2021年6月17日

三毛会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 幹事社から3点伺う。
 1点目は、みずほ銀行のシステム障害について、第三者委員会の報告書でITガバナンスの欠如という課題が指摘された。金融のデジタル化が進んでいくなかで、各行にとっても大事な視点かと思う。この点、会長の見解を伺いたい。
 2点目は、融資と預金という銀行にとっての本業のビジネスモデルが苦しいなか、非銀行ビジネスを伸ばしていく必要があると考えるが、銀行界として、規制緩和などをどのように活用して、銀行界の収益力の強化につなげていくべきと考えているのか伺いたい。
 3点目は、今回が最後の会見になると思うが、この1年間の振返りと総括をお願いしたい。
(答)
 最初にITガバナンスに関する考え方についてお答えする。
 みずほ銀行において本年2月から3月にかけて発生した一連のシステム障害について、6月15日付で、みずほフィナンシャルグループが設置した「システム障害特別調査委員会」の報告書が公表され、同日付でみずほフィナンシャルグループならびにみずほ銀行が再発防止策等を発表したことは認識している。本件の内容等については、個別行の事案であり、この点について全銀協会長としてコメントすることは控えるべきであるが、ITガバナンスの重要性についてのご質問なので、少しコメントさせていただく。
 まず、みずほフィナンシャルグループの今回の「システム障害特別調査委員会」の指摘についてであるが、今回公表された報告書において、2月から3月に起こった4件それぞれのシステム障害の内容や原因、システム復旧、顧客対応状況等が報告されるとともに、一連の障害の原因として3点、一つ目は「危機事象に対応する組織力」、二つ目は「ITシステム統制力」、三つ目は「顧客目線」という課題が存在し、さらにこの3点の課題の根底に、「企業風土」という課題が認められると総括されている。ご質問のITガバナンスは、報告書においては二つ目の「ITシステム統制力」に含まれるが、それ以外の項目にも関連してくると考える。
 この報告書を受けて、みずほフィナンシャルグループでは、「多層的な障害対応力の向上」に向けて、「システム」と「顧客対応・危機管理」の両面から各種再発防止に取り組むとともに、多層的な障害対応力を実効的なものにし、「システム」や「顧客対応・危機管理」の課題に通底する組織全体の根本課題を本質的に解決していく観点から、「人と組織の持続的強化」にも取り組むとしている。
 さらに、今回策定した再発防止策の実効性と継続性を確保する観点から、監督・執行それぞれの立場で委員会を設置し、定期的なフォローアップを実施していくとしている。
 ご指摘のITガバナンスについてだが、デジタル化の進展に伴い、お客さまとのサービス提供時の接点にもなるIT活用の重要性が高まっており、また、同時に安心・安全な金融サービスを安定的に提供していくためにも、システムはその土台となることから、適切なガバナンス体制を構築することは金融機関にとって極めて重要であり、かつその重要性はますます高まっている。
 経営陣のリーダーシップの下、経営戦略、事業戦略としっかり連携したIT戦略を立案し、その実現のため、システム部門のみに依拠せず全行的な連動を可能とする組織体制を構築し、ヒト・モノ・カネといったリソースの最適な配分を行い、システムの運営や危機管理、リスク管理を支えるITマネジメントの体制構築と、その安定的な運用を実現することが必要である。加えて、現状に満足することなく、新技術活用によるイノベーションの取組み等も通じた企業価値の創出を進めていくためにも、さらに強固なITガバナンスを実現することも重要である。
 そうした意味で、会員各行は、今回の再発防止策や調査報告書の提言内容も一つの参考にしながら、経営陣が先頭に立ち、お客さまにより安心・安全、かつ利便性の高いサービスを安定的に提供し、社会インフラとしての使命を果たしていく不断の努力を続けていく必要があるのではないかと考えている。
 二つ目は、現行の預貸ビジネスが厳しくなるなかで、今回の業務範囲規制の緩和をどのように活用していくのかという質問だが、先月26日に公布された改正銀行法には、銀行が創意工夫を凝らし、さまざまなサービス提供が可能となるよう業務範囲規制を大胆に緩和する内容が盛り込まれた。これは、昨年来、金融審議会の場などで申しあげてきた、ポストコロナ/ウィズコロナ時代の社会課題の解決に銀行界として一層貢献していきたいという、銀行界の思いを受け止めていただいた結果であり、社会からの高い期待にも身の引き締まる思いである。
 構造的な民間部門の資金余剰や長期化する超低金利環境のなかで、伝統的な預貸ビジネスのみでは、銀行経営は立ち行かなくなってきている。加えて、お客さまのニーズも高度化・多様化しており、預貸等の従来のビジネス領域を超えたサービスやアドバイスを提供していくことが求められている。
 今回の改正により、銀行業高度化等会社において、デジタル化や地方創生、持続可能な社会の構築に資する業務が幅広く可能となるほか、一部認可基準も緩和される。また、銀行本体の付随業務の拡大や従属業務子会社の収入依存度規制の数値基準撤廃、投資専門会社を経由した出資要件の拡大、さらには外国金融機関の買収時の業務範囲制約も緩和される。
 すでに地方銀行がハブとなり、商品やサービスを地域外にも幅広く展開していく地域商社の運営といった、地域経済活性化に向けた具体的な動きも進んできているが、今後は、例えば保有する情報を活用し、利用者ニーズに合ったさまざまな商品サービスをマッチングする広告事業や、ITシステムや顧客向けアプリを幅広く外販していくビジネス、人材のミスマッチ解消のために行う登録型の人材派遣業務を行うことも可能になる。また、再生・承継ステージの企業やベンチャー会社への出資も併せたサポートなど、さまざまな可能性が広がってくる。
 すなわち、従来の金融領域に加え、ヒト、モノ、情報といった銀行グループが従来から保有するリソースを総動員し、お客さまの生産性向上に資するサービスを一気通貫に提供することが可能となったものである。
