会長記者会見
2018年2月15日
平野会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)
髙木専務理事報告
先週2月6日に、全銀協をかたるフィッシングサイトの存在を確認したため、同日、当協会のウェブサイトに、注意喚起のための記事を掲載し、周知を図った。
本件については、関係官庁・関係機関とも連携し、すでに当該ウェブサイトのテイクダウンなどの対応を実施したところであり、現時点では具体的な被害が生じた等の情報は確認されていないが、引き続き注意を呼び掛けるなど、対応して参りたい。
会長記者会見の模様
(問)
マイナス金利と仮想通貨についてお尋ねする。最初にマイナス金利だが、明日で日銀がこの政策を始めてちょうど2年になる。改めてこの政策の功と罪の部分を会長はどのように評価されているのか教えていただきたい。特に金融機関への影響について、地銀の決算を見ると7割近くが最終減益で、実質業純も赤字になるようなところも出ている。金融機関への影響をどのように分析されているのか改めて教えていただきたい。
併せて、この政策を導入した黒田総裁は4月以降も続投される見通しになっている。所感と期待されることについて教えていただきたい。
(答)
この問題については、これまでも何度かお話ししている。現在のところは日本の金融システムは世界でも最も安定したシステムだと思うが、仮に今のような低金利が長期間続けば、徐々に金融機関の経営体力が消耗し、それが累積的に影響を及ぼし、いずれ社会インフラとしての金融システムに障害が出てくる可能性があるということだろうと思っている。もちろん、金融機関はそういった状況を踏まえて構造改革を行うことで、経営改善の努力を続けていかなければならないということであるが、マクロの影響ということであれば、今申しあげたような影響が出てくる可能性は大きいのではないかと思っている。
ご質問の趣旨から外れるかもしれないが、少しお話しすると、日本経済は8四半期連続でプラス成長を示しており、また、需給ギャップも引き締まってきて、コア消費者物価も12月には前年比+0.9%となり、持続的な物価下落という意味でのデフレ状態からは脱したというところまで来ている。ただし、当初掲げられた2%の物価安定目標には届いていない。
現在の政策自体は、一昨年9月に導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、すなわちイールドカーブ・コントロールによって、実質的には量的緩和というよりは金利コントロールに軸足を移すということで、政策自体も持続可能性は高まっているわけだが、やはり今後は、これまでにも増して、今申しあげたような金融仲介機能に対する副作用であるとか、景気、物価状況を考慮しながら、より柔軟な政策運営を行っていく必要があるのではないかと考えている。
そもそも2%の物価安定目標についても、デジタル化経済の進展など物価を取り巻く構造も大きく変化しているなかで、賃金の上昇、経済、生活コストなど実際の物価動向をきめ細かく分析し、検証していくことも重要ではないかと考えている。
黒田総裁についての再任の報道が一部なされていることは私も承知しているが、総裁人事が固まったわけでもないし、全銀協の会長としてコメントする立場にはない。ただ、どなたが総裁になるとしても、今申しあげたとおり現在の政策が長期化した場合のさまざまな影響にも留意しつつ、一方で、足元、特に欧米で金融緩和の見直しが進められるなかで、わが国においても政策運営の過程で起こり得る混乱を回避するために、政策の予見性を高めるためのフォワードガイダンスを含めた市場との対話をしっかり行っていただくことを期待している。
(問)
もう1点の仮想通貨に関して、仮想通貨交換業者のコインチェックが1月26日に580億円分の仮想通貨NEMを流出させ、非常に大きな問題に発展している。会長もかねてより、この仮想通貨に関しては三つ指摘をされていたと思う。今回の件は、セキュリティの部分でかなり脆弱であったことが露呈した問題であるということと思うが、改めてこの問題をどのように捉えているか。非常に多くの論点が含まれている問題だと思うが、規制のあり方も含めてどのように受け止めているか教えていただきたい。
(答)
