2021年9月16日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から1点ご報告申しあげる。
 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、令和4年度の税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけて参りたい。
 なお、税制改正要望の内容についてご不明な点などがあれば、会見終了後、事務局まで照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様


 本日はご質問を頂戴する前に、私から、8月以降相次いだ自然災害について一言申しあげたい。令和3年8月の大雨をはじめとする自然災害では、広域にわたり甚大な被害が発生した。亡くなられた方々に対して謹んでお悔やみを申しあげるとともに、被災された皆さまに心からお見舞いを申しあげる。
 被災地域が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災された方々が通常の生活を一刻も早く取り戻すことができるよう、銀行界としても払戻しや融資に係る柔軟な対応を行うなど、復旧・復興の取組みをしっかりと支援して参りたいと考えている。


(問)
 2点伺う。まず1問目は、夏以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続いており、今も緊急事態宣言の延期が繰り返されている。改めて国内経済の足元の認識と見通しと、顧客支援の取組方針について教えてほしい。
 2問目は、社会を挙げて対応が求められている気候変動について伺う。企業は情報開示やトランジションへの対応が求められているが、銀行界としてはどのようにそれらをサポートしていく考えか。
(答)
 足元の日本経済をみると、変異株の流行や緊急事態宣言の延長などもあり、サービス消費を中心に個人消費の回復が遅れている。一方、海外経済の回復を受けて輸出や生産は堅調に推移しており、全体で見れば緩やかな回復が続いている。
 先行きについては、外需が引き続き経済を下支えすることに加え、国内においてもワクチンの普及や行動制限の緩和が進むにつれて、ペントアップ需要が顕在化することで、消費活動が活性化することが期待される。
 もっとも、国内外の感染症の帰趨に依存する面が強く、不確実性が高いため、引き続き、コロナ禍をめぐる動向にはよく目配りしていく必要があると考えている。
 また、顧客支援の取組方針について、銀行界においては、新型コロナウイルス感染症の拡大初期から一貫して、お客さまの資金繰り支援を最優先に取り組んでおり、今後もこの方針は不変である。
 貸出については、本年8月末時点で全国銀行の貸出残高は約533兆円に達し、新型コロナウイルス感染症の拡大前である2019年12月末時点と比較すると約25兆円の増加となっている。また、前回7月の会見でも申しあげたとおり、既存貸出の条件変更についても、中小企業のお客さまからの申込みに対しては、実行率99%と非常に高い比率を維持している。
 長期化する感染拡大の防止措置により、業種や地域によっては、まだまだ支援が必要というお客さまも当然おられるので、通常の融資もさることながら、リスケへの迅速かつ柔軟な対応や、政府系金融機関との連携などを通じて、流動性資金、手元資金を確保するための支援をしっかりと続けていく所存である。銀行界として、引き続き、お客さまの資金繰り支援に全力を挙げ、自らの役割を果たしていきたいと考えている。
 二点目の気候変動対応、特にお客さまの気候変動対応のサポートについてであるが、気候変動対応は、銀行界のみならず、政府はもちろん、産業界とも一体となって取り組む必要がある極めて重要な課題であり、各企業の取組みを銀行としてもしっかりとサポートしていくことが重要であると考えている。
 銀行界としては、エンゲージメントを通じて、トランジションに向けたお客さまの課題を把握し、その解決に向けたソリューションを提供することにより、社会的使命を果たしたいと考えている。
 例えば、三井住友銀行の取組みを申しあげると、本年7月にサステナビリティ関連のソリューションの提供と、新たなサービスの開発やノウハウ蓄積の活動・取組みを総称した「SMBC Group GREEN Innovator」を立ち上げた。脱炭素化をはじめとするサステナビリティに関するお客さまのニーズの多様化、高度化が見込まれるなか、グループ一体となった対応力の強化とグローバルなソリューション提供に向けて、グループ全体のサステナビリティに関するノウハウ、情報を集約することで、お客さまにより高度なソリューションを提供していく考えである。