 改正銀行法は、遅くとも本年11月には施行される見込みである。お客さまや社会の課題解決への貢献と、銀行グループ自身の持続可能なビジネスモデルの確立のため、各行がスピード感を持って、知恵を絞り、こうした改正のメリットを活かしていくことが必要と考える。
 3点目は、在任期間中の振り返りであるが、1年3か月の間、全銀協会長という大役を務めさせていただいた。3月の会見で昨年度の活動について話したが、その後の状況も含めて説明する。
 まず、最優先に取り組んできた新型コロナウイルス感染症拡大への対応については、足元、緊急事態宣言がようやく沖縄を除いて6月20日の解除が諮問されるところであるが、引き続き10都道府県にまん延防止等重点措置の適用が見込まれている。特に厳しい状況にあるお客さまの資金支援については、引き続き最優先で取り組んでいる。
 また、昨年4月の会長就任時に、この1年を「イノベーションに取り組み、持続的成長と社会課題解決に貢献する1年」と位置付け、三つの柱を掲げて活動してきた。
 第1の柱、「金融サービスの提供を通じた経済・社会課題解決への貢献」では、高齢者対応における取引等の考え方を取りまとめ、また、気候変動への対応についても機会を捉えて発信してきた。気候変動は、先のG7の主要テーマの一つにもなったが、今年はCOP26を控え、わが国でもさまざまなルールメークが検討されており、中長期にわたる大きなテーマとして、銀行界としても引き続き積極的に議論に参加していく必要があると考えている。
 第2の柱、「デジタル時代の「安心」「安全」「便利」な金融・社会インフラの実現」では、全銀システムへのノンバンク接続や、小口決済インフラ構想に関する方針を決定した。銀行間手数料については、新たに「内国為替制度運営費」を創設して、その水準も引き下げることを決定し、本年10月の導入開始に向け、各行がそれぞれの手数料戦略の検討を行っている段階と認識している。手形・小切手機能の電子化では、2026年度中の全面電子化の方針を決定し、この夏の自主行動計画策定に向け検討を進めている。また、QRコードを活用した税・公金の収納・支払の効率化も、関係各位の協力の下、早期実現の方向にある。
 一方で、さまざまな事案もあったが、資金移動業者との口座連携に関わる不正出金事案については、これを契機にガイドラインを制定し、さらに5月には資金移動業者と銀行の間の口座連携に係る覚書の条文例を取りまとめた。改めて、安心・安全の重要性を強く意識し対処しつつ、利便性向上、社会的費用の低減にも貢献するという難しい課題への取組みであったが、着実に前進できたと思っている。
 金融審議会の関連では、銀行の業務範囲規制の緩和が実現される見通しとなり、また、銀証ファイアーウォール規制に関しては、海外法人顧客を非公開情報の授受規制の対象外とする方向感が示されたことに続き、第2段階の報告書では、上場企業とそのグループ会社を対象にした新たなオプトアウトへの移行や、ホームベース・ルール撤廃等が盛り込まれた。金融資本市場の活性化に資するファイアーウォール規制の見直し論議を、大きく前進させることができたと考えている。
 第3の柱、「金融システムの健全性・信頼性の更なる向上」についても、国際金融規制の意見発信等、さまざまな施策に取り組んできたが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期となった金融活動作業部会(FATF)第4次対日相互審査の結果の公表や、2021年末に迫る日本円LIBOR廃止への確実な対応は、引き続き重要な課題である。
 このようななかで、来月から三井住友銀行の髙島頭取にバトンを引き継ぐことになるが、資金支援をはじめとして銀行界の重要課題は多岐にわたるため、個別行としても引き続きしっかりとサポートして参りたい。


(問)
 先ほどの発言にもあったが、改めて足元の資金繰り支援の状況と、企業の財務や資金繰りの状況についてどのようにみているかについて教えていただきたい。また、本日、東京などに発令されていた緊急事態宣言の解除が決定の見通しとなったが、引き続き飲食店などでは営業時間の短縮など制限が続く見通しである。それらが経済等に与える影響についてどうみているか、併せて教えていただきたい。
(答)
 新型コロナウイルス感染症との戦いから1年以上が経過したわけだが、感染力が高いとされている変異株も拡がっており、感染者数を抑えるために感染拡大防止措置の継続に至っている。感染を封じ込め、かつワクチン接種の推進によって一日も早く安全・安心な日常を取り戻すため、政府、国民が一丸となって取り組んでいる状況である。
 そうしたなか、6月10日に金融庁から再度の要請もいただいているが、銀行界では、一貫して資金繰り支援を最優先課題として対応しており、お客さまへの支援では、リスケ等の柔軟な対応を含めた流動性資金の提供、資本性ローン等も含めた財務健全性の強化、ポストコロナ/ウィズコロナ時代に適応するための事業転換への支援、この三つの領域でニーズに沿った貢献をしていくことが重要であると考え、会員各行において知恵を絞りながら取り組んでいる。
 また、日本銀行においても新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペなど、各種資金供給策が措置されており、これらも活用させていただきながら資金支援に当たっている。
 足元の貸出について全体の計数を申しあげると、5月末の全国銀行の貸出残高は534兆円、前年同月比ではプラス0.5%の増加、一方、前月比ではマイナス0.9兆円と減少している。
 また、実質無利子・無担保融資に関しては、民間の制度は5月末で終了となったが、融資決定件数が累計約64万件、融資決定金額が累計約12兆4,000億円となった。政府系金融機関による実質無利子・無担保融資は、申請期限が本年6月末から12月末まで延長することが決定されており、政策的サポートについては心強いものと捉えている。
 企業の財務、資金繰りということであるが、まず企業業績をみていくと、金融業を除く本邦企業の経常利益は、昨年4-6月期に世界金融危機時以来の落込みをみせ、それ以降は回復基調にあり、この1-3月期は全体では8四半期ぶりに前年比プラスとなった。
 ただし、その中身をみると、製造業では機械等の一部セクターが牽引するかたちで収益回復が続き、1-3月期では1985年以降2番目に高水準となる収益をあげている一方で、非製造業では宿泊・飲食サービス業が5四半期連続で赤字となるなど、依然厳しい経営環境にあり、ワクチン普及によって対面サービスの持直しが期待される。
