2020年2月13日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 2問伺う。マイナス金利政策の導入から間もなく4年が経過する。マイナス金利の政策効果について、節目でもあるので、改めて伺いたい。IMFも政策提言しているが、改めて政策修正の必要性があるのかどうかという点についてお聞きしたい。
(答)
 金融政策については、いつも申しあげているとおりであるが、日本銀行の専管事項であるので、全銀協として申しあげることは適切ではない。あくまで個人的な見解ということでお答え申しあげたいと思う。
 ご指摘のとおり、日本銀行によるマイナス金利付き量的・質的金融緩和導入から4年が経過している。この政策を導入した目的は、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するということであった。マイナス金利が導入されて以降、2%の物価目標の達成にはいまだ至っていないものの、デフレ的な状況を脱却したという意味では、一定の金融緩和の効果があったと考えている。
 他方、銀行の貸出金利を含め、市中の金利が全般的に大きく低下し、銀行の預貸金の利鞘は縮小している。また、金利低下やイールドカーブの平坦化、フラット化に伴い、運用は非常に難しくなっているということであり、銀行のみならず金融機関の収益環境は、確実に悪化してきていると言えると思う。これはまさしく、マイナス金利政策の副作用であろう。
 これまでにも申しあげてきていることであるが、今後の金融政策を考えるに当たっては、その効果と副作用のバランスについて引き続きしっかりと検証いただいたうえで、適切にご判断いただきたいと思う次第である。
 また、ご質問のとおり、昨年、IMFが日本銀行の金融政策に関する提言を公表している。私としては、これは金融政策のあり方についての健全な問題提起ではなかろうかと受け止めている。例えば、物価目標に幅を持たせるという提言は、わが国のみならず主要国のインフレ率がいずれも一般的な目標である2%を下回っている現状をどう考えるかという問題提起であろう。
 実際、近年、いわゆる物価目標の柔軟化が各国で議論されており、FRBのパウエル議長も、シンメトリックという言葉で、インフレ率が2%を基準に上下に振れることに理解を示しておられる。個人的にも、社会・経済構造が大きく変化しているなかで、2%という数字にこだわる必要性が薄れてきているのではなかろうかと感じている。
 また、日本銀行が誘導対象とする国債の利回りの年限を、現在の10年債から短期化するという提言については、目標年限の短期化が超長期国債の買入額の減少を通じてイールドカーブのスティープ化につながれば、生保や年金基金等の運用には一定の効果が見込まれると思われる。
 他方、我々銀行界のように、相対的にアセットのデュレーションが短い金融機関にとっては、年限の短縮化に伴う直接のメリットは極めて限定的ではなかろうかと思われる。
 このようにIMFの提言も踏まえつつ、改めて金融政策のあり方を予断なく検証することが重要ではなかろうかと感じている。
(問)
 もう1点、オープンAPIについてである。金融庁はこの1月末までに各行に対して電代業者と接続するか、しないのかの判断を求めて、報告するようにと言っていた。仮に、接続しない判断をした場合には、サービスの利用者にとって影響が出てくると思うが、その点についての受止めを教えていただきたい。
(答)
 各銀行による金融庁への報告結果を把握していないが、多くの利用者に影響が及ぶような事態にならないように、全銀協としては会員行のサポートを引き続きしっかりと続けているところであり、会員各行においても真摯に対応していると考えている。
 ちなみに、SMBCについて申しあげると、接続しないと判断し、報告した先というのは、SMBCの預金者がサービスを利用していない電代業者であり、そもそもニーズがない先であるので、私どもの交渉している電代業者に限って言うと、サービスを突然利用できなくなるといったような影響はないだろうと考えている。
 今後も、5月末の契約締結期限に向けて、会員行における電代業者とのAPI接続が進むよう、全銀協としても会員行のサポートを十分に行って参りたい。


(問)
 LIBORに関連して尋ねる。イギリスの金融当局が今年1月に金融業界に対して、今年9月末までにポンドLIBORを使う融資などの新規取引をやめるように求める声明を出した。円LIBORを使った取引についても、日本の金融当局などが円LIBORを使った新規契約を実質制限するような措置を求める必要があるのではないかという声も出ているが、全銀協会長としてどのような意見をお持ちか。
(答)
