2018年9月13日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目、本日の理事会において、三井住友銀行の髙島頭取を次期会長に推薦することが了承された。来年の理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日に就任する予定である。
 2点目、これも本日の理事会において、お手元の資料のとおり、10月15日から11月14日までの1か月間を「振り込め詐欺等撲滅強化推進期間」とし、日本歌手協会主催の「歌謡祭・歌謡フェスティバル」等における来場者への啓発活動や、会員銀行および各地の銀行協会において、全銀協作成の配布物を店頭配布することを通じた注意喚起等を行うことを決定した。施策の概要は資料のとおりであるが、内容についてご質問があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

 会見を始める前に、台風21号および平成30年北海道胆振東部地震について一言申しあげる。まずは、お亡くなりになられた方々に心からご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた全ての方々に心からお見舞いを申しあげたい。
 北海道では、早くも氷点下を観測する地点もあり、被災された方々は節電要請への対応等に苦労されている。暖をとることも支障が出るなか、電力の需給逼迫が長期化する懸念もあり、大変心苦しく感じている。何より被災された方々が通常の生活を取り戻すとともに、一日も早く被災地域が復旧・復興を果たすことを祈念している。私ども銀行界としても、被災された方々の状況に応じてきめ細かく、柔軟にかつ迅速な対応をもってしっかりサポートしていきたい。
 なお、私も後日、被災地を訪問する予定にしている。


(問)
 7月30日、31日の日銀の金融政策決定会合で、これまで0%程度に誘導していた長期金利について、上限を0.2%程度まで容認することを表明した。全国銀行協会会長として、今後の銀行経営等にどのような影響を与え得るか、ご所感をお願いしたい。
 もう一点、地銀の統合の関係で、公正取引委員会が8月24日にふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合について、計画を承認すると発表した。統合が認められる貸出シェアの目安や、シェアを下げるために他社への債権譲渡を促すなど、これから統合を考えている金融機関にとってモデルと受け取れる事案になった。金融機関の今後の経営政策等にどのような影響を与え得るか、ご所感があればお願いしたい。
(答)
 金融政策は日銀の専権事項であり、全銀協会長としてコメントする立場にないため、個人的な考えを申しあげる。
 日銀は7月の金融政策決定会合において、政策金利のフォワードガイダンスの導入や、イールドカーブ・コントロールをより柔軟に運営していくことなどを決定した。私としては、「有事の短期戦から平時に向かう持久戦へのシフト」ということではないかと考えている。
 イールドカーブ・コントロールの柔軟化において、長期金利の変動幅は「概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置いている」とされた。上下両方向ということではあるが、市場では上ぶれに対する許容範囲の拡大に反応して、今年度概ね+0.03~0.05%のレンジで推移していた10年債利回りが+0.1%をやや上回る水準に上昇した。
 私どもはかねてより、人々のマインドや金融システムに与える影響など、金融緩和による副作用をためこまないことが重要であると主張してきた。市場における反応も見越したうえで今般の方針決定が周到に行われたということであれば、こうした副作用への一定の配慮が示されたと言っても良いのではないかと受け止めている。もっとも、長期金利の水準は、上昇したとはいえ、なお極めて低いことには違いない。
 一方で、政策金利のフォワードガイダンスは、「2019年10月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利水準を維持する」とされたことから、市場には緩和が長期化するとの見方もある。
 この点に関して申しあげれば、まず、私どもは、極めて低い長短金利水準が想定されるなか、累積的な影響に対するモニタリングレベルを一段と上げていきたい。最近一部の審議委員も、「累積していく政策の副作用については、将来どこかの時点で顕現化してしまうと、その時点ではうまく対処することが難しくなることや、手遅れとなるリスクがある」として、「副作用が累積していく時間軸にも注意しながら政策運営を図っていくことが重要」と述べた点は肝要な指摘だと考えている。
