンAPIの枠組みの整備、連携ブロックチェーンのためのプラットフォーム構築など、対応を進めている。
 このような環境下、ご指摘のとおり、経営リソースをどう配分するか、どのように対応していくのかというのは重要なポイントである。私ども銀行界はかなり大きなシステムを持っているし、これまで相当のリソースを投入してきた。ただ、今、ICTの進歩とともに、競争環境も大きく変わってきている。異業種からの参入もどんどん増えてきていることから、自らが変わらないと、生き残りは決して容易ではないという強い危機感を持って対応していく必要があると思う。
 そうしたなかで、会員行それぞれが既存のシステムのあり方、あるいは今回のFinTechを含めた新たなICTへの取組みを、経営としてどう判断していくかというのが重要なテーマ事項になろうかと思う。これはリソースの配分もあるし、また、プライオリティーをどう整理していくのか、あるいは既存システムからの移行を極力スムーズに行っていく、移行過程の対応もポイントになってこようかと思う。
 ただ、いずれにせよ、経営の非常に重大なポイントとして引き続き、各金融機関がしっかりと対応していくということだと思うし、また、全銀協としても、プラットフォームに係るさまざまな枠組みを整備することなどで、各行の自助努力をサポートすることもでき、しっかり対応していきたいと考えている。


(問)
 1点目。地域金融機関の統合再編が相次いでいる一方、公取が待ったをかけるケースも出てきた。日本はオーバーバンキングなのかどうかという議論はずっとあるが、そのような論点で見たとき、寡占化が進むことによりお客さまのベネフィットが失われるという指摘もあるが、その辺はどのように考えているか。
 2点目。経産省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会の報告で、企業統治改革のなかで相談役の役割、処遇の明確化を盛り込んだ。報告書では、相談役は相談役としての意義があると記されている一方、弊害についても記されている。長く企業取引の最前線にいた小山田会長は、この指摘についてどう考えているか。また、三菱東京UFJ銀行自身も相談役制度があるが、変える必要があるならどのように変えていくのか、処遇や役割を明確化していくならどのように明確化していくのか、考えを伺いたい。
(答)
 最初のオーバーバンキングの点だが、日本の銀行界の構造として、オーバーバンキングと言われているが、その定義そのものは必ずしも明確ではないと思う。定義としては、銀行数が多過ぎるのではないかとか、預超状態が続いていることを指す場合が多いと思うが、日本の金融界が直面している構造的な問題は、資金需給と低い絶対的金利水準であり、その結果、資金収益が伸びていないといった状況が続いていることだと思う。この状況は欧米と比較するとかなり違っており、金融慣行や金融機関間の競争状況も色々あり、欧米はリスクに見合ったかたちで、プライシングがしっかりできている。一方、日本はそのようなプライシングがなかなか難しい、または、緩和的な金融政策を背景に低金利が継続している状況があると思う。金融機関としては、金融仲介機能の発揮や強化、またはリスクに見合った適正なプライシングに取り組んでいくことで、リスクをとりながら、全体として利鞘をどのように適正なものにしていくかについて、努力をしっかり続けていかなければいけない。但し、早期に改善に至るということはなかなかないとは思っている。
 他方、預保対象の金融機関の数について言えば、日本は600弱である一方、米国は約6,000ある。また、GDPとの規模の比較で言えば、米国のGDPは日本の4倍ということもあり、日本の金融機関の数が多いということでもないと思う。他方、健全な市場を維持していくためには、金融機関間において健全な競争原理が働いているということであるが、ベースとしてはかなり厳しい競争環境に日本はあると思う。現在、再編や統合において、公取も審査の過程にあり、公取の判断次第であるが、ベースとしての競争環境はかなり厳しいということだと思う。それは、単に数の問題というより、日本の金融の一つの構造上の側面が出てきているのかと思う。
