会長記者会見
2020年10月15日
三毛会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)
岩本専務理事報告
事務局から1点ご報告する。
本日の理事会において、みずほフィナンシャルグループの坂井社長を次期会長に推薦することが了承された。来年の理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日に就任する予定である。
会長記者会見の模様
(問)
ドコモ口座に端を発する、スマホ決済サービスからの不正な現金引出しの被害が相次いだことについて伺う。先月の記者会見で、全銀協としてもガイドラインの策定を検討するという説明があったが、どこまで進捗しているか。ガイドラインを策定するにあたって、論点や盛り込むべき視点について、どのように考えているか。
(答)
先月の会見では、資金移動業者と銀行が連携してサービスを提供する際に発生した不正引出しの事案を防ぐために、資金移動業者との口座連携時に銀行が提供する「ネット口座振替受付」時に求められる認証水準等について、ガイドラインの策定が必要である旨コメントした。現在、全銀協では会員行の実態を確認しつつ、関係当局や関係当事者とも連携しながらガイドラインの策定を進めているところである。
また、先月は、資金移動業者と銀行が連携してサービスを提供するケースにおいては、サービス全体の安心・安全を確保するため、入り口の本人確認プロセスや認証水準に加え、万一の不正取引発生に備えた異常取引のモニタリング検知の仕組み、さらには被害が発生した場合の事業者による補償、これらも含めて、全体の枠組みがしっかり機能することが重要であるということを申しあげた。ガイドラインにおいては、このような全体の枠組みについて記載する必要があると考えている。
個別の内容について少し申しあげると、まさに今、金融庁との協議を始めているところであるが、特に資金移動業者の利用者がアカウントを開設する際の実在性、同一性確認プロセス、銀行口座と連携する際の本人確認プロセスの確認、銀行の口座振替における認証の強化、すなわち多要素認証導入の必要性は、共通認識とする必要があると考えている。
補償に関しても、不正引出し等が発生した場合の問合せを受け付ける窓口、利用者に損害が生じた場合の補償、返金方法、あるいは補償の範囲、これらについて資金移動業者と銀行の間で、予め取り決めることの必要性等を記載すべきではないかと考えている。
全銀協は自主規制団体ではなく業界団体であり、こうしたガイドラインについて、強制力を持った要請は難しいという制約もある。一方、これまでもインターネット・バンキングでの預金等の不正引出しに関する注意喚起や、あるいはセキュリティ対策強化や補償に関する申合せといった取組みも進めてきており、こうしたお客さまの資産の安心・安全を守る取組みについては、会員行の理解を得ながら対応を進めることで、業界団体としての取組みとして一定の成果を上げてきたとも考えている。
今回のように、銀行と資金移動業者といった複数の事業者に跨るサービスにおいては、銀行だけではなく、資金移動業者・銀行の双方がセキュリティに対する高い意識を共有し、バリューチェーン全体で対応していくことが被害発生防止には重要であると考えている。
今後、資金移動業者とも連携した、セキュリティのさらなる強化に関する取組みについても検討を進めて参りたい。
(問)
新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対する融資について伺いたい。春先から実行されている民間金融機関による実質無利子・無担保の融資もあり、全銀協の預金・貸出金速報からも、貸出が積み上がっている状況がわかる。大企業、中堅企業を含めて、資金繰りについては一定の目途がついている状況と認識しているが、今後コロナ禍の影響長期化を見越して、資本を厚くしたいという要望が企業側からあがってくることが見込まれる。その際、民間の金融機関である銀行が、どこまで資本に対する要請を受け入れられるのか、受皿となり得るのか伺いたい。また、政府系金融機関との役割分担や政府に対する要望があれば併せて伺いたい。
(答)
今お話があったように、今回のコロナ禍において、3月以降、銀行界は多数の資金ニーズにお応えしてきた経緯にある。その結果、手元資金を確保したい企業への融資は大企業を中心に一巡し、一旦の落着きが見られる状況だと思う。計数で申しあげると、9月末の全国銀行の貸出残高は534兆円で、前年同月比ではプラス6.1%になっているが、前月比ではマイナス0.1%と、ほぼ横ばいの状況となっている。ただし、コロナ危機以前の水準まで業績が回復するには時間を要する事業者が多いであろうと想定している。今後、秋冬にかけて、再度新型コロナウイルスの感染が拡大するのか不透明ななか、再度事業者の資金繰りが悪化し、資金需要が増加するのか、また売上げの減少長期化により資本性資金の調達ニーズが高まるのか、よく注視しなければならない。
資本性資金の支援については、銀行界においてもすでに各行さまざまな取組みを公表しているが、案件毎にリスクを精査のうえ、ニーズにもとづき可能な範囲で取り組んでいくということかと思っている。ただ、銀行は預金中心の調達構造であることから、その対応には限界もある。こうした民間のみでは対応しきれないゾーンについて、政策的な資本性資金支援の枠組みが整えられていることは、心強いものと捉えている。
