平成30年12月13日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

 はじめに事務局から1点報告する。9月に次期会長を内定しているが、本日の理事会において来年度の副会長を資料のとおり内定した。次期副会長は、次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続を経て、来年4月1日付で就任の予定である。
 

 

会長記者会見の模様


(問)
 今年も世界経済における保護主義の台頭やシェアハウス融資での地銀の不祥事など、金融に関わるさまざまな出来事があった。2018年もあとわずかだが、今年1年を振り返っての感想と来年の展望をお話しいただきたい。
 2問目はマネロン対策について。来年はFATFの審査も控えている。全銀協は11月にマネロンに関する対策室を設置したが、今後どのように銀行界全体の対策の底上げを図っていくべきかの考えと、対策室設置以外にも具体的な対応があるようであればお願いしたい。
(答)
 まず、政治環境も踏まえた経済面に関して、2018年を総括すると、「適温経済から変温経済への転換の節目」だったという印象を持っている。
 今年は、米国を牽引役として、総じて堅調なグローバル経済の安定した拡大が続くなか、日本経済も緩やかな回復基調を続けてきた。企業収益は製造業・非製造業ともに過去最高水準となるなか、設備投資の拡大や雇用情勢の改善が続いており、それが消費を支えている構造である。加えて、日本企業の約6割が実質無借金ということを考えれば、2000年前後に言われていた雇用・設備・債務の“三つの過剰”が、“三つの不足”にシフトしたことが鮮明になった1年でもあった。夏場に相次いだ自然災害による一時的な下押しはあったものの、回復の基調は途切れていないとみており、経済は今のところ安定した状態を保っている。
 その一方で、不安定さも増している。最大の懸念は、米中貿易摩擦、Brexit、欧米各国におけるポピュリズムの台頭など、「グローバリズムの巻き戻し」とも言える動きである。今回直面している国際協調の後退は、これまでとは異質といえる。単なる通商問題ではなく、新時代の構造的問題が背景にあり、それは、格差や貧困、環境問題、イデオロギーの転換、さらには将来にわたるデジタルテクノロジーの覇権を巡る争いとも言える。その意味では、長期化に注意が必要な状況である。
 テクノロジーについては、期待と現実が交錯し、さまざまな試みがなされる一方、その強靭性が「試される1年」でもあった。デジタル化に向けた取組みが具体化しつつも、世界的にも情報管理や仮想通貨の問題が生じるなど、新たな時代に向けて克服すべき課題が浮き彫りとなった。
 本邦銀行界においては、超高齢社会の到来やキャッシュレス化・情報利活用の本格化など、新たな社会的課題に向き合うに当たり、従来の銀行業のあり方に捉われない取組み、例えば、Fintech企業やプラットフォーマーなど非銀行との連携、ATM相互解放など銀行間でのインフラ共有化、さらには銀行店舗や営業時間のあり方の見直しなどが始まった。いわば、「新たなレジームに向けて構造改革を始動した1年」であったと思う。
 斯かるなかにおける全銀協の活動について申しあげる。
 4月の全銀協会長就任に当たり、本年度を「時代の転換期にあたり、社会的課題の解決に貢献する1年」と位置づけ、お客さまに信頼感と存在感をしっかりと感じていただけるよう、三つの柱を掲げて活動してきた。
 第1の柱、「社会的課題解決への挑戦」では、比較可能な共通KPIの公表による金融機関のサービスの「見える化」や、銀行カードローン問題への対応、さらには個別不祥事案を踏まえた顧客本位の業務運営の徹底を行ってきた。いずれも、自らを顧みる機会にすべき出来事と考えている。
 また、SDGs/ESGに関しては、専門部会の設置やシンポジウムの開催など、持続可能な社会の実現に向けた取組みを積極的に進めてきている。今年は多くの自然災害が発生し、私自身も被災地を訪問したが、銀行界として被災者の方々にしっかり寄り添い、きめ細かな対応を心がけてきた。
