2021年7月15日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


 三井住友銀行の髙島です。三毛前会長の後を受け、二度目ということになるが、この度全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになった。皆さま方のご支援を賜りながら、この大役をしっかりと果たせるよう力を尽くしていくので、どうぞよろしくお願いしたい。
 はじめに、新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになられた方々に心から哀悼の意を表する。また、7月1日から全国各地で続く大雨による災害等によってお亡くなりになられた方々に対しても、謹んでお悔やみを申しあげたい。同時に、被災された皆さまに心からお見舞いを申しあげる。
 就任に当たり抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、三毛前会長に一言御礼を申しあげたいと思う。
 振り返ると、三毛前会長にバトンを渡した昨年4月は、わが国でも新型コロナウイルス感染症の猛威がまさに広がらんとする状況であった。そして、三毛前会長の就任直後の4月7日には、政府から初の緊急事態宣言が発せられ、以降も感染症がたびたび拡大するなか、政府も複数回にわたり経済活動の制限を決断せざるを得なくなるなど、日本の社会・経済全体が一気に危機モードになっていったわけである。
 こうしたなかで三毛前会長は、本当にこの対応に心を砕かれ、お客さまの資金繰り支援を最優先に、円滑な金融の確保に全力を挙げて取り組んでこられたほか、社会機能の維持に必要不可欠な金融インフラとして、金融機能の継続に力を尽くされてきた。
 加えて、資金決済サービスや金融インフラをめぐる諸課題への対応、気候変動、高齢者対応といった社会的課題への対応、また金融審議会における銀行グループの業務範囲規制や銀証ファイアーウォール規制の見直しといった多岐にわたる課題に対しても、見事なリーダーシップを発揮し、銀行界を牽引された。そのご尽力に対して、心から敬意を表したいと思う。本当にありがとうございました。
 改めて、わが国銀行界を取り巻く状況を概括すると、足元の世界経済はいわゆる二極化が鮮明になっている。米国は、ワクチンの普及に加え、経済対策の効果も相まって力強い回復を見せ、中国もV字回復を実現している。一方で、新興国では、ワクチン普及の遅れもあり、景気の回復に時間を要している。先行きを展望しても、世界経済は全体としては回復が続く見通しだが、そのペースは国・地域ごとに分かれる、いわゆるK字型の状況が続く見通しである。
 このようななか、わが国経済は一進一退の状況が続いている。製造業については、世界経済の回復を背景とした輸出の拡大に伴って生産活動が回復する一方、個人消費は、行動制限の長期化を受け回復が遅れており、それに伴って宿泊・飲食サービスなど、対面サービス業種は厳しい状況が続いている。先行きの見通しについても、感染症の帰趨に依存する面が強く、まさに今週から東京都において4回目の緊急事態宣言が発令され、東京オリンピックもほとんどの競技が無観客の下で行われることになるなど、不確実性が依然高い状況にある。
 もっとも、足元、ワクチン接種が進捗しつつあり、それに伴って経済活動の正常化に向けた道筋も、徐々にではあるが見え始めている。また、巣ごもり需要などを捉えて、業績が好調な企業も出てきているのも事実である。
 こうした認識の下、私は今年度を、「わが国における現下の難局の克服と新たな社会・経済の創生を支える年」と位置付けて取り組んで参りたいと思っている。
 今年度は日本の社会・経済全体にとって重要な転換点になると考えているからであり、例えばコロナ禍によってダメージを受けたお客さまの事業の再生・再構築は、まさにこれから本格的に取り組んでいかなければならない課題である。また、“新たな日常”を見据え、デジタル化やビジネスモデルの変革、気候変動問題・カーボンニュートラルなどへの対応も一段と加速をさせていかなければならない。このように、ポストコロナにおいて目指されている社会・経済の姿は、多くの面において「非連続的な変化」を伴うものになると考えられる。
 こうしたなかで、私ども銀行界は、引き続き高い緊張感と使命感を持って、次の局面を見据えた対応を進めていく必要がある。そこで、本年度は、全銀協として、次の三つの柱の下で活動に取り組んでいきたいと考えている。
 第1の柱は、「経済・社会的課題解決への取組み」である。
 コロナ禍は、お客さまの売上減少や資金繰り、あるいは事業再生といった直接的な課題を生み出しただけではなく、日本の社会・経済が抱える構造的な課題を改めて浮彫りにした。
 例えば、日本社会全体のデジタル化の遅れは、コロナ禍において社会生活や経済活動の大きな制約になったほか、生産年齢人口の減少・少子高齢化に伴って生産性や収益性が低下してきた企業においては、いよいよ抜本的な事業の再構築が迫られることになった。他方、コロナ禍は、事業承継や相続の準備といった、今までつい先延ばししがちであった課題に本格的に向き合う契機となったり、ポストコロナを見据えて、気候変動問題・カーボンニュートラルへの対応が世界的に加速する契機ともなっている。
 このように社会的・経済的課題が顕在化するなかで、銀行界がその課題解決に重要な役割を果たせるよう、各種の制度設計や規制緩和要望に関する意見発信と関係当局との協議、会員各行における課題解決に向けたさまざまな取組みの支援などに、これまで以上に踏み込んで、積極的かつ主体的に取り組んでいきたいと考えている。
 第2の柱は、「デジタル時代にふさわしい金融インフラの整備」である。
