2020年1月16日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 2問伺う。今年の世界経済との日本経済の見通しについて聞きたい。日本では、今年開催される東京五輪後の景気後退懸念も指摘されているが、日本経済の展望を教えてほしい。また、昨日第1段階の合意に至った米中貿易摩擦の問題や、月末のBrexit、中東情勢の緊迫化などを踏まえ、世界経済の見通しも教えてほしい。
(答)
 まずお答えする前に、年頭なので、改めて明けましておめでとうございます。旧年中はいろいろとご指導賜り誠にありがとうございます。本年もひとつよろしくお願いいたします。
 そのうえで、まず今年の経済を展望する前に、2019年を振り返ってみたい。一言で申しあげると、先行き不透明感があったものの、辛抱強く回復を維持できた1年だったのではないかと感じている。世界経済の実質成長率は3%程度まで低下し、減速感が強かったことは否定できないが、世界的にも堅調な雇用に支えられた面が大きかったのではなかろうか。
 そのうえで、2020年について、足元、世界的に、例えば半導体産業などの製造業にも底入れの兆しが見えるほか、昨夜、米中貿易交渉の第1段階が合意に達したこと、米国においては、特に株価が史上最高値を更新するなど株式市場は総じて堅調であることから、2020年の世界経済の成長率は、2019年よりやや上向くのではなかろうかと予想している。
 地域別に見ると、先進国においては堅調な内需に支えられ、総じて潜在成長率並みの成長を確保するのではないかと見られる。Brexitの混乱が続く英国経済にとって、1月末に「合意あり離脱」となる見込みとなったことは朗報だが、英国が他国と貿易協定を結び直すためには数年を要すると考えられるので、依然として不透明感が残らざるを得ない。
 新興国においては、景気対策を背景に中国経済は底入れの兆しが見られるほか、その他の新興国経済も徐々に持ち直していくと見ている。
 こうしたなかで、本邦についても大きく崩れることなく、潜在成長率に近い成長が続くと見ている。海外景気が持ち直すなか、輸出も底打ちすることが見込まれるほか、消費増税の影響については、軽減税率や幼児教育、保育の無償化などを背景に、前回のように消費低迷が長期化することにはならないのではないかと見ている。
 さらに、オリンピック・パラリンピック開催期間中は、日本総合研究所の試算によると、政府支出の増加と国内外からの観戦客の消費支出で6,000億円程度の需要が発生すると予想をしている。このため、東京五輪後の景気については一時的な反動減は想定をしておく必要があろうかと思う。しかし、オリンピック・パラリンピック関連の公共投資の上積みが限定的だったほか、都心部の再開発など民間投資が増加傾向にあることから、オリンピック・パラリンピック後も建設需要は高水準で推移する見通しである。それらを勘案すれば、景気の腰折れが懸念されるほどの調整ではないと思われる。
 総じて見ると、世界経済は回復基調を辿ると考えているが、引き続き米中の第2段階以降の合意に向けた交渉など不確実性が残る。足元においても、中東あるいは東アジアでの地政学的リスクという新たな不確実性も台頭してきている状況である。米中の交渉問題に関しては、あくまでも昨夜は第1段階の合意であり、今後とも中国の補助金政策など非常に大きなテーマが残っている。よりハードルの高い第2段階の交渉については、依然として見通しが立っていない。そうしたなかで、足元では、米国の製造業は、貿易保護などによるプラス効果よりも、各種コストの上昇や報復関税のマイナス効果が大きくなる結果、雇用が減少しているとの分析、報道も見られる。こうした保護主義政策の実体経済への影響という観点からも、引き続き状況は注視していく必要があろうかと思う。
(問)
 規制緩和について、マイナス金利の長期化もあり、金融機関の収益状況は厳しい状況が続いている。そのなかで、異業種から金融業への参入が相次いでいる。金融機関は新たな収益の柱を見いだせずにいるように見えるが、改めてこのような状況を打開するためにはどのような規制緩和や改革が必要と考えるか。
(答)
 規制緩和を考える際に重要なポイントは、あくまで国民経済の発展、成長に資するかどうかという視点であろうと考える。本年度の全銀協の活動方針として、「新時代の経済・社会的課題解決への貢献」を掲げているが、私ども銀行は、ファイナンスを軸としてお客さまの課題解決をサポートする存在になっていくことが何より重要である。実際に、我々銀行に対する法人のお客さまからのご要望も、人材や取引先、販売先の紹介、あるいは海外展開の支援など、ますます多様化、高度化していることを実感している。
