2019年1月17日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 2問伺いたい。1問目は世界経済および日本経済の今年の見通しについて、年末年始にかけて株式市場も非常に値動きの激しい局面が見られ、為替も大分円高に動いた。今年は米中貿易摩擦やアメリカの利上げの方向性など、去年とは大分様相が違うように見えるが、藤原会長の世界経済および日本経済の今年の見通しを伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、株価や為替は年末年始にかけてかなり荒い値動きとなった。2019年は、一言で申しあげれば、「不安定のなかに安定を模索する1年」になるとみている。天気にたとえれば、「くもり時々晴れ、ときおり雨」、「変わりやすい天気」といったところかと思う。
 世界経済の先行き不透明感があるほか、日本においては、秋に消費増税の実施を控えており、こうしたなか、我々金融機関も含めた民間の努力は勿論のこと、政府の緩和策によって、景気の落ち込みを緩和する対応が採られる見込みである。
 日本経済は2012年11月を谷とする息の長い景気回復が続いているが、昨年末で戦後最長の景気拡大期間である「いざなみ景気」の73ヵ月に並び、今月まで回復が続けば、戦後最長を更新することになる。今年は、いわば歴史を塗り替えるところからのスタートとなる。
 昨年を振り返ると、1~3月期と7~9月期にマイナス成長になるなど、成長率でみれば一進一退の状況だったが、特に7~9月期の年率換算-2.5%での足踏みは、夏場に相次いだ自然災害によって一時的に経済活動が幅広く抑制されてしまったためだ。
 足元、復旧が進んだことを受けて、12月の日銀短観では、事前の悪化予想に反して、大企業製造業業況判断が横ばい、大企業非製造業は改善した。設備投資計画も非製造業を中心にしっかりと上方修正されるなど、企業の投資意欲も旺盛で、日本経済全体としてみれば、内需を中心に比較的安定した状態で、緩やかな回復基調を維持していると言える。
 2019年は消費増税に加えて輸出の伸びの鈍化などを背景に、成長率はやや減速が見込まれるものの、各種の増税対策の実施などから、実質所得への下押し圧力は、前回2014年の時に比べて限定的となる見込みである。設備投資も、省力化投資や生産性向上に向けた戦略的な投資を中心に底堅い伸びが予想される。
 また、今年は5月に新天皇の即位・改元が行われ、7月には来年の東京オリンピック・パラリンピック開催まで1年を切る、節目の年になる。新しい時代、そして2020年代を迎えるムードの高まりが、消費をはじめ国内景気を押し上げることを期待している。
 とはいえ、やはり心配なのは外的な環境であり、経営環境の変化に伴う不透明感の高まりから目をそらすことができない状況にあることも否定できない事実だ。企業経営者を対象とする最近の各種のアンケート調査などにおいても、先行きに対して慎重な見方が強まっていることを示すものが増えているようだ。
 1月10日に公表された日銀の「さくらレポート」では、全ての地域で「拡大」または「回復」の基調が示された。他方で、海外経済の不確実性の影響に関しては、現時点では限定的ではあるものの、一部の海外顧客における減産や投資先送りなどから、受注の弱含みを指摘する声もあったようである。
 年始の賀詞交歓会では、私も多くの企業経営者の皆様とお話しさせていただいた。個人的な印象としては、日本経済については今年も底堅いという見方が多い一方で、昨年と比べると、先行きに対して不安を感じておられる、あるいは慎重に見ておられる方がやや増えているように感じたところである。
 具体的には、やはり米中対立の長期化や、中国経済の減速の影響がこれから徐々に現れるのではないか、といった見方や、年末年始に経験したような急激な円高など、世界経済と金融市場の先行きを警戒する声が多かったように思う。
 世界経済や金融市場については、足元で、総じてなお「堅調なファンダメンタルズ」と、「市場の発するネガティブ・シグナル」の対比が浮き彫りになっている状況だが、基本的には、引き続き米国経済をけん引役とする拡大が続き、中国経済の減速も政策対応による下支えで底割れには至らないとみている。中国の政策対応については、中国人民銀行が預金準備率を引き下げたことに加え、昨日も短期金融市場に約830億ドルもの資金供給を行っていることなどが象徴的である。
