2021年1月14日

三毛会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 3点お伺いしたい。
 1点目、昨年末は30年ぶりの株高で終わったが、今年に入って新型コロナウイルスの感染症拡大を受け、直近では政府から緊急事態宣言も発出された。今後、経済活動へのさらなる影響も懸念される。今年の経済の見通しを教えてほしい。また、コロナの影響が長続きした場合、銀行としてできること、資金繰り支援などはこれまでも続けてきたと思うが、銀行側はまだ余力があるのか、その辺の認識について伺いたい。
 2点目、日本銀行がマイナス金利政策を導入してから5年を迎えようとしている。この政策の効果と副作用についてどのように考えるかを改めて聞かせてほしい。政策のさらなる長期化も見込まれているが、銀行経営に与える影響、経済への影響について教えてほしい。日本銀行は、金融政策の点検をして、3月を目途に公表すると言っているが、資産買入れを含む金融政策のあり方について見直すべき点や点検に期待する点などがあれば伺いたい。
 3点目、全銀ネットのタスクフォースの報告書が取りまとめられたということだが、その内容と今後の予定について伺いたい。
(答)
 3点ご質問をいただいたので、順番にお答えしたい。
 最初の景気認識だが、わが国経済は昨年秋から足元にかけて、新型コロナウイルスの感染第3波の影響で、厳しさが一段と増している。今月7日に首都圏1都3県に対する緊急事態宣言が再度発出され、昨日、追加で7府県に対する緊急事態宣言も発出された。対象地域のGDPを合わせると、全国の約6割に相当し、経済活動への影響は避けられそうにない。これからの影響の大きさは、緊急事態宣言がさらにほかの県に及ぶのかといったことや、全面解除の時期次第で変わってくるため、感染拡大と行動制限の状況については、予断を持たずに見ていく必要があると考える。
 緊急事態宣言の実体経済への影響については、昨年4-5月に全国に発出された頃と比べると、今のところ宣言の対象地域や経済活動制限の範囲が限定されているので、現行統計下で最大のマイナス成長を記録した昨年の4-6月期のような落込みには至らないのではないかと考えている。しかしながら、時短営業の要請を受け入れた飲食店や外出・移動自粛の影響を受ける旅行、レジャー等の産業への影響は大きいものとなり、この1-3月期は一時的にマイナス成長に陥る可能性があろう。
 今年の通年の成長率としては、昨年の落込みの反動もあるため、比較的高い水準を確保できるのではないかと思われるが、新型コロナウイルス感染症への警戒や感染再拡大と公衆衛生措置の再強化等の紆余曲折があろうかと思われるので、期中の回復ペースは緩やかなものとなると想定している。
 また、欧米を中心にワクチン接種が始まっており、今年は治療薬、ワクチンの本格的実用化が期待されるが、この先にはまだ普及のフェーズがあること、また、その効果や副反応については不確かな部分が残ることを踏まえると、現時点では顕著な効果を見込むことに対して慎重とならざるを得ない。
 こうしたことを前提とすると、年内はコロナ禍前の経済水準を取り戻すには至らないと考えている。
 資金繰りについてのご質問もあったが、今後、再度事業者の資金繰りが悪化することによる追加支援要請に加え、コロナ禍の影響長期化を見据えた既存借入のリスケ要請が増加することも想定される。今月7日の1都3県への緊急事態宣言発出後、一週間が経過したところであり、今後、どの程度の支援要請があるかは現時点で不透明であるが、メガ、地銀とも、現時点では総じて相応の自己資本を有しており、財務健全性、頑健性は保たれていることから、引き続きお客さまの資金繰りを支援し、金融仲介機能を発揮していくことは十分に可能と見ている。
 また、実質無利子・無担保融資の延長が第三次補正予算案に盛り込まれ、日本銀行の新型コロナウイルス対策の特別プログラムも延長が決定されるなどの政策対応を進めていただく点は、大変心強いものと感じている。銀行界としては、こうした政府、日本銀行の動きと歩調を合わせ、取引先の状況をしっかりと把握したうえで、これまで同様、最優先で、適時適切な資金供給の責任を果たしていきたい。
 最後に、株価や為替を含めた市場の動きについて、少し個人の見解を述べる。昨年2月から3月にかけて株価は大幅に下落したが、その後は大幅な落込み後の景気回復期待への高まりや米国の新政権による財政出動への期待等から持直しの動きが継続している。コロナ禍で需要が増しているITや通信、ヘルスケア関連の株価の上昇も牽引している面があろう。
 他方で、世界的な金融緩和とそれに伴う金利の低下を受けた株式市場への資金流入が影響している可能性があり、PBRやPERをみると、歴史的にはすでに高い水準にある。加えて、足元直面している世界的な感染拡大とそれに伴う厳格な公衆衛生措置が、実体経済や企業業績、株価に与える影響も懸念される。
