2022年1月20日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 幹事社から2問質問する。1点目は、2022年の経済見通しについて伺いたい。また、銀行界にとってどのような1年を展望するか、抱負を伺いたい。
 2点目は、みずほフィナンシャルグループに関して、先般みずほフィナンシャルグループが公表した業務改善計画への受止め、また、新体制・経営陣に期待することを伺いたい。
(答)
 まず、最初の質問については、足元、オミクロン株の急速な流行による経済活動への影響が懸念されるものの、本年、2022年全体を見通すと、世界経済は回復基調が続くというのが引き続きメインシナリオだと考えている。国内経済についても、経済活動の正常化が進むことによる個人消費の回復により、景気回復の動きが明確化していくことが期待される。
 もっとも、変異株の出現をはじめとして、感染症の帰趨とその実体経済への影響は、引き続き不透明な状況が続くと考えている。加えて、半導体などの供給制約の長期化やサプライチェーンの目詰まり、資源価格の高騰などに起因するインフレの動向など、景気の下振れ要因は依然として存在しており、リスク要因の顕在化やFRBをはじめとした各国中央銀行の金融政策の転換に起因する金融市場の変調にもよく目配りしていく必要がある。
 こうした状況の下、わが国経済にとっても、私ども銀行界にとっても、2022年は、難局を乗り越え、将来の成長への布石を敷くうえで大変重要な1年になると考えている。
 お客さまの資金繰り支援は、引き続き最優先課題であることはもちろんであるが、難局を乗り越えた後、できるだけ早期に前向きな投資ができるようにしていくためには、お客さまの事業の再生・再構築の支援が重要な課題になってくる。加えて、気候変動問題への対応やデジタライゼーションの進展といった世界的な動きも確実に加速している。コロナ禍からの脱却を図りつつ、こうしたメガトレンドにも対応していくことは大きなチャレンジだが、世界的な競争の下で、わが国企業がいかに成長機会として捉えていけるかは、今後のわが国の発展、国際競争力に大きく関わってくると考えている。
 銀行界としては、引き続き高い緊張感と使命感を持って、わが国を取り巻くこうした課題に正面から向き合い、力を尽くしていくとともに、ポストコロナを見据えた新たな社会・経済の創生をしっかりと支え、貢献していきたいと考えている。
 二点目のみずほフィナンシャルグループに関連する質問について。個別金融機関の業務改善計画の具体的な内容について、全銀協会長としてコメントすることは差し控えるが、個人的な受止めとして少しだけお話しする。
 みずほフィナンシャルグループとみずほ銀行が1月17日に公表された業務改善計画においては、多層的な障害対応力の向上、経営管理面での対応高度化、そして真因を踏まえた人と組織の持続的強化という三つの観点から、包括的な対応策を策定されたと理解している。
 記者会見のなかでも、「最優先すべきはお客さまにサービスを安心して利用していただくことであり、全社一丸となって取り組み、システムと業務の安定的な運営を確保する」という趣旨のご発言があったが、みずほフィナンシャルグループおよびみずほ銀行におかれては、わが国の社会・経済を支える重要な金融インフラとして、引き続きその一翼を担っていただきたいと考えている。
 新たなトップ・経営陣におかれても、そうした取組みの先頭に立ち、お客さまやステークホルダー、社会の皆さまからの信頼に応えていかれることを大いに期待している。


(問)
 2点伺う。1点目は、「ことらプロジェクト」について。多くの地銀が「ことら」に参加する方針を固めているという報道もあった。「ことら」という安価なサービスが開始されると、各行の振込手数料のあり方が大きく変わってくると思うが、会長はどのようにお考えか。
 2点目は四半期開示の見直しについて。岸田総理は四半期開示の見直しについて折に触れて発言されている。今後、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループなどで議論されていくと思うが、銀行界として見解があれば教えてほしい。
(答)
 1点目の「ことら」に関するご質問について。「ことら」は、全銀協が進めているものではないため、詳細な回答は差し控えさせていただくが、2022年度の個人間送金サービス実現に向けて、株式会社ことらにおいて、順調に検討が進められていると理解している。
