2020年4月 1日

三毛会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から2点ご報告申しあげる。
 本日、4月1日付で三菱UFJ銀行の三毛頭取が全銀協会長に選任された。新体制における会長・副会長は、お手元の資料のとおりである。本日はこのほかに、三毛会長の略歴もお配りしている。
 また、こちらもお手元の資料のとおり、昨日付で相対貸出のフォールバック条項の参考例(サンプル)を公表した。
 本参考例は、2021年末にもLIBORの恒久的な公表停止が想定されていることから、円LIBORを相対貸出の契約でご利用しているお客さまが、金融機関との間で円滑かつ効率的に契約変更手続き等を進めていくことができるよう、必要に応じて適宜参照・利用されることを想定し、関係者との意見交換を経て作成したものである。
 今後、金融機関や事業法人のお客さまなど、取引当事者間で適切に活用されていくことを期待したい。

 

会長記者会見の模様

 このたびの理事会において、髙島前会長からバトンを受け、全国銀行協会の会長を務めることとなった。これから一年間、大変な年になると思うが、皆さま方のご支援を賜りながら、この大役に取り組んで参りたいと考えているので、どうぞよろしくお願いする。
 まず、今般の新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、感染された方々やそのご家族、不安のなかにおられる方々に対して、心からお見舞いを申しあげたいと思う。
 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、髙島前会長に一言、お礼を申しあげたい。
 振り返ると、昨年度は、世界経済の先行き不透明感が拭えない状況が続くなか、年明けからは、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局に直面し、非常に難しいかじ取りを迫られた一年だった。
 このような局面において、髙島前会長は、この感染症への対応はもちろんのこと、銀行界の多岐にわたる課題への対応へ、見事にリーダーシップを発揮された。そのご尽力に対して、心から敬意と感謝の気持ちを表したいと思う。
 現在、わが国を含む世界は、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局に直面しており、銀行界としても、まずは、この対応が喫緊の課題と認識している。
 感染拡大の影響が広く実体経済へと波及するなかで、銀行界は、金融サービスを通じて、取引先や社会をしっかりと支え続けていくことが責務であり、社会的使命と考えている。
 先月、全銀協として申し合わせを実施したが、まず、新型コロナウイルスの感染防止・拡大抑制のためにも、お客さま・従業員やその家族の健康・安全の確保を図り、業務継続体制を構築・維持する。そして、影響を受けたお客さまが、資金繰りなどに重大な支障が生じないよう、丁寧、親身に経営相談に乗り、政策金融機関などとも連携を強化しつつ、必要な資金の申込みはもとより、金融面のサポート要請に、迅速、適切、柔軟に対応して参りたい。
 さて、改めて、わが国の銀行界を取り巻く環境を、内外の経済、政治、金融システムの視点から見てみると、今年の世界景気は、製造業の調整一巡と米中通商摩擦の一旦の後退によって、緩やかながら上向きに転じるとみられていたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大という、昨年までは誰も予想していなかった事態によって、足元で著しく縮小しており、非常に厳しい状況にある。
 国内についても、手厚い政策対応によって消費増税の影響は薄れていくと見込まれていたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済活動が大きく制限され、私たちが経験したことのない影響が随所にみられている。
 日本の銀行界は、全体として健全性を維持してきていると言えるが、経済面では新型コロナウイルス感染症拡大により、今年度は厳しい先行きを覚悟しなければならない。また、中長期的にみても、金融機関の収益性は国内預貸業務を中心に依然として低下が続いている。低金利環境の長期化に加え、人口減少や期待成長率の低下に伴う、借入需要の趨勢的な減少も背景にある。
 したがって、まずは、この新型コロナウイルスの難局を乗り切ることが最優先であるが、このような状況にあるからこそ、将来の日本経済の姿を見据えた種まきも、同時に重要と捉えている。
 銀行界としては、デジタル化や環境への意識の高まりなど、社会の変化にしっかりと対応しつつ、国の成長戦略への貢献を通じて経済を支えるとともに、社会課題を解決する役割を一層発揮していかなければならないと考えている。
 以上、申しあげた環境認識を踏まえ、私は、本年を、「イノベーションに取り組み、持続的成長と社会課題解決に貢献する一年」と位置付け、活動していきたいと考えている。
 具体的には、これから申しあげる「三つの柱」を掲げ、取り組んで参りたい。
 第一の柱は、「金融サービスの提供を通じた経済・社会課題解決への貢献」である。
 わが国経済の持続的成長と、さまざまな社会課題解決のためには、私たちが金融サービスの提供を通じて、お客さまの課題解決にしっかりと取り組んでいくことが重要である。
 まず、人生100年時代にふさわしい、長期・安定的な資産形成への貢献にしっかりと取り組んでいく。
