2018年6月14日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 1問目は米国の利上げについて。米国で2回目の利上げが決定され、年内にあと2回の利上げが見込まれている。米国の金利の上昇は、新興国市場への影響や金融機関の外債運用、外貨調達等、さまざまな影響があると思うが、今後の米国の利上げが経済に与える影響についてどう見ているか、会長の見解をお伺いしたい。
(答)
 今回の利上げについては、個人的にも予想通りで、全く違和感はない。その背景としては、利上げの経済環境が整ったことと、利上げ前の対話が行われていたことが挙げられる。経済環境という面では、成長率が潜在成長率を上回り続けているほか、失業率も4%を割り込んでいるなどファンダメンタルズは堅調である。また、対話という面では、直近のFOMC議事録などを受けて、市場ではほぼ完全に織り込み済みであった。なお、今回のFOMCにはいくつかの論点がある。
 1点目は、FOMCメンバーの今年の政策金利見通しについて、ドットチャートの示唆する利上げ回数が、前回3月時点の年3回から年4回に切り上がったことである。これは、FOMCメンバーが、少なくとも当面の経済について自信を深めつつあることを示唆している。
 2点目は、声明文から、政策金利が「当面は長期的な均衡水準を下回る状況が続く」というフォワード・ガイダンスの文言が削除されたことである。これは、実際の政策金利が短期的な中立水準とされる2%程度にすでに近づいてきていたことを受けてのものであり、事前にある程度予想されていた。
 3点目は、パウエル議長が、来年1月から毎回FOMC後に記者会見を開くと表明したことである。市場との対話をより円滑にしていきたいということと理解しており、前向きに捉えている。
 以上が、今回のFOMCについての受止めである。
 次に、利上げの影響についてである。グローバル経済は、今年に入ってから春先にかけて一服感がみられる局面があった。これは、非常に力強い回復をみせた昨年からの一時的なスピード調整であり、基本的にはしっかりとした回復を続けているトレンドは変わっていないとみている。今後についても、底堅い成長が続くと予想しているが、他方で、そうした回復を妨げかねないようなダウンサイドリスクも少なからずあるとの認識も持っている。そうしたリスクの最たるものが、まさに米国の利上げに伴う影響ではないかと考えている。
 米国では、FRBが政策金利を緩やかに引き上げるなかでも、長期金利の上昇は相対的に抑制されてきた。しかし、今年に入ると、2月初めに公表された1月の雇用統計における賃金上昇率の高まりなどをきっかけに、インフレ懸念が意識され、長期金利が急上昇した。それが世界的な株価の急落など、金融市場の混乱につながったことは記憶に新しい。景気が拡大を続けている状況下での財政拡張政策の発動が、インフレ懸念に加えて国債需給の悪化懸念をも強めることで、長期金利には上昇圧力がかかり、米国の10年国債利回りは足元で3%近傍まで上昇している。
 こうした米国の金利上昇が、ドル高などを通じて、一部の新興国からの資金流出を引き起こし、例えばアルゼンチンやトルコなどでの通貨下落をもたらすなど、悪影響がみられている。新興国のリスクに関しては、十把一絡げにできるものではない。例えば、2013年5月に、当時のバーナンキFRB議長が資産買入れ増加ペースの縮小、すなわちテーパリングを示唆したことを受けて、米国の長期金利が急上昇し、新興国通貨が急落した。いわゆる「テーパー・タントラム」という事象であるが、当時と比較すると、アジアなどの新興国では経常収支や外貨準備などに関する指標が改善している国が多く、通貨安圧力への耐性は高まっている。
 他方で、アルゼンチンのように、経常赤字や対外債務の拡大と不十分な外貨準備など、ファンダメンタルズの弱い国では、通貨が急落し、IMFへの支援要請や大規模な為替介入、政策金利の大幅な引上げ、財政緊縮など、通貨防衛策を総動員する対応を迫られている。今後、インフレ懸念の高まりなどによって米金利に一段と上昇圧力が高まった場合には、さまざまな経路を通じて世界経済に悪影響が広がるリスクがあると思われ、日本経済にとっても例外ではない。