 為替については、米国での大規模な金融緩和により市場の緊張が和らぎ、また、米金利の大幅な低下により、日米金利差がほとんどなくなるなかで、世界的な景気回復期待からリスクオン的にドルが売られやすい地合いが昨年から続いている。
 しかしながら、今後の感染状況や各国の金融政策、あるいは市場参加者のリスク許容度などにより、今の基調に変化が生じたり、一時的に大きく振れたりすることもあり得るかと思う。いずれにしても、先行きは不透明な部分が非常に大きく、金融市場の動きが実体経済や金融機関経営に与える影響を、予断を持たずに注視していく必要があると考える。
 1点目のご質問に対しては以上である。
 次に、2点目、日本銀行の金融政策に関連するご質問をいただいているが、金融政策については日本銀行の専管事項である。全銀協会長としてコメントすることは適切ではないため、個人の見解としてお答えする。
 マイナス金利政策が2016年に導入されて以降、いまだ2%の物価目標の達成には至っていないが、強力な金融緩和を通じ、持続的な物価下落という意味でのデフレ的な状況を脱却した点で、相応の効果があったと考えている。足元では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、民間部門の資金需要が高まるなか、マイナス金利政策の維持を含む大規模な金融緩和が資金調達コストの安定に寄与し、実体経済を下支えしていることは事実であろうかと思う。他方で、銀行の貸出金利を含め市中金利が全般的に大きく低下し、銀行の預貸金利鞘は縮小が続いている。加えて、金利低下やイールドカーブのフラットニングにより、資産運用は非常に難しくなっている。金融機関の収益環境は、この間、確実に悪化傾向をたどってきた。さらに、中央銀行による大規模な資産買入れが、資本市場の資金配分機能に与える中長期的な影響にも目配りが必要な状況だと思う。このような状況が、金融機関および金融資本市場を通じた金融仲介機能の低下に繋がり、実体経済に影響を与えるとすれば、マイナス金利政策を含む異次元緩和の副作用と言えよう。
 こうしたなか、日本銀行は現行の各種金融政策の点検を実施し、その結果を3月の金融政策決定会合を目途に公表すると決めた。これまでさまざまな政策が講じられてきたが、コロナ禍の影響もあり、金融緩和のさらなる長期化は避けられない情勢であると見ている。今回の点検では、株式市場への影響が議論されているETF購入を含む各種政策について、持続可能性の維持・強化を念頭に効果の検証が改めて行われ、その結果を踏まえ、申しあげたような副作用を生じさせず、最大限の効果を有したかたちで金融政策が運営されていくよう、適切な政策調整が検討されていくことを期待している。
 2点目のご質問に対する説明は以上である。
 最後に、3点目の全銀ネットのタスクフォースについての報告書についてお答えする。
 昨年6月の初回会合以降、約半年にわたり、「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」の場において、全銀システムへのノンバンク接続と少額送金サービスについて検討を進めてきたが、今般、報告書を取りまとめた。この場を借りて、今申しあげた二つのテーマの方向性についてご紹介する。
 まず、一つ目のテーマの全銀システムへのノンバンク接続である。これまでのタスクフォースでの議論も踏まえ、現在は預金取扱金融機関に限定している参加資格について、その参加に当たり求められる詳細についての検討ならびに制度整備等を行ったうえで、2022年度中を目途に、資金移動業者にも拡大することが望ましいという方向性が示されている。
 また、その具体化に当たっては、これまでも申しあげてきたが、決済システムの安定性を確保する観点から、内国為替運営制度で規定されている担保制度、流動性供給制度等の適用を受けることや、関係当局の監督、全銀ネットのモニタリングを受けることなどにより、既存加盟銀行と同一条件で全銀システムに参加する、いわゆるレベルプレイングフィールドの確保が必要であるという点についても言及されている。
 さらに、参加形態として、日本銀行当座預金を開設して自らセトルメントを行う「直接参加」、全銀システムに接続している預金取扱金融機関を介して参加する「間接参加」、この双方の参加機会を確保することが期待されるという方向感についても示されている。
 次に、二つ目のテーマである少額送金サービスについては、昨年8月に都銀5行により表明した小口決済インフラ構想を短期的な現実解として位置付け、2022年度早期の稼動を目指し、全銀ネットとしてもこのプロジェクトと緊密に連携して検討を進める方向性が示されている。
