会長記者会見
2019年3月14日
藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)
岩本専務理事報告
最初に事務局から2点報告する。
1点目は、全銀協が事務局を務めている「税・公金収納・支払の効率化等に関する勉強会」の調査レポートをお手元に資料として配っている。このほど取りまとめられ、本日全銀協のウェブサイトにも公表している。
この調査レポートは、税・公金の納付者、金融機関、収納機関の実態を調査し、その結果明らかになった課題や、それらの解決のために有効と考えられる官民の短期的・中期的取組みを取りまとめたものである。
2点目は、本日の理事会において、今年度の全銀協のSDGsに関する取組みや会員銀行の事例を整理した「全銀協SDGsレポート2018」の暫定版を取りまとめた。こちらは大部なものとなるためお手元には配っていないが、本日付けで当協会のウェブサイトに公表しているのでご覧いただきたい。6月をめどに、確定版を改めて公表する予定としている。
これら2点の内容について質問等あれば、会見終了後事務局に照会いただきたい。
会長記者会見の模様
(問)
3点ある。1点目は、今月で1年間の任期を終えるので、任期を振り返って総括をお願いしたい。
(答)
改めてこの1年間を振り返ってみると、「新たな時代に向けた一歩を踏み出した1年」であったと思う。
この1年は、経済・社会の構造的な面において、「適温状態から変温状態への転換の節目」だったという印象がある。昨年まではグローバル経済の拡大と日本経済の緩やかな回復基調が続き、景気の拡大期間は戦後最長を更新した可能性があるが、足元では中国やユーロ圏の減速などの不安定要素も次第に頭をもたげている。
こうしたなか、次の2点に注意が必要である。まず1点目は、通商摩擦問題の深刻化・長期化。米中摩擦の激化やブレグジットを巡る動きが、先行きに不透明感を与え、企業心理の悪化を招くおそれがあり、なお予断を許さない状況にある。2点目は、米国の金融政策に起因する市場の不安定化。米国の金融政策は一旦様子見に転じたように見えるが、金融引き締めが再開されれば、再び市場の不安定化につながるリスクもある。そして、以上2点の結果として、世界経済のファンダメンタルズが逆転・悪化する可能性にも注意が必要な局面だ。
マクロ経済見通しについて過度に悲観する必要はないとは思うが、「景気循環の後半戦」にいるかもしれないという心構えでいることが重要ではないかと考えている。私も年明け以降、多くの企業経営者の皆さまとお話ししているが、世界経済と金融市場の先行きに警戒感を示す声も多くなってきている。機械受注も3ヶ月連続で減少しており、設備投資についても、少し慎重姿勢に調整する向きもあったように思う。
さて、このような環境のもと、全銀協は、今年度を「時代の転換期にあたり、社会的課題の解決に貢献する1年」と位置づけ、さまざまな課題に取り組んできた。
個別の不祥事例や外貨建て保険の販売など、銀行がお客さまに信頼感と存在感を感じていただけているのか、自らをしっかりと顧みて襟を正すことができているのか、を問い直すべき出来事もあった。そうしたなか、改めて業界全体にリーダーシップを発揮して「顧客本位の業務運営」を徹底してきたところである。
また、社会的課題の解決に向けて金融に求められる役割が拡大するなかで、全銀協・会員銀行とも、これまでにない取組みを本格化させてきた。
いくつか例を挙げれば、SDGs。全銀協では、その活動実績の集大成として「全銀協SDGsレポート2018」にまとめ、本日公表した。SDGsは今や「負わされる負担ではなく、担うべき責任」である。ありたい未来を創るため、銀行自らがその社会的使命を全うしていきたいと考えている。
また、生産性向上は全産業横断的なテーマだが、例えば、キャッシュレス化・ペーパーレス化の推進も重要な取組みとして挙げられる。モアタイムシステムの稼動開始により24時間365日のリアルタイム送金を可能にした。また、全銀EDIシステム、ZEDIの稼動開始により、企業の決済事務効率化のための環境整備も図ってきた。このように、2013年のでんさいネット開業以来の大きなリリースを無事完了させたことは成果だと思う。
加えて、キャッシュレス決済手段に関する会員各行の取組み、なかでもJ-Coin Payのように銀行が連携して新たな決済サービスの提供を開始するなど、その歩みをさらに一歩前に進めたという手応えがある。
そして、キャッシュレス化の先には蓄積したデータの利活用があり、わが国の課題解決と発展の鍵になる重要なテーマだと考えている。決済データを持つ銀行が起点となって貢献できることは多く、それをリードすることは銀行の社会的使命の一つと考えている。
この観点から、銀行が、保有する決済データの利活用を軸に、金融・非金融を有機的に繋いだシームレスなソリューションを提供できるよう、業務範囲規制を見直すべきとの意見発信を重ねてきた。1月には、金融制度スタディ・グループにより、銀行の情報利活用業務を従前より幅広く認める方向性が提言された。金融庁をはじめ関係者のご尽力に改めて感謝を申しあげるとともに、今後、規制緩和が行われた際には、個人情報保護を大前提としつつ、その趣旨を踏まえてしっかりと活用し、銀行界として社会のために新たな歩みを進めていきたいと考えている。