二度にわたる補正予算等でも手当てがなされてきたが、例えば日本政策金融公庫の新たな資本性ローンや、商工組合中央金庫・日本政策投資銀行の危機対応融資のなかでの劣後ローンが開始されている。また、日本政策投資銀行においては、特定投資業務の枠組みのなかで地域金融機関と連携し、ファンドを設立している。地域経済活性化支援機構(REVIC)も既存ファンドの拡充、新規ファンドの設立を通じて、新型コロナウイルスに影響を受けた事業者への資本性資金の支援に取り組んでいる。さらに申しあげれば、先月には、産業革新投資機構も、国際競争力の強化や事業再編促進、デジタル化への対応等を目的とした新たなファンドの設立を公表している。
こうしたさまざまな政策金融機関や機構の動きが出てくるなか、これらと呼応するかたちで民間金融機関も、本来、主に担う役割である貸付けを中心に、事業者の資金ニーズに効果的な支援を実現していくということではないかと思っている。
今まで銀行が果たしていた役割が大きく変わるということではないが、これまで以上に、支援対象となる企業が雇用・地域経済において果たしている役割、あるいはその重要性といったものをしっかり見極め、ポスト・コロナを見据えたうえで、資本性資金の支援が真に必要な企業に対して、わが国経済の成長に繋げるべく、民間金融機関も支援を行っていくことが重要ではないかと考える。
(問)
菅新政権が発足し、社会のデジタル化を進めていくことを表明している。先日、平井大臣と全銀協会長が会談されたが、改めて銀行界として社会のデジタル化に資する取組みとして進めていきたいことを教えてほしい。逆に、政府に対して、銀行がデジタル化を進めるに当たって省庁や自治体に求めることは何か伺いたい。
(答)
政府はデジタル庁新設に向けた準備室を発足させ、その発足式において首相は、「出身省庁の省益を考えず、前例を考えずに、未来につながる改革」を求めた。その後、政府からは行政・社会のデジタル化に向けたさまざまな具体的な施策が打ち出されており、新政権における社会のデジタル化に向けた強いイニシアチブ、本気度といったものを受け止めている。銀行界も行政と連携しつつ、デジタル化を通じて、国民の利便性向上、社会的コストの削減に貢献できるものと考えている。その例として、マイナンバー、そして自治体の税・公金収納の効率化について少し話をする。
まずマイナンバーだが、特別定額給付金の支給を経て、必要な方へ必要な資金を最も迅速に支給するためには、国民一人一人に、振り込む口座の情報が常にリンクしている必要性が認識されたと思う。デジタル技術を活用して、マイナンバーに口座情報が紐付けられるシステム、仕組みが構築されれば、正確な口座情報にもとづく迅速な給付が可能となり、国民、自治体、そして銀行にとってもメリットがあると考えている。
成長戦略等で言及されている、預貯金口座にマイナンバーを紐付ける預貯金口座付番、これは例えば災害や相続といった際に、手続の迅速化、効率化といったメリットがお客さまにもたらされることになる。ただし、マイナンバーを新たな領域で活用するためには法改正を伴うことから、政府や行政の方針をもとに、さらに議論を深め、お客さまの理解と納得をしっかりと得ていくことが重要と考えている。そのために、銀行界としても、よりお客さまにとって利便性の高いサービスが提供できるような取組み、検討を進めていかなければいけないと考えている。
次に、税・公金収納の効率化であるが、こちらも社会のデジタル化に資するものとして、銀行界としては積極的に取り組んでいる。なかでも、実証実験を進めているが、納付書へのQRコードの導入は、自治体業務のデジタル化の推進、効率化の実現に資するものと考えている。
税・公金の納付には、地方税共通納税システムやペイジーなど、すでに非対面での電子納付手段があるが、すべての自治体、税目で対応できているわけではない。そのため、現在でも国税で7割、地方税で4割が紙による銀行窓口における納付になっている。これは人を介しての処理になるため、窓口での“密”発生の原因にもなる。
これらをコストという観点で申しあげると、窓口で紙を用いて納付する場合には、過去の推計になるが、利用者側で年間約2,000億円、金融機関側で年間約600億円のコストが発生するという試算がある。さらに、自治体側でも、人の手による紙ベースの事務処理、これに伴うコストが発生しており、納税者、自治体、金融機関、これらを合わせた国全体の効率化の余地は極めて大きいのではないかと考えている。
その点で、QRコードのメリットは2点あると思う。1点目は利用者の利便性である。すべての銀行の支店であらゆる納付書の受付が可能となる。また、スマホアプリ、インターネット・バンキングが対応すれば、これまで窓口でしか納付できなかった納付書でも、いつでもどこでも非対面で納付が可能になる。
2点目としては、自治体の事務効率化である。自治体においては、現在、金融機関からの紙の受渡し、管理、データ化が必要であるが、こうした対応が不要となり、加えて収納までの期間短縮も可能となる。デジタル化によって自治体のコスト削減、効率化につながれば、生まれた余力は新たな分野に振り向けることも可能となり、地域経済の活性化、ひいては地方創生の観点からも有効ではないか。