 また、リテールの分野においても、銀行の最大のセールスポイントである安心・安全を軸に、ファイナンスを超えて、データの保持・管理や利活用といった新たなサービスを提供する余地が大きくなっていると考えている。
 一方で、銀行、銀行グループには、他業禁止の規制をはじめとして、引き続き厳格な業務範囲規制、業務制約が課されており、こうしたお客さまの多様なニーズに機動的、包括的にお応えするのが難しい状況にある。2016年の銀行法改正により、銀行は金融庁の個別認可の条件の下で、銀行業高度化等会社を保有することが認められ、業務範囲規制は、少しずつではあるが柔軟化されてきていると認識している。ただし、環境の変化はさらにダイナミックであり、少子高齢化やデジタライゼーションの進展などのスピードも極めて速い。
 こうしたなかで、私ども銀行としては、ビジネスモデルを不断に見直し、進化させていくことが必要であり、お客さまのニーズにより的確に対応していくためには、例えば金融、非金融の垣根を越えた複合的なサービスを提供すること、あるいは金融機関と事業会社の連携を加速させることが必要となる。このような観点から、業務範囲規制、業務制約などの規制のあり方を抜本的に見直すことを検討いただきたいと考えている。
 一例として申しあげると、高齢化が進展するなか、私ども銀行にも介護施設を紹介してほしいといった、非金融分野のニーズを聞くことがある。しかし、銀行は、介護施設の紹介はできても、介護施設の契約を代理・媒介することはできない。お客さまのニーズにワンストップで応えることができないわけである。他方、一般事業会社においてはこのような制約がなく、ワンストップで対応が可能であり、こうした点についてイコールフッティングを確保していただくことも重要であると考えている。


(問)
 預金保険料に関するお尋ねである。保険料だが、これまで3年連続の引下げとなっているが、今年度に関しても銀行界として引下げを求めていくのか。金融庁が預金保険の可変料率導入を検討していると思うが、引下げの議論にどう影響してくるとお考えなのか、併せてお願いしたい。
(答)
 預金保険については「令和3年度末に責任準備金が5兆円程度になるように積み立てを行っていく」ということが当面の目標とされており、預金保険料率はこの目標を達成できる水準に定めるとされている。
 一方で、預金保険機構において、翌年度の預金保険料率を審議する際には、積立目標に対する毎年の積立状況をモニタリングするとともに、付保対象預金残高の実際の伸びなど、預金保険を巡る環境変化などを踏まえた点検を行うこととされている。
 したがって、来年度の預金保険料率が検討される際にも、モニタリングの結果や環境変化などを踏まえた点検にもとづいて検討が行われることを期待している。
 可変料率については、まさに今後、具体的な制度設計が議論されていくものと認識しており、少なくとも5兆円の積立目標が達成されるまでは、基本的には今申しあげた検討の枠組みのなかで整斉と毎年度の料率が決定されていくのではないかと考えている。


(問)
 オープンAPIについて、名古屋銀行が昨年スクレイピング契約を電代業者と締結した。名古屋銀行はシステム更改までの暫定的な措置という位置づけで契約を行っていると思うが、期限が5月末に迫るなかでスクレイピング契約を結ぶ動きがほかの銀行に出てくることも予想される。会長は前回の会見でスクレイピングを暫定的な措置と位置づけるべきだという旨の発言をされていたが、その考えに変わりはないか。また、時限を設けずに暫定的にスクレイピング契約を行う場合、一定程度目線を揃える必要があるのではないかと思うが、いかがか。
(答)
 名古屋銀行というお話があったが、個別行の事例についてコメント申しあげることは控えさせていただきたい。
 前回会見で「スクレイピング契約は暫定的な措置として位置づけられるべき」だと申しあげたその考えに変わりはない。あくまでもAPI接続が本筋であり、全銀協としてもAPI接続に係るセキュリティチェックを時短化する取組みとして、昨年12月から、NTTデータに電代業者のセキュリティチェックを代行していただくスキームを会員行に提供するなど、API接続による契約を加速化する取組みを行っている。
 なお、前回の会見でもご案内申しあげたが、全銀協においては、スクレイピング契約を行う際の留意点を取りまとめており、そのなかでも、スクレイピング契約はAPI接続までの時限的な措置とすべき、という考え方を盛り込んでいる。