 金融サービスのデジタル化に向けた社会要請への対応や、会員各行のデジタルトランスフォーメーションを後押しする取組みは、これまでも全銀協として力を入れて取り組んできた分野だが、従来からの商慣習や大企業から中小企業、地方自治体などの、ステークホルダーの多さなどさまざまな制約・課題によりデジタル化が進まなかった領域においても、手形・小切手機能の完全電子化や、税・公金収納の効率化、金融EDIの活用推進など行動様式や意識の変化、そして政府の後押しなどにより大きく進展する機運が高まっている。
 他方、デジタル化に伴って、不正送金問題やサイバーセキュリティ、サードパーティリスクなど、金融サービスの大前提である「安心・安全」に対する脅威も確実に高まりつつあること、そして高齢者などいわゆるデジタル弱者への目配りについても十分意識しなければならない。
 言わば二正面作戦が求められる難しい状況ではあるが、だからこそデジタル時代にふさわしい金融インフラの実現に向けて尽力する必要がある。会員各行ともよく連携をしながら、関係省庁や関係業界との協議や働きかけなど、さらに力を入れて取り組んでいきたいと考えている。
 最後の、第3の柱は、「健全かつレジリエントな金融システムの構築」である。
 本年度は、金融システムをめぐる諸課題への対応について節目を迎える年回りにある。例えば、本年度はバーゼルIIIの実施に向けた国内告示案が公表される予定であるほか、預金保険制度に関しても、当面の目標とされてきた責任準備金の積立目標5兆円の到達を目前に控え、今後の積立目標のあり方が議論されると聞いている。また、本年12月末のLIBORの公表停止に向けた対応がいよいよ大詰めを迎えるとともに、8月には、先月採択をされたFATFの第4次対日審査報告書の公表も見込まれている。加えて、気候変動リスクやオペレーショナル・レジリエンスといった新しい概念・枠組みへの対応も重要なテーマとなってきている。
 金融ビジネスを取り巻く環境が大きくかつ急速に変化していく時代において、金融システムには、単に強固・健全であるだけではなく、変化に耐え得るレジリエンスが不可欠となっている。健全かつレジリエントな金融システムの構築に向けて、銀行界は自ら改革や強靭性向上に取り組むことはもちろんとして、こうした諸課題に対する意見発信や、関係者への協議と会員各行の取組み支援にも積極的に取り組んでいきたいと考えている。
 私の抱負は以上だが、さきほど、私は、本年度を「わが国における現下の難局の克服と新たな社会・経済の創生を支える年」にしたいと申しあげた。本年度は大変多くの、かつ重要な課題があるわけだが、わが国全体が重要な局面を迎えるなかにおいて、銀行界が社会的使命と責任をしっかりと果たし、社会・経済の支えとなれるよう、会員各行とともに、私も先頭に立って力を尽くして参りたいと思っている。
 皆さまのご支援・ご指導を賜るよう、何卒よろしくお願い申しあげる。


(問)
 2点伺う。1点目は、企業支援についてお伺いする。昨年の感染拡大以降、銀行界として資金繰り支援に最優先に取り組まれてきたわけだが、ワクチンの普及に伴い、本年後半にかけて景気の回復傾向が強まるものとみられている。こうしたなか、企業業績もかなりばらつきがある状況だが、銀行界の支援はどのようにあるべきか、改めてお考えを伺いたい。
(答)
 仰るとおり、銀行界は新型コロナウイルス感染症の拡大初期から一貫してお客さまの資金繰り支援を最優先に取り組んでおり、今後もこの方針については一切変わりなく、不変である。
 貸出については、本年6月末時点で全国銀行の貸出残高は約534兆円に達し、2019年12月末時点と比較をすると約26兆円の増加となっている。また、既存貸出の条件変更についても、金融庁の「金融機関における貸出条件の変更等の状況」の報告によると、昨年3月以降、中小企業のお客さまから50万件を超える申込みをいただいているが、実行率は99%と、ほとんどのお申し出に対してお応えしている。
 感染拡大により、お客さまとの直接の面談が難しくなるなどさまざまな制約、困難がある状況下でも、会員各行がしっかりとその役割、使命を果たすべくお客さまの支援に力を尽くしてきたことが、今申しあげた数字になって表れているのではないかと考えており、その点は誇りに思っている。
 足元、6月末の貸出残高は前年同月比マイナス0.4%と、新型コロナウイルス感染症の拡大後初めて減少に転じている。これまでの支援により、多くのお客さまの資金調達状況が落ち着いたという面もあるとは思うが、引き続き高い緊張感を持って対応していく必要があることに変わりはない。特に飲食や宿泊業など対面サービスを主体とする一部業種の資金繰りは引き続き厳しい状況が続いており、また地域によっては、あるいは個々の企業によってはまだ支援が必要という状況があるのは当然である。そうしたお客さま一人一人にしっかりと寄り添って、個々の状況を丁寧にお伺いしながら支えていくことが、まさに銀行が果たすべき役割、社会的使命だと考えている。
 今後、ワクチン接種が進み、経済活動も徐々に正常化していくことを期待しているが、わが国が現下の難局を乗り越えるためには、官民一体となった取組みが必要であり、銀行界としても引き続きお客さまの資金繰り支援に全力をあげ、自らの役割を果たして参りたいと考えている。
(問)
 2点目は、気候変動問題についてお伺いする。各国政府や中央銀行をはじめ、各産業界でも非常に中長期的な対応が求められているが、銀行界としての見解や取組方針、全銀協として会員行をどのように支援していくのかについて、お考えを伺いたい。
(答)
 気候変動問題は、申しあげるまでもなく、わが国に限らず、人類全体にとってのグローバルかつ喫緊の課題であり、すでに「取り組む・取り組まない」という問題ではなく、世界全体で「取り組まなければならない」段階にあると認識をしている。
 カーボンニュートラルの実現は、大変な挑戦ではあるが、菅総理が「経済と環境の好循環」と仰られたように、産業構造や社会経済の変革を通じて、わが国全体の成長へとつなげていくことが大変重要だと考えている。銀行界としては、中長期的な視点に立ってお客さまのカーボンニュートラルへのプロセス、すなわちトランジションに向けた取組みをエンゲージメント(対話)とファイナンスを通じてしっかりと支え、社会的使命を果たして参りたいと考えている。