 一部の新興国からの資金流出懸念の高まりや通貨安の動きが新興国全体への不安につながるようなことになれば、グローバルな貿易取引の縮小につながりうる。同時に、これまで低金利を前提に資産市場やクレジット市場に流れ込んでいたマネーの逆流が起これば、資産価格の下落やクレジットスプレッドの急拡大等を背景に、企業や個人のマインドが悪化し、グローバルに景気が冷え込む可能性が懸念される。そうした状況になれば、日本においても、世界経済減速とリスク回避の円高などを背景に輸出が下押しされることになろう。先行き不透明感の高まりは、企業の設備投資や家計の消費の抑制につながっていく。さらには、これまで日本経済の一つの押上げ要因となってきたインバウンド消費への悪影響も出てくるかもしれない。
 今のところ、グローバル経済の回復基調自体はしっかりと続いていると思っており、先月も述べたように、現在のところは、あくまで局所的な部分でモニタリングレベルを上げていく段階だと考えている。但し、これまで申しあげてきたようなリスクが顕在化することになれば、低金利環境の下で株高等を伴った景気拡大、いわゆる「ゴルディロックス」と言われている適温経済の持続性が損なわれかねない。米金利や新興国通貨の動向、さらに金融市場全般の動きを、引き続き注視していきたい。
(問)
 郵政民営化委員会の3年検証のなかで、限度額の引上げや通常貯金の限度額を撤廃する案が検討されているが、この機会に改めて限度額の見直しに対する全銀協の見解を伺いたい。
(答)
 ゆうちょ銀行の預入限度額に対する我々の意見は変わっていない。緩和の議論が行われることに対して強く反対する。
 郵政民営化については、依然として完全民営化への道筋が示されておらず、公正な競争条件が確保されていない。
 日本の金融システム全体への影響や、ゆうちょ銀行にとっての影響をよく考えなければならない。さらには、民間金融機関との連携・協調といった機運が盛り上がっているなかで、水を差しかねないとも考えている。
 この問題を考える際には、金融システムの全体最適の追求に加えて、ゆうちょ銀行の部分最適という二つの観点を十分に踏まえなければならない。
 まず、ゆうちょ銀行自身に与える影響について言えば、日本郵政グループが株式の売り出し等に向けて、グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指すなかで、我々民間金融機関としても環境整備や連携を進めていきたいと考えている。しかし、限度額の緩和がさらなる規模拡大に繋がった場合には、収益圧迫要因となるだけではなく、運用等を多様化させた場合のリスク管理上の懸念、さらには、今後の金利上昇局面における金利リスクの増加などが考えられ、将来的な国民負担の発生にもつながりかねない。こうした面で、預入限度額の緩和は、ゆうちょ銀行自身としての部分最適にならない。
 次に、地域経済に与える影響について言えば、ゆうちょ銀行と民間金融機関は、これまでさまざまな連携・協調を進めてきている。連携・協調の大前提にあるのは、公正な競争条件に配慮した枠組み、すなわち、現行の預入限度額規制である。預入限度額の緩和がなされるということは、こうした動きに水を差すと言わざるを得ない。また、地域金融機関の収益が悪化し、経営が不安定となった場合には、預金シフトという意図せざる結果を招きかねず、仮にそうした事態となれば、両者の協調の枠組みが崩れるだけでなく、地方創生のメインプレーヤーたる地域金融機関を失い、地域経済に無視できない影響を与える可能性も考えなければならない。こうした観点から、やはり全体最適でもないと考える。
 預入限度額の議論に当たっては、さまざまな論点について慎重な議論が必要である。
 郵政民営化委員会による総合的な検証が、郵政民営化の本来の目的や理念に沿ってなされることを切に希望している。


(問)
 株主総会シーズンに入っているのでお伺いしたい。政策保有株を保有する銀行として、議決権行使がどうあるべきかについて伺いたい。ダブルコードの浸透で株主としての責任が増していると思う。そういうなかで銀行の議決権行使はどういうふうに変わってきて、今後どうあるべきなのか伺いたい。関連して、一部の機関投資家の間では、スチュワードシップ・コードの関係もあり、議決権行使結果を開示するところが多数になっている。これは、当然、銀行は開示していないわけだが、適切な議決権行使がなされているかどうかの透明性という意味では開示したほうがいいのではないかと思うが、お考えを伺いたい。