 こうした環境下の企業の資金繰りについて、銀行界全体の貸出の伸びからみると、4月末が前年同期比でプラス2.6%、5月末では同じくプラス0.5%となっており、前年同期比プラス6%程度での推移が続いていた昨年に比べると伸び率が鈍化しており、昨年4月以降の資金繰り支援によって、多くの業態に資金が行き渡ったのではないかと捉えている。
 ただ、長期化する感染拡大の防止措置により、飲食・宿泊事業者をはじめとした対面サービス業種や、あるいはこれらへ食材を納入する卸売市場関係事業者などにおいても、リスケ等の資金支援を下支えに業績回復に向け努力されている事業者も依然多く、事業者からの資金繰り相談への丁寧な対応などの、きめ細かな資金支援を継続することが現段階においても金融機関に求められる最も重要な責務と考えている。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、政府の成長戦略のなかで、資金繰り支援の一方で、今、過剰債務に悩む企業が増えているなか、銀行界、金融界に中小企業版の私的整理ガイドラインの策定を求める声があがってきている。これに対する全銀協の対応と、成長戦略のなかに国もこの動きをサポートするとあったが、全銀協として国に求める対応について伺いたい。
 2点目はマーケットについて。本日未明、連邦準備理事会(FRB)が2023年の利上げ見通しを早める動きに言及している。これについて、今後のマーケットの動きと銀行界に与える影響、現在の所見を伺いたい。
(答)
 1点目の中小企業版の私的整理ガイドラインに関する全銀協としての受止めと対応だが、6月2日に示された成長戦略実行計画案において、中小企業の事業再構築、事業再生の環境整備に関して、「中小企業の実態を踏まえた私的整理等のガイドラインの策定について検討する」との記載が盛り込まれたことは承知している。先ほどの資金繰りのご質問でも申しあげたとおり、お客さまへの支援に関しては、リスケ等の柔軟な対応を含めた流動性資金の提供、資本性ローンを活用した財務健全性の強化、そしてポストコロナ/ウィズコロナ時代に適応するための事業展開の支援といった三つの領域で貢献していくことが重要である。
 このようななかで、例えば銀行貸出については新型コロナウイルス感染症の発生前の2019年12月末と2021年5月末とを比較すると27兆円増加しているのに対し、銀行預金は104兆円増加しており、マクロで見ると、現在は必ずしも過剰債務と言える状況にはないとも捉えられる。
 他方で、いわゆるK字型の回復とも言われているように、コロナ禍において債務が膨らんでいる業種あるいは企業も増えており、こうしたことが事業継続や事業転換の足かせになるのであれば、お客さまそれぞれの事情を丁寧に伺いながら、かかる状況に応じた親身な対応を検討していくことも必要であろう。
 また、過去の教訓として、経済危機からの回復に際して過剰債務が足かせの一つになったことを踏まえると、現在注力している資金繰り支援においても、お客さまの立場から将来的に過剰債務が発生しないかという観点での検討も必要ではないかと考える。
 国に求めたい具体的な対応についてのご質問であるが、コロナ禍で傷んだ産業や経済をどのようにスピード感を持って復活させていくかという点を主眼において、現在、政府ですでに措置されている地域経済活性化支援機構(REVIC)、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会といった政府の既存の枠組みとの関係も含めた、真に苦しんでおられる事業者の再生につながる骨太な議論が同時に必要だろう。
 いずれにしても、足元は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための緊急事態宣言やそれに伴う国民の制限のある生活等への協力、政府・国民が一丸となったワクチン接種の推進により、安心・安全な日常を取り戻すべく努力している状況である。事業者の皆さまにおかれても、新型コロナウイルス感染症との戦いを継続しているさなかにある。このような状況下で事業者からの資金繰り相談への丁寧な対応など、きめ細かな資金支援を継続することが、銀行界に対し、政府・政府系金融機関と共に求められている最優先の責務である。引き続き、その責務を果たすことに変わりはない。
 2点目の質問だが、昨日まで開催されていた連邦公開市場委員会(FOMC)において、FRBは現行の金融政策に関し、政策金利については現状維持とすることを決定する一方で、「ワクチン接種の進展が米国での新型コロナウイルス感染症拡大を減少させた」と、ワクチン効果の認識を上方修正し、資産購入の縮小については、会合後の記者会見で、パウエル議長としては初めて「将来議論することについて議論した」と言及した。
 また、FOMC参加者による見通しでは、2022年、2023年とも政策金利見通しの上方シフトが目立ち、特に2023年では中央値で2回の利上げを見込むかたちとなっている。米国では、雇用に関して、コロナ禍前の水準からは依然距離があるとはいえ、ワクチン接種進展と公衆衛生措置の緩和に応じて、今後も着実に回復基調をたどると見込まれている。
 また、インフレ率は、前年に落ち込んだ反動や財市場での需給の引き締まり、商品市況の上昇により、当面、前年比高めの水準での推移が続き、来年以降も2%の目標水準を上回って推移する可能性がある。こうしたことが、パウエル議長の資産購入縮小議論への言及や、2023年の政策金利見通しの上方修正につながったものとみられる。
 2023年の利上げ見通しが当初の市場参加者の想定よりも早いペースであったため、FOMCの後に長期金利上昇が生じたと考えている。もっとも、市場参加者の間では一定のペースでの金融政策正常化はすでに織り込まれていたことから、金融市場の反応は限定的であったとも言えよう。先行きについては、物価上昇が広範な財やサービスで波及し、インフレがさらに加速する、あるいは雇用が想定以上に早いスピードで回復するといった場合に、利上げの時期が前倒しされるとの見方が強まると、金利上昇の起点にもなり得ると考える。