 国民一人ひとりの資産形成や資産活用について、若年世代・現役世代のうちからしっかりと支えることで、「貯蓄から資産形成へ」の流れを確かなものにしていき、経済成長に繋がる金融仲介機能を一層発揮していく。このために、新NISA制度やiDeCoの周知等、国民の長期的かつ安定的な資産形成を後押しする取組みを、積極的に推進していく。
 また、このような家計の長期・安定的な資産形成と経済成長に資する資金の流れの実現のためには、各金融機関がそれぞれの役割を踏まえた顧客本位の業務運営に努めることが必要不可欠である。フィデューシャリー・デューティーを念頭に置いた各行の努力が求められるが、共通の課題として、高齢者対応の充実や、外貨建て保険問題への誠実な対応に、しっかりと取り組んで参りたい。
 次に、SDGs、ESGへの取組みについては、世界的に高まる環境意識のもと、サステナブルファイナンスや、TCFDへの対応等、課題はさまざまにあるが、アクションプランを定めて、取組みを進めていく。また、金融リテラシー向上のため、金融経済教育に取り組んで参りたい。
 そして、地方創生への貢献として、各行の取組みが中心となるが、技術力や将来性など、事業性評価にもとづく融資を推進していく。また、経営者保証ガイドラインの周知・活用促進を図っていく。本日から始まる新たな特則の考え方を徹底し、円滑な事業承継に貢献して参りたい。
 続いて、第二の柱は、「デジタル時代の「安心」「安全」「便利」な金融・社会インフラの実現」である。
 銀行は金融・社会インフラとして、お客さまの経済活動を支える役割を果たしており、これまでも高い安全性をもってその機能を担ってきた。デジタル技術の進展により、さまざまなプレイヤーの参入が相次いでいるが、「安心」、「安全」で「便利」な取引環境の整備は共通する主要な課題であるとともに、銀行界として強く期待される役割と認識している。
 こうした観点で、金融審議会でも機能別・横断的な法制など、多くの議論が行われてきたが、お客さまにとって利便性の高い取引環境の実現に向け、銀行界としても積極的に議論に貢献して参りたい。
 具体的には、全銀システムについて、資金移動業者との相互運用性等、次世代の決済システムのあり方の検討を進めていく。オープンAPI接続や、手形・小切手機能の電子化、税・公金収納の効率化など、継続課題にもしっかりと対応していく。
 また、マイナンバー制度については、デジタル社会のインフラの一つとして、有効に活用していくことが期待されている。銀行界としては、預金口座への付番などの課題に着実に対応していくとともに、政府・関係省庁と連携し普及をサポートして参りたい。
 このほか、中央銀行デジタル通貨やデジタルマネーによる賃金支払いなど、技術の進展に伴う新たな議論についても、銀行界として積極的に参画して参りたい。
 最後に、第三の柱が、「金融システムの健全性・信頼性の更なる向上」である。
 日本経済の持続的成長に向けて、金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、お客さまの活動を支えるためには、金融システムの安定が必要不可欠である。わが国の金融システムは、これまでも健全性・信頼性を維持してきたが、更なる向上を目指し適切に対応して参りたい。
 まず、年々要求水準の上がっているマネロン等への対応について、今年はFATFの第4次対日相互審査報告の公表が予定されているが、国際水準の態勢構築に向けた官民協働体制の整備を目指して参りたい。また、AML/CFT対策では、NEDOのAI活用実証実験への参画等を通じ、業務の高度化を目指し、業界対応水準の底上げを図っていく。金融犯罪未然防止の啓発活動を通じ、被害拡大の防止にも取り組んで参りたい。
 2021年末に想定されるLIBOR廃止を始めとした金利指標改革への対応も重要な課題である。金融市場や市場参加者への影響も大きいことから、お客さま対応の本格化に向けた重要な一年になると認識しており、万全な準備を進めていく。
 次に、国際金融規制への対応については、バーゼルIIIの本格実施時期は延期となったが、引き続き必要な準備を進めて参りたい。また、グローバルには、各国独自の規制導入による市場分断化や、気候変動への対応等も課題となっている。これらに対して、議論のフォローとともに、適切な意見発信を行っていく。
 このほか、公的金融改革や郵政民営化への対応も引き続き行っていく。政策金融機関とは定期的な意見交換等を進めているが、現下の情勢も踏まえ、一層対話を深めていく。郵政民営化については、三年検証の年度に当たり、適切に意見発信を行っていく。
 最後に、先ほど私は、本年を、「イノベーションに取り組み、持続的成長と社会課題解決に貢献する一年」と申しあげた。
 まずは、最優先の社会課題として、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局への対応に万全を期す。
 そして、このような局面でも、銀行界としては、「安心・安全」という普遍的な役割を強く意識しつつ、テクノロジーの活用にも取り組み、利便性の高いサービスをお届けすることで、日本経済の持続的な成長と社会課題解決に対して、最大限の貢献を果たしていくこと、これが、この一年間の最大のテーマだと考えている。
 今般、私は全銀協会長という責を引き受けることとなったが、わが国の金融システムの重要な一端を担う存在として、関係各位の声に耳を傾け、ご支援とご協力を仰ぎつつ、意思を持って取り組んで参りたい。この一年間、どうぞよろしくお願いする。