さて、銀行が多くの社会的課題に向き合うなかで、銀行自身もまた持続可能なビジネスモデルの確立に向け、いかにして金融にデジタル・イノベーションをビルトインするかという構造改革に踏み出すなど、従来の銀行業のあり方に捉われない取組みも始めている。
規制業種である銀行業は、ともすると保守的な意識が強く出すぎる面があったことも否めない。しかし、この大きな環境変化のなかで、抜本的なビジネスモデルの転換を実現するには、何よりもまず、われわれ経営者自身のメンタルモデルを変革する必要があると強く感じている。
これからは、銀行は従来の自己完結的な発想の戦略から脱却し、多様なプレーヤーをつなぐ「結節点」となって、知恵や工夫を出し合う姿勢がますます重要になってくる。
そして、できることからボトムアップで創り上げていくのではなく、次世代のあるべき姿からバックキャスティングの発想で社会をデザインする、「デザイン思考」が求められる。
急速に変わりゆく時代にあっても、我々はその変化に対応するだけではなく、自ら良い変化を創り出す気概と発想を持たねばならない。
経済的価値と社会的価値を両立させるため、銀行はお客さまにとっての「課題解決のベストパートナー」になるという強い意志を持ち、そして「Integrity」という言葉を大事にして、今年度一歩前に進めた歩みを緩めることなく、これからも果敢に挑戦していきたい。それが「銀行の矜持」であり、われわれ銀行が目指すべき姿だと総括している。
(問)
2点目は、マネー・ローンダリングをめぐるFATFの対日相互審査がこの秋に実施される予定である。窓口で現金送金を受け付けない動きがメガバンクまで広がっているが、銀行業界としての今後の対応と課題についてお願いしたい。
(答)
マネー・ローンダリングへの対応は銀行界にとっての最重要事項の一つだと考えている。グローバリズムの巻き戻しとも言える動きや、拡大する格差・貧困などにより世界の分断が進めば、犯罪やテロの脅威は一段と大きくなる可能性があり、マネロン・テロ資金供与対策に対する国際的な目線は急速に高まりつつある。
最近では、海外のある銀行で総額20兆円以上にも上る資金洗浄疑惑が発覚し、巨額の制裁金が課される例など、ニュースを通じて本件関連の記事を目にする機会が増えたのではないかと思う。
このようななか、FATFによる第4次相互審査が2019年度に予定されている。2008年に行われた第3次相互審査では、マネロン・テロ資金供与対策に関する国としての法整備状況が審査されたが、今回の第4次相互審査では、「FATFが求める対策が金融機関の現場できちんと講じられているか」という運用面について審査されることを踏まえ、金融界でも不断の努力を続けていかねばならないと考えている。
課題としては、まず金融界全体の管理レベルの底上げが挙げられる。個々の金融機関における態勢整備の努力が大前提ではあるが、特に中小金融機関に関しては、業界団体の積極的な支援も重要である。
全銀協では、昨年11月に「AML/CFT対策支援室」を設置し、国際的な情報収集や、海外重要文書の和訳、態勢整備に係る先行事例の収集などを、業界を代表して行い、会員銀行に還元することで、態勢整備の支援をできるかぎり進めてきている。
ただ、犯罪者はシステムの弱いところを突いてくる。その観点で言えば、銀行だけでなく、金融業務を営む全ての事業者が必要な態勢を整えなければならない。イノベーション促進のためには規制緩和の発想も重要だが、マネロンに関しては一部に穴を開けるようなことはできない。
また、マネロン・テロ資金供与防止の態勢整備に伴い、本人確認手続の変更など、お客さまにも影響が出るので、その周知をしっかりと行うことも大事な課題の一つである。
今後は、口座開設時や送金取引の際などに、これまで以上にさまざまな質問をさせていただいたり、追加で書類の提示をお願いすることがある。個人のお客さまに関しては、最新の住所や職業などを定期的に書類で提出いただくこともある。また、引越されたときに住所変更の手続きを取っていただけない場合、銀行から連絡が取れなくなるので、結果として取引を制限せざるをえない場合も出てくる。
窓口への現金持込みによる海外送金については、一般的に送金依頼人であるお客さまや、送金の原資となるお金の出所等に関する情報が限られるため、一段と目線を上げていかねばならない。マネロンに悪用される危険性と、その防止対策に要するコストも踏まえたうえで、各行ともリスクに応じた実効性のある態勢構築を目指していくことが重要になる。お客さまにできるかぎりご不便をおかけしないよう努めているので、なにとぞご理解をお願いしたい。
さて、こうした新しい確認手続きは、金融機関ごとに差があるが、早いところでは6月にも始まる。これまで以上に手続きに手間と時間がかかることがあり、戸惑いを感じられる方がいらっしゃるかもしれない。全銀協としても、今後、テレビCM・新聞・デジタル広告など、さまざまなメディアを使って、その周知を行っていく。その際、少しでもお客さまのご関心が向き、印象に残るよう、各メディア共通で使用するマークを製作した。このマークは、「お金を虫眼鏡で調べたら実は悪いお金だった」というもので、マネロンとは何か、そしてそれを防がねばならず、銀行ではさまざまな確認をさせていただくことを表している。このマークとともに、手続きが変わることについて、お客さまにご協力をお願いする内容の広告を今後本格化していく。