 しかし、足元の米中摩擦や、Brexit、欧州各国におけるポピュリズムの台頭と広がりなど、「グローバリズムの巻き戻し」ともいえる動きが、長期化・深刻化するおそれがある点は要注意だと思う。
 そうした動きは、単なる貿易摩擦の問題ではなく、格差や貧困、環境問題、さらにはテクノロジーや安全保障における覇権をめぐる争いともいえ、容易には解決できない。国際的な協調は一段と後退を余儀なくされ、あちらこちらでさまざまなレベルのフリクションが蔓延すれば、世界的な停滞の時代をもたらすことにもなりかねないからだ。
 2019年は日本がG20の議長国になる年であり、先進国中で最も長期安定政権を誇る日本が、国際協調の回復に向けて、調整の手腕が問われる年にもなるだろう。
(問)
 2問目は郵政の問題について、昨年、郵政民営化委員会が限度額の倍増を決めたが、これに対する所感を伺いたい。また、同じ決定のなかで、郵便貯金を集めるうえでのインセンティブを廃止しなさいという一文が入っているが、これについて、銀行業界としてはどう実効を担保してもらいたいか、見解を伺いたい。
(答)
 まず、本件に対する私どもの考え方は、昨年12月26日に公表した、民間金融機関8団体による共同声明のとおりである。私どもの主張は一貫しており、銀行界のエゴではない。
 利用者の利便を大前提として、あくまで、「金融システムの安定という全体最適」と、「ゆうちょ銀行の企業価値向上という部分最適」の双方の観点から、申しあげてきたものである。すなわち、地域金融機関からの意図せざる資金シフトや民間金融機関との連携に水を差すといった全体最適の観点にとどまらず、ゆうちょ銀行の規模拡大がもたらす金利リスク等の部分最適の観点からも、ゆうちょ銀行の預入限度額規制の緩和に反対してきた。
 こうしたなかで、昨年12月26日に郵政民営化委員会から、ゆうちょ銀行の預入限度額について、「通常貯金と定期性貯金の限度額を別個に設定することとし、限度額は、それぞれ1,300万円ずつ同額とする」という意見が提示されたことは遺憾である。
 次にインセンティブについてだが、今回の意見書では、日本郵政グループおよび政府に対して求める二つの取組みとして、貯金獲得に係るインセンティブの撤廃と、将来の通常貯金の限度額の検討に関する前提条件が提示されている。
 これらは、先ほど申しあげた私どもの強い懸念、すなわち資金シフトやゆうちょ銀行の規模拡大、連携への障害等について、一定程度共有いただいた結果と理解している。
 私どもとしては、何よりもまず、日本郵政グループおよびゆうちょ銀行自身により、速やかにこれらの取組みが遵守されることが不可欠であると考える。例えば、インセンティブが撤廃されないまま預入限度額規制が緩和された場合、現場レベルにおいて、インセンティブが無くなるまでの間にできるだけ貯金を集めてしまおうという動き、すなわち駆け込みでの過度な貯金獲得が行われかねないことを懸念しており、インセンティブの撤廃については預入限度額規制の緩和と同時に実施されることが必要である。
 また、例えば、オートスウィングのさらなる機能拡充など、ゆうちょ銀行自身によるお客さま利便の向上に向けた取組みについても、引き続き必要であると考える。
 郵政民営化委員会により提示された、これら二つの取組みを日本郵政グループおよびゆうちょ銀行が着実に実施するとともに、郵政民営化委員会や関係当局による厳格な管理・検証が行われることを通じて、これまで私どもが述べてきた懸念の顕在化が未然に防止されることを強く期待する。
 ゆうちょ銀行と民間金融機関が公正な競争条件の下で切磋琢磨し、お客さま利便の向上の観点から必要な連携・協調も行いながら、わが国の金融市場そして各地域も含めた国民経済全体の健全な発展に繋がるような将来像が描かれることを切に希望する。


(問)
 印鑑に関する質問である。通常国会で提出される見込みのデジタルファースト法案があるが、印鑑を押すことの簡略化が促進される見込みである。近年、銀行業界でも印鑑レスのサービスを拡大させていると思うが、この法案の影響などを考慮すると業界内で印鑑の必要性は変わってくるのかどうか、その辺の見解をお願いしたい。
(答)