(問)
 新型コロナウイルス関連で日本経済の現状を伺いたい。本日、日銀短観が公表され、大企業製造業のDIが7年ぶりにマイナスになった。とはいえ、このマイナスも足元の悪化をまだ十分に織り込んでいないとの指摘もあるなかで、日本経済の現状、企業の経営の現状を会長はどのように見ているのか教えてほしい。
(答)
 今回の日銀短観のポイントであるが、新型コロナウイルスの感染拡大がどの程度の広がりを持って、どの程度の深さで実体経済に対して影響を及ぼしているかだと思う。
 結論から申しあげると、製造業、非製造業によらず、企業の現状および先行きの景況感や業績見通しが前回から大きく悪化し、感染拡大の影響がこの先もしばらく続くことに対して、多くの企業が懸念を強めていることを示唆するものだったと言わざるを得ない。企業の資金繰り判断もやや低下しているが、こうした動向も注視すべきものと考えている。
 内容を具体的に見ると、まず、現状評価としては、業況判断指数(DI)は全産業・全規模ベースで、昨年12月調査から▲8%ポイントと大きく悪化し、2013年6月調査以来のマイナスの、▲4%ポイントとなった。感染拡大を抑えるための公衆衛生上の措置により、内外の経済活動が急激に縮小したことを反映し、企業規模や業種を問わず景況感の大幅な悪化が見られる結果となっているが、従来相対的に堅調だった非製造業の景況感がとりわけ急激に崩れるかたちとなり、ここで外出自粛や渡航制限といった動きがサービス消費を中心に大きな影響を与えていることがうかがえる。
 また、先行き3ヶ月の業績の見通しについては、ほとんどの業種で現状判断からDIが悪化しており、新型コロナウイルスを受けた経済活動への影響の長期化に対する警戒感の現れと考えられる。企業セクターの落込みが長引き、仮に雇用や賃金に本格的に波及していくとなると、個人消費の減退を経てさらに企業収益が悪化し、経済全体が相乗的に悪くなっていく状況にも繋がりかねない。
 ただ、すでに政府はかつてない規模の経済対策に取り組んでいる。銀行界としては、政府、日本銀行の対応と歩調を合わせつつ、お客さまの置かれている状況を丁寧に伺いながら、資金繰り支援等のサポートなどを行うことでわが国経済全体をしっかり支えて参りたい。
(問)
 東京オリンピック・パラリンピックがほぼ1年延期されることが決まった。これについての日本経済への影響をどう見ているか教えてほしい。
(答)
 東京オリンピック・パラリンピックの1年延期については、選考されているアスリートの方や選考過程にある方、あるいは大会関係者の方々の心中を察するにあまりあるが、足元、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大しており、各国地域において拡大防止に向けた必死の努力が続いている状況を踏まえると、苦渋ではあるものの、やむを得ない賢明な判断であったと思う。
 経済的な影響についての質問であったが、つい一昨日、延期後の日程が決定されたばかりであり、現在ではなかなかまだ見通せず、はっきりと申しあげることが難しい状況だ。しかしながら、本来、東京オリンピック・パラリンピック開催期間中もしくはその前後には、外国人観光客による飲食、宿泊、交通費、買い物といったいわゆるインバウンド需要、大会関連収入等が期待され、また国内個人による同様の需要やテレビの買い替え等の消費需要も期待されていたわけであり、これらが逸失されることなどによって、さまざまなルートを通じて経済的な影響が出てくるだろうと考えられる。もっとも、今回このように逸失される需要機会は、2021年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されれば、来年にかけて顕現化することが期待できるだろうと思う。
 銀行界としては、新型コロナウイルスの感染拡大やオリンピック・パラリンピックの延期により影響を受けるお客さまの資金繰りの対応に万全を尽くしながら、最終的に東京2020大会が開催され、成功するよう尽力して参りたい。


(問)
 新型コロナウイルス感染拡大に加えて、足元、原油価格の急落も企業活動、経済活動に多大な影響を与えていると思う。そうしたなか、市場が荒れており、有価証券の減損やドルの流動性の枯渇、また銀行経営に関して言うとローン担保証券(CLO)の価格下落なども懸念されていると思うが、これらのリスクが銀行経営に与える影響ならびにそうした悪影響が金融危機に発展する可能性があるのかどうか、見解を伺いたい。
(答)
 最初に結論を言うと、実体経済の落込みや金融市場の大幅な調整は、さまざまなルートを通じ銀行経営に波及する、あるいはすでに波及し始めており、今後の動向には最大限の注意を払って見ていく必要があろうが、今回はリーマン・ショック時の金融危機とは異なり、新型コロナウイルスによる悪影響が直ちに金融危機に発展し、金融システム全体の安定性を損ねる可能性は高くないと考えている。
 ご質問は主に市場からの銀行経営への波及についてであるが、実際世界的な感染拡大、特に2月終わりごろから欧米で感染拡大が本格化して以来、市場参加者が想定する実体経済への影響度合いに対する予想を急激に修正させたことで、内外の金融市場や資源価格が大きく調整したということだろうと思う。
 しかしながら、こうした動きに対して、米国では二度の緊急利下げにより政策金利の目標レンジを1.5%引き下げ、4年3ヶ月ぶりに下限レートを0%にした。金利政策以外では、日米欧の中央銀行が大規模な量的緩和を拡大し、市場に大量の流動性を供給し、また企業の資金繰り支援も打ち出した。同時に、ニューヨーク時間の3月15日(日)に6ヶ国の中央銀行によるドル資金流動性供給の協調も同意された。先週になると、こうした各国中央銀行による量的緩和の拡大や大量の流動性供給が、市場の安定性維持、円滑な企業金融の確保などに効果を発揮し、極端な現金化の動きや、株式市場、国債市場の価格調整の動きは、足元では一旦落ち着く気配を見せているのではないかと思う。
 銀行経営への影響は、感染終息の時期が不透明であり、今後の事態の展開に依存するため確定的なことは申しあげられないが、一つは、株式を含めた資産価格急落や金利低下を受けた運用環境の悪化、二つには、国内の資金は潤沢であるが海外のアセットを保有するなかでの外貨の調達環境、三つには、お客さまの経済活動の停滞や収入の落込み等を受けた取引先の業績悪化・業況悪化と、その延長としての与信費用発生の懸念など、幾つかの経路で金融機関に影響が及ぶ可能性も考えられる。
 もっとも、外貨流動性は各国中央銀行により大量の流動性が供給されており、また感染拡大の経済への影響緩和には、かつてない規模の経済対策も動員されようとしている。加えて、冒頭申しあげたように、今回は発端が金融危機というわけではなく、グローバル金融危機後に規制強化され、金融機関のビジネスモデルの見直しなどにより世界の金融システムは強化され、金融機関の財務の健全性は増しているほか、過去の危機時の経験も踏まえて、今回、各国金融当局や中央銀行は市場の動きに極めて迅速に対応していると考える。
 こうしたことを踏まえると、冒頭申しあげたとおり、今後の動向を注意深く見ていく必要はあると考えるが、直ちに金融システムの安定性が損なわれるとは考えていない。