多くのお客さまは、申しあげるまでもなく「善良なお客さま」だが、犯罪者は極めて巧妙に、自分が「善良なお客さま」であることを装ってくる。また、「マネロンに使えそうな口座はないか」といつも目を光らせている。
例として挙げたような新しい手続きのひとつ一つは、こうした犯罪者のお金を自由にさせず、社会から犯罪やテロを減らし、皆さまを守ることにもつながってくる。
国としての構えを問われる分野であり、日本のアンチマネロン態勢に対する海外からの信頼を得るためにも欠かせないことでもある。
利用者の皆さまには、是非ともご理解・ご協力をお願いしたい。
(問)
今日から日本銀行の金融政策決定会合が始まった。前回も発言があったと思うが、日本銀行の金融政策に対する要望があればお願いしたい。
(答)
金融政策は日本銀行の専権事項であり、全銀協会長としてコメントする立場になく、個人的な考えとして申しあげる。
ポイントは2点ある。1点目は、物価目標は2%という絶対値にこだわり過ぎるべきではなく、例えばレンジで示すなどより柔軟化する余地があるということである。2点目は、マイナス金利政策を含む強力な金融緩和政策が長期化する場合の副作用、例えばリバーサルレートなどになっていないか、といった点に十分な目配りが必要ということである。
1点目については、物価は2%という目標値をいまだ下回っているとはいえ、景気は戦後最長ともいわれる回復を続けてきた。また、先週発表された昨年10~12月期のGDP第2次速報でも、年率換算で前期比+1.9%と、先行き不安があるとはいえ、堅調に推移している。
この場でも何度か申しあげたように、物価目標はあくまで手段であって目的ではない。本来、金融政策は将来の期待に働きかけるものであるが、日本銀行の分析でも示されているように、日本の実態として、「合理的期待形成」ではなく、過去の実績に追随しやすい「適合的期待形成」の側面が強くみられる、といったこともしっかりと考慮する必要があるだろう。また、グローバル化やデジタル化、シェアリングエコノミーの進展など、経済社会構造の変化によって、物価が従来のようには上昇しにくくなっているという見方が、我が国だけでなく、グローバルにも指摘されている。
実際、海外の事例をみても、例えば2017年には、物価水準が1%台前半の状態で、FRBやECBは緩和政策の規模縮小の決定を行っている。
こう考えると、個人的には、物価目標については2%に固執することなく、例えば1~2%といったレンジで示すなど、より柔軟化する余地があるのではないか、と考えている。金融政策の理念が、物価の安定を図ることを通じて持続的な経済成長を実現する、という点にあることを踏まえれば、2%の達成自体ではなく、いかにして物価安定と景気回復の両立を息長く維持するか、という視点での政策運営が必要だと考える。
2点目は、例えばリバーサルレートになっていないか、といった副作用への目配りである。すなわち、長期に亘ってマイナス金利が維持されると、経済を刺激するプラス効果より、むしろ人々のマインドや金融仲介機能への累積的なマイナス影響の方が大きくなり、物価安定と景気回復の両立維持が妨げられるリスクが生じうるという点に留意が必要、ということである。
もちろん、金融仲介機能への影響に関しては、当事者であるが故に申しあげているわけではない。当然のことながら、我々銀行界としては、いかなる状況であれ、他責とせずに、自助努力や構造改革を通じて自らの役割を全うしていかねばならない。しかしながら、異次元の政策が長期化することによって、金融システム全体に下押し圧力が働き、金融仲介機能や市場機能の低下につながる、といった点は改めて指摘しておきたい。
こうした金融仲介機能への副作用や、年金等の運用利回り低下等を通じた人々のマインドへのマイナス影響によって、経済全体としてコストがベネフィットを上回るような状況に陥るリスクが高まっていないか、十分に精査されることを期待している。
足元では、世界経済の先行きに不透明感が強まる中で、欧米の中央銀行が様子見姿勢に転じるなどの動きがみられている。こうした状況を踏まえれば、なかなかすぐには難しいかと思うが、将来の政策対応余地を確保するといった視点も含めて、正常化に向けた検討を進めておくことは極めて重要だと考えている。
(問)
SDGsに関連してレポートも出したという話があったが、この会見でも何回か質問が出ていた。日本の格差のなかでも子供の貧困について、全銀協の取組み、個社の取組みで何か進んでいることがあったら教えていただきたい。
二つ目は、1年の振り返りで見たときに、銀行セクターの株価という観点で見ると、山、谷はあるが、ほぼ藤原会長が就任されてから一貫して銀行セクターの株が下がっている。もちろん藤原会長のせいではないが、これをどのように受け止めているかお聞きしたい。特に去年1年の株価をセクターで見てみると、日経平均から大きく乖離して下回っている。これまで日経平均と比較的連動することが多かったと市場では受け止められているが、これが大きく乖離して下回っていることについても併せてお答えいただければと思う。