 こうした内容や、改正銀行法の趣旨を踏まえれば、個別行の事情などによりスクレイピングによる契約を締結する場合であっても、API接続による契約へ移行することを前提とした時限のある契約となるものと考えている。ただ、その時限を一定の目線で揃えるということは、個別行の事情がそれぞれに異なるという意味で、先ほど例示された銀行のように、システム統合などが控えておられるケースもあるだろうし、個別に銀行の事情が異なるであろうから、難しいのではなかろうか。
 あくまでも個別行がAPI接続への移行までの間の暫定措置として、そういう考えをしっかりと持ったうえで個別に対応していくことが必要であろうと考えている。
(問)
 日本郵政に関して、新体制が1月6日に始動したが、新体制に望まれることは何か。昨年末の前体制の退任記者会見の際に、規制によってビジネスがうまく展開できていない旨の発言があった。全銀協として、日本郵政のさらなる規制緩和の要望に対してどのような意見をお持ちか伺いたい。日本郵政と民間金融機関の共存共栄のあり方や郵便局の利活用などに関しても意見を伺いたい。
(答)
 日本郵政グループに関して、かんぽ生命の不適切な保険販売問題などを受け、新体制が始動したことは承知している。全銀協の会長として、個別の金融機関の体制について詳しくコメントすることは差し控えさせていただく。
 あくまで私個人の立場で申しあげると、1月9日の新体制の記者会見においてコメントされているとおり、速やかに調査を進め、お客さまの不利益を一刻も早く解消することにより、信頼回復に努められることが一番肝要であろうと思っている。
 また、昨年12月27日の日本郵政グループの記者会見において、前経営陣が、経営上の課題として日本郵政グループに課されるさまざまな制約について言及されたことも認識している。全銀協は銀行の業界団体であり、ゆうちょ銀行以外の日本郵政グループ各社が、今後、新体制の下でどのような規制緩和を要望されるのかは、承知する立場にない。したがって、意見を申しあげることは差し控えたいが、ゆうちょ銀行に対しての私どもの考え方は、従来から申しあげてきていることといささかも変わりはない。
 具体的には、預入限度額規制の緩和については、他の金融機関等との間の競争関係や、ゆうちょ銀行自身の経営状況に与える影響等を勘案した慎重な検討が必要である。また、新規業務への参入についても、公正な競争条件の確保、利用者保護、地域との共存等の観点を総合的に検討し、その可否を判断する必要があると考えている。
 最後に、日本郵政と民間金融機関との共存共栄のあり方についてであるが、これまでもゆうちょ銀行と民間金融機関は、地域経済の活性化やお客さまの利便性向上のため、それぞれの機能や郵便局ネットワーク等を含めた経営基盤を活かしつつ、連携・協働を推進してきている。今後も、お互いの強みを活かす形で、地域経済の発展や、国民の安定的な資産形成に貢献していくという考え方でやっていくことが、重要であろうと考えている。


(問)
 2点伺う。4月に民法の改正債権法が施行される。銀行界において、経営者以外の個人が保証人となる場合、公正証書による保証意思の表明が必要となる改正の影響が大きいと思うが、銀行実務に与える影響と法改正にあたっての銀行界の対応などをお聞きしたい。
(答)
 民法の改正債権法は、2017年5月に成立し、今年の4月1日に施行される予定である。民法制定以来、約120年ぶりの大きな見直しであり、社会経済の変化への対応を図るために実質的にルールの変更をしたものや、従来から判例や実務のなかで通用してきている基本的なルールを明文化されたものが入っていると理解している。
 改正内容は多岐に亘るが、経営者以外の個人が保証人になろうとする場合に、公正証書により保証意思の表明が必要となることについては、ご指摘のとおり、銀行実務に大きな影響を与える改正の一つである。
 全銀協においては、今回の改正債権法の施行に当たり、会員行の円滑な準備を支援するために、説明会の開催や、Q&A、あるいは各種ひな型の提供など、会員行向けに各種情報提供を行ってきた。特に公証人による保証意思確認手続については、個別のQ&Aを作成し、会員行向けに提供済みである。各会員行においては、全銀協が提供した情報も参考にしながら対応を進めていると認識している。
 ちなみに、SMBCにおいても、各種手続の見直しを進めており、例えばアパートローンについては、今回の法改正の趣旨も踏まえ、原則として法定相続人になることのみをもって連帯保証人には徴求しない方針である。
(問)
 もう一点、経団連は今年の春闘交渉で新卒一括採用、年功型賃金、日本型雇用制度から脱却したいと重点課題に掲げているが、どう受け止めているかということと、銀行界において新卒一括採用、年功型賃金の見直しを行っている事例があれば教えていただきたい。
(答)
 日本型雇用制度をどう定義するかについてはさまざまな議論があろうかと思うが、一般的な解釈として言われているのは、新卒一括採用や長期雇用あるいは年功型の賃金になろうかと思う。それらについて申しあげると、良い面もあれば悪い面もあると思う。