 個々の銀行においてさまざまな創意工夫が考えられる分野であり、全銀協としても、7月に常設の組織として企画部内にサステナビリティ推進室を設置して、先進事例の還元など、会員各行の取組みを後押しする施策を積極的に検討していきたいと考えている。

(問)
 3点伺う。1点目は、SBIホールディングスによる新生銀行に対するTOBについて。先日、SBIが新生銀行に対するTOBを公表したが、銀行を対象とした敵対的TOBはかなり珍しいと思う。これに対する受止めを教えてほしい。また、この件が銀行界に与えるインパクトをどのように受け止めているか、ご認識をお聞かせいただきたい。
 2点目は、デジタル庁について。銀行界としてもデジタル化の取組みをこれまでも進めてきたと思うが、現状抱えている課題、およびデジタル庁とどう連携していくかということについて伺いたい。
 3点目は、金融庁が先日公表した金融行政方針について。内容はさまざまであるが、「活力ある経済社会を実現する金融システムの構築」が求められており、一部の銀行でシステム障害があったことなどを前提として、対応を検討すべしという内容が書かれていたが、銀行界としてはどのように対応していくのか。
(答)
 まず一つ目のSBIホールディングスによる新生銀行に対するTOBに関してであるが、報道以上のことは私どもも承知しておらず、また、全銀協会長として個別の事案についてお答えする立場にはないので、コメントを差し控えさせていただきたい。個別かつ進行中の事案であるため、これをもって銀行界に与えるインパクトについても、今、何か一般的に私どもから申しあげることは非常に難しい。
 二つ目のデジタル庁に関するご質問について。デジタル庁の発足は、デジタル社会の形成に向けた政府の強い決意の表れであると受け止めている。「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」というミッションの下、デジタル社会の形成に関する重点計画の作成・推進から、国が行う情報システム事業の統括、予算の一括計上、事業の執行まで、大変広範な権限を持つ組織であると理解している。
 銀行界ではこれまでも、「手形・小切手機能の電子化」や、「税・公金収納の効率化」など、業界を挙げてデジタル化に注力してきたが、いずれの課題も、銀行界のみならず、産業界や各省庁あるいは自治体といった関係当事者が一体となって取り組まなければ進展が望めないものばかりである。したがって、デジタル庁には、こうした当事者が多岐にわたる課題についてリーダーシップを発揮し、デジタル社会の形成を力強く牽引していただけるものと大いに期待している。
 その他にも、デジタル庁の政策には、銀行界と直接関係するものも大変多い。例えば、本年5月には、デジタル改革関連法の一環として、公金受取口座をマイナポータルなどから登録ができる「預貯金口座登録法」や、本人の同意を前提として、一度に複数の金融機関口座にマイナンバーの付番が可能となる「預貯金口座管理法」が成立した。また、6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においては、電子インボイスの普及に合わせて、「全銀EDIシステムの利活用に向けた産業界・金融界等の取組を推進する」とされている。
 全銀協としても、デジタル庁と一体となり、デジタル時代にふさわしい金融インフラの実現に向けて取り組んで参りたい。
 三つ目の金融庁の金融行政方針の受止めについて。本年8月31日に金融庁から公表された令和3年度金融行政方針は、「コロナを乗り越え、活力ある経済社会を実現する金融システムの構築へ」と題し、重点課題として3点、すなわち、〔1〕コロナを乗り越え、力強い経済回復を後押しすること、〔2〕活力ある経済社会を実現する金融システムを構築すること、〔3〕金融行政をさらに進化させること、が挙げられている。
 全体を通じて、ポストコロナにおいて目指されている社会・経済の姿に向けて、行政として金融機関の取組みの後押しや、金融システムの構築を着実に進めていく方針と受け止めている。
 私どもも7月の会見で申しあげたとおり、今年度を「わが国における現下の難局の克服と新たな社会・経済の創生を支える年」と位置付けており、官民共通の課題認識の下で、しっかりと全銀協としての取組みを進めて参りたいと考えている。
 ご質問にあった「活力ある経済社会を実現する金融システムの構築」に関して、行政方針に示されている具体的な施策は、銀行界にとっていずれも重要なものであるが、ここではポイントを絞って3点だけ申しあげたいと思う。