今ご指摘があったとおり、これまで私からは、仮想通貨には三つ問題があるのではないかと申しあげてきた。すなわち、信頼性、過度な価値の変動・ボラティリティ、そしてマネー・ローンダリングを含む金融犯罪に悪用されるリスクである。今回は、これも今ご指摘があったとおり、まさに一つ目の制度、あるいはその制度の運用に関する信頼性の問題、とりわけ仮想通貨交換業者におけるセキュリティ対策上の問題が顕在化したケースだと捉えている。実際、運営上の観点から言うと、金融庁から仮想通貨交換業者に関する事務ガイドラインが出ている。ここではマネー・ローンダリング等の法令等順守態勢のほかに、まさに今回問題になったサイバーセキュリティ等のシステムリスク管理態勢、あるいは利用者保護のための分別管理が、監督上の着眼点とされている。この種の新しい取組みにおいては、利用者の保護と、利便性やイノベーションのバランスをどう取るかといったなかなか難しい問題があるが、利用者が広がっていくなか、セキュリティも含む利用者保護のための対策レベルを引き上げていくべき時期に来ているのではないかと見ている。
規制のあり方に関するご質問については、自主規制ルールを作った方がいいのではないか、自主規制団体を形成した方がいいのではないかという話を聞いている。実際、認定資金決済事業者団体の規定自体が資金決済法にすでに定められているわけであり、その意味では現行の登録制度に加えて自主規制ルールの策定、それから、その担い手である自主規制団体の創設は望まれるところではないかと考えている。
(問)
去年、個人の自己破産の伸び率が拡大し、6%増えるという結果になった。銀行カードローンの拡大による影響と今後の見通しについてどういう考えをお持ちか。
(答)
ご指摘のとおり、数字を拾ってみると、先日公表された司法統計によれば、昨年の自己破産件数は前年比6.4%増になっている。もう一つ過去のデータを見てみると、平成12年から15年頃のデータによれば、貸金業の残高の動きと自己破産件数の動きには一定のタイムラグがあり、貸金業の残高が増えて一定の時間が経つと、自己破産が増えるように見える。ただ、連関性についてはなかなか分析が難しいところであり、仮に連関性があり、過去のトレンドが今回も当てはまるのであれば、この場でも何度か話題になっているとおり、銀行カードローンと貸金業を合わせたローンの伸び自体が鈍化しているわけなので、今後自己破産件数が頭打ちになっていくことも考えられ、よく見ていく必要があるのではないかと思っている。いずれにしても、全銀協では、昨年3月の申し合わせ以来、カードローン業務に関するさまざまな新たな取組みを行っている。現在、会員行においては、これまでのアンケート結果や、先月公表した消費者向けの意識調査の結果なども踏まえて、業務運営の見直し・改善に努めているところである。全銀協としては、引き続き多重債務者の発生防止に努め、より健全な消費者金融市場の育成に努めていきたいと考えている。
(問)
退職世代に対する金融サービスについてお伺いする。金融庁において退職世代に対する金融サービスのあり方や高齢投資家の保護策を検討しているが、国民の長寿化に伴い、退職後の資産運用の重要性は増すと考えられるなか、退職世代に対する金融サービスについて、課題と対応策についてどのように考えているか。
(答)
これは非常に重要な問題だと思っている。実際に、今でも各行は、ご高齢者あるいは退職世代のお客さまに対してさまざまな商品・サービスをご提供している。例えば、退職金の運用などの資産運用ニーズに関して言えば、NISAや投資一任契約にもとづくファンドラップ、資産承継のニーズや相続対策に関しては、遺言信託をはじめとした信託商品、それから万一の場合の備えとして生命保険の活用、さらには不動産を活用したリバースモーゲージなどである。今後こういった商品をより多くのお客さまにご利用いただくためには商品性の改善に努めていく必要があると思うが、同時に、二つポイントがあるのではないかと思っている。
一つは、お客さまが利用しやすいチャネルの整備・構築、もう一つが、ご負担の極力少ない事務手続ではないかと思っている。
まず、チャネルに関して言うと、今の支店のあり方はこれから大きく変わっていく。いわゆるRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)やAIの活用により、支店の事務そのものが効率化され、結果として、ご高齢のお客さまや退職世代のお客さまに対するコンサルティング用のスペースを広げられる余地が出てくると思う。それから、別の角度で言えば、なかなか外出できないようなお客さまに対する移動型の店舗であるとか、あるいはテレビ電話を使った新しいタイプのフェィス・トゥ・フェィスのチャネルというものも出てくるのではないか。