 ご指摘のとおり、先月16日、英国のFCA、イングランド銀行と英国のリスクフリー・レート・ワーキンググループが英ポンドLIBORに関わる声明を共同で発表している。これは、ワーキング・グループが2020年における優先事項として、本年第3四半期末、すなわち9月末までに、2021年末以降に満期を迎える英ポンドLIBORベースの新規貸出や債券の発行を停止するというロードマップを示したものであり、監督当局であるFCAとイングランド銀行もこれに賛同したということである。まさに、官民一体で2021年末のLIBORの恒久的な公表停止に向けて強い意思を示されたというものだと捉えている。
 LIBOR問題というのは、わが国においても非常に重要なプロジェクトであり、2021年末までに円滑に代替金利指標に切り替えていくために、適切にマイルストーンを設定して、誰が、いつ、なにをすべきか、官民一体となって実務的な検討を進め、準備をしていくことが極めて重要だと考えている。
 足元では、まさしく円LIBORベースの新規契約をどうするのか、制限するのかどうか、あるいはその場合、後継レートをどういう形にするのか、ということが実務的に大きな論点となっている。わが国のリスクフリー・レートであるTONA、これは無担保コール翌日物金利であるが、このTONAにおいては、英国の同じくリスクフリー・レートであるSONIAと比べてもデリバティブなどの取引量がかなり少ないために、安定的な基準金利とするための体制整備の進捗も併せ、十分に確認しつつ進めていく必要があると考えられる。
 繰り返しになるが、日本においても官民一体となって各国での検討状況をタイムリーに考慮しつつ、LIBORが恒久的な公表停止になる2021年末から逆算をして、顧客対応、内部管理、システム対応などの実務的対応について、いつまでに、なにをするべきなのか明確化していく必要がある。残された時間が短いことを十分に認識しつつ、全銀協としても一つ一つ課題を着実に解決すべく動いて参りたいと考えている。


(問)
 中銀デジタル通貨、いわゆるCBDCについてである。日銀を含む6つの中央銀行と国際決済銀行がCBDCの共同研究に乗り出したが、どのように受け止めているか。CBDCについては、リテール型やホールセール型など、どのような発行形態を取るかによって銀行界への影響もさまざまで、仮に利用者が中銀に直接口座を持つ形態になれば、民間銀行の資金流出を招くとの指摘もある。民間銀行としての立場からCBDCの利用をどのように捉え、CBDCが導入された場合の銀行界や既存の金融ビジネスへの影響についてどのように考えるかお伺いしたい。
(答)
 本年1月、日本銀行を含む中央銀行6行とBISが、中央銀行が発行するデジタル通貨、いわゆるCBDCの活用のあり方等に関して、知見の共有等を目的としたグループを設立された。
 かねてより日本銀行は、「現時点ではCBDCの具体的な発行予定はないものの、将来その必要性が高まる事態等に対応できるよう、理解を深めておく必要がある」とのスタンスを示してこられたと認識している。そのうえで、傘下の金融研究所に「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」を設置されたほか、ECBとホールセール型CBDCについて共同研究を行うなど、CBDCに関する調査・研究を進めてこられている。今回のグループ設立も、その延長線上の取組みと理解している。
 CBDCが導入された場合の影響について、昨年12月の会見でも質問があったが、CBDCは今、さまざまなあり方が想定され、今ご質問でおっしゃったとおり、その内容に応じて金融ビジネス全般に与える影響は異なり、一概には申しあげられないというのが正直なところである。
 仮に、ご指摘のような各利用者が中央銀行に直接口座を持って民間銀行を全く経由しない形態となれば、既存の中央銀行と民間の銀行からなる通貨の「二層構造」が事実上否定される、ということになる。そうなれば、当然、民間銀行を通じた信用創造のメカニズムそのもの、あるいは金利も含めた金融政策の枠組み自体、さらには決済システム全般において、金融そのもののあり方が大きく変わる可能性があり、現時点においては実務的にも現実的な方式ではないであろうと考えている。
 しかしながら、こうした観点も踏まえて銀行界としても金融システムの担い手として、その立場から意見をしっかりと申しあげていくことが非常に重要だろうと考えているところである。
(問)
 続いて、ダボス会議でも議論が出た気候変動について伺う。英国中銀は気候変動が金融機関の経営に及ぼす影響を調べるストレステストを開始するなど、銀行界でも気候変動への対応が加速している印象がある。気候変動が銀行経営に与える影響についてどのように認識しているか。また、SMBCは先日、TCFD提言に沿った移行リスクを開示されたが、TCFDの取組みについて、全銀協、SMBCそれぞれについて、これまでの取組みや今後の方針を伺いたい。
(答)
 私自身、先月のダボス会議に参加したが、まさに肌身にしみて感じた。報道されている以上に、気候変動問題が大きなテーマであったというのが実感である。