(答)
1点目の子供の貧困は世界的な課題でもあり、SDGs17項目の一番最初に「貧困をなくそう」が据えられている。行き過ぎた資本主義経済がもたらす“歪み”や現在の自国主義・ポピュリズム等の発端が、社会を分断するような格差や貧困にあることはご案内のとおりである。個人的見解だが、貧困への対応については四つ大事なことがあると思っている。一つ目は、貧困問題の認知度を上げ社会全体に周知していくこと。二つ目は、対症療法だけで終わらせず原因療法も行うこと。三つ目は、貧困から脱却する機会を提供すること。四つ目は、それでも貧困に関する問題が完全に解消されないこともあるので、セーフティーネットをしっかり用意しておくことである。
以前にも申しあげたが、経済を押し上げることによって全体の所得水準向上に取り組むことに加え、貧困のために教育を受けられない人を支援するための奨学金制度等を提供することも有用であると思う。奨学金制度については、各行が自主的・自律的にどのような貢献ができるのかを考え、地域の特性や環境に応じて、きめ細かく取り組んでいく分野だと考えている。
個別行の話になるが、例えば「みずほ育英会」では、すでに60年以上奨学金制度による支援を行っている。また、役職員の有志でつくる「みずほ社会貢献ファンド」では、子ども食堂やシングルマザーを応援するフェスタ開催等の支援を行ってきた。そういった活動を通じて、役職員の社会貢献に対する意識が高まり、4月以降には、活動規模の拡大を目的に寄附金の月額上限を増額する予定にしている。
私自身、今月、豊島区にある子ども食堂を訪問した。実際に現場に行き、見て、話して、感じて、「答えは常に現場にある」と強く感じた次第である。
本日公表したSDGsレポートでは、ひとり親、または両親のいないご家庭の高校生を対象に無償で奨学金を贈呈する伊予銀行の「いよぎん奨学金給付事業」を採り上げている。奨学金制度を運営している会員銀行は、全銀協正会員の2割強に留まっているが、銀行界全体に広がるよう旗を振っていきたい。こうした活動は、強制するのではなく、各所での取組みを通じて現場の実態を感じてもらい、草の根で広がっていくような持続的なものにすることが重要だと思っている。
2点目の銀行セクターの株価について個人的な見解を申しあげる。私は、銀行セクターの未来について決して悲観していない。ただ、株価に関しては、需給を含めてさまざまなファクターが影響するため、整理して申しあげる。まず、一般的に銀行株はマクロ経済との連動性が高いことはご承知のとおりである。冒頭に「変温経済への転換の節目」と申しあげたように、中国・欧州などの世界経済の変調の兆しや、通商摩擦問題などの先行き不透明感が、株価弱含みの地合いをもたらしているのだろう。
そのうえで、なぜ銀行株がアンダーパフォームするのかという銀行セクター固有の要因としては、次の3点が考えられる。
1点目は、金融政策が当面収益を圧迫するという見方。マイナス金利などの金融緩和政策の長期化とその状況が当面変わらないのではないかというマーケットの見方が、下押し圧力となっている面があること。
2点目は、銀行界に横たわる構造的な高コストの問題。例えば、店舗・システムなどの固定資産の負担や積み上がる規制対応コストの負担があり、顧客ニーズの変化と我々の固定資産の間でミスマッチが起きているということもあろうかと思う。
3点目は、異業種からの参入と競争環境の変化。我々は、銀行免許のもとで銀行業を営んでいるが、その業務をアンバンドリングしてひとつ一つの機能を見てみると、すでにノンバンクや異業種からさまざまなプレーヤーが個々の市場に参入し凌ぎを削る状況になっている。そうしたなかで、銀行セクターは、まだターンアラウンド・ストーリーを明確に打ち出し切れていないと見られている可能性がある。
しかし、冒頭私は「決して悲観していない」と申しあげた。これは、未来に向けてチャンスが訪れている、あるいは、担うべき役割期待があると考えているからである。特にデジタル・トランスフォーメーションが加速していくなかで、例えば、キャッシュレス化の推進による現金ハンドリングコストの抜本的削減や、蓄積した決済データを起点とした情報利活用の本格化、さらには、RPA等の活用による事務の大規模な自動化と人的資源のアロケーション最適化による生産性向上などにより、収益構造は大きく変わっていく。また、人生100年時代に向けて、資産運用ビジネスについても、我々銀行界が時代をリードする役割に期待が集まっている。さらに、事業承継、海外展開、M&A、ビジネスマッチングなどお取引先の経営課題解決にお役に立てる場面も多くある。私は、金融のことを考える前に、個人のお客さまであれば人生や家計のライフプラン、法人のお取引先であれば一緒に事業プランを考え提案する、という発想で向き合っていけば、必ず活路が見出せると思っている。