 第2の柱、「金融・デジタルインフラの進化」では、あらゆる利用者にとって安心・安全かつ利便性の高い金融プラットフォームの構築に向けて取り組んできた。来年に予定されているFATF第4次対日相互審査に向けては、各行ともマネロン・テロ資金供与防止の態勢高度化を最優先課題のひとつとして進めている。また、10月9日からの全銀システムの24時間365日稼働化や、今月25日に予定している全銀EDIシステム、通称ZEDIの稼働開始など、利便性向上に向けたインフラ面のレベルアップも実現してきた。
 第3の柱では、「健全で強固な金融システムの構築」を目指して取り組んでいる。特に、現在金融審議会で議論されている機能別・横断的な金融規制体系という極めて重要なテーマに関しては、社会的課題の解決に向けた銀行の業務範囲規制の見直し等に関して、積極的に意見発信を行っている。
 次に2019年だが、「不安定の中に安定を模索する1年」になるのではないかと思う。
 冒頭に申しあげたように、通商問題等にみられる政治・地政学リスクや、景気・IT需要サイクルの影響により、「適温経済から変温経済へ転換」しつつあり、2018年に比べ、相対的には不安定な環境になると思う。
 そのなかで、各国政府の景気対策や、民間によるデジタル技術の活用と新たなビジネスの創出、銀行界による金融仲介・情報仲介機能の発揮等によって、安定を模索する1年になるだろう。
 世界経済に関しては、米国は堅調な雇用・所得環境を背景に引き続き景気拡大が続く一方、ユーロ圏やアジアは2018年対比では景気が減速するだろう。
 日本経済については、伸びは鈍化するものの、底堅く推移すると見込んでいる。キーワードになるのは「消費税率の引上げ」と「貿易摩擦の激化」である。10月の消費税率の引上げは日本経済の成長率の下押し要因になるが、現在検討されている増税対策により、その影響は抑えられる可能性がある。また、貿易摩擦の激化については、現時点では日本経済への影響は限定的なものの、不確実性の高まりが企業の投資マインドの下押し材料となる懸念がある。
 銀行界にとっては、「デジタルイノベーションを本格化する1年」になると思う。この波は、銀行経営者にビジネスモデルの変革を問うだけでなく、メンタルモデルの改革、すなわち意識改革を求めるものである。
 未来の金融はこれまでの延長線上にはない。非連続的な発想で、世の中がどう変わり、お客さまのニーズがどう変わるかを、あるべき姿からバックキャステイングで考える必要がある。
 機能面で言えば、「情報仲介機能」が挙げられる。伝統的な金融仲介機能に加え、非伝統的な情報仲介機能が求められる。銀行が、21世紀の石油といわれるデータを活用し、お客さまや社会の課題を如何に解決できるかが問われている。。
 戦略面で言えば、「戦略的協働」がひとつのキーワードになると思う。従来、銀行は自己完結的発想にもとづく戦略が多かったという側面は否定できない。しかし、変化の激しいこの時代に新たな価値を生み出すにはパートナーが必要であり、内なるものと外からのもの、その両方を取り入れる必要がある。
 人材面で言えば、「多様な人材の活用と挑戦の風土作り」が重要である。最近問われている「働き方改革」は必要条件であって、十分条件ではない。十分条件は、業界として魅力ある職場を作ることである。デジタル時代においては、これまで以上に銀行員の挑戦意欲を促し、お客さまや社会への貢献を自らの喜びとする風土作りが大切だと思っている。
 急速に変わりゆく時代にあっても、銀行がお客さま・社会にとっての「課題解決のベストパートナー」となれるよう、我々は変化に対応するだけではなく、自ら変化を創り出す強い意志を持ち、これからも果敢に挑戦していきたい。
 まさに今こそ、「銀行の矜持」を示すべきだと考えている。
 
 2問目であるが、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止は、言うまでもなく国際社会がテロ等の脅威に直面するなかで取り組まねばならない喫緊の課題であり、その重要性はますます高まっている。わが国においても、2019年に予定されているFATF対日第4次相互審査に向け、本年2月には、金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係るガイドライン」が公表されるなど、金融機関における態勢の高度化が求められている。FATFの第4次相互審査では、法制度の「整備状況」だけでなく、法制度の「運用状況」・「有効性」が審査対象となっており、FATFが求める対策が金融機関の現場で講じられているかについても審査が実施される。大手銀行だけではなく、地域金融機関も含む日本の金融システム全体として、管理レベルの底上げに向けた不断の努力が必要である。