 デジタルファースト法案は、デジタルテクノロジーを活用して行政手続を効率化し、生産性を向上させ、さらには認証の堅確性の向上などにも繋がりうるものだと考えている。
 翻って、銀行取引における印鑑には、主に二つの使われ方があり、一つは契約時の意思表示の手段、もう一つは本人確認の手段であると思っている。例えば、予めご印鑑をお届けいただき、契約書類あるいは振込などの依頼書に押印いただいている。もっとも、これまでATMやインターネット・バンキングなどの非対面取引の普及に伴い、印鑑を必要としない取引は大幅に拡大してきた。
 こうしたなかで、今般のデジタルファースト法案は、オンライン処理の原則化により行政手続の効率化を進め、利便性向上や業務効率化の一層の推進を目的としたものであり、行政手続において印鑑を必要としない手続が広がっていくと考えている。これを機に、いわば「印鑑レス」のサービスに対する利用者のニーズが高まれば、銀行取引においても印鑑に依らない手続を選択されるお客さまが増え、さらなる利便性向上や業務効率化に繋がるであろう。
 デジタルテクノロジーの進展に伴い、例えばみずほにおいても、暗証番号や生体認証を活用した取引など、お客さまにとって一層利便性の高いサービスの提供・検討が進みつつあり、印鑑を必要としないケースはさらに増加していくと考えている。
 今後も引き続き、お客さまの大切な資産をお守りするという責務をしっかりと果たしつつ、利便性と生産性・効率性を追求していく。その過程で、いわゆるデジタル・ディバイドへの配慮も忘れずに、しっかり対応して参りたい。


(問)
 改元に関連して伺う。新しい元号が4月1日に公表されることが決まったが、5月1日の改元に向けた銀行界の準備状況、全銀協としての取組みがどうなっているのか伺いたい。
(答)
 改元は、国民にとって重要な節目の出来事であり、銀行界としても万全を期してしっかりと対応していきたい。
 昨年、5月と10月の会見でも申しあげたとおり、改元と過去最長の連休に向け、限られたスケジュールのなかで万全の準備を行う必要がある。この年末年始もそうであったが、これまでは6連休が最長であり、10連休は未経験である。
 銀行における対応は、例えば和暦を使用する帳票、契約書、店頭のポスター、パンフレット等の差し替えなど事務面の対応がある。また、元号の変更や祝日の新設、10連休の取引を問題なく処理できるようにするなどのシステム面の対応もある。さらには、一番大事な点として、窓口での口座開設や振込など、平日にしかご利用いただけないお取引に関する事前のご案内など、お客さま向けの対応がある。
 全銀協としても、旧元号が記載された手形・小切手について、継続して使用しても問題ないこととしているほか、その他のシステム・事務ともに旧元号と新元号が混在することを想定した運用が必要となることを会員銀行に周知徹底しているところである。
 今後は、特にお客さま向けの対応として、例えば、旧元号が記載された帳票類は改元後も原則ご利用いただけること、10連休の間は窓口を閉める銀行が多いこと、さらには10連休明けは銀行窓口の混雑が予想されるため、なるべく連休前のお手続にご協力いただきたいこと、などをご案内していく予定である。
 また、夜間金庫の格納物の回収や、ATMの現金の詰替えなどの実務的な課題も指摘されている。例えば、ATMについては、自行で管理しているところや警備会社に委託をしているところなど、パターンによって対応も異なる。課題意識を銀行業界で共有しながら、事前にどういう対処をすべきか、情報共有や検討を行っているところである。
 なお、日本のマーケットだけがクローズするということを踏まえ、市場との向き合い方をどう考えるのかということにも注意レベルを少し上げていかなければならないと思っている。この年末年始の6連休も、日本のマーケットが閉まっている間、海外マーケットの商いが薄いなかで、ボラティリティが上がったという事象も見受けられた。そうしたことにも備え、事前にどこまで対処しうるのか、検討を深めていきたいと思っている。


(問)
 昨日、イギリスの下院が欧州連合との離脱合意案を否決して、合意なき離脱の風が強まっている。この件に対する銀行協会としての受止めと今後の対応についてお願いしたい。
(答)