 環境問題への対応に積極的な企業に資金が集まり、次なる成長へとつながる「環境と成長の好循環」の実現は、世界的なテーマとなっており、資金の貸し手である銀行に求められる役割も非常に大きいと認識している。
 他方で、環境に優しいグリーンな案件にファイナンスを提供し、環境負荷が比較的大きい、いわゆるブラウンな案件から手を引くというような単純な話でもないと考えている。全体として、ブラウンな案件からグリーンな案件に移行する取組みを官民挙げてサポートしていくことこそが問われているのだろうと考えている。
 したがって、各国がそれぞれ置かれている状況やエネルギー政策などのスタンスの違いを乗り越えて協力・協調し、実効性のある枠組みを作っていくことが今後ますます重要になってくると考えている。その意味で、金融安定理事会(FSB)のタスクフォースが2017年に取りまとめたTCFD提言は、そうした枠組みの先駆けとなるものと受け止めている。ご存じのとおり、同提言は、気候変動がそれぞれの会社の事業活動にどのような財務的な影響をもたらし得るのかを分析・開示することを求めるものであり、いわば気候変動リスクへの対応の起点として、銀行界全体で取り組んでいくべきものだと考えている。
 全銀協としては、自らTCFDに賛同し、参加していることに加え、TCFDをテーマとしたシンポジウムの開催や、国内外の金融機関の開示事例の調査、会員行への情報提供などを通じて、銀行界全体の意識の底上げに取り組んできている。
 また、わが国の企業が業種を超えてTCFDの普及に向けた議論を行う場として昨年5月に設立された「TCFDコンソーシアム」に、私も発起人として参加しているが、現在、TCFD提言に沿った開示に向けての報告書を作成中である。現在、200社以上がメンバーになっているということであるが、今後もこうした活動を通じて銀行界全体の意識醸成に努めて参りたいと考えている。
 ご質問にあった私どもSMBC個別行の取組みとしては、気候変動リスクを重要な経営課題と捉え、これに取り組んできている。具体的には、気候変動リスクをトップリスクの一つに選定して、リスク委員会で議論等を行い、リスク管理の一環として定期的な報告を行っている。
 また、昨年4月には気候変動によって生じる自然災害などに起因する、いわゆる「物理的リスク」の試算値を公表した。また、ご指摘のとおり、本年1月には低炭素社会への移行に伴う各種政策、規制、技術革新に起因する、いわゆる「移行リスク」の数値を他に先駆けて公表している。
 もちろん、気候変動リスクの分析、計測については、まだ確立された手法が存在しているというわけではない。ある意味で試行錯誤しつつ、さまざまな前提を置いて試算しているというのが実情である。しかしながら、少しでもそれぞれに知恵を出し合いながら前進をしていくということが重要であり、銀行界としても率先してTCFD提言の浸透に貢献していきたいと考えている。


(問)
 新型コロナウイルスの問題についてだが、感染拡大が続いており、中国の工場が稼動できないとか、国内工場でも影響が出ていると思うが、サプライチェーンやインバウンドを含めた国内外の経済影響をどう見ているか。
(答)
 新型コロナウイルスの問題は、残念ながら感染拡大がまだまだ続いている。状況も日々刻々と変化しており、先行きについても非常に不透明な部分が多く、引き続き各方面からの情報収集に鋭意努めているのが実情である。
 経済活動への影響についても、まだ十分に見通せる段階ではないが、あくまで現時点での個人的な見解として申しあげると、まずは中国においては、春節後の休業の延長、団体旅行の中止など、さまざまなところで感染拡大防止のための措置が講じられており、インバウンドの減少をはじめとして、経済的な悪影響が出てくるのは間違いがないところであろう。
 また、武漢市は、産業構造を見てもものづくりの重要拠点になっていることに加え、中国全体がいわば世界の大きなサプライチェーンの重要な一角を担っていることから、中国に留まらず世界的に悪影響を及ぼす公算は大きいと考えられる。本邦企業もその例外ではなく、中国に数多くの企業が進出されており、これら企業の生産活動への影響がまさに懸念されているところである。
 今週、10日から企業活動が順次再開されているというのが各地域の実情だが、本格的な操業再開にはまだまだ道半ばであるという話を数多くのお客さまからも聞いている。それに伴い、ご指摘のとおり、中国からのさまざまな部品、資材の調達が遅れることによって、日本国内の生産にも影響が出始めているということもある。
 同時に、足元においては一部の国・地域で航空便の停止、渡航禁止の勧告あるいは入国制限措置など、人の動きを制限する措置も徐々に広がっている。こうした措置は、感染拡大に歯止めをかけるためにやむを得ない面があるわけだが、同様の動きがさらに拡大していく場合には、影響が一層深刻化するおそれもある。