 これらの方向性について、昨年12月に開催された第7回会合では、タスクフォースメンバー全員から賛同のコメントをいただいている。約半年の検討・議論の結果、今般ノンバンクの業界団体や有識者、関係当局なども含めたタスクフォースメンバーの総意としてこうした方向性を示すことができたのは、一定の成果ではないかと考えている。
 一方で、今後の実現に向けては、接続するノンバンクに対する監督・モニタリング上の観点や、ノンバンクが参加しやすいAPIを活用した接続方式の検討など、実務的な課題がある。今回の報告書では、こうした二つのテーマについて、実現目途となるスケジュール感についても明記されているが、来年度以降は、こうした実務面の検討を進める場として、制度面、システム面に関するワーキング・グループを設置し、関係当局とも連携しながら、全銀システムへのノンバンク接続に向けた検討を進めるとともに、少額送金サービスについても、小口決済インフラと全銀システムとの連携など、インフラ稼動に向けた準備を進めていきたいと考えている。


(問)
 為替市場が円高基調となって進んでいることに関し、もう少し詳しく、この傾向が日本の経済や銀行経営に与える影響についての会長の見解を教えていただきたい。また、2021年の見通しもお願いしたい。
 また、金融庁が銀行の業務範囲規制を緩和する報告書を昨年公表したが、これについての受止めや今後の要望などを教えていただきたい。
(答)
 最初の円相場、為替については、先ほども少し触れさせていただいたが、円ドル相場はこのところ102円から104円前後で推移しており、1年前と比べると5円ほど円高ドル安の方向にある。足元、米国で政権与党と米国議会上下院の多数党が民主党で一致するという、いわゆるトリプルブルーとなったということで、さらなる拡張的財政政策への期待もあって、米国長期金利が上昇したことに伴い、ややドルが買い戻される動きも見られるが、地合いとしては2016年以来の円高水準に近づきつつあるという認識である。
 ただし、各国通貨に対する円相場について、昨年5月末の緊急事態宣言の全面解除以降で見ていくと、対ドルでは上昇した一方、対ユーロ、ポンドあるいは人民元に対しては、むしろ円は下落している。これらは期間の区切り方によって見え方は異なるが、このところの為替相場の動きはドル安主導といった面があると言えるのではないかと思う。
 一般に通貨高の進行は、輸入サイドにとっては採算改善につながりやすい一方、輸出サイドには収益圧迫要因になり得る。日本銀行短観の12月の調査によると、2020年度下期の全規模、全産業の想定為替レートは1ドル106円台、足元実勢比ではやや円安水準である。ドル以外の通貨に対して円高が顕著に進んでいるわけではないといった点は割り引く必要があろうかと思うが、少なくとも対ドルにおいては、円高により製造業を中心に業績が下振れする可能性には留意が必要であろう。もっとも、日本企業の海外生産比率が長年にわたり上昇しており、為替変動の収益インパクトや実体経済上の影響もかつてに比べれば相対的に小さくなっていることから、変動幅や変動のスピードにもよるが、足元の円高が景気を腰折れさせるリスクは現時点では限られるのではないかと見ている。
 金融機関にとっては、輸出企業を中心とした取引先企業の業況や実体経済上の変化のほか、幅広く海外事業を展開するメガバンクを中心に、海外収益の円換算額の目減り、国内低金利が長期化するなかで趨勢的に海外投資を増やしてきた地銀も含め、海外資産の価格変動による影響を経由し、波及することが想定されるため、今後の市場の動きには十分注意していく必要があると考えている。
 今年の円相場の見通しについては、米国長期金利は財政政策への思惑や期待インフレ率の上昇に伴い切り上がってはきているが、米国連邦準備銀行(FRB)の金融緩和が長期化するとの見通しには大きな変化がないと考えており、目先の為替取引に影響を与えやすい短期の日米金利差が大きく拡大するような展開は想定しづらく、したがって、基調としては現状程度の水準のなかで幾分円高気味に推移するのではないかと考えている。もちろん今後の感染状況や各国の金融政策、市場参加者のリスク許容度によってこうした基調に変化が生じたり、一時的に大きく市場が振れたりすることもあり得るので、幅を持って見ておくべきだろう。
 次に、業務範囲規制の緩和についての報告書の公表についてご説明する。
 ご質問にあったように、昨年末に公表された金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」の報告書において、銀行が創意工夫を凝らし、さまざまなサービスの提供が可能となるよう業務範囲規制を大胆に緩和する方針が示されたと認識している。ポストコロナ時代の社会課題解決に銀行界として一層貢献していきたいという私どもの思いを受け止めていただいた結果と感じると同時に、社会からの高い期待も感じ、大変身の引き締まる思いでもある。