次に、事務手続面も大きな障害になることがあり、今申しあげたように、ご高齢のお客さまで、ご来店がそもそも難しいというケースもある。そのような場合には、最近、日本でも活発に導入されているスマートスピーカーとディスプレイの組合せであるとか、生体認証、あるいはマイナンバーカードを利用した本人確認を行うことで、お客さまは自宅にいながらにしてお取引やお手続を完了できるようになる、そういった工夫も可能になるはずである。
加えてもう一点、成年後見制度の利用も大きなテーマであり、この利便性の向上に関しては、私どもだけでは対応できないので、関係省庁や裁判所等との対話も深めていきたいと考えている。
このように、商品・サービス面での充実だけではなく、チャネルや事務手続などを含めたトータルな金融サービスの質的な向上を通じて、シニア世代のお客さまの生活の改善、あるいは、より幸せなシニアライフに向けて貢献をしていく、それが重要ではないかと考えている。
(問)
決済の高度化について考えを聞かせてほしい。銀行を含めキャッシュレス決済あるいはデジタル決済という取組みを進めているが、世界で見ると日本の決済のデジタル化、キャッシュレス化は遅れているという指摘もあり、発展途上国に近いと言われていた中国よりも遅れているのではないかという話もある。また、現金決済による社会的なコスト負担が大きいという話もあるなかで、なかなか進んでいない気もする。テクノロジーの観点から見ると、日本は決して遅れているわけではない一方で、日本人の現金信仰などいろいろあるなか、キャッシュレスを進めなくてはいけないのか、進めるために何が必要か、あるいはなぜ遅れていると考えられるのかといった点について、会長の考えを聞かせてほしい。
(答)
キャッシュレス化に向けた決済のあり方について、まず最初に、決済のシステムから話を始めると、日本はおそらく世界で最も進んだ決済システムを持っている。今現在、全銀協の全銀ネットはリアルタイムでゆうちょ銀行を含め5万以上の店舗を結んでおり、その取引量も極めて多く、かつ小口から超大口まで、極めて広範な決済が日々行われている。この点、全銀ネットは最も先進的なシステムであろう。稼動時間に問題があったが、これも24時間365日動かすということを数年前に決め、今年の10月から実現する。よって、いわゆるバンキングシステムに関して言うと、この24時間365日対応が実現すると、引き続き日本は、おそらく世界のトップ水準を維持し続けるだろうと思っている。
ただ一方で、キャッシュレスであるとか、デジタルテクノロジーを使ったバンキングシステムを超えた決済になってくると様子が違うというのがご質問の趣旨だと思う。これはなぜかというご質問だが、キャッシュに関してはいろいろな説があって、私もどれが正しいのかわからないが、よく言われるのは、まず日本円という貨幣に対する信頼性が非常に高い、つまり偽造貨幣が少ないとか、それから、そもそも盗難や犯罪に対するリスクが日本の場合は比較的少ないので、キャッシュを家で持っていてもなくなることがあまりないなど、いろいろな理由が挙げられると思う。したがって、キャッシュをなくすことはなかなか大変だと引き続き思っている。とりわけ、世代で見ると、若い世代は徐々にキャッシュレスになるだろうが、他方でキャッシュに慣れてこられたシニア世代がキャッシュレスになるだろうか。
ただ、このまま放置していいのかというとそうではない。やはりキャッシュを使っていることの社会的なコストは、極めて大きなものがあると思う。それは単にキャッシュを運搬することに伴うコストだけではなく、キャッシュを発行しているシステム自体の運用コストや、あるいはキャッシュを使った決済に伴って発生するさまざまな労力も大きな社会的コストである。したがって、この現状を、レスキャッシュ、できればキャッシュレスに持っていきたいという考えでいる。
私どもが今具体的に何をやっているかというと、一つは税・公金の効率化、それからもう一つが手形・小切手の電子化である。これらは今申しあげたキャッシュだけではなく、いわゆる決済一般について、より効率的で安全で確実な決済手段を提供していく、あるいは行政のコストや手形・小切手のクリアリング、決済のコストを下げていくというものであり、極めて有効な取組みではないかと考えている。
そして、銀行だけではこれはできないので、全銀協が主体的に動き、昨年12月に行われた決済高度化官民推進会議において、私ども自身が事務局になって関係省庁にお集まりいただいて、税・公金の収納・支払いに関する効率化の勉強会を始めることを報告した。加えて、手形・小切手に関しても、別途、検討会を設け、手形・小切手制度を見直す目標時期の具体化も含めて、年内には最終報告書をまとめていきたいと考えている。全銀協としては、このような努力を重ねて行こうと思っている。さらにもう一つは、FinTechをはじめとするモバイル等を活用した決済を、私ども銀行業界としてもより積極的に進めていく、そのためのインフラづくりを銀行が協力して進めていくということがある。これらの努力が積み重なって、今の日本における決済の姿が変わっていくのではないか、そのように期待している。