 全銀協としても、会員各行のそうした取組みを後押しするために、従来からさまざまな取組みを行ってきている。例えば、先駆的な会員行の具体的な取組事例を紹介しているほか、気候変動をめぐる国内外の動向や会員行におけるTCFDの取組状況などについて調査し、還元するなどの取組みを行っている。それらの概略については、全銀協SDGsレポートとして公表している。
 こうした取組みに加え、本年度は中長期的な視点に立って、改めて施策の体系化や重点的に取り組むべき分野、取組方針などを整理し、カーボンニュートラルの実現に向けた銀行界としての取組みをさらに強化していく方針である。具体的な取組みは、今後、会員各行の意見などを踏まえて検討していくが、まず体制面の強化として、本日の理事会において、当協会の企画部に「サステナビリティ推進室」を設置することを決定した。
 今年度は10月にイタリアでG20サミット、11月にはイギリスでCOP26が開催され、気候変動問題への対応は大きな転機を迎える可能性がある。全銀協としても、社会・経済の変革を見据え、業界をあげた取組みの起点となる年にしたいと考えている。


(問)
 2点伺う。1点目であるが、私的整理ガイドラインの見直しが政府の成長戦略にも盛り込まれており、今後議論が進むと思われるが、銀行界としての見解や今後の対応方針、スケジュール感などについて、教えていただきたい。
 2点目であるが、金融庁と日本銀行は、今夏にも地域金融機関のマネロン対策を一斉に調査する方針である。地域金融機関にはマネロン対策が不十分なところもあるかと思うが、全銀協として会員行の取組みをどのようにサポートしていくのかについて教えていただきたい。
(答)
 私的整理ガイドラインについては、6月18日に閣議決定された成長戦略実行計画において、「中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定について検討する」との記載が盛り込まれた。個々のお客さまの状況を見ていくと、コロナ影響の長期化により、返済が難しいお客さまもおられることも事実であり、そういったお客さまには一社一社しっかりと寄り添って、個々の状況を丁寧にお伺いしながら、コンサルティング機能の発揮等を含めた必要な支援を行っていくことが、まさに銀行が果たすべき役割、社会的使命だと考えている。その中において、債務整理などの対応もお客さまの状況によっては一つの選択肢であることはそのとおりであるが、経営規律の確保やモラルハザードの回避など、論点が多岐にわたるテーマである。スケジュール感も含めてこれから検討していくことになるが、全銀協として、私的整理ガイドラインのあり方について、必要な議論はしっかりと行っていく考えである。
 ただし、中小企業の事業再生・再構築を進め、経済成長を後押しするためには、私的整理ガイドラインを策定するだけでは不十分である。企業の財務状況について申しあげると、法人企業統計によれば、2021年3月末の借入金および社債は前年比で45兆円増加しているが、同時に、法人の現預金も34兆円増加している。この数字をどう見るかは判断が分かれるかもしれないが、負債のみならず資産も含めた両面から見ると、ネットで11兆円、昨年度末の総債務残高対比2.1%の増加にとどまっており、企業セクター全体をマクロで見ると、決してレバレッジが過大になっているという状況ではない。そうした中、より留意しなければならないのは、売上高が前年比で大きく減少しているという事実であり、債務の過剰感を生み出しているのは、コロナ禍において、売上高、キャッシュフローの減少が大きな要因になっている面があるのではないかと考える。
 そうしたことを踏まえれば、今後、企業の事業再生・再構築を進めていくに当たっては、まず第一に、企業の収益力の回復という本質的な課題に取り組むことが不可欠である。具体的には、売上を回復させるための政府による需要喚起策や、企業自身も、DXの推進等により経営の効率化、収益体質の強化に取り組むことが求められる。そのうえで、事業再生・再構築を後押しするためには、雇用のセーフティネットの整備、あるいは雇用の流動性の向上、転職支援のためのリカレント教育推進等の環境整備も欠かせない。これはまさに政府の骨太の方針のなかでも謳われている。こうした官民の取組みと併せ、債務整理なども含め、持続可能な財務基盤の構築に努めることが重要であると考えており、私的整理ガイドラインのあり方も、かかる総合的な視点に立って検討していきたいと考えている。
 2点目のご質問は、AML/CFTに関する地域金融機関に対する検査に関してである。7月14日、「今夏に金融庁と日本銀行が地域金融機関のマネロン対策について一斉調査を開始する」との報道があったことは承知しているが、実際に金融当局から発表されたものではなく、事実関係を承知していないので、それ自身に対してのコメントは差し控えさせていただき、マネロン対策について全銀協として会員行をどのようにサポートしていくのかという点についてお答えしたい。
 まず、会員行においては、本年の2月に改定された「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を踏まえ、現在、態勢高度化に取り組んでいる。この態勢整備のなかで、とりわけ顧客への影響が大きく、会員行でも対応が求められる中核的な項目は、KYC(Know Your Customer)、いわゆる顧客の管理に関するものである。そのなかでも、「継続的な顧客管理」は、既存のお客さまに対して、取引内容や状況に応じて一定の頻度でKYC情報の更新を行うものであり、お客さま自身のご理解・ご協力が不可欠である。