 金融機関においてどのような態勢高度化が求められるかについて、少し具体的に申しあげる。例えば、日本国内では現在約8億もの銀行口座があるが、金融機関は、お客さまの属性だけでなく、取引の形態や関係する国・地域、金融機関自身の営業地域の地理的特性などを踏まえ、適切にリスクを把握し、リスクに応じて、お客さまの資産・収入の状況や法人の実質的な支配者などの必要な情報を追加で取得し、さらにそれらを定期的に最新の情報に更新し管理していくことが新たに求められる。また、口座の管理だけでなく、海外送金などの取引1件1件についても、リスクを把握し、適切に対応することが求められる。
 これらに対応していくためには、手続き面の整備だけではなく、データを管理するためのシステム改修や、職員への徹底など、金融機関における従来の態勢を見直す必要がある。一つ一つは地道な取組みとなるが、その積み重ねがマネロン・テロ資金供与防止に繋がる。
 最も重要なのは、まずは各行が金融庁の「ガイドライン」等に則った、実効性ある態勢整備をしっかりと進めていくことである。各行とも、ガイドラインにもとづくギャップ分析と行動計画の策定を行い、経営陣の主体的・積極的な関与のもと、必要な対応を着実かつ迅速に進めていかねばならない。
 なかでも、中小地域金融機関における態勢整備に関しては、業界団体の積極的な支援も必要であると認識しており、全銀協では11月に「AML/CFT対策支援室」を設置した。特に、規模が小さく、取引範囲が限定的な金融機関等においては、十分な情報収集や対応のノウハウ蓄積が難しい側面もある。マネロン・テロ資金供与対策に関する国際的な議論の流れや、すでに対策が進んでいる銀行の具体的な取組みをこの支援室に集約し、銀行間で広く共有することで、具体的な態勢整備の参考にしてもらうなど、各行が単独で取り組むより業界共同で取り組む方が効率的・効果的なものに関し、各行の態勢整備を支援することで、わが国の金融システム全体の底上げを目指していく。
 また、官民の連携も重要であり、「マネロン対応高度化官民連絡会」をこれまでに3回開催した。財務省・金融庁・警察庁など関係省庁からは、FATF審査に向けた最新情報や各省庁の取組状況のタイムリーな共有、民間からは、全銀協・地銀協等の各業態における態勢整備に関する活動状況や課題認識の共有を行っている。わが国のマネロン・テロ資金供与対策の現状や課題について、官民で認識を統一し、緊密に情報・意見交換を行うことも、マネロン・テロ資金供与防止態勢の底上げには重要だと考えている。
 金融庁のガイドラインにもとづく態勢高度化の一環として、金融機関での取引に際した本人確認等がより厳格なものとなる。ご質問から少し外れるが、お客さまに影響があるため、触れさせていただく。
 具体的には、今後、金融機関での取引に際して、これまでの本人確認資料の確認に加え、取引の内容等に応じ、その目的や資産・収入の状況など、書面等により追加で詳しく確認させていただく場合がある。また、口座開設時の一度だけでなく、定期的に本人確認資料をご提示いただいたり、取引目的等を確認させていただくことにもなる。
 開始時期は、金融機関ごとに差があるが、早いところでは来年度前半を予定している。運営開始に当たり、銀行界では、店頭でのチラシ等によるご案内だけでなく、マスメディアを通じた広報も行っていく予定である。国民的な理解を得ることが重要と考えており、政府とも連携して、十分な事前周知を行っていく。
 「厳格なマネロン・テロ資金供与防止対策の態勢構築」と、「お客さまの利便性確保・新しい運営の円滑化」の両立に向けて、銀行が果たすべき責任は大きいと考えており、引き続きしっかりと取り組んでいく。


(問)
 2点あるので1点ずつ質問させていただく。