 次に相談役についてだが、ご指摘のように研究会においてそのような議論が行われており、上場企業における退任役員の相談役、顧問の就任慣行が、既存事業の改変の妨げになっているのではないかという問題意識も開陳されていると認識している。ただ、実際問題として、上場各社で退任役員が相談役、顧問に就任するケースはあると思うが、実態は多様でなかなか一概に言える状況にはないと思う。退任役員が持つ幅広いネットワークを、お客さまとのリレーションであったり、財界活動や財団等の社会貢献のために活用するといったニーズも存在すると思うし、各会社においては必要性において判断しておられるところもあると思う。一方、ガバナンスそのものは、コーポレートガバナンス・コードも踏まえて、社外取締役を招聘し、取締役会での議論をしっかりと業務運営に反映させることで実効性のある体制を構築してきており、ガバナンスの強化は着実に図られてきていると思う。したがって、そういうなかでの退任役員の相談役、顧問の就任について、引き続きいろいろな会議、例えば政府の未来投資会議等でも今議論が行われているが、その議論をよくフォローしながら、状況を改めて確認していくということだと思う。
 ご指摘のとおり、私ども個別行においても退任役員が相談役や顧問に就任することはあるが、基本的には財界活動や社会貢献のための財団の活動、あるいはお客さまとのリレーションなど、主に対外活動に従事しており、言われているような弊害はないと認識している。


(問)
 今日、日銀が短観を発表したが、これについての所感を伺いたい。業況判断DIの現状評価は大企業・製造業が2期連続改善、大企業・非製造業も6期ぶりの改善となったが、先行きはいずれも悪化しており企業の慎重姿勢がうかがえたと思うが、どのように見ているか。もう一つは、雇用人員判断DIが大企業でマイナス15、中小企業でマイナス28といずれも雇用人員の不足感が25年ぶりの高い水準まで拡大したということである。深刻な人手不足は取引先企業の事業運営や経済成長の妨げになると思うが、どのような方策を考えていくべきか所見をお願いしたい。
(答)
 日銀短観についてのご質問だが、まず日本経済は海外経済の緩やかな持ち直し、あるいは円安を受けた輸出の拡大、企業や家計の所得環境の改善に伴う個人消費と設備投資の底堅い伸びを背景に回復基調をたどっていると思う。実際、今回3月の調査においては、注目度が高い大企業・製造業の業況判断DIの現状評価が前回の昨年12月の調査から2ポイント改善し、中小企業、非製造業の景況観にも改善の動きが見られる等、企業マインドの幅広い改善が示されたと理解している。
 ご指摘にもあったが、先行き3ヶ月の業況判断DIの見通しは業種・企業規模を問わず現状判断からやや後退している。これは不透明な海外の状況等を受けて企業に少し警戒感が出てきているということだと思うが、そうした警戒感を反映したうえでも業況判断DIの水準自体は引き続き底堅いと言えるレベルを確保しているということで、景気の先行きに関する見方が損なわれた訳ではないと思っている。
 設備投資についても、大企業・全産業の今年度の設備投資計画は前年度比プラス0.6%であった。短観の設備投資計画は6月の調査で上方修正される傾向もあるので、3月調査時点では前年比マイナスとなるケースも多いことを踏まえると、前向きな結果と評価できるのではないか。また、今回から公表が始まった研究開発投資額も前年比1.1%と増加が見込まれている。企業の生産設備あるいは雇用に対する過不足感を見ても、全体として不足感が強まっている状況にあり、先行きの設備投資、雇用にとっては前向きな材料であると言える。
 総括すると、今回の短観は、基本的に海外のリスクには警戒しながらも、先行きの景況観や売上には前向きな見方を保っているということがうかがえるものと言えるかと思う。我々金融界としても、短観で示された企業の前向きな姿勢が実現し、一段と強まっていくよう、引き続き金融面からもしっかりと貢献をしていきたいと考えている。