すでに多くの銀行が構造改革を打ち出しているが、我々銀行は、お客さまの銀行利用形態の変化に合わせて、店舗・ATMなどのチャネルの変革や経営資源配分の最適化を急いでいる。そして、銀行が持つ社会的信用や広範なネットワーク、さらには人材といった強みを最大限に活かせば、単なる「おカネの出し手」ではなく「知恵の出し手」として、お客さまにしっかりと寄り添った課題解決のベストパートナーになれると考えている。
ビジネスモデルの改革のためには、まずは我々銀行経営者が自らのメンタルモデルを変革することが大事である。未来を切り拓く強い覚悟と矜持を持って臨んでいく所存である。以上申しあげたことを通じて、銀行は大きく変わる、いや変えていく。その姿を評価いただくことが、株価をはじめ、さまざまな形に表れてくると信じている。
(問)
質問は二つあるが、1点目はイギリスのEU離脱についてである。まさに今、いろいろ動いているところだが、イギリスのEU離脱をめぐる今の混迷をどのように受け止めているのか。銀行界では個別行でそれぞれ離脱への備えを進めていると思うが、新たに何か銀行界として対応することはないのかどうか伺いたいのが1問目。
2問目は、最初の幹事社の質問に重なるところがあって恐縮だが、最後の会見なので、銀行の存在価値について質問したいと思う。私が言うまでもなく、決済をはじめ銀行サービスにはいろいろな業種からの参入が相次いで、銀行自体の存在価値が問われているのがこの数年の動きだと思うが、銀行の存在意義というのはこれからどのように変化していくのか、会長のご見解を伺いたい。
(答)
まず、Brexitについてである。昨日、3月13日に英議会で合意なき離脱に反対する動議を賛成多数で可決したということはご承知のとおりかと思う。本日、離脱期限の延期の是非を採決することになるが、英議会で期限の延期が可決された場合でも、最終的にEU全加盟国の承認が必要となるため、再び合意なき離脱に陥る可能性については引き続き注意が必要である。
市場では期限の延期を織り込んだ見方が多いと感じているが、そうでない場合の可能性にもしっかりと備えておかなければいけない。万一、合意なき離脱となった場合に何が起きるかと言えば、経過措置が無いまま想定されていた時間軸が大幅に前倒しになるということや、さらには、実務の詳細が決まっていないなかで、貿易取引や金融取引に混乱を招くおそれがあるということであり、こうしたリスクについては十分気をつけなければならない。
金融界については、従来から、シングルパスポートの再取得や欧州統括機能の移転、さらにはユーロ建て清算関連業務の移転がリスクとして挙げられていた。
シングルパスポートについては、すでに対応済みの金融機関も多い。また、欧州統括機能についても、時間軸や実務運用という問題はあるものの、実際にEUに移転するケースが増えており、そのための人材確保も進められていると認識している。ちなみに、みずほでは、フランクフルトの証券新会社が現地証券業に関する認可を取得し、営業開始に向けた体制整備を継続するなどの対応をすでに行っている。
ユーロ建て清算関連業務の移転については、従来、LCHなどの英国の清算機関が行っていたユーロ建てデリバティブ取引の清算業務を、EU域内に移転しなければならなくなる可能性も想定されていた。足元では、欧州証券市場監督局が、合意なき離脱であっても、英国清算機関がEU顧客にサービスを提供することを当面認めることを決めている。このことは、金融システムの安定の面から好ましい措置である。ただし、英国からEUへの金融取引の流出が今後も継続する可能性はあり、業務移転や利用者のコスト負担の増加につながる可能性は否定できない。
いずれにしても、予見可能性の確保等の観点も踏まえ、しっかりと備えていかなければならない。
また我々銀行界もさることながら、お取引先である事業会社では、ビジネスフローの変更やサプライチェーンの再構築が必要となる。特に自動車メーカーにおいては、EUに輸出される自動車の大部分を英国で生産している。現在、英国は世界第9位の自動車輸出国であるが、そのうち5割超がEU向けの輸出であり、その生産台数において日本メーカーは上位を占めている。もちろん、Brexitだけが課題ではないとは思うが、こうしたお客さまをしっかりサポートしていくことが重要なポイントかと思う。
2点目は、銀行の存在価値についてという、ど真ん中のご質問をいただいた。個人的な見解を申しあげたい。ひと言でいえば、「お客さまや社会にとって課題解決のベストパートナーになる」ということだと思う。先ほども申しあげたが、個人のお客さまであれば人生設計のライフプラン、法人のお取引先であれば事業展開のビジネスプラン、さらには地域社会であれば地方創生などの再興プランなど、収益を考える前にこうした役割期待を念頭に置いた動きができるかどうか、社会的存在として機能するかが、これからの銀行の存在価値を決めていくことになると思う。
銀行のみならず多くのプレーヤーが参入し、金融ビジネスの競争が激化していくなかで、単に利便性あるいは価格という側面だけでは固有の存在価値は生まれない時代になってきている。
先ほど銀行業法との関係についても触れたが、銀行が行う業務をアンバンドリングしてみると、銀行免許をもたないノンバンクや異業種が個々の業務に既に参入し競争環境を大きく変えている。しかし、銀行には、長い歴史のなかで培ってきたものがある。堅確な業務運営に裏打ちされた信頼感や潤沢な資本を活かしたリスクテイク力、さらにはグループ会社やグループ外の一般事業者との連携を含めた多様なソリューション提供力・ネットワーキング力など、銀行ならではの強みがあると思っている。