 良い面としては、従業員に対して雇用や経済面での安心感を提供できること、企業の目指す方向性や価値観を共有しやすいこと、長期的な視点から人材マネジメントをしていくことが容易であるということ等があり、それが従来の日本企業の強みの一つであったことは間違いないと思う。
 一方で、ビジネス環境が急速かつ大きく変化していることに対応していく観点からすると、組織の柔軟性や機動性あるいは組織の新陳代謝、採用の競争力といった面で課題があることも事実だろうと思う。経団連はそのような問題意識で話をされていると思っているが、私個人の考えにはなるが、日本型雇用制度の良いところは引き続き活用しつつ、そのなかでより柔軟な制度・運用を広げていくことが現実的であり、重要であろうと考えている。
 銀行界においても、大学や大学院における専攻内容を踏まえて、プロフェッショナル人材を幅広く採用しつつ、中途採用を通じて、IT、テクノロジーなどの特定のスキルを持つ人材を広く補完することがすでに一般的になっている。
 また、SMBCの例を申しあげると、管理職として活躍した人材をより高いポジションに抜擢する際に、上司と部下の年齢とか処遇が逆転するケースも増えており、今年から改定した新しい人事制度においては、それがますます常態化する。つまり、年功型の賃金の文化は確実に変わってきている、あるいは変えようとしている。これも一例ということで、ご紹介させていただく。


(問)
 1問目は、中国の武漢で新型のコロナウイルスと見られる肺炎が相次いでいる問題である。今日、日本でもこのウイルスへの感染事例が確認された。会社としての対応になってしまうかもしれないが、この問題を受けた対応や、今後流行していった場合の経済への影響についてどう見ているか。
(答)
 中国の湖北省武漢で新型のコロナウイルスによるものと見られる肺炎が相次いでいる。そして、今ご指摘のとおり、国内でもコロナウイルスが確認された件については、当然のことながら、報道や厚生労働省等の発表を通じて認識している。これは、あくまで個別行としての対応ということであるが、過去、例えばSARS、鳥インフルといったようなかなり大きな流行が発生した際に、いわゆるBCP、ビジネスの継続計画というものについて策定をしているわけであるが、現在のこのコロナウイルスに関しては、このBCPを発動する段階には至っていないと考えている。
 したがって、現時点においては、私どもの銀行では、現地の政府機関や大使館などからの情報収集に引き続き鋭意努めるとともに、武漢への不急の出張は控えるように徹底をしている。また、香港を含めた中国全域において、引き続き室内の換気、手洗い、マスク着用等を励行し、感染予防に努めるように注意喚起している。もちろん、引き続き、現地あるいは本邦での情報収集に鋭意努め、適切な対応を随時取っていこうと考えている。
 また、経済的な影響ということについての質問もあった。現時点で、このコロナウイルスの流行がどの程度拡散していく、あるいは、どのような影響が出てくるか、確たることは申しあげられないし、材料が不足しているということである。過去のエボラウィルスが大流行した際などには、流行した地域を中心に多大な経済損失を被ったという事例もある。今回も引き続き、今後の経済影響について留意をしていく必要があろうかと思う。
 いずれにしても、現時点ではまだ材料が不足しているので、しっかりと状況を注視し、冷静かつ適時適切に対応していきたいと考えている。
(問)
 もう1点は災害時の銀行店舗の臨時休業のあり方についてである。昨今の豪雨災害や、去年銀行法施行規則が改定されたことで、特に地銀を中心として災害時に臨時休業を取ることをマニュアルで明確化する事例も増えてきている。こういった災害時の臨時休業の考え方や対応状況の変化についてどう感じているか。また、取るうえでの今後の課題があれば教えてほしい。
(答)
 銀行は従来から、わが国の金融システムにおいて重要な役割を担う、いわば公共インフラの一つであり、自然災害の発生などの有事においても、必要最低限の業務継続が求められるのが基本的な認識だと思う。
 しかしながら、近年の災害発生時には、公共交通機関の計画運休が行われることが増えており、他の公共インフラにおける災害時の業務継続の考え方にも変化が見られることも事実かと思う。このような動きも踏まえ、昨年10月、銀行法施行規則が改正され、銀行が大規模災害時に臨時休業する場合の届出の手続が不要とされたことにより、各銀行において手続的な負担が軽減されたことはもとより、心理的なハードルが下がり、より臨機応変に臨時休業の検討ができるようになったと考えている。
