2019年7月18日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から1点ご報告申しあげる。
 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、令和2年度の税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に対し要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけて参りたい。
 なお、税制改正要望の内容についてご不明な点などがあれば、会見終了後、事務局までご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2問聞かせてほしい。欧米を中心に海外の中銀が緩和姿勢に転換しつつある。その前提になっているのが米中の貿易摩擦を背景とした世界経済の減速への懸念だ。この世界経済および国内景気の現状と、その先行きについてどのように見ているのか。
 そのうえで、海外中銀が緩和方向にかじを切るなかで、日本銀行としてもマイナス金利の深掘り等、追加緩和に踏み切るのではないかという見方も出てきているが、特にマイナス金利の深掘りについて、金融機関としての、また、業界としてのスタンスを聞かせてほしい。
(答)
 まず、最初の世界経済および国内景気の現状と先行きについて申しあげたい。世界経済を見るうえでポイントになるのは、ご指摘のとおり、米中の通商問題とその実体経済への影響をどう見ていくか、ということだと思う。この点に関しては、先週FRBのパウエル議長が議会証言において言及されたとおり、足元では、米中通商問題の不透明感等が、米国製造業のセンチメントの悪化、ひいては米国企業の投資の減速に繋がっていることは否定できないと思う。わが国においても、機械受注等の落込みが顕著であり、その他の国々でも同様の動きが全般に見られる。
 一方で、6月末のG20に合わせて行われた米中首脳会談で、米国の対中輸入の約3,000億ドルに対する追加関税が一旦延期され、ファーウェイ向けの規制についても緩和される見込みとなっている。また、中国による米国農産物輸入の拡大や、米中の貿易交渉の再開などについても一定の合意がなされた。もちろん、米中の対立が完全に解消したとは言えないが、一旦沈静化したと言って良いと思う。今後は、実体経済への悪影響が徐々に縮小していくのではないかとみている。
 そうなると、世界経済のファンダメンタルズはどうかということになるが、私の個人的な見解だが、基調としては引き続き底堅いものがあると感じている。米国経済をとってみても、6月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は市場予想を上回っているし、失業率も49年ぶりの低水準にあり、賃金も3%台を維持している。IMFも、先般、米国の2019年の経済成長見通しを2.6%に上方修正したところである。
 世界的に見ても、二つの点がサポート材料になると思う。
 一つは、各国とも、比較的良好な所得環境を背景に、個人消費が堅調を維持していることである。例えば、先ほど申しあげた米国に加え、日本、欧州ともに失業率は過去の最低水準にまで低下している。労働需給の逼迫により、賃金も緩やかに上昇している。こうした堅調な雇用・所得環境に支えられ、内需の回復力は底堅さを保っている。
 二つ目は、世界的に低金利環境が続くことである。米国においては、FRBのパウエル議長の発言を踏まえれば、今月末のFOMCでの利下げが既定路線である。ユーロ圏においても、金融緩和が検討されていると理解している。こうした先進国の政策スタンスの転換をみて、一部の新興国でも利下げに転じるようになっている。世界的なスロートレードの流れはそう簡単には改善しないにしても、内需に支えられて、世界景気は緩やかに持ち直していくとみている。
 次に、国内景気を見てみると、足元では依然、足踏み感が残っていると思う。今月初に公表された日本銀行の短観においても、大企業・製造業の業況判断DIが前回調査と比べて5ポイントも低下した。やはり中国向けの資本財・生産財の輸出が落ち込んでいることが大きいと思われる。一方、非製造業の業況判断DIは小幅改善となっており、内需の底堅さは維持されているのではないかと思われる。
 先行きを展望すると、わが国景気は緩やかに持ち直していくのではないかと考えている。世界経済の持直しにつれて、輸出はいずれ底打ちをすると見込んでいる。