 こうしたなかで金融市場を見てみると、中国当局が大規模な資金供給や株価の安定策を講じておられることもあり、一旦は落ち着きを取り戻している。しかしながら、しばらくの間は日々の情勢を見つつ、神経質な展開が続くと見ておく必要もあると思う。
 2003年の新型肺炎SARSの例を見ても、中国では今年1-3月期の成長ペースが大きく鈍化することは免れないと思われる。短期的に終息すれば、再び元の成長ペースに戻ることになろうかと思うが、新型感染症の影響が拡大、長期化すると、下振れの圧力がさらに深刻化すると見られる。
 わが国の状況を振り返ってみても、仮に中国からの訪日客が半減したと考えた場合、日本のインバウンド消費全体の約2割が減少するという計算になる。また、サプライチェーンを通じた生産の縮小などは、冒頭申しあげたとおり、一定程度免れないとも考えられる。現時点では、下振れのインパクトはまだまだ計算できず、不透明ではあるが、わが国の1-3月期の成長率に対しても、下振れ圧力になることは避けられないであろう。あるいは景気の停滞感を強めてしまう可能性も否定できないと思われる。
 総括すると日々影響が拡大しているのは事実であり、世界経済の先行きにとって無視できないリスクファクターとなったことは間違いない。引き続きその状況をしっかり注視をしていきたいと考えている。
(問)
 なかなか見通せない状況だとは思うが、昨日、中国の当局が感染拡大について改善傾向にあるという発表もしている。復旧はだんだん見えてきている状況なのか、長期化の見通しについて現段階でどう見ているのかという点と、銀行経営にとっての影響はいかがか。
(答)
 昨日、確かにそのような報道があったことは認識をしているが、具体的に感染が本当に今後ピークアウトして、経済活動が急速に回復していくといえるかどうかは、現時点では判断が難しい、あるいは判断できないのではないかというのが率直なところである。
 銀行の具体的な業務上の影響であるが、私どもの例を取ってみると、さまざまな手段を使って、可能な限りオフィスに行かなくても良いようなオペレーションを取る、あるいは支店間の協力体制をしっかりとつくる等に取り組んでおり、現時点で大きな問題にはなっていない。おそらくその他の多くの金融機関、銀行も同様の状況であろうと思う。どちらかというと、まず今、お客さまの状況に応じてどのようなご支援をしていくのかが大きなテーマになっている。このようなときこそ金融機関、銀行としての役割を果たすべく日々尽力している、というのが我々の現状であるし、日本の金融機関全般に言えることだと考えている。


(問)
 2点伺う。まず、高市総務大臣が会見で発言した預貯金口座に対するマイナンバーの付番の義務化について、麻生大臣も前向きに検討するという考えを示していたが、付番義務化に対する銀行界のスタンスと、全銀協としてどのような対応を行うのか。また、マイナンバーの付番が義務化された場合、銀行界にどのようなメリット・デメリットがあるのか。銀行界からの要望も含めて伺いたい。
(答)
 マイナンバーに関して、2018年1月に施行された改正番号法等により、預貯金口座への付番は、お客さまのお考え次第、任意というかたちで頂戴するオペレーションはすでに始まっており、銀行は口座開設あるいは住所変更などのお手続きを受け付ける際に、お客さまにマイナンバーの届け出についてもご協力をお願いしている。
 付番の義務化が決定された場合、これは政府が決定するということであるが、お客さまに、義務化されたということを丁寧にご説明したうえで、これまでどおりマイナンバーの届け出を頂戴することになる。
 預貯金口座の付番が義務化されたとしても、現状、マイナンバーの利用範囲は、社会保障・税・災害対策の分野における行政手続等に限定されている。したがって、銀行内部の手続等には利用できないわけで、特段、銀行にとって、あるいは金融機関にとってのメリットはないということになる。
 半面、申しあげたとおり、各銀行は現在も、あくまで任意だが、マイナンバーの届け出を受け付けて、それを登録するというプロセスはすでにやっているので、そのためのシステムの対応もすでに終わっている。義務化の内容に応じて、既存の口座の名寄せの負担をどうしていくのかという問題が出てくるが、それ以外は特段デメリットもない。したがって、義務化の具体的な内容に応じた、事務的な負担をどう考えるかという論点が残ってくるだろうとは思う。
 なお、マイナンバー制度の浸透、定着に向けて、政府におかれてはマイナンバーカードの普及策、あるいは消費活性化策として、本年9月からマイナポイントの活用施策を実施されると認識している。
 この枠組みは、将来的には、例えば自治体の給付にも利用されることが想定されており、これら自治体給付金への活用が実現することになれば、これはまさに銀行界として最も貢献できる分野となる。こうした視点からも、マイナンバー制度の普及に向けて銀行界としても貢献していけるだろうと考えているところである。