 このような市場環境の変化に伴う金融機関、特に市場部門に与える影響ということであるが、各社によって状況が異なるので、一般論としてお答えすると、大きく二つの経路で影響が波及する可能性が考えられる。
 一つ目は、長期金利上昇による損益への影響である。これまでも会見のなかで説明してきたが、外債投資に対する影響として、長期金利上昇に伴う長短金利差拡大により、投資利回りが改善する一方、評価損益が悪化するといったことが懸念される。これに伴って、これまで低金利の円ではなく外債での運用を増やしてきた金融機関では、ヘッジ操作などの評価損益悪化への対応を検討するところもあるだろう。
 他方で、金利上昇に伴い長短金利差が拡大すると、市場部門以外では、預貸利鞘拡大も期待され、景気回復局面における銀行ビジネス全体へのプラス影響も想定されるところである。
 二つ目は、資産価格への影響である。過剰流動性の巻き戻しが起こると、その影響として、株式やクレジット資産が下落しやすくなることで、これまで上昇相場で収益を計上してきた金融機関は、リスク性資産に対する運営方針の見直しが必要となる可能性がある。
 他方で、資産価格の下落によって、与信先のバランスシートが痛むと、信用供与姿勢にも変化が出てくるなどの影響が生じてくる可能性がある。いずれにしても、引き続き金利動向、米国経済政策の動向、連邦準備制度(FED)高官の発言などに注視し、金融政策の変化を適切に捉えながら市場操作を行うとともに、銀行ビジネス全般への影響を注視していくことが重要である。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、非財務情報についてであるが、ESG投資の広がりを受けて、非財務情報の開示を充実させる機運がグローバルで高まっていると思う。さまざまな開示基準の統一化などが論点の一つにあがっていると思うが、邦銀としての立場からこれらの議論に期待することと、開示の充実に向けた取組みについて伺いたい。
 2点目は、冒頭のお話にもあったが、税・公金収納の効率化等に関する話で、総務省が2023年度の課税分から地方税の納付にQRコードを活用する方針を固めた。これを踏まえて、6月までに納付書に印刷する全国統一のQRコード規格を定める方針だが、2023年に向けた銀行界の計画、足元の動きを教えていただきたい。併せて、地方の中小金融機関も含めて全ての銀行で対応できるのかについても伺いたい。
(答)
 まず、ご質問のうち、非財務情報の開示基準の統一についての取組み、期待についてお答えする。企業の非財務、いわゆるサステナビリティ情報開示に関しては、先日公表されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議の声明でも、特に気候変動関連情報の開示の重要性、そのあり方について謳われており、国際的にも議論が加速していると承知している。足元では、銀行に対しても機関投資家を中心に環境問題の解決に資する取組みの効果等について、より客観的な説明が求められており、これらの声にお応えできるよう、全銀協はグローバルにも広くコンセンサスを得ている気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言にもとづいた開示を積極的に行うよう、会員行に推奨し、意識醸成および取組みを後押しするための活動を積極的に行っている。
 例えば、国内外の銀行のベストプラクティスを調査し、開示推奨項目ごとに対応のポイントや留意事項を取りまとめた報告書を作成する、あるいは地銀も含めた全会員行向けに関係省庁や有識者をお招きし、TCFDへの賛同を目的とした説明会を開催するなど、情報提供を通じ、会員行の開示充実に向けた取組みをサポートしている。
 一方で、この開示基準の統一化だが、現在、サステナビリティ情報開示に関しては、TCFD以外にも多くの基準や枠組みが存在しており、海外でもさまざまな考え方が存在するのが実態である。例えば、欧州では一定規模以上の企業に対する開示を要件化したり、開示項目としてEUが定義するグリーンな資産の保有割合が提案されていたりするほか、米国でもバイデン政権の下、企業の開示基準を見直す方向で議論が進んでいる。これらの動きは、法域ごとに異なる開示基準が策定されるといった懸念があるため、全銀協としては、グローバルに調和された、透明かつ比較可能性の高い開示枠組みを目指すべきと主張している。この点、金融庁が主催する「サスティナブルファイナンス有識者会議」で取りまとめられた報告書においても、比較可能で整合性の取れた開示の枠組みの必要性について盛り込まれており、全銀協としても、IFRS財団がグローバルに統一された開示の枠組みを整備するための検討を始めているということは歓迎したい。
 議論への期待であるが、本邦企業への適用の要件形式等については、真に開示の充実化につながるかについて慎重な検討が必要である。最も重要なことは、何を開示するのか、いわゆる情報の質にあり、今後どのように客観性、比較可能性を担保できるかが課題であると理解している。
 加えて、銀行の立場では、開示はお客さまとのエンゲージメントを高めるうえでの出発点である。すなわちお客さまの開示と銀行自身の開示を充実させることは依存関係にあり、双方の取組みが鍵となってくると思う。このような状況を踏まえ、積極的に国内外の議論に参画するとともに、本邦においても投資家を含むステークホルダーが求める情報を、多くの銀行がそれぞれのステージにおいて積極的に開示できるよう、全銀協としても取組みを促して参りたい。
 次に、二つ目の税・公金収納の効率化、QRコードに関する質問についてお答えする。全銀協では、2020年度の「税・公金収納の効率化等に関する勉強会調査レポート」を取りまとめ、公表している。納付書へのQRコードの導入をはじめとした税・公金収納の効率化は、納税者の利便性向上に加え、自治体、金融機関の業務のデジタル化推進、効率化実現にも資するものとして、業界をあげて積極的に取り組んできた経緯にある。