 内需については、引き続き堅調を維持するとみている。企業部門では、人手不足対応の省力化・合理化投資や、新製品開発や新規事業開拓に向けた研究開発投資、デジタライゼーションのためのソフトウェア投資などが、今後も増加することが期待される。家計部門においても、賃金上昇などに支えられ、個人消費は緩やかに回復する見込みだ。10月に消費増税を控えているが、各種対策が講じられたこともあり、消費の下振れは一時的にとどまると予想している。
 もちろん、引き続き米中通商問題を始め、Brexitその他数多くの不透明要因が残っているので、引き続き、予断を持つことなく状況を注視していくことが重要だと考えている。
 二つ目は、金融政策に関連して欧米を中心に緩和方向にかじが切られているなかにおいて、日本銀行のスタンスについてどう考えているかというご質問だった。本件についてはかねてから申しあげているとおり、金融政策はあくまで日本銀行の専管事項なので、全銀協会長としてコメントするマターではないと思う。あくまで私個人の見解として述べさせてほしい。
 日本銀行の黒田総裁は、6月の金融政策決定会合後の会見において、追加緩和について、「効果と副作用のバランスをとり、ネットで最も効果のある措置をとることになる」旨の発言をしている。効果の面から申しあげると、いわゆる2%の物価安定の目標達成かと思うが、マイナス金利導入からすでに3年以上が経過している現状において、マイナス金利の深掘りによる物価上昇の効果については、慎重に見極める必要があるのではないかと思う。加えて、2016年にマイナス金利を導入した際には、マーケットはどちらかというと株安・円高で反応した。
 他方、副作用の面について申しあげると、これ以上のマイナス金利の深掘りは金融仲介機能のさらなる低下につながるおそれが非常に高いと懸念される。仮に実施されると、預金金利の引下げ余地がもうないという一方で、貸出金利の低下圧力は一層強まることになるので、金融機関の収益がさらに悪化することになる。2016年にマイナス金利が導入されて以降、特に地域銀行の資金利益が大きく落ち込んでいるが、そうした状況に拍車をかけることになるだろうと思われる。
 もちろん、業務環境の変化に応じて、各銀行が個別にコスト削減、あるいはビジネスモデルの見直しの取組みを進めていくことが大前提ではあるが、個別行の対応にもおのずと限界があることもまた事実かと思う。
 加えて、邦銀の収益性の悪化などを理由にして、日本国内の銀行システムの格付見通しを引き下げる動きも出てきている。これが実際に格下げにつながってくると、外貨の調達コスト上昇など、さらに収益を悪化させる要因となってくるので、悪循環的に金融仲介機能不全に陥るリスクもまた高まっていくのではないかと思われる。
 このような観点も含め、日本銀行においては引き続き金融政策の効果と副作用のバランスについて適切に検討・判断いただくようお願いしたいと思っている。


(問)
 2点、質問したい。1点目は、デジタル通貨での給与支払いについて。現在、デジタル通貨による給与支払いを解禁する方向で議論が進んでいるが、キャッシュレス化に資する取組みである一方で、安全性をどう確保するかという課題もあるかと思う。給与振込は従来、銀行が独占してきた領域であり、解禁となった場合は銀行ビジネスへの影響もあり得ると思う。銀行界としての考えを伺いたい。
 もう1点が、全銀EDIとトランザクションレンディングに関してだが、昨年12月に稼動した全銀EDIシステムを有効活用できる分野として、取引データなどをもとに審査を行うトランザクションレンディングが挙げられるかと思う。全銀EDIをトランザクションレンディングへ応用することで生まれる可能性と、実用化に向けた課題についてお聞かせいただきたい。
(答)
 最初のいわゆるデジタル給振について。現状、現金または銀行口座等への振込に限定されている賃金の支払方法について、新たに資金移動業者のアカウントへの支払いを認める議論だと認識している。
 賃金の受取り方の選択肢が拡大することは、利便性向上の観点から、給与所得者の方々にとってメリットがある話だろうと思う。決して、銀行が独占していたから、こういう話について否定的だということではなく、やはりメリットについては追求されるべきということだと思う。
 一方で、賃金、給料は生活の糧であるため、それを預かる枠組みについては、安心・安全の面で万全を期すことが極めて重要である。現金での支給に加えて、銀行口座等への振込が認められた背景には、こうした枠組みが整備されていたという事情もあったと理解している。資金移動業者を通じた賃金の支払いについても、確実な振込を行うことは当然として、万が一、資金移動業者が破綻した場合の迅速な払戻しについても、十分な安全性を確保することが重要だと思う。また、不正送金などのセキュリティ対策や、口座売買なども含めたマネー・ローンダリングのリスクについても、枠組みとしてしっかり対処していく必要が同時にあろう。