 まず、1点目がデジタル通貨、デジタルマネーについて。直近で個社の話題になってしまうが、ソフトバンク、ヤフーが共同出資するデジタルマネー、PayPayがキャッシュバックキャンペーンで2割の大幅還元ということで大変話題になっている。また、競合の他社もLINE Pay、各社キャンペーンを実施しているが、そういったなかで来年から本格的にメガバンクはじめ銀行系のデジタルマネーもサービスが開始することになるかと思う。消費者からすると、キャンペーン、目先ではないがお得感とか使いやすさでどうしてもそういうアプリケーションの部分を選ぶ側面が多いかと思っていて、改めて銀行系デジタルマネーの強み、そういったすでにある民間の先行するサービスにどのように伍していくかというのを教えてほしい。
(答)
 キャンペーンなどにより利用者を拡大したうえでビジネスをどのように収益化するかは、個々の企業の戦略判断であり、全銀協としてのコメントは差し控えるが、一般論として、この領域では、データ利活用を含め、既存の収益構造を前提としない戦略が各社から次々と出てくると思う。
 具体的な仕様は事業者により異なるが、いわゆる「デジタルコイン」は、一般的に、スマホアプリ上にデジタルコインとしてお金をチャージし、そのチャージされたコインを使って、QRコード等により加盟店でスマホ決済できる、あるいは従来の送金手段に比べて安価に即時の個人間送金ができるというサービスである。
 このようなサービスにおける銀行としての強みは、やはり、堅確な業務運営あるいは厳格な情報管理等の実績に裏打ちされた「安心感」にあると考えている。実際、全銀協が実施したアンケートによると、「銀行以外の個人間送金サービスを使いたくない」と答えた方のうち3分の2は、その理由として安全性に対する不安、あるいは情報管理に対する不安を挙げている。これは正直なところ想像以上の結果であった。利用者の方々が決済サービスを選ぶ際に、「安心感」は、「お得感」や「使いやすさ」と並んで大切な要素であるということだと思う。
 銀行としてのもうひとつの強みは、「幅広いネットワーク」である。デジタルコインなどの普及のためには、利用者の利便性に加え、加盟店の広がりが不可欠だと考えている。利用可能なお店が増えれば、相乗効果でさらなる利用者増も期待できる。加盟店の獲得においては、銀行が持つ幅広いネットワークも強みになるのではないか。
 なお、サイロ化や乱立の防止に向けたサービス間の相互接続性は重要なポイントのひとつである。利用者がデジタルコインの種類をあまり意識せずに、シームレスに交換できる仕組みとなれば、利便性はさらに高まり普及も加速していくだろう。新しいサービスの魅力を競いつつ、協働すべきところは協働し、そして何よりも利用者の目線に立ったサービスが広がることが重要だと思う。
(問)
 2点目として、景気の話で、本日内閣府が景気拡大の長さでいざなぎ景気を上回って戦後2番目の長さになったと発表があった。間もなく戦後最長のいざなみ超えも見据えているという一方で、かつての好景気と比べると実感も薄いという指摘もあるが、全銀協として改めて景気拡大に対する所見をお願いしたい。
(答)
 今回の景気拡張は2012年11月を谷とするものである。長期にわたる拡張によって企業収益が過去最高を更新しているほか、失業率も極めて低水準になるなど、好ましい状態が続いているということは論を俟たない。
 ただ、先ほど実感の話をされたが、賃金の上昇率についてはまだ低位にとどまっている。また、企業においては人手不足等の課題を抱えており、さらなる生産性の向上に向けた取組みを一段と強化していく必要もあるだろう。
 マクロ経済についてみると、当初計画されていた2020年度のプライマリーバランス黒字化が先送りされたほか、2%の物価上昇を2年で達成するとして始められた大規模な金融緩和も、今なお継続しているという状況である。
 新しい年の経済は海外情勢など不確定要素も多く、国内の努力だけで拡張が持続するものではないと思っているが、今後も長期にわたって景気の拡張が続くよう、官民いずれもが取り組んでいくことが必要と考える。


(問)
 2問伺いたい。1問目は、休眠預金等活用法にもとづく休眠預金が来年1月1日から発生することになるが、預金者が注意すべきことをこの機会に改めて伺いたい。