 こうしたなか、本年2月16日の政府規制改革推進会議の第8回投資等ワーキング・グループにおいて、紙の納付書へのQRコードの導入について、「より早期に実現すべきである」と賛同をいただき、6月1日には「規制改革推進に関する答申」において、地方税用QRコードの統一規格を取りまとめて2021年上期に公表すること、2023年度課税分から地方税用QRコードの活用を開始できるよう措置すること、の2点が示され、総務省の旗振りのもと、検討が加速している。
 足元では、総務省と共同で設置した「地方税におけるQRコードに係る検討会」において、自治体、事業者ベンダーにも参画いただき、社会インフラとして利用可能なQRコードの規格について、6月中を目途に定める予定である。
 また、金融機関から自治体への紙の送付を廃止し、データにより納付情報を還元できるよう、全ての自治体が接続しているeLTAXをハブとしたスキームの検討も並行して進めている。金融機関側の接続は、窓口収納においてはマルチペイメントネットワーク、スマホ決済においては「ことら」を活用する案について、現在フィージビリティを検討しているところである。
 全銀協としては、総務省をはじめとする関係者とともに、これら共通のプラットフォームに関わる企画やスキームを可能な限り早期に定め、全国の自治体、地方の中小金融機関も含めて、全ての金融機関が2023年から対応を開始できることを目指して環境整備を進めていく考えである。引き続き、政府、関係団体にもご理解をいただきながら、お力添えをいただき、確実な実現に向けてしっかりと歩みを進めていく所存である。


(問)
 銀行決算について伺いたい。貸出を上回るペースで預金が増えたり、与信費用がかなり膨らんで重荷となっていたりというようなかたちで、各行は厳しい決算であったが、コロナ禍のなかでの銀行決算についてどのように見ているか、その総括を伺いたい。
 また、FATFの第4次対日相互審査結果が夏ごろには公表されるのではないかという見通しになっている。足元での日本におけるマネロン対策やテロ資金供与対策についての状況について伺いたい。そのうえで、銀行界の今年度の重点課題としてどのような取組みを進めていくのか、見解を伺いたい。
(答)
 まず、2020年度の銀行決算についてお答えする。メガバンクにおいては海外収益の増加、地銀においては積極的な資金繰り支援による貸出増が資金収益の拡大につながったほか、株式関係損益が大きく増加したことで、コロナ禍の影響を一部カバーした面もあったが、業態を問わず、多額の与信費用を計上したことが影響し、昨年度と同様に厳しい決算になったと受け止めている。
 与信費用については、官民をあげた資金繰り支援策の効果等によって企業倒産が低水準で推移したこともあり、第3四半期までは比較的抑えられていたが、予防的な引当を含め、第4四半期に多額の計上を行ったことで、結果的に期初の通期予想や昨年度の実績を上回る水準に膨らんだ。
 預貸金の大幅な拡大というのも2020年度決算の大きな特徴であったかと思う。企業への資金繰り支援を積極的に行った結果、全国銀行の貸出残高は足元でも過去最高の水準にある一方で、預金は企業が手元流動性を厚めに確保したことや、政府による持続化給付金や各種助成金の還流等により、貸出を上回るペースで拡大した。預貸率も足元60%程度まで落ち込み、利鞘の縮小傾向も続くなかで、国内の預貸ビジネスの収益性の低下が継続している。
 今後については、ワクチン接種の進展に伴い経済全体の回復が期待される一方で、業種や地域、また、個々の企業によってはなおも厳しい状況が継続する、いわゆるK字型の経済回復が予想されることから、与信費用や業績全体への影響も含め、感染状況、経済の動向、これらについては注視して参りたい。そうしたなかで、銀行界としては資金繰り支援を中心とした事業者への支援に引き続き最優先で注力して参りたい。
 次に、FATFについてのご質問だが、FATFの第4次対日相互審査について討議するFATFの全体会合の開催が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、当初の昨年6月から3度の延期を経て、本年6月下旬に予定されている。その結果の公表は夏ごろとなる見通しであると認識している。
 そうしたなかで、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止に関わる態勢整備は、FATFの審議結果の時期によらず、引き続き取り組んでいることに変わりはなく、法制度の整備と対策の実効性の向上に向けて今後も官民が連携し、より一層の改善に取り組む必要がある。
 銀行界の取組みについて申しあげると、金融庁は、2018年2月に制定した「マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策に関するガイドライン」を本年2月に改正し、ガイドラインで対応を求めている事項への対応完了期限を2024年3月に設定し、態勢を整備することを、各業態団体を通じて各事業者に要請している。全銀協の会員行も、金融庁の要請を踏まえた態勢整備に取り組んでいると認識している。
 こうしたマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止策に対する態勢整備のなかで、とりわけ顧客への影響が大きく、対応が求められる中核的な項目は、KYCに関するものである。そのなかでも特に「継続的な顧客管理」については、すべてのお客さまのKYC情報の更新に相応の時間を要するため、リスクベース・アプローチの考え方にもとづいて、お客さまのリスクやそれぞれの業務実態を踏まえながら、各行は取組みを継続している。
 全銀協としてもこうした取組みをサポートし、お客さまにもKYCの重要性についてご理解をいただくべく、新聞広告やテレビCMといったマス広報活動を継続的に実施しており、今年度もテレビCMの動画を店舗ロビーで放映するなど、さまざまな媒体での継続的な広報活動を地道に続けており、こうしたことを通してお客さまの理解を広げていきたいと考えている。
 加えて、全銀協は2020年度、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「規制の精緻化に向けたデジタル技術開発の実証実験事業」に参画をした。NEDOとの守秘義務の関係で詳しくは申しあげられないが、実証実験ではAI等の先端技術を活用した高度なシステムの共同化が、効率的かつ実効的なマネー・ローンダリング対策の実現に有効かを検証するとともに、その実現に必要な規制の精緻化や課題について調査研究を行った。