 また、従来から繰り返し申しあげていることだが、マイナス金利政策を含む強力な金融緩和策がこれからも長く続けられた場合、消費者マインドのマイナス効果が大きくなり、将来の成長率を引き下げてしまう懸念はないか、といった観点での検討も重要と考えている。
 さらに、7月の展望レポートでは、物価が上がらない要因の分析とともに、2020年度までの物価見通しが引き下げられ、見通し期間内の物価目標達成が困難との見方が示されたが、米FRBのパウエル議長は先般のジャクソンホールの講演で、金融政策の羅針盤として「インフレはもはや最良の指標ではないかもしれない」と述べられたと聞いている。
 今後の金融政策については、こうしたことも踏まえた運営が行われることを強く期待している。
 2点目については、個別の事案に対するコメントは差し控え、一般論としてお答えする。
 地域金融機関は、地域経済の中核を担う存在として、その持続的発展に向けた「共通価値の創造」に取り組んでいる。営業現場では、日々、切磋琢磨しながら、お客さまに対して、いかに高い付加価値を提供できるか、質の高い金融仲介機能を発揮できるかに尽力している。
 一方で、その経営環境は、長引く金融緩和により貸出金利鞘が圧縮され、また、人口減少により、地域によっては経済が大きくは伸びていかないという厳しい状況にあるところも多い。こうした環境への対応として、統合・再編も一つの選択肢であろう。
 ただし、統合・再編という選択肢は、あくまで手段であって目的ではない。銀行自らの生産性の向上、あるいはお客さまに提供するサービスの充実といった目的を実現するための選択肢の一つにすぎないことを忘れてはならない。
 今回の事例について言えば、例えば、競争の実質的な制限が生じないよう、どのような対応が考えられるかといった点について、公正取引委員会の判断基準が一定程度明確になり、予見可能性が高まったと理解している。
 しかしながら、それぞれの金融機関が置かれている経営環境、とろうとしている統合・再編の形態、あるいは融資のポートフォリオや地域経済の状況といったものは千差万別である。今回の事例がそのまま一律に他の統合・再編のモデルとなるものではないと考えている。
 今や、銀行が経営戦略を検討するに当たっては、競争上のエリアの考え方、あるいは、エリア戦略そのものの再考が求められていると言えるだろう。具体的には、県単位などの行政区域ではなく、経済圏やサプライチェーンでエリアを考えることができる。 あるいは、物理的な距離も踏まえた与信管理の観点で考えることもある。さらには、店舗の設置や行員の配置、遠方に出向く場合のコスト等の観点も織り込みながら判断していくことも考えられる。こうしてエリアの考え方をあらためて規定していくことが、今日の経営戦略を検討していく上での切り口だと思う。
 いずれにせよ、地域経済にとっては、「将来にわたって健全な金融機関が存在」し、地域の企業・住民に対する最適な金融サービスを確保できることが極めて重要である。それぞれの地域金融機関が、お客さまの成長を応援し、地域経済の発展に寄与していくことは、今後ますます重要になる。それぞれの銀行が矜持を持って、地元のために知恵を競いあっていきたい。
 繰り返しになるが、統合・再編は、それを実現する手段の一つに過ぎない。むしろ、地元のお客さまにどのような付加価値を提供し、統合効果を還元し、地域経済の中長期的な発展に貢献できるかが重要であろう。
 なお、6月に公表された「未来投資戦略2018」において、経済社会構造の変化に対応した競争政策のあり方について政府全体として検討を進めるとされている。人口減や少子高齢化等といった時代の変化も踏まえ、活発な議論・検討が進められることを期待したい。


(問) 

 先ほどの質問と関連するが、今後、日銀が金融政策の修正後、出口に向かうというなかにあり、よく市場参加者との対話、コミュニケーションというのが重要だと言われるが、具体的に今後、日銀はどういうふうに対話をしていったらいいか。
 昨今の北海道の地震で金融機関は、店舗の営業やATMの運営に非常に影響が出たということだ。非常用電源、電源の確保といった震災対応という意味で、銀行のBCP対応、今後強化していくべき点があれば教えていただきたい。
(答)
 最初のご質問は、日銀による対話についてのお尋ねだと思う。この点に関しては、黒田総裁も相当に意を用いておられ、積極的に金融機関や市場関係者との対話やコミュニケーションを進めてきていただいている。
 こうした市場参加者との対話やコミュニケーションについて考えるうえで、三つのキーワードがある。それは、「開示」、実質的な「対話」、そしてメッセージの「一貫性」である。 
 「開示」については、例えば2016年以降、金融政策決定会合における議事内容について早期(原則6営業日後)に開示することを目的に、「主な意見」というかたちで公表がなされている。