自治体のデジタル化は成長戦略でも掲げられており、納付書へのQRコードの付与は、その実現策の一つとして比較的早期に実現できる有効な手段と考えている。自治体の数は全国に1,741ある。それぞれの自治体が検討を進めるよりも、国の旗振りのもとで方針が示され、全国統一仕様でシステム対応が実現できれば、短期間で全国一律の自治体コスト削減が実現できるものと考えている。
今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、店頭に来店せずに、電子的に非対面で手続きを済ませたいというお客さまが増えている。納税についても同様で、電子納税をすることを望まれる利用者が増加している。納税者にとって、より便利なツールを提供でき、各自治体、金融機関側が効率化を進めることで、社会全体の効率化やコスト削減に貢献できるものと考えている。
(問)
金融審議会において銀証間のファイアーウォール規制についての議論が始まっている。銀行界としての意見を取引先企業、金融市場への影響を踏まえて伺いたい。
(答)
ポスト・コロナ時代においては、少子高齢化の進展、産業の新陳代謝、国際競争激化への対応など、さまざまな課題への解決がますます重要になっているが、わが国の金融機関としては、総合的に金融機能を発揮し、金融の競争力を高めることで、日本経済の持続的な成長、国際競争力の強化に貢献すべきではないかと考えている。そうした意味で、将来にわたって、わが国の金融のあるべき姿という大きな観点から、ファイアーウォール規制やその他の規制緩和について骨太な議論が行われることが重要ではないかと思う。
わが国の主な社会課題という点でお話しすると、地方創生や企業の承継、生産性向上の実現といったことがあげられる。新政権下でも中小企業の生産性向上の必要性が注目されている。2025年には70歳超の経営者が250万人にも上り、このうち約半数が後継者未定となるということで、こうした企業の事業承継、生産性の向上、地域経済の活力向上、それらによって雇用を維持、創出していくことが急務になっている。一方、大企業においても、今後グローバルな産業構造の変化のなかで、事業再編や合併、経営統合を含め、持続可能な経営戦略、財務戦略を構築していく必要があると考える。
そうした中、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」で議論が開始されているが、ファイアーウォール規制は、入り口段階での銀証間の情報共有を画一的に制限するもので、これによってお客さまが銀証一体の総合的な金融サービスを受けることを困難なものにしていると考える。例えば顧客ニーズが顕在化する前の銀行・証券が一体となったプロアクティブなM&A等の提案や中小企業オーナー一族の事業資産承継に関する提案等、さまざまな場面で障害が生じていると考える。
そもそもファイアーウォール規制が導入された平成5年の金融制度改革は、利用者利便のために銀証という業態の垣根をまたいだ適正な競争を促すことによって、資本市場の活性化、効率化を図ることが目的であった。その際、優越的地位の濫用や利益相反といった弊害を防止する目的に加え、証券業界に配慮した一種の激変緩和措置の意味合いもあり、ファイアーウォール規制が導入された経緯があると理解している。これら利益相反や優越的地位の濫用防止については、もともと銀行法、金商法あるいは独禁法等による行為規制で禁止されていることに加え、そうした行為が生じないように、これら法令や顧客本位の業務運営の原則等にもとづき各行において体制が整備され、ルールが厳格に運用されるようになっている。
一方で、諸外国では、こうした問題行為自体を事後的に規制する法体系になっており、画一的に入り口段階で情報授受を制限し、金融機能を縦割りにするわが国のような規制は存在せず、国際的に見ても特異なものとなっている。ちなみに米国では、90年代後半にファイアーウォール規制の見直しとともに銀行による証券子会社の保有が解禁となり、2010年代のM&Aの取引金額は、90年代から倍以上に拡大し、足元2019年では、米国のGDPは日本の約4倍だが、M&Aの取引金額にすると9倍の規模になっている。もちろん全ての原因を金融規制に求めるわけではないが、金融は経済の血流であり、こうした経済のダイナミズムに自由度が増すことによって貢献するところがあるのではないかと考えている。
いずれにしても、ファイアーウォール規制の撤廃により、お客さまの不便が解消され、マクロ経済の観点からも企業、家計の資産と負債の資本市場への橋渡しが一段と進むことになるのではないか。それによって金融資本市場の厚みが増し、銀証を含め国内外の金融機関の活躍のフィールドが広がることで、日本経済の発展にもより貢献できるのではないかと考えている。
(問)
全銀ネットのタスクフォースでノンバンクの全銀システムへの接続や小口決済インフラについて議論されていると思うが、進捗を伺いたい。また、銀行間手数料の見直しについても進捗を伺いたい。
(答)