(問)
 金融庁などが、日証協の自主規制で規定している高齢者向けの金融商品勧誘、販売ルールの見直しを行っている。80歳以上でも当日契約ができるようにすることを検討しているが、かんぽ問題でも多くの高齢者が不適切な商品販売を受けた。高齢者ルールの見直しの是非についてどう考えているのか伺いたい。
(答)
 おっしゃるとおり、現行の高齢者向けの金融商品の勧誘、販売ルールは、過去の投資経験が十分な高齢のお客さまであっても、短期的に投資判断能力が変化するケースもあるということから、適合性の原則にもとづき、慎重な勧誘、販売体制を確保するという目的で整備されたわけである。
 具体的には、例えば75歳以上あるいは80歳以上といった年齢を一つの目安として、役席者による勧誘の事前承認や、勧誘当日の受注を制限するなどを求めている。
 一方で、昨今は、高齢者といっても状況は実にさまざまというのが実態であり、75歳未満のお客さまであっても認知能力が低下しているケースもあれば、80歳以上であっても非常にお元気で認知能力にも全く問題ないという方もいるのが現実である。また、人生100年時代と呼ばれる高齢社会においては、金融サービスを希望される高齢者のお客さまのニーズに適切に応えていかなければいけないということもまた金融機関の重要なミッションである。
 こうした課題を踏まえ、1月31日にNEDOが、金融商品販売における高齢顧客対応の調査について、事業者の公募を開始されていると認識している。公募要領において、75歳以上の年齢を目安として、画一的な対応が採られている可能性といった問題点や課題を洗い出す必要があり、高齢顧客への対応に関連する金融法制の精緻化に係る検討に活用するとされている。
 今般の高齢顧客対応に係る調査等を踏まえ、投資家保護と適切な金融サービスの提供の両立に向けたルールの見直しが行われることが非常に重要であり、全銀協としても、その趣旨に則り、適切に意見発信等を行って貢献して参りたいと考えている。


(問)
 三菱UFJ銀行が今年の春闘で、これまでの従業員一律での賃上げ要求ではなく、給与と賞与を合わせた支払い総額の要求に切り換え、従業員ごとの評価によって賃上げ率を決める方式で合意する見通しとなっている。銀行以外だと、トヨタ自動車の労組も同じような仕組みで賃上げ要求をすると言われているが、こうした要求内容について、銀行の経営トップである髙島会長はどう考えているかということと、SMBCではどういう検討状況になっているのか伺いたい。また、低金利環境が続いているが、銀行界として賃上げについてどういう方針で臨むのかについても伺いたい。
(答)
 賃上げについては、当然のことながら、各企業がそれぞれの経営環境などを踏まえてそれぞれに労使交渉を行って、個別に結論を得ていく類のものであるので、全銀協として答える立場にはない
 その上で申しあげると、トヨタ自動車や三菱UFJ銀行について報道のあったような動きは、経団連が主導されている「仕事や役割、貢献度を基軸とした賃金制度への移行・見直し」、あるいは「年収ベースの賃金引上げに限定されない、総合的な処遇改善に関する様々な事項」を踏まえた労使交渉という流れを反映していると受け止めている。
 個別行としては、賃上げに係る具体的な方針については検討中であるので、具体的なコメントは差し控えさせていただきたいと思うが、ご指摘の年収ベースの賃上げのみならず、働き方改革による長時間労働の是正あるいは従業員の柔軟な勤務の実現、休暇取得の推進なども含め、厳しい環境下で奮闘してくれている従業員にいかに報いていくかということについて、真剣に検討していきたいと思っている。
 ちなみに、これは私ども銀行の個別の話だが、評価に応じた処遇という観点では、本年1月から新しい人事制度をスタートしており、職務や貢献度をより重視した人事制度に移行している。
 ご指摘のとおり、銀行界は厳しい経営環境にあることは事実である。他方、わが国のデフレ脱却や経済の好循環をより確固たるものにしていくためには、賃上げのモメンタムをしっかりと維持することが重要だということも、また事実であろうと思う。こういう全体の諸条件を踏まえつつ、各銀行が労使交渉のなかで、「多様で柔軟な働き方の実現」あるいは「能力開発・自己啓発の支援」などと併せ、総合的な観点から処遇や職場環境の改善を通じて働き甲斐を高めていくことが極めて重要だと考えており、これは銀行界挙げて同じような認識に立っているものと考えている。
(問)
 生命保険業界が創設を検討している外貨建て保険の資格制度について、先日、「生命保険業界と銀行界が資格創設の方向性で一致した」との報道があったが、現在の生保協との議論の状況と、銀行界の考え方について伺いたい。また、銀行側から生保協側に対して何か要望や伝えていることがあれば教えてほしい。
(答)