(問)
 新型コロナウイルスに関連して、先ほどの会長の話にあるように、企業の資金繰りが最重要課題であるのはもちろんだが、住宅ローンやカードローンといった個人ローンの動向も注視しておく必要があると考えている。コロナ危機以降の個人ローンの申込状況であったり、既存借入先からの返済猶予などの問合せ状況について聞きたい。
(答)
 個人ローン、住宅ローンを含めた個人のお客さまの動向についてであるが、まず銀行界としては、個人ローンの申込みやすでに借入をされている個人のお客さまからの返済猶予の申出に対して真摯に対応を進めている。個別行の状況を踏まえると、こうしたご相談も増加傾向にあると認識している。
 会員各行では、新型コロナウイルスの影響を受けられた方々の状況に応じて、事業者さま向けの相談窓口に加え、個人のお客さま向けにも相談窓口を開設し、お客さまに寄り添った対応に取り組んでいる。また、全銀協においても同様に、無料のカウンセリングサービスを実施しており、住宅ローンや銀行カードローンなどの返済にお困りの個人の方へ相談窓口を設置している。さらに、自然災害の対応と同様、新型コロナウイルスの影響により返済猶予などを実施した場合は、延滞の情報登録をしないといった信用情報上の措置をとるよう、会員向けに周知したところである。
 銀行界では、債務者の皆さまの状況に応じて、適切に資金需要に応える役割を果たしていくことは重要であり、その取組みの延長線上で、今回のコロナ危機時のセーフティネットとして、個人のお客さまの資金繰りを支える役割を担っているものと認識し、最優先で取り組んでいる。引き続き丁寧に個人のお客さまの資金ニーズ、ご相談にも乗っていきたい。


(問)
 先ほどの所信でもあったが、手形・小切手の電子化状況に関連して先般公表された報告書によれば、電子化移行に向けた2019年の目標達成率は60%と未達になっている。報告書では電子化の推進に向けて、「金融界のみならず、オールジャパンの取組みが不可欠」としているが、この点を踏まえて2020年度に重視していく方針について聞きたい。
(答)
 手形・小切手機能の電子化については、「未来投資戦略2017」における手形・小切手の電子化の提言を受けて検討会を設置した経緯がある。2018年12月に取りまとめた報告書で、「全面的な電子化を視野に入れつつ、5年で全国手形交換枚数の約6割が電子的な方法に移行すること」を中間目標と定め、紙の手形はでんさいへのシフトを、小切手はインターネット・バンキングでの振込へのシフトを目指して取り組んでいる。
 でんさいへの移行に向け、金融機関からこれまで約7万社にアプローチを行うとともに、企業向けセミナーを昨年度は計34回開催、またインターネット・バンキングを利用した振込へのシフトのため、広報ツールの作成、セミナー参加企業の小切手利用用途の調査なども行ってきた。
 2020年3月に取りまとめた調査報告書では、2019年における全国手形交換枚数は4,520万枚と、前年に比べ374万枚減少した。これは過去トレンド以上の減少幅であり、これまでの取組みに一定の成果はあったものと考えるが、達成率は60%であり、5年で6割の減少幅を実現するには十分とは言えず、さらなる取組みが必要と認識している。
 その点、今年度の取組みとしては、ターゲットを明確にしたアプローチを進めていきたいと考えている。つまり、手形の電子化では、企業数が多く、でんさいの契約率が低い中小企業の皆さまによる活用が重要であると考えているが、比較的規模の大きい企業向けセミナー等の施策も継続しつつ、より多くの企業に接触できるように、でんさいネットのウェブサイトの充実化、整理などの各種オンライン施策にも注力していく計画である。
 また、小切手の電子化は、紙の手形と異なり、港湾運送事業等の特定の商取引において根強いニーズがあることも分かってきているが、具体的な利用用途を把握したうえで、電子化シフトを図る必要があり、調査とその結果を踏まえた具体的な推進策を進めていく計画である。
 ただし、さらなる電子化の推進には金融界だけではなく、産業界、関係省庁等も含めたオールジャパンでの取組みが不可欠である。例えば、その他証券における定額小為替証書や、配当金領収証の削減、小切手の電子化に向けた特定業界へのきめ細やかなアプローチは、銀行業界だけではなかなか達成できないものだと考えている。このように、ターゲットを明確にしたアプローチ、つまり、解決すべき課題を明確にし、産業界、関係省庁と密接に連携を取りながら、電子化を力強く推進していきたいと考えている。