 郵政の限度額の話で全銀協がずっとおっしゃられていることの一つで完全民営化の道筋が示されていないという話があるが、これは株をいつまでに売るという期限を明示せよということなのかと思う。ただ、株の売却は、これは国民の資産ということになるのでやはり高く売りたいということで言うと、なかなかいつまでにということを本当に明示すべきなのかどうか、良いのか悪いのかというと、なかなか難しい問題なのではないかと思う。この点について何を求めているのかを改めて伺いたい。
(答)
 まず1問目にお答えする。政策保有株式に関して、銀行がどのようなスタンスで議決権行使に臨むべきかというご質問だと思う。一言で言えば、「企業価値向上に資する議決権行使ができているかどうか」が重要だと思う。
 今回改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、議決権行使を通じた監視機能に一層の実効性を持たせるため、具体的な基準の策定・開示とその基準に沿った対応が求められている。みずほでは、既に「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で議決権行使基準を開示している。そこでは、発行会社が自らの中長期的な企業価値の増大につながる意思決定を行っているかどうか、また株主たる当社グループの価値向上に資するかどうか、といういわば「共通価値」を一段と高めていけるかという観点で、適切な議決権行使に努めていくこととしている。
 スチュワードシップ・コードの対象となる機関投資家と銀行の対比で申しあげると、まず、機関投資家の場合は、投資家から資金を預かって運用しているという受託者責任の観点から議決権行使結果の個別開示が求められている。実際、みずほでも、みずほ信託銀行においてスチュワードシップ・コードを受け入れて個別に行使結果を開示している。
 一方、銀行の場合、お取引先との関係は株式から融資まで多岐に亘ることから、議決権行使結果の個別開示が発行会社の経営に与える影響が大きい場合もある。加えて、銀行のデットガバナンスにおいては、むしろお取引先との日常の接点のなかでしっかりアドバイザリー機能を果たすという役目もある。
 エクイティによるガバナンスを効かせるために、議決権をどのように行使し、またそれを開示するか否かについては、今申しあげた観点も含めて各行が個別に判断することではないかと思う。
 2問目の完全民営化の道筋についてであるが、ご指摘のようにベストなタイミングで株式の売却が行われることが、復興財源も含めた政府の財源確保に資するという点は十分に理解している。我々が求めているのは、いつまでに何をしてくださいということではなく、民営化の目的と趣旨を踏まえ、その段階に応じて、規制あるいは限度額の緩和が行われるべきだということである。すなわち、日本郵政によって、自らが保有する金融2社の株式の全部処分に向けた具体的な説明が果たされることが不可欠であり、完全民営化に向けた道筋が明らかにされるとともに、その着実な実行が担保されることが前提であるということを、改めて申しあげている。


(問)
 2問お伺いする。1点目は、今日ニュースが流れているが、トヨタ自動車が60人ほどいた相談役と顧問を8人まで減らすということで、奥田さんや渡辺さんといったかつての社長も無役になることが発表されていた。銀行界でも、報酬をもらっている相談役が多い会社もあり、顧問とか相談役の制度について、今後、銀行界としてどうあるべきか、会長の意見を伺いたい。
(答)
 相談役・顧問制度の中身は、その企業の活動内容や社会的な役割期待によってさまざまであり、一律に、良い、悪いということを申しあげるべきではない。
 例えば、相談役・顧問制度が経済団体活動や社会貢献活動などにおいて一定の役割を果たしていることはあると思う。また、そうした役割を執行ラインの通常の意思決定とは一線を画したかたちで果たしながら、制度の運用がなされるのであれば、それは一つのやり方だろう。