 まず、「金融分野におけるデジタルイノベーションの推進」について。手形・小切手機能の完全電子化や、税・公金収納の効率化、金融EDIの活用推進など、デジタル時代にふさわしい金融インフラの実現に向けて尽力する。会員各行ともよく連携しながら、関係省庁や関係業界との協議・働きかけなど、さらに力を入れて取り組んでいきたいと考えている。
 2点目は、「サステナブルファイナンスの推進」について。銀行界としては、お客さまの事業構造のトランジションをファイナンスの面から促す役割を果たしていきたいと考えている。一方、本分野のファイナンスにはさまざまな課題や問題意識が存在することも事実であり、関係者間での綿密なコミュニケーションが必要である。全銀協としてもさまざまな場を通じて、国内外の議論に積極的に貢献していきたいと考えている。
 最後に3点目は、「様々なリスクへの備え」について。金融ビジネスを取り巻く環境が大きくかつ急速に変化していく時代において、金融システムには、単に強固・健全であるだけではなく、変化に耐え得るレジリエンスが不可欠となっている。行政方針においても、マネロン等の対策の強化や、サイバーセキュリティの確保のほか、システムリスク管理態勢の強化等が求められている。健全かつレジリエントな金融システムの構築に向けて、銀行界として自ら改革や強靭性の向上に取り組むことはもちろん、こうした諸課題に対する意見発信や、会員各行の後押しにも積極的に取り組んでいきたいと考えている。

(問)
 2点伺う。まず1点目が8月に公表されたFATFの第4次対日審査結の受止めと、銀行界としての課題、そして今後の対応を教えてほしい。
 2点目が、自民党の総裁選についてであるが、これは明日17日に告示が行われ、29日に投開票を控えている。現時点でコメントしていただくことは難しいかと思うが、政策面等で新政権、新総裁に期待されていることなどがあれば教えてほしい。
(答)
 一つ目のFATFの第4次対日審査結果に対する受止めについて。8月30日にFATFの第4次対日相互審査報告書が公表され、日本は「重点フォローアップ国」と評価された。第4次対日審査では、これまでも日本のほかに18ヶ国が同様の評価を受けており、この結果だけをもって本邦の銀行業務に即時的な影響、例えばコルレス取引への影響などがある、ということではないと考えている。
 今回の報告書では、前回の審査以降の取組みを踏まえて、日本のマネロン・テロ資金供与対策の成果が上がっているとの評価を得ている。同時に、日本の対策を一層向上させるため、金融機関等がAML/CFTに係る義務を理解し、適時かつ効果的な方法で対策を実施すべきとされている。AML/CFTのために求められる水準は世界的にも年々上がっており、その対応は銀行界にとって最も重要な課題の一つである。今回のFATFの審査結果や国内外の動向も踏まえながら、継続的なレベルアップを行っていきたいと考えている。
 加えて、FATF報告書の公表を契機として、政府から公表された「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」に沿って、関係当局とも連携してしっかり対応していくことが重要と認識している。行動計画のなかで対応すべき事項の一つとして挙げられている継続的顧客管理についても大きな課題の一つである。FATF審査でも金融機関における完全実施が勧告されている。全銀協としても、お客さまにKYCの重要性を広くご理解いただくため、さまざまな媒体を通じて継続的な広報活動を行い、継続的顧客管理の実効性を高めていくことを考えている。
 また、同じく行動計画のなかで示されているAML/CFTの共同システムの実用化についても、7月に全銀協が事務局となって立ち上げた「AML/CFT業務共同化に関するタスクフォース」を通じて検討を進めている。
 以上申しあげたとおり、今後のフォローアップ期間においては、官民がしっかりと連携して対応を進めていくことが極めて重要である。銀行界としても関係当局と緊密に連携のうえ、引き続きわが国のマネロン・テロ資金供与態勢の高度化に取り組んでいきたいと考えている。
 二つ目は自民党総裁選に関する質問であるが、全銀協として自民党総裁選、あるいは政局全般についてコメントする立場にない。総裁選の結果にかかわらず、新政権における政策運営について申しあげさせていただくと、まずはワクチン接種の促進など、引き続き新型コロナウイルス感染症対策・対応に注力していただいたうえで、重症化率等の十分な低減を前提として、経済活動の正常化との両立に取り組んでいただくことが重要なテーマであろうと思う。コロナ禍からの回復と新たな日常に向けた社会全体の変革を進め、わが国の持続的な成長に資する政策が着実に遂行されることを期待している。