 報告書の内容について触れると、銀行業高度化等会社において、デジタル化や地方創生、持続可能な社会の構築に資する業務を幅広く営むことが可能となる。また、FinTech会社や地域商社、ITシステム販売、広告ビジネス、登録型人材派遣等の業務は、銀行業高度化等会社としての認可基準が緩和され、そのうち一部は銀行本体で営むことも可能となる。加えて、事業再生・承継会社やベンチャービジネス企業への出資要件が緩和されるほか、海外金融機関との競争条件のイコールフット確保のため、外国金融機関の買収時にその子会社である会社の業務範囲がたとえ本邦の業務範囲規制の枠外であったとしても、現地法令に準拠する限りは継続保有が原則として容認されることが示されている。
 今回の規制緩和を受けた新たな制度を活用し、社会課題解決への貢献と持続可能なビジネスモデル確立のため、各行がこれから知恵を絞っていくということだと思うが、例えば保有する情報を活用し、利用者ニーズに合ったさまざまな商品、サービスをマッチングするような広告事業、あるいはITシステムや顧客向けのアプリケーションを幅広く外販していくようなビジネス、また地域と幅広い接点を持つ銀行グループとして人材のミスマッチ解消のために行う登録型の人材派遣業務、さらにはこうしたさまざまなソリューションを、単発ではなく、顧客ニーズにもとづき、出資も合わせて再生・承継ステージの企業やベンチャー会社をサポートしていくことなど、さまざまな可能性が広がっていくものと考える。
 報告書において示されたそれぞれの制度の詳細な設計が進められるプロセスのなかで、今後取り組んでいくことが想定されるビジネスも具体的にイメージしながら、適切に私どもとしても意見を申しあげて参りたいと考えている。


(問)
 先ほどは、緊急事態宣言を受けても、銀行は総じて財務健全性は保っており、資金需要に応えられるという趣旨のご回答を頂戴したが、そのうえで、二つ質問させていただきたい。
 一つは、緊急事態宣言を踏まえ、銀行の与信コストについて、年度末に向けてどのような状況になるかということについて、見解を伺いたい。
 もう一つは、企業金融支援について、これまで以上に資本性資金が活用される、もしくは先ほどリスケの話もあったかと思うが、さまざまな手段を講じていかなければいけない状況で、資本性資金のようなものは企業の需要として年度末に向けて高まっていく状況なのか、それとも今はまだ資金繰り支援という状況なのか、この点につきどのようにお考えかお伺いしたい。
(答)
 まず、与信コストについてのご質問にお答えする。
 冒頭のご質問への回答のなかで、わが国経済の見通しについてお話したが、海外でも多くの国で新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウンなどの厳格な公衆衛生措置が強化されており、これに伴う経済活動の停滞、あるいは企業業績の厳しさといったものはグローバルに共通の課題であると認識している。
 一方、こちらもグローバルに共通するが、財政・金融両面から強力な政策措置が打ち出され、官民が総力をあげて企業の資金繰りを支えているということで、企業の倒産の増加や信用状況の悪化が著しく深刻化するような状況は回避されていると見ている。
 与信コストの見通しについてのご質問であるが、中間決算においては、メガバンク、地銀ともにコロナ禍の影響で与信費用が大きく増加した。ただし、そのうえでも現時点では総じて相応の利益水準や自己資本の水準を維持しており、金融仲介機能を発揮していくための財務の健全性・頑健性は損なわれていないと考えている。
 もっとも、足元の感染拡大とそれに伴う厳格な公衆衛生措置の強化、これが再び経済活動や企業の業況を下押しすることが予想されるほか、ワクチンも今後の普及ペースがどう進んでいくのか不透明な部分も大きいなかで、厳しい経営環境が長期化することにより、来年度以降も相応の与信費用が発生する可能性は十分想定されるところである。
 与信コストの管理という観点で申しあげると、金融機関にとって将来発生する可能性のある貸倒損失に備え、適切に引当金を積んでおくことが重要であり、先行きが極めて不透明な中では予防的な引当金の積増しも含め、各行とも保守的な対応を行っていくのではないかと思う。
 そうしたなかで、第4四半期に引当金を積み増すという動きが出てくることはあり得ると思う。2019年末に金融検査マニュアルが廃止されたところであるが、非常に不確実性の高いコロナ禍の影響も踏まえ、各行がそれぞれの取引先のポストコロナを見据えた中長期の事業力を評価し、適切な引当てを検討しながら金融仲介機能の維持・発揮に努めていくことかと思う。
 続いて、資金繰り、それから資本性資金の活用といった観点からのご質問にお答えする。