銀行は従来、三大機能として金融仲介、信用創造、決済機能を担ってきた。一方で、これからの銀行がその存在価値を確固たるものにするためには、これらに加えて、情報仲介、事業創造、結合機能が大事な要素になってくると思う。コンサルティング機能の発揮やソリューションの提供など、資金供給以外の付加価値創造の担い手として、その重要性がますます増してくるだろう。これを銀行だけで成し遂げようとすると限界があり、もはや十分ではない。自己完結的な発想から脱却することも併せて重要である。
ミレニアル世代などに代表されるように個人の価値観は多様化しており、一方で企業にとっての成功の概念も進化している。これからの時代はひとり一人、あるいは会社ごと、これまで以上に寄り添ったコンサルティング機能が求められる。経済の血脈と言われる「金融」を起点に、多様なプレーヤーをつなぐ結節点となり、社会的課題の解決のために知恵や工夫を出し合うモデルを作っていくこと、そして、わが国の持続的成長に貢献していくことに、私は銀行の存在価値を見出している。
(問)
金融市場の分断について伺う。世界各国の金融規制に矛盾や重複が生じることで、金融機関の規制対応コストの上昇などが見受けられ、負担が増えている。全銀協でもIPUなどに対する提案をしてきたが、今回G20でも主要テーマになっている。質問は二つで、海外事業を拡大している邦銀、特にメガバンクにとって、このフラグメンテーションの意味するところと、その緩和の重要性について、また、G20に寄せる期待を伺いたい。
(答)
2008年のリーマン・ショック以降、国際社会は金融危機の再発防止を図るべく協調して規制改革に取り組み、私も当時は担当常務としてIIF(国際金融協会)や官民会合での議論に参加してきた。その後、2017年12月にバーゼルIIIの最終化という一つの節目を迎えた。
バーゼル委員会のような基準設定主体が定める国際規制を受け、各国の裁量すなわちナショナル・ディスクレションにおいて定められる国内規制は、それぞれの国の事情や優先課題、市場の構造などを考慮した規制を上乗せしたものであるため、こうした保守的な規制の導入が各国における金融システムの健全性の維持や強化に貢献してきた面はある。
ただし、金融規制には三つの課題がある。一つは、国際規制の数が膨大になり、かつ内容も複雑になっていること。もう一つは、国際規制を受けて実際に導入された国内規制の各国間での違いが積み重なってきているということ。最後に、同時に現地固有の規制導入も追加的に進んでいるということである。その結果、さまざまな規制の間で矛盾や重複が生じ、金融機関のクロスボーダー取引や活動に意図せぬ影響を及ぼす「市場の分断」につながっている。海外業務を展開する我々としては、決して無視できない問題である。
一例を挙げると、ご質問にもあった欧州では、域外の多くのG-SIBに対する域内中間持株会社(IPU)規制が合意されており、他方米国では、米国中間持株会社(IHC)規制がすでに導入されている。その結果、資本と流動性のローカルな囲い込み、いわゆるリングフェンシングの動きが進んでいる。
市場の分断によって生じるこうした非効率が、金融機関のみならず、その取引などを通じて、お客さま企業にも影響し得る点もしっかり認識する必要がある。
本年、日本がG20の議長国として、市場の分断の問題を初めて採り上げることは大変意義深い。金融システムさえ安定すればよいというシングル・マンデートではなく、現在対立を深めている国際政治・経済、いわばグローバリズムの巻き戻しに対しても一石を投じることを期待している。
我々銀行界も、さまざまな場での議論などを通じ、G20のプロセスに積極的に関与し、よりシームレスで効率的な金融市場の構築とグローバル経済の持続的成長に貢献していきたい。金融市場はグローバルな循環でつながっており、もう後戻りはできない。その観点からも、銀行界としてしっかりと意見発信をしていきたい。
(問)
冒頭の総括と少しかぶってしまうかもしれないが、デジタル通貨についてお聞きしたい。3月にJ-Coin Payが始まったが、銀行界でもデジタル通貨の発行という動きが広がってくるなかで、デジタル通貨の今後の展望と可能性、普及への課題などがあればお聞かせいただきたい。
(答)
ご質問いただいたJ-Coin Pay、これは全銀協の取組みではないが、多くの会員銀行が参加しているサービスなので少しだけご紹介すると、QRコード決済あるいは無料の個人間送金を可能とするスマホ用のキャッシュレスサービスである。大きな特長は二つある。一つは、銀行自らがサービス提供者として市場に参入するということ。もう一つは、約60行が当初参加予定だが、これにより銀行共同の銀行系デジタルコインのプラットフォームができ上がるということである。