(問)
コインチェック問題について、先ほど問題点を幾つか指摘されていたが、仮想通貨そのものに対する信頼性が揺らいでいる。そのようななかで、個社の話ではあるが、MUFGコインなど、銀行が主体となってブロックチェーン技術を活用していこうという動きが出ている。足元、イメージがあまり良くなっていないなか、銀行が仮想通貨について積極的に取組みしていくことの意味について、改めてお話しを伺いたい。
(答)
仮想通貨を含むデジタル通貨の活用については、先ほどのご質問にも絡むが、一つに、レスキャッシュに向けて、より生産性の高い決済の枠組みを作っていこうということがあると思う。それ以外にも、ブロックチェーンの技術を活用した仮想通貨あるいはデジタル通貨には、データの利活用に結び付くような可能性が十分にあることも挙げられると思う。すなわち、今回起こった問題は、先ほども申しあげたとおり、仮想通貨についての三つの課題の一つが顕在化したケースだが、これを解消しつつ、一方で今申しあげたような仮想通貨を含むデジタル通貨が持っている可能性を実現できるような道を、銀行としては考える余地があるのではないかと思っている。
今回の問題はいわゆるパブリック型のブロックチェーンを使った仮想通貨において起こった問題であり、台帳が分散しているので中央管理者はいらず、コストはかからないという点が良さではあるが、一方で一定の脆弱性も内在していると言われている。そのため、そうであるならば、プライベート型として一定の参加者に限られたかたちでのブロックチェーンを基盤とするような仕組みをつくりあげることで、対応できる可能性はあるのではないか。そして、ボラティリティの問題についても何らかの対応ができるのではないか。このように考える余地があるということから、今、さまざまな試みが行われているということだとご理解いただければと思う。
(問)
口座維持手数料について、先月、会長は、理屈としてはあり得ると仰っていたかと思うが、実際に口座維持手数料を導入することを想像すると、なかなか難しいのではないかと思う。現実的に考えると、手数料を自社だけで導入しようとすると、預金の流出という問題がどうしても出てくる。一方で、皆で一斉にやろうとすると、例えば公取委から指摘されることなどを考えると、実際どうやって現実になっていくのか、今、会長がイメージしていることがあれば教えてほしい。
(答)
私の前回の言い方があまり適切でなかったのかもしれないが、口座維持手数料が考えられる、ということを申しあげたわけではなくて、二つのことを別々に申しあげた。一つは、預金口座は、かつては預金をお預かりすることで金利差を収益源、あるいはコストを賄うための利益として、サービスを無料とする、別の言葉で言えば、預金のフロート益を背景としてこれまで維持されてきた制度である、ということを申しあげた。
そしてもう一つ別のことを申しあげたのだが、手数料一般に関しては、銀行に限らず全ての産業、とりわけサービス産業において顕著だが、サービスの価値についてお客さまが評価して、その対価をお支払いいただく、そのかたちの一つが手数料であるということを申しあげた。
この二つを組み合わせると、今ご指摘があったようなケースもあり得るという推測をされるのかもしれないが、あくまでも手数料の問題というのは個別行の問題であって、全銀協としてコメントすることではない。繰り返し申しあげるが、各金融機関がお互いのサービスの良さ、品質の高さなど、お客さまからご覧になったときの価値を高めることで、それに対する対価を頂戴するというのが基本的な考え方だと思う。一部報道で、コストに見合った対価という考え方はおかしいのではないかというご指摘があった。私もそのとおりだと思っている。コストに対する対価ではなくて、価値に対する対価であると改めて申しあげておきたいと思う。
(問)
デジタル通貨について伺いたい。三菱UFJやみずほが開発しているMUFGコインやJコインに関して、利用者が便利なように、インターフェースを共通化することが大事だと認識している。共通化するうえで実際に課題となることや、アリペイなど海外勢が入ってきたときにどこまで共通化すべきかということについて、考えを伺いたい。
(答)