 以上が短観の件であるが、次に人手不足の問題、労働需給、労働力の不足の問題ということについては、確かに足元も完全雇用の状況にあるなかで、生産年齢人口がかなり大きく減ってきている。生産年齢人口は1995年の8,700万人をピークに10年後の2017年には7,000万人を割り込むといった試算もあり、この減少ピッチは主要先進国と比較してもかなり速い状況にある。したがって、こういった労働力不足にどう対応していくのかは極めて大事な課題だと思う。わが国経済、企業にとって働き手の確保が、対応が求められる一層大きな課題になってきている。これに対応するためには、まずは女性、高齢者を含めた就業率を高めていくことが必要である。女性の現役世代、あるいは男女合わせた65歳以上の就業率は近年上昇しているが、これを更に加速させていくことだろうと思う。政府の成長戦略でも示されているが、今後も高齢者の再就職や継続雇用への取組み強化、保育サービスの充実といったかたちで特に子育て世代の女性の就労推進に向けて、官民を通じた取組みが必要になってくるということである。
 また、働き手をいかに確保していくかという課題と同時に、働き手一人一人のアウトプット、労働生産性をどう高めていくかについて、IT、ICTの活用等と併せて生産性の改善に向け対応していかないといけない状況かと思う。また、業務プロセスを見直し、労働集約的なものをどこまで減らしていけるのか、これはICTの活用も当然あるが、付加価値の高い新産業を育成していく、産業構造を変えていくことも大事だろうと思う。
 私ども金融機関においても、人手不足は大きな経営課題と認識しているので、我々自身の対応に加え、お客さまあるいは社会全体の生産性向上に向けた対応にもしっかりと貢献していきたいと考えている。


(問)
 銀行のカードローン残高が最近急増しており、批判的な意見も少し増えてきているかと思う。貸付額は、貸金業者に対しては規制があって、銀行界にはないという状況である。全銀協としては、利便性が相応にあるというお考えだと思うが、利便性とは具体的にどういうところにあるのか。それから、もし本当に年収の3分の1を超える利便性があるとすれば、今度は貸金業者の規制を緩めて同じような競争条件にすべきだという意見もあると思うが、どのようにお考えか教えていただきたい。
(答)
 ご指摘のように、カードローンについては、先月、全銀協として、広告宣伝のあり方や審査プロセスのあり方について、改めてしっかり自己点検し、必要な見直しを行っていくということについて申し合わせを行った。そういうなかで、お客さまにとって過剰な貸出にならないようにするというのが、極めて大事なポイントであろうかと思う。適切な年収証明書の取得であるとか、銀行の取引を含めていろいろな情報を活用しお客さまの収入状況や返済能力を把握するとか、あるいは自行に加えて他行のカードローンや貸金業者の貸付を勘案して、返済能力をしっかり確認すること、また、保証会社との深度あるコミュニケーションにより、代弁率や応諾率の推移を定期的に分析していく、貸付後もお客さまの信用状況の変動を定期的にモニタリングしていく、こういったことをしっかりやっていく必要があろうかと思う。
 そうしたなかで、最初のご質問、ご指摘のところで、年収に対する規制の問題などについては、冒頭申しあげたように、過剰なお借入れにならないように、まずは銀行自らがしっかりと確認、チェックをしていくということだと思う。その実効性をどう引き上げていくのか、これがやはり大事だろうと思う。銀行としての情報収集のあり方であるとか、お客さまとの適切なコミュニケーションを経て、健全な消費者金融市場がきちんと育成されていくように、サステナブルに考えていかなければならない。そういったことを念頭に置きながら、しっかりと考えていく必要があろうと思う。
 そういう意味で、全銀協としても、引き続きこの申し合わせの浸透と、実効性をどう確保していくか、ここはよくフォローしていきたいと思う。
(問)
 3分の1を超える貸付が可能な状況は、やはり必要だとお考えか。
(答)
 一律に、あるいは機械的にというところは、なかなか難しいのではないかと思う。ただ、お客さまにとって、過剰にならないということが大事であり、これまでも借りられているお客さまの返済実績を総合的に見ながらとか、お客さまのこれまでの利便性のあり方とか、こういったこともよく見ていかないといけないと思う。ただ、一方で、お客さま保護という観点から、どこでバランスさせていくのか。実効性があり、お客さまへの過剰な貸付にならない様な運営を、しっかりとした規律をもって各行において進めていくことが必要だと思う。