 お客さまの資金支援に関して、銀行界は昨年来コロナ禍を受け、大変厳しい状況にあるお客さまへの資金支援を最優先として取り組んできた経緯がある。足元の計数をみると、昨年12月末の全国銀行の貸出残高は534兆円、前年同月比ではプラス5.3%の増加であるが、その一方、前月比で申しあげるとマイナス0.1%ということで、ほぼ横ばいとなっている。
 資本性資金に関連して申しあげると、足元の感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言の再発出を受け、事業者の売上げ減少の長期化も懸念されるが、その場合、再度事業者の資金繰りが悪化することによる既存借入れのリスケ要請の増加や追加資金支援要請に加え、資本性資金の調達ニーズがある程度高まることが想定される。
 足元では2020年度第2次補正予算の措置により、昨年8月より開始された日本政策金融公庫や商工中金といった政府系機関の資本性ローンの活用事例が出てきていると認識している。銀行界においても、以前の会見で申しあげたが、各行が資本性資金の支援についてもさまざまな取組みを行っているが、銀行は預金中心の調達構造であることから、その対応には限界もあり、リスクを精査のうえ、ニーズにもとづいて可能な範囲で取り組んでいくということだと思っている。
 したがって、これまで整えられてきた地域経済活性化支援機構(REVIC)や産業革新投資機構のファンドなどの政策的な資本性資金支援の枠組み、これらに呼応するかたちで民間金融機関は、引き続き本来、主に担う役割である貸付を行い、事業者の資金ニーズに効果的な支援を実現していくということではないかと考える。
 政府・日本銀行の支援策については、直近では先月の日本銀行金融政策決定会合で「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」が9月末まで延長され、政府においても実質無利子・無担保融資の申請期限を3月末まで延長する措置が取られている。さらに、中小企業が金融機関の継続的な伴走支援を受けながら、経営改善等に取り組む場合に保証料を大幅に引き下げる、新たな保証制度の創設、事業転換に係る補助金も措置されると認識をしている。こうした支援策を受けながら、銀行界としても引き続きお客さまの資金需要にしっかりとお応えしていく、このように考えている。


(問)
 2問伺いたい。1問目は簡潔な回答で結構である。円LIBORについて、ドルLIBORの一部のテナーがレガシー対応で延長されたことを受け、円LIBORについても全国銀行協会、業界もしくは加盟行のなかで算出の延長を要請する声や、延長を要請される意思はあるか。
 2問目はリモートワークについてである。あくまで店舗以外のところの要因について、欧米の在宅勤務比率は大体8-9割と言われているが、それに比べて日本は低いと思う。2回目の緊急事態宣言が発出されているが、現在どのくらい可能になっているか、また日本はなぜ低いのか。何か日本独自の商慣行や理由があるのか。
(答)
 最初に円LIBORの移行計画についてのご質問に簡潔にお答えする。
 今、各金融機関はすでに2021年末の移行完了に向けて具体的な顧客交渉も開始しており、全銀協としても、公表停止に向けた計画に即してさまざまなサポートを含めた施策を進めているところである。したがって、延期を求めるといった動きは銀行界としても、あるいは全銀協としてもないということがお答えである。
 次に、在宅勤務のご質問について、日本の在宅勤務の比率というのは欧米に比べて低いのではないか、昨年春の感染拡大局面における日本の銀行の在宅勤務比率が、欧米と比べた場合、数字でみると低かったのではないかとのご指摘であるが、まず感染者数や政府等による公衆衛生措置、また感染症拡大以前の労働慣行、こういうさまざまな条件が内外で異なるなかで、一律に比較可能なのかという点については留意が必要であろうかと思う。そのうえで、少しコメントさせていただく。
 まず、働き方についてであるが、昨年春の感染拡大以前は、一部の企業ではすでに全社的に在宅勤務を導入しているようなケースもあった一方で、日本企業の多くはオフィス等への出社を原則として、家庭の状況などに応じて柔軟な働き方を選択するという観点から在宅勤務が認められていた、というのが一般的だったのではないかと思う。
 ところが、昨年の緊急事態宣言、企業への出社7割削減要請等を経て、多くの企業がさまざまな課題を乗り越えながら加速度的に在宅勤務へのシフトを進めてきたと認識をしている。銀行界では、当時の緊急事態宣言下においても、政府当局からの要請も踏まえて、社会機能維持に必要不可欠な金融インフラとして、感染拡大防止に努めつつ、店舗ネットワークを維持し業務を継続してきたことから、お客さま対応を担う店舗・センターは出社することを原則に、可能な範囲で在宅勤務とし、本部においては7割削減を意識した運用をしてきた。