 全銀協は、KYCの重要性をご理解いただくため、昨年度、新聞広告やテレビCMといったマス広報活動を実施したが、今年度も引き続きさまざまな媒体で継続的な広報活動を検討している。また、全銀協は、2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、いわゆるNEDOによる「規制の精緻化に向けたデジタル技術の開発」の実証実験事業に参画した。NEDOとの守秘義務があるため、詳細は申しあげられないが、実証実験においては、AIなどの先端技術を活用した高度なシステムの共同化が、効率的かつ実効的なマネロン対策の実現に有効かを検証するとともに、その実現に必要な規制の精緻化や課題について調査研究を行っている。これを踏まえ、本年7月に、全銀協が事務局となり、「AML/CFT業務共同化に関するタスクフォース」を設置し、今後、AI共同システムに期待されるサービス内容や共同化する場合の運営組織のあり方などについて検討を進めていく予定である。全銀協としては、引き続きこうした取組みを通じて、会員行のサポートをしっかりと行って参りたいと考えている。


(問)
 気候変動対応の関連で質問する。日本銀行が6月、気候変動対策として民間金融機関の投融資をバックファイナンスする仕組みを新たに導入する方針を明らかにした。細かい制度設計に関してのコメントは難しいと思うが、銀行界としてどのような期待をされているのか、あるいはどのような活用をしていくイメージを持たれているのか、お聞きしたい。併せて、この間、日本銀行に対して、本件に関して銀行界として何か意見を述べたり、要望を伝えたりしたことがあれば、それについてもお聞きしたい。
(答)
 本年6月18日の金融政策決定会合において導入方針が示された「金融機関の気候変動対応投融資に対する新たな資金供給の仕組み」は、気候変動問題が中長期的に経済、物価、金融情勢に極めて大きな影響を及ぼし得るとの認識の下で、市場中立性に配慮しつつ、気候変動関連分野での民間金融機関の多様な取組みを支援する枠組みとして創設が検討されていると理解しており、民間金融機関として歓迎したい。
 気候変動問題については、現在、さまざまな中央銀行において対応が検討されているテーマであるが、中央銀行としてのマンデートとの関係や、市場中立性への配慮は多くの中央銀行が腐心されているところだと承知している。この点、今回の制度は、気候変動問題がマクロ経済の安定に大きな影響を及ぼし得るという点を踏まえ、日本銀行のマンデートとの整合性を図り、また、民間金融機関が自らの判断で行う投融資を日本銀行がバックファイナンスする仕組みとすることで、市場中立性にも配慮した設計が検討されていると認識している。このようなアプローチは、現在、世界的に見ても、先駆的なものだと思われる。
 私ども銀行界においても、気候変動問題への対応がグローバルに喫緊の課題となるなか、お客さまのカーボンニュートラルの実現に向けた取組みを金融面から支援するさまざまな取組みが広がっている。骨子の素案は、まさに明日の金融政策決定会合において審議のうえで公表される予定であり、現時点では具体的な制度設計について承知していないが、本制度が何らかのインセンティブとなって、そうした各金融機関の取組みやその広がりを後押しするものになれば、わが国の脱炭素社会の実現にも大きなプラスになると期待している。
 最終的には、市場中立性なども踏まえつつ、中央銀行として判断される事項であり、全銀協会長としてコメントすることは差し控えるが、銀行界としては新たな資金供給の枠組みの活用も検討しつつ、持続可能な社会の実現に向けて引き続き取り組んで参りたい。
 銀行界として本件に関する意見を伝えたかとのご質問に関しては、全銀協に直接意見を求められていることはない。日本銀行が個別に金融機関の意見を聞いていることは認識しているが、個々の状況について現時点で全銀協は把握しておらず、コメントはいたしかねる。


(問)
 サステナブルファイナンスについて伺う。各行がサステナブルファイナンスに関する様々な目標を掲げているが、サステナブルファイナンスは定義も曖昧で、これがサステナブルファイナンスなのかというものも見受けられる印象がある。
 一方で、そもそも社会に必要なお金を流すという金融仲介の役割から言えば、100年前から銀行が行っていることは、全部がサステナブルファイナンスであるべきで、逆に今、サステナブルファイナンスを出すと、それ以外はサステナブルではないのかと思ってしまう。あえて今、サステナブルファイナンスを定義する意義・意味は何なのか教えていただきたい。
(答)
 サステナブルファイナンスの定義については国際的に必ずしも確立されたものはないというのはご指摘のとおりであるが、公に定められた定義については幾つか存在するのも事実である。例えば、G20のサステナブルファイナンス・スタディグループは、サステナブルファイナンスをおおむね「SDGsの枠組みへの貢献を通じて、持続可能な成長の実現に寄与するファイナンス」と定義している。
 この定義に従うと、SDGsは、17のゴールと169のターゲットから構成されているわけで、どのゴールに焦点を当てるかは、各企業あるいは金融機関によって異なってくる。それを幅広く捉えるということも一つの考え方であろう。また、グローバルに見ると、SDGsのほか、パリ協定やESGとの関係で定義をしている金融機関もある。したがって、私があえて、ここで何か一つに定義をするということではなく、個々の銀行が、それぞれの状況や、社会、ステークホルダーから期待される役割を踏まえ、自ら考えていくべきことではなかろうか。その結果として、銀行ごとの違いや特色も出てくるということだと思うし、あるいは、そうあるべきなのではないかとも考える。