 なかでも、システム化に必要なAIを活用した取引モニタリングやフィルタリングについては、その有効性が確認され、将来的な業務の効率化の可能性を見いだすことができたのではないかと受け止めている。
 今年度は実用化に向けた最初のフェーズとして、AI共同システムに期待されるサービス内容や、共同化する場合の運営組織のあり方などの課題について、タスクフォースを設置して整理を進める予定である。また、並行して実効性のある継続的顧客管理およびリスクベースの取引モニタリングのあり方など、将来のAML高度化に資するテーマの研究も進めていく予定である。
 引き続き、FATFの審査結果の時期、その内容によらず、わが国のマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止策に対する態勢の一層の高度化に向けて、関係当局ともしっかりと連携しながら取り組んで参りたい。


(問)
 2点伺いたい。1点目は暗号資産について、銀行界としてどうご覧になっているか、銀行界としての距離感を教えてほしい。もう一つが日本銀行の新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペについて、9月末で期限を迎えるが、銀行界としてこの延長を望むのか望まないのか、その理由と、もし望まれる場合はどのぐらい延長してほしいかについて教えてほしい。
(答)
 暗号資産はいろいろあるが、代表的なものにビットコインがある。2020年以降本年4月にかけて最高値を更新する、あるいは米国の暗号資産交換業者が時価総額8兆円規模で大型上場を果たす、あるいは足元ではこのビットコインを法定通貨にするという国が登場するなど、今年に入り、関連するマーケットは、非常に活況が伺える事例が相次いでいる。こうしたことも背景に、一部の金融機関が暗号資産関連ビジネスに参入し始めていると認識している。
 特に米国では、大手行が暗号資産の資産管理サービスの立上げを表明したほか、暗号資産のトレーディング事業への参入も表明している。こうした事例は、機関投資家の間で暗号資産の運用需要が高まるとの見通しから、米銀はこの分野にビジネスチャンスを見いだして、顧客ニーズに対するサービス、あるいはソリューションを提供しようということで参入していったものと理解している。
 ただ、その一方で、法定通貨を裏付けとするステーブルコインを除くと、多くの暗号資産は、金や株式とは異なり、裏付けとなる資産がないため、投資家の需給のみにもとづいて価格が乱高下する。冒頭に申しあげたビットコインが4月に最高値を付けた後に、著名な実業家の発言などによって1か月あまりで半値まで下がるという事態も起こっている。
 こうした過度な投機的な側面を受けて、各国の金融当局も規制強化の動きを見せている。欧州中央銀行総裁や、これまで比較的イノベーション促進の観点から過度な規制強化には慎重だった米国の規制当局のトップらが、相次いで規制強化の必要性に言及しているほか、中国では5月に暗号資産の価格の乱高下が金融システムに悪影響を与えかねないということで関連業務を禁止する通知を出している。加えて、足元、6月10日には、バーゼル銀行監督委員会も暗号資産の保有を規制し、暗号資産を二つのグループに区分したうえで、ビットコインなどの裏付けとなる資産を持たない暗号資産のリスク・ウエイトを1,250%とする案を公表している。
 本邦の状況を見ると、2017年施行の改正資金決済法により、暗号資産交換業者に登録制が導入されたが、その後に発生した不正流出事案なども受けて、取り扱う暗号資産の事前届け出や分別管理が義務化される等、制度的な枠組みがここ数年にわたって整備されてきている。
 一方で、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」では、暗号資産については価格変動やAMLに関するリスク、それらが顕在化した場合のレピュテーショナル・リスク等を勘案すると、銀行グループは「取得を必要最小限度」とし、「銀行の固有業務の運営への支障や重大な損害等が生じる恐れがないよう、十分な態勢整備が必要」とされている。
 こうした点を総合的に勘案すると、もちろん各行の事業戦略にもとづく判断にはなるが、邦銀が暗号資産関連ビジネスに参入する際には、想定外のリスク、損失が発生し得るということも念頭に、そのリスクを十分に検証したうえで慎重に参入を検討する必要があるのではないかと思う。
 ただ、その一方で、例えば旧リブラ、現在はディエムと呼ばれているが、ドルなどの法定通貨を裏付けとして価格変動を抑えたステーブルコインの構想にみられるように、社会利便の向上を目指し、世界中でさまざまな検討が進んでいることも事実である。従って、将来にわたって慎重一辺倒に終始するのではなく、こうした動向もしっかりフォローしながら、各行が事業戦略のなかで暗号資産への取組みを考えていくことが重要であろう。
 二つ目の日本銀行の新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペについては、本日・明日で開催される日本銀行の金融政策決定会合において、現在9月末とされている「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」の期限が延長されるだろうと多くのエコノミストが予想しているとの報道があることは承知している。金融政策は日本銀行の専管事項であるので、この特別プログラムの延長等について全銀協会長としてコメントすることは適切ではないが、この特別オペを利用させていただいている立場でもあるので、個人としての見解を可能な範囲でお答えする。
 この特別プログラムは昨年3月以降、日本銀行が講じてきた金融市場の安定維持や円滑な企業金融の確保に向けたさまざまな措置の柱の一つであり、企業の資金繰りの大きな支えになってきたと思う。もともと今年の3月末の実施期限であったものが、昨年末の決定会合によってこの9月まで延長されたところであり、直近5月の金融機関による利用残高は69兆円にまで達している。