(問)
 新型コロナウイルスの関連でお伺いしたい。企業の資金繰りの支援は一層迅速な対応が必要になっている状況かと思うが、現在、銀行業界としてどのような体制で取り組んでいて、今後、より改善すべき点など、どのように取り組んでいくべきとお考えか。
(答)
 資金繰り支援強化については、政府から要請をいただいている。こうした要請は、銀行界として、改めて銀行が社会機能で必須の、不可欠な金融インフラであるということを自覚し、政策金融機関や保証協会とも連携しながら、お客さまの資金繰り支援にしっかりと取り組んでいかなければならないと受け止めている。
 全銀協では、金融庁の要請も踏まえ、銀行界一丸となって取り組んでいく意思を込めて、先月3月12日に申し合わせを実施した。新型コロナウイルスによる影響を受けたお客さまへの迅速、適切かつ柔軟な対応に努めて、影響を受けた事業者の資金繰りに重大な支障が生じることがないよう、万全を期して臨んでいくということである。
 具体的な取組みとしては、事業者の業況や当面の資金繰り等について、会員各行は事業者を訪問したり、緊急相談窓口を設置したりすることによって、丁寧、親身になってご相談に乗っているところである。新規の融資については、緊急融資制度の設定や、お申込みに当たって担保、保証の弾力化に会員各行で取り組んでいるほか、政策金融機関のセーフティネット貸付や信用保証協会のセーフティネット保証等を活用し、引き続き、迅速かつ適切に対応していきたいと考えている。
 一方、既存の融資についても、事業者の状況を丁寧に伺って、元本、金利を含めた返済猶予等の条件変更のお申し出に迅速、柔軟に対応しているところである。今後もお客さまに寄り添いながら、こうした対応に万全を期していきたいと思う。
 また、今回、こうした対応に当たっては政策金融機関との連携が重要だと考えている。政策金融機関のあり方に関しては、民間にできることは民間に委ねる、民業補完が原則と申しあげてきたわけであるが、世界的な経済危機や大規模災害からの復旧・復興といった危機時においては、民間のみで対応できるものではなく、政策金融のセーフティネットとしての役割が期待されており、今がまさにそうした局面であろうと考えている。
 足元、日本政策金融公庫が事業者の資金繰り支援のために実施している「新型コロナウイルス感染症特別貸付」等の制度融資に対して、お客さまから多数のお申込みが寄せられている。そうした状況のなか、金融庁や日本政策金融公庫からの要請も踏まえ、関係者間で協議のうえ、会員各行が各行のお客さまに対して、日本政策金融公庫の制度融資の商品概要の説明、あるいは手続、必要書類のご案内、書類作成のお手伝いといった協力を開始し、実際のお申し込みから日本政策金融公庫での審査、実行といった事務がスムースに流れるようなサポートをこれからさせていただくということである。
 銀行界をあげて、お客さまへの迅速、適切かつ柔軟な対応に努め、影響を受けた事業者の資金繰りに重大な支障が生じないよう、官民で密に連携を取りながら、引き続き最善を尽くし、万全を期していきたい。
(問)
 関連してもう1点伺いたい。今、医師などから意見が出され、緊急事態宣言、あるいは感染防止のために都市を封鎖するといったことが議論になっているが、こうした事態に備えて銀行界としてはどのようなBCPを考えているか。
(答)
 ロックダウン、緊急事態宣言など、そういう事態になった場合、BCPなど銀行界としてどのような対応をしていくか。銀行は社会機能の維持に不可欠な金融インフラだと先ほど申しあげたが、お客さま・職員の健康、人命保護を最優先することを前提としてサービスを可能な限り継続し、提供していくことが社会的使命と考えている。
 まず、全銀協における最優先業務、金融機能としては決済業務と考えており、銀行間決済の根幹システムである全銀ネットは、過去の震災等の経験をもとに、東京・大阪間でスイッチ可能なバックアップ体制を構築している。また、東京手形交換所に関しても、慎重に業務のスプリット体制を構築し、安定運営を維持しているところである。
 現実問題として、緊急事態が宣言された場合には、銀行法で定められる営業日の規定との兼ね合いをどう考えるかということであるが、各行においても過去の災害の経験を最大限に活用し、他方で、これまで経験したことのない未曾有の危機に対し、知恵を振り絞って業務継続体制を構築してきているところである。
 いずれにしても、振込や口座振替をはじめとする決済、お客さまの現金引出しへの対応、そして資金繰りについてのご相談、これらは今の局面における最優先事項であろうかと思う。その対応に最大限の体制を、全銀協としても、あるいは会員各行においても、整えていくということだと思う。