これについても何度か申しあげているが、協会の考えではなく、私個人の考えは、お客さまの利便性を一番に考えれば、さまざまな利用シーンにおいて、極力同じプラットフォームの上で決済が行われるのが望ましいということである。例えば、お客さまとのインターフェースであれば、QRコードをどうするのか、あるいはニア・フィールド・コミュニケーション(NFC)をどのような規格で日本全国で使えるようにするのか。それから次のレイヤーとして、例えば決済のレイヤーにおいて、どういうシステムを使うのか、CAFIS(キャフィス)を使うのか、それ以外のものを使うのか等、幾つかのレイヤーから成るいわゆるインフラ部分は、極力共通化するのが望ましいのではないかと思っている。すなわち、お客さまがショッピングされる店頭で、端末が五つも六つもあるのは好ましくないことだとお考えいただければいいと思う。
一方で、個別具体的なサービスについては、競い合うようなサービスが今申しあげたようなプラットフォームの上に出現するのが好ましいことではないかと思う。むしろそれぞれの事業者が自力で、あるいは他の異業種と提携するようなかたちで新たなサービスを作りあげていく、そのようないろいろな可能性を競い合うことが望ましいと考えている。
海外勢に関しては、一つ気をつけないといけないことは、この問題というのはやはり単純な決済だけではなくて、データと紐つくということである。それが先ほどから私が申しあげている決済の電子化のもう一つの側面である。決済データが購買履歴や行動履歴などと紐つくことによって集積されるデータをどう扱うかという問題に関しては、わが国の消費者は非常に感度が高いと言える。国際的に見ると、アメリカ、ヨーロッパ、日本で少しずつ違うが、おそらくヨーロッパと日本に関して言えば、センシティビティ、つまり感度がかなり高い国であるので、海外勢の決済に関して言えば、そういった点について、利用者の方々が当然関心を持たれるのではないかと考えている。
(問)
民法の改正案について伺いたい。先日、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案が政府から自民党に提示された。この改正で、自立した、就労している18歳、19歳の個人は、親や法定代理人の同意がなくてもローン契約が結べるようになるかと思う。これにより、就労している18歳、19歳の個人にとっては生活実態と銀行取引のずれが解消される一方で、消費者トラブルの増加という問題が出てくることも懸念されると思う。この改正案に対して銀行界として現状でどういう対応をとられるのか、お考えを聞かせて頂きたい。
(答)
個別行の問題であり、一般論として考え方だけ申しあげる。確かに現在、多くの銀行では20歳以上という年齢基準を申込みあるいは取引の一つの条件として商品の設計がなされている場合が多いと思う。それは今ご指摘のあったとおり、民法上、未成年の法律行為は取り消される可能性がある、すなわち契約関係が不安定であるのでそのような条件を設けているということである。この観点だけからすれば、成年年齢の変更、すなわち引下げが実施されれば商品の年齢基準を見直す銀行が出てくるだろう。他方で、今のご指摘にもあったが、比較的若い世代のお客さまとなると、金融取引や金融商品に対する理解、あるいは判断が必ずしも十分ではないこともあり得ると思う。したがって、これは若年層に限ったことではなく、お客さまの知識あるいは理解度に応じた丁寧な商品の説明、ご案内を行い、しっかりと納得していただいたうえでお取引をいただくように努める必要がある。
そしてもう一点は、若年層からの金融リテラシーの向上も重要なテーマである。全銀協では現在も、金融経済教育に取り組んでおり、若者向けアプリの開発なども行っている。こうした金融経済教育にも同時に力を入れていくということが大切ではないかと考えている。
(問)
決済高度化について改めて伺いたい。先ほど、日本は顧客データに対し感度が高いとおっしゃったが、キャッシュレス化に伴う顧客データの利活用という点で、以前も会長は、家庭や企業の金融行動データを利活用することで新たなサービスが可能になるとおっしゃっていた。銀行業界として、家計、企業の金融行動データを活用したビジネスモデルというのをどのように展開していくべきか、どのようなことが想定されているか、ご見識を伺いたい。
(答)
私自身の考えということで申しあげたいと思う。大きく分けると三つだと思う。一つは、まず自社内、自行内における活用、取組みである。以前から言われているとおり、金融業におけるマーケティングの高度化が必要と言われつつ、従来はあまりできていなかったのではないかという反省がある。したがって、今後より細かなお客さまの属性やプロファイルをお伺いし、蓄積し、それらとお客さまの金融行動を結びつけることによって、潜在的なさまざまなニーズを発掘して、これまで以上に的確なマーケティング、ご提案ができるようになるのではないか、これがまず一つあると思う。
