2021年4月15日

三毛会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)

岩本専務理事報告

 事務局から1点報告する。
 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、本年7月以降の正副会長を内定した。今後、理事会での正式な選定手続を経て、7月1日付で就任予定である。

 

会長記者会見の模様


 ご質問をいただく前に、全銀協の役員人事についてご説明させていただく。
 3月の会見でも申しあげたとおり、先月、みずほフィナンシャルグループの坂井社長から、「システム障害の原因究明と改善対応策を最優先として全力で取り組むために、全銀協会長への就任を当面の間見合わせたい」という申し出があり、先月の理事会において、銀行界として、コロナ禍の資金支援を最優先にさまざまな課題に対して会員行が一体となって対応し、その先頭に全銀協会長が立つ必要があるため、申し出事情にも鑑み、当面の間現行体制を維持することとした。
 このようななか、今般、みずほフィナンシャルグループの坂井社長から、「4月5日に足元の障害対応状況につき、中間報告的な位置づけとしてご説明させていただいたところであるが、今しばらく、最終的な再発防止策の策定に向け、最優先で取り組む必要がある。このため、これ以上就任にかかる判断時期を遅らせることで、さらに業界にご迷惑をお掛けする訳にもいかず、皆さまのご了解が得られるのであれば、令和3年度の会長就任を辞退させていただきたい」という申し出があった。
 この申し出を受けて、本日の理事会において全会一致で三井住友銀行の髙島頭取を本年7月1日から来年3月31日までの全銀協会長として内定した。
 ご承知のとおり、髙島頭取は私の前の全銀協会長であり、世界経済の先行きが不透明で、また、前回の任期終盤には新型コロナウイルス感染症への対応も必要となるなか、この感染症への対応はもちろんのこと、銀行界の多岐にわたる課題に対し見事にリーダーシップを発揮された方であり、私としても、この難局を全銀協としてしっかりと対応していくにはもっとも相応しい方であると思っている。
 髙島頭取の正式就任まで、2か月半、新型コロナウイルス感染症が再拡大する中で、銀行界としては、資金支援を最優先に、さまざまな課題にもしっかりと取り組み、引き継いで参る所存である。
 皆さま方には、引き続きのご理解とご支援をお願い申しあげる。