(問)
 現在、新型コロナウイルスでいろいろな産業が傷んでいる。インバウンド需要に頼っていた地方の観光業などでは、経営の継続性に疑問が生じているところもある。ビジネスモデルの再構築、経営の方向性を転換したり、むしろ地域金融機関の果たす役割が大きくなってくると考える。しかしながら、少なからずコア純益で赤字であるなど経営環境が厳しい地方銀行があると認識している。与信費用の大幅な増加も見込まれるなか、地域金融機関の果たす役割、置かれた環境についてどのようにお考えか。
(答)
 やや繰り返しになるが、今回の危機事象は未知の感染症の拡大という事象であり、それ自体が金融危機、経済危機というわけではない。この感染症の拡大という危機事象に対して移動制限等の厳格な公衆衛生措置がとられ、それが経済活動の物理的水準を下げ、それが実体経済に波及しているということである。そうしたなかで、今、政府は、そうした経済へのインパクトを緩和、軽減するために、さまざまな経済対策をとり、市場の安定維持、円滑な企業金融の確保に金融政策も総動員されているという状況である。したがって、金融界もそうした政府当局の努力と平仄を合わせながら、お客さまの資金繰り支援に万全を期している。
 そういうなかで、地方でも、ご指摘があったような、事業に影響を受けているお客さま、これは何も地方に限らず全国、世界中で起きていることであるが、そうしたことに経済政策の効果というものがどう回っていくかを見極めながら、各行が事業のご相談に乗り、あるいは資金繰りに重大な支障が生じないよう万全を尽くしている、セーフティネット保証等も活用しながら、官民で適切なリスクシェアも行われている、このように理解している。
 地域金融機関の経営についてのお話があったが、地域金融機関も含めて、金融界全体としては、前回の危機以降、資本あるいは流動性、こういった面でもバッファーを持ちながら、財務の健全性、レジリエンスも強化されたと認識している。また、地域金融機関を含めて金融界全体として与信費用、不良債権比率も非常に低水準にある。したがって、こうした今の局面において、官民のリスクシェアを適切に行いながら、また政府の経済対策に対する努力と整合をとりながら、与信運営を行っていくことで、経営に直ちに不安な要素を持ち込むということではないだろうと考えている。


(問)
 日本政策金融公庫の窓口を訪れる人が増えているということに触れて、銀行界としてサポートしていくというお話があった。保証協会等も相談が増えている状況で、三菱UFJ銀行も窓口も設置して書類の確認などを行っている状況と思うが、例えば政府からさらなる要請があったときに、銀行界として何ができるか、お考えのところはあるか。
 また、相談が増えている状況のなかで、ロックダウンのときに、例えば店舗を一定数、一時的に営業をやめるなどという可能性はあるのか。
(答)
 まず、日本政策金融公庫と官民で連携しながら、書類作成のお手伝い等の協力をさせていただいているということ、保証協会におけるセーフティネットを活用しながら、金融に目詰まりが生じないよう努力していることは先ほど申しあげたとおりである。
 今のご質問は、それに加えて、官をさらにサポートできることがないか、あるいは、もし新しい枠組みが出れば、それを民としてサポートしていくことができるか、こういう趣旨のものと理解した。
 例えば、週末に総理から、民間でも無利子、無担保の融資を、というご発言があった。現在、政府のなかで検討されていると認識しており、私どもとして詳細は存じあげないので、これについて何かを申しあげられるわけではないが、何らかの枠組みができ、民間金融機関としても果たせる役割がさらに追加的にあるのであれば、考えていきたいと思う。
 いずれにしても、今の事態に対して、金融に目詰まりを起こさせず、やがて活動が再開されたときに早い回復を実現するためには、重要な経済のインフラが棄損しないようにしていくことが重要であるので、金融に目詰まりを起こさせない、すなわち資金繰り上の重大な支障が生じないような、そのような努力は私どももさらに重ねていきたいと考えている。
 二つ目のご質問は、ロックダウンに伴い、営業店を一部閉めるようなことが生じた場合に、資金繰りに対するご相談や要請に対してお応えしていく体制などが脆弱になるのではないかという趣旨のものと理解した。これは、各行それぞれの業務維持体制に対する努力によるところと思うが、会員各行は、今回の事態に対して綿密に自らの業務継続体制を見直し、可能な限り社会にサービスを提供し続けるための努力、見直しを行っていると思う。
 個別行のことになるが、三菱UFJ銀行でも一度、国内の支店で感染者が出たことがある。直ちに濃厚接触者は自宅待機とし、その一方、消毒業者の方に来ていただいて、夜中に関係しているところをすべて消毒し、そして自宅待機者の代わりに本部から要員を投入して、翌日には通常どおりに営業ができるようなオペレーションを実施した。
 このように、まず重要なことは、従業員やその家族に感染者を出さないことである。そのために時差出勤やオフピーク通勤など、こういった運営を徹底している。
 また、金融サービスを提供するためには、事務センターやシステムの運営が継続されること、それから現金や手形といった現物を取り扱う事務センターのオペレーションが継続できることが重要であるので、そうした拠点についてはスプリット運営を実施したり、バックアップ体制を敷いたりして、業務継続に問題がないような運営をしている。
 また、営業店で、仮に先ほどのように感染者が出た場合に備えて、要員を本部から派遣できるようなバックアップの体制も構築し始めている。
 今、私どもの個別行としての取組みを申しあげたが、各行、同様にこうした努力を行っている。したがって、銀行界全体で見てもそうした努力を行っているということである。
(問)
 今回、どちらかというと中小企業において資金繰りが苦しくなっているところが増えていると思うが、今の大企業の資金繰りについてどう見ているのか。また、そうした資金繰りに関するニーズが出てきたときに支える力が今の銀行界にあるのかについて伺いたい。
(答)
 報道等によると、海外でも大企業が、例えばコミットメントラインやリボルビングラインから、いざというときのために資金を確保する動きがあると認識している。これは、今回の事態が、感染症対策の結果として、経済活動が急速に縮小し、企業部門における売上の急速な減少に伴って起きているものであり、中小企業だけに起きているのではなく、大企業においても同様に、工場の生産活動が停止するといったような報道が幾つかなされているところである。
 上場企業においては、およそ6割がネットで純借入がない、預金超過という状態になっていると言われるほど、もともと手元流動性は潤沢であると理解しているが、そういうなかで予備的に、あるいは予防的に資金を確保しようという動きは出てこようかと思う。これに対して、それぞれの金融機関は、資本と流動性を、前回の危機以降、手厚く確保してきていることから、こうした動きにも対応できると考えている。
 また、海外でも行われているが、こうした事態において、過去積み上げてきた資本のバッファーや流動性のバッファーについては、これを活用していくといったことについて声明が出され、同様に、先般、金融庁からもバッファーの利用についての声明が出されていると理解している。したがって、国内の資金需要、大企業からの今のご指摘のような資金需要にも十分応えていく力が現在の銀行界にはあると考えている。