(問)
 冒頭質問にもあった気候変動対応に関連するTCFD開示について。銀行界は、他業界に先行してTCFDにもとづく開示の取組みが進んでいると思うが、他業界ではシナリオ分析等が進んでおらず、リスクの定量開示が進んでいない状況と聞く。銀行界として、企業のTCFD開示への取組みをどう支援していくのかについて伺いたい。
 もう1点は、成年年齢の引下げについて。民法改正で2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられる。現状のカードローンをはじめ、銀行の個人ローンは20歳からの契約が一般的になっていると思うが、例えば18歳でも社会人として収入を得ている方もおり、その点を踏まえれば成年年齢引下げと併せてローンの対象年齢を引き下げることも考えられると思うが、この点について見解を伺いたい。
(答)
 まず一点目のTCFD開示について。
 冒頭申しあげたとおり、カーボンニュートラルの実現が大変な挑戦であることは言うまでもないが、同時に、避けて通れないグローバルな課題であるのも事実である。その実現に向けて、私ども銀行界としても、いわゆるエンゲージメントを通じ、お客さまの取組みをサポートし、お客さまと一緒に脱炭素社会への移行を実現していきたいと考えている。
 お客さまの気候変動対応に係る開示は、そうしたエンゲージメントの基礎となるものである。お客さまがどのようなトランジションを実現しようとされているのか、温室効果ガス排出量に係るKPIや中長期的目標と共に、移行計画や戦略などが開示されることにより、私どもとしてもお客さまのトランジションに係る共通認識を有したうえで、さまざまなサポートを提供する、あるいは検討することができる。
 日本は、TCFD賛同企業数では世界一であるが、ヨーロッパ、イギリス、アメリカにおいては、開示の義務化の議論や開示対象企業の拡大が進んでいる。気候変動への対応が世界的に加速するなか、対応の遅れは日本の国際競争力にも直結する可能性がある。そうした危機感を持って、お客さまの取組みをさまざまな角度から支援して参りたい。
 気候変動リスクに係る開示は、シナリオ分析に係る具体的な手法や、分析のためのデータなどに未整備な部分が多く、私ども銀行界も、試行錯誤しながら進めているのが実態である。
 例えば、私ども三井住友銀行について申しあげると、この8月に「TCFDレポート2021」を公表し、一つのトライアルとして、スタートアップ企業のAI技術を活用してグローバルな物理的リスク、具体的には水災による与信関係費用への影響を分析し、開示したほか、NGFSの1.5℃シナリオにもとづく移行リスクの分析結果も開示した。こうした取組みも紹介しながら、私ども自身がどのような考えにもとづいて気候変動対策に取り組んでいるかをお伝えするなど、お客さまとの丁寧なエンゲージメントを通じ、TCFD提言に沿った透明性のある開示の促進をサポートして参りたい。
 二つ目は、成年年齢の引下げに伴う、特にカードローンに関連しての対応方針に関するご質問について。
 成年年齢引下げに伴う個人ローンの契約対象年齢の引下げについては、あくまでも個別行の判断事項であるので、それを前提とし、一般論としての考え方を申しあげたい。
 成年年齢の引下げにより、18歳、19歳の方は自分の意思でさまざまな契約ができるようになるので、社会参加の促進が期待される。他方、そういった若年層の方々は、一般的に金融商品の取引経験が少なく、また収入が少ないといったケースも多いと考えられる。したがって、そうしたお客さまにカードローンをはじめとした個人ローンなどを提供する場合には、顧客保護などについて十分配慮した対応が必要である。具体的には、契約内容についてより丁寧な説明を行う、契約に当たって収入証明書類の提出を必須とする、あるいは極度額を通常よりも低めに設定することで過剰な借入れとならないように配慮するなど、銀行側がしっかりと契約者保護の対策を取る必要がある。また、より広範な観点では、金融経済教育にも力を入れて、若年層の金融リテラシーの向上に努めていくことも非常に重要と考えている。
 冒頭申しあげたとおり、成年年齢引下げに伴う個人ローンの契約対象年齢の引下げについては、あくまで各行がそれぞれの戦略にもとづき、個別に判断する事項であるが、顧客保護の観点から契約対象年齢を20歳から引き下げないという判断もあり得ると考えている。全銀協としては、必要に応じて対応事例などの収集・共有等を通じ、会員行の検討をサポートして参りたい。

(問)