(問)
 3問伺う。
 1点目は、全銀協の会長は7月に髙島三井住友銀行頭取が就任するということだが、来年4月には、輪番制ではみずほ銀行の番になると思うがみずほ銀行が就任する方向性か。みずほ銀行は、2011年にも全銀協会長を辞退しているが、同じ銀行で二度こうしたことが続いたことについて、率直にどう受け止めているか。
(答)
 来年度の会長がどうなるか方針は固まっているのかというご質問であるが、本日、今年度の会長として三井住友銀行の髙島頭取が相応しいという決定をしたばかりであり、来年度以降の体制については現時点で何も決まっていない。みずほ銀行が就任する方針なのかという話についても、仮定の話になるので、現時点でお答えができることではない点については理解をいただきたい。来年度以降については、しかるべきタイミングを見計らいながら、全銀協として検討していくことになる。
 もう一点、約10年前にもみずほ銀行が全銀協会長就任を見送られたことがあったが、特にみずほ銀行固有の問題ということでは、私はないだろうと思う。たまたまそういう事態が過去にもあったということであり、それぞれの時点、その時々において全銀協会長の職務を担う方々が、銀行界にとって何が一番かという点について重い判断・決断をしていると私は理解している。
(問)
 2点目は、金融庁が大手行に対して、貸渋りや貸はがしについての聞取り調査を行っていると認識している。銀行業界として、貸渋りや貸はがしが現状あると認識しているか。また、対面サービスなど、一部の業種では資金繰りが一層厳しくなっていると思う。新型コロナウイルス感染症の影響は長引くと見通されているが、これに対して銀行界としてはどのように対応していくお考えか。
(答)
 銀行の融資姿勢・融資態勢についてのご質問であるが、銀行界では、コロナ禍による売上げの急減、あるいは業績悪化に直面したさまざまな業態・業界のお客さまへの資金支援を、新型コロナウイルス感染症の拡大初期から一貫して最優先課題と捉えて取り組んできている。まず足元の貸出全体の計数は、3月末の全国銀行の貸出残高は537兆円、前年同月比でプラス4.7%、金額で前月比プラス1.1兆円増加している。実質無利子・無担保融資に関しては申込期限が3月末で終了し、融資実行期限は5月末となるが、3月末までの申込受付件数は約66万件、融資決定件数が約61万件、融資決定金額が累計で11.7兆円となっている。また、3月単月では、融資決定件数は約7万1,000件、融資決定金額が約1兆6,000億円となっている。融資上限金額が今回6,000万円まで拡大されたうえで、年度末、かつ申込終了月となったことに加え、自行内の借換制限が緩和されたことにより、融資期間の実質的な延長も融資金額に含まれており、やや幅を持ってみる必要はあるが、昨年6~7月の単月2兆円規模の融資金額であったピーク時に次ぐ規模の資金手当てが、この3月に行われたと捉えている。
 一方で、金融庁の統計である「金融機関における貸出条件の変更等の状況」によると、2020年3月10日から2021年2月末にかけて、中小企業のお客さまからの40万件を超える条件変更の申込みをいただいているが、これらに対して実行に至った比率は99%となっている。これは、各金融機関がお客さまに親身に寄り添い、柔軟に対応した結果が表れているのではないかと捉えている。ただ、他方でご相談いただいた案件が全て融資実行につながっていないケースがあることも認識しており、お客さまへの説明のなかで、貸渋りや貸はがしといった誤解が生じることがないよう、引き続き会員行においては、より一層、事業者各社の立場に立ったきめ細やかな対応が必要と考えている。
 今後の資金繰り支援については、先月23日に財務省、経済産業省、金融庁および農林水産省によって、「新型コロナの影響を特に受けている飲食・宿泊等の企業向けの金融支援等について」が発表された。長期化する新型コロナウイルス感染症の深刻な影響を受けた、対面サービスの代表的業界である飲食・宿泊事業者等について、政府系金融機関の支援が強化されたものである。具体的には、日本政策投資銀行および商工中金における民間協調融資原則の一時停止、両者が提供する劣後ローンの金利引下げ、出資ファンドの優先株式の配当水準の引下げ等が措置されている。民間金融機関もこれに呼応するかたちで、個々のお客さまへ親身になって寄り添い、財務状況を踏まえ、従前の資金繰り支援に加え、今般強化された政府支援策の提案、事業計画のサポート等を協働して行う所存である。
 足元で感染が再拡大しており、新型コロナウイルス感染症の収束を見通すことが難しい状況にあるが、この難局を乗り切るため、まさに官民一体となって、それぞれが果たすべき役割を発揮し、相互に補完しつつ、お客さまへの資金繰り支援に全力をあげて取り組む姿勢に変わりはない。
(問)
 3点目は、アメリカの投資会社アルケゴスとの取引を巡って、複数の日本の金融機関も損失を発表している。一部では過剰流動性の問題など、新たな金融危機につながるのではないかという心配も出ているが、それについてどう受け止めているか。
(答)
 国内外の複数の金融機関が、顧客取引に起因して損失が生じたと発表し、こうした損失が米投資会社アルケゴスとの取引によるものと報じられていることは承知している。損失を公表した後、当該金融機関の株価が下落するといった影響がみられたが、その後のNYダウ平均株価や日経平均株価の推移を踏まえると、現時点においては、金融市場全体や実体経済への影響は限定的であるように思われる。したがって、これが金融危機につながらないかという話もあったが、市場の動向にはもちろん引き続き注視が必要と考えているが、現時点において、すぐにも連鎖的な金融危機となる状況にはないとみている。
 また、過剰流動性との指摘があったが、現在の市場は、大幅な金融緩和が、コロナ禍という危機時における経済活動を下支えする効果を発揮している一方、流動性供給が正常な経済活動に必要な水準を上回っている状態、すなわち過剰流動性の状態であるともいえ、その結果、余剰資金が株式などの金融資産に流れ、実体経済からやや乖離した価格上昇を引き起こしている可能性もある。
 他方で、今回のアルケゴスの問題は、ファミリーオフィスという特殊な形態の投資会社が過剰なレバレッジを掛けた結果、マージンコール不履行を引き金に、資産の投げ売りをせざるを得なくなったことが原因とも報道されており、同社固有の背景や投資手法が、損失発生の直接的な問題であるとの見方もある。とはいえ、こうした高レバレッジ取引の背景に過剰流動性がある可能性も否定できず、今後、第2、第3のアルケゴスが出現するか否かは、注視していく必要がある。
 これら一連の損失事案に対しては、米国の証券取引委員会(SEC)や金融安定監督評議会(FSOC)といった監督当局が、金融市場の安定化に向けて調査を行う予定とも報じられている。本邦においても、今後、規制の見直しや強化の議論につながる可能性も視野に入れ、各金融機関は改めてリスク管理体制の見直し等を実施し、健全な金融市場の維持に努めていく必要があると考えている。