 そもそも金融機関として社会的使命を果たしていくなかにおいて、本来は昔からそういう取組みをしているはずだというご指摘はありがたく承ったうえで、各銀行が、しっかりとそういう問題意識を持って進めていくということを全銀協としてもサポートして参りたいと考えている。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、手形・小切手の全面電子化について、今年度方針には取組み強化と記載がある。その具体策をお聞かせいただきたい。自主行動計画も策定されていると思うが、その策定状況を教えてほしい。
 2点目、改めて日本経済の足元と見通しについて所見をお願いしたい。感染者数が増加に転じているが、今後ワクチン接種が進めば、ペントアップ需要、個人消費の活発化などが進むと思う。その点も踏まえてご所見をお願いしたい。
(答)
 まず、1点目の手形・小切手機能の全面的な電子化に関するご質問であるが、全銀協は本年3月に公表した「手形・小切手機能の電子化状況に関する調査報告書」において、手形・小切手ともに2026年度を目標とし、全面的な電子化に取り組むことを表明している。
 4月に全銀協を事務局とする「手形・小切手機能の『全面的な電子化』に関する検討会」を設置し、産業界や関係当局、学識者にも参加をいただきながら、先日、自主行動計画を取りまとめたところである。
 自主行動計画は、7月中に公表予定である。各金融機関において取組みを進めたうえで、毎年3月に公表する調査報告書のなかでフォローアップを行うこととしている。
 具体的な強化策についてご質問をいただいたが、まさにこの自主行動計画にもとづいて、各金融機関が取組みを進めて、業態別に毎年フォローアップを行って、PDCAサイクルを回していくということが非常に重要だと考えている。
 そのうえで、具体例をいくつか申しあげると、例えば、紙の支払手段よりも電子的な支払手段を安価で使いやすくするなど、決済に関連する手数料体系の見直しや、UI/UXの向上などによる電子的決済サービスの普及促進、約束手形の利用を廃止し、支払サイトを短縮する事業者に対するきめ細かな資金繰りの支援といったようなものが含まれている。広く関係者にメリットを感じていただきながら、全面的な電子化を進めていくことが重要だと考えている。
 また、6月18日に公表された成長戦略実行計画を踏まえ、産業界でも今夏を目途として自主行動計画を取りまとめるということになっており、金融界と産業界で行動計画と進捗状況を共有・確認するなど、連携を密にしていく予定である。
 金融界と産業界が車の両輪となり、2026年度の全面的な電子化という同じ目標に向かって取組みを進めていくことが、今回の自主行動計画の大きなポイントだと考えている。
 2点目は、日本経済についてであるが、わが国経済は、現在、一進一退の状況にあると見ている。外需は、経済活動がいち早く正常化した中国、あるいは活動制限の緩和が進む欧米向けを中心に堅調に推移しており、輸出の増加に伴って製造業の生産活動は回復してきている。
 先日発表された6月の日銀短観を見ても、大企業・製造業の業況判断DIが、前回から+9ポイント上昇するなど、企業マインドが改善していることを示す内容であった。
 一方、個人消費は、行動制限の長期化を受けて回復が遅れている。また、宿泊・飲食サービス等の対面サービス業種は厳しい状況が続いており、このような業種間における好不調の格差は、依然として解消されていない。
 先行きを展望すると、企業部門では、海外経済の回復などを背景とした輸出・生産の拡大や、コロナ禍によって先送りされてきた設備投資を再開する動きが続くことが見込まれる。
 また、家計部門においても、ワクチン接種が進み、経済活動が正常化してくれば、ペントアップ需要が顕在化し、消費活動の活発化も期待される。
 ただし、先行きの見通しは、感染症の帰趨に依存している面が強く、引き続き不確実性が高い状況である。減少傾向となっていた東京都の新規感染者数は、昨日、7月14日には1,149人と、再び増加基調に転じており、東京都には4回目となる緊急事態宣言が発出されるなど、経済活動の正常化に要する期間は、まだ見通し難い状況にある。
 政府は、ワクチンを希望する全ての人への接種を10~11月に完了させることを目標に掲げており、接種体制の整備に全力をあげている。
 感染症の帰趨は予断を許さないが、ワクチンの普及などによって情勢が落ち着けば、控えられてきた個人消費も活発化し、今年の秋ごろには、景気の回復基調も次第に鮮明になっていくのではないかと期待される。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、来週からいよいよ東京オリンピックが始まるが、コロナ禍でオリンピックを開催することそのものへの受止めを教えてほしい。また、オリンピックの開催期間中は、サイバー攻撃が起こりやすいなどとも言われているが、ATMが停止するなど万一の事態に備えて、銀行界としてはどのような準備を行っているのか。
 2点目は、LIBORの後継指標について伺いたい。世界的にはリスク・フリー・レートへの移行が潮流となっているが、例えばコロナショックの際に上がりにくいなど、銀行ビジネスとしては使いづらい一面もあると思う。一方で、ブルームバーグが公表しているBSBYという指標などはLIBORとの親和性もあり、新規取引で少しずつ浸透しつつあるとも聞いている。銀行界の基本スタンスとしては、あくまでリスク・フリー・レートへ移行していくということなのか、そこは是々非々でバランスを取っていくのか、どういう考えなのか聞かせてほしい。
(答)
 1点目の7月23日からスタートするTOKYO2020大会については、コロナ禍の大変厳しい環境にあるなか、組織委員会では、「安全・安心」を最優先事項として、これまでの様々な知見を活かした万全の感染防止対策を講じた運営を計画していると認識している。国民の皆さまにご理解いただける「安全・安心」な大会となることを切に願っている。