 したがって、私どもとしては、こうした点も含めて、企業、給与所得者、関係当局などの幅広い関係者としっかりと議論をして、徹底的に懸念点を洗い出したうえで、それらを丁寧にクリアしていくことが重要であり、それがすなわち給与所得者の利便性に本当に資する枠組みだと考えている。
 二つ目のご質問は、非常にうれしい質問だが、全銀EDIシステムの今後の可能性についてのご質問だと思う。
 資金調達手段が多様化してきている昨今、取引データを活用したトランザクションレンディングは、お客さまの利便性を高め、銀行のサービスレベルの向上につながる可能性を秘めていることから、全銀EDIシステムの付加価値として有望な領域だと捉えている。
 例えば、これまでは銀行で観測できなかった取引状況を取引データから確認し、企業動態を把握できるようになることが期待される。これによって、お客さまの潜在的なニーズを掘り起こし、お客さまの状況に合わせたレンディングの提案につなげることが期待できる。また、取引データを把握することで資金の流れの透明性も高まる。それをお客さまの資金繰りの改善提案など、コンサルティング機能の強化に活用できないかとも考えている。
 全銀協としては、本年4月に、「金融機関における金融EDI情報の利活用に関する研究会」を設置した。この研究会を通じて、申しあげたような全銀EDIシステムを活用した新たなサービスの可能性を見出していきたいと考えている。
 当然のことながら、実用化に向けては、お客さまの取引データの活用が広く社会に受け入れられるためにも、お客さまからの信頼・信用があくまでも大前提となる。取引データの活用に当たっては万全のセキュリティ対策を行う、必要に応じてお客さまから取引データの利用同意を得る、などの丁寧な対応が必要であることは申しあげるまでもないことだろう。


(問)
 フェイスブックのリブラに関して、27億人が利用するフェイスブックによる暗号資産の発行、普及は、既存の金融機関のシステムにどのような影響を与えるとお考えか。各国中央銀行や金融機関などには、リブラを脅威視する向きもあると思うが、所感を伺いたい。
 もう1点、金融庁が地域金融機関向けの監督指針の改正を行い、6月末から適用を開始した。今後5年、10年の収益力を試算し、問題がある先に監督対応を図ることになっている。5年、10年後も健全な姿でいるためには、この1年、2年が勝負ではないか。地銀の経営状況についての認識と、どう対応していくべきか見解を伺いたい。
(答)
 今、非常に話題になっているフェイスブックのリブラに関する受止めについて。リブラが金融システムに与える影響については、実際にどのようなサービスがどの範囲で提供されるか、それがどの程度普及するかによって大きく異なるため、現段階で確たるコメントを申しあげることはできない。しかしながら、世界のどの金融機関よりも広範なフェイスブックのユーザーネットワークを考えると、グローバルに普及する可能性は十分にあると思う。その場合、例えばプライバシー、AML/CFTなどのいわゆるマネロン対策、消費者保護、データ保護・独占、金融安定性など、さまざまな観点からシステミックリスクを十分に及ぼし得る。そうしたこともあり、各国当局や議会、その他の方々が大きな懸念を表明されているということだと理解している。既存の規制や制度がこうした動きに十分対応可能かしっかり検討しておく必要があると思う。
 すでに、世界各国の当局などがリブラへの規制の必要性について言及している。例えば、パウエルFRB議長は、先週10日の議会の公聴会において、リブラに対して専門のワーキング・グループを立ち上げたとおっしゃっている他、世界各国の中央銀行や政府とも協働し、リブラに対する調査を開始したとも発言をされている。
 一方、リブラが金融機関にとって脅威になるかどうかは、さまざまな見方がある。銀行界への挑戦ではないかという見方も当然ながらある一方、逆に、銀行とは補完的な関係に立てるのではないかといった見方もある。
 あくまでも私個人の意見として申しあげれば、そのネットワークの大きさゆえに、新たな通貨圏、経済圏を形成する可能性があるのではないかと思っている。そうすると、それは既存の政府や中央銀行がコントロールしていたこれまでの通貨システムとは異なり、コントロールの及ばない存在となり、我々銀行を含む既存の金融システムを侵食する可能性もあるのではないかと思われる。現時点で、若干考え過ぎかもしれないが、それぐらいのある種の危機感を持って、我々銀行自身も変わっていかなければならない、あるいは、我々もそういう動きを踏まえたうえで、どのように我々の金融力や、対応力、利便性といったものを高めていくべきなのかをよく考える必要があると思っているところである。