(問)
 2点伺いたい。1点目、先ほど三毛会長からも政府系金融機関の機能強化の支援策について言及があったが、民間協調融資原則の一時停止ということで民業圧迫への懸念はないのか伺いたい。その背景として、先ほども言及があったが、民間金融機関がコロナ禍の長期化に伴って融資先の選別姿勢を強め、その結果、政策金融機関による資金供給に目詰まりが起きているのではないかという指摘も出ている。改めて官民の連携のあり方についてご見解を伺いたい。
 次に、今般、非常に話題になっている東芝の関係で伺いたい。非上場化に向けた提案がなされて、日本を代表する大企業の非上場化に向けたさまざまな報道が出ている。非上場化によるコーポレートガバナンスへの影響をどのように考えているか。また、東芝は原子力や国防に関する重要な技術を持っている企業で、外資系ファンドによるさまざまな提案というのは、外為法との関連や安全保障という観点でも影響が大きいと思う。そのような一連の動きについてどのようにご覧になっているか、伺いたい。
(答)
 最初の官民連携のあり方についてのご質問からお答えする。
 コロナ禍というまさに未曾有の危機のなかで、官民が総力をあげて事業者の資金繰りや資本性資金ニーズを支援し、実体経済の下支えと雇用維持を図ることが求められており、そうした対応がまさに危機下の官民連携のあり方であると理解している。
 今回、特にその影響を受けている飲食・宿泊等の企業向けの支援強化のために、冒頭のご質問のなかでも触れさせていただいたが、先月23日の関係閣僚会議で金融支援等の措置が決定され、それにもとづき関係省庁から官民の金融機関に対しての要請が発出されたところである。
 この結果、危機対応業務の指定金融機関である日本政策投資銀行と商工中金が、コロナ禍に直面する飲食・宿泊等をはじめとする中堅・大企業に対して、資本性資金に限らず、危機対応融資として支援を実施する際には、これまでは民間金融機関との協調が原則とされてきたものが、今後は単独での融資も可能となったと理解している。
 これも冒頭申しあげたが、銀行界では昨年の新型コロナウイルス感染の拡大初期から一貫してお客さまの資金繰り支援に最優先で取り組んでおり、その結果、全国銀行の貸出残高は3月末で537兆円、これはコロナ禍前と比較すると約30兆円増加している。
 とはいえ、コロナ禍の影響が長引くなかで事業の先行きが見通し難く、民間金融機関のみではなかなか対応し難いお客さまへの資金供給や、預金取扱金融機関にとっては対応に限界がある資本性資金の供給など、幅広い事業者の方やさまざまな資金ニーズに対応していくには、政策金融機関との協調が不可欠である。
 今回、政策金融機関において民間協調融資原則が一時停止されたことは、平時とは異なるコロナ禍が長期化するなかで、危機時の対応として、飲食・宿泊業等を中心とした厳しい業況に直面する事業者に対して、より柔軟かつ迅速に資金供給を行うための措置と認識している。
 政策金融機関とは今回の措置が公表された後も密接に意見交換を行っているが、今後も引き続きメイン行を中心に民間金融機関との連携を深めつつ対応していくような運営を徹底していくものと理解している。コロナ禍の難局を乗り越えた先には、ご質問にあったような民業圧迫といった視点も含めて、平時における最適な官民連携のあり方を探っていく必要も出てこようが、まずは官民一体となり、資金繰り支援に最優先で取り組んでいくことと考えている。
 二つ目の東芝の件であるが、これは個別企業のお話であるので本来コメントする立場にはないが、日本を代表する企業への買収提案がなされており、昨日、社長が辞任されたなど社会的にも注目されているので、簡単にコメントさせていただく。
 東芝は、過去の経営危機時に半導体メモリー事業を売却するなど選択と集中を進め、本年1月に東証1部に復帰することができたという経緯にある。一方で、資本増強のために増資を行ったが、その際に引き受けた株主から経営の方向についてさまざまなご意見が出るようになり、ご質問のなかにもあったような、投資ファンドからの買収提案の動きになっていると承知している。
 非上場化に対して全銀協としてコメントする立場にはないが、一般論で申しあげれば、各企業におけるコーポレートガバナンスのあり方はさまざまであることから、まずは各社自らがしっかりと考え、創意工夫を凝らしていくことが基本である。東芝についても、自らのガバナンスのあり方について、株主、投資家をはじめとしたステークホルダーへの説明責任を十分果たせるよう対応いただく必要がある。
 また、外為法についてもご質問があったが、2019年11月に公布された改正外為法では、日本の安全保障等の観点から国の安全等を損なうおそれがある一定の業種に対する対内直接投資等について事前届出が求められることとされ、昨年5月の施行に当たり、対象企業のリストが公表されている。この改正によって、事前届出の対象となる上場株式の取得比率の基準が従前の10%以上から1%以上に広げられたが、1%という値は会社法上の株主総会における議題提案権の基準でもあるので、議題提案権は安全保障上の観点から注視することを意識して改正が図られたものと理解している。
 ただし、東芝についても当該リストの対象企業であることは承知しているが、所管の財務省はリストの対象となる理由や審査のポイントなどについて、個別企業の事業内容の秘密を漏らす懸念があるため開示しない方針であり、全銀協としてもこれについてお答えする立場にはないという点はご理解いただきたい。
 東芝は日本の産業や経済にも影響の大きい企業であり、関係者も多く、個別行としても取引行の一角を占めているが、今後どのような動きになるにせよ、繰り返しになるが、幅広いステークホルダーに対する説明責任をしっかりと果たしていただくことを期待している。