 2問目は、今、産業革新投資機構が話題になっているので、いわゆる官民ファンドのあり方について伺いたい。官民ファンドの必要性、存在意義について会長はどのようにお考えになっているか、あるいは経営判断の自由度と国の関与のバランスはどうあるべきとお考えか伺いたい。
(答)
 まず、1問目の休眠預金であるが、最後の取引から10年以上経過した預金は、来年1月以降、休眠預金として管理される。休眠預金は銀行から預金保険機構に移管をされた後、国の監督のもと、社会的課題の解決に向けた民間公益活動のために活用されることになる。
 預金者の皆さまにメッセージであるが、休眠預金として移管された場合でも、これまでと同様、お取引のあった銀行に、預金通帳や取引印、本人確認書類等をお持ちいただければ、預金の引き出しは可能である。
 全銀協では、協会ホームページ上に特設ページを開設し、またお客さま配布用のチラシを作成するなど、制度の周知に努めている。また、各銀行でも預金者宛への通知を実施し始めている。
 これを機に、心当たりがある場合には、長い間お取引のない預金がないかご確認いただき、通帳や証書など過去のお取引が確認できるものをご用意のうえ、各銀行にお問い合わせをいただきたい。
 2問目について、まずは官民ファンドの意義について申しあげる。私は、日本のベンチャーエコシステムは海外に比べれば拡大の余地があると考えている。統計によっても数字が若干違うが、概ねのベンチャー投資金額は、米国では7兆円相当、中国では4兆円相当、日本ではおそらく2,000億円台というレベルかと思う。したがって、リスクマネーの供給主体として官民ファンドが果たすべき役割はまだあると思う。
 別の言い方をすると、企業のライフステージに応じて、多様な主体が成長資金等を供給していくためには、銀行の融資のみならず、エクイティやメザニン等についてファンドを通じたリスクテイクが必要になってくる。
 そうしたなか、官民ファンドには、例えば、アーリーステージと言われている初期段階のベンチャー支援、新産業創生、企業再生や事業構造転換など、民間だけでは質的・量的にリスクを取ることが難しい分野あるいは案件に対して、民業補完に配意しつつ、リスクマネーを供給して民間からの投融資を喚起するという、いわゆる呼び水効果が期待されている。
 次に、経営判断の自由度について一般論を申しあげれば、国が大株主として政策実現の観点から何らかの意向を示すことは、当然にして考えられる。オール・オア・ナッシングの議論ではないと思う。一方で、日々の運営においては、株主は執行側に任せるというのが一般的かと思う。
 官民ファンドを運営していくに当たっては、政策目的の達成と収益性のバランスをいかにして取っていくかが常に求められると思う。
 銀行界としては、官民の適切な役割分担のもと、日本経済の持続的な成長につながる適切な資金供給に努めてまいりたい。ベンチャーエコシステムは、新陳代謝を促す。将来の日本経済あるいは新しい産業の育成に不可欠であると思っている。


(問)
 1点目は、先ほど適温経済から変温経済という話があった。先日、清水寺で「災」という字が今年の一文字に選ばれたが、もし会長の方で一文字、腹案があれば教えていただきたい。
 もう1点は日産自動車の件で、個社で恐縮だがみずほ銀行は多分メインバンクだと思う。今回ガバナンスが全然なっていなかったことが非常に問題視されている。指名委員会、報酬委員会もなくて、ゴーンさんが全部自分で決めていたということだが、一義的には日産の問題だと思うが、デットガバナンスというか、お金を貸している側から、特にみずほ銀行はそこら辺は早くから整備されていたと思うが、銀行側から何らかできなかったのか、あるいは、銀行はそこまでいうものではないのか、お考えがあれば教えていただきたい。
(答)
 一文字で表すなら、節目の「節」という字がよいと思う。来年、平成から新しい元号に変わる、そのような時代の転換期に当たり、我々銀行界においても節目の1年であったと思う。
 振り返ると、競争と協調をキーワードに、社会的課題の解決に向けて、金融が非金融と協働を進め「結点」の役割を果たしてきた。また、顧客本位の業務運営、あるいは融資規律にも通じる「度」という意味もある。今年は、多くの自然災害の発生などもあった。環境変化の中で、課題解決に向け、自らを律し、社会的役割と公共的使命を全うすることの重要性を感じた1年であった。