 外貨建ての保険の販売に関する苦情が増加しており、苦情が起こらないように対応していくことが必要であるという認識については、生保協と全銀協の間で完全に一致している。
 かねてより、全銀協と生保協は、外貨建て保険の苦情抑制のための連絡会を設置しており、昨年11月の連絡会において、生保協から外貨建て保険販売資格の創設を検討している旨の説明を頂戴したわけである。
 銀行界としても、お客さまからの苦情抑制のために、販売員の教育は極めて重要と考えている。したがって、引き続きこれらに取り組んでいく必要があるという点でも、全く一致しているわけである。
 ご質問のあった資格試験の活用は、こうした取組みの一環として位置づけられているものであり、その観点で生保協と意見交換を行ってきた。そのなかで、銀行界からは、外貨建て保険と同じく、元本割れリスクがある変額保険の資格試験がすでにあることから、販売員が受験する負担を軽減する観点から、例えば変額保険、外貨建て保険資格の両方を同じ日に受験ができるようなやり方など、実務的な検討を要望してきた。お互いに目指すべきゴールは一致しているので、非常に建設的な話し合いが進んでいると認識している。
 このほか、苦情抑制のための対策として、全銀協では昨年2月および7月の2回にわたり、高齢者に対する募集時に親族の同席を依頼するなど、高齢者募集ルールの適切な運用や、外貨建て保険は元本割れリスクがあることを具体的な金額をもって説明するなど、有効と考えられる対応を会員行に通達している。
 引き続き、お客さまに対して適切な金融商品販売が行われるよう、会員行の体制整備を全銀協としてもしっかりとサポートしていきたいと考えている。


(問)
 2点質問する。まず口座維持手数料の関係で伺う。日銀が先日、コストの面で口座維持手数料導入は、送金や振込の手数料を逆に低く抑えられ、決済システムが持続的になる選択肢になるのではないかという報告書を出した。議論のたたき台にしてほしいというような内容であったが、この報告書の受止めと、今後、口座維持手数料の導入が広がっていくのかどうか。
(答)
 今月10日に日本銀行が公表した「決済システムレポート別冊」のことであると思うが、私どももレポートを拝読し、「個別課金制、定額課金制、二部料金制といった類型を整理して解説いただいており、経済学的にはこういう考え方になるのだろう」と、頭を整理させていただき、大変勉強をさせていただいた。
 このレポートのなかにも留意点として書いてあるが、銀行の預金口座というのは、決済のためだけではなく、貸出や資産運用業務などいろいろなサービスとも密接に関係している。預金口座は、総合的なお客さまとのサービスの基点にもなっているということであるが、このレポートには、決済サービス以外の銀行業務は考慮せず、あえて単純化して考察をしていると記している。
 実際の銀行の業務、銀行とお客さまの関係は、まさにこのレポートで示されているような決済だけではなく、複雑な関係がある。低金利環境というものも、こうして捨象された事項のなかに含まれているものと受け止めている。
 また、これもレポートに記載されているが、手数料については、個別行の経営戦略、事業戦略に関わるものであり、一律に論ずることはできない。
 したがって、現実には、「口座維持手数料の導入が銀行の収益改善と利用者の便益向上につながる」とは必ずしも言えないケースもあり得る。しかし、経済学的な見地から見た考察も、各行が参考にしつつ、検討を深める材料にしていくことが重要だろうと考えている。
 ちなみに、これは従来から申しあげているが、口座維持手数料に限らず、銀行の手数料のあり方については、お客さまに付加価値のあるサービスを提供し、それをお客さまにご理解をいただき、応分の手数料を頂戴するということが、引き続き基本的な考え方であり、日本銀行の金融政策と一緒にして考えるというのは正しくない。峻別して考えるべきものだと考えている。
(問)
 マイナス金利導入から丸4年で、収益環境が厳しくなり、個人のお客さまにとっては送金手数料や窓口手数料の値上げなどがある。先ほど髙島会長は日銀には効果と副作用のバランスを取って適切に政策運営に当たってほしいとおっしゃっていたが、丸4年たち副作用と効果といった場合にどちらが大きいと見られているのか、その点についてはいかがか。
(答)
 定量的にお計りをして回答するのはなかなか難しいご質問だと思う。
 先ほど申しあげたとおり、それぞれにメリットも当然あった。デフレ的ではない状況に日本経済を持ってきたという意味では一定の効果を発揮された。やはり長期化をしているという実態からすると、徐々に副作用というものの比重が高まってきているのではないかと感じている。
 それと、先ほど現下の銀行を含む金融機関の収益の悪化が一つの副作用であろうと申しあげたが、主な要因はあくまで、いわゆる預貸金の利鞘において、ますます薄鞘化が進んできていることを捉えて申しあげている。