(問)
 全銀協会長人事についてお聞きしたい。全銀協としてもさまざまな課題に取り組んでいるなかで、このようなイレギュラーなかたちで次期会長が決まったということが、全銀協の活動に何らかの影響を及ぼさないのか、ご所見をお聞きしたい。もう一つは、7月から髙島会長ということだが、この7月というタイミングは準備期間等いろいろあって7月からなのか。7月から来年3月末までということだと思うが、この7月というタイミングとした理由についてもお聞きしたい。
(答)
 3月の会見で申しあげたように、足元の状況に鑑み、当面の間ということで、会長を引き続きこの4月以降もお引受けしているわけだが、そうしたなかで、今回、7月から三井住友銀行の髙島頭取に会長を引き継いでいただくという、従来にない会長行の交代になることが、今後、銀行界として課題に取り組むうえで何か支障がないかというご質問である。
 まず、髙島頭取について申しあげれば、先ほどご説明申しあげたように、私の前の全銀協会長であり、その手腕・実績は申し分なく、従前より銀行界の多岐にわたる課題に対して大変見事なリーダーシップを発揮されている方である。また、現在も日本を代表するリーディングバンクである三井住友銀行を率いておられるということで、総合的にこれらを踏まえて、新会長としてもっとも相応しい方という判断をしたわけである。
 また、全銀協の活動は会長一人で行っているものではなく、副会長や理事、会員行の協力の下でさまざまな課題に対しての取組みを進めているということであるため、髙島頭取が会長になられて、そしてリーダーシップを発揮され、銀行界として多岐にわたる課題に取り組んでいくということに大きな支障はないと考えている。
 また、7月というタイミングについては、ご質問のなかで話されたように、やはり会長行をお引受けするには相応の体制をつくりあげていく必要があり、期中での引継ぎになるということで、髙島頭取におかれても、三井住友銀行のなかでの体制づくりに一定の時間を要するため7月1日からとなったとご理解いただければと思う。


(問)
 今回、みずほフィナンシャルグループの会長行就任辞退というかたちになった。先月末に中間報告も出されたが、この内容についての三毛会長の受止めを伺いたい。
 また、みずほ銀行がシステム障害を起こしたことで安全・安心に対する信頼が傷ついたことはまだ拭い切れていない状況だと思うが、今後、改めて全銀協としてどのように対応していく必要があるのか。みずほ銀行、みずほフィナンシャルグループにどのような対応を求めたいか。ご所見を伺いたい。
(答)
 みずほ銀行が、2月から3月にかけて発生したシステム障害を受けて、3月末に金融庁に報告を提出されたことは報道を通じて承知しているが、そのなかで、どのような内容で報告をされたかといった詳細については、私どもは把握する立場にはないので、その内容を踏まえたコメントはできない点はご理解いただきたい。
 そのうえで、本件は、社会インフラである銀行システムがATMの障害によって多くのお客さまにご心配・ご迷惑をおかけした事案でもあることから、記者会見等を通じて公表されている内容も踏まえ、少しコメントさせていただく。
 みずほフィナンシャルグループおよびみずほ銀行では、今回の障害をシステム部門で閉じる問題ではなく、組織全体の経営の課題として捉えたうえで、ATMの仕様改善やシステム開発要員の増強といったシステム部門における対応の見直しや体制強化のほか、万一障害が今後発生した場合にも、お客さまへの影響の把握と極小化を速やかに実施するとともに、必要なご案内・対応を迅速に行うための営業店・本部の体制強化などに取り組むとされている。
 また、さらに今後は、「システム障害特別調査委員会」の評価・提言等も踏まえた再発防止策の策定を進めることとされており、全銀協としても、是非こうした再発防止策を実効的なものにすることで、長年にわたり安心・安全な金融サービスを安定的に提供してきた銀行としての責務をしっかりと果たしていただきたいと考えている。
 これは先月の会見でも申しあげたことだが、全銀協においては、今回の度重なる事案を受け、銀行システムの安定稼動と運用管理に万全を期すことや、万一障害が発生した場合に速やかに復旧を行うための体制や迅速かつ適切にお客さまに対応できる体制を構築することに関して、3月15日付で申合せを行い、会員行と認識を共有している。
 今般のみずほ銀行の再発防止策についても、決して個別行の問題として片づけるのではなく、各行が一つの教訓として受け止め、システム運用管理から障害発生時における体制の整備・強化を含めて対応を進めるなど、銀行としてお客さまからお寄せいただいている信頼にお応えできるよう不断の努力を続けていく必要があると考えている。


(問)
 アルケゴスの問題に関し、三菱UFJフィナンシャル・グループを含めた日本の金融機関も関連損失を出している。損失300億円は全体収益のなかでは小さいと思うが、決して少なくないエクスポージャーだと思う。日本の金融機関として海外収益を取ろうとするあまりにリスクテイクで勇み足を踏んでいないか。これを機にリスク管理の見直しが必要とお考えか。
(答)
 個別取引のリスクテイクのあり方に関しては個社戦略、個社の内部管理体制等に関わるものであるため、直接のコメントは差し控えさせていただきたい。
 そのうえで、先ほどのご質問のなかでも申しあげたとおりであるが、今後、規制の見直し・強化の議論に繋がる可能性も視野に入れて、各金融機関が改めてこうした教訓も踏まえてリスク管理体制の見直し等を実施し、健全な金融市場の維持に努めていく必要があると考えている。