 二つ目は、地域金融機関向けの監督指針の改正に関して、5年、10年という今後の姿を考えると、この1年、2年が非常に重要ではないかと、どう認識しているのかというご質問だったと思う。
 わが国の金融機関を取り巻く厳しい業務環境を踏まえると、地域金融機関に限らず銀行界全体にとって非効率性の改善などに向けた構造改革が必要であることは論を俟たないところである。また、構造改革の成果が結実するためには一定のタイムラグ、一定の時間が必要であるということも踏まえると、早目早目の対応が必要という考えにも異論はないところである。
 他方、冷静に2018年度決算をご覧いただくと、ほとんどの地域金融機関が依然として最終黒字を維持しているし、相応の自己資本を備えている。地域や個別行により、当然のことながらそれぞれ状況は異なり、構造改革の時間軸について一概に地域金融機関全体について申しあげるというのはなかなか難しいところがあろうかと思う。
 同時に、冷静にご覧いただくと、収入、粗利の減少幅を何とかコストの削減で補っておられ、実質業務純益においてはほぼフラットな状況を保っているのが昨年の決算の全体像である。もちろん、コア業務純益で言うと、大きく資金利益等で減益になっているという実態が、まさにチャレンジの実相である。
 実際に地域金融機関のうち8割の銀行が経費を実額で削減している。各行が危機感を持って構造改革を進めていることの証左であろうと思われる。また、7月10日に公表された横浜銀行と千葉銀行の業務提携のように、従来にないような新たな施策にも果敢に取り組んでいることも事実かと思う。
 今回の金融庁の監督指針の改正や、6月に閣議決定された「骨太の方針」で示された地域銀行の経営統合に係る特例は、こういう地域金融機関の経営努力を後押しするものであろうと思われる。今後も、地域金融機関において健全な危機感の下、構造改革やビジネスモデルの転換に取り組んでいかれるものと思っている。


(問)
 2点教えてほしい。一つは、メガバンクの一つであるみずほフィナンシャルグループのシステム統合が完了した。国内最大級の銀行のシステムの構築が無事終了したことをどのように受け止めているか。また、これに関して、全銀システムに関しても今年中に新システムの移行を控えていると聞いている。現在の準備状況や今後のスケジュール、現システムと新システムの違いについて教えてほしい。モアタイムシステムもすでに稼動していると思うが、そちらへの影響はどう出るのか。
 もう1点、政府が今、韓国向け輸出管理の運用見直しを行っていることについて、日本経済や銀行ビジネスへの影響をどのように見ているか。また、本日、韓国中銀が1.75%から1.50%への利下げを決定し、その要因として日本の輸出管理の見直しも挙げているが、それぞれ受止めを教えてほしい。
(答)
 まず最初の質問、みずほさんのシステム統合がついに先般終了された。長い道のりだったと思うが、改めてこの間の関係された皆さまのご尽力に対して敬意を表したいと思う。全銀協会長としても、今後色々なかたちでの業務・協力等について話を進めさせていただきたいし、楽しみにしている。
 それに関連して、次期全銀システムの更改についてのご質問があった。今年は、銀行界の振込を取り扱う中心システムである全銀システムの更改の年であり、ご指摘のとおり11月ごろに次期、第7次全銀システムに更改する予定である。具体的には、システムの安全性や信頼性の向上の観点から、処理能力の増強、サイバーセキュリティ対策のさらなる強化などを図ることを目的としている。
 準備はほぼ予定どおりに進んでいて、7月から9月にかけて最終テストにあたる総合運転試験を実施していくフェーズに入っている。具体的な移行の予定日は総合運転試験で一定のめどがついたタイミングで対外告知させていただく予定である。
 また、システム更改の際には、安全かつ確実に更改作業を行う観点から、昨年10月から開始しているモアタイムシステム、これは平日の夜間・土日・祝日であっても即時に入金ができる振込専用のシステムであるが、これの停止を予定している。停止期間中は、他行宛ての振込が即時入金できないことになるので、お客さまにご不便をおかけすることになるが、稼動予定日の公表と併せて、銀行界全体でお客さまへの周知をしっかりと図っていきたい。
 なお、更改作業に当たって各銀行のシステムやATMを停止するということはない。あくまで全銀システムとモアタイムシステムだけに一部制約が起こるということである。
 2点目、7月1日に発表された韓国向けの輸出管理の運用の見直しについては、その後の政府からの説明を踏まえると、韓国との信頼関係の悪化や輸出管理をめぐる不適切な事案の発生などを踏まえて、安全保障を目的とする輸出管理制度を厳格に運用する措置であると理解している。全銀協会長として、本件に関する政府方針についてコメントをする立場にはないため、あくまで経済活動への影響に絞って申しあげたいと思う。