 先ほど申しあげたように、企業の資金繰りに関しては、全国銀行の貸出しの残高の伸びは鈍化しており、多くの業態に資金が行き渡ったものと捉えているが、飲食・宿泊をはじめとした対面サービスを中心に、業種や地域、個々の企業によっては、なおも厳しい状況が継続している。きめ細かな資金支援の継続が引き続き最優先課題ということに変わりはないわけである。
 こうした状況を踏まえると、仮に、こうした当該特別プログラムの延長を予想する声も多いなか、実施期限である9月末にかけて感染状況、あるいはわが国経済と企業の業況、資金繰りの状況に鑑みて、延長が必要と判断され、適切な期限までさらに延長措置がとられるとすれば、今後も資金繰り支援を行っていくなかでは、非常に心強いことと考えている。そうしたことも踏まえて、適切に銀行界としては資金供給の責任を果たして参りたい。


(問)
 LIBORからの移行問題について伺いたい。少し前に金融庁と日本銀行が調査結果を公表したが、貸出などの運用における残高が前回の調査から若干増え、必ずしも数字上は移行に向けて大きく前進したようには見えなかった。日本銀行の雨宮副総裁も迅速な移行を促すような発言をされたが、銀行界として、取組みに遅れはないのか。
(答)
 今年の3月5日にLIBOR運営機関であるIBA、それから英国の金融行為規制機構(FCA)から日本円を含む4通貨と、米ドルの一部のテナーの2021年末公表停止が正式に決定をされ、いよいよLIBORからの移行完了まで残り半年強となった。
 5月19日に公表された金融庁、日本銀行による第2回LIBOR利用状況調査の結果であるが、ご指摘のとおり前回調査よりも残高が増えるなど、数字からは進捗が見えにくい結果となっており、その受止めについて説明する。
 まず、先般公表された利用状況調査は昨年12月末時点のものである。その後、2021年末のLIBOR公表停止確定や、ターム物リスク・フリー・レート(TORF)の確定値公表開始といった国内外の制度・インフラ等の環境整備が進んだことに加え、各行のシステム対応が完了し、お客さまへの説明も進捗するなど、その後、半年弱が経過するなかでLIBORを取り巻く状況は大きく進展していると捉えている。それらを踏まえると、調査時点からは移行対応は着実に進んでいるといえるのではないか。
 昨年策定した移行計画のロードマップにおいても、LIBOR参照取引の顕著な削減を目標としている本年9月末に向けて、まさにこれから移行のピークが到来することを想定しており、調査結果は真摯に受け止める必要があるものの、昨年12月末時点としては想定の範囲の内容とみることもできるのではないかと思う。
 本年4月以降、TORF確定値の公表が開始されたことにより、候補となる代替金利指標がすべて出そろったことから、お客さまと移行について本格的に協議できる環境が整ったと認識しており、契約当事者間の協議をより一層加速させていくことが重要になってきている。
 銀行界の取組みに遅れはないかというご質問であるが、本年12月末の移行完了に向けて、足元だと6月末の日本円LIBOR新規貸出停止に特段の問題はないと認識しており、9月末の顕著な削減という最重要のマイルストーンに向けても、現時点において重大な遅れが生じている状況ではないと認識をしている。
 昨年末以来、各金融機関がお客さまとの協議を進めてきたことは、これまでの会見でも申しあげたとおりであり、現在、当事者間で契約変更手続やシステム移行のタイミングについて協議を進めている段階である。9月末のLIBOR参照取引の顕著な削減に向けて、これからの3か月強、移行手続を集中的に取り組んでいく予定である。
 全銀協では残り6か月あまり、統一的な顧客説明資料の適時のアップデート、当局・日本円金利指標に関する検討委員会との連携による本邦移行計画推進に加えて、傘下の検討部会でのタイムリーな情報発信を通じた会員行の移行対応サポートを実施して参る。


(問)
 気候変動について、銀行が投融資先の事業リスクを評価する際の課題と対応策について伺いたい。
(答)
 銀行はお客さまの温室効果ガス削減などの環境問題の解決に資する取組みを金融面から支えることを通じて、日本のカーボンニュートラル実現に貢献する重要な役割を担っている。銀行はお客さまの資金を預金としてお預かりし、運用する立場にもあり、加えて資金決済などの金融システムにおいて重要な役割を担っていることも踏まえると、健全性を十分に確保しつつ、これに貢献することが重要である。
 日々の銀行業務において、リスク管理は重要な柱の一つであり、これまでも融資判断において事業の将来性とリスクを見極めるため、ガバナンス態勢強化や人材の育成に努めてきたところであるが、気候変動に伴うリスクは、これまでの管理の枠組みでは十分に捕捉できない可能性が指摘されている。
 一般的に気候変動リスクは、洪水や台風などの自然災害や異常気象の増加によってもたらされる物理的な被害を指す「物理的リスク」と、気候変動対策のための政策変更、規制強化、技術革新、消費者のセンチメント等、低炭素社会への移行によって引き起こされる「移行リスク」の2種類に分類される。
 「移行リスク」の例としては、例えば、低炭素社会への変化に順応できず、既存の商品やサービスの需要減少等により事業継続が困難になるといった最悪のシナリオもあり得る。こうした事象が発生すれば、お客さまの借入れが返済困難になる可能性も否定できないため、銀行としては、今後、融資の可否を判断する際に、これらの要素を考慮する必要がある。
 足元では、3メガを中心に気候変動リスクが与信ポートフォリオに及ぼす影響を把握するため、画一的な手法が定まっていない状況ではあるが、シナリオ分析を実施し、計測結果を定量的に開示したり、あるいはリスク管理の一環として石炭火力発電所向け融資の厳格化を含めた投融資ポリシーを見直したりするなど、工夫しながら対応しているところである。
 しかしながら、既存のリスク管理の枠組みに気候変動リスクを織り込むためには、さまざまな課題が存在する。例えば、データギャップについて申しあげれば、概念としては「物理的リスク」や「移行リスク」に整理されているデータを、実際のリスク管理や与信判断に活かすためには、体系的に整備する必要があるわけで、どのようなデータが与信判断に適切なのか、また、そのデータの正確性や信頼性についても、ESGに関する取組みを図るための指標が標準化されていないなか、例えば温室効果ガスの削減見通しをどのように測り客観的に検証するのかなど、さまざまな論点がある。こうしたデータギャップについては、気候変動リスクに関わる金融当局間のネットワークであるNGFSも課題として捉えており、全銀協としても引き続き国際議論に参画していく予定である。