(問)
 1点目は、新年度に入り、改めて今年度の銀行経営の課題認識を伺いたい。
 2点目は、米国の長期金利が上昇しているが、これが銀行経営にどのような影響を与えるとお考えか伺いたい。
(答)
 銀行界の新年度の重点課題ということでご質問いただいたが、まず足元の感染再拡大に見られるように、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するなかでの引き続きの対応、とりわけ資金支援についてお客さまの流動性資金の調達と財務健全性強化、さらにはポストコロナを見据えた事業転換への貢献等が必要な局面にあり、これらについては、引き続き銀行界にとっての最優先課題と認識し、取り組んでいく。
 次に、今回のコロナ禍で、これまでのさまざまな世のなかの潮流が加速しているが、なかでも気候変動への対応は、今年がCOP26や気候変動サミット等を控え、わが国でもさまざまなルールメイクが検討される1年にもなるため、中長期にわたる大きなテーマとして、銀行界としても引き続き積極的に議論に参画していきたいと考えている。
 また、金融サービスのデジタル化について申しあげれば、手形・小切手機能の電子化、税・公金収納の効率化といった取組みを加速させていくほか、デジタルマネーによる賃金支払いの議論に対する意見発信や、本邦でも実証実験が始まる中央銀行デジタル通貨の議論にも対応を進めていく必要がある。
 そのほかの諸課題についても申しあげると、本日も金融審議会が開催されたが、銀証ファイアーウォールの国内撤廃議論の継続も重要な課題であるほか、新型コロナウイルス感染症により延期となっていたFATF第4次対日相互審査の結果の公表もある。また、年末に迫る日本円LIBOR廃止への確実な対応、さらには銀行間手数料の引下げも踏まえた各行のたゆまぬサービス向上への取組みといったものもある。こうした銀行界を取り巻く多岐にわたる課題にも引き続きしっかりと対応していかなければならない。
 次に、米国金利の上昇についてのご質問だが、ご指摘にあったとおり、足元では新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発等による経済正常化への期待や、米国新政権下での大規模財政措置への期待の高まりを背景に、株価の上昇とともに米国長期金利も上昇している。数字でみると、例えば米国10年債利回りは、昨年9月末は0.68%であったが、昨年末には0.92%程度となり、一時1.7%を超える水準まで上昇した後、足元は1.6%台で推移している。
 このような市場環境の変化に伴う邦銀の経営に与える影響というご質問であるが、これは各社によって状況が異なるため、一般論として申しあげると、米国長期金利上昇による外債投資に対する邦銀への影響としては、長短金利差拡大に伴う中長期的な投資利回りの改善が見込まれる一方で、短期的には保有債券価格の下落による評価損益悪化といった影響が考えられる。すなわち、これまで低金利の円ではなく外債での運用を増やしてきた金融機関は、この米国長期金利上昇によって足元での損益悪化に直面することが予想される。
 ただし、昨年末から長期金利の上昇が徐々に進んできたことを踏まえると、金利上昇時の評価損益の悪化に備えたヘッジを行うことや、株式も含めた他のアセットクラスを適切に組み合わせることにより、時間をかけて評価損益の安定化を図るといった運営によって、損益への影響を抑えている銀行もあるのではないかと考える。
 また、銀行全体のビジネスモデルでみた場合には、長短金利差拡大による預貸利鞘拡大の側面に加え、景気回復の経過とともに銀行ビジネスそのものにとってプラスの影響も想定される。
 いずれにしても、引き続き金利動向、米国経済政策の動向、FEDをはじめとする当局政府高官の発言等を注視しながら、市場環境変化を適切に捉え、事業ポートフォリオ全体を見渡して、収益改善の努力をしていくことが重要と考えている。