 問題があるとすると、その本質は相談役・顧問の役割が投資家など外部から見えなくなることであろう。そういう意味では、各社において、その役割を明らかにし、しっかりと情報発信を行い、説明責任を果たし、理解を得ることが重要ではないか。
(問)
 もう1点は、現在、国会で議論されている高度プロフェッショナル制度について、いわゆる1,075万円以上の報酬を得ている方々で、特にコンサルタント、FP、ディーラーなど金融機関に多いのではないかと思うが、この制度の議論の現状と評価を伺いたい。
(答)
 これは、働き方改革関連法案のなかでも重要なポイントの一つだと思っている。企業によって、業務特性や専門性に応じたさまざまな職種がある。ビジネスを考えていくなかで、自社の実態を踏まえた独自の取組みを開始している企業も増えてきた。働き方改革の趣旨全体を踏まえ、例えばみずほでは、時間外労働について法案で新たに求められている水準よりも短い上限時間の設定や、有期契約社員の活躍促進のためのさまざまな対応等、前倒しで進めている。新しい時代に向けては、多様な働き方が選択できる社会の実現を通じて生産性向上を果たしていく必要があり、働き方改革は避けて通れない。
 その中で、高度プロフェッショナル制度を導入する場合には、批判があるような残業代の削減のみが目的となることがないよう、それを回避するための運用面の方策とセットで検討しなければいけない。これは経営者側に課せられた責務である。


(問)
 二つ伺う。一つは、改正民法が国会で成立して、施行が4年後だが、銀行業界もカードローンの契約等について議論の余地があると思う。業界としての現時点での見解をまずお聞きしたい。
(答)
 今回の民法改正によって、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。メデイアの皆さんからも、さまざま報道をいただいているとおり、変わるところと変わらないところがある。
 ご質問の銀行カードローンについて言えば、新たに成人となる18歳あるいは19歳のお客さまに対してどう提供するかは、あくまでも各行の判断だと思っている。ただし、銀行がカードローンを提供する場合には、全銀協の「銀行による消費者向けの貸付けに係る申し合わせ」のとおり、改正貸金業法の趣旨を踏まえた広告等の実施や、返済能力を慎重に確認するための審査態勢の整備等、顧客保護について十分な配慮が必要である。特に、若年層のお客さまは、一般的に金融商品の取引経験が少なく、また、収入が少ないというケースもある。したがって、例えば、対面での契約説明時や電話による在籍確認時等の場面を使って、契約内容についてより丁寧なご説明を行う、あるいは極度額の上限を設定すること等により過剰な借入とならないように配慮する等の対応を通じ、引き続き健全な消費者金融市場の形成に努めていきたい。また、金融経済教育を通じて、若年層の方々が知識を蓄え、金融リテラシーを上げていけるよう力を尽くす必要がある。
 総括すると、若年層の方々には、特に意を用いて「顧客本位の業務運営」に努めることと、「金融経済教育」等を通じてそうした方々の金融のリテラシーを高めていくよう、我々が業界として取り組むことが、極めて重要だと思っている。
(問)
 もう1点、今日、東京電力の小早川社長が福島県庁で、福島第2原子力発電所を廃炉する方向で検討することを表明した。これは個社というか、みずほ銀行の頭取として伺うが、取引先の一つとして、今回大きな方針が示されたわけだが、受止めをお聞きしたい。
(答)
 報道を通じて承知している。全銀協会長会見の場だが、一言だけ申しあげる。小早川社長がおっしゃった「地元の復興の妨げになる。これ以上、(廃炉の決定を)延ばすべきではない」というコメントは、非常に重い言葉だと受け止めている。廃炉については、これから具体的な検討をするということだが、「福島の復興の責任を果たすことが経営の最大の命題だ」と強調されている。これはひとえに、これまで東京電力の方々が、福島に通い地元の方々の意見にしっかり耳を傾け、尊重したうえで出された結論ではないかと思っている。
 わが国は、これから第5次エネルギー基本計画が確定していくプロセスに入る。3E+Sのバランスが求められるなかで、私どもとしてもしっかり見守っていきたい。