 落しどころのない交渉が続いているとの印象を持っている。EU離脱協定が2019年3月29日までに最終合意に至るかどうかが当面の焦点と考えているが、仮に最終合意に至らない場合は、英国が移行期間を経ずにEUへのアクセスを失う「合意なき離脱」となり、民間企業は差し迫った対応を求められることになる。
 問題は大きく二つあると考えており、一つは経過期間なしに移行してしまうこと、もう一つは詳細な実務が決まらずに混乱を来す可能性があることである。
 1月15日に行われた英国議会の採決において、離脱協定合意案は大差で否決された。マーケットが予測していた範囲内とはいえ、Brexit交渉の先行きが極めて不透明になった。今後、EUとの離脱協定合意は大幅な修正を迫られることになり、「合意なき離脱」の可能性が高まっているものと認識している。
 わが国への影響という観点では、重要なポイントが三つある。一つ目は日本企業を含めたビジネスフローやサプライチェーンに対する影響、二つ目は金融機関にダイレクトに影響するEUパスポートに関する問題、三つ目はユーロ建て清算業務の移転に関する問題である。
 特にわが国にとって影響が大きいと考えられるのは、一つ目のビジネスフローやサプライチェーンの変更を強いられかねない点である。例えば、英国は世界第9位の自動車輸出国であるが、生産される車の約8割は輸出され、そのうち約5割がEU向けとなっている。その内訳を輸出台数で見ると、実は日本車が上位を占めている。自動車産業以外にも、EU市場への足がかりとして英国に拠点を置く日本企業は多い。英国・EU間の取引に対する課税が行われれば、コスト競争力の低下等を回避する観点から、日系企業のサプライチェーンの変更あるいは拠点の再編に波及しかねない。近年、日本企業による英国への投資も増えているが、EU離脱に伴って英国の景気が冷え込めば、ビジネス機会は減少するおそれもある。
 金融界への影響としては、EUパスポートの再取得あるいは欧州統括機能の移転、そしてユーロ建て清算関連業務の移転が挙げられる。英国でEUパスポートを取得している金融機関は多く、それが失効すれば、EU加盟国において新たに現地法人を設立するなどしたうえで、EUパスポートを再取得する必要が出てくる。さらに、英国に構えている欧州統括機能をEU域内に移転するケースも想定され、実務面での影響や人材の確保も問題になりうる。
 こうしたリスクに対しては、個別行の話となるが、例えばみずほグループではフランクフルトの証券新会社が現地証券業に関する認可を取得し、英国のEU離脱前の営業開始に向けて体制整備を進めるなどの対応をすでに行っている。
 また、ユーロ建て清算関連業務の移転については、LCHなど英国の清算機関が行っているユーロ建てデリバティブ取引に関する清算業務をEU域内に移転しなければならなくなる可能性も想定されていたが、足元では、欧州当局の監督に服する金融機関に対し、英国の清算機関へのアクセスを当面認める方向で検討がなされていると認識している。ただし、それでも英国からEUへの金融取引の流出が続く可能性はあり、業務移転や利用者のコスト負担増加に繋がるリスクは否定できない。我々としては、これまで構築してきたビジネス基盤に極力悪影響が出ないよう、あるいは急激な変化が生じないよう、一刻も早く英国政府が新たな方針を定め、離脱するならば秩序あるかたちで行われることを望んでいる。
 一方で、Brexitの期日が近づくなか、交渉が決裂した場合でもスムーズに事業継続ができるよう、日本企業は備えていかねばならない。金融界においても各行がしっかりと対応を進めていると認識しているが、今後も状況を注視し、予見可能性の確保等の観点から、必要に応じ意見発信を行っていきたい。


(問)
 サイバーセキュリティ対策について伺う。デジタライゼーションの進展とか、来年の東京オリンピック・パラリンピックを控えるなかで、金融界でも多様なサイバー攻撃に対する備えというのが大変重要になっていると思うが、こういう背景もあり、昨年10月に金融庁が、「サイバーセキュリティ強化に向けた取組方針」をアップデートした。それから3、4ヵ月経ったが、セキュリティ対策で重要だと考えるポイント、そして、今年、協会として新たに取り組みたいものがもしあれば教えてほしい。
(答)
 サイバーリスクは、日本のみならずグローバルに銀行経営上のトップリスクの一つに位置づけられる課題である。