 加えて、通常の与信判断は数年単位の時間軸であるのに対し、英中銀の総裁を務めたマーク・カーニー氏がかつて「時間軸の悲劇」と呼んだが、気候変動は今後数十年単位を視野に入れた対応が不可欠であり、これをどう埋めるかも大きな課題である。
 いずれにしても、現在、銀行における環境リスク要素の与信判断プロセスへの織込みについては、グローバルなベストプラクティスが確立していないと理解しており、足元では外部格付機関からのヒアリングや対話等を通じ、ノウハウを蓄積しているところである。また、気候変動に伴うリスクをどう管理するかは、内外の監督当局の最大の関心事項でもあるが、まだ模索段階にあるというのが現実であろう。
 各行が今後、お客さまとのエンゲージメントを通じてデータを整備し、リスク管理の高度化を図ることで、カーボンニュートラル実現への貢献と健全性の確保を両立したいと考えている。


(問)
 手形・小切手の電子化について、この夏に自主行動計画を策定するとのことだが、現状の進捗と今後の予定を伺いたい。
(答)
 手形・小切手の電子化についてだが、全銀協では、この3月に公表した2020年度版の「手形・小切手機能の電子化状況に関する調査報告書」において、新たに2026年度中を目途に、手形・小切手機能の全面的な電子化を実現することを最終目標と定めたうえで、実現に向けた今後の取組内容等について取りまとめを行った。
 2026年度中を目標としたのは、中小企業庁が3月15日に公表した「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」の報告書において、産業界と金融界それぞれに対し、約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画を計画期間5年間で策定するよう提言したことを踏まえたものである。
 政府が進める約束手形の利用の廃止は、支払サイトの長い紙の約束手形による取引慣行の見直しに主眼を置いたものと理解しているが、この点、6月2日の政府成長戦略会議で示された実行計画案では、「小切手の全面的な電子化を図る」と記載されるなど、DXの観点からも広く紙の支払手段の電子化の必要性が示されたと受け止めている。銀行界としても、足元のDX推進の機運、電子化に対する社会的要請の高まりも踏まえ、小切手等も含めた支払手段全般の電子化を通じ、企業の生産性向上、ひいては社会全体のコスト削減の実現に貢献したいと考えている。
 全銀協では、政府が示した今夏を目途という期限に向けて、自主行動計画を策定することを目的に、産業界、関係省庁の参画もいただき、「手形・小切手機能の『全面的な電子化』に関する検討会」を設置した。3月に公表した調査報告書をベースとして、産業界の声や業態ごとの特性、取組みを取り込んだ計画を策定すべく、4月以降活発な議論が行われており、7月の計画公表を目指している。
 自主行動計画には、「金融機関が強化すべき取組内容」と、「官民が連携して強化すべき取組内容」を盛り込む予定であり、前者については、紙の手段よりも電子的手段を選択しやすくするような価格体系への見直し、インターネットバンキング等のUI/UXの改善、サービスを利用する事業者向けのIT導入サポートといった普及促進、そして約束手形の利用を廃止する事業者への資金繰り支援等が盛り込まれる予定である。後者については、政府補助金等の有効活用、同じく自主行動計画の策定を求められている産業界への働きかけを盛り込む予定である。
 本検討会の議論のなかで、計画策定後のフォローアップが重要であるといった意見も多数あり、本検討会を計画策定後も継続的に開催し、フォローアップの場として活用していきたいと考えている。
 銀行界としては、こうした紙を用いた決済手段から円滑にシフトしてもらえるよう、でんさい、インターネットバンキングといったポストコロナ/ウィズコロナ時代にふさわしい電子的な決済手段の機能、サービスの改善に取り組み、中小企業庁をはじめとした政府や、利用者である産業界とも連携し、取組みを加速させて参りたい。


(問)
 最後に会長から何か一言あれば、お願いしたい。
(答)
 改めて、この1年3か月、全銀協の会長を務めるに当たり、各方面の皆さまから本当に多大なるご支援をいただいた。
 新型コロナウイルス感染症によって私達の働き方や生活様式はもちろんのこと、銀行を取り巻く環境も大きく変化したが、ここにお集まりのメディアの皆さまには、コロナ禍における銀行界の店舗運営の工夫や資金支援の取組みなど、本当に丁寧に正確に報道いただいた。このことに対して、この場を借りて、改めて心より御礼を申しあげたい。
 また、私ども銀行界、あるいは銀行員にとっても、社会機能を維持するうえで必要不可欠な金融インフラを支える一員としての責務と社会的使命を再認識することにもなったと思う。
 足元ではワクチン接種も進みつつあり、好転を期待しているところだが、今しばらくは我慢の時が続き、また新型コロナウイルス感染症という危機が去った後にも、環境への意識の一段の高まりやデジタル化の一層の進展など、ポストコロナ/ウィズコロナ時代の社会課題は多岐にわたるため、銀行界にとっても、引き続き重要な時期が続くと考えている。
 このようななかでの会長交代ということであって、来月からは三井住友銀行の髙島頭取が全銀協会長に就任される。ご承知のとおり、髙島頭取は私の前の全銀協会長であり、前回の任期終盤には、新型コロナウイルス感染症への対応も必要となるなか、その対応はもちろんのこと、銀行界の多岐にわたる課題に対し、見事なリーダーシップを発揮してこられた方である。私としても、この難局を全銀協としてしっかりと対応していくには最もふさわしい方だと思い、その手腕にも大変期待しているところである。
 髙島新会長に対しても、ぜひ私が皆さまからいただいたご協力、ご支援を賜るようお願い申しあげ、私からの御礼のご挨拶とする。1年3か月本当にお世話になりました。どうもありがとうございました。