 「ことら」が、多頻度小口決済の利便性向上に貢献するためには、より多くの金融機関が参加することにより、ネットワーク効果が発揮されることが重要である。その意味で、すでに複数の地銀からサービス参加の意思が表明されていることについては、前向きに受け止めている。
 また、各行の振込手数料のあり方については、従来から申しあげているように、各行がそれぞれの経営戦略・事業戦略にもとづいて個別に検討するべきものであり、私の立場からコメントすることは控えさせていただく。
 次に、四半期開示の見直しに関して。四半期開示の見直しは、岸田総理が昨年10月の所信表明演説のなかで、働く人への分配機能の強化の観点で、企業が長期的な視点に立ち、株主だけでなく従業員も取引先も恩恵を受けられる「三方よし」の経営を行うための環境整備の一つとして、検討を表明されたものと認識している。
 四半期開示制度を巡っては、投資家や経営の短期志向を助長しているという指摘がある一方で、足元の業績動向を迅速にきめ細かく開示するという観点では重要という見解や、四半期開示義務を廃止した諸外国においても、主要企業は自主的に四半期開示を継続しているといった指摘もある。
 今後、具体的な議論に着手する際には、企業が長期的な視点に立って、「三方よし」の経営を行うための環境整備という観点はもちろんのこと、わが国の資本市場の発展に寄与するような開示制度となるよう、丁寧な議論が行われていくことを期待する。


(問)
 2点伺う。1点目は、みずほ銀行でのシステム障害について。昨年末と、今年に入っても障害や不具合が引き続き起きていて、なぜみずほだけがこのようなミスが続くのか、どうすれば通常稼動をしていけるのかについて考えをお聞きしたい。
 2点目は社外取締役に関して。企業の適正運営において社外取締役の重要性がどんどん増していると思うが、社外取締役に役割と責務をきちんと果たしてもらうためにはどういった取組みが必要であるのか。加えて、社外取締役を選ぶうえでの基準や任期についても考えがあれば伺いたい。
(答)
 まず、一点目のみずほ銀行でのシステム障害に関して。個別行の事案であり、障害や不具合の内容を詳細に承知しているわけではないため、あくまで一般論としてお答えしたいと思う。
 先月の会見でも申しあげたが、銀行はわが国の社会経済を支える重要な金融インフラであり、まずはお客さまや社会からの信頼にお応えすることを最優先に事務・システムを運営することが求められている。
 私ども銀行では、一般的によく五・十日(ごとおび)というが、5や10が付く営業日や、月末の営業日、あるいは四半期末の営業日は特にお取引が集中することになるので、緊張感を持って対応している。
 それでも、システム障害やミスを完璧に防止することは難しいのもまた事実であり、昨年の会見でも申しあげたとおり、さまざまな障害発生時を想定した訓練を定期的に実施するとともに、システム部門だけでなく、部門の垣根を越えて、お客さまの目線に立って最優先で対応していく体制を、経営自身がしっかりつくっていくことが極めて重要と考えている。
 2点目の社外取締役に関してのご質問について。社外取締役のあり方は、それ自体が非常に深く広がりのあるテーマであり、全銀協会長として特別な見識を持ち合わせている訳ではないので、あくまで一般論としてお答えしたいと思う。
 申しあげるまでもなく、社外取締役は、独立した立場から経営の執行を監督する重要な役割を担っている。また、社会の価値観が多様化するなかにあって、多様な経験や価値観を持つ社外取締役が、多様な視点から執行のあり方について説明を求めていくということは、重要な社会インフラの一翼を担う銀行経営の高度化とガバナンスの強化に資するものと期待されるところである。
 そのうえで、社外取締役がその役割を十分に果たすためには、まずは社外取締役に会社の業務をしっかりと理解していただくこと、そして日頃から社外取締役のもとに適時適切に情報がしっかりと届く体制を構築すること、さらに、社外取締役が独立した立場から自由に意見を述べ、報告を求めることができる環境を整えること、この3点が重要と考えている。
 また、取締役会や委員会の内外で、社内取締役だけでなく、広く執行に携わる役職員との意見交換の機会を意識的に作っていくことも実際問題として非常に重要だと思う。
 社外取締役の選定基準について、一般的には申しあげにくいため、私ども三井住友フィナンシャルグループにおける例をご紹介させていただくと、現在私どもの社外取締役は7名いるが、それぞれに人格、識見ともに優れているだけでなく、企業経営、法務、財務会計、あるいは国際関係といった、それぞれに違ったバックグラウンドをお持ちの方を選抜し、就任していただくようにしている。