(問)
 ちょっと時期が早いかもしれないが、今年の10、12月というのは、それぞれ長銀と日債銀の経営破綻から20年になる。その前年の拓銀破綻、山一の自主廃業などを含む一連の金融危機について、ご自身の体験も踏まえつつ、当時の振り返りと、その教訓は何だったのかを教えていただきたいのが1点と、併せて、当時、公的資金が多額に注入されたが、今、振り返ってみて、金融業界にとっての意義は何だったのかを教えてほしい。
(答)
 わが国におけるいわゆる金融危機から20年が経過する。その教訓として、「金融は、金融のためであってはならない。経済・社会のための金融でなければならない」という、金融の社会的役割・公共的使命を改めて思い知らされたのだと思っている。
 具体的には、担保・保証ではなく事業性評価にもとづく貸出をしっかりと行うことの重要性や、資本と流動性の両面から十分な備えを持ち、健全性を確保することの必要性など、銀行業の基本に立ち返ることの大切さを思い知った。そして、実需にもとづく金融活動の重要性と、お客さま・お取引先・社会からの信頼のかけがえのなさは、改めて認識すべきものである。これらも含め、強くて頼りがいのある金融機関になることが非常に大事だと思っている。
 バブル期について思い返せば、不動産担保・保証のみに依存せずに、常に事業・資金使途をしっかり見て貸出を行っていただろうか。例えば、不動産の価格に依った結果、ひとたびその価格が下落すると多額の不良債権を抱えることになり、また資本面のバッファー不足も露呈して、大型破綻が起きてしまったということはないか。
 当時、公的資金の注入により支援を受けたことについては、極めて重く受け止めなければならない。「失われた10年、20年」と言われた時期から、足元GDPが20年前の水準にほぼ戻ってきた。我々が果たすべき役割、つまり「必要な金融仲介機能等を果たし、経済の発展に尽くしていく」という使命を肝に銘じる必要がある。当時を振り返ると、銀行がお客さまのベストパートナーになれていなかった、本当にお客さまのことを考えたアドバイスができていなかった、という場面があったのではないかとの反省もある。公的資金による支援をいただいて、我々の将来に対して大きな期待が寄せられた。その社会の期待に応えなければならないというのが、私の強い思いである。
 バブル崩壊後、金融規制の強化や銀行の資本力の回復を経て、現在は「顧客本位の業務運営」が謳われている。我々銀行には不断の努力が必要だ。
 一方、企業セクターを見ると、「三つの過剰」と言われていた雇用・設備・債務の過剰感はほぼ完全に解消されてきている。上場企業の過半数は実質無借金となり、設備投資については足元6四半期連続のプラス、さらには失業率も2.5%近傍にまで改善し、「三つの過剰」が「三つの不足」になるほどまでに好転してきている状況にある。これは、ひとえにお客さま、お取引先の皆さまの努力の賜物だと思う。我々はその流れをしっかり後押ししていく責務がある。
 いずれにしても、この20年を振り返る時、銀行法第1条に書かれている言葉をいま一度胸に刻むべきだと思っている。つまり、銀行業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等を保護する、金融の円滑を図り、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資する。これをしっかりと認識し、前に進んでいきたい。


(問)
 先ほども少し話のあった顧客本位の業務運営に関してお聞きしたい。今年はリーマン・ショックから10年の節目を迎える。金融危機後の円高局面では主に大手行から為替デリバティブの販売を受けた中小企業が多大な損害を被ったかと思う。問題が大きくなった要因の一つには、過度な推進体制であったり、販売時の説明不足があったかと思う。同じようなことは中小企業に限らず個人に対するノックイン投信の販売であったり、最近ではスルガ銀行などのケースも根底の部分では関わってくるかと思う。10年を経て、銀行はどういった教訓を得たと思われるか。また、改善すべき課題があるとすればどのような点だと考えるか、所見をお伺いしたい。
(答)