本年5月に全銀ネットが設置した「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」で、全銀システムへのノンバンクの接続と少額送金サービスという二つのテーマについて、ノンバンク、学識者、関係当局等を交えた議論を続けており、今年度中に何らかの方向性をお示しするという時間軸で進めており、この時間軸に変更はない。
足元の議論を少し紹介すると、5月のタスクフォース設置以降、ノンバンクの方々から全銀システムの接続等に対するニーズをヒアリングしてきたほか、システムベンダーの皆さまからは、全銀システムの効率性、高度化に対する提案をいただいた。こうした意見等を踏まえながら、9月29日に開催した第4回の会合では、全銀システムが担うクリアリング機能に求められる「頑健性」、「可用性」、「相互性」といった性質や、全銀システム参加に当たって考慮すべきリスクについて事務局から説明を行った。そのうえで、ノンバンクが全銀システムに参加するに当たっての論点、課題等について意見交換を実施している。これまでも会見で何度か申しあげてきたが、全銀システムは、1日に650万件、決済金額で12兆円にも及ぶ内国為替決済を処理する、安心・安全で可用性があり、かつ拡張性も有するわが国の経済基盤を支えてきたインフラである。全銀ネットは、こうした大量の決済が日々円滑に行われるよう、全銀システムが抱える「流動性リスク」、「信用リスク」あるいは「オペレーショナルリスク」といったリスクを考慮したうえで、現在、参加者に対しては、担保差入れや事務システム、AML等に関する制度、システム上の対応、レベル・プレイング・フィールドといった全参加者同一ルールでの参加を求めている。こうした点について、タスクフォースの参加者の皆さまからは、決済の安定性を維持する観点から、レベル・プレイング・フィールドを確保することは重要との意見が複数あり、新たな参加者も既存参加者と同一条件で参加するという方向感については、おおむね合意できたのではないかと認識している。したがって、今後はレベル・プレイング・フィールド確保に必要になる制度上、システム上の枠組みについて、関係当局とも連携し、検討を具体化していく必要があると考えている。
また、第4回タスクフォースでは、8月に都銀5行が公表した小口決済インフラ構想の概要についても情報提供をいただいている。会議のメンバーからは、多頻度・小口決済ニーズの高まりという社会的な課題解決、および利用者の利便性向上等への対応という観点で前向きに評価できる、実現までの時間軸を考えると本構想は有力な選択肢になるのではないか、といった意見をいただいており、今後はいただいた情報をもとにコストあるいは時間軸といった観点も踏まえたうえで、少額送金サービスに関する方向性についても検討していきたいと考えている。
以上、申しあげたとおり、現時点でタスクフォースの議論に大きな障害になるような事象は生じていないが、一方で、昨今の決済サービスを利用した不正引出しや証券取引所のシステム障害等の発生により、決済サービス、金融インフラに対する安心・安全の重要性といったものが改めて再認識されたのではないかと考えている。これも前回の会見で申しあげたことであるが、全銀システムは、1973年の稼動開始以来、運用期間中にオンライン取引を一度も停止したことがないシステムである。これはシステムそのものの安定性はもちろん、全ての決済参加者が、全銀ネットが求める制度、システム上の対応を徹底したうえで、決済インフラに参加するという責任を自覚し、細かな点も含めて、日々のオペレーションや非常事態に備えた訓練等を積み重ねてきた結果ではないかと思う。したがって、これらの議論は進んできたところではあるが、時間のみを優先し、拙速に結論を出した結果、積み上げてきた決済インフラの安心・安全が脅かされることのないよう、議論、検討の進捗も見ながら方向性を固めていきたいと考えている。
銀行間手数料については、7月に公表された成長戦略において「全銀ネットが定める仕組みに統一し」、「コストを適切に反映した合理的な水準への引下げを実施する」方向感について言及されている。このような背景を踏まえ、現在の銀行間手数料にかえて、全銀ネットが管理運営している内国為替制度上の新たなスキームに移行することについて、全銀ネットが主体となって検討を進めているところである。
検討の方向性について少し説明させていただくと、新たなスキームにおいては、そのコストを「内国為替制度を安定的に運営するため、被仕向銀行が為替処理を行うために必要となる費用」と位置づけて、被仕向銀行における対応、コスト等をもとにその水準を決定していくことを想定している。
検討状況とスケジュール感について少し申しあげると、足元、全銀ネットが全ての参加銀行を対象とした調査を実施している。今後その結果を踏まえ、水準を含めた新たなスキームの具体化を行い、「コストを適切に反映した合理的な水準」という成長戦略において言及されている方向感も踏まえた新スキームの利用水準や適用基準を検討したうえで、今年度中には決定したいと考えている。こうした検討の状況については、全銀ネットが設置した学識者、ノンバンク、関係当局等も参加する全銀ネットタスクフォースの場でも随時報告をさせていただくこととしている。新スキームへの移行については、資金清算機関である全銀ネットの所管官庁である金融庁との協議が不可欠であるので、今後、当局とも緊密に連携しながら新たなスキームの具体化を進めていくということである。