 独立した立場から監督するという観点からは、在任期間が過度に長くならないことも重要なポイントであり、指名委員会においてはこうしたポイントも念頭に置いて、定期的に社外取締役の候補者の人選について検討を行っている。


(問)
 2点質問する。先日、日本銀行が公表した展望レポートの受止めを伺いたい。今後、物価上昇率が2%に近づく局面が出てきた場合、マイナス金利政策の見直しなど、今後、日本銀行とどのような対話を行っていくつもりか伺いたい。
 二つ目は、通常国会に提出される経済安全保障推進法案を受けて、銀行界として経済安保についてどのような対応を行っていくつもりか。
(答)
 一点目の日本銀行の展望レポートに関するご質問について。今週、日本銀行が公表した展望レポートについて申しあげると、資源・エネルギー価格の上昇などを背景として、物価見通しは、2022年度がプラス1.1%、2023年度がプラス1.1%と、前回10月の見通し対比、それぞれ0.2%ポイント、0.1%ポイント引き上げられた。ただし、2%の物価目標までは距離があることを踏まえ、金融政策決定会合においては、目標実現に向けて現行の金融緩和政策を継続することが適切であると判断されたと理解している。
 マイナス金利政策に関するご質問については、金融政策は日本銀行の専管事項であるため、全銀協会長としてコメントする立場になく、あくまで個人の意見としてお答えさせていただきたいと思う。
 昨年の会見でも申しあげたが、いわゆる異次元緩和政策の導入からすでに8年以上、マイナス金利政策の導入から5年以上が経過している。こうした金融機関にとって厳しい収益環境が長期間続いていることによる副作用については、効果との対比において、より厳しく見極めていくことが必要になってきていると考えている。
 また、日本銀行の物価見通しが上方修正されただけでなく、昨年12月の速報ベースで前年比プラス8.5%に上昇している足元の企業物価指数は歴史的なレベルにある。エネルギー・資源高に加え、円安傾向が企業収益への影響を高める構図が、消費行動だけでなく企業行動においても、より複雑なものになり得る点についての考察も必要になってきていると思われる。
 日本銀行におかれては、2%の物価目標実現に向けた金融政策の効果と副作用のバランスなどについて、引き続き総合的な判断をお願いしたいと思っている。
 二点目の経済安全保障推進法に関しては、昨日、内閣官房に設置された有識者会議において、提言の骨子がまとめられたと認識している。金融は、「まず取り組むべき分野」として挙げられている4分野のなかの「基幹インフラ機能の安全性・信頼性の確保」において、対象事業に挙げられている。この分野について、有識者会議では、基幹インフラサービスの安定提供を確保するため、「重要な設備の導入等に係るリスクを、政府が把握・調査し、問題があれば導入前に必要な措置を講じることのできる制度を整備することが必要」と、事前審査等の必要性について提言されている。
 まだ法案の詳細は公表されておらず、銀行界としての対応について具体的にコメントすることはなかなか難しいが、この新法が国家と国民の安全を確保するための実効的な枠組みを提供しつつ、同時に、経済活動の自由と事業の予見可能性が確保された、バランスの取れた制度となることが重要と考えている。銀行界としても、関係省庁としっかりと連携して対応して参りたい。


(問)
 銀行の雇用制度について伺う。同年代の銀行の友人と話をすると、黄昏研修を受けたとか、もうそろそろ銀行を卒業するといった話を聞く。私は上司にまだまだこれからの成長を期待していると言われていることなどを考え合わせると、銀行員の卒業は早過ぎるのではないかと思う。この辺りも含めて、銀行の雇用のあり方についてどのようにお考えか。
(答)
 まず、銀行が果たすべき役割が、ますます高度化しているということを申しあげる必要があると思う。ファイナンスの手法が高度化しているだけではなく、事業再編や海外展開する企業のサポート、あるいはデジタル・グリーントランスフォーメーションの推進等、銀行の役割はますます高度化、多角化しており、従業員一人ひとりにおいても、従来以上に高い専門性が求められるようになっている。
 そうした点を踏まえたうえで、一般的にお答えするのが難しいご質問であるため、三井住友銀行の事例について申しあげる。三井住友銀行では、2020年1月に人事制度の大幅な改定を行い、職種統合や階層統合、定年延長を実施し、経験豊富なシニア人材の活用や、若手従業員の積極的な登用を進めている。また、特定の分野における専門性を高めて働きたいという従業員に対しては、専門性のレベルに応じて手当を支給する制度も導入した。加えて、ビジネスの特性に応じて求められる人材の要件が大きく異なってくることから、各事業部門と人事部が従来以上に連携し、キャリア採用にも積極的に取り組んでいる。