 これは個別行の事例になるが、三菱UFJ銀行においても、昨年5月中旬のピーク時には本部での在宅勤務比率が平均で7割強となった。ただ、この7割の内訳をみると、組織の機能や個々人の役割によっても濃淡があり、例えば、本部のなかでも企画管理系の部署においては9割近いケースもあった一方で、すべての店舗が開店しているなかで営業現場をサポートする部署などは相対的に低い傾向にあった。これは、店舗で罹患者が発生した際に、前線化して支援できるよう本部が体制をつくり、感染拡大防止と業務継続に臨んでいたことも要因の一つであったと考えている。
 在宅勤務比率の引上げが可能かという点について、例えば、欧米のロックダウンと現状の本邦の緊急事態宣言の法的な意味合いも異なることから、一概に申しあげることはできないものの、緊急事態宣言下での在宅勤務の制約要因の一つでもあった、従業員が自宅で使用可能な情報機器やソフトウェア等の拡充に加え、お客さまのインターネット・バンキングをはじめとする非対面のお取引も徐々に進んできており、少なくとも在宅勤務比率引上げの環境整備は前進したものと考えている。
 今回の緊急事態宣言においても、銀行は生活に必要不可欠な金融インフラとして業務継続を行っていくという社会的使命がある。お客さまの資金繰り支援をはじめ、必要不可欠なサービスを提供する営業店舗ならびに感染拡大に対処しつつ、店舗の営業を支える本部機能、これらが緊密に協働し金融インフラを維持することを前提として、今や本邦におけるニューノーマルともなっている在宅勤務を活用することで感染拡大防止と業務継続の両立に努めていきたい。


(問)
 新型コロナウイルス感染拡大の関係で、緊急事態宣言が11都府県に広がったが、銀行界として現在の店舗運営の対応や感染予防策についての取組みを改めて教えていただきたい。また、前回の緊急事態宣言時と比べて何か対応に違いがないかについても教えていただきたい。
 このほか、個社の話となるが、本日、福井銀行と福邦銀行の間で資本提携の基本合意がなされた旨が公表されたが、会長の受止めをお聞かせいただきたい。
(答)
 まず、緊急事態宣言下の店舗運営についてお答えする。
 今般、首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発出され、さらに昨日、7府県が追加され、対象地域は11都府県へと拡大したが、これまでの会見等でも申しあげてきたとおり、コロナ禍における銀行の営業体制、店舗運営の基本的な考え方は、感染拡大防止に努めながら、資金繰り支援をはじめとする社会インフラとして必要不可欠な業務を継続するというものであり、一貫して変わりがないということをまず申しあげたい。
 昨年4月に発出された緊急事態宣言以降、店舗運営では3密の回避が重要であるという認識のもと、各行の創意工夫により、例えば店内の椅子の間隔を空ける、ATMにお並びいただく際の目安として床のうえに間隔をテープで表示するなど、ソーシャルディスタンスの確保を図ったほか、店頭窓口にアクリル板を設置し飛沫感染防止に努めるといったさまざまな工夫を行ってきた。
 全銀協でも感染防止対策と業務継続を両立するため、店頭ポスターや新聞広告を通じ、資金供給や資金決済等、お客さまにとって生活の維持、事業の継続のために必要不可欠な業務を洗い出し、通常どおり対応する旨をお知らせする一方、お急ぎでない場合には、特に対面でのお手続での来店をお控えいただくか、インターネット・バンキングの活用等、窓口以外での手続をお願いし、お客さまにご理解とご協力をいただいてきた。
 5月の緊急事態宣言解除後には、経済活動再開に合わせ、会員行向けに「新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を策定し、ウィズコロナの業務運営方針を示し、店舗運営等の指針として各行で活用している。
 さらには、昨年7-8月に感染が再拡大した際も、店舗での罹患者の発生増加を踏まえ、感染拡大が更に深刻化し、行員の罹患が多発して応援要員が逼迫するような事態が生じたとしても、店舗を開店し続け、生活の維持や事業の継続に必要不可欠な金融サービスだけでも提供し続けられるよう、基本的な考え方を整理のうえ、会員行と共有をしている。
 例えば、店舗従業員の罹患者発生によって、お客さまの手続に対応できる人員が少なくなった場合、こうした店舗の消毒を実施した後、窓口の数を通常より減らし、個別の事情をお伺いしながら、優先的に対応が必要な業務については店頭での手続を限定的に実施するといった対応を行うことが考えられる。
 具体的な運営方法は、各行の店舗の形態、状況に応じてそれぞれが決定することだが、店頭での手続を限定的に実施するために、店舗自体は開店している一方、店内のシャッターを閉じるといったことにより受付制限を行う方法も想定している。