 こういう状況でオリンピックを開催するのかしないのかということに対しては、全銀協としてコメントする立場にはないと考えている。いずれにしても、銀行界としてより重要なことは、いかなる状況下においても金融インフラとして平時と同様に、確実に業務を継続することであり、想定される発生事象や業務への影響を踏まえ、各銀行においてしっかりと対応策を講じていく必要があるということだと考えている。
 そのため、全銀協は、各銀行において対応策の検討が円滑に行われるようにサポートするべく、様々な取組みを行ってきている。本年5月には、東京都と連携し、大会の影響が特に大きいと考えられる首都圏の銀行を対象に説明会を開催した。2019年度に会員行向けに実施したアンケートの結果を改めて配布し、道路や公共交通機関、大会関連施設近辺の混雑、サイバー攻撃やテロのリスクといった大会期間中に想定される発生事象による銀行業務への影響等について、説明を行った。
 また、今年1月に開催したセミナーにおいては、オリンピック・パラリンピックに向けたサイバーセキュリティ対応の態勢の実効性向上や、官民・銀行間における連携体制強化の重要性を確認し、本番までの対応事項を整理した。万一、ATM等において障害が発生した場合に備え、速やかに復旧を行うための体制や、迅速かつ適切にお客さまに対応できる体制を構築することに関しても、会員行で認識を共有している。また、個別行の話になるが、先日もオリンピック・パラリンピックのスポンサーをターゲットとした大規模サイバー攻撃を想定した総合訓練を実施した例もある。大会本番まで残された時間はあとわずかだが、我々銀行界としては、大会期間中も確実に業務を継続できるよう、東京都とも密に連携しながら準備を進めている。
 2点目のLIBORの後継指標金利については、本年3月、LIBORの監督当局であるFCAから公表停止時期に関する声明が公表されており、円LIBORは本年12月末、ドルLIBORは2023年6月末をもって公表を停止することが確定した。ご質問は、このうちドルLIBORの代替指標として望ましい参照金利は何かというお尋ねだと理解したが、代替指標はあくまで取引当事者間で協議のうえ決めていくものである。ドルLIBORの代替指標としては、リスク・フリー・レート以外に、金融機関の資金調達コストを反映した金利指標、クレジット・センシティブ・レートの活用可能性について、2020年10月にニューヨーク連銀が主催するワークショップにおいても、課題や対応方法が検討されたほか、ご指摘のあったブルームバーグのBSBYあるいはAmeriborなど、民間主導でさまざまな指標の開発の動きが進んでいると承知している。
 このクレジット・センシティブ・レートは、確かに運用と調達の金利のミスマッチが生じにくい特徴があり、金融機関にとっては使いやすい側面があるが、金融機関のカウンターパーティリスクあるいはストレス時のマニピュレーションを招来するリスクを内包しているのではないかという意味では、LIBORと同様の課題を抱えているとの指摘もある。
 いずれにしても、先ほど申しあげたとおり、代替指標はあくまで取引当事者間で協議のうえ決めていくものであり、我々金融機関としては、お客さまに丁寧に説明し、十分な理解を得たうえで円滑に移行を進めることが何よりも重要であり、まさにそういう考え方で取り組んでいるところである。


(問)
 2点伺う。本年10月に銀行間手数料が内国為替制度運営費という名前に変わって適用が開始されることを受け、7月14日にみずほ銀行も打ち出したが、3メガバンクをはじめ複数の銀行が振込手数料の引下げについて公表している。手数料は各行がそれぞれの戦略にもとづいて決めていくものと理解しているが、全銀協として各銀行の動きをどのようにみているか。手数料の引下げが銀行の収益に与える影響をどうみているか、教えてもらいたい。
 もう1点、西村コロナ担当大臣の一連の発言について伺う。休業要請に応じない飲食店に金融機関を通じて協力を求めるという発言があって、翌日に撤回されたわけだが、撤回されているなか、コメントは難しいかもしれないが、どのように受け止めているか。
(答)
 1点目は、いわゆる「銀行間手数料」から「内国為替制度運営費」となり、引き下げられるということに関連してのご質問であった。
 まさしくご認識のとおり、振込手数料あるいは手数料全般については各行がそれぞれに判断されるものであるので、全銀協会長としてコメントするにはふさわしくない点はご理解いただきたい。しかしながら「内国為替制度運営費」が創設される経緯や趣旨、そしてわが国全体としてのキャッシュレス決済の拡大などさまざまな要素を踏まえ、各行が自らの経営戦略と事業戦略にもとづいて検討をされており、これからも判断されていくというものだと思う。
 「内国為替制度運営費」の創設に伴う収益インパクトについてのご質問もあったが、これも各行の仕向件数と被仕向件数の状況によって変わるため、一概に申しあげることはできない。一般論として申しあげると、今回の移行により、被仕向件数の比率が高い金融機関ほどマイナスの収益影響が出やすいということになる。そして、地域金融機関は総体としては被仕向件数の比率が高い状況にあるため、マイナスの収益影響を受ける金融機関も出てくるであろうとも考えられる。銀行界としては、これまでも通達による案内のほか、説明会を順次開催するなどして対応を進めているが、引き続き10月1日の移行に向けて万全を期して参りたいと考えている。
 2点目のご質問の、西村大臣のご発言についてであるが、全銀協として本件について具体的なお願いを受けているわけではないので、コメントする立場にはない。
 これまで申しあげているとおり、銀行界としては新型コロナウイルス感染症の拡大初期から一貫してお客さまの資金繰り支援を最優先に取り組んでいる。今後ともその方針は変わらないということは申しあげておきたいと思う。


(問)