 そもそも今回の措置は輸出が禁止されるものではなく、あくまで包括許可から個別許可への変更であるという点や、対象品目の市場規模が比較的小さいという点を踏まえて考えると、経済全体への影響は軽微であるとの見方がある。
 実際、私どものお客さまからお聞きする限りにおいて、現時点で大きな影響があるという声は必ずしも聞こえてきてはいない。
 しかしながら、半導体のサプライチェーンがグローバルに複雑に広がるなかで、現時点において日本経済や銀行ビジネスへの影響を正確に見極めるのはなかなか困難であろうと思われる。まずは、今回の措置を受け、輸出管理がどの程度厳格に運用され、韓国向けの輸出取引に具体的にどのような影響が出てくるのか注視をしていくことが重要であろうと思う。
 また、本日、韓国中銀が政策金利を利下げすることを決定したことについては、金利政策について我々がコメントをする立場にはないわけであるが、韓国中銀の総裁は、日本の輸出規制が現実化して、場合によって強化されるようなことがあれば、輸出、さらには韓国経済への影響は小さくないだろう、とのコメントもされているようであり、私どもとしては引き続き、韓国経済全体の動向にも十分に注視して参りたいと思っている。
 いずれにしても、先行き不透明感が高まったということは事実だと思う。不透明感の高まりは経済活動にマイナス影響を与える可能性がある。したがって、両国間の信頼関係が早期に回復されることを期待したいと思う。


(問)
 先日、LIBOR廃止に関連して、市中協議案が出されたが、LIBOR廃止のインパクトについて改めて教えていただきたいのが1点。
 関連して、細かい話になるが、海外ではLIBOR廃止後の代替金利として、オーバーナイト、リスクフリーレートの後決めでの貸出や債券が発行されるなど、実績もちらほら出てきている。ただ、日本で入れたらどうなるのかという話を聞いていると、結局、後決めなので、企業が借入れしたときに金利が確定しないで借り入れることになるので、今の日本のお客さまは受け入れられないのではないかという話もある。そうすると、どうするのかということになると、TIBORを使えばいいではないかという話もある。銀行の話を聞いていると、TIBORを使いたいのかと思うが、そうすると、グローバルな金利指標と国内の金利指標が一致しないことにもなるかと思う。これがずれてもいいのかということを見通しも含めて考えを伺いたい。
(答)
 LIBOR廃止に絡んで包括的な質問をいただいたので、それぞれの項目に区切るよりもまとめて可能な限り包括的にお答えしたい。
 まず、LIBOR廃止の影響についてだが、ご承知のように、LIBORを参照する取引というのは、一般的に貸出や一部預金や債券などのキャッシュの商品とデリバティブの取引に大きく分かれる。全銀協として、邦銀各行の取引状況をつぶさに把握しているわけではないので、なかなか全体の影響を今ここで数値的にお答えするのは難しいのが実態である。
 また、個別行にしても、現在、具体的な取引残高を確認しつつ、対応について検討しているというのが現状である。これはもう5年前の数字になるが、金融安定化理事会、つまりFSBが設置していた市場参加者グループ、Market Participants Groupという組織があったが、ここが2014年3月に推計値を公表している。これが一つのヒントかと思うが、それによると、円LIBORを参照する取引の総額は3,000兆円を超えているということであり、しかも、その大半はデリバティブ取引が占めているようである。LIBORが廃止された場合には、まさにおっしゃったような後継の金利に、いかに円滑に混乱なく移行できるかが実務的に極めて大きなポイントであり、その際の具体的な留意点としては、大きくオペレーション上の影響と財務的な影響の双方を考える必要があると考えている。
 オペレーション上の影響としては、まずはLIBORを参照する取引のカウンターパーティや、個別のお客さまごとにLIBOR廃止後にどういう金利を使うかを交渉したうえで合意をしなければいけない。この実務負担は、おそらく膨大なものになる。それから、LIBORの後継金利に対応するための事務プロセスやシステムといったものにきちんと対応する必要がある。これは非常に大きな負担になるだろうと言える。