 今般、11都府県に緊急事態宣言が発出されたわけだが、全銀協としては、緊急事態宣言対象地域であるか否かに関わらず、昨年の緊急事態宣言の発出時と同様、お客さまおよび職員の健康と人命保護を最優先し、お客さまに必要なサービスの提供を可能な限り維持継続することについて、1月8日に改めて申し合わせを行っている。併せて、前回の緊急事態宣言時およびそれ以降も継続的に整備してきた店舗運営等に関する基本方針についても、改めて会員行に再徹底したところである。
 当面、感染拡大と病床逼迫が落ち着くまでは厳しい局面が続くと思われる。会員行においても行員の感染事例が増加しているが、経済の血流を支える社会インフラとして、使命感、緊張感を持って、店舗の3密回避を含めた感染防止対策に万全を期すとともに、資金供給や資金決済をはじめとする生活や事業に必要不可欠な業務の継続に最大限努めて参りたい。
 改めてお客さまにおかれても、極力、店舗における対面でのお手続ではなく、インターネット・バンキングなどの非対面でのサービスをご利用いただき、感染症拡大防止に向けた取組みへのご理解とご協力をお願いしたい。
 次に、ご質問にあった福井銀行と福邦銀行の間で資本提携の基本合意がなされた件は承知しているが、本件は個別行の対応であり、この場でコメントすることは差し控えさせていただきたい。
 昨年12月の会見でも申しあげたが、地域金融機関に期待されるのは、地域の企業、家計の経済活動を支え、地方創生へ貢献していくために自身の経営戦略をしっかり議論し実行していくことだと認識している。
 合併や経営統合を含めて、政府や日本銀行が、地域金融機関が経営改善のためにさまざまな選択を行いやすくするため、制度面での環境整備が進められているところであるが、ご質問いただいた両行のように、各行が営業地域、お客さまの特性、持てる経営資源や強みといったものを考慮したうえで、合併や経営統合も含め、さまざまな選択肢のなかから持続可能なビジネスモデルや経営のあり方をしっかりと考え、その実現に尽力していくことだと考えている。


(問)
 冒頭あった借入れのリスケ要請が今後増えるかもしれないという話についてお聞きしたい。実質無利子・無担保融資は3年の据置き期間を設けているケースが多いと思うが、実際のところは半年で設定されているケースも相応にあると聞いている。返済がすでに始まっているケースもあると思うが、今回再び売上げが急変しているなかで、返済と二重の負担になってしまう懸念を感じているか。コロナ融資の枠内ではあると思うが、2回目、3回目の要請がなされたときの金融機関の適切な対応についてどのように考えているか。
 もう1点はファイアーウォール規制について、昨年末報告書の案が出され、国内顧客に関しては継続的に審議ということだと思うが、証券会社と銀行側でいまだに利益相反の部分で主張に隔たりが大きいと感じている。今後議論を続けるに当たって、銀行側としてどういう点を改めて求めるのか、今後の議論の焦点などを伺いたい。
(答)
 最初のご質問は資金繰り支援、特に今後、実質無利子・無担保融資を含めて返済期限が到来したものについて、どのような対応をしていくかということだが、先ほど少し申しあげたが、今後、事業者の皆さまの売上減少が長期化することも懸念されるなかで、追加の借入れ要請、あるいは既存借入れのリスケ要請も増加することが想定される。これに対して、各行それぞれが事業者の将来性なども見ながら寄り添い、ご支援を行っていくことであろうと思っている。
 企業の返済余力についてマクロの数字で申しあげると、財務省の法人企業統計をベースに非金融法人企業の債務償還年数は、2020年7-9月期で、前年同期の19年から26年へと悪化している。この水準自体は、過去の推移と比較すると著しく悪い水準とは必ずしも言えない。また、厳格な公衆衛生措置による需要消失に伴うキャッシュフロー減少が反映された面もあるという点には留意が必要であろうと思う。もっとも、業界ごとに見ていくと厳しい業界もあることは事実である。さらに、事業特性や企業の規模などさまざまな要因によって個社ごとに状況は異なると認識している。したがって、一律に対応するというよりも、各行がそれぞれの取引先に寄り添い、ポストコロナも見据えたビジネスモデルの構築や事業転換を含めた、状況に応じた支援を行っていくことが重要であると考えている。
 次に、ファイアーウォール規制については、金融審議会の市場制度ワーキング・グループにおいて議論されてきたが、昨年12月23日に公表された第一次報告では、これまでの会合でコンセンサスが取れた「外国法人顧客について非公開情報の授受規制を対象外とする」という方針が記載され、一定の進捗があった。加えて、国内顧客に関する非公開情報の授受のほか、ホームベースルールや外務員の二重登録禁止規制、発行体向けクロス・マーケティング解禁や主幹事引受証券の売却制限など、私どもが緩和を主張してきた項目についてもワーキング・グループの場で、制度の概要とともに、規制緩和の必要性に係る指摘がなされており、ワーキング・グループとしての検討課題にしっかりと取りあげていただいたという点は、銀行界としても評価しているところである。