(問)
 3点伺う。いずれも主に個社の話になるが、1点目は、ゆうちょ銀行が先日、個人向けの融資に本格的に参入し、50万円まで現金を含めて貸し付けをするという話を発表されたが、競合として今話題にも上がったカードローンを長門社長は挙げていた。ただでさえ競争が激しいところにまた大きいコンペティターが加わってくることで民業圧迫なのではないかという議論もあるかと思う。このゆうちょ銀行の新規参入に対する所感を伺いたい。
 2点目は、東芝の決算発表が一部の報道ではまた遅れるのではないかとか、一連のチャプター11やガバナンスの問題が出てきたが、東芝の経営状況の現況に対する三菱東京UFJ銀行の頭取の立場としての考えと今後の支援姿勢について伺いたい。
 3点目は三菱重工業の話だが、東芝とは全然段階が違うが、三菱重工も造船の再編、MRJの多岐にわたるローンチの遅延、原発を抱えている等々、今後決して経営状況は楽ではないのかなと思うが、こちらも現状へのご所感、更には現状支援がどう必要か等の分析について伺う。
(答)
 まず、ゆうちょ銀行だが、今回ご指摘のとおり、新しい業務ということで、口座貸越サービスの導入を発表されたと思う。ゆうちょ銀行の新規業務の参入に当たっては、我々はかねてより将来の完全民営化の道筋をしっかり示すことがポイントであるし、また民間金融機関、特に地域金融機関の業務を圧迫する懸念も踏まえて、公正な競争条件の確保、利用者保護、地域との共存等の観点を総合的に検討して、その可否を判断いただく必要があると申しあげてきた。今回、そのようななかで今後のビジネス展開として、これまでの認可申請を取り下げる一方で、新規業務として口座貸越サービスを認可申請されたということである。今回の新規業務の認可判断については、こういった私どものこれまでの問題意識を踏まえてご判断いただくことが必要かと思うので、よくその状況を見ていきたいと思う。
 他方、ゆうちょ銀行については、地域金融機関との連携で地域経済の活性化を図っていくことも非常に大事なテーマであると認識している。私ども民間金融機関としても、地域創生の実現、お客さまの利便性向上に向けて連携をどう深めていくかということもあろうかと思う。会員各行は個別にATMの連携、投資信託運用会社の共同設立、あるいはゆうちょ銀行における民間金融機関の金融商品の販売とか住宅ローンの媒介、地域ファンドの共同出資等は実施している。これは基本的には各行の個別判断になるが、こういうかたちでゆうちょ銀行と地域金融機関の連携が進んで地域経済が活性化されていくことは必要なことだろうと思う。
 いずれにしても、まさに一緒に連携をしながら、地域金融機関あるいはお客さまのためのサービス向上を図っていく部分と、民営化をしっかり見据えて、道筋を示したうえでの新たな業務展開、その両方の軸があると思うので、我々としてもよくフォローしていきたいと考えている。
 2点目の東芝の件だが、ご指摘のとおり、東芝は、我々とお取引いただいており、社会的にも重要なインフラを担っているほか、福島原発の廃炉・汚染水対応なども担っておられる。ただし、足元の状況がかなり厳しいということだろうと思う。一昨年2月以降の内部統制問題の発生、昨年末の原子力事業の多額の損失の問題、第3四半期の決算公表の再延期、ウエスチングハウスのチャプター11の申請など、乗り越えなければいけない課題が多くあるので、ぜひガバナンスを更に強化されて、早期に的確な対応を進めていただきたいと考えている。特に足元だと、資本と資金両面での対策を目的とした東芝メモリの株式譲渡や、将来の損失リスク遮断を目的としたウエスチングハウスのチャプター11の申請はまさに必要な手だと思うし、その方向で具体的に対応を進められているので、ぜひ早急にこれらをしっかりと仕上げていただきたいと思う。
 必要なことは、信頼回復を図るべく、ステークホルダーにとって納得感が得られる内部統制、ガバナンス態勢が再構築されていくことだと思う。次の4月11日の第3四半期決算の発表も、これまでなかなか決算が締められないという状況のなかで、速やかに対応いただきたいと考えている。さまざまな課題があると思うが、我々も東芝の具体的な対応、アクションをよく見ながら、また東芝自身、主力行といろいろ相談されていると思うので、その状況をしっかり見守りながら対応していきたいと考えている。