 3点伺いたい。まず1点目、長引く新型コロナウイルス感染症の影響により、一部業種や企業では債務が過剰であると指摘されている。民間金融機関によるゼロゼロ融資の取扱いも終了するなか、債務が過剰である先に対して、どのような支援を銀行界として行っていくのか、見解をお聞きしたい。
 2点目は、金融経済教育についてである。全銀協としてのこれまでの取組みを簡潔にご教示いただきたい。貯蓄から資産形成への移行を促すうえで、現状抱えている課題や問題意識も併せて教えてほしい。本テーマについては、特に日証協が力を入れている印象があるが、今後、全銀協としてどのように注力していくかをお聞きしたい。
 3点目、新生銀行に対するSBIのTOBについて、個別案件で回答を差し控えるということであったが、一般論として、これまで銀行を対象としたTOBはかなり限定的だったと思う。なぜこれまでそういったものがなかったのか、銀行界を取り巻く環境がどのように変わっているのか、銀行界の代表としてどういう見解をお持ちか教えてほしい。
(答)
 まず、企業の債務の状況について改めて申しあげると、9月1日に公表された法人企業統計によると、2021年6月末の法人の借入金および社債は前年比37兆円増加している。これは新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2019年末比では75兆円の増加となっている。同時に資産サイドを見てみると、現預金は9兆円増加しており、2019年末比では31兆円の増加である。負債のみならず資産も含めた両面から見た場合、ネットで前年比28兆円の増加、2019年末比では44兆円の増加であり、前年比で9%、2019年末比で14%の増加となっている。
 一方、売上高については、新型コロナウイルス感染症の影響が出ていない2019年4-6月の水準と比較した場合、全規模・全産業ベースで9.1%減少している。特に中小企業の宿泊・飲食業においては39.7%、約4割の減少となっており、経常利益についても依然赤字が続き、非常に厳しい状況が続いている。
 こうした実態を踏まえると、長引く新型コロナウイルス感染症の影響により、一部の業種においては債務の過剰感が増していることは事実であると思う。加えて、7月の会見でも申しあげたとおり、債務の過剰感を生み出している要因としては、売上高、すなわちキャッシュフローの減少も大きく影響しており、そこをいかに復元していくかが重要な課題であろうと思われる。
 そのためには、まさに官民一体となり、企業の収益力の回復という本質的な課題に取り組んでいくことが重要である。銀行界においても、資金繰り支援に万全を期す一方で、企業業績の回復を後押しするべく、ウィズコロナ/ポストコロナ時代に対応するための事業転換に関するアドバイスや、ビジネスマッチング、あるいはM&Aや事業承継の提案といった経営課題の解決に資するコンサルティング機能の発揮に努めている。
 もちろん、それでも返済が難しいお客さまについては、資本性ローンの提供など、持続可能な財務基盤の構築に資する支援や、例えば債務整理もオプションの一つとなり得ると認識している。「成長戦略実行計画」で示された、中小企業の実態を踏まえた事業再生のためのガイドラインについても、全銀協として議論をスタートさせている。
 重要なことは、お客さま一社一社にしっかりと寄り添って、個々の状況を丁寧にお伺いしながら支えていくことであり、それこそがまさに銀行が果たすべき役割、使命であると認識している。
 次に、二つ目の金融経済教育の取組みに関するご質問についてである。
 まず全銀協の金融経済教育に関する取組みについて3点に絞って申しあげたい。1点目は、学校や学生、一般社会人向けの教材の作成と配布である。昨年度は18種類の教材を用意し、合計20万6,000部を発行した。本年度はサステナブルファイナンスなど、ESG金融について学べる新教材を作成する予定としている。
 2点目は、全国の学校に講師を派遣する「どこでも出張講座」である。新型コロナウイルス感染症の影響により、昨年度は一昨年度に比べて実施件数が減少したが、新たにオンライン講座などの取組みを実施した。本年度も引き続き開催方法の工夫、内容の改善に努めながら推進して参りたい。
 3点目は、大学生、社会人などを主要なターゲットとしたウェブを通じた情報発信である。具体的には、資産形成や家計管理について、その必要性や方法などを説明する期間限定の特設サイトを開設するなどの取組みを実施している。