 銀行を取り巻く環境が急速に変化するなか、時代の潮流やお客さまのニーズの多様化を捉えつつ、自身の専門性を発揮できる人材を採用・育成していくことが必要になってきている。そういった観点から、旧来型の考えに囚われることなく、人「財」を適切に評価・処遇できる制度やキャリアパスを柔軟に設計していくことが重要なのではないかと考えている。


(問)
 中小企業向けの事業再生ガイドラインについて伺う。ガイドラインが間もなくまとまると思うが、改めて策定の意義を伺いたい。また、4月からの適用と理解しているが、ガイドラインが実際に活用されるに当たっての期待なども伺えればと思う。
(答)
 中小企業向けの事業再生ガイドラインの意義を端的に申しあげると、事業再生の分野で活躍されている専門家の方々や産業界、金融界の意見を結集して、日々の実務で活用されるようガイドラインというかたちに取りまとめることにより、中小企業の皆さまの事業再生を迅速かつ円滑に支援することにつなげていくこと、まさにそこにあると考えている。
 もう少し具体的に申しあげると、新たなガイドラインには主に二つの特徴がある。1点目は、中小企業者・金融機関双方にとって指針となるような事業再生などに係る基本的な考え方を示すことであり、そのなかで、中小企業者の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者、そして金融機関、それぞれが果たすべき役割を明確化する予定である。これにより、中小企業者と金融機関双方がお互いの立場をよく理解し、共通の認識の下で、一体となって事業再生などに取り組むことができるようになるのではないかと期待している。
 特徴の2点目は、中小企業者の実態を考慮した、新たな事業再生手続を定めることである。これにより、中小企業者、金融機関に対して、私的整理手続の新たな選択肢を提供するものである。この手続においては、金融機関による迅速かつ円滑な私的整理を可能とするため、一定の適格性を有する第三者の支援専門家が中立かつ公正な立場から、中小企業者が策定する事業再生計画などの妥当性・合理性を検証することとしている。
 新たなガイドラインについて議論する研究会はすでに3回開催しており、来週にも4回目の研究会を開催する予定となっている。近々、皆さまにも詳細を公表できるのではないかと考えている。


(問)
 1点目は、日本の個人金融資産について。近日中に個人金融資産は2,000兆円を突破する見通しで、現預金が過半を占める状況だが、このことへの受止めを教えてほしい。また、銀行界として、今後、取り組むべきことについてもお考えを教えていただきたい。
 2点目は成年年齢の引下げについて。カードローンや住宅ローンなど、銀行が取り扱うリテール関連商品の契約対象年齢を見直すべきかどうか、見直すとすればどのような点に留意するべきかお考えを教えていただきたい。
(答)
 まず1点目、日本の個人金融資産が2,000兆円を超えるだろうという見通しになっていることに関して。ご指摘のとおり、わが国では、引き続き、個人金融資産の過半を現預金が占めている状況が続いており、いわゆる貯蓄から資産形成への動きはまだ道半ばという状況である。
 この10年程で、NISAやつみたてNISAの開始、あるいはiDeCoの制度改正などの制度整備がなされてきたことに加え、民間の金融機関においても、資産形成に関するサービスの提供は充実してきていることは事実であるが、一方で、いまだに投資を始めることにハードルを感じている個人の方々も非常に多いと感じている。
 こうした状況を変えていくためには、引き続き、資産運用などに関する丁寧なコンサルティングの実施や、デジタルやリモートなども活用した取引の利便性向上、あるいは、商品・サービスの拡充に努めていくことなども大変重要だが、もう一つ、金融経済教育の推進も非常に重要な要素だと考えている。
 日証協の調査によると、「証券投資に関する教育を受けたことがある」と明確に答えた人の割合は6.4%にすぎないという。金融経済教育などを通じて、資産形成の重要性、あるいは必要性をご理解いただき、まずは第一歩を踏み出していただくことが重要だと考えている。
 このような問題意識にもとづき、昨年12月27日、全銀協では、日証協と金融経済教育の推進などに関してMOUを締結した。わが国の貯蓄から資産形成の流れを推進していけるよう、日証協との連携も梃子にして、業界横断的に取り組んで参りたいと考えている。