 「対話」については、現在、債券市場参加者との間で定期的にサーベイや意見交換会を実施するなど、市場参加者との対話を強化する取組みを進めてきていると認識している。また、本年4月に物価目標達成時期の記載を削除した際にも、市場とのコミュニケーションを改善するためという説明があった。こうしたメッセージを前向きに評価したい。引き続きクリアなかたちで市場参加者に伝わるよう注力いただきたいと思っている。
 また、最後の「一貫性」については、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という理念に照らして、一貫した政策運営がなされていることを市場にしっかりと示し、理解されることが、将来的な出口政策を展望するうえでも非常に重要なことだと考えている。
 二つ目は、BCPである。冒頭に申しあげたが、改めて北海道の地震により被害を受けられた皆さまに心よりお見舞いを申しあげる。私も北海道生まれであり、北海道の厳しい気候は身に染みてよくわかる。
 自然災害に見舞われることが多いわが国においては、緊急事態への備えは重要な課題である。とりわけ今年に入ってからは、西日本の豪雨や台風、さらには今回の地震という、非常に大きな自然災害が多々発生しており、こうした事態にいかに備えていくかが重要なテーマだと思っている。
 我々銀行は国民生活や経済活動への影響が特に大きい決済インフラを担っていることから、ATMも含めた業務継続計画、いわゆるBCPの策定とそのレベルアップのための継続的な取組みは欠かすことのできないものである。全銀協としては、業界横断の訓練の実施や会員銀行向けのガイドライン策定などを通じ、対応能力の向上に努めているところである。
 今回の北海道胆振東部地震では、「道内全域」という、想定を超えた広範囲の停電により、各所で営業店舗やATMの稼動が困難になるなど、被災者をはじめとする利用者の皆さまに大変ご不便をおかけしてしまったと感じている。
 災害対策における運用の不断の見直しは極めて重要である。具体的には、ATMも含めた店舗施設への自家発電機の設置や、優先的に業務を行う店舗を予め選定し、そこに業務継続への対策を集中的に実施するなど、備えが重要である。
 なお、今回の地震において、全銀協では、道内の各金融機関の店舗営業・ATM稼動状況を取りまとめてウェブサイトでご案内をしてきたほか、個別の金融機関では、通帳やご印鑑を紛失されたお客さまにも柔軟に支払いに対応するなど、迅速な対応を行っているところである。
 引き続き、皆さまにしっかりと寄り添って支援して参りたい。


(問)
 2点伺いたい。まず1点目、経団連で就活ルールの見直しについての言及があった。銀行業界としてはどう受け止めて、どう対応されるか伺いたい。
 2点目、高齢者の金融資産について伺いたい。金融資産は高齢者にかなり現状でも偏っている。今後認知症の患者が増えていくことが想定されるが、全銀協でも対応を検討されていると思う。銀行業界として、資産の活用という観点で、今後どういうふうに高齢者の資産、認知症患者の人と向き合っていくか。
(答)
 個人的見解だが、これからの時代に相応しい就職活動のあり方、企業の採用方法を議論することは、時宜を得たものだと思う。その際、大企業のみならず、中堅中小企業や地域企業、そして何よりもこれからの日本の成長を担う学生に配慮したものであることが重要である。今後、政府・大学・経済界にて行われる議論に期待したい。
 現在の「採用選考に関する指針」は、2013年に閣議決定された日本再興戦略において、日本の成長戦略の実現には若者の人材育成強化が重要であり、そのためには、学生の学習時間の確保や留学等の促進が必要との考えの下で制定されたものと認識している。指針の持つ基本的な考え方は尊重されるべきであると思う。
 一方で、経済のグローバル化がさらに進み、働き方の多様化も進むなか、指針を策定した当時から状況も変化している。新卒一括採用に加えて、通年採用に力を入れる企業も増えている。改めて今の時代に相応しい新卒採用のあり方の議論がなされることは、大切なことだろう。
 学生も、将来を見据えながら目的意識を持って学生時代を過ごすことが大切だ。教育界におかれても、均質的な人材を育てるのではなく、学生の個性を伸ばし、自ら変革を生み出せる素地を備えた人材を育てていただきたい。
 企業としては、就業機会の多様化、インターンシップなどの入社前情報公開の充実、高度職業教育の充実、外国人材の活用を進める必要がある。そして何より重要なことは、学生が「働きたい」と思う環境を用意することに加え、自社の事業戦略や学生に求めるもの等をしっかりと伝えていくことである。なお、就職活動のあり方について議論がなされたうえで出た結果については、企業としてもその考え方に従い、採用活動を行うべきものだと考える。
 いずれにしても、企業にとって最大の資産は人材である。人口減少下における日本の成長を実現するうえで、あらゆる人材の活躍が不可欠であり、とりわけ若者の活躍は成長の原動力である。就職後のあり方については「働き方改革」で議論が深まっているところであるが、就職前のあり方についても、今後関係者間での活発な議論を期待したい。