 次に、「貯蓄から資産形成への移行を促すうえで、現状抱えている課題や問題意識」についてご質問をいただいたが、わが国では引き続き家計資産の過半を現預金が占める状況が続いており、貯蓄から資産形成への動きはまだまだ道半ばの状況であると認識している。この10年程度で、NISAやつみたてNISAの開始、あるいはiDeCoの制度改正などにより、資産形成を促す制度が整ってきてはいるが、投資を始めることにハードルを感じているお客さまも引き続き多い。そうしたお客さまには、これらの制度活用のメリットを理解していただくだけでなく、資産形成の必要性やその基礎となる生活設計、家計管理などを含めた金融リテラシーを身につけていただくことが重要であり、金融経済教育が果たし得る役割は非常に大きいと考えている。
 このように金融経済教育には大きな役割が期待されているが、その活動はまさに現場での地道な取組みの積み重ねであり、かかる期待をどのように実際の活動につなげていけるかが実践上の課題であると考えている。これは金融界全体に当てはまることであり、業界横断的な連携を一層図っていくことも有効であろうと思う。仰るとおり、日証協におかれては金融経済教育に非常に精力的に取り組んでおられ、全銀協にとっても参考になる点が多々ある。
 金融経済教育は、国民の安定的な資産形成はもとより、家計金融資産の有効活用、ひいては公正で持続可能な社会の実現にも貢献できる活動であり、全銀協としても、日証協との協力関係の構築も含めて、引き続き業界全体の取組みに積極的に貢献して参りたい。
 最後に、三つ目のご質問のSBIホールディングスによる新生銀行に対するTOBについてであるが、先ほど申しあげたとおり、報道以上のことは承知しておらず、この場で個別の事案に関係することについてお答えする立場にはないと考えているので、コメントを差し控えさせていただきたい。

(問)
 3点伺いたい。1点目が、みずほ銀行のシステム障害について。8月以降、5、6、7回目と障害が相次いだことへの受止めを教えてほしい。特に5回目の障害発生時、顧客への周知が開店30分前だったということで、適切だったかどうか検証を進められているとのことだが、システム障害等が発生した場合の顧客への周知のあり方についての見解を教えてほしい。
 2点目が、みずほ銀行の5回目のシステム障害ではバックアップ機能がうまく作動しなかったことが問題の一つとされている。銀行のシステムのバックアップ体制についての見解を教えてほしい。また、全銀システムのバックアップ体制についても教えてほしい。
 3点目は、資金移動業者の全銀システム接続についての足元の取組み状況について教えてほしい。
(答)
 みずほ銀行で発生しているシステム障害に関してであるが、全銀協会長として、個別行の障害事案について詳しくコメントすることは差し控えたい。申しあげるまでもなく、銀行システムはお客さまの日々の生活や事業の営みを支える極めて重要な社会インフラであり、私ども銀行は、システムの安定稼動と運用管理に万全を期す責務を負っている。まずは障害の発生を防ぐよう努めるべきであるが、一方で、障害の発生自体を完璧に防ぐことは現実的には難しい。したがって、障害時におけるバックアップ体制や速やかな復旧体制を構築する必要があるが、バックアップへの切替えが意図どおりに機能しない最悪のシナリオを想定し、その場合においても迅速かつ適切にお客さまに対応できる体制、お客さまへの影響を極小化する体制を構築することが重要である。
 その上で、システム障害が発生した場合のお客さまへの周知のあり方について申しあげれば、何よりもまず、障害の内容、発生原因、復旧見込みなどを、可能な限り速やかに、かつ正確に、お客さまにお伝えすることが肝要である。また、障害によって直接的な影響を受ける方のみならず、不安を感じておられる方に対しても丁寧な対応が求められる。そのためには、ホームページなどでの情報提供や、お問い合わせに的確に対応できるコールセンターの設置・運営といった周知・広報体制を構築するなど、日頃から有事に備えておくことが重要である。お客さまから銀行界に寄せていただいている信頼にお応えできるよう、全銀協としても不断の努力を続けて参りたい。
 二つ目は、今の質問に関連する話であるが、システムバックアップに関して。わが国の為替取引においては、諸外国に先駆けて、振込に伴う即時入金、いわゆるリアルタイムペイメントが実現し、それを前提とした商慣習が早くから確立していることから、銀行システムの安定稼動はとりわけ重要であると認識している。
 先ほども述べたとおり、システム障害の発生を防ぐように努めることが前提ではあるが、全ての障害を防ぐことは現実的には難しいので、障害が発生した際にもサービスの提供が可能となるようにバックアップ体制を整えておくことが、銀行システムの安定稼動の鍵である。