 もう一方、財務的な影響について言うと、LIBORから後継金利に、つまり別の金利建てに移行することに伴い、参照する取引の価値が変化する。それにより何らかの損益が発生することが考えられる。また、まさに最後の方でおっしゃっていたが、デリバティブ取引とキャッシュ取引、それぞれに使用する後継金利が仮に違ってきた場合、後継金利に移行する時期が異なる場合等に、従来、ヘッジ会計の対象になっていた取引に時価振れが発生する。要はヘッジ会計が認められず、時価振れが発生する。この辺から財務的に影響が出てくる。それに限らないが、これらの影響が考えられる。
 したがって、これらの影響は決して銀行に限ったことではなく、LIBORを参照する取引を行っている市場参加者全員に及ぶ、個々のお客さまにも及んでくる話になる。また、財政的な影響については、後継金利が何になるかにより、その大きさも大きく変わってくることになろうかと思う。このため、具体的な影響の大きさを現時点で把握することは極めて困難と言わざるを得ない。しかしながら、90年代以降、非常に大きく拡大してきたデリバティブ取引もあり、市場への影響は極めて大きなものになることが懸念される。
 ご承知のように、本邦においては、昨年8月、日本銀行が事務局となり、日本円金利指標に関する検討委員会が設置されている。そこで、円LIBORからリスクフリーレートへの移行に向けた議論が行われている。後継金利の選択肢の一つとして、リスクフリーレートがどのようなものになるかにより影響も変わってくる。したがって、その影響をミニマイズできるような後継金利を整備することが重要であるし、同時に海外の動向を見ながら、官民を挙げて慎重かつ迅速に検討、対応していくことが重要かと思っている。銀行界としても、実務的な観点を踏まえながら、積極的に参加、貢献していきたいと考えている。
 以上が一般論だが、同時に、海外で一部先行されている、あるいは、すでに実務的に一部使われている後決めの金利についての話もあったと思う。今のような状況であるので、市中協議案では大きく五つの選択肢が示されているが、現時点ではまだ市場が構築されていないものも含めた代替金利についての議論になっている。現時点で、コメントを一括して申しあげるのはなかなか難しいところがあるが、基本的には直ちに利用できるということであれば、オーバーナイトのリスクフリーレートを毎営業日の実績値を複利で計算する方式か、それともおっしゃるとおりTIBORしかないというのが現状である。このため、特に海外においては、オーバーナイトのリスクフリーレート、複利、後決め方式による貸出や債券発行に踏み出す動きが出始めているのだと考えている。
 しかしながら、おっしゃったとおり、わが国において、この後決め方式が浸透するかといわれれば、あくまで個人的な感触であるが、現時点では非常に難しいのではなかろうかと考えている。理由は三つある。
 一つは、わが国の商慣習上、今まで後決めということは基本的に過去になかった。特に貸出の世界においては、金利は予め交渉し、前に決めるというのが普通であり、そもそもそれを変えること自体に非常に大きな抵抗感が各お客さまにあるのではなかろうかと思われる。また、後決めとなると、金利が適用開始の時点、つまり貸出を実行した時点では判明しないので、借り手のお客さまからすると、資金の返済計画が具体的に立てづらいのも実務的には大きな論点だろうと思う。
 二つ目は、金利が早期に確定しないことに起因する問題であり、今申しあげた1点目と関連するが、後決めになることにより、金利の実額が確定しない。したがって、キャッシュフローの不確実性が高まり、資金繰りの管理に困難を伴う、あるいは、資金繰りに支障が出る可能性がある。加えて、例えば決算期をまたいだ取引になると、決算時点で未収、未払い利息を会計上どのように認識するのかという問題もなかなか難しい問題になってこようかと思う。
 最後に、三つ目は、先ほど一般論として申しあげたが、システムやオペレーション上の問題である。これまでの商慣習を変えて後決めを導入するためには、システムの導入や更改が必要になってくる。これは計算方式をかなり変える必要が出てくるため、業界全体やお客さまによってはコストとしてはかなり甚大なものになってくるだろうと懸念される。また、その準備期間も必要になってくるのではなかろうかと思う。また、さらに申しあげると、後決めを前提とした資金繰り、キャッシュフロー管理といったオペレーションの面でも抜本的な見直しがそれぞれ必要になってくる。
 今後、海外において、後決めの方式が拡大していく可能性もあるので、わが国においても、特にクロスボーダー取引の多い市場参加者を中心に、この点もオプションとしては対応を検討していかなければならないのではないかと思う。