 こうしたなかで最も大事なことは、災害時に何を優先して対応していくのか、という基本原則を事前に可能な限り詳細に検討し、役職員に徹底していくことと考えている。個別行の話だが、私どもの緊急時対策規程における基本原則は、第1条が「人命の安全確保」として、「お客さまや地域住民、当行関係者の方々ならびに全役職員等の人命の安全確保を第一に優先する」ということを明記している。そのうえで、第2条として「公共的使命」を掲げている。緊急時であればあるほど、こういった考え方の原則を銀行全体で共有することが大切であり、それに則って現場の長が臨機応変に対応していくことが危機管理の要諦だと考えている。
 なお、全銀協においては、業務継続に関する会員行の実態把握およびさらなる高度化の取組みをサポートすべく、今年度、会員行に対し、大規模災害の発生に伴い公共交通機関が計画運休を実施した場合の対応に関するアンケート調査を実施している。そのなかでは、大手銀行、地方銀行といった銀行の規模を問わず、対応方針を規程、社内マニュアルに定めている銀行や、規程などの見直しを実施、検討する銀行があった。調査結果は、今後取りまとめをしたうえで、業務継続に関するあり方の検討に当たっての参考としていただくよう、会員行に還元をしていこうと考えている。


(問)
 IT人材について。いわゆるウォール街では、結構金融機関の大手がデータサイエンティストとか、コーダーとか、プログラマーとか、この三つの違いはどれか分からないが、とにかくたくさん雇っている、何千人、何百人と雇っていく、それでGAFAと取り合いになるのではないかという様相を呈しているが、例えば日本の金融機関で近々そういう状況に果たしてなり得るのか。
(答)
 まさにそうなっていると思う。
 一般論であるが、お客さまへ提供するサービスの向上あるいは業務の効率化の観点からも、高度なITテクノロジーの活用は金融機関にとって、もはや避けて通れない最重要のテーマの一つである。これがまずは前提の認識である。
 そして、このテクノロジーの進展をどのように事業に取り込むか、それを担う戦力をどのように確保していくか、これはあくまで個別行の戦略次第ということになる。個人的な見解ではあるが、IT企業との人材獲得における競合はもうすでに始まっており、必要なIT人材の確保はすでに大きな課題となっていると感じている。
 しかしながら、ITあるいはテクノロジー人材をどう確保するかという観点では、社員として採用するというだけではなく、自社の人材をさらにトレーニングする、デジタルその他の新しいテクノロジーについて人材のリスキルを行う、あるいは外部のテクノロジー企業と特定の分野で連携、あるいは合弁会社をつくるなど、さまざまな戦力の確保の仕方があるというのもまた事実である。
 個別行の話になるが、本年度、2019年度入行の新卒採用からIT等を活用した新たな金融ビジネスの推進、さらなる銀行業務の高度化、あるいはトランスフォーメーションを担う人材の獲得を目的に、総合職デジタライゼーションコース、そして総合職クオンツコースというコースを新設した。従来から専門家、プロフェッショナルとして採用しているが、改めてそういうコースとして採用をスタートしている。
 従来から、グループ全体で取り組んでいるデジタルユニバーシティと呼んでいるデジタル技術研修も展開しており、この3年間で延べ1万5,000名のグループの従業員に受講させているということに加えて、IT企業を含めた他業界からのキャリア採用により、即戦力としての採用を拡大しており、総合的に取り組んでいる。これはおそらくは私どもSMBCだけの話ではないと感じており、一例として紹介させていただく。


(問)
 先ほどのスクレイピング契約だが、前回の会見のときに、スクレイピング契約を行う際に、留意点をまとめて会員行に知らせたということを言っていたと思う。具体的に留意点とはどういったことなのか。
(答)
 スクレイピング契約はオープンAPIでの契約にはない独自の留意事項があるので、会員行が今後、やむを得ずスクレイピング契約を検討しなければならないケースにおいて、サービス利用者が不利益を被ることのないように、こうした留意事項の周知のために、電代業協会からもご意見をいただきながら、全銀協、地銀協、そして第二地銀協でとりまとめたのが、今回の取組みの趣旨である。
 ご質問の具体的内容については、これはあくまで会員行向けにとりまとめたものであるので、この場で詳しく申しあげることはできないが、例えば、スクレイピング契約はAPI接続までの時限的な措置であることや、電代業者が利用者から預かったID・パスワードの漏えい防止措置の確認が必要であること、あるいは、不正利用による被害などについて、発生原因が電代業者に帰属する場合には、賠償責任が電代業者にあるということを明確にすべきなど、実務的に、最終的には利用者の保護につながる確認すべき項目を網羅的に盛り込んでいる。会員行においては、今後、このような留意点を正しく理解したうえで、鋭意検討を進めていただきたいと考えている。