 リーマン・ショックから10年というお話があった。振り返ると1987年にブラックマンデーがあり、その10年後にアジア通貨危機、さらに10年後にサブプライム問題が発生し、リーマン・ショックが起きた。今年はそれからちょうど10年目にあたるので、周期的には全てのリスクファクターに対してモニタリングレベルを上げるべき時期にきていると言える。昨今は、エマージングリスクという概念も出てきており、新しい複合的なリスクについても目線を上げなければいけない。
 そういうなか、今ご指摘をいただいたような点を踏まえ、真摯に反省、総括をし、お客さまとの関係において、我々が顧客本位の業務運営をどのように考えていくのかは、極めて重い課題である。過去の金融危機を引き起こした背景に何があったかと言えば、私は、金融機関が目先の収益を重視し過ぎていたという一言に尽きると思っている。これは、顧客本位の業務運営とは真逆の考え方であるが、本来はこの顧客本位の業務運営こそ銀行界としての太い柱に据えなければいけない。このことは、過去の教訓を踏まえ、改めて強く認識すべきことだと思う。
 今、貯蓄から資産形成の流れのなかで、例えば、つみたてNISA、iDeCoといった制度の整備が行われている。また、スマホ上での金融商品販売、あるいはAIを使ったロボアドバイザーなどの活用も進み、投資信託等の運用商品ラインナップも拡大している。資産運用の分野で、初心者にとって投資しやすい環境をつくる際、あるいはシニア世代をサポートする際など、さらには資産運用に限らず業務運営全般においても、顧客本位の業務運営を強く認識すべき時期に来ている。
 ブラックマンデー、アジア通貨危機、サブプライム問題を紐解いていくと、短期的な収益志向あるいは過度なリスクテイクというものが共通の背景にあった。リーマン・ショックから10年を経て、金融規制の強化、あるいはガバナンスの強化が図られてきたが、最も大切なことは銀行としての倫理、道徳であると思う。銀行の矜持をしっかり持ってお客さまに尽くす、あるいは顧客本位の業務運営を徹底するということについて、最近では第三者の評価あるいは比較可能なKPIの公表といった動きが出ており、目線も上がってきている。銀行界として、新しい時代に向けて、しっかり地に足の着いたかたちでこれらを進めていきたい。


(問)
 個別行の話で恐縮だが、みずほのシステム統合について3点伺う。
 まず1点目は、先週統合作業がスタートしたが、もう大丈夫だという手応えがあるのかどうか。
 2点目が、新たなシステムは、ほかの2メガに比べてどこかすごいところがあるのかどうか。
 3点目は、4,000億円超という巨額を投じていることだが、Fintechやブロックチェーンのような新しい技術が出てきているなかで、御社のシステムが陳腐化しないかどうか。
(答)
 全銀協会長の会見であり、個別行に関するコメントは本来控えるべきだが、簡単に触れさせていただく。
 大丈夫だと言えるか、という質問をいただいたが、むしろ「何か起きるかもしれない」という緊張感をもってこの1年あまりを過ごしていくことがとても大事なことだと思っている。おかげさまで大過なく第1回目の移行を終えたが、まだ8回残っている。ATMをはじめとしたオンラインサービスの臨時休止などでご不便をおかけすることについてお客さまにはお詫びしなければならないと思っており、また多くの関係者の皆さまからご理解を頂いていることに心から感謝申しあげたい。そうしたことも含め、私どもがしっかり全9回の移行を安全・着実に終えることが、大きな使命だと思っている。安易な気持ちは持っていない。今は何も起きていないが、「何か起きるかもしれない」という心構えで、この課題に対処していきたいと思っている。
 次に、新しいシステムにどのような具体的メリットがあるのかということについて申しあげる。他行との比較はなかなか難しいが、次期勘定系システムの基盤、アプリケーションを構築するに当たっては、処理性能、信頼性、安定性、そしてコスト等を評価したうえで、最適な技術を採用している。また、柔軟性のある設計としていることから、将来的にも技術革新を取り込んだサービス提供が可能なシステムになっている。銀行法改正を踏まえた外部とのAPI接続をはじめ、いろいろなことが起きてくる。そうしたなかで、柔軟性のある設計としていることのメリットは大きい。なお、ストレージ・リソースを必要なときに必要なだけ利用するということなどは、すでに一部のシステムにおいて取組みを実施しており、これらを通じて全体の最適化を図っていきたい。