 また海外に目を向けても、貧困や格差、イデオロギーの対立、さらには通商問題など、「分断」が一つのキーワードになっているなか、日本が官民双方でその「結点」として果たすべき役割がある。そうした思いから、「節」としたい。
 「節」といえば、竹を思い起こすが、これから大きく伸びるためにしっかりとした節を作った1年でもあったと思う。数年後に、この1年が、銀行界にとって大きな節目の1年であったと振り返られるよう、今後とも頑張っていきたいし、そうなることを確信している。
 2点目は、個社についてのコメントは差し控え、一般論としてお話しする。以前この場でもお話ししているとおり、銀行のデットガバナンスに求められる機能には、モニタリング機能とアドバイザリー機能の二つがあると思っている。エクイティガバナンスとは異なり、株主総会を通じた機関決定に直接関与できるわけではないが、デットガバナンスにおいては、企業との継続的な対話を通じて、経営環境や業績の状況、日常の運営等の情報を得ながら、常日頃から債権者としてのモニタリング機能を発揮していくことが必要である。もっとも、取締役を派遣していない限り、通常は、実際に取締役会のなかでどのようなことが起きているかについて、直接モニタリングしていく立場にはない。
 一方、より重要性を増してきているのが、取引先の企業価値の向上や課題解決に向けて、経営戦略や事業戦略、資本政策などに関して資金供給や非金融面におけるアドバイザリー機能を提供していくことである。
 個別行の話で恐縮だが、例えば、みずほにおいては自らガバナンス改革などの経験があるため、企業のガバナンス体制のあり方やその構築についてアドバイザリー機能を発揮していくことができると思っており、力を入れていきたい。
 一義的には、企業との中長期的な関係のなかで、一つ一つの事象に対してすぐさま取引縮小や支援中止といった短絡的な反応をするのではなく、企業の課題解決に向けた情報提供や金融・非金融両面でのソリューション提供などを通じて、企業の変革あるいは持続的成長に貢献していきたいと考えている。


(問)
 冒頭、幹事社質問であったFATFの対日審査に絡んで、国内PEPsに対する国としての対応が甘いのではないかと思っている。犯収法のなかに国内PEPsに対する規定がないが、多分国内PEPsに対する厳格な対応を求められていると思う。なかなか難しい取組みだと思うが、これについて会長としてどのように受け止め、お考えになられているのか伺いたい。
(答)
 国内PEPsについては、リスクベース・アプローチを基本的な考え方とするFATFの勧告において、リスクが高い場合に金融機関に外国PEPsと同様の措置を求めるべきとされている。
 犯罪収益移転防止法の改正要否についてコメントする立場にはないが、一般論として申しあげると、対策の必要性の程度の違い等も踏まえて、必要に応じて、政府において検討されるべきものと考えている。


(問)
 2点伺う。1点目がキャッシュレスの話に戻って恐縮だが、消費増税に合わせたキャッシュレスのポイント還元の議論が、政府のほうでされていると思う。中小事業者と大企業で5%とか2%とか複数の案が出るような可能性も取り沙汰されているが、J-Debit、グループのカード会社を含めて、銀行業界としてはどういうふうに対応、見通しを見ているか。
 2点目は、太陽光発電のFITの減額の見直し、この間の経産省で一部猶予するという結論が出た。ここに関して地方銀行も含めて、今後、銀行業界としてどういう影響が出るか、現状と見通しに関して教えてほしい。
(答)
 まず1点目、キャッシュレス化の推進という観点から個人的な見解を申しあげる。報道にあるようなキャッシュレス化に向けた支援策が実現し、わが国のキャッシュレス化推進に大きな弾みがつくのであれば、私は歓迎したいと思っている。
 先般、韓国の金融機関経営者の方々と話す機会があった。キャッシュレス化が大きく進んでいる韓国では、政府による電子決済促進策として、商店側に税制優遇が与えられ、消費者側にも課税所得控除が適用されている。
 近年、日本でもスマホを活用したさまざまなキャッシュレスの決済手段が出てきている。利用者の多様なニーズに応えられる決済手段の拡充がキャッシュレス化推進の一つの鍵だと考えており、ポイント還元策については、できるだけ多くの決済手段が対応できる仕組みになることが望ましい。