(問)
 もう1点、デジタルマネーでの給与振込の解禁ということが検討されている。実際解禁された場合の銀行業界への影響、実際にそうなれば、資金移動業者に資金が一定期間滞留するというか、預金と同じような扱いの同等の役割を担ってくることもあると思う。そういった場合、銀行の業務とかぶってきてしまうこともあり得るが、そういった場合、ある意味では銀行の脅威にもなり得ると思う。そのあたりはどう考えるか。
(答)
 給与の支払いというのは労働法制のなかで、労働者保護の観点から現金払いが原則であるということで、銀行口座への振込という形態は、あくまで例外として認められているということである。したがって、全銀協の立場で、これについてコメントするのは差し控えたいと思う。
 しかしながら、個人の立場で、一般論として申しあげると、賃金の受け取り方の選択肢が拡大する、すなわち、現金、あるいは銀行の普通預金への給与振込に加えて、その他の手段も出てくるということ自体は、労働者、勤労者の方々にとってもメリットもある話だろうと思う。
 他方で、賃金は、当然のことながら生活の糧であるので、同時に安心・安全な手段でなければならない。そのために万全を期すことが必要だということも、これはまたご認識のとおりだと思う。例えば、資金移動業者のアカウントは、銀行の普通預金口座と異なり、万が一の場合、例えば、事業者が破綻するという場合において、円滑な払戻しのために預金保険等のいわゆるセーフティーネットがない。デジタルマネーでの給与振込を認めた場合、ご指摘のように、資金移動業者のアカウントに資金が滞留することが想定される。このような点をどのようにクリアしていくのか。また、どのような形にすれば、労働者の方のニーズを満たすことができるのか等、幅広く意見を聞きながら、しっかりと検討していただく必要があろうと思っている。
 なお、どのような形でデジタルマネーでの給与振込が認められるか、現時点ではよく分からない部分もあるので、銀行界全体への影響ということについては、一概に申しあげにくいと思っている。


(問)
 10月21日に子どもの貧困の取組みの説明会を行って、もうすぐ3ヶ月が経とうとしている。会員行の間でこれを契機にどういう動きが出てきているのか。例えば、会長のところの個別行、三井住友銀行としてどうなさっているのか。
 もう一つ、来年度、どなたが会長になるかよくわからないが、かわるわけだと思う。年度が変わっても子どもの貧困問題というのは、全銀協として継続的に何らかのかたちで取り組まれるべき課題であると会長として考えておられるかどうか、教えてほしい。
(答)
 子どもの貧困問題に対する、銀行界としての取組みの機運を高めることを目的として、昨年10月21日に、全銀協として初めて本テーマを取り上げ、会員行向けの説明会を開催した。当日は銀行だけではなく、内閣府や子どもの貧困問題の解決に取り組んでいるNPO法人Learning for Allの官民両サイドから、子どもの貧困問題の現状についてご講演いただいたほか、すでに本問題に積極的に取り組んでいる会員行からも、例えば「寄贈オプション付私募債を通じた子ども食堂運営費の寄付」あるいは「子育て世代を対象とした家計管理セミナーの開催」、そして「シングルマザーの就労支援」などの具体的な取組事例もご紹介いただいた。
 昨年12月、本説明会後の参加銀行の活動状況についてフォローアップ調査を実施したところ、例えばステートストリート信託銀行からは、Learning for Allに対して3万ドルの寄付をすべく調整を進めているという回答をいただいた。
 また、「子ども食堂への寄付」あるいは「子供の未来応援基金への寄付型自動販売機の設置」、「子どもの貧困問題を踏まえた金融経済教育の対象者拡大」など、本説明会で紹介した取組みを検討している銀行も複数あり、この説明会がきっかけとなり、会員各行で新たな取組みが進められており、うれしく感じている。
 SMBCはどうなのかという話があったが、例えば役職員の給与天引きによるボランティア基金という制度がもともとあるが、このボランティア基金を活用し、毎年子どもの貧困問題の解決に向けた活動を行う団体などへ寄付を継続的に実施しているほか、今年度に入ってからは、当行取扱いのiDeCo(イデコ)において、当行が申込者数に応じた金額を、これは申込者数×100円であるが、日本財団に寄付し、国内の子どもの貧困問題等の支援に充てるプラン「みらいプロジェクト」をスタートしている。