 サイバーセキュリティ対策や情報の保護は、IoTの爆発的な普及やオープンデータ化など、我々の生活に直接的、間接的に多くの恩恵をもたらしつつあるデジタライゼーションの大前提となるものである。
 そうしたなか、サイバー空間と実空間の一体化の進展によって、サイバー空間で発生した脅威が社会全体の安心・安全を揺るがす深刻な事態につながる可能性も指数関数的に増加しているという危機感を持っている。実際、サイバー攻撃は年々高度化、巧妙化してきている。世界規模のランサムウェア感染被害が生じたり、サイバー攻撃によって甚大な損害を被る企業が出るなど、深刻な影響を引き起こす事件が発生しており、こうした被害は拡大傾向にある。
 銀行は、国民生活や経済活動への影響が特に大きい社会の重要インフラであることから、多くの銀行経営者はサイバーリスクをトップリスクの一つに挙げており、あらゆる手段を使ってサイバーセキュリティ対策を講じているのが現状である。
 特に重要なポイントは、堅牢なネットワーク管理態勢の構築であろう。不正アクセス対策あるいは不正侵入防止機能の実装などの入口対策、データ漏洩防止策などの出口対策、さらには不良データ検出機能の実装などの内部対策等、幾重にも対策を講じることが重要だと考えている。
 全銀協における新たな取組みとしては、本年度「サイバーセキュリティセミナー」を設置し、各種講演や情報提供を通じ、会員各行における一層の態勢整備・強化を促進していく。来月には金融庁やFISCから講師を招き、サイバーセキュリティ人材の確保・育成などをテーマとしたセミナーを開催する予定である。
 政府においても重要インフラのサイバーセキュリティ対策に関する「安全基準等策定指針」の見直しが進められているとの報道もある。具体的には、サイバーセキュリティ戦略本部の「重要インフラ専門調査会」で議論されていると理解しているが、金融を含む重要インフラのサイバーセキュリティ対策強化の観点からは、官民が連携して業界横断的に取り組み、不断の努力を続けることが重要である。サイバーセキュリティ対策はデジタライゼーションの推進には不可欠な要素と認識している。全銀協としても会員各行の取組みをしっかりサポートしていきたい。


(問)
 短期金利指標について伺う。1点目、LIBORの廃止に備えて代替指標を定める動きが出ているが、まず伺いたいのは、そもそもLIBORは本当に廃止されるのかについて、会長の見通しを伺いたい。もう一つは、LIBORを廃止することになったときに、お客さまあるいは銀行にどのような影響が出ると考えているのか。
(答)
 金利指標改革は、グローバルに非常に大きな課題だと考えている。2017年7月の英国FCAのベイリー長官の発言を受け、2021年末以降にLIBORが存続しないリスクが強く意識された。その可能性については私もあると考えている。
 特に英国、米国において、リスクフリーレートへの全面移行を前提とした議論が活発となっており、LIBOR廃止の蓋然性は少しずつ高まっているのではないかと感じている。
 そもそもLIBORを含む金利指標をめぐっては、自行の信用を補うために申告金利を低く偽るという不正操作問題が2012年の夏に顕在化し、申告あるいは算出方法に欠陥があることが露呈するなど、その信頼性が大きく揺らいだ。私も以前、企画担当常務としてバーゼルでの会合に参加したが、この問題についての議論を深めるなかで、金融機関の信頼を回復したうえで金利指標改革についても同時並行的に取り組んでいくことが大事だと認識した。
 不正操作問題の反省を踏まえ、2014年7月にFSBが取りまとめた「主要な金利指標の改革」と題する報告書では、LIBORやTIBOR等の既存の金利指標、いわゆるIBORの改革と併せ、リスクフリーレートという指標を導入し、さらには貸出領域とデリバティブ領域を棲み分けつつこの二つの指標を併用すること、すなわちmultiple rate approachが推奨された。
 わが国においては、multiple rate approachに則って、円の金利指標全般の頑強性を高めるべく、TIBORを維持しつつその信頼性・透明性を向上させるための取組みや、金融商品や取引の性質に応じたリスクフリーレートの利用拡大等に向けた取組みが行われている。