それから、RegTechに絡んでくるが、データを活用することによって、例えば金融犯罪や、社内におけるトレーディングルームの活動状況のモニタリングや監視もできるようになり、すなわち、リスク管理、コンプライアンスの面での活用もできると思う。
更に、これはもうすでに始まっているが、審査での活用がある。銀行のコア商品の一つは貸出であるが、審査に関して、従来以上にお客さまの商取引、商流にもとづくより的確な与信ができる可能性がある。そういう意味ではさまざまな社内における活用があると思う。これらが一つ目である。
二つ目が、社内に限らず、先ほども少し話題にしたが、他社、他業種、異業種とのアライアンスを組むことによって、それぞれ違うお客さまの生活シーンが見えてくる。例えば、金融行動、消費行動、物を買う、あるいは交通機関を利用するという行動について、もしお互いに上手に活用することができれば、それはまた新たなデータの活用の余地が広がるということではないか。もちろん、これらの大前提になるのは、それぞれの情報の所有者である個人のお客さまのご承認、ご承諾を得たうえということである。
三つ目は、未来投資戦略2017のなかにも書いてあるが、いわゆる情報銀行というようなものを官民でつくるという構想がある。こうしたものが、もしできてくれば、いわゆるSociety5.0における情報の基盤となる可能性もあり、官民が連携して、ビッグデータ、ないしは最近の言葉だとデータレイクを構築していくことで、公共的なサービス、それから先ほど申しあげたような商取引等のさまざまな分野で活用できる可能性もあるのではないかと思っている。
(問)
積み上がる預金について伺いたい。引き続き企業、個人からの預金が積み上がっている。もちろん、貸出が増えれば両建てで預金がある程度は増えるのはわかるが、預金がそれを上回るペースで伸びている。これだけ低金利が続くと、実物資産を含めたその他の商品の方が相対的に魅力が上がるはずなのに、なぜ日本では金利がほとんどゼロの状態で、預金がこれだけ増え続けているのか。
(答)
難問である。確かに数字で確認すると、資金循環統計で見た家計の預金は、昨年9月末時点で前年比+2.5%と、GDPあるいは所得より大きく伸びている。これは約17年ぶりの高い伸びである。預金の絶対量が増えていることに関して言えば、景気回復に伴って雇用者報酬が増えていること、あるいは高齢化を受けた年金支給額の増加等、一般的に言って家計所得の増加が反映されていることは間違いないと思う。では、それがなぜ預金ではなくて株式や投信といったリスク性の金融資産、あるいは実物資産に回らないのかというのがご質問の趣旨とすると、一言で言うと、個人の皆さまの預金の安全性や流動性を重視するマインドセットがいまだ非常に根強いということではないか。これに対しては、金融庁も推進を図っておられ、私どもも歩調を揃えているところだが、貯蓄から資産形成への流れが進むよう、NISAや、つみたてNISAといった新しい長期安定型の金融商品の普及に一層注力することが必要なことは言うまでもない。ただ、同時に、毎回申しあげていることだが、成長戦略の着実な実行を通じて企業収益が増え、家計の所得がさらに高まることに加え、将来への不安がリスク性資産への選好を阻害している面は疑いがないように思えるので、そのような国民の将来に対する不安を取り除くために、財政の健全化への取組みや、医療費をはじめとする社会保障制度改革への取組みなどが、中長期的に言えば、より意味のある施策なのではないかと考えている。
(問)
米国長期金利が上昇したことをきっかけに株安となった。直近では若干落ち着いているようにも見えるが、現在のマーケットをどのように見ているか。また、外国為替でも株安の際には、それほど変動していなかったものの、直近では円高がじりじりと進んでいるが、このような市場の状況をどのように見ているか。
(答)
株価の問題は本当に評価が難しいし、全銀協としてはコメントしないが、一般論としては、現在の株価下落は、いわゆる相場の転換ではなく、昨年末から一本調子で上昇した株価の調整であると、私自身は見ている。
これは前から申しあげていたが、総論として、米国金融緩和の出口政策にもとづく市場の混乱、とりわけ流動性が低下し、ボラティリティが高まることが、元々懸念されており、市場の動向には留意が必要だということである。