(問)
本年6月に成立した金融サービス提供法により、銀行・証券・保険サービスのワンストップ提供が一つの登録で可能になる金融サービス仲介業が、2021年度以降に始まる見通しである。Fintech事業者等の参入が見込まれるが、銀行界から見た金融サービス仲介業への期待と制度運用上の留意点を聞かせていただきたい。
(答)
ご指摘のとおり、先の通常国会で「金融サービスの提供に関する法律」が成立し、かつては金融機関が主に担ってきた顧客へのサービス提供の領域に、オンライン技術やさまざまなアイデアを有したFintechをはじめとしたプレイヤーが、新たなライセンスを活用して参入することが可能となるが、その結果として利用者の利便が高まっていくことが期待されている。
一方、金融サービス仲介業は、「高度に専門的な説明を要する金融商品の取扱いはできない」こととなっており、こうした商品については引き続き既存の金融機関や仲介業者がお客さまへのチャネルを担うことになる。
現在、制度詳細が検討されているが、私ども既存の金融機関にとっては、参入事業者と連携し、自身はより高度なサービスの提供にリソースを配分する、または顧客チャネルをより効率的なかたちに見直していく、さらには私ども金融機関自体が自ら新たなライセンスを用いて、多様な金融商品サービスを提供していくなど、さまざまな選択が可能になると考えている。
留意点という質問だが、金融サービス仲介業を営む事業者は顧客資産の受入れが禁止されているが、既存の金融機関や仲介業者と同様に顧客本位の適正な業務運営や顧客情報の適切な取扱いを徹底することが大前提である。本制度は特定の金融機関に所属しない仕組みであるため、認定金融サービス仲介業協会を設置したうえで業務の適正確保に向けて法令遵守等の指導を行うことになっている。こうした指導監督を通じて、しっかりと顧客保護が図られていくことが重要と思う。
銀行界としては、金融サービス仲介業の新設をきっかけに、各行が自らのサービス提供のあり方をしっかりと考え、時には新しい事業者と連携し、時には適正な競争を行いながら、付加価値の高いサービスを安心・安全に提供していくことが重要であると考えている。
(問)
ESG金融の一つに、借入企業のサステナビリティの取組み達成状況によって、金利などの条件にインセンティブを付けるサステナビリティ・リンク・ローンがある。最近になって国内でも大手行がこのローンを組成するケースが増えているが、企業にサステナビリティ経営を促す同ローンの実効性を担保しつつ、より一層の普及を図るために必要なことは何か。
(答)
今年はパリ協定の採択から5年が経過したところであり、各国の削減目標の見直しを行う最初のタイミングとして注目されている。気候変動問題への対応として金融分野においても、近年、ESGファイナンスへの取組みを推進する動きが活発化している。
ご質問のサステナビリティ・リンク・ローンもESGファイナンスの一種であるが、お客さまの取組みと借入れ条件を連動させることによって、環境社会課題への取組みや持続可能な経済活動を支援する仕組みである。資金使途を特定のプロジェクトに制限する必要がないために調達の柔軟性が確保できるという特徴を有することから、ご指摘のとおり、足元で関心を持つ企業が増えており、実際、サステナビリティ・リンク・ローンの調達金額も急増している状況にある。
こうした形態のファイナンスを通じて、サステナビリティ重視のマテリアリティ、すなわち持続的に収益を上げる力に繋がり、事業戦略の構築とその見える化を金融機関として支援する、そうした好事例を積み上げることにより、マーケットは相乗的に成長していくのではないかと考えている。
これを実現するためには、評価会社や認証機関、そして金融機関も含めた市場参加者の間に、こうした企業の取組みに対する共通認識を浸透させていくことが大切である。
加えて、このローンは、サステナビリティ目標の達成度に応じて貸出条件を変動させるという特徴があるが、本質的には金融機関が、借り手の企業活動の環境や社会に対するポジティブ・ネガティブ双方のインパクトを包括的に捉え、最終的に借り手の中長期的な信用力として捉えていく必要がある。
今後のさらなるマーケットの拡大に向けて、企業のサステナビリティ経営の強化が企業価値の向上に繋がり、それが銀行の信用格付等、金融機関が借り手の信用力として評価できるようなプロセスにつながっていく好循環を作り出していくことが重要であると考えている。
(問)
金融サービスの安全性と利便性について伺う。皆さま「両方追求する」と言うと思うが、究極的には二律背反しかねない問題かと思っており、例えば、1件でも不正利用、不正流用を許さないという追求が始まると、莫大なコストがかかり、逆に金融取引は非常に不便なものになると思う。このように、両方を追求すると課題は解決しないとも思うが、この辺りのバランスはどう考えればよいか。
(答)
今回のドコモ口座を利用した銀行口座からの不正引出し等の事案を受けて、サービスの利便性はもちろん重要だが、一方で、今お話があったように、預金口座に対する安心・安全の期待というのは極めて高いということを改めて痛感している。