 このうち、TIBORについては、算出・公表を行う全銀協TIBOR運営機関が2017年7月に新たな算出プロセスを導入し、TIBORの金利指標としての透明性を向上させることに取り組んでいる。具体的には、依拠する実取引の範囲を拡大しつつ、算出の元となるデータにウォーター・フォール構造を採用し、呈示レートの算出決定プロセスを統一・明確化した。こうした金利指標の透明性や公正性の向上への取組みは非常に重要だと思っている。
 次にご質問のLIBORについてであるが、仮にLIBORが廃止され、リスクフリーレートへ移行する場合、例えば貸出領域において、全ての当事者にとって合理的な金利スプレッドの調整、あるいは複雑な利息計算への変更が必要になりかねないという議論もある。特に金利指標が長らくLIBORに限られていた米ドル、英国ポンドにおいては、邦銀も含めた貸出ビジネスに大きな影響が予想される。
 2018年7月にISDAが実施したLIBOR廃止時の代替に係る市中協議は、デリバティブ契約を対象としたものだが、ヘッジの対象となる貸出はデリバティブと不可分であるため、両者で代替の平仄が取られるべきという意見書を全銀協として提出した。
 いずれにしても、LIBOR廃止時に実務的な混乱が生じないよう、今後もしっかりと意見発信をしていきたい。


(問)
 10連休の関連で追加でお聞きする。先ほど、日本だけマーケットが10日間クローズすることに関してボラティリティが高くなる、注意レベルを上げていかなくてはならないと言われていたが、現状、東京証券取引所のシステム面の関連で連休中に開けることは厳しいと思う。そのなかで銀行界としてどのようなことに今後取り組んでいく必要があるのか。例えば、株や投信、為替などを持っているお客さまに注意喚起をするといったことになるのか。
(答)
 確かにこれから検討を深めていく論点だと思う。例えば、直近の株式相場の例で言うと、年末年始の日本での連休中に相場急落があった。なぜそうなったのかを考えていくと、まずは薄商いであったことが挙げられる。そうしたなか、これまで加速度的に広がってきた、ニュース・ヘッドライン等を瞬時に読み解くアルゴリズム取引が、相場の振れ幅を大きくした。加えて、相場の変動に応じて資産の保有比率を機動的に変更することで各資産のリスクの割合を均等にする「リスクパリティ戦略」を取っているファンドなどは、ボラティリティの高まりに伴いリスク量を減らす必要に迫られ、それもかえって相場の振れ幅を大きくした。ボラティリティの高まりには、市場の構造的な要因も背景にあるということは認識しなければならない。こうしたことを踏まえたうえで、10連休のように市場が長期間休場する場合には、金融機関のリスク管理はもとより、お客さまや投資家の方々に対する事前の注意喚起は大切な論点になると思う。
 また、米中摩擦の悪化懸念や企業業績の下方修正に伴う相場の下落リスクが意識され、マーケットがそうした材料に過剰に反応することで、通常以上に相場の振れ幅が大きくなった側面もある。先ほど、2019年を「不安定のなかに安定を模索する1年」と表現し、昨年末には「適温相場から変温相場へのシフト」が見られるとも申しあげていた。すなわち、相場形成あるいは経済構造自体が適温から変温にシフトするなかで、こうした不安定さを前提にしながら、我々がお客さまに対する注意喚起を行い、私ども自身もリスク管理、事業ポートフォリオ、ビジネス戦略を練っていく必要があるということを強く認識しているものである。いずれにしても、中国経済の減速、半導体サイクルの変調、米中摩擦、英国のEU離脱、米国の金利動向などリスク要因にもしっかり目を向けながら、モニタリングをしていく必要があると思っている。


(問)
 昨日だったと思うが、金融制度スタディ・グループのほうで、データ利活用について銀行本体で第三者提供を認めるような方向の報告書が出ていた。これに関して、どういう可能性が拡がるか受止めと、また個別行としてどういう可能性が開けるかご意見を伺う。
(答)
 今回、「金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告」が公表されたことについて、まずは、金融庁をはじめとした関係者のご尽力に心から感謝申しあげたい。今回公表された報告では、金融と非金融の垣根を超えた情報の利活用による利用者利便の向上やイノベーションの促進といった観点から、銀行における情報利活用に関する業務を従前より幅広く認めていただく方向性が示された。