 2点目、高齢化社会のなかでの資産運用についてである。これから「人生100年時代」を迎え、高齢者への金融資産偏在も進んできた。そうしたなかで、我々が果たすべき役割は何なのか、という問いかけだと思っている。わが国における平均寿命は、今や女性で87歳、男性で81歳となっており、世界に先駆けてこの「人生100年時代」に突入しようとしていることは、非常に重要な論点・課題であると考えている。
 この超長寿社会を迎えるに当たって、銀行が果たすべき役割を三つの観点から申しあげる。
 まず一つは、充実したシニアライフに向けた全世代へのサポートである。老後のゆとりある生活のためには年間419万円が必要という試算もあり、現役世代からの資産形成や、退職世代の資産運用・管理ニーズが高まっている。例えば、投資経験の浅い若年層向けには、つみたてNISAなどの長期・積立・分散の資産形成、また高齢者の方々には、退職金などの運用や不動産を活用したリバースモーゲージによる資金提供などの提案に努めている。ご質問の観点からすると、高齢者の資産管理のためには、成年後見制度の利用も選択肢であり、この制度のさらなる活用について関係省庁とも議論してきたところである。
 二つめは、承継ニーズへの対応である。資産を次世代に残すということへの対応も重要であり、教育資金の生前贈与や相続対策、あるいは個人の資産承継などに取り組んでいる。また、事業承継税制の活用やM&A、転廃業サポートなどの法人の事業承継についても、コンサルティング機能をしっかり発揮していきたい。
 三つめは、利便性の高いサービスの提供である。ご質問にあった認知症の問題もあり、ご家族との相談の仕方、あるいは、お客さまに対する、より丁寧なご説明には、しっかり意を用いていきたい。全銀協においては、例えば会員銀行向けに「認知症サポーター養成講座」を開き、高齢者の利用しやすい銀行店舗づくりに取り組んでいる。また、利用しやすいチャネルのご提供という観点では、小売店のレジで現金を引き出せるキャッシュアウト・サービス等もある。質の高い金融サービスを提供し、安心・安全かつ利便性の高い銀行であり続けるよう、特に意を用いて銀行界を挙げて取り組んで参りたい。


(問)
 一つ目はFATFの話で、FATFの審査まで残り1年を切ることになってきた。業界ベースで勉強会や研究会など取組みを進められているが、引き続き今でも地銀や信金、信組など地域金融機関の取組みが遅れているように見受けられる。大手行だけが良ければいいという問題ではないと思うなかで、日本の金融界として取組みが問われているのだと思う。これは底上げをしていかないといけないと思うが、それについてどのようなお考えをお持ちなのか。例えば、コルレス銀行とそれ以外との間で役割を分けるなどいろいろな考え方があるかと思うが、底上げについてどのように考えているのか。
 二つ目は、金融審議会で議論が進んでいて、中間報告もまとまっている。銀行界としてどのような規制緩和を望むのかというのを伺いたい。昨日も地銀協の会見で、ITや流通系の銀行とのイコールフィッティングの話や、不動産仲介をさせてくれとか、ある意味従来型の規制緩和という話は出ている。そういうレベルの規制緩和ではなくて、今後銀行が、特にメガなどの大手行は、本当に戦わないといけない競争相手がAmazonだったりGoogleだったり、IT企業だったり、あるいは総合商社だったりするが、銀行の将来のビジネスモデルを考えたときに、どのような規制が銀行の脱皮や転換を妨げているのか。銀行のあるべきビジネスモデルを、規制でできないことも含めてどのようにお考えなのか。藤原会長のお考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 まず、FATFの対日第4次相互審査に向けた業界の底上げの話である。最も重要なことは、まずは各会員行自身が「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」等に沿った実効性のある態勢を整えることであり、これが全ての大前提である。各行とも、ガイドラインに基づくギャップ分析と行動計画の策定を行い、経営陣の主体的・積極的な関与の下で、着実かつ迅速に対応を進めていく。
 ただ、そうしたなかで、2018年8月に金融庁より公表された「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」では、例えば中小地域金融機関における態勢に関して業界団体等の積極的な支援が必要な状況にあると指摘されているなど、一部課題が浮かび上がってきている。