 いずれにしても、まずは安全・着実にシステムを運用していくことが最大のミッションだと考えている。過去の反省も踏まえ、二度と失敗を起こさないという強い決意の下、次期システムへの移行に向き合っているので、引き続き、皆さまのご協力をお願いしたい。また、皆さまから報道いただき、周知徹底をサポートいただいたことについても、改めて御礼を申しあげたい。


(問)
 手数料について。最近の日銀の調査で、2017年度は振込や両替などの細かい手数料を上げる動きが広がっているという結果が出ている。それも、投資信託や住宅ローンのお取引があるお客さまは優遇して、そうでない人からは対価をいただくというような流れが多いようである。ある種、銀行としては当然の動きであるという一方で、一般の人の銀行離れが起きるのではないかという指摘もある。ここについてどのような見解を持っているかお聞きしたい。
(答)
 手数料の設定自体は、個別行の戦略そのものだと思う。「マーケティングの4P」、すなわち、プロダクト、プライス、プロモーション、プレイス、そのなかのプライシング戦略はマーケティングを構成する重要なパーツである。一概にどうすべきということではないし、今お話があったとおり、例えばそれぞれのお客さまへのセグメント戦略のなかで、柔軟な価格体系を出していくことも戦略の一つと考えられる。
 いずれにしても、お客さまに提供する価値に見合った手数料をいただくというのが基本的な考え方である。この考え方を踏まえ、かつての預貸金利差が十分にあった規制金利時代とは異なり、預貸金が収益源になりにくいなかで、どのように手数料の戦略を打ち出していくのか一層検討を深めることが重要である。
 銀行以外のセクターからも、例えば送金や為替などのサービスを提供する事業者の参入が進んできている。そうしたなかで、我々がどのような戦略を打ち出すのかは、経営上の大きな課題である。お客さまにより便利なサービスを提供し、その価値に見合った手数料をいただく、あるいはより低コストでサービスを提供するという点では、Fintechなどデジタルテクノロジー活用の可能性が大きく開けている。これらについて、各行がしっかり検討すべき時期にきている。


(問)
 前回の会見でも少しあったミドルリスクの貸出先への貸出が増えている点だが、外債の投資や、そこで失敗したり、特に地方銀行のなかでリスクテイクが行き過ぎているのではないか。運用先がないからやむを得ないという見方もあると思うが、そのリスクテイクの行き過ぎという指摘に対しては、どういう見解を持っているか。
(答)
 銀行界においては、多くの銀行が、リスク・アペタイト・フレームワークという枠組みを採用している。これは、自らのリスクの取り方をあらかじめ定め、定期的に検証する枠組みで、リスクを取り過ぎていればそれを制御し、逆に必要以上にリスクを制御していれば適切にリスクを取ることを後押しするものである。
 我々、金融仲介機能を担う者にとって、リスクの取り方が非常に重要なテーマであることは言うまでもない。足元、邦銀の預貸率は7割程度だと思う。貸出の与信管理に加えて、運用サイド、つまり、その他のアセット運営をどう考えていくのかということもひとつの論点となる。
 金融当局との意見交換のなかでもさまざまなテーマが出てきている。例えば、先ほど冒頭にご説明したように外債金利が上昇基調にある場合、あるいは新しく出現するリスクファクターを見据えなければならない局面において、どのようなアセット運営にするのかについては、簡単に結論が出るものではない。ただし、要諦は、外債にしても国債にしても、またはその他のオルタナティブ投資にしても、リスク管理態勢に見合った運用が大原則ということだ。
 その観点から、地域金融機関も、リスク管理のノウハウを取り入れ、人材を育成し、態勢を強化してきている。銀行界として、例えばメガバンクと地域金融機関が情報交換や人材交流をしながら、全体のレベルアップを図っていくことも重要だと思っている。