 2点ある。1点目は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)についてお伺いしたい。気候変動に関わる財務リスクの開示を促すTCFDに賛同する企業が広がり、国内でも開示が進んでいる。そのなかで、TCFDを参考にするかたちで、自然破壊が企業に与えるリスクの開示を促すTNFDが先般6月に立ちあがった。2023年中の開示の枠組みの公表に向けて議論が進む見通しだが、このTNFDに対する受止めと、邦銀としてどのような意見を発信したいか、所見を伺いたい。
 もう1点はコロナ特則についてお伺いしたい。コロナ禍を理由に借入れの返済が難しくなった方の救済を目的とした債務整理制度、いわゆるコロナ特則の利用が直近で増加していると聞く。コロナで返済困難に陥った人は企業のみならず、個人の方も少なくないと思うが、このコロナ特則をはじめ、リスケ対応といった、主に個人ローン分野の相談への取組状況を伺いたい。
(答)
 1点目のTNFDに関してであるが、TNFDは、環境NGOと国連環境計画金融イニシアチブが主導するかたちで、自然環境全体に関する情報開示のフレームワークを確立することを目的に設立された団体である。
 6月のG7財務大臣・中央銀行総裁会議の声明のなかにおいては、このTNFDの「提言を期待する」とされており、今後、気候変動に続いて、例えば生物多様性に関しても影響開示などを検討していく方向性が示されている。生物多様性自体の重要性は、多くの金融機関においてすでに認識されており、例えば当行の例で申しあげると、銀行のなかのクレジットポリシーにおいて、地球環境に著しく悪影響を与える懸念のある与信を行わないという方針にしており、その具体的なケースとして、TCFDレポートのなかにおいて、環境や社会へ大きな影響を与える可能性の高いセクター・事業への融資を行う際、生物多様性についても配慮するということにしている。
 TNFDからまだ具体的な提言案が公表されていない段階であるため、どのように意見を発信するかについて、なかなかコメントしづらいところがあるが、生物多様性はESGに関連するテーマの一つであり、引き続き必要な意見発信を全銀協としても行っていきたいと考えている。
 2点目の自然災害ガイドラインのコロナ特則の利用に関してであるが、昨年12月から、「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」が適用となり、2021年3月末までの4ヶ月間で、本特則にもとづいて弁護士等の専門家が手続の支援に着手した件数は676件となっている。これはそもそもガイドラインの運用を始めた2016年4月以降の累計が1,861件なので、すでに3分の1超がこのコロナの特則にもとづくものになっているという水準である。したがって、新型コロナウイルスによる個人のお客さまの影響については、引き続き十分に注視していく必要があると考えている。
 住宅ローンの貸付条件変更の状況については、金融庁が公表されているとおり、銀行界では住宅ローンに関するお客さまからの貸付条件変更の申出を、2020年3月10日から2021年5月末までの累計で48,000件超受けており、97%に関して貸付条件の変更に応じさせていただいている。金融庁からも、顧客からの貸付条件の変更等の申込みには適切に対応するよう要請をいただいているところであり、引き続き各行で丁寧に対応している。
 全銀協としても、カードローンや住宅ローンなどの返済でお困りの方には、家計診断による支出の見直しや、家計の改善等のお手伝いをする、いわゆるカウンセリングサービスというものを提供しており、個人のお客さまの債務問題解決に努力している。
 引き続き、全銀協としても、このカウンセリングサービスの実施や各種の啓発活動を通じて、個人のお客さまの債務問題の解決に努めるとともに、会員各行がお客さまの事情やニーズに寄り添った対応を実施できるよう、しっかりとサポートして参りたいと考えている。


(問)
 超低金利が長引いていて、地域金融機関の経営状況の厳しさが増しているかと思うが、コロナ禍の影響も踏まえて、これから地域金融機関はどのような手を打っていくべきなのかという考え方について伺いたい。
 また、銀行界では、三菱UFJ銀行と三井住友銀行がATMで協業しているように、共同で運用できるところは一緒にやっていこうという動きがあるが、他に競争エリアではないところで、どのようなところが全体として効率化を図っていける可能性があるのか伺いたい。
(答)
 まず、地域金融機関の厳しい経営環境のなかでどういうことが求められるのかについて。
 地方において急速に進む少子高齢化とそれに伴う生産年齢人口の減少、長引く低金利環境など、地域金融機関を取り巻く経営環境は、引き続き非常に厳しい状況にあると思われる。
 一方で、地方のお客さま自身も、こうしたマクロの社会的・経済的な構造変化を受けて事業変革を迫られるとともに、事業承継や第二の創業、あるいは事業再生といった課題への対応が不可欠になってきているのも事実である。したがって、地域金融機関にとって、ソリューションの提供を通じて、こうしたお客さまを支え、変革を後押ししていくという役割を発揮するかつてないチャンスが拡がっているとも言える。
 また、こうした金融機関の取組みをサポートする観点から、法制度の整備、あるいは改正等も、支援策として拡充されてきているのも事実である。例えば、本年5月に成立した改正銀行法においては、デジタル化や地方創生など持続可能な社会の構築に向けて、銀行グループの業務範囲規制の緩和が図られたほか、合併や統合等を行う地域金融機関に対しては、金融機能強化法の改正によって資金交付制度や、日本銀行による「地域金融強化のための特別当座預金制度」等が設けられている。
 地域金融機関が目指すべきビジネスモデルや果たすべき役割というのは、まさに個々の金融機関が置かれている地域の状況や各社の規模、あるいはリソースなどによって異なるので、一概に申しあげられないが、地域の特性やその地域において期待される役割に応じて、それぞれの地域金融機関がビジネスモデルを磨き、変革していくことが大事だろうと思っている。