 3点目、三菱重工の経営状況についての所感だが、これも個別の話なので具体的には差し控えさせていただきたいと思う。少しだけコメントさせていただくと、三菱重工は航空機のほか、原子炉あるいは火力用発電タービン、船舶と幅広い事業を持っているなか、今まさに事業ポートフォリオで選択と集中を進められていると認識している。特に海外、あるいは長期で大型のプロジェクトも多いなか、しっかりとガバナンスを効かせながら、社長自らもハンズ・オンで見られており、我々としても主力行としてしっかりサポートさせていただきたいと考えている。


(問)
 金融庁の動きに関して2点。一つ目は金融庁の検査・監督改革の方向性について、3月にこの検討を行っていた金融モニタリング有識者会議の報告書がまとめられた。そのなかで、目指すべき方向性として、「形式」・「過去」・「部分」への集中という今までの副作用をとり除き、「実質」・「未来」・「全体」を志向していくことが盛り込まれた。検査・監督を受ける立場の銀行界としてどのように捉えているか。
 もう一点は顧客本位の業務運営について、金融庁が3月に示している原則のなかで、特に業績評価体系など営業担当者に対する適切なインセンティブが謳われている。これまでメガバンクでは預かり資産の残高主義への転換が図られていると思うが、これで対応はもう出来たと捉えているのか、あるいは、営業担当者へのインセンティブでもっと工夫の余地があると考えているのか、お考えを伺いたい。
(答)
 1点目、今回金融モニタリング有識者会議の報告書のなかでとりまとめられた「実質」・「未来」・「全体」へという大きな方向感については、銀行界はまさに、今回の全銀協のテーマにも掲げたとおり、日本の成長や成長戦略にどう貢献していくか、金融機能のしっかりとした発揮が求められている状況にあると思う。また、顧客本位の業務運営もしっかりやっていくという意味で、金融システムの安定性や頑強性をどう維持していくかということと併せて、今後の成長に向けて金融機関としても主体的に取り組んでいくことが求められている状況にある。そうしたなか、このような金融界の状況を踏まえて、今回金融モニタリング有識者会議のなかで「実質」・「未来」・「全体」ということを示されたのは、まさに時宜を得た方向感だし、私どももそれはポジティブに、前向きに受け止めている。我々としても、そういった観点で成長にどう貢献していくのか、金融機能すなわち、仲介機能であったり、資産形成であったり、今求められている役割をしっかり果たしていくことが求められている。それを新しいフレームワークのなかで見ていただくということだが、具体化についての検討は今後進んでいくと思うところ、コミュニケーションを密に、よくフォローさせていただきたい。
 もう一つは、顧客本位の業務運営、フィデューシャリー・デューティーにおいて、営業担当者へのインセンティブ付けをどうしていくのかということだが、色々な取組みを銀行界としてやっているが、基本的には個別行の対応になるので、具体的なコメントは控えたい。当行の例を申しあげると、やはり貯蓄から資産形成へという流れに寄与するために、評価のあり方を大きく見直していく必要があると思う。例えば支店の業績評価において運用商品の販売に商品の偏りが生じないよう、収益目標・販売額目標ともに商品種類ごとではなく、合算で評価できるような工夫をするとか、販売額目標の割合を高めて全体の基盤や業容を着実に拡大していくこと等、いろいろな見直しを行っているところである。
 それから、残高主義への転換だけではなく、従業員がより中長期的な視点に立って、顧客本位の姿勢でお客さまと徹底的に向き合いながら、高度化・多様化するお客さまのニーズに的確・柔軟に対応していくための環境作りが必要だろうと思う。そのためには、今回の顧客本位の業務運営方針、まさにフィデューシャリー・デューティーのなかで、経営方針とその浸透、それから現場へのインセンティブが相俟って、連携しながら実効性を高め、効果が上がっていくことが必要であろうと思う。そういった意味で、私どももその枠組みを整備して、拠点の自律性も高め、お客さまに最も近い現場がお客さまへのサービス向上に向けた取組みを更に積極的に推進できるよう、しっかり対応していきたいと考えている。