何より大切なことは利用者の視点であり、利用者にとってシンプルで制約のないサービスであるということが一番重要である。その観点で、参加銀行の口座をお持ちのお客さまなら同じように使え、相互に無料で送金することもできるオープンなプラットフォームにしたことは非常に意義があると思う。また、消費増税に合わせて政府が実施するキャッシュレス決済のポイント還元事業について、J-Coin Payも参加する方針としている。
今後の可能性についてだが、銀行系ということで、お取引先を通じた広範なネットワークを持っていることから、利用者あるいは加盟店の拡大につながる可能性があると思っているし、何といっても信用に裏打ちされた安心感が非常に大きいと考えている。
さらなるビジネスの発展の可能性という意味では、先ほど申しあげた情報の利活用が挙げられるだろう。元来、銀行はお客さまの資産・収入、ライフステージに関わる固有のデータを保有している。もちろん個人情報の保護については万全を期すことが前提だが、一例を挙げれば、「食」や日常生活におけるコンビニでの小口の支払いなど利用者の行動様式を表すキャッシュレス決済のデータに、バイタルデータあるいは医療データなどの非金融のデータを掛け合わせることで、お客さまの真のニーズを把握し、また、そのニーズに合致したご提案や健康に関連したサービスを提供することで、健康増進や医療費の削減、社会保障の充実等につなげていける可能性も出てくる。このように情報の利活用を、いかにして社会に還元していくか、という観点は大事にしたいと思っている。
次に、留意点・課題についてだが、やはり情報管理に最大限留意しなければならない。その点では、銀行には長年培ってきた厳格な情報管理のノウハウやお客さまからの信頼があると思っているが、慢心をせずに引き続き厳格な管理を心がけることで、それが強みになりうると思っている。こうした銀行の強みを最大限発揮し、「いつでも」「どこでも」「誰でも」、そして「誰とでも」使えるキャッシュレス決済サービスの提供を通じて、キャッシュレス化を推進していきたいと考えている。
(問)
マネロン対策についてもう少し伺いたい。仮にFATFの審査の結果があまり良くなかった場合に、日本の金融機関の海外展開などにどういった悪影響が出るかというのを教えてほしい。
(答)
第4次相互審査では、運用状況や有効性など銀行の現場で行われていることが審査の対象になることもあり、足元、銀行業界を挙げて全力を注いでいるところなので、その審査結果が悪かったことを想定してコメントするのはなかなか難しい。
いずれにせよ、マネロン・テロ資金供与対策において銀行の果たすべき役割が極めて大きいことは確かである。すでに第4次相互審査を受けて合格、不合格になっている国がそれぞれあるが、敢えて言えば、不合格となった国において、どのような追加的対策が講じられているのかということについては参考にしながら我々の態勢整備に活かしていく必要があると考えている。
実務については各行が態勢整備に万全を期すこととなるが、本人確認の手続の見直しなどお客さまに影響するものもあるので、お客さまのご理解・ご協力もいただきながら不断の努力を続けるということが、我々のやるべきことだと思っている。
(問)
最近、CLO、ローン担保証券の保有リスクに対する報道がいくつか相次いでいるが、CLOのリスクに対する会長の見解、国内の金融機関の保有状況への認識、どう対応していくべきという考えがあればお願いしたい。
(答)
CLOが内包するリスクに対してモニタリングレベルを上げるべきだと思っている。米国における非金融セクターの債務は増加傾向にあり、GDP比で見ると、今や2008年末の前回ピークを上回る46%になっている。企業の債務は社債とローンで構成されるが、2018年11月にFRBが公表した金融安定報告では、投資適格未満の企業に対して行われるローン、いわゆるレバレッジド・ローンの拡大が企業債務増加の背景の一つにあり、こうしたローンの消化がローン担保証券すなわちCLOのような証券化商品で支えられている点に懸念が向けられている。米国のレバレッジド・ローンの残高はここ10年でおよそ2倍に増加し、CLOの年間発行額も2018年に過去最高を更新した。
足元の米国の信用サイクルがすでに転換しているわけではないが、サイクル終盤に証券化商品を通じて原資産のリスクが拡散すれば、金融市場へのストレスが大きくなり、景気後退時の深さが増すことにもなる。
邦銀についてだが、米国をはじめとする海外のクレジット投資の動向については、2018年10月に日本銀行が公表した金融システムレポートでも示されているとおり、全体として残高を増やす先が多くなっているものの、開示されているデータによれば、CLOなどの証券化商品においては最上級のトリプルA格への投資が大半であるとされている。
また、みずほ個別行の例になるが、CLOへの投資に当たっては、商品のスキームに係るデューディリジェンスや裏付けとなるローンのモニタリングを行うなど、商品固有の特性を理解したうえで検討しており、おそらく各行でもそうした対応をとられているのではないかと思う。
もっとも、こうした平時の管理に加え、金融市場の変調によって需給環境が悪化し、クレジットスプレッドが急拡大をするなどの非常時においては、保有資産の圧縮やポートフォリオヘッジ等を後手に回らないように行うことが求められると過去の教訓からは言える。