そもそも今回の株価急落の引き金になったのは、雇用統計およびそれに伴う長期金利の上昇であったと考える。元々米国においては、昨年来のトランプ政権の誕生、大幅な減税、財政支出の増大などもあり、インフレに対する懸念が市場参加者の間にかなり高まっていたと思う。
そのようななか、1月の米雇用統計で賃金上昇率が前年比2.9%上昇したことが影響したのではないか。ただし、細かい話だが、この2.9%の賃金上昇に関しては、悪天候などにより労働時間が減少したことで、結果的に単位当たりの賃金が上昇したという分析もあるため、もう少し状況を見ていく方がよいとも思っている。重要なことは、パウエル新議長の下で、フェデラル・リザーブが現況をどのように判断するかが一つの鍵になるのではないかと思っている。
また、今回の株価大幅下落の背景には、米国株のPERが1月末の時点で21倍と、過去平均に比べて高い水準にあったことや、もう一つよく言われるのが、市場の急変自体がVIX指数、株式ボラティリティを上昇させたことで、指数連動のファンドの売りが急増したことがある。これは、かつてなかった新たな要因として注意しておく必要があるだろう。
日本については、日経平均も一時大幅安となった。現在もピークに比べて1割以上安い水準であるが、米国、日本とも実体経済は堅調だと思う。連日の報道のとおり、わが国の企業収益は過去最高を更新し続けている。日本株のPERも直近で、おそらく16倍から17倍の間ぐらいだと思う。米国と比べて割高とは言えないため、冒頭申しあげたように、直近の相場変動は調整であると考えている。
いずれにせよ、世界的な金融緩和が株式をはじめとする様々な資産価値、アセットクラスの価格を押し上げてきたことは間違いないと思う。したがって、米国のみならず欧州における金融緩和政策の正常化の動きに加えて、引き続き政治的なリスク、地政学的なリスクが市場の変調につながらないか、また、それが、さらには実体経済に影響しないかという経路を常に見ておく必要がある。
(問)
今回のコインチェックの問題があったことによって、世の中の仮想通貨に対する認知度はかなり上がったと思う。今回の問題自体は、仮想通貨の問題というよりは一取引所の問題であって、基盤となっている技術であるとか仮想通貨自体には問題がないという意見もあるが、そもそも今回の問題が起きたことで世の中の仮想通貨に対するイメージがどのように変化したと捉えているか。
(答)
もともと仮想通貨は、極めて限られた方々が関心を持って使われるというところから始まり、それが徐々にリテール、流通における決済等に利用されるようになってきたというのが一般的な認識だろうと思う。ただ、その間、例えばフランスでのテロ事件において、テロ資金がビットコインを使って送金されたというような一部の報道にもあるように、さまざまな問題を内包していた。当然、先ほど私が申しあげたように、制度やその運営についての信頼性についても課題はあると思いつつ、それを肌身で感じることはなかったというのが実態ではないかと思う。マウントゴックスの破綻が数年前にあったわけだが、あれから少し時間も経ち、相場が急速に上昇するなかで参加される方も増え、かつ金額も増えた。そういうなかで、今回の出来事というのは、今申しあげたような仮想通貨の取引に関するさまざまな問題を、利用者の方々が改めて認識する機会になったということではないかと思う。
いずれにせよ、新しいものが出てくれば必ず問題が起こり、課題が見えてくる。そのときに、やめてしまうと考えるのか、そうではなくてこれは将来きっと役に立つと考えて、イノベーションをより促進し、課題に対しては的確に対応していくという姿勢を取るのか、そのどちらかだと思うが、個人の見解としては、私は後者ではないかと考えている。そのような意味で、日本の当局は昨年、資金決済法のなかで、登録制度を仮想通貨交換業者に導入することによって、ある意味で先鞭を付けたわけである。今回の出来事は、まだみなし登録中であって、登録が完了していなかった業者で起こったということなども含めて、利用者の皆さまがこれからこういった取引をされる場合に、何を考えなければいけないのかということを認識され、健全な仮想通貨の市場が育成されていくことが、好ましいのではないかと私自身は考えている。
(問)
利用者のなかで仮想通貨に対する信頼が落ちたとは思われないか。
(答)
特に我々銀行の場合は信頼・信用が重要で、私どもがご提供している最大の価値である。その重要性が改めて認識されたということではないか。新しいものを使う、利便性が高い、その反面にある課題について、利用者が自分で考えなければいけないとお感じになるようになったのではないか。私はそう受け止めている。