 グローバルな平仄という点について言うと、基本的には、例えば国内では金利計算は全て365日をベースにしてやっているが、海外では360日ベース、デリバティブ、その他についてもそうである。このような差異もあるので、完全に国内と海外が一致していなければいけないということを、必ずしも意味しない。そうはいっても、市場の流動性や取引参加者の利便性といった観点から考えると、可能な限り、通貨間で平仄がとられることが望ましいのは言うまでもない。かつクロスボーダーのいろいろなヘッジ取引として、関連する取引がそれぞれ違うというのも、おっしゃるとおり、実務的には非常に大きな論点かと思う。したがって、引き続き海外の動向などにも留意が必要であろうと思う。
 若干長くしゃべり過ぎたが、これほど実務的にも非常に困難なプロジェクトはないというのが率直なところかと思う。しっかりと紐解いて検討しなければいけないということかと思う。


(問)
 韓国のところでもう一つお聞きしたい。今後この問題が深刻化した場合、韓国では日本が韓国に対して金融規制措置をとるのではないかというような話も出ているようだが、これについて受止めと、銀行ビジネスにどのような影響が出るかをお聞きしたい。
(答)
 確かに、先日発表された韓国向けの輸出管理の運用見直しに関連して、さまざまな話が飛び交っているということは認識している。
 しかしながら、先ほど申しあげたとおり、7月1日に発表された輸出管理の運用見直しということ自体は、繰り返すが、安全保障を目的とする輸出管理の厳格運用ということであるので、今おっしゃった、いわゆる金融規制措置だとか、それも含めた政府による対抗的な制裁措置ということとは性格が全く異なるということだろうと思う。
 一般的に申しあげると、現時点で民間においては金融を含むさまざまな業界においてしっかりとしたビジネス関係が健全にかつ清々と行われているという中、私どもとしては従来どおり、双方ウイン・ウインのビジネス関係を維持したいと考えており、その方向に向けて両国間の信頼感の回復を期待するところである。
 また、仮に、金融規制その他の措置が行われると両国にとってデメリットや課題が出てくると考えられるので、個人的には是非回避してほしいと感じている次第。


(問)
 先ほどのLIBOR廃止問題について追加で伺いたい。いろいろ代替指標とかリスクフリーレートとか、非常にテクニカルで難しい問題で、この前もFedのウィリアムズNY連銀総裁が、もっと早く動かないとまずい、と言っているなかで、先ほど会長もおっしゃったように、リスクフリーレートを構築しようとすると、なかなかどれも「帯に短し、たすきに長し」みたいな状態になっている。2021年末に本当に終了できるのか、どのくらい本当に終了するものなのか、これだけ事法も金法もなかなか動けないなかで、それこそBrexitのように延期になるだとか、この辺のリアリティーをどのぐらいに見ているか。
(答)
 お答えが難しいご質問だが、あくまでこのLIBOR廃止というか、ポリシーマターというのはその監督当局であるイギリスのFCA、あるいはその公表主体となっているIBAの判断によるものであり、それに対して、我々からコメントするのはちょっと筋違いである。先ほど申しあげたとおり、実務的には極めて大きな、かつ相当膨大な作業が伴う変更になるというのは、マーケット参加者として偽らざる実感である。
 したがって、2021年までに本当に新しい後継金利に移行していけるのかということについては、相当にチャレンジングなプロジェクトであるというのは申しあげても良いのではないか。現時点で、全銀協の会長として、そもそもその実現は無理だとコメントすることは差し控えたいが、実務的には極めてハードルが高い案件だろう。


(問)
 情報銀行についてお伺いする。情報銀行は、一般的に、個人から預かった情報をデータ提供者の同意の下で企業などの第三者に提供して、その対価を個人に還元するビジネスモデルだと思うが、第三者へのデータ提供を前提とせずに個人情報を適切に管理することで対価をもらうようなビジネスモデルも存在するのではないかと思っている。改めて、情報銀行の定義についてお伺いしたい。
 2点目は兼業・副業についてだが、みずほフィナンシャルグループが、先日、今年度中に社員の兼業を認める方針だと発表し、銀行界でも兼業が広がりつつあるかと思う。社員の労務管理の難しさとか、顧客情報を多く持つ銀行の兼業の難しさ、利益相反の問題とか情報管理の問題等々いろいろな課題があると思うが、それについて所見を伺いたい。
(答)
 最初は、いわゆる情報銀行、各行がいろんなかたちで取り組もうとしている、その定義についてのご質問だと思う。