 このほか、今年3月には、私どもと新日本フィルハーモニー交響楽団が共催するチャリティーコンサートを計画しているが、そのチケットの売上げの一部を、先ほど申しあげたLearning for Allに寄付する予定である。
 子どもの貧困問題は、将来的な所得の縮小あるいは労働力の減少、社会保障費の増加などにつながる非常に構造的な問題と考えており、その社会的損失額は4兆円にも上るという推計もある。これはまさに金融マーケットの縮小につながりかねない問題だと捉えており、我々銀行、金融機関が取り組む意義のある課題だと考えている。
 こうした取組みが会員行のなかでさらに広がるよう、全銀協としては、具体的な取組み事例の共有など、会員行の意識醸成につながる取組みを継続して参りたいと考えている。
 なお、本年4月からは、次は三菱UFJ銀行の三毛さんに会長を引き継ぐというのが現時点での前提だが、こうした取組みはしっかりと引き継ぎを申しあげたいと思う。先ほど言ったとおり、これは金融界全体の大きな課題だと捉え、継続的に取り組んで参りたいと考えている。


(問)
 刑事事件にも発展しているが、カジノを含めた統合型リゾート計画について伺いたい。先週、カジノ管理委員会が発足した。これから政府から基本方針も示され、事業者の選定等々のプロセスが始まり、加熱していくことも予想される。プロジェクトの規模が極めて大きく、民間の金融機関にとっても大きなビジネスチャンスになると思うが、この辺についての受止めを伺いたい。
 また、区域整備計画の認定期限が10年間で、その後、5年ごとに免許を更新していくということで、ほかの国と比べると結構厳しめの条件が付いて、場合によっては制約条件になり得るということで、ファイナンスのスキームをつくるに当たっても、もしかしたら悩ましいところが出てくるかもしれないが、この辺についての手当て、工夫についてはどうお考えか。
(答)
 ご指摘のとおり、本年1月7日にカジノ管理委員会が発足し、10日には、まさに初回の会合が開催された。いわゆるIRについて、管理・監督を含めた整備が着実に進められていると受け止めている。
 昨年9月に公表された基本方針案にあるとおり、わが国が整備を目指すIRは、民間事業者の活力と創意工夫を活かして整備され、国際競争力の高い魅力のある滞在型観光を実現することを意義とするものであり、観光および地域経済の振興に寄与し、日本全体の健全な経済成長につながるとともに、国および地方公共団体の財政の改善に資することがまさに期待されているわけである。
 銀行界にとっても、設備投資のための資金提供をはじめ、いろいろな業種、業界の垣根を越えたビジネスマッチングの機会の提供など、さまざまな観点からのサービス提供が可能であろうと考えている。
 ご質問のあった区域整備計画の有効期間の問題、つまりIR整備法上、計画の有効期限は認定後10年とされている、また、その後も更新する場合は5年間ごとに認定を受ける必要があるという点について、ファイナンスの期間とアンマッチを起こすのではないか等、スキーム構築に問題が生じないか、というご質問であろうと理解した。この認定制度は、健全なIR事業を育成するために導入された仕組み、枠組みなので、私どもとしてもファイナンスに関して、その枠組みの下で工夫しながらしっかりと対応していく必要があると、まずは認識している。
 すなわち、区域整備計画が地域経済の振興に貢献し、持続的に地元の理解が得られるようなものであるか、安定性・継続性を確保したものになっているか、また、IR事業が計画に沿って着実に実施されているのか、こういうさまざまな観点から確認することが問われている。それが法律の目的であろうと認識している。
 このように考えると、IRを進めるに当たっての大前提である、例えば犯罪防止、治安維持や青少年の健全な育成、ギャンブル依存の防止などの観点から、有害な影響を適切に排除し、地域における関係者の理解と協力が得られるように努めていくこと、これが一番大事であり、それを銀行としても確認したうえで、ファイナンスを提供していくというのが基本的な考え方である。これは非常に健全なあり方であり、まさに法令の目的に沿ったことを銀行としてもやっていこうということである。
 したがって、我々、銀行界としては、地域、観光、産業の振興など、日本経済の発展に貢献すべく、ギャンブル依存症など懸念される有害な影響の排除についても引き続きしっかりと取り組んでいく必要がある。
 このような枠組みのなかでファイナンスを検討するに当たっては、リスクの低減策も同時に検討していくわけだが、あくまで一般論として申しあげるが、計画の認定が更新されなかった場合に備えた一定のキャッシュリザーブの設定、あるいはIR事業者のスポンサーからの一部保証徴求など、信用力の補完も同時に考えられる。