 銀行は、長年の歴史と経験で培った「信頼」に加えて、情報の取扱い等に関するノウハウを持っている。これらは、情報の利活用との親和性が非常に高く、そうしたことから、銀行は重要な役割を果たせると思っている。もちろん、適切な個人情報保護やデータのセキュリティ確保が大前提である。
 情報の利活用はまだ黎明期にある分野である。これからさまざまなビジネスが出てくると思うが、そうしたアイデアを芽の段階から摘まないことが重要である。今後、規制緩和が行われた場合には、その趣旨を踏まえてしっかりと活用していきたい。
 これまでの金融仲介のみならず、今後は、情報仲介によってお客さまや社会の課題解決にどのように貢献できるかが非常に重要なポイントだと思う。その際、お客さまへのシームレスなサービス提供のために、残っている課題もある。例えば、グループ内の銀行・証券のファイアーウォール規制の緩和等、情報の利活用を一層ワーカブルにできるよう、継続的な検討も期待したい。
 情報の利活用による社会的課題解決のアイデアの一例としては、個人の属性やライフステージ等の情報に加え、決済データを通じて把握される家計の状況や消費行動の特性等も掛け合わせ、それらを活用して、家計節約や、資産運用、保険商品等を提案し「資産寿命」を延伸することが考えられる。また、人生100年の時代における「健康寿命」の延伸のため、少額の現金決済が多い「食」の決済情報も含めて、消費者の生活習慣を可視化し、それをバイタルデータや医療データ等と掛け合わせて予防医療に活用することもあるだろう。
 このように社会が抱えている課題の解決に向け、情報をいかに活用できるかをいろいろ考えていきたい。銀行のみならず、それ以外のパートナーとも一緒に考え、ビジネスの拡がりを求めていきたい。


(問)
 デジタルの人材について聞きたい。デジタル化ということでメガバンクをはじめ皆さまが進めているが、そのなかでデジタルを担う人材を確保しよう、獲得しようということをされていると思う。その確保したデジタル人材を銀行のなかでどのように評価するのか、私見を交えてでいいので教えていただきたい。
(答)
 いかにデジタル人材を採用しても、銀行で働くことに喜びや生きがいを感じることができ、職場で活躍していけるような、風土、文化、あるいはしかるべき職責を提供できないと、そうした人材を失望させてしまう。したがって、デジタル人材の採用と併せて、受け入れる銀行自身の自己改革が必要だと思う。2019年は、銀行界にとって「デジタルイノベーションを本格化する1年」になると思っている。銀行経営者には、ビジネスモデルの変革だけではなく、メンタルモデルの変革も求められる。未来の金融はこれまでの延長線上にはないということが前提となる。
 これまでは、ロジカル思考という、過去に起きたことを論理的に考え説明する能力が求められていた。また、ロジカル思考を経て決まったことをしっかりやり切る能力も重要であった。一方、新しい時代においては、「デザイン思考」が一つのキーワードになる。これは、足元の変化が激しいなか、お客さまや社会のニーズに応えるために、例えば将来のゴールからのバックキャスティングの発想で白地に絵を描く能力のことであり、それが非常に重要だと思っている。
 その観点から、例えば、銀行がこれまで培ってきた基盤やノウハウ、あるいは信頼・安心といった強みに加え、今後はAIやデジタルテクノロジーを活用して質の高いソリューションや新たなサービスの拡充に挑戦することが大事になってくる。あるいは、女性やシニアはもちろんのこと、外国人材も含めたダイバーシティを促進し、異なる意見を受け入れ、自由にアイデアをぶつけ合い、質の高いサービスを生み出す創造的な職場づくりが必要だと思っている。
 テクノロジーを金融ビジネスに結び付けていく素養のある人材として、STEM人材が注目を集めている。個別行の話となるが、みずほは昨年、「みずほらしくない人に会いたい。」という採用活動におけるキャッチコピーを打ち出した。これは、経営者や役職員のメンタルモデルを変革していくという強いメッセージを吹き込むために、あえて使ったキャッチコピーである。働き方改革の議論ともつながるが、本質的には、これまで以上に銀行員が挑戦意欲を持ち、お客さまや社会に貢献するということを自らの喜びとするような風土づくりが極めて大事だと思っている。