 全銀協としても、全国地方銀行協会等とも連携しながら、業界の底上げに向けた幾つかの取組みを行っている。例えば、マネロンおよびテロ資金供与対策に関する内外の最新情報の共有、あるいは他の銀行で行われているグッドプラクティス等の情報共有、さらには、本人確認方法の変更に関する周知活動など、業界単位で対応すべき事項について積極的に取り組んでいる。
 こうした全銀協の取組みに加えて、全国地方銀行協会・第二地方銀行協会でも、マネロンおよびテロ資金供与対策の態勢高度化に向けたワーキング・グループや研究会の設置、あるいは金融庁のガイドライン等に関する説明会の実施や好事例の共有、共同でのケーススタディなど、会員各行の取組みを支援する活動を行っている。
 いずれにしても、全銀協としても会員行の活動を底上げしながら、各行の課題への対応に寄り添っていきたいと考えている。
 二つ目は、規制緩和についての議論である。我々を取り巻く環境は大きく変わっており、今この時を50年、100年に一度の大きな転換期と言っても過言ではない。とりわけ、デジタルテクノロジーの革新に伴い、いわゆるアンバンドリングの動きが加速し、ネット企業など様々な業態の企業が金融サービスを提供し始めている。
 その一方、現行の法体系は銀行法等、業態別となっているため、同一サービスを提供したとしても主体間で異なる規制が適用される可能性があり、公正な競争が妨げられる恐れがある。
 金融審議会の金融制度スタディ・グループは、斯かる問題意識にもとづいて、産業の構造変化に対応する業界横断的な機能別の規制体系の整備について、2017年11月より検討を開始し、2018年6月19日に中間整理を公表している。
 まず、金融規制の体系をより機能別・横断的なものとし、同一の機能・同一のリスクには同一のルールを適用する、という金融制度スタディ・グループの検討の基本的方向性には賛同する。
 そのうえで、規制緩和に対する全銀協の意見は現時点では取りまとめていないので、個人的見解を申しあげる。
 やはりポイントは、課題解決力の発揮、すなわちソリューションをどのように提供できるか、そしてそれを担保する枠組みや規制となっているか、ということだと思っている。今日のように、社会が大きな転換期を迎えるなかで、わが国の社会的課題の解決に向け、金融に求められる役割は拡大している。従来の伝統的な役割だけでなく、非伝統的な情報仲介機能あるいはアドバイジング機能といったものについても、大きな期待が寄せられている。テクノロジーの急速な進展などにより、さまざまな業態の企業が参入してくるなか、金融機関もいかに多様なサービスやソリューションを提供していけるかが問われる時代になってきていると思う。
 また、単なる金融を超えた新たな付加価値の創出という観点では、情報信託機能を含め、データ利活用が大きな成長分野であると感じている。銀行をはじめ、これからさまざまなビジネスモデルを試す企業が出てくると思う。
 このようななかで、アイデアの段階から芽を摘まないことが極めて重要であり、銀行法第10条から第12条に規定される業務範囲規制などがその制約となることのないよう、さまざまな可能性を想定した議論を期待したい。
 また、例えば新しい事業を試みる際に、一般事業会社が銀行を子会社とすることは可能であるが、銀行が一般事業会社を子会社とすることはできない。その見直しも検討すべき課題である。
 なお、お客さまへの多様で質の高いサービスを提供するという観点や、わが国の金融・資本市場を活性化するという観点では、ファイアーウォール規制等の見直しも期待したい。
 このような規制緩和を世に訴えていくときに必要なことは、世の中から銀行への信頼がしっかりしているということである。「銀行界は役に立つ、信用できるので、規制緩和に賛同する」という世論が醸成されない限り、スムーズに規制緩和の議論は進まないだろう。そのためにも、常に自らを顧み、真に「顧客本位の業務運営」を確立することが極めて重要である。
 これから具体的な制度設計が検討されていくなかで、中間整理で示されているとおり、「イノベーションの促進・利用者利便の向上」といった観点と「利用者保護・公正な競争環境の確保」といった観点で、バランスの取れた制度設計となるよう検討が続けられていくことを期待したい。
 今後の銀行のビジネスモデルや事業戦略のあり方に大きな影響を与えるものであり、全銀協としても、引き続き議論の動向を注視し、必要に応じて意見発信を行っていく。
 金融に対する規制の必要性については論を俟たないところであるが、その場合でも、いかなる規制が必要なのか、その規制がこれからの時代に適したものになっているのか、をしっかりと見極めることが重要である。例えば、デジタルテクノロジーを駆使して、多様かつ高度な金融サービスの提供を促進するという観点と、同時にお客さまの財産や決済機能を守らなければならないという観点がある。銀行法第1条に明記されている目的、銀行法の基本理念については、非常に重要な論点だと思っている。いずれにしても、攻めと守りの両面から規制緩和の議論が進むことを期待している。


(問)