(問)
 アルケゴス関連で1点伺いたい。傘下の三菱UFJ証券ホールディングスでも損失の発生について公表されていると思うが、持株会社の会長として、例えばリスク管理の面で問題がなかったかという点も含めてご所見があればお願いしたい。
 もう1点は、給与のデジタル払いについて伺いたい。政府が4月初旬に開いた規制改革推進会議の作業部会で、厚生労働省が今年度中のできるだけ早い時期に給与のデジタル払いを実現させる方針を示した。議論の集約がなかなか見られないなかでこうした方針が示されたことについて、どう受け止めているのか。銀行界はこれまでデジタル給与払いには慎重な立場だったかと思うが、今後譲歩できる余地はあるのか。
(答)
 三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下の三菱UFJ証券ホールディングスにおいて、当社の欧州子会社が米国顧客との取引に起因した多額の損害が生じる可能性があるといった旨について、3月30日にプレスリリースを行っている。ただ、これは個別取引先に関わる内容を含んでおり、この場でお話しすることは相応しくないと考えるので、コメントを差し控えさせていただきたい。
 デジタル給与払いについては、4月5日の規制改革推進会議の投資等ワーキング・グループに全銀協も参加させていただいており、その場で、厚生労働省から2021年度、できる限り早期の制度化を目指すという方針が示されたということは承知している。
 これは、昨年7月に閣議決定された成長戦略フォローアップにおいて、「労使団体と協議のうえ、2020年度、できるだけ早期の制度化を図る」とされていたところ、労働政策審議会における労使間の協議で結論を得るに至らなかったため、制度化を目指す期限が今年度になったと理解している。
 投資等ワーキング・グループでも申しあげてきたことであるが、私どもは労働者の利便性の向上やキャッシュレスの推進自体に何ら反対するものではないが、賃金支払いの大部分を担ってきた預金口座を提供する事業者、そして責任ある金融の担い手として、安心・安全と利便性が両立したもとで、真に労使双方の経済厚生が高まるよう、丁寧かつ慎重な議論が行われるべきであると主張してきた経緯にある。
 今後は、労働政策審議会において、厚生労働省から具体的な制度案が提示されつつ、議論が継続されていくものと思われる。その際には、資金移動業者のアカウントに為替取引と直結しない資金が滞留することの法制上の整理や、利用者資金の保全やセキュリティを含め、通貨払いの原則の例外として認められている銀行預金と同等の安全性の確保、あるいは資金移動業者の業況や監督実態を開示したうえで検討を行うこと、こういったことが必要になる。
 加えて、振込先の口座確認やエラー発生時の迅速な対応、企業内ですでに構築されているシステムの再構築コストや、企業から労働者への説明責任、労働者本人からの同意の取得など、労使双方からこれまでも指摘されてきた、さまざまな論点について、一つ一つ丁寧に議論していく必要がある。
 銀行界は労働政策審議会の議論に参加しているわけではないが、労使双方から示されたこれらの論点について、丁寧な検討と関係者の合意が不可欠であり、そのために十分な議論が尽くされるべきである。
 銀行界では、銀行口座を通じて安心・安全な金融サービスを安定的に提供してきた責務を改めて認識したうえで、会員行が展開しつつある口座直結のQR決済サービスや、資金移動業者との相互運用性の確保といった利便性の向上への取組みにも注力しながら、お客さまからお寄せいただいている信頼に、引き続きお応えできるよう、不断の努力を続けていくということだと考えている。


(問)
 先ほど、会長から新型コロナウイルス感染症対応で無利子・無担保融資の件数や残高がかなりの規模になっているとの説明があった。一方で、足元では一部の業種で中小企業を中心に過剰債務の問題が指摘されている。まず、こうした現状についてどう認識されているのか。また、政府は、先ほど会長がおっしゃった事業転換の支援にも力を入れているが、金融機関のあるべき融資姿勢や政府に求める施策について伺いたい。
(答)
 現在のコロナ禍における銀行界の基本スタンスは、これまでも何度か申しあげているところであるが、それぞれのお客さまのニーズに寄り添った支援を継続していくということである。
 昨年は、倒産件数が過去30年でみると最低水準となり、最高益を記録する企業もあった。一方で、休廃業は約5万社ということで、この20年間で最も多い。そのなかの6割程度は、その前年まで黒字を記録している企業が含まれ、また、6割程度の企業では、その経営者が70歳以上という状況である。実にさまざまな影響がこのコロナ禍のなかで生じているということであるので、個々のお客さまのニーズをしっかり受け止めて、銀行は取り組んでいかなければいけないと考えている。
 第一には、需要喪失等によって厳しい影響を受けた事業者の方々に対して、通常の融資に加えて、リスケといった柔軟な対応を含めた流動性確保のお手伝いをする。また、第二には、資本が毀損してソルベンシーの課題を抱えておられる事業者に対しては、今般支援策が強化された政府系金融機関との協働に加えて、預金取扱金融機関であるため限界はあるものの、プロパーでの資本性ローンも含めた財務健全性の強化のお手伝い、さらにはポストコロナ/ウィズコロナ時代に適応するための事業展開が必要になった事業者の方に対して、新分野への展開や業態転換などに必要なビジネスマッチング、M&Aといったサポートを行っていく取組みになろうかと思う。
 政府に求める施策については、令和2年度の第三次補正予算で措置された予算額が約1兆1,000億に上る事業再構築補助金制度の公募が3月26日から開始され、本日4月15日より申請受付開始の段階となっている。これは非常に時宜を得た制度ではないかと考えている。
 改めてこの制度の概要に少し触れると、ポストコロナ/ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の事業再構築を支援するという目的の措置であり、中堅・中小企業の新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編、また、これらの取組みを通じた規模の拡大等に関わる費用等を最大1億円まで補助する制度である。
 この制度において銀行に対して求められている役割は、事業再構築に関わる事業計画を、お客さまと一体となり策定することである。お取引先企業の将来は、経済の血流を担う銀行にとっての将来でもある。外部の専門家などとも適切に連携しながら、経営課題について経営者とともに取り組み、それぞれの解決を図っていきたい。