 また、シンプルで分かりやすいということも併せて必要な要素だと思う。キャッシュレス決済手段は、一度使っていただければ、その便利さや安心して使えることに気づいていただけるだろう。政府の支援策が、そのきっかけになればと思う。例えばSuicaやPASMOのように、実際に使ってみることによって急速に普及した事例もある。
 一方、ポイント還元策が財政に及ぼす影響、キャッシュレス決済に対応できていない方々への配慮、あるいはシステム対応への準備期間が短いことなど、さまざまな意見があることは承知しており、政府において適切に検討がなされるものと考えている。
 我々銀行界としては、引き続きサービスの利便性を追求し、キャッシュレス化推進をリードしていきたいと思う。
 2点目の太陽光発電の固定価格買取制度、いわゆるFIT制度の見直しについては、再生可能エネルギーの長期安定的な事業運営の確保や国民負担の抑制に向けた対応などを目的として進められているものである。
 10月にパブリックコメントに付された当初案に対しては、全銀協としても一部改善の要望を出した。これは、すでにある程度事業化のめどをつけて真摯に事業が進められている案件に対しても意図せざる影響を与える可能性があるため、改善を求めたものである。
 今般、経済産業省資源エネルギー庁は、パブリックコメントに寄せられた意見等を踏まえ、一定規模以上で開発工事に本格着手済みの案件には今回の措置を適用しないことや、事業規模等に応じて系統連系工事の着工申込期限に猶予期間を設けるという修正を行っている。
 当初、銀行界への影響について一部報道があったことは承知している。今回提示された修正の後、実際にどの程度影響が残ることになるか現時点で確定的なことは申しあげられないものの、これまで銀行界が申しあげてきた意見に配慮していただいたと考えている。
 各行においては、現在影響を精査し対応を検討しているところだが、今回の制度見直しにより影響を受ける事業者に対しては、見直しの趣旨や考え方を踏まえた丁寧な対話を行うなど、事業者に寄り添った対応が重要である。
 いずれにしても、銀行界として、引き続き再生可能エネルギー発電事業のさらなる普及や発展に向け、積極的に支援していきたい。


(問)
 夏前にも質問したことをもう一度お尋ねする。今年度はこれしか質問するつもりはないので、あともう1回ぐらいある。
 先ほどおっしゃった社会的課題の解決に貢献するとか、ESG投資とかというのに関連してくると思うが、確実にこの国は格差が拡大していて、境遇に困っている子ども達が増えている。海外ほどではないが確実に増えている。資本主義社会が発展すればするほど格差は拡大して、そういう子ども達が増えている。そういう問題に銀行界はどう取り組むか。例えば、前回申しあげたのは寄付型の奨学金基金とかの整備ということをお聞きしたが、例えばESG投資であれば、Eは多いけど、この国はSがない。ソーシャルインパクトボンドみたいなものの取組みというのは非常に希薄な国だと思っているが、そういうような取組みが、今年度に入ってから銀行界で少し変化が起きてきたと感じられているか。
(答)
 格差問題に対しては、銀行業界に変化を起こすべく努力している。ご指摘いただいたとおり、日本の格差の現状は厳しくなりつつある。足元、日本の全年齢ベースの相対的貧困率は、OECD26ヵ国の平均よりも高い。この問題から目を背けてはならないというご意見については、私も同感である。
 この問題へのアプローチとしては、原因療法と対症療法の二つが必要だと思っている。まず、原因療法とは、経済全体を後押しすることである。具体的には、経済の血脈たる金融が仲介機能を発揮することで経済を成長させ、所得水準の向上に取り組むことで、貧困問題の改善に資することである。もう一つは、目の前にある課題への対症療法である。貧困のため教育を受けられない人を支援することで、貧困の連鎖を断ち切ることである。具体的には、教育ローンの貸付制度を充実させることや奨学金の制度を導入すること、あるいは金融教育によってリテラシーを上げていくこと等であり、いずれも重要な取組みである。