 2点お伺いする。1点目はスルガ銀行の問題である。先般、スルガ銀行第三者委員会が調査報告書を発表した。中身を見ると、報道もされているが、非常に衝撃をもって迎えられている。藤原会長は報告書のこうした内容についてどのような感想を持つか。
 もう1点は、今月16日に歌手の安室奈美恵さんが引退するが、この件について藤原会長のコメントがあればお願いしたい。
(答)
 まず1点目のスルガ銀行についてであるが、これまで銀行界においては、法令遵守の徹底や顧客本位の業務運営を目指し、内部管理態勢や経営管理態勢の強化、さらには健全な企業文化の定着に取り組んできたところである。スルガ銀行における今回の事態はあってはならないことであり、誠に遺憾である。
 第三者委員会の報告書によれば、今回の問題は、過大な業績目標設定やその達成のための過度のプレッシャー、審査の独立性の欠如、コンプライアンス意識の欠如などが原因とされている。
 同行からの発表によれば、今後、企業文化を抜本的に改革・転換し、コンプライアンス意識の徹底およびお客さま本位の業務運営態勢の構築に努め、ガバナンス機能が有効に発揮できるような態勢整備を行うとしている。銀行ビジネスの土台はお客さまからの信頼である。信頼の回復に向けて、まずはそのとおりにしっかりと対応することが最も大事であって、全力で取り組んでいただきたい。
 また、本事案を同行のみの問題として捉えるのではなく、他の銀行においても自らを顧みる機会にしなければならない。全銀協としては、事実や原因をしっかりと確認して、速やかに会員行にも共有し、あらためて注意喚起していく予定である。
 どんなに状況が苦しくても、銀行の存在意義を考え、銀行の矜持をしっかりと持って、社会的役割と公共的使命を果たしていくことを忘れてはならない。もちろん収益も大事なことだが、「正しく稼ぐ」という心がけが一層重要になってくると思う。
 二つ目は安室奈美恵さんの引退である。私もファンの一人として、「長い間本当にお疲れさま、ありがとう。」という言葉を贈りたい。
 デビュー以来26年という長きにわたり、トップランナーとして、若者を中心にあらゆる世代を惹きつけてこられた彼女の魅力は、やはり忘れることはできない。15歳の若さで沖縄から上京し活躍された。もちろん歌だけでなく、ダンスも得意であり、オールマイティーな方である。そして何より大事なことは、ファンに喜んでもらえるようなコンサートに情熱を注ぎ続けられたことである。これは銀行の顧客本位の業務運営にも通ずるが、私としては、それを遥かに超えるファンに対する思い、ファンに対するメッセージを感じ続けてきた。また、26年間、本番さながらのリハーサルを入念に続けられた姿勢にも脱帽する思いであるし、業界は違うが学ぶべきことは多い。
 「Chase the Chance」という曲があった。そのまま訳すと「可能性を追え」。時代の転換期に当たって、私はこれまで「No Challenge, No Life(挑戦なき人生は歩まない)」と申しあげてきたが、この曲もやはり挑戦することの大切さという示唆に富んでいたと思う。歌詞に「夢なんて見るモンじゃない、語るモンじゃない、叶えるものだから」という言葉があった。諦めてはいけない。既存の価値観にとらわれてはいけない。お客さま、社会のために何ができるか、を徹底的に考え実践する。今、我々は時代の重要な転換期に向き合っている。これからも可能性を追い、挑戦を続けて行きたい。


(問)
 何度もお伺いしているが、改めてゆうちょ銀行という銀行はどうあるべきかというのをお伺いしたい。民間の金融機関から見れば、ゆうちょ銀行は何もせずとにかく小さくなってくれればいいというのが一番本音なのだろうが、彼ら、彼女らも上場企業としてこれからエクイティストーリーも作っていかなければいけないので、そうは言っていられないと思うが、どのようなかたちを望んでおられるか。
(答)
 ゆうちょ銀行のビジネスモデルについては、ゆうちょ銀行自身が考えることであり、かつ、ゆうちょ銀行は上場企業でもあるので、本来個別に申しあげるものではない。ただ、国民経済や金融システム全体の観点からどのように考えるかは大事なことである。
 ゆうちょ銀行は5月に発表した中期経営計画において、「地域社会への貢献」や「地域への資金の循環」など、地域を相当に意識されており、また、それを地域金融機関との協力の下で進めていこうとされている。そのことは、私自身、前向きに受け止めている。
 こうした取組みは、国民の財産でもある全国2万4,000の郵便局ネットワークを最大限活用することに加え、地域金融機関との連携・協調なしには十分に果たし得ないのではないかと思う。連携・協調を促進していくためには、民間金融機関との公正な競争条件への配慮が不可欠であり、それが確保されることで互いの信頼関係にもとづく連携・協調が進んでいくのではないかと考えている。