(問)
 前回の会見で、日本銀行の金融政策について、政策点検の結果を踏まえ、副作用をできるだけ抑制しつつ最大限の効果を発揮するかたちで金融政策が運営されていくよう期待すると述べられた。日本銀行は先月の政策決定会合で金融政策を修正し、貸付促進制度の導入を決めた。この制度についての評価や銀行に与える影響を聞かせてほしい。
(答)
 金融政策は日本銀行の専管事項であるので、全銀協会長としてコメントすることは適切ではなく、個人の見解としてお答えする。
 まず、今お話にあった先月の各種政策点検を振り返ると、日本銀行はこの長短金利操作付き量的・質的金融緩和が、経済の改善や持続的な物価下落という意味でのデフレ的な状況からの脱却という点で効果を発揮してきたと評価しており、物価安定の目標の実現に向けて現行の金融政策の枠組みを継続することが適当であると結論づけている。
 こうした結論を踏まえ、日本銀行ではご質問にあった貸出促進付利制度の新設に加え、長期金利変動幅を上下0.25%に明確化した。加えて、ETF・J-REITの原則年間残高増加額について、現状のETF約6兆円、J-REIT約900億円の撤廃等を決定したわけである。これらは新型コロナウイルス感染症の収束後を見据えながら、現行の金融政策の枠組みの持続可能性や、将来の危機対応の機動性を高めることに主眼が置かれたものと言える。
 ご質問の貸出促進付利制度であるが、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペなどの一部の資金供給オペの利用残高に応じて、金融機関への金利のインセンティブを付与する仕組みであり、金融緩和が仮にさらに強化された場合でも、金融機関の収益悪化が一定程度低減されることを企図していると理解している。
 長期金利の変動幅明確化も金利変動に柔軟性を持たせるということで、国債市場の機能向上を目指すものであり、今回の決定は金融緩和の長期化による金融機関経営や金融仲介機能、あるいは金融市場が持つ価格発見機能への悪影響をできるだけ小さくする工夫と受け止めている。
 また、政策対応には四半期に一度の金融政策決定会合において、日本銀行の金融当局がその時々の金融システムの状況を報告することも含まれており、これも日本銀行が金融システムの安定を一層重視していく姿勢を示したものと理解している。
 マイナス金利が深掘りされた場合に、その悪影響を今回の制度で吸収できるかという点は、この貸出促進付利制度は短期政策金利の引下げに連動して当該制度における金利インセンティブが引き上げられる仕組みとなっているので、金融機関収益へのインパクトを幾分和らげる効果を持つことは事実だと思う。
 とはいえ、当該制度は一定の資金供給オペの利用残高にのみ適用される一方で、マイナス金利深掘りに起因する市場金利の低下は、貸出や債券を中心とした、より広範な資産の利回りを低下させるわけである。
 このため、最終的には、実際の市場金利の動向や各金融機関のバランスシート構成にもよるが、マイナス金利の深掘りの影響をこの制度で全て吸収するのは難しいと考えている。これまでも会見で述べてきたが、もしこうした金融機関収益への下押しといったものが、金融仲介機能の低下につながり、実体経済に悪影響を与えるとすれば、これは金融政策の副作用と言えるのではないかと思う。
 いずれにしても、今回の点検やそれを受けた政策対応を踏まえ、日本銀行によって今後とも適時適切に金融政策運営がなされ、その結果として、日本経済全体がこの難局を乗り越え、安定的な成長軌道に戻っていくことを期待している。


(問)
 脱炭素の流れのなかで、トランジション・ファイナンスについての検討が進んでいると思うが、サステナブル・ファイナンスを含め、銀行界としての課題や期待、利子補給などのインセンティブについて、ご所見を伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、経済産業省、環境省および金融庁が共催している「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」において、「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針(案)」が示されたことは承知しており、国際基準との整合性に配慮しつつ、トランジション・ファイナンスの概念を整理した指針であると理解している。今後は、産業ごとにネットゼロに向けたロードマップの検討が進むことが想定されるが、その一連の検討のなかでどのようにトランジション・ファイナンスを捉えていくかについては、関係者間で一層議論を深めていく必要がある。
 改めて、銀行界としてのネットゼロへの貢献について申しあげると、間接金融の立場からお客さまの事業構造のトランジションをファイナンスの面から促す重要な役割を果たしていきたいと考えているが、気候変動対策には一定の時間を要するため、目に見える成果が直ちに具体化するわけではなく、本分野のファイナンスの促進にはさまざまな課題や問題意識が存在することも事実であろう。
 例えば、お客さまと銀行が持続可能なかたちでサステナブル・ファイナンスに取り組んでいくためには、リスクとリターンが見合うことが重要である。次世代の技術開発にはリスクが伴うほか、「グリーンな案件には金利優遇を行う」といった単純な議論ではなく、適切なプライシングで資金が供給される枠組みが必要である。
 加えて、ESGに関する取組みが環境にどのような影響をもたらすのかといった、科学的根拠にもとづく共通化されたインパクトの計測手法等が存在しないなかでの審査への織込みの難しさや、ストレステスト等の規制導入により銀行の貸出資産が突然に座礁資産と分類されることも回避しなければならないといった問題意識もある。
 そして、政府により今後示されるエネルギー基本計画の下で、産業界の対応が決定され、さらに個社戦略が策定されて、銀行界としてお客さまの持続可能な取組みの資金ニーズに対してしっかりお応えしていく、こういう循環を生み出していくことが重要と考えている。
 いずれにしても、2050年のカーボンニュートラル実現にはさまざまな挑戦を伴うわけだが、将来世代のためにも待ったなしの状況にあり、官民総力戦で達成しなければならない目標である。
 足元、政府においては利子補給制度の検討が開始されようとしているが、こうした制度が導入されれば、大企業のみならず、中小・中堅企業の取組みを後押しする一つのインセンティブになることは間違いないだろう。このような措置の積重ねに加えて、目標達成に向けた実態に即したルールづくりのために、関係者間での綿密なコミュニケーションが必要であり、全銀協としてもさまざまな場を通じて、国内外の議論に積極的に貢献していきたいと考えている。