いずれにしても、足元の投資環境をしっかりと踏まえ、リスク顕在化の徴候がないか、モニタリングレベルを上げておく必要があると思っている。
(問)
先ほどの銀行株の質問のなかで、会長は幾つかのボトルネックがあるというなかで、構造的な問題として固定資産の負担が大きいことを挙げていた。固定資産の問題を考えると、最近のみずほ銀行の6,800億円の減損を思い出す。個社の話とはいえ、先ほど会長が挙げられたように構造的な問題でもあると思うので、あえて伺う。
1点目は、みずほ銀行の減損について、営業のトップである頭取としてどのように受け止められたのか。
もう1点は、より広範に、みずほ銀行だけではなく地銀やメガバンクも含めて、店やソフトウェアが、こういう固定資産をどうやって処理していくかは非常に大きな問題だと思う。今回、フォワードルッキングに、かなり前倒しでやられたわけだが、そういう処理がこの不透明な時代のなかで求められていくのかどうかを伺いたい。
(答)
1点目は個別行に関するご質問であり、全銀協会長会見の場でコメントするのは相応しくないが、簡単に申しあげる。
時代の大きな転換期において、前に進むための構造改革を行い、リセット、リスタートしなければいけないという強い想いがあった。この決断をするにあたって、一番大切にしたのは、お客さまにどのような影響があるか、という点である。例えば、CET1比率など、お客さまに対する資金供給能力に大きく影響を及ぼす自己資本の状況がどうなるかという検証もした。今回の処理は、すでにCET1比率から控除されているソフトウェアが中心であり、貸出を行う体力やリスクテイク能力に与える影響が極めて限定的ということが確認されている。
いずれにしても、過去の軛から解き放たれ、将来の負担をできるだけ軽くし、お客さまに価値あるサービスを提供するという心構えで新しいスタートを切る。こうしたことを踏まえて今回の決断をしたところである。
2点目は、個々の銀行ごとに異なる事情があるので、ひとつの正解があるわけではないと思う。もちろん、減損会計は基準に則った対応が大前提であり、各行がそれぞれ、自らの資本の状況や今後の収益状況、さらには経営環境を見極めたうえで行うということである。その意味で一律の正解があるわけではないということである。
ただ、銀行業界には大きな波が押し寄せていると感じている。顧客接点のあり方やネットワークの作り方も含めて大きな転換が求められている。固定資産の処理をどうするかはその脈絡のなかで検討される問題だ。先ほど来申しあげているように、ビジネスモデルの転換だけではなく、経営者のメンタルモデルの変革、意識改革が必要な局面に来ているということは共通の課題だと思う。
(問)
会長、ありがとうございました。
本日が会長任期の最後の会見ということで、最後に一言いただきたい。
(答)
ありがとうございます。この1年間、全銀協会長としての任を務めるに当たり、こちらにいらっしゃるメディアの方々も含め、多くのご関係者の方々からお力添えをいただいた。
来月からは、三井住友銀行の髙島頭取が会長に就任される。
来年度を見据えていくと、冒頭にも申しあげたとおりマクロ環境に不安定要素を抱えるなか、いかに銀行のビジネスモデルの変革を確固たるものにし、銀行ならではの付加価値を社会に還元できるか、その真価が問われる極めて重要な1年になると感じている。
また、来年度は数多くのイベントもある。5月の改元、10連休に始まり、6月には日本が初めて議長国となるG20大阪サミットが開催される。10月には消費増税を控えており、金融界にとっては、同じ秋口にFATFのオンサイト審査がある。
このようななかではあるが、髙島頭取には全銀協の新会長として卓越したリーダーシップを発揮していただき、この銀行界をしっかりと舵取りしていただけると確信している。
少子・超高齢化に伴う担い手・後継者不足など、日本が抱える多くの社会的課題は待ったなしの状況にある。わが国の経済、社会の発展のためにも、私も新会長を支え、一丸となって取り組んでいきたいとの決意を新たにしている。皆さまにおかれては、髙島新会長への一層のご支援を心よりお願いしたい。
この1年を振り返ると、まず、世界に目を向け、社会問題としっかり向き合うことの重要性を改めて感じた。この会見あるいは会見外の場で、皆さまとやりとりを通じて多くの刺激をいただいた。
例えば、先ほどご質問いただいた貧困の問題、高齢化に伴う認知症の問題、さらには8年を経た震災復興など、日本にもさまざまな社会的課題が残っている。先日、豊島区の子ども食堂へ行き、お子さま達やボランティアのお母さま達と一緒にカレーライスをいただきながら、さまざまなお話をして、感じるところもたくさんあった。また、養成講座を受講して「認知症サポーター」にもなった。さらに、毎年のことになるが、福島県いわき市の防災林の植樹も行った。
いずれも、足を運んで直接お話を聞くこと、実際に体験することの重要性を感じると同時に、やはり「答えは現場にある」ということを改めて感じた次第である。こうして得られたものを、リーダーシップをとり、しっかりと銀行界全体に伝えていくことが私の職責であるとも思っている。
改めて、この1年間のご支援に感謝を申しあげ、最後のご挨拶とさせていただきたい。本当にありがとうございました。