 したがって、お客さまそれぞれのセグメントごとに、手数料その他を含め総合的にどういう関係を作っていくか、これはそれぞれの銀行の戦略であるので、一概に論じることは難しい。あくまで利鞘の低下という観点で副作用を捉えて申しあげたとご理解いただければと思う。


(問)
 地方銀行の経営について伺う。SBIが複数の地銀と資本提携を行って、今後も提携拡大に意欲を見せている。野村證券も地銀との業務提携を進めるなど、証券会社と地銀の連携の事例が増えているが、これについての受止めは。
 また、地方は人口減少や経済の縮小もあって、地銀の経営環境は厳しくなる一方である。証券に限らず、地銀同士の提携や異業種との連携なども含め、どのようなアライアンスを模索するべきだと考えるか。
(答)
 金融機関のアライアンスというものは、まさに個社、個別銀行の戦略そのものである。したがって、全銀協の会長の立場でコメントするのは適切ではないので、個社に対する具体的なコメントは差し控えたい。
 そのうえで、一銀行経営者としてどう見るかということで、一般論として申しあげると、地域の金融機関といってもそれぞれの地域に置かれたそれぞれの事情、条件、そして個々のお客さまのニーズは区々である。いかにそういうニーズに応え、それぞれ固有の地域経済の発展・成長に貢献していくか、そのためにどのような持続可能なビジネスをつくっていくかということが、まさに問われていると思う。
 具体的な話として、ご指摘のあった地銀同士のアライアンス、あるいは銀行以外の証券、具体的にSBIという名前が出ていたが、これも各地域金融機関がそれぞれの実情、特性を踏まえつつ、地域のお客さまに提供する金融サービスの幅を広げる、あるいは、すでに提供されているサービスの質を高める、業務効率化によってコスト削減を行っていく等、まさにそれぞれ各行の競争力、収益力を向上させるための手段として個々に判断されたことであり、十分に理解のできる経営判断だと思っている。
 今後も銀行を取り巻く環境は引き続き厳しく、大きく変化していくので、それぞれの強みを活かしつつ、相乗効果を発揮するような連携のかたちが模索されていくだろう。
(問)
 もう1点、SBIは地銀と資本提携を進めてきている。2月中をめどに地域金融機関に出資する統括会社を立ち上げ、さらなる取組みの加速を狙っているということだが、SBIのこうした取組みをどのように評価しているか。
(答)
 個別の話について全銀協としてコメントする立場にないが、あえて個人的にどう感じるかということを一般的に申しあげると、おそらく地銀を含めて、それぞれの地域金融機関に、自らお考えになっている以上のさまざまな潜在的な価値があるのではなかろうかということが、今ご指摘の案件の背景にある考え方であると思う。すなわち、銀行以外の業種、業態の方からご覧になった地銀とのアライアンスの意義、戦略というものは、やはり地銀自身が、あるいは、個々の地域金融機関が持っているポテンシャルが、今後のビジネスを考えるうえで魅力的に見えるということが大前提なのではなかろうかと思う。やはり、地域金融機関であるがゆえに持っておられる、その地域での長期的なリレーションシップ、あるいは、本当に強固な顧客基盤や、情報ネットワーク等の強みは、容易に手に入れられるようなものではなく、アライアンス先として非常に有望だとお考えになったのではないかと思う。


(問)
 2点ある。一つは、新型コロナウイルスに関することで、具体的に全銀協として取り組まれていることを教えていただきたい。
 もう一つは、米中の貿易交渉の第1段階合意の発効が明日になっている。まだ積み残されている論点等もあるが、受止めをお願いしたい。
(答)
 最初の新型コロナウイルスに関する全銀協としての取組みということであるが、全銀協においても、1月30日の政府対策本部の設置のほか、WHOによる緊急事態宣言、そして当該肺炎の感染症指定等の国内外の動きを受けて、2月3日に、ここにいる岩本専務理事を本部長とする、新型コロナウイルス対策本部を立ち上げた。
 全銀システムや東京手形交換所などの決済システムを含めて、必要な業務継続を確保すべく、手洗い、消毒液の使用、感染症危険情報を踏まえた渡航自粛など、全銀協役職員への感染予防策を徹底しているほか、今後さらなる感染拡大があった場合を想定した業務継続体制の確保、確認を行っているところである。
 また、会員行に対して、2月7日、金融庁からの要請を受け、感染症情報の収集、そして従業員の感染対策の実施、それから新型感染症による影響を受けた事業者の皆さまへの融資に係る適切な対応、さらには、施設への宿泊を余儀なくされているお客さまに対する柔軟な対応を行うよう、周知しているところである。会員向けの会議やセミナーの開催に当たっても、こういう感染予防策に留意しながら対応している。
 以上が最初の質問に対する回答である。