 具体的なバックアップ体制は金融機関ごとにさまざまであるが、一般的に申しあげると、勘定系システムなどの非常に重要なものについては、稼動するシステムを複数台で構成するほか、障害が発生した際に速やかに切替えができるように、待機系システムを常時立ち上げておく、ホットスタンバイといった対応を講じている。また、こうした体制を整えておく一方で、切替えが意図どおり機能しないケースも想定し、お客さまへの影響を極小化する方策を準備しておくことも重要である。
 次に、全銀システムのバックアップ体制について。全銀システムは年間約14億件、1営業日当たり約600万件の為替を処理しており、日銀ネットと並んで、わが国の決済制度の要となっているシステムである。万が一停止すると、わが国全体の決済が滞ることになるため、あらゆる面においてシステムの二重化を図っている。
 まず、東京と大阪に稼動システムを2台ずつ設置し、東西で4台のシステムを並行稼動させ、通常業務を処理している。システムの処理能力に余裕を持たせることで、一部で障害が発生しても他のシステムで業務を継続できる構成になっている。
 さらに、待機系システムを東京と大阪に1台ずつ設置しており、先ほど申しあげたとおり、常時立上げ状態であるホットスタンバイにしており、稼動するシステムで障害が発生した場合には、自動的に待機系システムに切り替わる体制となっている。また、運用面においても定期的にシステム障害を想定した訓練を行っている。
 このような取組みを通じ、全銀システムは1973年に稼動を開始して以来、一度もオンラインサービスを停止することなく稼動を続けているが、安全性・信頼性の確保のため、今後とも不断の努力を重ねていく所存である。
 最後に、三つ目は、資金移動業者の全銀システム接続に関する質問であった。資金移動業者の全銀システムへの接続については、昨年度、「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」において検討した結果、「2022年度中を目途」に、資金移動業者に加盟資格を拡大することが望ましいと結論づけている。
 加えて、先ほどご紹介したとおり、1973年の稼動開始以来、一度もオンラインサービスを停止することなく運用を続けている全銀システムの安全性・信頼性に対する期待は、資金移動業者による全銀システムへの接続が可能となった後も一切変わらないものと認識している。
 このため、全銀システムへの参加条件については、安全性と信頼性の維持という観点に立った検討が必要であり、資金移動業者であっても、あくまでも既存の加盟銀行と同一の条件、すなわちレベルプレイングフィールドでの参加が原則であるという点について確認し、昨年12月に報告書として公表している。
 こうしたことを踏まえ、本年度はタスクフォースの下に、制度面とシステム面の両面から検討を行う二つのワーキンググループを設置し、資金移動業者の方々と具体的な検討を進めている。
 具体的には、資金不足による決済不履行を回避するために、全銀ネットに差し入れた担保金額の範囲内で送金を行う「仕向超過額担保制度」の適用や、預金取扱金融機関と資金移動業者の業法規制上の差異を踏まえた参加資格審査、モニタリングの検討などである。
 預金取扱金融機関以外による全銀システムへの接続というのは文字どおり初めての試みであるので、お互いの理解を深め合いながら、一つずつ丁寧に議論を積み重ねていく必要がある。資金移動業者の方々にも、安全性と信頼性の維持といった観点の必要性についてはしっかりとご理解をいただいていると感じている。
 銀行界としては、安心・安全かつより一層利便性の高い決済サービスを提供し、お客さまにご利用いただけるように、引き続き資金移動業者の方々と共にしっかりと議論を進めて参りたいと考えている。

(問)
 債権放棄について伺いたい。貸金というのはもともと預金者のものでもあるし、株主のものでもあって、それを債権放棄に応じるというのは銀行としてどういうことなのか。銀行にとって、債権放棄する、債権価値を毀損するということは、どういうロジック、合理性があるのかを教えてほしい。
(答)
 今のご質問は、金融機関が私的整理の手続を通じて債権放棄を行う場合のエコノミクス、メリットやロジックについてのご質問と理解した。
 民間の金融機関においては、案件ごとに総合的な判断を行っているので、全て一律に適用できるルールというかたちで申しあげることは難しいが、債権放棄を行う場合の重要なポイントとして、債権者にとっても経済的な合理性があるかという点が挙げられると思う。
 具体的には、金融機関にとって、対象企業が破産などの法的整理に至った場合に想定される回収額よりも、私的整理において債権放棄を実施しても、事業を継続していただいたほうがより多くの回収が見込めるケースなどがこれに該当する。