 二つ目の成年年齢の引下げに関する質問について。成年年齢が引き下げられることに伴う金融商品の契約対象年齢の見直しは、銀行界統一で実施するものではなく、あくまで個別行の判断事項であるが、見直す場合の留意点について一般論としてコメントさせていただく。
 新たに成人となられる18歳、19歳の方は、一般的には金融商品の取引経験が少なく、また、収入源が必ずしも固まっていないケースが多いと思われる。そうしたお客さまに金融商品を提供する際には、お客さまの知識・経験や収入などに十分配慮して、商品内容や契約内容の提案・説明などを丁寧に行うことが肝要であろう。
 とりわけ、借入を伴う商品については、顧客保護などについて十分に配慮した対応が必要になる。例えば、カードローンを提供する場合は、過剰な借入や、詐欺などの犯罪被害を防止するため、契約に当たって収入証明書類の提出を必須としたり、極度額を通常よりも低く設定する、あるいは資金使途の確認をしっかり行うなど、銀行がしっかりと顧客保護に努める必要があると考えている。また、住宅ローンにおいても、お客さまの収入や購入物件の内容などを踏まえ、返済が過度な負担とならないよう留意した対応を行うことが重要である。
 なお、成年年齢引下げに関しては、全銀協としても、新たに成人になる方やその親権者の方に知ってほしいこと、留意してほしいことなどをまとめた特設サイトを開設して、広く情報提供に努めていく予定である。


(問)
 二つ質問がある。1点目はみずほの件。指名委員会がうまく機能していなかったという指摘が一部に出ているが、指名委員会を機能させるためにどのような取組みが必要だと思われるか。また、指名委員会の構成についても、社内と社外の割合等、どうあるべきだと考えるか。
 2点目は東証の市場再編に関して、最上位のプライム市場の顔ぶれが現在の東証一部とあまり変わらず、優良企業の絞り込みの観点で疑問が残るとの指摘も出ている。多くの取引先を抱える銀行業界として、今回の再編結果をどのように受け止めているか。また、プライム市場に上場する企業に求められる要素についてどのようにお考えか。
(答)
 一つ目は、指名委員会に関しての質問であった。指名委員会などの委員会は、通常、社外取締役を中心に構成されるので、その実効性を高めるには、社外取締役がその役割・責務を充分に果たしていく環境を作ることが非常に重要である。先ほどの社外取締役に関するご質問の際に、取締役会や委員会の内外で、社内の取締役だけでなく、広く執行に携わる役職員との意見交換の機会を意識的に作っていくことが実際問題として重要であると申しあげた。この点は、指名委員会をしっかりとワークさせていくためにも重要な論点だろうと思う。
 また、指名委員会の構成については、社外取締役による客観的な判断を重視して、社外取締役のみで構成するべきという意見もあるが、社外取締役のみでその企業の実情に合った適切な判断ができるのかという点もあり、なかなか一概に申しあげるのは難しい。各社が、自社を取り巻く環境や実情に合わせ、ふさわしいガバナンスのあり方や実効性の確保について、不断に模索していくことが重要ではないか。
 2点目の東証の市場再編に関して。東京証券取引所は、1月11日に上場会社による新市場区分の選択結果を公表した。東証一部上場企業は2,185社あるが、その8割にあたる1,841社がプライム市場への移行を選択したと承知している。このなかには、現在、流通株式時価総額などの項目でプライム市場の上場基準を満たしていないが、経過措置として、基準への適合計画を開示することにより、プライム市場を選択された296社も含まれている。
 もっとも、これらの会社にあっても、適合計画において全ての上場維持基準を満たすために必要と想定される計画期間を定め、毎年その進捗状況の開示が求められており、一定の市場規律が働く仕組みになっている。プライム市場の選択は、あくまで、それらを含めた上場ルールにもとづき、各社が判断した結果だと考えている。
 プライム市場に上場する企業に求められる要素については、東証は、プライム市場を、「多くの機関投資家の投資対象となり得る規模の時価総額、流動性を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」であると位置付けている。
 これを踏まえると、個人的な考えではあるが、プライム市場の上場企業においては、グローバル水準の投資家からの期待にしっかりと応え、ガバナンスの高度化や投資家との建設的な対話など、さまざまな施策の充実に不断に取り組んでいただく必要があり、その覚悟が必要だと考えている。


(問)
 岸田政権の「新しい資本主義」において銀行界の果たすべき役割をどう整理されているか。