銀行界としては、こうした事案を戒めとして、お客さまの期待を決して裏切らずに、しっかりと資産をお預かりしていくという責任を強く認識したうえで、銀行単独のサービスだけでなく、今回のような預金口座と連携して資金移動業者が提供するケースにおいても、サービス全体として安心・安全にご利用いただけるような取組みを徹底する必要があると考えている。
一方、ご指摘いただいたとおり、安心・安全のみに傾倒するあまり、利便性に劣る商品・サービスになってしまっては、お客さまから評価されず、ご利用いただけなくなり、そのようなサービスは淘汰されてしまう、ということも事実である。
したがって、サービスの提供に当たっては、なかなか難しいことではあるが、安心・安全と利便性を両立させる必要があり、私自身はこの二つが必ずしも単純に二律背反するという構図にはないのではないかと思う。
例を申しあげれば、昨今、銀行とFintech企業がAPIという仕組みを活用して連携するといった流れが加速しているわけだが、これは従来のお客さまのID、パスワードを事業者がお預かりするスクレイピングと呼ばれる手法よりも安全性が高く、お客さまの利便性の確保・向上にもつながるサービス提供の仕組みであると認識している。
これにより、利用者は家計簿アプリや、会計ソフトといった外部企業と連携した利便性の高い銀行サービスをより安全・安心にご利用いただくことが可能となっている。したがって、こうしたデジタル化に伴う新技術やイノベーションの力なども活用しながら、安心・安全と利便性、これらを高い次元で両立し、双方を高めていくことも可能ではないかと考えている。
一方で、いかに技術的な側面を高めたとしても、ある意味、利便性と両立させる以上、犯罪被害のリスクというものを完全に排除することは困難であり、不正検知に対するモニタリングの仕組みや、お客さまの保護、特に補償の枠組みをしっかりと整えておくことが重要だと思う。なお、この補償については銀行だけではなく、他の事業者と連携してサービスを提供する際には、銀行と事業者との間で補償の対応に関する枠組みを整えておき、財務の健全性について確認を行っておく必要があるのではないかと思う。
いずれにしても、お客さまの大切な資産を最終的にお預かりしている銀行界としては、デジタル技術を活用しながらサービス全体のバリューチェーンのなかで安心・安全を高める不断の努力を進めていく必要があると考える。
(問)
中間決算の発表が近づいているが、銀行業界の収益環境と取引先の企業の状況を含めて、日本企業全体の経営環境についての所見を伺いたい。
(答)
銀行業界の収益環境だが、引き続き大変厳しい状況にある。当面は、信用リスクの高まり、将来への備えとして引当金のさらなる積増しを通じた与信費用の拡大が今度の中間決算においても業績の重石になるのではないかと見ている。
3メガ、地銀ともに銀行の財務は総じて相応の頑健性を有しているし、与信費用の増加が直ちに銀行セクターや金融システム全体への問題につながるとは考えていないが、取引先の業況や与信費用の動向については注視していく必要があると考えている。
日本企業の経営環境についてもお話があったが、マクロ環境は、過去に例のない規模の経済対策や抑制されていた購買活動の反動のほか、海外経済においては公衆衛生措置の緩和により少しずつ回復基調に転じていることから、わが国の経済も最悪期からは抜け出して持直しに転じていると考える。
ただ、感染症が終息しない以上、企業、家計による感染抑止のための行動が下押し要因として作用を続け、先行きの回復ベースは緩やかなものになるだろうと考えている。
私どもの見通しや昨日のIMFの経済見通しは、こうした内容を裏付けるものであり、企業の収益予想においても慎重な見方が表れていると思う。
今月初めに公表された日銀短観9月調査においては、全産業・全規模ベースの今年度の経常利益の計画は、前年度比マイナス28.5%と、6月調査から大幅に下方修正され、また、9月の調査としてはグローバル金融危機時の2009年9月調査の同マイナス16.4%を大きく超える減益予想となっている。
とりわけ弱めの計画を立てているのは、製造業では自動車を含む機械関連、鉄鋼・非鉄金属等の素材、また、非製造業では対個人サービスといった業種である。また、大企業と比較して中堅中小企業の減益幅が大きいということもある。こうした傾向は、三菱UFJ銀行の取引先からも窺える状況であるので、概ねこのような認識である。
銀行界としては、特に足元の経済環境からより強い影響を受ける事業者に対して親身に寄り添い、資金繰りの支援を通じて企業活動を支えていきたいと考える。
(問)
先ほどのドコモ口座の不正引出しを受けたガイドラインの策定について、なるべく早く策定した方が良いと思うが、「いつごろまでに策定する」という目途があるのか。また、前回の会見のイメージだと本人確認と認証についてのガイドラインという受止めをしていたが、先ほどの説明だと、全体の枠組みについても記載するもう少し広いイメージのガイドラインという印象を受けたが、その点について伺いたい。
(答)
ガイドラインの公表時期は、現在策定中であるため明確に申しあげられないが、可能な限り早く策定して公表したいと考えている。