 奨学金制度については、各行が自主的、自律的にそれぞれ地域の特性や環境に応じてきめ細かく取り組み、銀行界の活動として広がっていくことが重要だ。
 例えば、地域金融機関のなかには、ひとり親または両親のいない高校生の奨学金支援を行っている事例等があり、今後、会員行に慫慂あるいは周知していく予定である。何より、私が付けているこのバッジ、SDGs17項目の最初の項目、1番目のゴールは「貧困をなくそう」であり、しっかり力を入れていきたいと思っている。
 個別行では、「みずほ育英会」という奨学金制度を設置している。もともとは亡くなった社員の遺児の進学支援のために1954年に始まった社員有志の団体であるが、現在は社員以外も対象とする奨学金として運営されている。
 これまで、教育支援は、最も学費がかかる大学生を中心に行ってきたが、6人に1人が相対的貧困というデータもあるなか、支援対象を広げていくべきとの考えもある。
 今年度、全銀協では、会員行が小学生向けに金融経済教育を行う際の教材を作成する予定である。また、従来の学校だけではなく、例えば子ども食堂など生活支援を行うNPO法人等の団体との連携等、活動の裾野拡大も検討している。実際に、全銀協の担当がすでに内閣府の「子どもの貧困対策担当」を訪問し、全銀協が行う金融経済教育プログラムが子どもの生活支援にどのように資するかといった相談も始めている。
 個別行の活動となるが、職員の有志によって「みずほ社会貢献ファンド」を運営し、社会的課題の解決を図るNPOと連携して子ども食堂への支援やシングルマザー応援フェスタ等も開催している。
 いずれにしても冒頭に申しあげたとおり、格差問題の現状を踏まえ、次世代を担う子ども達や若者を支援することを含め、わが国の持続的成長や社会的課題の解決に向けて、銀行界としてもしっかりと貢献して参りたい。


(問)
 先ほど官製ファンドの話が出たが、そもそも日本にはリスクマネーの供給者がいないということをおっしゃったが、でも、これだけ金余りの時代なので、どちらかというと問題は、それぞれの案件がきちんとリスク・リターンを反映した適正価格になっていないからお金が入らないだけであり、普通の資本主義だと、適正価格だと必ず誰かがお金を出すわけである。それからもう一つ、官製ファンドの役割として、呼び水効果があったが、そもそも官製ファンドがつかないと呼び水にならないということは、民間側のファンドの目利き力があるのかということもある。もしくは、公的なお金がついているから安心して入れますというファンドがいたら、それはモラルハザードの点から問題があるということで、私自身は官製ファンドの意味がわからないが、どのようにお考えか。
(答)
 一般論でお答えする。まず、政府の官民ファンドの運営に係るガイドラインによると、さまざまな政策を推進するため、財政健全化や民業補完に配意しつつ、官民ファンドが効果的に活用されることが期待されている。こうした観点で、政府において定期的な検証がなされ、改廃等が行われることになっており、逆に言うと、それだけ難しいということだと思う。
 ただ、日本経済の将来あるいは産業育成のために、官民ファンドも含めたベンチャーエコシステムは非常に重要な役割を果たす。確かに、アーリーステージにあるスタートアップ企業の将来性に対する目利きというのは、かなり高度な部類に入ってくる。専門人材も必要になる。さらには、入口だけではなく、いわゆるバリューアップをどのようにやるかということも考えていかなければならない。
 官民ファンドには、民間が持っていないバリューアップのネットワークがあり、民間とは異なる方策を講じることができるかもしれない。あるいは、官民ファンドがパートナーとして参加し、彼らのネットワークを民間ファンドでも活用できるようにすることで、その相乗効果が広がる可能性もある。
 もちろん、いたずらに不振企業を支援することは、官民ファンドの本来の目的や役割にそぐわないということは言うまでもない。官民ファンドを効果的に活用して大胆な新陳代謝や新たな起業を促し、さらには、これからスタートアップを立ち上げようという若い世代に対して官民ともに後押しをしているというメッセージを発することは、日本の将来のためにも大切なことである。官民挙げて、このエコシステムをしっかり構築し、発展させられるよう頑張っていきたい。