(答)
 岸田総理が掲げておられる「新しい資本主義」においては、成長と分配の両面から経済を動かして好循環を生み出すことで、持続可能な経済を創り上げるとされている。そのなかには、全銀協としても取組みを進めてきているデジタル化の推進や気候変動問題への対応など、わが国の持続的な成長に資する、多岐にわたる政策が盛り込まれていると理解しており、銀行界としても積極的に貢献したいと考えている。
 また、政権の最優先課題として掲げている新型コロナウイルス感染症への対応については、資金繰り支援をはじめ、債務の過剰感が増している事業者の事業再生、事業再構築をしっかりと支援して参りたいと考えており、先ほどの質問でもあった中小企業の事業再生ガイドラインの策定も、まさにその一環である。
 その他、銀行界としては、昨年の銀行法改正により、地域の活性化など持続可能な社会の構築に資する幅広い業務を営めるようにしていただいた。これまでの銀行業務にとらわれない幅広いソリューションによって、サステナビリティへの対応やイノベーションの創出などに貢献していきたいと思う。
 広く金融界として申しあげれば、先ほども申しあげた金融経済教育など、わが国における金融リテラシーの向上に取り組み、貯蓄から投資あるいは資産形成という流れの実現を目指すことによって、厚みのある金融資本市場を構築し、経済成長を後押しするとともに、成長の果実を家計に還流する役割・機能もぜひ担って参りたいと考えている。
 新しい資本主義実現会議では、今春にグランドデザインと具体的な実行計画が取りまとめられると認識している。官民一体となった取組みが重要だと考えており、銀行界としても積極的に貢献して参りたいと考えている。


(問)
 トランジション・ファイナンスについて伺う。経済産業省は脱炭素への段階的な移行を金融面で後押しする参考資料として、主要産業セクター別のロードマップを策定している。このロードマップに対する期待と、その内容の充実に当たって金融機関の立場から意見しておきたい点について、お考えを伺いたい。
 もう1点、マイナンバー関連で伺う。マイナポータルを利用した公金受取口座の登録が今春に始まる予定であることに加えて、行政機関による登録口座情報の利用も2022年度の運用開始を目指している。金融機関として、マイナンバーの利活用のあり方をどのように考えているか。
(答)
 1点目の経済産業省がまとめているロードマップについて。ご質問のとおり、現在、経済産業省は、鉄鋼や化学、エネルギーといったいわゆるCO2多排出産業を対象に、業種別のトランジション・ロードマップの策定を進めている。
 ロードマップでは、カーボンニュートラルへの移行に資する低炭素・脱炭素技術が、実現可能時期とともに時系列で整理されている。金融機関が、エンゲージメントを通じてお客さまの脱炭素に向けた取組みを理解するうえで、これらは重要な基礎資料になると考えている。
 他方、現段階のロードマップを見ると、2030年の46%削減目標との関係を含め、トランジション過程におけるセクター毎の定量的な削減目標やメルクマールが示されていない。
 そのため、私ども金融機関や評価機関が、お客さまの計画にもとづいてトランジション・ファイナンスとしての適格性を判断するうえでは、個別にお客さまにパリ協定との整合性について、定量的な目安を持った説明をお願いしていくということになると思われる。
 トランジション・ファイナンスは、カーボンニュートラルを実現するうえで、極めて重要な機能を果たしていくと考えており、今後、具体的な取組事例などが蓄積されることによって、ロードマップがより具体的な指針となり、トランジション・ファイナンスに対する理解が関係者間でより一層深まっていくことを期待している。
 2点目は、マイナンバーに関してのご質問である。現在、マイナンバーの利用範囲は、法令により、社会保障、税、災害対策、国家資格に関する事務などの分野に限定されており、銀行を含む多くの民間事業者では、マイナンバーを活用して業務を行ったり、新たなサービスを提供したりすることはできない。
 こうしたなかで、昨年12月にデジタル庁が公表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、「マイナンバー法の規定の在り方と併せて、マイナンバーの利活用の推進に向けた制度面の見直しを実施」すると記載されており、銀行界としても極めて高い関心を持って注視している。
 マイナンバーの利活用については、国民の理解を得たうえで丁寧に検討を進めていく必要があると承知しているが、諸外国の例を見ても、適切な利活用を推進することにより、例えば複数の金融機関をまたいで一括で手続きを行うことが可能になるなど、お客さまの利便性の向上、ひいてはわが国の生産性向上に大きく資する手段になると思っている。