 中期経営計画で示された方向性に違和感はない。特に、お客さまの利便性向上のため、これまでも例えば、全銀システムへの接続やファンドの共同設立、あるいは民間金融商品の販売など、ゆうちょ銀行とは連携を行ってきた。我々も、お客さまの利便性向上につながる取組みはさらに進めていきたいし、そのような連携の機運に水を差さない環境づくりが大事であると改めて申しあげる。


(問)
 サマータイムのことについて伺いたいのだが、東京五輪に合わせて導入する検討が始まっていると思うが、銀行界としてはサマータイムの導入についてどのように考えているのか、会長のご見解をお願いしたい。
(答)
 サマータイムについては、わが国においても、これまで導入に向けた検討が何度か行われてきたが、終戦後の一定期間を除いて導入には至らなかったと承知している。また、海外に目を向けてみると、欧州委員会が8月31日に公表した夏時間の廃止の是非を問うパブコメ結果の速報によると、460万人から寄せられた意見のうち84%が廃止を支持した。省エネルギー効果が小さい、健康にマイナス、交通事故の原因になっている、といった意見が多く寄せられたようだ。
 これは金融界に限った話ではないが、特にシステム面の影響が大きいということが一つの論点である。対応すべき事項としては、例えば、各システムが参照している時計を特定して時間を変更しなければならないこと、あるいは、サマータイム開始前夜に時計の針を進める場合には、通常夜間処理している業務を翌朝までに問題なく処理できるよう手当てをしなければならないこと、さらには、サマータイム開始時に時計の針を進めることで、特定の時刻をスキップする、また、サマータイム終了時に時計の針を戻すことで特定の時刻が二度訪れることに備えることなどが想定される。これらについて、影響を調査してシステムを改修し、さらには試験・導入を行う必要もあり、影響範囲は大きいと言わざるを得ない。
 したがって、サマータイムの検討に当たっては、その導入に十分な準備期間を確保することが大前提となる。仮に拙速な導入ということになれば、準備時間が短いことによるリスクも大きくなり、また日本中でシステム対応が想定されることから、システム要員の確保も難しくなるという実務的な問題もある。リスクが相応にあることから、導入の是非については慎重な議論が必要というのが私の意見である。


(問)
 リーマン・ショックから今週末でちょうど10年になる。この関連で二つお伺いしたい。今から振り返って、特に日本の金融機関の方々は90年代後半に金融危機というものを経験されてきたわけだが、そういう観点から見て、当時のいろんな政策当局や金融機関それぞれの経営者たちの判断というのは適切なものだったのかどうか、今から振り返ってその部分についての検証というか、その辺りをお伺いしたい。
 もう一つは、リーマン・ショックの教訓を我々は活かして10年後の今を生きているのかという点で、何か藤原会長のお考えがあれば、現時点で何かそういう新たな危機の予兆があるのかどうかも併せてお聞きしたい。
(答)
 リーマン・ショックから10年という大きな節目を迎え、私も海外出張の際には、当局あるいは金融機関のトップとこの問題について議論を交わすことがある。
 一つ目と二つ目のご質問を合わせてお答えするが、重要な教訓は、一言で言えば、「顧客本位の業務運営」の重要性に尽きる。リーマン・ショックは、欧米の金融機関を中心に、目先の収益を重視するあまり、サブプライムローン等が組み込まれたリスクの高い資産の積上げ、あるいはレバレッジの拡大といった過度なリスクテイクを行ったことがその原因であろう。これは「顧客本位の業務運営」とは真逆の考え方である。また、その背景には、当時の状況を振り返ると、主要国を中心とした長期金利の歴史的な低水準と投資家の利回り追求の動きがあったと思う。
 このように、金融機関が本来の役割を逸脱して目先の収益に傾倒すれば、リーマン・ショックのような危機が再び生じ得る。このことは、常に心に留めておかなければいけない教訓であり、今日の経営にも活かしてきている。
 リーマン・ショックでは金融と実体経済、この主客が逆転してしまった。金融はあくまでも実体経済を支える礎であり、経済全体の血脈であるということを忘れてはならない。
 当時の経営者に対する評価は非常に難しいが、その後さまざまなかたちで日本の金融機関が海外金融機関への出資や提携を進め、それまで課題であったグローバルな展開に一つの礎を築いた節目でもあったと思う。もちろん、全ての事例が成功しているわけではないので冷静な評価が必要だと思うが、欧米金融機関の大規模な母国回帰が起こるなか、日本の金融機関がアジアを中心に存在感を増してきたのはこの時期だった。そういう面では、一定の評価は出来るのではないか。
 先ほど申しあげたとおり、リーマン・ショックからの教訓は非常に重い。全銀協としては、今年度の活動方針を「時代の転換期に当たり社会的課題の解決に貢献する1年」としている。金融のための金融であってはならない。金融サービスの提供を通じたお客さまの課題解決が先にあり、収益はその結果として付いてくるものだという順番を忘れてはならないと考えている。