(問)
 先ほども少しお話が出ていたが、新型コロナウイルス対策の関連で、赤字国債の増発を伴う補正予算案が編成される見通しであり、与党の若手議員からは、プライマリー・バランス目標を凍結すべきだとの声も出ている。日本国債の格下げに発展しかねない財政運営と言えると思うが、さらには銀行の資金調達コストにも将来的に影響が出てくる懸念もあると思う。こうした現状についてどうお考えか。
(答)
 足元の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う実体経済への悪影響に対応するため、適切なポリシーミックスのなかで財政上の措置がなされる、かつてない経済対策といった言葉も出ているが、そうしたことは当然必要なことであり、実際に日本に限らず各国政府においてそうした対応が進められていると理解している。
 もちろん、中長期的な財政の健全性確保は、わが国の持続的・安定的な経済成長の実現に加え、今ご指摘のあった国債への信認維持を通じたマーケット発のテールリスク回避のためにも引き続き不可欠なものであり、銀行界にとっても、安定した資金調達や健全な収益・バランスシート運営の維持の前提となるものと認識している。
 政府は、昨年6月に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2019」、いわゆる骨太方針2019において、そのような観点から財政健全化に向けた方針を示したと理解している。
 ただ、今のこの局面においては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う実体経済への影響緩和に向けた対応を最優先し、財政運営がなされていくものと理解している。それが感染拡大が収束した後の経済活動の速やかな再開、そして実体経済の早い立直りにつながるものだと思う。銀行界も金融面でこうした政策努力と平仄を合わせて取組みを進めていきたいと考えている。