 銀行実務にも大きな影響を与えるテーマであり、政府におかれては今後の議論をしっかりと進めていただき、私どもとしてもその議論の動向をフォローして参りたいと考えている。


(問)
 1点目はマイナス金利について。大手行でもマイナス金利残高への抵触が確認されたが、会長としての見解を伺いたい。政府の大規模予算措置等によって、今後も預金が増加することが予想されるが、銀行界としてどのように対応されるか。
 2点目は、全銀システムの資金移動業者への開放について伺う。全銀システムに参加するかどうかは資金移動業者が最終的に判断することになると思うが、仮に参加が相次いだ場合、銀行ビジネスにどのような影響を与えるとお考えか。
(答)
 1点目のマイナス金利の適用に関するご質問について。まず、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、政府による財政措置を含めた大規模な支援策あるいは日本銀行による企業の資金繰り支援策は、企業倒産の抑制や金融市場の安定化に大きく寄与してきたと考えている。
 ご指摘のとおり、足元の預金は、全銀協の統計ベースで前年同月比+27兆円の約859兆円で、増加傾向にあることは事実である。
 一方で、マイナス金利が適用される政策金利残高は、市中銀行全体で概ね5兆円となるように調整されているので、銀行によって影響に違いはあるものの、銀行界全体では、必ずしも財政措置による預金の増加分がダイレクトに政策金利残高の増加につながるものではない。
 また、当座預金の運営については、すでに政策金利残高に抵触している金融機関もあれば、抵触しないように預金の増加に対して国債の購入や、インターバンク間の資金取引などの運用面で対応しているところもある。こうした運用方針は、各行のALMなどの状況や経営戦略に依存することになると思っている。
 2点目の、全銀システムの資金移動業者への開放に係るご質問について。全銀システムを使った決済サービスの提供主体として、新たに資金移動業者が加わることにより、銀行ビジネスに具体的にどのような影響が及ぶか、現時点で一概に申しあげることは難しいが、大きくは2つあると考えている。
 1点目は、決済サービス分野における更なる競争の激化である。私ども銀行としては、何よりもまず安心・安全で、かつUI/UXや利便性の面でも付加価値の高いサービスを提供し、今後もお客さまにご利用いただけるよう、各行が不断の努力を続けていく必要がある。
 2点目は、業種を超えた新たな協力関係が生まれる可能性である。資金移動業者は、銀行にとって切磋琢磨する競争相手であると同時に、各々の得意とするサービスを持ち寄り、あるいは補完し合うことによって、より良いサービスを提供するためのパートナーともなり得る存在である。お客さまに新たな価値を提供するという観点から、各行がそれぞれの戦略にもとづいて、資金移動業者との新たな関係を模索していくことになるのではないか。


(問)
 新型コロナウイルス感染症について質問する。オミクロン株の影響により感染が急拡大しているが、日本経済への影響について改めてお考えをお伺いしたい。飲食や航空など、新型コロナウイルス感染症の影響が大きい業界における資金繰りの見通しについても併せて伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、オミクロン株は感染力が強く、世界各国で新規感染の拡大が見られている。日本においても、この1ヶ月ほどで新規感染が急拡大し、まさに明日から「まん延防止等重点措置」が1都15県に拡大適用されることが決まっている。
 感染の再拡大による日本経済への影響については、今後の行動制限の厳格さ、あるいはその期間の長さ、そして3回目のワクチン接種の進展などにも依存することなので、現時点で正確に見通すことはなかなか難しいところがある。仮に今後、厳しい行動制限が広範にわたって長期間実施されるということになれば、個人消費の回復が一段と遅れるなど、対面型サービス業を中心にさまざまな業種に大きな影響を及ぼすことが懸念される。
 事業者の資金繰りについては、日銀短観を見ても、全体としては改善傾向にあるものの、対面型サービス業の中小企業などにおいては、なお厳しさが残っている。オミクロン株の感染状況如何では、影響を受ける業種などを中心に資金繰りが今後厳しさを増していく可能性もあるので、銀行界としては、引き続き高い緊張感を持って対応していきたいと考えている。