 次に、新たな危機の兆候があるかということについて申しあげる。グローバル経済は基本的には堅調な回復を続けていくと見ているが、他方で、経営者としては常にダウンサイドリスクも意識している。経営に重要な影響を及ぼすようなリスク、いわゆるトップリスクを組織内で共有しそれに備えている。例えば、米金利の上昇と、ドル高を通じた新興国からの資金流出、具体的にはアルゼンチン、トルコへの懸念などはすでに燻っている。加えて、保護主義的措置の応酬が続くことで自由貿易体制そのものを揺るがしかねないリスク、さらには地政学的なリスクも残存している。最後に、サイバーリスクも忘れてはならない。デジタル社会の拡大に伴う経済への潜在的な影響が増大していることから、このようなリスクについても感度を高めて注視していかなければいけないと思う。
 いずれにしても、新たに生じ得る危機にもしっかりと備え、さまざまな課題解決に挑戦し、それを完遂する結果として、銀行の信頼感と存在感をしっかりお客さまに感じていただけるよう努めていきたいと思っている。


(問)
 来月、ローソン銀行が銀行業に久々に新規参入する。ビジネスモデルとして、地域金融機関をはじめ大手行も含めて提携していくと言っている。今ある銀行として、そういうビジネスモデルが入ってくることについての受止め、ライバルなのか、味方なのか教えてほしい。
(答)
 銀行界として新たな仲間を歓迎したい。流通系の銀行業参入は、すでにセブン銀行、イオン銀行などの事例がある。このような異業種からの参入により競争が活性化し、お互いに切磋琢磨することで、お客さまに対するサービスの向上や多様化につながる場面が増えるのではないかと、前向きに捉えている。
 もっとも、一般事業会社が銀行を子会社にすることは可能であるが、銀行が一般事業会社を子会社にすることはできないという、いわゆる「一方通行」の問題については、しっかり考えていくべきである。
 今や金融の世界では、非銀行界や非金融界からのプレーヤーも交え、各社が、決済・資産運用などアンバンドリングされた金融機能を使ってサービスの高度化を目指し、独自のビジネスモデルを競い合っているところである。
 銀行も、ビジネスモデルの変革に加えて、経営者のメンタルモデルの変革が重要な局面になっている。このような環境をしっかり受け止めて、お客さま、お取引先、社会のために役立つ銀行界をつくっていきたい。


(問)

 為替は、金融政策や経済について考えるときにとても大事なファクターだと思う。日本では、中央銀行がインフレターゲットや緩和をやめると円高になるのではないかと心配する声が非常に強くあるように思う。そうは言っても、製造業の地産地消や工場の移転も大分進んでおり、日本は世界で3番目に大きい経済大国である。産業も非常に多種多様で心配するほど為替の通貨高が問題にならないと思う。通貨高には、良い面と悪い面があると思うが、現在の日本の経済に照らして、そのバランスはどうなっていると考えているか。
(答)
 為替相場の先行きについて、全銀協会長としてのコメントは差し控えたい。一般的にどう考えるかという観点で申しあげる。
 まず、金融政策は為替のために行われているものではない。それがグローバルな共通認識になっていると理解している。一方、市場のメカニズムのなかで、金融政策を通じた為替への影響はもちろん出てくるので、それをフォローすることは重要である。
 そのうえで、わが国では、円高になれば一般的に経営が悪化する企業が多いと言われ、円安に対して好意的な見方がされる。もちろんプラス・マイナスのネットでの話だが、今の日本の経済構造をみればそのとおりだと思う。企業経営者の方々といろいろ話す機会があるが、現在のレベル、すなわち足元110円前後のレンジについて心地良いと思っている方は多いのではないか。おそらく、日本企業が期初に業務計画を作成した際の想定レートは平均的に107円から108円ぐらいのレンジであり、現在は若干の円安メリットを得ているのだと思う。
 2018年1-3月には、金融市場が不透明となってリスク回避の円高やドル安が進行した。一方、4-6月にかけて、少し円安基調に復したが、ひとつにはグローバルなファンダメンタルズの回復もあった。今後、FRBによる段階的な金融政策の正常化が進められていくなかで、内外金利差の拡大を背景として、基本的には円安圧力が残存すると考えられる。もっとも、金融市場では、米政権の保護主義政策の姿勢の高まりや新興国の不安等を背景としたリスク回避的な円買いが継続する可能性もある。
 なお、トルコ、アルゼンチンに見られたような資金の流出がグローバルなランドスケープを通じて、日本企業に与える影響などについては、為替の水準のみならず、各地域のマクロ環境や景況感の観点からも併せて見ていく必要があると思っている。