 例えば、すでに地方銀行のなかにおいても、地域商社の設立を通じて地域のお客さまの販路拡大を支援している銀行、あるいは銀行業高度化等会社を設立して、デジタルビジネスの強化に取り組んでいる銀行もある。また、今回の規制緩和を活かして、人材紹介や派遣業務、商社ビジネス、あるいは新商品の販路拡大につながる広告・マーケティングなどを通じて、お客さまの経営課題の解決をサポートしていくことも考えられる。
 全銀協としても、関係当局への規制緩和の働きかけや制度整備の要望などを通じて、積極的に地域金融機関の取組みをサポートして参りたい。
 2点目のATMの共同化に関連して、効率化施策等は考えられないかというご質問であるが、銀行界全体の課題として申しあげると、まさに人口減少あるいはキャッシュレスの進展に伴い、銀行ATMはここ数年、減少トレンドが続いている。コロナ禍を受けたお客さまの行動様式の変化などもあり、今後も銀行ATMの利用は減少していく可能性が高いと思われる。また、それに伴って、各行におけるATMネットワークを維持するためのコスト負担も重くなっていく可能性がある。
 そうした状況のなかで、個別行の取組みとしては、ご承知のとおり、お客さまの利便性を踏まえて最適なATM運営を行うために、2019年9月から三菱UFJ銀行と三井住友銀行との間で店舗外ATMの共同利用を開始したわけである。地方においては、都市部に比べてATMの地理的な重複が少なく、地元からのネットワーク維持の期待もあるので、抜本的な再編を進めることは難しい面もあろうかと思う。そのなかで、お客さまの利便性にも配慮しながら、ATMの共同化や相互開放が進められている事例も実はある。引き続き、各行により最適なATMネットワークの検討がなされていくものと考えている。
 ATMだけでなく、その他リテールの領域でも、インフラの共通化の可能性について申しあげたいと思う。これは主にシステムや事務の領域において、各行が創意工夫を凝らしながら、さまざまな取組みを広げていく可能性があるのではないかと思っている。例えば、手形交換などの持出し・持帰り業務、あるいは海外向けの送金などの外国為替に関する事務について共同化の取組み事例が実際にある。また、各行独自の取組みのほか、全銀協としても、2022年に手形・小切手の電子交換所を設立する予定であり、銀行界全体の業務効率化、生産性向上を支援していきたいと考えている。
 人口減少、少子高齢化の進展や低金利環境の長期化などが進む中で、お客さまの利便性に配慮しつつ、持続可能なビジネスモデルを構築していくことは多くの銀行において共通の課題であり、今後もさまざまな工夫、検討が進んでいく可能性があると考えており、全銀協としても、引き続き各行の取組みをサポートしていきたいと考えている。


(問)
 1点目は税・公金収納業務の効率化についてである。足元の取組み状況と銀行界としての要望を教えてほしい。先日、QRコードの統一規格が制定されたが、どのような活用を想定しているのかも併せて教えてほしい。
 2点目であるが、金融庁が先日、銀行を含めた金融機関のシステム障害についての報告書を取りまとめた。そのなかで、障害の要因の一つとしてIT人材の不足を指摘しているが、この点について会長の考えを聞かせてほしい。
(答)
 1点目の税・公金収納業務の効率化、とりわけ地方税の収納の効率化・電子化は、銀行界にとっても長年の課題であり、まさに先月の会見でも三毛前会長からも申しあげたとおり、全銀協では、地方税共通納税システムの対象税目拡大と同時に、2023年度からのQRコードを活用した地方税収納を目指している。それに向けて、総務省との共催である「地方税におけるQRコード規格に係る検討会」において、地方税統一QRコードを取りまとめ、6月末に総務省から公表された。
 QRコードを活用した地方税収納の仕組みを簡単に説明すると、自治体にQRコード付きの納付書を発行してもらい、納税者のスマートフォンなどでQRコードを読み取ることにより、地方税共通納税システムを介して、電子的に収納するものである。インターネットバンキングのほかに、QRコード決済のアプリでも収納できるようになれば、納税者の利便性は格段に向上するし、自治体においても、紙で行っていた消し込みが電子化され、大幅な効率化につながると考えられる。
 2023年度からのQRコードの活用に向けて、全銀協としては引き続き検討会の枠組みの下で具体的な検討を進めていくが、自治体にもQRコード付き納付書の発行やシステム対応を進めてもらう必要がある。このため、総務省をはじめとする関係省庁には、自治体への予算措置も含めてしっかりとお力添えを行っていただくようにお願いをしているところである。
 2点目のシステム障害に関連したIT人材についてであるが、6月30日に、金融庁から公表された「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」において、システム統合・更改に伴い発生した金融機関のシステム障害の背景として、レガシーシステムの有識者の高齢化等による、IT人材の不足が指摘されている。有識者の不足によるリスクを低減するためには、システム仕様や作業手順書などIT資産の整理に加え、安定稼動を支える十分な運用体制の維持が重要である。一方で、システムの障害を100%防ぐことは、現実にはなかなか難しく、万が一障害発生した際に、どうすればお客さまへの影響を最小限に抑えることができるのか、また、お客さまの不安を取り除くことを第一に、どれだけ迅速・丁寧に状況を伝えることができるのかといった点も、併せて非常に大事である。
 全銀協では、銀行システムの安定稼動と運用管理に万全を期すことや、万一障害が発生した場合に速やかに復旧を行うための体制、迅速かつ適切にお客さまに対応できる体制を構築することに関して申し合わせを行い、会員行で認識を共有している。引き続き私ども銀行界が、お客さまからお寄せいただいている信頼に確りとお応えできるよう、全銀協としても不断の努力を続けていく。