(問)
 公正取引委員会が、銀行の振込手数料について、水準等を問題視して調査している。銀行間送金の手数料についても調査しているようで、間もなく調査結果も出てくると思うが、この点についてまずどう考えているか。併せて、未来投資会議でも決済インフラのあり方などが議題になっているが、先ほど会長も相互運用性の確保を言っていたが、今後、小口の少額決済のシステムについて、例えば新しいシステムを作るとか、全銀システムにFintech業者がつながるなど、いろいろな議論が出てくるかと思うが、こういった点について会長としてのお考えを伺いたい。
(答)
 まず手数料水準そのものについては、まさに各行の経営戦略、事業戦略にもとづくものであるので、全銀協会長として手数料水準について申しあげることは差し控えたい。
 ただ、一般論として申しあげれば、基本的な考え方は、サービスを提供する事業者がお客さまにご満足いただける高品質なサービスを提供することで、そこに費やしたコストや提供する価値に見合う対価を、お客さまのご理解を得ながらいただいていくということであると思う。
 そのうえで、銀行の振込手数料について少し補足をすると、決済はまさに銀行の本業である。したがって、これまで業界としても長年にわたってさまざまな仕組みを整えてきた。全国の銀行共通の仕組みとして、例えば最近では24時間365日、即時着金が可能な仕組みを整えることで、お客さまにとってどの銀行でも安全・安心・便利にご利用いただけるサービスを提供してきた経緯がある。
 また、インターネットにおける非対面の振込サービス、これも開始してから20年経過するが、こうしたものの導入で、便利で、相対的には低廉なサービスを提供するよう取り組んできた。
 同時に、預金者に対する多様なアクセスポイントを提供する観点から、ATMや店頭での対面サービスを維持し、また昨今、アンチ・マネーローンダリングや金融犯罪への対応、さらにはこうしたシステム、ネットワークの更新・維持にコストをかけてきている面もある。
 銀行界としては、デジタライゼーションの進展に伴う新技術の活用やシステム開発、運用のより効率的な実施によるコスト削減努力を積みあげながら、より便利で、かつ安心・安全な決済サービスの提供に向けて、今後も不断の努力を続けなければならないと考えている。
 なお、公正取引委員会の話があったが、キャッシュレス決済等について調査を行っていることは聞いているが、その目的について私どもとしては承知していないので、コメントは差し控えたい。
 二点目の相互運用性については、銀行と資金移動業者といった、いわゆる非銀行の決済事業者、あるいは非銀行の決済事業者同士で相互にサービスを共有することで顧客利便性を高める、という取組みの検討の必要性は全銀協としても認識している。
 ただ、その検討に当たっては、ポイントとなる点がいくつかあるのではないかと考えている。まず、当然のことながら、こうしたノンバンクの決済事業者が相互運用性を確保したいという意向をどの程度お持ちかということがあろうかと思う。この点については、今後、関係者の間でしっかりと対話を重ねていく必要があるのではないか。
 また、実際に全銀システムに接続することで相互運用性を確保しようとなった場合には、いくつかの点について検討していく必要がある。ご存じのように全銀システムは、1日650万件、決済金額で12兆円に及ぶ内国為替決済を処理する、非常に信頼性高く、安心・安全で可用性もあり、かつ拡張性もあるインフラである。したがって、そういった全銀システムに接続するときに、その全銀システムの安全性や安定性をいかに確保していくか。それから、接続しようという事業者の事業継続性や信頼性、信用力をどう担保していくか。三つ目には、実際に接続する場合にどういう接続方法が望ましいか、こういう幾つかの点について検討していく必要があると思う。
 したがって、少額の決済について別システムを、というご質問があったが、そうした場合にどのようにシステムを区切るか、また決済は、確かに便利で、低コストということもあるが、さきほど全銀システムについて申しあげたように、決済である以上、安心・安全で信頼性があり、そして常に動く可用性があり、取引件数のボリュームが大きくなったときの拡張性も担保される、こういうさまざまな要件が担保される必要がある。したがって、そうした点についてどのような折り合いをつけていくか、という大きな議論が必要なのではないかと考える。
 このようなポイントを踏まえたうえで、次世代の資金決済システムのあり方について、今後、当局も含めた関係者と協議を深めていくことが重要なのではないかと考えている。


(問)
 黒田日本銀行総裁が就任して7年が経ち、現状の金融政策についての意見や銀行界としての要望を教えていただければと思う。
(答)
 金融緩和が長期に及んでいることについての質問であろうかと思う。日本銀行の金融政策についての評価であるが、金融政策は日本銀行の専管事項であるので、全銀協会長としてコメントすることは適切ではないと考えている。したがって、私個人の見解としてお答えするが、日本銀行において、経済・金融環境の慎重な分析と、それにもとづく適切な目標設定をもとに、政策効果と副作用の十分な比較衡量と検証が行われ、金融政策運営がなされていくことが重要だと考えている。
 振り返ると、黒田総裁の下で日本銀行が現行の金融政策を導入したのは、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するためであった。その実現にはいまだ至っていないが、持続的な物価下落という意味でのデフレを脱却したという点では、一定の効果があったと考えている。
 他方、銀行の貸出金利を含め、市中の金利が全般的に大きく低下し、銀行の預貸利鞘は縮小している。また、金利低下やイールドカーブ全体がフラット化したことに伴い、運用も非常に難しくなっており、銀行のみならず、金融機関全体の収益環境は、確実に厳しくなっていると言えると思う。こうした状況が、金融仲介機能の低下につながり、それが実体経済に悪影響を与えるとすれば、これはまさしくマイナス金利政策の副作用である。
 足元では、新型コロナウイルスの影響により経済・金融環境が非常に厳しくなっているなかで、3月16日の金融政策決定会合で決定された金融緩和策は、金融市場の安定維持や企業金融の円滑確保に資するものとして評価しているところである。他方で、この先、金利面での一段の金融緩和、すなわちマイナス金利の深掘りについては、わが国の金利が、すでにかつてないレベルまで低下していることから、追加的な効果がどの程度得られるのか、また、先ほど申しあげた金融仲介機能への影響、すなわち副作用が強まるのではないか、といった思いがある。いずれにしても、日本銀行において、経済・金融環境の慎重な分析、政策の効果と副作用の十分な比較衡量と検証を行われたうえで、金融政策運営が行われていくものと考えている。
 また、昨年11月、IMFが日本銀行の金融政策に関して提言を行っているが、私としては、金融政策のあり方についての健全な問題提起ではなかろうかと受け止めている。物価目標に幅を持たせるという提言は、主要国のインフレ率が一般的な目標である2%を下回る現状をどう考えるかという問題提起であろうと思う。個人的には、長い目で見た社会・経済構造の変化に照らして、2%という水準の妥当性について議論・再検討される時期ではなかろうかと感じているし、現に各国当局がこうした議論を進められていると理解している。

別添資料:三毛会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)