(問)
 金融庁が、顧客基盤や知的財産といった無形資産を含む事業全体を担保権とする、いわゆる「事業成長担保」の法制化を検討している。不動産担保への偏重を是正する意味では有用な制度と言えそうだが、実務上の運用は容易でない印象も受ける。民間金融機関としてこの議論をどうみているか、ご所見を伺いたい。
 もう1点は「重要情報シート」について、金融庁は、金融商品販売時における各種商品の比較検討をしやすくする狙いで、金融機関に重要情報シートの導入を促していく考えである。この重要情報シートの議論を踏まえつつ、顧客本位の業務運営の一層の充実に向けて銀行界が取り組むべき課題を聞かせてほしい。
(答)
 事業成長担保権は、金融行政方針において包括担保法制等について検討する方針が示されたことを受け、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」において議論が行われ、昨年12月に論点整理ペーパーが公表された。これは、そのなかで示された一つの制度イメージと承知している。一昨日、法制審議会の担保法制部会第1回が開催されているが、今後、この法制審議会の場で具体的な議論がなされる方向にあると認識している。
 議論の背景としては、コロナ禍によって事業性評価や伴走型支援といった、金融機関の平時からの取組みやお客さまの事業実態の理解の重要性が改めて認識されたが、現状の担保法制では、事業の継続価値よりも個別資産の清算価値に向きがちではないか、との問題意識があると理解している。不動産担保を含め、担保や保証に頼らない事業性評価にもとづく融資は、会員行において重点的に取り組んでいる課題であり、財務諸表には表れてこない企業の事業力・経営力を判断し、企業の成長性に着目してサポートを行ってきている。
 全銀協としても、個人保証に拠らない融資の浸透を図るべく、経営者保証に関するガイドラインを定め、昨年度からは、前経営者と新経営者の双方から保証を受け入れる、いわゆる「二重保証」の原則禁止などを定めた、「事業承継時に焦点を当てた特則」を制定し、その適切な運営に努めているところである。
 実務上の運用についてもご質問があったが、事業者に係る担保権は、売掛債権等の一般債権との優先順位など、金融機関のみならず、さまざまなステークホルダーが関連する大きなテーマなので、その影響も広範に及ぶ。このため、幅広い知見を持った有識者の意見も踏まえ、事業者、金融機関双方の利益に繋がる制度設計となるよう、全銀協としても、引き続き積極的に議論に参画していきたい。
 重要情報シートについてだが、「顧客本位の業務運営」に関して、1月に原則が改訂され、原則5の「重要な情報の分かりやすい提供」において、「同種の商品の内容と比較することが容易となるよう配慮した資料を用い、情報提供に工夫すべき」とされている。「重要情報シート」については、この原則改訂の背景となった昨年8月の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書において、「原則」の実効性を担保する目的で、投資リスクのある金融商品・サービスの提案・選別の場面で積極的に用いることが望ましい、とされた経緯がある。これは、市場ワーキング・グループにおいて、「提案時に他の商品と比較説明を受けていないという回答が7割を占めていた」との顧客調査が示されるなど、顧客提案における課題認識がなされたことへの対応であると理解している。
 市場ワーキング・グループでの議論を振り返ると、お客さまにとって最善の金融商品を提供するために、お客さまの立場に立った形での商品提案が極めて重要であり、各金融機関が不断の努力で取り組むべきことであるとの思いを改めて強くするところである。
 現在の準備状況だが、会員行において、商品提供主体である証券・保険業界とも連携しながら、お客さまへの説明方法や業務フローの見直し、システム改築等に注力しており、今年の初めから段階的に導入することを目指している。
 「顧客本位の業務運営に関する原則」の策定後3年が経過し、各金融機関での取組方針や取組成果の公表を行うなど、顧客本位の業務運営に係る取組みの見える化も進捗していると思う。さらに今般の「重要情報シート」の導入を通じ、商品のリスクや手数料等の重要項目について、分かりやすく比較を行いながら情報提供を行うことによって、「顧客本位の業務運営」のさらなる改善に繋げ、会員行が真に顧客利便性の高い金融サービスを提供すべく、銀行界としてもしっかりと取り組んでいきたい。

別添資料:三毛会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)