 私的整理においては、通常、調整対象を金融債権に限定するため、事業者にとってはこれまでどおり商取引を継続することが可能であり、信用不安による事業への影響を最小限にとどめる効果が期待できる。有用な経営資源を有しながら債務が過大な事業者の早期再生が可能となり、結果的に金融機関にとっても回収期待額の増加が見込める場合は、経済合理性があると判断できる。
 加えて申しあげれば、経済合理性の有無だけで債権放棄の可否を判断している、機械的に判断しているというわけではなく、対象企業自身が再建のためにどのような自助努力を行っておられるのか、財産状況の開示姿勢などを通じて信頼関係をしっかりと構築できているのかといった定性的な面も併せて重要であろうと思う。
 民間の金融機関としては、株主、預金者に対する説明責任を踏まえて、案件ごとにそうしたさまざまな要素を考慮しながら、慎重に総合的な判断を行っているということである。

(問)
 経済安全保障について、今、政府、各省庁が経済安保の強化に向けた施策を進めている。銀行界にも具体的な対応が求められると思うが、この点のご所見を聞かせてほしい。
(答)
 経済安全保障という論点はここに来て急速に問題意識が高まっている、と認識している。金融分野における経済安全保障態勢の強化に向けた体制整備として、金融庁が専門の室を2022年度に設置される方針、との報道もあった。
 銀行業界に求められる具体的な対応は、まだ全貌が見えていないということではある。本年6月に閣議決定された骨太の方針のなかでは、金融業を基幹的なインフラ産業の一つと位置づけたうえで、「経済安全保障の観点からは、そのインフラ機能の維持等に関する安全性・信頼性を確保するため、機器・システムの利用や業務提携・委託等について、関係機関と連携する」と記載されている。
 グローバル化が進展した現代においては、経済活動のみならず、大学などの研究活動も国内だけで完結することは難しく、経済安全保障がわが国にとって重要な課題であるという問題意識は、まさにそのとおりであろうと考えている。
 元来、我々は、銀行システムは重要な社会的インフラであると認識したうえで、安全性・信頼性の確保に努めているわけであるが、それに併せて経済安全保障の観点から今後どのような対応が求められるのか、関係省庁ともしっかりと連携したうえで考えていきたいと思っている。

(問)
 気候変動に関連して追加の質問である。前回会見でも質問があった日本銀行の気候変動対応支援の資金供給策について伺う。
 7月に素案が公表され、現在、詳細の検討が進んでいると思うが、金融機関の投融資をバックファイナンスするという仕組みが、民間の取組みの後押しにどの程度寄与するとお考えか。
 また、日本銀行の黒田総裁は、状況の変化に応じてフレキシブルに対応できるような仕組みにしたと説明されているが、民間の取組みを後押しする観点から、今後この制度にどういった期待をされているか、お考えを伺いたい。
(答)
 7月の金融政策決定会合で示された「気候変動対応を支援するための資金供給」の骨子素案によると、対象金融機関は、気候変動対応に資する取組みを一定開示している金融機関、対象投融資は、〔1〕グリーンローン/グリーンボンド、〔2〕サステナビリティ・リンク・ローン/サステナビリティ・リンク・ボンド、〔3〕トランジション・ファイナンスとされている。
 骨子素案は、開示による規律付けを図りつつ、できるだけ具体的な分野や業種の特定を避けることで、市場中立性に配慮したものと受け止めている。お客さまの気候変動対応をサポートするファイナンス手法は、まだまだ試行錯誤の段階にあること、カーボンニュートラルを実現するうえでトランジション・ファイナンスの重要性は目下まさに国際的に議論されていることなどを踏まえると、骨子素案は、そうした流動的な状況にも配慮して、多様な投融資を対象にできるように制度設計が工夫されていると考えている。
 気候変動関連情報に係る開示については、まだ検討中の銀行も多いのは事実であるが、7月の会見でも申しあげたとおり、全銀協としても、引き続きしっかりとその取組みをサポートしていく考えである。
 他方、気候変動問題に関する取組みは、目下、グローバルかつ急速に議論が進んでおり、お客さまの具体的な対応もこれから本格化してくる面がある。状況が刻々と変化していくなかで、日本銀行におかれても、今後、利用状況などを踏まえて、必要に応じて制度の枠組みや運用の見直しの検討が必要になることもあろうかと思う。黒田総裁のコメントも、そのようなことも含んでのものではないかと思う。
 したがって、私どもとしては、足元においてはもちろん、制度の運用開始後も含めて、会員各行の取組みの後押しや動機付けとなるような、よりよい制度になるよう、日本銀行の検討に積極的に貢献して参りたいと考えている。