 ただし、ご質問のなかにもあったように、これらについてはまだ定まった方向感は出ておらず、第一次報告にも記載されているとおり、本年も引き続き議論が継続される。私ども銀行界としては、これら全てが一連のパッケージで見直されることが必要と考えている。
 一方で、さまざまな懸念される点について、有識者、ワーキング・グループのメンバーからご意見が示されていることも承知している。銀行界としては、指摘された懸念点について、既に法令、規制があり、それぞれについて実際に金融機関がどのような体制整備、業務運営を通じて、こうした懸念される点についての対処をしっかりと行っているかを説明し、ご理解いただくよう努めていく必要があると考えている。
 ファイアーウォールの議論は今年も続いていくが、わが国が直面する社会課題解決と金融資本市場の発展のためには、銀行対証券ということではなく、わが国金融業としていかに貢献していくのか、そのために必要な制度は何か、という大きな視点から骨太な議論が進められることを期待している。その際には、今回、ワーキング・グループのなかで意見が出たような懸念事項や、それに対する手当てについても一つ一つ丁寧に点検し、検討を深めていくことができるよう、銀行界としても積極的に意見を発信していきたいと考えている。


(問)
 気候変動に関して伺いたい。金融庁が大手行に対して気候変動が財務にもたらす影響の分析を求めている。日本銀行も気候変動がもたらす金融機関への影響を点検するという報道があった。気候変動が銀行界に与える影響について、どのように考え、また、どのような対策が必要になると考えるか。
(答)
 先月の会見でも少し触れたが、監督当局の金融機関に対する気候変動への対応に関する期待については、「資金動員」、「リスク管理」および「開示の充実」の三つの柱があると認識している。このうち「リスク管理」については、本邦当局が銀行に対して、シナリオ分析を用いて気候変動リスクへの対応を促す、そうした政策を検討しているといった報道があることは承知している。
 監督当局の気候変動リスクに対する問題意識は刻々と高まっており、金融機関への規制枠組みについても、グローバルに議論が加速していると感じている。
 国内外の監督当局は、気候変動が金融システム全体および個別金融機関の潜在的リスクと認識し、銀行に対して気候変動が与える財務リスクを定量化し適切に管理すべき、との問題意識であると理解している。
 気候変動リスク等に係る国際的な金融当局ネットワークであるNGFSは、気候変動に係るリスクを管理するための手法として、シナリオ分析が有益であるという考えを示しており、そのためのガイダンスや参照シナリオなどを公表している。NGFSには本邦当局も参加しており、本邦においても、これらのガイダンス等を用いたシナリオ分析を実施することになるのではないかと見ている。
 この気候変動に係る「ストレステスト」ともいわれるシナリオ分析は、最大でも数年程度の時間軸で景気や市場動向の悪化した場合の試算を行う通常のストレステストとは異なり、30年超の長期間を見据えるものである。したがって、このストレステストの分析結果の持つ意味合いが異なることには留意が必要だろうと考えている。
 足元では、国内外の監督当局はベストプラクティスを共有しているフェーズにある。今後、気候変動リスクの手法の標準化や比較可能性をどう確保するかが課題となるが、そもそもシナリオ分析の結果をどう考えるかという点についても、今後議論が深まっていくことになるだろうと思う。
 また、リスク管理の高度化と併せて、金融機関はファイナンスを通じて、ネットゼロに貢献することが重要になる。銀行界としては、先月、政府が公表した「グリーン成長戦略」に沿ったかたちで、長期的な視点に立ち、責任ある立場として、お客さまの経営戦略を支えるファイナンスを通じ、お客さまの事業がグリーンになるような移行、いわゆるトランジションを促す重要な役割を果たしていきたいと考えている。全銀協としては、金融庁をはじめとし、各省庁が主催するトランジション・ファイナンスの推進に向けた会議体にも参画のうえ、議論に貢献して参りたいと考えている。
 いずれにしても、シナリオ分析等の手法を用いて、気候変動リスクを定量化し管理することは、個別金融機関として健全性を確保するためにも重要であり、本邦当局との対話はもちろんのこと、グローバルな議論にも全銀協として参画しながら対応を進めていく予定である。