 テクノロジーの活用には、アジャイルな意思決定と行動が求められる場面が多々ある。一人一人の行員の積極果敢な挑戦を促すことで、そうした変革をしっかり広めていきたいと思っている。
(問)
 そうすると、今はある意味では減点主義的な感じの評価があるが、それはいきなり変わる感じか、だんだんと風土、文化をつくって変えていくのか、どういうイメージと言っていいのか。
(答)
 今の銀行界が、減点主義に根差した発想だけで物事を進めている、あるいはそのような人事運用をしているとは考えていない。すでに発想を変えている金融機関も多い。そもそも人材育成や人事評価・運用には、経営の意思が反映される。何処を目指すのか、何を実現するのか、何を重要な価値とするのか、といったことが人事制度設計の前提となり、その運用は経営のメッセージである。すなわち、各銀行のミッション、ビジョンや戦略によるもので、一律の答えはないと思っている。ただ、デジタルテクノロジーの進展が新しいステージに入っていくなかで、その共通基盤として、今申しあげたような素養が極めて重要になってきていると思う。


(問)
 ゆうちょの限度額上げの話で、先ほど会長から公正な競争条件の確保ということを改めて発言されたが、すなわち間接的にまだ政府が過半数を握っている銀行がお客さまからすれば暗黙の政府保証があるかもしれないという期待の下、そういうアドバンテージがあるのではないかということを示唆されていると思う。逆に言えば、民間金融機関から見れば胸を張ってそれだけが不公平と言い切れるのかと。例えば、それ以外だったらガチンコでやっても負けるわけないじゃないかと胸を張って言えるサービスをしているのかというのが本当に言えるのかという、ネットの書込みだけを見て多数の意見とは思わないが、なかにはこういうニュースを出した後には、「ゆうちょは使いやすいからどっちみちゆうちょを使うんだけど」と言うお客さまもいるようである。本当にそういう政府の暗黙保証だけを思って勝ち負けなのか、民間金融機関はそれがなかったら本当に公正な競争条件だったら負けないで、インセンティブがあっても、そんなものは勝てると、今時点で胸が張れるぐらい本当はやれているのか。
(答)
 今いただいたようなご指摘は、私ども銀行界としても真摯に受け止めるべきで、お客さまの利便性向上や特長のあるサービス提供に向けて不断の取組みを行わなければならないということは議論の大前提だと思う。
 例えば、ゆうちょ銀行がサービスを提供する全国2万4,000の郵便局ネットワークは同行の特長であり、利便性の観点からも非常に大きな強みである。また、このネットワークは国民の財産でもあると思っている。
 民間金融機関としても、お客さまの利便性向上に向けてさまざまな取組みを行っている。例えば、デジタル技術の活用による、インターネット・バンキングの機能拡充や、スマートフォンなどモバイル端末でのサービス高度化などである。各銀行が切磋琢磨しながら、お客さまに選ばれる金融機関となるよう、顧客本位の業務運営を全うすることが大事だと思う。
 現時点では、政府がゆうちょ銀行株式の過半数を保有しているが、切磋琢磨しながら、正々堂々と競い合ううえでも、イコールフッティングが前提と申しあげているところである。一方、国民経済の発展につながること、あるいは利用者の利便性向上に関わることについては、すでに地域金融機関とゆうちょ銀行が連携を深めてきている。例えば、投信販売、ファンド設立、地域貢献など、協働して取り組んでいるケースもある。また、2008年度のゆうちょ銀行の全銀システムへの接続もその象徴的事例である。
 一方、預入限度額規制の緩和については、それがゆうちょ銀行の規模拡大につながる場合、金利リスクを増幅させる懸念があり、ひいては国民負担につながる懸念もあるという全体最適の観点で意見を申し述べてきたところである。預入限度額の話とサービスを競い合う話とは分けて考えるべきであり、国民経済の発展あるいは利便性向上に資するものについては、これからも積極的に連携していきたい。そのための機運に水を差すようなことを控えていただきたいということが我々の思いである。