その内容だが、全体の安心・安全のレベルを上げるためには、単に入り口のセキュリティを高めるということだけではなく、不正が発生したときのモニタリング・検知の仕組み、残念ながら不正が発生してしまった場合の補償の仕組み、これらを全体の枠組みとして整えていくことが重要だと前回も申しあげた。
したがって、今回のガイドラインにおいても、入り口部分についての考え方、モニタリングについての考え方、補償についての考え方等をガイドラインに記載できればと考えている。例えば、補償に関しても、事業者が跨るので、資金移動業者と銀行のどちらが補償するのか、実際に生じた場合には補償、返金をどうやって行うのか、補償の範囲はどうなるのかなどについて、資金移動業者と銀行の間で予め取り決めておかないと、迅速な補償が行われなくなるため、それらについて取り決めることの必要性を記載したいと考えている。
(問)
銀行界において未利用口座や紙の通帳に対して手数料を新設する動きがある。これまで、無料で提供してきたサービスにも実際にはコストがかかっていて、そのコストに応じた手数料を受け取る流れと見ているが、こうした流れは今後も広がるのか。コストに見合った手数料を受け取る流れが広がるかどうかを教えていただきたい。また、利用者にとっては、ほかの手数料も次々に上がるのではないかという懸念もあると思うが、どのようにお考えか。
(答)
手数料は個別行の経営戦略、事業戦略によって定まってくるので、全銀協会長としてコメントするということは差し控えるが、そのうえで、一般論として手数料に対する考え方を申しあげれば、サービスを提供する事業者がお客さまに満足いただける高品質なサービスを提供することで、サービスに費やしているコスト、提供価値に見合った手数料をいただくというのが基本的な考え方だと思う。
加えて、これまで無料で提供していたサービスを有料化するような場合には、同時に別の代替手段も提示しお客さまに選択いただけるようにすることによってご理解をいただけるように努めていくということも非常に重要なポイントだと思う。
未利用口座に対する口座管理手数料についてだが、いただく手数料にも、さまざまな方法があり、今お話にあった、一定期間使用していない口座に対して手数料を導入している銀行もあれば、海外では口座を保有すること自体に対して手数料を導入している銀行もある。まさに、これらの手数料は、その水準も含めて、各行の戦略によるところが大きいと思う。
紙の通帳の有料化については、印紙や紙等の通帳自体のコストのほか、記帳のためのシステムコストがかかっているのは事実である。銀行がデジタルシフトを進めるなかにあって、従来の紙での取引について、これまで以上にコストを意識した手数料を頂戴し、一方で、その代替手段として、より利便性の高いインターネット・バンキング等のサービスを提供するという戦略は、一般論としては考えられると思う。
ちなみに、三菱UFJ銀行の例になるが、私どもだけでも通帳を年間約600万冊発行しているので、こうした紙の通帳をペーパーレス化し、インターネットで閲覧可能なサービスに切り替えていくということは、環境社会への配慮という観点からも大切な取組みだと思う。
手数料が上がり続けるのではないかという懸念もあるとのことだが、最近の動きは確かに手数料を引き上げる場面もあるが、必ずしも一律に手数料を引き上げているということではなく、各行がデジタル化によってサービスのあり方を変えていくなかで、サービスの価値とコストを改めて見直しているということではないかと思う。
例えば、これも個別行の話になるが、三菱UFJ銀行でも、昨年、三井住友銀行とATMを無料で相互開放を行い、利便性と手数料引下げを同時に実現する取組みを進めている。また、一部の銀行では外国送金のサービス手数料を引き下げるといった取組みも行っている。
いずれにせよ、これら手数料の導入の是非や水準、設定方法は、各行判断で対応すべきものだが、商品やサービスの質と価格の両面で納得いただけるということはもちろん、多様なニーズをお持ちのお客さまが選択いただけるように、チャネル、代替手段の提供・拡充を含め、不断の努力を重ねていくことが重要だと思う。
(問)
昨年10月21日に全銀協が子どもの貧困に関する説明会を開催し、多くの会員行が参加してからちょうど1年が経過した。この1年、子どもの貧困問題はさらに深刻化しているが、会員行でこの問題に関してどのように取り組んできたか教えていただきたい。
なお、MUFGの先日の発表をとても高く評価しているが、そのほか、全体的にどういう動きになっているか教えていただきたい。
(答)
子どもの貧困問題について認識を申しあげると、本年7月に厚生労働省が公表した国民生活基礎調査によると、2018年の子どもの貧困率は13.5%であり、3年前の2015年に実施した前回調査の13.9%から大きな改善は見られなかった。引き続き子どもの貧困率は主要国のなかではやや高めの水準にあると思う。この問題は、将来的な労働力の減少や社会保障費の増加につながるため、一種の構造的な問題だと捉えている。