 また、フィデューシャリー・デューティー全般への対応としては、フィデューシャリー・デューティー推進委員会を設置し、外部の有識者を招聘して、取組状況のモニタリング、更なるレベルアップに向けての課題を策定したいと考えている。もう間もなく設置する予定であり、しっかりPDCAを回しながら対応していきたいと考えている。


(問)
 国内ベンチャー企業の成長基盤は、海外の先進国と比べてまだまだ弱いと思うが、業界としてどのように支援・融資していくのか。
(答)
 次世代の産業育成は、日本経済の発展・持続的成長のために欠かせない要素であり、ベンチャー企業の支援は銀行界の重要な役割であると思っている。銀行界としては、目利き力を発揮して、企業の事業内容や成長力をしっかり評価しながら、ベンチャー企業の成長のために、金融仲介機能を発揮し、資金支援を行っていくことが求められていると思う。また、ベンチャー企業の持つ高度な技術等に対して、銀行の目利き力だけでは判断が難しい場合には、経験豊かなベンチャーキャピタルや投資家との対話、あるいは経営アドバイスを受ける場を提供することや、大企業とのビジネスマッチング等を通じて本業の支援を行っていくことで、ベンチャー企業が育っていく「エコシステム」の構築にもサポートしていきたいと思う。
 個別行の話になり恐縮だが、私ども三菱東京UFJ銀行としても、例えば「Rise Up Festa」という、新規性、独創性を有する事業に取り組む成長企業へのビジネスサポートプログラムを開催している。また、ベンチャー企業の知財戦略立案に向けた特許事務所との連携、国内外でのビジネスマッチング、ライフサイエンス向けのベンチャー投資ファンド設立等、さまざまな取組みを行っている。いずれにしても、FinTechなどでイノベーションが進むなかで、ベンチャーをどう育成していくかは非常に大事であるし、今後の日本の成長を大きく左右するものであるため、ベンチャーのサポートに向けて、色々なことに取り組みたいと考えている。


(問)
 デットガバナンスについて伺う。企業が不振になると貸手責任がよく出てくる。シャープや東芝など、当初は業績が良く、そのようなときに銀行がいろいろ言うと取引関係を損ないかねないというようなことがあろうなかで、本当にデットガバナンスを利かせられるような力関係に銀行はあるのか。
(答)
 デットガバナンスに対するご質問について、一般論になるが、銀行は、お客さまの財務、業績、将来に向けての事業計画、あるいはマーケット・産業動向、内包するリスクなどを、総合的に判断してお客さまとの取引を深め、資金を供給させていただいている。
 また、与信供与を実施した後は、十分な財務の健全性が確保されているか、事業計画の前提条件が維持されているか等のモニタリングを行っており、こういったお客さまとのコミュニケーション、あるいは具体的なやりとりそのものがガバナンス機能の発揮に結び付いているということはできると思う。
 加えて、有事への対応や再生サポートも銀行のデット保有者としての対応が期待されており、このプロセス等におけるガバナンス機能の発揮も極めて重要であると思う。
 特に事業がグローバル化し、複雑化するなかで、我々として取引先の事業内容をよく見ていくことはこれまで以上に必要であり、グローバルに、業界構造や、優良企業、有力企業の状況をしっかりとベンチマークしながら、何が必要なのか、今後何をしていかなければならないのかといったソリューションを前倒しで示していくということもまた大事なことだろうと思う。
 したがって、銀行としての目利き力や実態把握力、グローバルな競争環境の把握力等を更に磨きあげながら、取引先としっかりコミュニケーションを取り、その過程において、課題の共有やソリューションの提供を行うことで、デットガバナンスを利かせていくことが重要だと思う。また、コーポレートガバナンス・コードをはじめとして、各社がガバナンスを強化し、そしてデットガバナンスとエクイティガバナンスが両輪となって強化される、そういったガバナンスのありようも一つの大きなポイントになってくると思う。このように総合的な対応が求められている状況だと思う。