 全銀協として定義をする立場にないことだが、ご承知のとおり、総務省と経済産業省が、「情報信託機能の認定スキームのあり方に関する検討会」を通じて策定した情報信託機能の認定に係る指針によると、情報銀行とは二つの要素がある。すなわち、「パーソナルデータストア」、これは個人が自らの意思でパーソナルデータを、個人情報を蓄積・管理するための仕組み、それからプラス、「情報信託機能」、すなわち個人の指示または予め指定した条件にもとづき、個人に代わり妥当性を判断のうえ、データを事業者等第三者に提供する機能を併せ備えているものと定義をしている。そうすることによって、個人の豊かな生活の実現を理念として営む事業であると理解している。
 したがって、ご質問にあったそのうちの片方だけ、すなわちここで言うパーソナルデータストアだけであると、この認定指針にもとづく定義に従う限りにおいては、いわゆる情報銀行にはならないことになる。
 片や、いわゆるデータビジネスという観点からすると、これもあくまで個人的な見解であるが、個人の意向、指示により第三者に対してデータ提供を伴わないパーソナルデータストアの機能だけでも、個人が十分な便益を享受でき、対価を払うに値するサービスになり得ると思う。
 個別行の話で申しあげると、例えば医療データについて幾つかの方々と組んで今、実証事業をしている。これはあくまでこの情報銀行の定義に従う二つの機能を併せ持ったものと想定しているが、その前の段階として、例えば産婦人科で子どもの第1子のときのデータがあれば、第2子が誕生するときに非常に有用である、あるいは仮に病院が代わっても、産婦人科が代わっても、その辺はシェアすることに非常に意義があるという話は、現にお医者さんあるいは出産しようとする方々からはメリットを感じるとの声も聞こえている。
 したがって、一概に、この認定指針に照らしてこれが情報銀行である、それ以外は違うんだと厳密に言っても、ある意味ではあまり仕方ないことであって、要はニーズがあって、そこに対価を払うだけの価値があるものであれば、十分に成り立つビジネスではないかと期待している。
 二つ目のご質問は、銀行員の兼業の話だと思う。全銀協として個別の各銀行の取組みの是非についてコメントする立場にないが、一般論として兼業・副業について申しあげたい。
 メリットとしては、従業員のモチベーションの向上や、スキルの向上などが挙げられると思う。また、銀行の観点からも、広く社内外で通用する人材を育て、また、銀行外で培われた経験がその人材の価値をより一層高めることになるという意味では、兼業はそのための選択肢となり得ると思われる。
 他方、ご指摘のとおり、銀行は企業の経営情報や個人情報を取り扱う業種であるため、情報管理の徹底は極めて重要な論点である。また、他社を兼業することに起因する利益相反や従業員の過重労働など、いろいろなリスクにも十分配慮したうえで、個別行にて検討される課題であろうと思う。
 みずほさんはまさにそういう打出しをされたと認識しているが、ちなみに、SMBCにおいては、定年延長を前提にした60歳以上のシニアの方々の働き方の多様化を検討している。例えば週3日の出勤の雇用形態をフレキシブルに選択できるとし、その場合に限って兼業を認める方向で検討している。あくまで、先ほど申しあげたリスクが完全に遮断されることが大前提であるが、個別行としても一つのオプションとなることは間違いないだろうと思う。


(問)
 セブンペイについてお尋ねしたい。セキュリティの甘さから不正利用問題が発覚したが、それに対する受止めと、各行がキャッシュレス決済への取組みを進めるなかで、今回の問題がキャッシュレス決済への不信感を増長することに繋がらないかという懸念について、どのようにお考えか。
(答)
 セブンペイのセキュリティ上の問題について、今回の事案は、我々が直接説明を受ける立場にないので、あくまで経産省の発表、あるいはセブンペイが行った会見の内容によって判断するしかないが、2段階認証の実施など、キャッシュレス協議会において策定されている不正利用防止対策に関するガイドラインが必ずしも遵守されていなかったようであり、そこにセキュリティ上の甘さがあったということのようである。しかしながら、これはあくまで個別の事案であろうと考えている。
 キャッシュレス決済の普及に向けては、各事業者が安心・安全なサービスを提供することが大前提であり、今回の不正の事案を受けて、利用者側も事業者側も改めてセキュリティの重要性を再認識されたということと思う。
 キャッシュレスの推進は、わが国の成長戦略の一つに位置付けられているものであり、こうした事案の発生がキャッシュレス決済拡大の動きに水を差すことのないように、銀行業界としてもガイドラインの遵守は言うまでもないが、それに留まることなく、最新のセキュリティ情報、セキュリティ技術を収集したうえで、継続的にセキュリティのレベルアップに取り組むことによって、お客さまに安心してキャッシュレス決済をご利用いただける環境作りにしっかりと取り組むことが非常に重要だと考えている。