そうしたなかで、子どもの貧困に対する銀行界の取組みの状況だが、昨年10月の説明会も含めて意識醸成活動を進めており、それらが徐々に実を結んで、会員行に取組みが広がってきているのではないかと感じている。例えば、子ども食堂の支援一つを取りあげても、単に資金的な支援のみではなく、農水産の生産者から余剰在庫や規格外品を買い取り、その食材を継続的に寄贈するスキームを構築した銀行がある。また、運営機関と協定を結んで、自行のアプリを募金のプラットフォームとすることで、社会からの幅広い支援の窓口となっている銀行もあり、さまざまな支援のかたちが実現していると思う。
MUFGの取組みについてお話いただいたが、子ども支援を行っている3団体に対して総額1億8,000万円の寄附・支援をさせていただくこととし、3年間という継続的な支援としたことで、安定的な運営に資するよう、取組みを進めている。
また、コロナ影響等で、経済的理由で進学を諦めたり、病気や災害等で親を亡くされたりしたお子さん方を支えたいという思いから、日本学生支援機構、あしなが育英会にも寄附を実施している。
このほか、役職員向けの100円から始められる給与天引きによる社会貢献基金を活用し、毎年、子どもの貧困問題解決に取り組む団体等に対する寄附も継続的に実施している。
ありがたいことに、各行のさまざまな取組みをメディアの皆さまに取りあげていただいており、記事、報道を通じて、銀行界のみならず社会全体に子どもの貧困に対する関心が高まり、それによって支援の輪が広がる動きの一助になっていけばと思う。
今後も全銀協では、会員行の取組みについて継続的にフォローアップし、好事例を展開することで、会員各行における取組みがさらに広がっていくよう努めていきたいと思う。
(問)
先ほど全銀システムの安定稼動の話があったが、先日、東証の基幹システムが止まった。全銀システムは、約50年間無事故と認識しているが、今後、セキュリティリスクやシステムがますます複雑化していくなか、安定稼動のための対策の必要性や新しい取組み等があれば伺いたい。
(答)
今回、東京証券取引所の株式売買介システム「arrowhead」でシステム障害が発生し、これによって初めて売買取引が終日停止した。株式売買を担う東京証券取引所と私どもの役割は異なるが、金融インフラの一つとして、銀行間振込みの資金決済、資金清算を担う全銀システムを運営する全銀ネットは、今回の障害を他山の石として、全銀システムの決済インフラとして果たすべき役割の重要性を改めて認識したところである。ご認識のとおり、1973年以来、安定稼動を続けているわけだが、安定したシステム運営をより一層徹底していく必要があると痛感している。
そのうえで、今回の東証のシステム障害の直接の原因として、一つ目は、データを記録する共有ディスク装置1号機のメモリの故障、二つ目には、故障時の2号機への自動切替えが想定どおりに機能しなかった、という2点があげられている。こうした原因も踏まえたうえで、全銀システムの可用性確保に関する確認を行っている。
まず、全銀システムでは、センターの地理的分散のほか、ホストコンピューター、各種装置等について冗長化を図っている。全銀センターを東京、大阪の2ヶ所に設置したうえで、各センターのコンピューターもマルチホスト構成としており、加盟金融機関も中継コンピューターを2セット以上設置する仕組みになっている。かつ東京、大阪には、それぞれホストコンピューターを3セットずつ、計6セット設置しているが、平常時は東京、大阪のホストコンピューターを2セットずつ、計4セットを並行運転させている。可用性の観点から申しあげると、東京、大阪センターのホストについては、一方を完全に待機させるのではなく、いわゆる両現用構成としており、これは全銀システムの特徴の一つである。万一、冗長化している装置が故障し、一方のセンターが使用できない状態においても、もう一方のセンターでの業務継続が可能な体制を構築している。そのうえで、万一、運転中のホストコンピューターに障害が発生した場合には、速やかに待機しているコンピューターに切り替わるホットスタンバイ方式を採用している。これに関して、今回の東証システムでは、自動切替えが想定どおりに機能しなかったとのことだが、全銀システムでも、仮に自動切替えが機能しなかった場合に備えて、手動で切替えが可能な仕組みとしている。さらに、仮に手動での切替えがうまくいかなかったなどの理由により、待機しているコンピューターの運転が困難になった場合には、先ほど申しあげたように、どちらか片方のセンターのみで運転、業務継続が可能な体制としている。
このように全銀システムは、被災時やシステム障害時のさまざまなケースを想定したうえで、可用性を担保したシステム構成を採用しているわけだが、一方で、システムトラブルにおいては、常に想定外の事態を想定しておくことの重要性も認識しておかなければならない。今回の東証システム障害も踏まえ、システムベンダーと連携し、改めて全銀システムの機器、障害発生時の対応、これらに問題がないかという観点から確認するとともに、現在も定期的に実施している障害発生時を想定したBCP訓練そのものの見直し等も検討していきたいと考えている。
こうしたバックアッププランの準備を行っており、これまでは幸いにも、実際にオンラインの時間帯に待機しているシステムに切り替えるといったことが起きたことはないが、そうしたことも含めしっかりと確認、チェックをしていきたいと思う。