 先ほど申しあげた本質論にもどるが、IR事業が健全な運営になれば、更新が承認され長期に亘って存続する可能性は当然のことながら高くなるだろう。その辺を踏まえた管理も必要と考えている。


(問)
 1点質問する。未来投資会議の資料において、金融機関におけるAIを活用したマネロン対策の高度化に対する取組みについて記載があった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が1月下旬に実証実験に取り組む事業者の公募を開始する予定となっているが、全銀協も応募されるのか。このような問題に対する意義や課題をどのように考えるか。
(答)
 昨年10月、未来投資会議において、金融機関がAIを活用し、マネロン対策に共同で取り組む枠組みについて実証実験を実施するという旨が決定された。それを受けて12月末に、NEDOが公募予告を公表された。
 全銀協においては、一昨年6月にAML/CFT態勢高度化研究会を立ち上げており、金融機関が個別に行っているマネロン対策を共通化・共有化できないかという観点での議論も行ってきた。全銀協としてNEDOの公募に応募するかどうかについては、これから公表される募集要領を見てしっかりと検討することになるが、一般論を申しあげると、マネロン対策の共通化・共有化は、日本のマネロン対策の底上げ・効率化につながる有意義なものと考えている。
 他方、AML/CFT態勢高度化研究会では、マネロン対策の共通化・共有化について、乗り越えていくべき課題も指摘されている。例えば、複数の銀行の本人確認情報を共有することを検討する場合、お客さまからどのように同意を取得するのか、あるいは、そもそもその情報の伝達・共有をどのように行うのが適切なのか。さらには、同一のお客さまか否かをどのように特定していくのかについて、法的・技術的な検討が必要である。このような点も含めて、全銀協としては、引き続き、関係当局ともしっかりと議論しながら検討していきたい。


(問)
 今年はオリンピック・パラリンピックがある。そのなかで首都圏の渋滞が懸念されている。交通渋滞に伴う、例えば手形とか小切手の輸送体制、あとサイバーとかテロとか、この辺の対策について、協会として取り組んでいること、もしくは個別行としてあったらいただきたい。
(答)
 大会期間中あるいはその前後において、道路や公共交通機関に深刻な混雑が発生することが予想される。大規模イベントであるので、サイバー攻撃やテロのリスクが増すということについては、ご指摘のとおりである。
 こうしたなかにおいても、我々銀行は、金融インフラとして、平時と同様、業務を確実に継続することが求められているため、想定される発生事象や業務への影響を踏まえて、各銀行においてしっかりとした対策を講じる必要がある。
 そのため、全銀協では、各銀行における対応策の検討が円滑に行われるようサポートするべく、すでに昨年からさまざまな取組みを行ってきている。
 例えば、昨年6月には、東京都と連携して会員行向けに説明会を開催し、大会期間中に想定される発生事象の例として、道路や公共交通機関、大会関係施設周辺の混雑、あるいは、サイバー攻撃やテロのリスクを具体的に挙げ、想定される業務への影響と対応策の方向性について説明を行った。
 その後、大会の影響が大きいと考えられる首都圏の銀行を対象として、対応策の検討状況についてアンケート調査を行い、昨年12月に会員行に対し取りまとめ結果を還元した。
 対応策の具体例を申しあげると、高速道路、一般道路の混雑、規制により、現金や手形・小切手の配送が遅延する可能性が考えられるため、道路の混雑予想を踏まえ、輸送時間や輸送ルートを見直す、あるいは、公共交通機関での代替輸送を考えるということが挙げられる。
 また、従業員の出勤に支障が生じ、支店の開店が遅れる可能性が考えられるので、具体的に影響を受ける可能性のある支店を抽出し、必要な人員を割出し、時差出勤あるいは前泊する等の対応が考えられる。
 また、サイバー攻撃のリスクの高まりについては、競技会場や組織委員会への攻撃に加えて、関連団体やスポンサー企業への攻撃が過去のオリンピック時にも発生しているため、これらを想定し、自社システムのセキュリティ態勢を改めてしっかりと見直す、あるいはBCPの実効性を再確認する、攻撃を想定した訓練を実施すること等が考えられる。
 SMBCにおいても、それぞれの影響について対策を検討しているところである。大会本番までに残された時間はわずかであるので、銀行界を挙げて、確実に業務が継続できるよう、東京都とも密に連携しながら、引き続き取り組んでいきたいと考えている。