 そして二つ目が、米中の第1段階の合意についての質問だったと思う。まさに1月15日に、通商協議の第1段階の合意文書が署名された。これによって、対中関税の第4弾発動が回避されたことに加え、昨年9月に発動された1,200億ドル分の関税率が15%から7.5%、半分に引き下げられることになった。中国政府も一部の対米関税を引き下げるなど、緊張緩和に動いているということは、我々としても前向きに評価したいと考えている。
 また、米中以外についても、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新貿易協定であるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の実施法案が上院で可決されるなど、個別に前向きな動きが見られるということについては、率直に歓迎したいと思う。
 もっとも、これは先月の会見でも申しあげたが、米中の通商協議は、あくまでも第1段階の合意ということであり、ご指摘のとおり、中国の補助金政策なども含めた第2段階の交渉は、依然として見通しが立っていないところである。
 加えて、今回の合意に盛り込まれた米国の対中輸出、すなわち2年間で2,000億ドル規模の拡大ということについても、実務的にもかなり慎重に見ておく必要があるのではなかろうかと思う。
 そもそも中国経済が減速している過程で、アメリカからの輸入の大幅な増加を果たして本当に吸収可能なのかという懸念があることに加えて、まさに足元のコロナウイルスの拡大が、景気全体の下押し圧力を強めているということである。
 中国が示した数値目標の実施状況次第では、再び米中関係が悪化することも懸念されるので、特にアメリカの大統領選挙後に、米中の貿易摩擦が再燃する可能性についても、一定の想定をしておくことが必要だろうと感じている。
 米中の貿易対立は二国間の覇権争いと見られているわけで、その根は深い。そして世界経済への影響についても、引き続き警戒を要するということだろうと捉えている。


(問)
 金融機関のサイバーセキュリティの問題について、1月末に日銀の公開したアンケートには「6割の金融機関が人員不足で対応が取れていない」、また、サイバー攻撃を受け「約1割の銀行経営に支障があった」とある。セキュリティの問題はかなり深刻になっているが、この点について全銀協の考え方や御行の考え方を伺いたい。
(答)
 本年は東京2020オリンピック・パラリンピックの年であり、大会運営の妨害や社会的な混乱を狙ったサイバー攻撃がまさに予想されている。同時に、その標的は決して大会の関係機関だけではなく、いわゆる重要なサービスを提供する我々銀行などの事業者もターゲットになる可能性があると認識している。そういうなかで、そのような調査結果が出されたということを改めて非常に深刻に捉えたうえで、対応を考える必要があると考えている。
 サイバーセキュリティ対策の推進は、あくまでも各社自身が取り組むこと、いわゆる「自助」が必要であることは言うまでもないが、同時にサイバー攻撃が、時には一定の国家が明確に関与したうえで行われているということもささやかれている。まさにその手口も日々高度化、複雑化、多様化しているので、個々の事業者が自助のみで対応していくことにも限界がある。
 そういう観点から、全銀協や内閣官房情報セキュリティセンターが業界ごとに指定をする情報共有の枠組みである「銀行等セプター」、そして、サイバーセキュリティ等に関する業界団体である金融ISACなどを通じた「共助」、そして、国や法執行機関等による「公助」の考えの下、まさに官民一体となって対策を進めているところである。
 具体的に申しあげると、各金融機関で検知・観測したサイバー攻撃情報の共有や業界全体の底上げを目的とした金融庁や金融ISAC主催のサイバーセキュリティ演習を定期的に実施している。それから、内閣官房情報セキュリティセンターや警察などが主催する訓練に積極的に銀行界としても参加し、活用することにより、有事における態勢の整備および実効性の向上に努めている。
 全銀協としても、「共助」の組織の一つとして、サイバーセキュリティセミナーの開催や銀行等セプターの事務局活動を通じ、円滑かつタイムリーな情報の提供に取り組んでいる。また、直近1月開催のセミナーにおいては、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、サイバーセキュリティ対応の態勢の実効性向上や官民・銀行間における連携体制強化の重要性を確認するとともに、個別の会員行による取組状況についても取り上げ、本番までに取り組むべき事項を整理し、対応を各行に要請したところである。
 もちろんオリンピック・パラリンピックが終わったら終わりということではない。サイバーセキュリティへの取組みは、いわば終わりのない継続的な課題である。したがって、全銀協としても、引き続き会員行のサポートにしっかりと取り組んでいく。